Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

シュヴァンクマイエル展!

2005-09-08 11:04:08 | art

神奈川県立近代美術館:開催中の展覧会>造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展 幻想の古都プラハから

しまった知らなかった。行かねば。
しかし葉山か~遠いな。1泊くらいしたいところだが先立つものがない。

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スタニスワフ・レム「枯草熱」

2005-09-08 09:57:31 | book

スタニスワフ・レム「枯草熱」
吉上昭三・沼野充義訳
サンリオSF文庫1979

廃刊となって久しいサンリオSF文庫の赤茶けた紙で読んだ。
原著は76年出版の、レムとしては比較的新しい作品にあたる。

小説自体結構驚いたが、もっと驚いたのは、「枯草熱」ってなに?と思って読んだ解説にあったこの一文。

<「ジャポニカ」によれば、枯草熱は花粉病とも呼ばれ、アレルゲンとなる花粉をもった植物の開花期に一致して、毎年一定の季節になるとくしゃみが発作的に連続しておこり、鼻汁が多量に分泌し、同時にアレルギー性結膜炎を起こして結膜が充血し、目がかゆくて涙が出るという。日本ではあまり問題になっていないが、アメリカでは国民の8~10%が枯草熱をもっているというから、レムがこの作品でそれを一つの要因としたことにも納得がいく。>

これ、花粉症じゃないですか。なーんだ。今だったら「花粉症」のひとことで説明できてしまうけれど、1979年の日本ではこれだけの説明が必要だったんだ。花粉症の爆発的広まりにビックリ。

**

さて小説の方は、緻密にプロットされた、必然と偶然、帰納法と演繹法の実験。

3章あるうち、はじめの2章のあいだは、背景となる重要な事件についての説明がなく、読者はいきなり物語の世界に放り込まれる。

どうやら宇宙飛行士、しかも火星には行きそびれ、予備役となった飛行士。どうしたわけか、別の誰かがたどった経路を追体験するため、車でナポリのホテルからローマへ移動している。なぜか胸に発信器を貼り付け・・
いったい何のために?なぜ宇宙飛行士が?謎は謎のまま、主人公は空港でのテロ事件に巻き込まれ、あわやのところで窮地を逃れ、舞台はフランスに移る。

これだけ謎にしておきながら、続く第3章では、背景となる事件について、これでもかというくらい詳しい記述がある。
ナポリで発生した連続怪死事件。まず、ホテルに泊まっていた水泳の達人が溺死。ついで、錯乱の上窓から飛び降りた男、高速道路上を歩き続け事故死した男、拳銃自殺をした男など、8人が怪死、1人は失踪。
宇宙飛行士はどうやら死んだ男のうちのひとりの足跡を追っていたことがようやくはっきりする。

連続する事件につながりはあるのか、それとも偶然なのか?被害者に共通する特徴はなにか?犯人がいるのか?政治的な陰謀ではないのか?
様々な角度から推理を重ねるかと思えば、また新たな観点が導入され、状況は再構築される。真相はいかに?いやそもそも真相はあるのだろうか?

いろいろ考察してきたあげくの、最後の40ページで展開される種明かしは、それ以上にスリリングである。さんざん推理してきたにも関わらず、種明かしは思考の中からではなく、宇宙飛行士のとった行動と恐るべき経験から明らかになる。
花粉症、何の気なしに寄った菓子屋で買ったアーモンド、飛行機待ちの間に気まぐれで立ち寄った床屋、前夜までに寄宿していた家で飲んだワイン、そんな些事が積み重なって驚くべき結末を迎える。

この緻密なプロットには本当に驚かされる。
そしてその緻密さは、平たく言うと「何がどう関わって何が起きるかわかったものじゃない」という現代そして未来の過密社会の有り様と、そこに生きる人間の現実とを、そのまま表現していると言えるだろう。

またレムは種明かしにあたり、科学的な推理の一方で偶然という要素をふんだんに取り込むことによって、偶然と必然、意図と意図せざるものの間には、確率論的には違いはないという観点を持ち込んでいる。
種明かしを単にカタルシスとしてもってきていないあたり、レムのひねくれ度を表していないだろうか。


よくできたミステリーとして読めるし、レムの現代文明観を読みとることもできる。SFといえばSFだけど、れっきとした現代小説。
しかしまた一方で、前半の不安に満ちた描写や、種明かしにおける幻想的な描写は、カフカやゴンブロヴィッチなどの不条理に通じるものがある。
本筋とは別に、解決を与えられていない不思議なことがいっぱい詰まっているところは、ある種幻想文学としても読める。
なかなか奥深いぞレム。

そうそう、文中に、現代におけるテロについての言及が多くみられる。
対テロのハイテク飛行場において自爆テロによって大きな被害が出てしまうという設定がある。ここに至ってはフィクションと済ましていられないレムの世界観の鋭さが発揮されている。

よくできた小説でした。
現在刊行中の国書刊行会のレム・コレクションに含まれるようなので、
また世に出るのはうれしい限り。

 

追記2020:その後発刊

 

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