スカイ・クロラ [DVD] | |
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スカイ・クロラ The Sky Crawlers
2008日本
監督:押井守
原作:森博嗣
脚本:伊藤ちひろ
声の出演:菊地凛子、加瀬亮 他
戦闘シーンもそれなりにあってある種のサービスは満たしていると思うが、
それ以上に主人公カンナミを中心としたキルドレたちの静謐な関わりの物語であるために
全体の印象はどこまでも静かで内省的だ。
キルドレとはなにか
誰と誰が戦っているのか
ほとんど説明がないまま事態は進行するので
例によって好みな雰囲気になるのだが
まあ実はそこそこ随所で少しずつさりげなく説明されているわけで
決してわかりにくいということは無い。
キルドレは子供のまま成長しない存在で
戦闘要員として戦闘機に乗ったりしている。
自分の出自に関する記憶は曖昧なものでしかなく、
それで苦悩したりもするのだが
どちらかというと自分はどこから来たのかよくわからず
いずれ戦闘で死ぬし、死んだら代わりのクローンに取って代わられるだけ
ということで、希望も絶望もなく淡々としている。
これが、根拠に乏しい「現実」のなかでそれなりに戦いを強いられつつも
希望もそれほどないが極端に幻滅することもない終わりなき日常を生きる中で
悟りきったような覚めたような心性をもつ今の人々の戯画であるということは
もちろん間違いないのだろう。
戦いに赴いたり同僚と飲みにいったり
適度に恋愛のようなものもあり
あるいは不在の父親(=オリジナル=出自)に関わる謎もほのかに示されたりするなかで
主人公カンナミはこの終わりなき浮遊する世界に意味はないけれども
それでもそこに自分の存在を賭けることで意味を作り出せるのだと思い至る。
そしてエディプスの潜みに習かのようにおそらくは自らのルーツたるティーチャーに戦闘を挑んだりする。
父を殺すことで子供である存在から大人へと成長するということだろうか、
そのようにして無気力のループを断ち切るのだろうか
しかしカンナミはティーチャーに負ける。
カンナミはいなくなり、「かわり」がやってくるところで映画は終わるのだが。
それはループを破れなかった失敗の物語だったのだろうか?
おそらくは、失敗であって失敗ではない。
再び巡る無感動のループを受け止めろ
ループを徹底して生きろ
置換可能な生を引き受けろ
そこにこそ本当の変化の萌芽がある。
そういうメッセージをカンナミは残したと思う。
ループを断ち切って外側へという物語は
もはや絵に描いた希望のようなものなのではないか
そのことを知った上でいかに生き抜くか
そういう時代の映画になっているんだと思う。
ということで、
結構好き。
人物がみんな下膨れな顔立ちというのも面白いし。
『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』でもおわりなき日常と時間のループを扱っているのだけど、
あちらの方はおそらくはループを断ち切って本当の日常に戻るのだけど、
それはループを抜けてもまたおわりなき日常だよということを思わずにはいられない。
(そもそもが高橋留美子的なエンドレスワールドをベースとしているのだし)
という点では、『スカイクロラ』と共通した意識をもって作られていたのかもしれない。
声優のなかにひし美ゆり子さんがいるのがなにやらうれしい。
@自宅DVD