天国の門HEAVEN'S GATE
1981アメリカ
監督・脚本:マイケル・チミノ
撮影:ヴィルモス・ジグモンド
音楽:デヴィッド・マンスフィールド
クリス・クリストファーソン、クリストファー・ウォーケン、ジョン・ハート、イザベル・ユペール、ジェフ・ブリッジス、ジョセフ・コットン、ブラッド・ドゥーリフ ほか
『天国の門』は以前DVDで観たのだが、
今回はデジタル修復およびチミノ監修によるディレクターズカット版ということです。
当初劇場公開時は149分、
2005年にMGMが公開したものが3時間39分(219分)、
今回のものは216分ということで、これまでDVDで発売されたものは219分のものということです。
修復に当ってはテクニカラーの3原色に分離されたマスターネガをベースにしたということですが、
画像は若干荒く、特に前半の卒業式シーンでは、黒い服の表面に白いざらざらが見られるような感じでした。
もちろんだからよくないということではありませんけど。
サウンドトラックはすごいものでした。
金に糸目を付けずに作られただけあって、随所に突き詰められた末の過剰みたいなものがあって、
卒業式でのダンスとか、
移民たちのローラースケートとか
ワイオミングの町のにぎわいとかが大変過剰に物量が投じられているんですけど、
その結果が、音に出ている。
鉄道が着く町の中心部では狭い町ながらスゴい数の人がひしめいていて、その喧噪と
ひっきりなしに馬車が通る音がスゴい音で常に鳴っている。
あるいはワイオミングの荒野にある小さな集落で
雪のかぶった山々をバックに風が吹くんだけど、
その風の音が妙にリアルで大きく、自分が野外で風を受けているような気分になる。
ということで、修復版を劇場の大画面大音響で観れてよかったな~
boidさんありがとう。
内容的なことは前回鑑賞時にも書いたのですが、
今回は特に過剰ということを考えましたね。
物量的過剰ということもあるんだけれど、
そうではない面、たとえばネイトがエラに椅子をすすめるなんでもないシーンなんだけど、
そこでエラがちょっと思案し、表情を変えてゆき目配せしつつ、最後ににっこりわらって座る、
というように、いろいろなところで人物たちの心情を醸し出すような贅沢な時間の使い方をしているのです。
(ちなみにもちろん↑のシーンは無言でね)
あるいはエラを逃がしたいジムと、ここにとどまるときかないエラが話し合うシーンでは、
エラがまとめた荷物をジムが激情して蹴飛ばして、
エラはそれをまた手早く積み直す。
で、しばらくするとまたジムはそれを蹴飛ばして、エラは積み直すんだよね。
2回やる。
そういう過剰さがあるなあと思いました。
豊かな映画という言い方もあるかも知れないが、
普通でない時間の使い方というニュアンスを込めて。
ということは、そういう時間の積み重ねがこの映画の肌触りを決めていっているので、
自ずとこの映画にふさわしい尺というのがある程度長くなるのは必然なんだろう。
長くてテンポが悪いというのとは全然ちがう、
長いゆえにこの映画のテンポと形が出来るという感じ。
それと、カイエ・デュ・シネマに掲載されたチミノ記事の翻訳(チミノといっしょに映画のロケとをまわるってやつ)をboidさんから手に入れたんだけれど、そこに、ジョンフォードの言葉として、「映画で美しいのは(だったっけ?)馬とダンスと山だ」ていう主旨のことが書いてあって、『天国の門』でも実にそのセオリーを守っているのが面白い。
冒頭のダンスと終盤の銃撃戦の回転運動的繋がりについてはもう随所に書かれているのだが、
とくに銃撃戦においてはその繋がりによって馬とダンス(の要素)と山が同時に展開する画面になっているのが、恐るべき点である。。
あとは、そうねえ、中味としては、
正しい人間とか潔白な人間はひとりも出てこないというところがよい。
強いて言うならジムがかろうじて最後に自分の正義を貫こうとするのだが。。
この映画では移民たちは迫害されて被害者的だが
彼らもここでは生きるために家畜泥棒を働く犯罪者であり、
一方で移民の粛清を計る地主たちも、殺人者ではあるけれど、自分の財産を守るという名分がある。
善悪はここでは人に備わった資質ではなく、
状況が人に与えるポジションに過ぎない。
だから状況によって人は悪の側になり殺されもするし
善をまとって殺しもするし、
それはそういうものなんだ。
というような世の中の理解みたいなものを感じたですね。
そういう映画というのの対極には勧善懲悪の映画があり、
世の中はどちらかというと後者を好むように思われるので、
『天国の門』が興行的に失敗するのもムリからぬところかなあと
じわりと感じました。
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映画としては実に見応えがあります。
東京での上映期間はだいぶ短そうなので、観に行かれる方は即スケジュールチェックです。
オフィシャルサイト
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ブラッド・ドゥーリフがエグルストンという役名で出ているんだけど、
エグルストンて誰だったかな??(わかんなかった)
ミッキー・ロークも出てた。
クリストファー・ウォーケンとつるんでいて撃ち殺されてしまう。
クリストファー・ウォーケンは実によいのだね。
一般的なかっこよさとは全然違う気色悪さと心細さがあり、
そこがよい。
(前回観た時は居心地悪しと書いていたが、ワタシも変わるんだね)
今回はジョン・ハートがなかなかよいと思った。
卒業式の馬鹿騒ぎのなか、彼だけがひとり「終わってしまった」と悲しい顔をしているところがよい。
あとは過去記事を。
マイケル・チミノ「天国の門」2005
マイケル・チミノ「天国の門」あげいん2005
そうそう、チミノをずっと支え続けているプロデューサのジョアン・カレリの旦那は
この映画で(そして以降のチミノ作品で)音楽をやっている(我らが)デヴィッド・マンスフィールドなんだそうだ!
これはなんとなくびっくりだ!
そのマンスフィールドによる音楽は、前回観たとき以上に心に響いた。
彼のローラースケート場(ここの名前がHeaven's Gateだ)でのパフォーマンスも
身体能力の高さを示してすばらしい。
ミュージシャンとは運動神経なんだなとつくづく。
ついでに思い出したが、ロニー・ホーキンスも出てるのだ!
@シネマート新宿