Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

やなぎみわ「無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語」

2005-09-30 11:10:34 | art

やなぎみわ「無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語」展
2005.9.29 原美術館


久しぶりにいいモノを観た。
口に手を突っ込まれて中身を引きずり出されそうな作品たち。

グリム童話などに題材をとった「寓話」シリーズ。
老女の面をかぶった少女の繰り広げるモノクロームの異界。光と影の密室劇。
目が離せない。なんだろうこの親近感と拒絶感。グリムの寓話が現在の倒錯した異物として蘇る。

「無題」砂女のシリーズ。
なぜテントをかぶっているんだろう。そこから伸びる腕はカラカラに老いていたりする。砂は潮のにおいがするらしい。足下には砂と貝殻がころがっていたりする。書き割りのような背景。ボッシュの絵にでてきそうなキャラクター。

ビデオ作品もいい。
「砂少女」。風の音だけがむやみにするやかましい静寂のなか砂遊びをする少女の顔はよく見ると老いている。観ているこちらはテントの中にいて、そこから外を覗くような視点になっている。自分が砂女なのか?いつのまにか・・
砂女からみた少女の顔は老いているということなのだろうか・・・遠く走り去る少女を見やる私=砂女。

「砂女」。スペイン語バージョンを観たが、とてもしっくりしていた。老女が以前見たという砂女の話を少女に聞かせる。砂女を追ってさまよった話。砂女は求めても見つからないが、ときに遙か彼方を歩いているのを見かけたりする。力尽きて眠り込むある日、ふと気づくと砂女が側に座っている。祈りを捧げると砂女の中に取り込まれてしまう。深い穴に落ちるようだったと老婆は言う。気がつくと砂女の抜け殻と、海のにおいのする砂が周りにある。
その砂は老女の死後も少女に託すことはできないらしい。
砂は自分で手に入れるべきなにかなのか。
ガルシア=マルケスに捧ぐ、とある。

別れがたい作品たちだった。こんな作家がいるのは心強い。
常に魅力的なものは不可解でグロテスクでとらえがたく形がない。

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展覧会タイトルはガルシア=マルケスの「エレンディラ」の原題「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」から着想したのだそう。

カタログ2800円高いけれど安い買い物。

秋晴れのなか友人と訪れた美術館は静かで心地よかった。
帰りは木漏れ日のなか丘を下って、大崎駅へ出て別れを惜しむ。
日差しは強かったけれど風はさわやかだった。

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ギュスターヴ・モロー展

2005-09-30 09:47:27 | art

ザ・ミュージアム:ギュスターヴ・モロー展

ギュスターヴ・モローといえば19世紀の象徴画家という認識でいたが、本人は「歴史画家」を任じていたとのこと、確かにその題材の選び方には一貫して歴史の物語へのまなざしがある。

それでもなお象徴主義的に受け取られるのは、むしろ「歴史画家」として収まりきれなかったモローの独創の部分によるところが大きいのだということが、今回の展示でわかった。

たとえば有名な「出現」という絵画。サロメと殉教者ヨハネのエピソードを、宙に浮く首により印象的に描いた作品。この着想は、他に類を見ないモローの独創と位置づけられるのだそうだ。この独創こそが同時代の注目をモローに集めたのだろう。

また「歴史画家」として見るとき、19世紀の特徴であるキリスト教信仰の衰退(というか相対化)を背景に、聖書世界を他の歴史神話と並列に、時に混合して題材として用いており、これも興味深い。

そして技法的には、代表的な油彩はまさに歴史画家のそれだが、デッサンや習作、水彩バージョンでは、20世紀の表現主義を思わせるタッチがあり、驚きであった。

他には、寓意に満ちた晩年の祭壇画「人類の生」(本体は運搬不可能なため、ほぼ同サイズの別バージョンの展示)や、「神秘の花」などが圧巻。

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この画家、幼少より絵画を志し、両親の理解の元研鑽を積み、若くして名をなし、晩年には自宅を改装し自作を展示する美術館とした。
ほとんどの作品が散逸せず残っている。
苦労もあったに違いないが、画家としては恵まれた生涯だったのではないだろうか。

「サロメ」のエピソードは新訳聖書に登場するが、「サロメ」という名が初めて登場するのは、ユダヤの歴史家ヨセフスの「ユダヤ古代誌」なんだそうだ。
ヘブライ語で「平和」を意味するそうだ。

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しかし、「リンダリンダリンダ」観た直後に観たので、記憶がぐちゃぐちゃである・・・

コメント (4)
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