漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「寸スン」と「忖ソン」「村ソン」「厨チュウ」「肘チュウ」「酎チュウ」「討トウ」

2023年11月13日 | 漢字の音符
  甲骨文字は肘(ひじ)の原字
 スン・ソン  寸部           

解字 甲骨文字は、三本ゆびで表した手の下方の腕の湾曲する部分に短い曲線をつけ「ひじ」を表わした指示文字。肘ひじの原字。寸は、もと肘を意味した[甲骨文字小字典]。篆文は 「又(て)+-印」 の形になり、手の親指一本分の幅の意味に変化した。指の幅は人によってまちまちなので、のち時の政権によって公定尺が決められた。長さの意味のほか、親指一本の幅から、すこし・わずかの意ともなる。ひじの意味は音符に残っている。また、音符では、又(て)と同じく手の意味で使われる。寸は部首になり、手にもつ意(尊・専・対など)を表す。
意味 (1)長さの単位。尺の十分の一。日本で1寸は約3㎝。周代では、2.25㎝。「五寸ゴスン」(1寸の5倍。約15㎝) (2)長さ。「寸法スンポウ」(各部分の長さ。また、基準) (3)すこし。わずか。「寸暇スンカ」(わずかのひま)「一寸ちょっと」 (4)はかる。

イメージ
 「ながさ」
(寸・吋・忖) 
 本来の意味である「ひじ」(肘)
 「形声字」(村・厨・酎・討)
 
音の変化  スン:寸  ソン:忖・村  チュウ:厨・肘・酎  トウ:吋・討

ながさ
 トウ・スン・いんち  口部
解字 「口(くちまね)+寸(長さ:一寸)」 の会意形声。イギリスの一寸にあたる長さを、口まねする意の字。古くは、しかる声をあらわした字。
意味 インチ(吋)。ヤード・ポンド法の長さの単位。1インチは約2.5㎝。現代中国語の発音は、cùn(ツン)
 ソン・はかる  忄部
解字 「忄(心)+寸(長さをはかる)」の会意形声。寸は長さの意のほか、長さをはかる意がある。忖は、相手の心をおしはかること。
意味 はかる(忖る)。おしはかる。「忖度ソンタク」(他人の心をおしはかること。度もはかる意)「思忖シソン」(思いはかる)

ひじ
 チュウ・ひじ  月部にく
解字 「月(からだ)+寸(ひじ)」 の会意形声。寸は本来、ひじを意味したが、長さの単位に変化したので、月(からだ)を加えて元の意味を表わした。
意味 ひじ(肘)。腕の関節の外側部分。「肘鉄砲ひじデッポウ」「肘掛(ひじか)け」「肩肘かたひじ」「制肘セイチュウ」(肘を制する。自由に行動させない)

形声字
[邨] ソン・むら  木部
解字 古くは邨ソンで「阝(おおざと。町やむら。+屯トン⇒ソン(たむろする)」の形声。人々が寄り集まるむらの意。のち、東晋(317~420)の頃から邨に代わり同音の村ソンが使われるようになった。村はもと木の名前だったとされるが、現在の解字は「木(き)+寸スン⇒ソン(=屯。たむろする)」で、人々がたむろする木の茂る村となる。
意味 (1)むら(村)。「村落ソンラク」(村ざと)「寒村カンソン」(貧しい村) (2)むら。地方自治体の一つ。「村長ソンチョウ」「村営ソンエイ」(3)姓。「村田」「村山」「田村」「邨田むらた
厨[廚] チュウ・ズ・くりや  厂部
解字 「厂(やね)+豆(たかつき)+寸チュウ(て)」の会意形声。豆はマメでなく食器のたかつきの意。厨は、屋根の下で食器を寸(手)に持ち、食事の準備をする形で、調理場の意味を表す。寸はチュウの発音で音符になっている。なお、ズの発音で、食器などをいれるはこの類をいう。廚チュウは異体字。
意味 (1)くりや(厨)。台所。料理場。「厨房チュウボウ」(調理場)「厨芥チュウカイ」(厨房から出るくず) (2)ひつ。はこ。「厨子ズシ」(調度品をいれる戸棚。仏像を安置する仏具)
 チュウ  酉部
解字 「酉(さけ)+寸(チュウ)」 の形声。チュウは丑チュウ(手を握った形)に通じる。ここでは酒の原酒(もろみ)を絞る意味と思われる。[説文解字]は「三重醇ジュン酒也(なり)」とする。発音字典の[広韵]は「三重釀ジョウ酒」とする。この酒は、原酒(もろみ)をしぼったものをベースにさらに発酵させて、これを三度くりかえした芳醇な酒をいう。なお、日本では蒸留して造った濃い酒をいう。
意味 (1)何度もかもした濃い酒・よい酒。「酎酒チュウシュ」(祭祀に用いる重ねてかもした酒)「醇酎ジュンチュウ」(こい酒) (2)[国]しょうちゅう。「焼酎ショウチュウ」(発酵した酒を蒸留して作る濃い酒)「酎(チュウ)ハイ」(チューハイ。焼酎ハイボールの略。焼酎を炭酸水で割った飲み物)
 トウ・うつ  言部 [䚯]
解字 「言(ことば)+寸(スン⇒トウ)」の会意形声。[説文解字]は「治める也(な)り。言に従い寸に従う」とする。会意文字であり意味が多く、①たずねる。しらべる。②意見などを、たたかわせる。③うつ。征伐する。などの意味があるが、討の異体字に「言+刀」の䚯トウ(言い立てて刀で切る。うつ。討ち取る)があり、討つ(殺す・斬る)意は䚯トウに由来している。
意味 (1)たずねる(討ねる)。しらべる。「討究トウキュウ」(たずねしらべる)「検討ケントウ」 (2)たたかわせる。相談する。「討論トウロン」(意見をたたかわせて議論する)「討議トウギ」(意見をたたかわせて相談する) (3)うつ(討つ)。罪を言いたててうつ。「討伐トウバツ」「掃討ソウトウ
<紫色は常用漢字>

参考 寸は部首「寸すん」となる。部首の寸は、長さの単位でなく「手にとる」意を表し、又と同じ意味でつかわれる。常用漢字で12字、約14,600字を収録する『新漢語林』では28字が寸部に収録されている。主な字は以下のとおり。
常用漢字 12字 
 寸スン (部首)
 導ドウ・みちびく(寸+音符「道ドウ」)
 対[對]タイ・つい(丵+土+寸の会意)
 射シャ・いる(身+寸の会意)
 将[將]ショウ(爿+月+寸の会意)
 尊ソン・とうとい(寸+酋の会意)
 専[專]セン・もっぱら(寸+叀の会意形声)
 尉(寸を含む会意)
 寺ジ・てら(土+寸の会意)
 封フウ(寸+圭の会意)
 尋ジン・たずねる(寸を含む会意)
 寿[壽]ジュ・ことぶき(寸を含む会意)
 このうち射シャ・将ショウ・尊ソン・専セン・尉・寺・封フウ・尋ジン・寿ジュが音符になる。

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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