Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「主の変容病院・挑発」スタニスワフ・レム

2018-03-27 23:44:18 | book
主の変容病院・挑発 (スタニスワフ・レムコレクション)
クリエーター情報なし
国書刊行会


恐ろしく時間をかけて読んだ。

表題作?「主の変容病院」はレムの処女長編ということだが、
全体的に、特に初盤はとても東欧臭い。
(ワタシの中にある東欧のイメージね)

冒頭の墓地のくだり、
葬式。
二癖ある親類、
寄る辺ない主人公の心象
など、
陰りがあり、寒々しく、疎外感があり、
滅びの予感のする描写が続く。

レムはポーランドの作家なのだなあ。。

半ば成り行きで病院に赴任した後、
患者の詩人が登場して皮肉に饒舌に語る内容から、
だんだんレムっぽさが出てくる。

俗な理解を拒み、突き詰めて考え抜くとこういうことになる、という
レム的な考えが、詩人の口から語られる。
詩人と医師との愛憎入り混じる会話からこぼれ落ちる。

中盤からの、外世界との関わりが閉鎖社会の中でどのように影響し
何が起きていくのかの描写は、
これまたありきたりな行動ではなく
それぞれの出自や生い立ちや立場や性格やらすべて踏まえて
必然も偶然も絡んでそれぞれの生存をかけた振る舞いとして
冷徹にしかし心象を推し量るように描かれるのは
さすがである。


ドイツがポーランドに侵攻して、市民に破滅が襲いかからんとしている、その時代の精神状態を、
閉鎖空間で醸成される奇妙な社会と
そこに滲出してくる外部との接触による変化を描くことで
非現実的でありつつも身に迫る緊張を肌感覚的に感じさせる。

手法としては後のレムのSF作品にも通じるところがあるようには思う。
内部は決して整然とはしておらず危うい均衡あるいは流転があるところに、
理解しえない外部との出会いが絶対的な変化を静かに呼び込むのは、
例えば「ソラリス」も同様なテーマを持っていると思う。

でも、そのテーマを描くことをレムが目的として小説を書いていて、
この作品がその萌芽と見るのも少し違うような気もする。

そのテーマを追求することで、レムは「何を」伝えたかったのか。
あるいは、「なぜ」レムはそれをテーマとしたのか、
その中身というか動機の一部が、この小説には直接的に刻まれているように思う。

萌芽ではなく、立脚点の一つがここにあった。
ということではないかしら。
後のSF作品の文脈を、この小説に基づく何かとして読み替えていくくらいのことをしても良いのかもしれない。

先日ネットで、レムのホロコースト体験が作品にどういう影響を及ぼしているのかということについて書いたものをちょっと読んだのだが、そういう研究がこれから行われるかもしれない。そしてそれは一つの正解ではないかと思う。




このほかの収録作は、書評などの形を借りた論評なのだが、
これまた実に現在にこそ読まれるべき示唆に富んだ驚くべき内容なんであるが、
力尽きたのでここには書きません。。。
現代人必読みたいな。。


国書刊行会の紹介ページ

祝コレクション完結!
「ソラリス」を読んでから長い年月でした。
よかったよかった。



あーあと、とても映画的な感じがするかも。
映画化しても同じ感じにできるかも。
なんとなく「まぼろしの市街戦」みたいなテイストがあるかも。
ポランスキーとかシュレンドルフとか、あるいはスコリモフスキとかで観て見たい。
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2 コメント

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Unknown (piaa)
2018-04-05 22:55:31
おお、やっぱり似た感想になりましたねえ。
私もこの作品に「SF作家レムの萌芽が見られる」などとは感じませんでした。
私は続きを読みたいと強く思いましたが、その辺はどう思われましたか?
piaaさま (すた)
2018-04-06 01:02:04
piaaさんの記事も先ほど読みました。似てますねー(笑)
きっちり書かれていて流石と思いました。
続編をぜひ読みたいですね。社会主義的礼賛的な側面も含めて読んでみたい。レム作品におけるあの時代の体験の意味については、重要な研修テーマになると思いますね。

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