漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「告コク」<牛を神にささげて願いを告げる> と「酷コク」「鵠コク」「牿コク」「梏コク」「造ゾウ」「慥ゾウ」「窖コウ」「浩コウ」

2024年01月31日 | 漢字の音符
  私は告の音符を「牛を神にささげて願い事を神に告げる(牛+口(言う・つげる)」と解字してみた。すると告げる意で、誥コク・鵠コク・誥コクが解釈できるが、困ったのは梏コク(手かせ)や酷コク(むごい)など、同じコクの発音でありながら全く異なる意味の字があることだった。そこで私は「神にささげる牛は柵で囲まれ、古代文字の牢ロウにいる状態だったのではなかろうか」と苦し紛れに推測して書いていたが、この度、漢検1級字にも入っていない牿コクを調べたところ、この字は牛馬を養う檻(おり)の意味があることが分かった。つまり神にささげる牛は身動きできなかったのである。
 コク・コウ・つげる  口部 gào

解字 「牛(神にささげる牛)+口(つげる)」の会意。牛を神にささげて、願い事を神に告げること。新字体(告・造・酷・浩)は「牛」の下が突き出ない。ここで神にささげる牛は柵で囲まれ、「古代文字の牢」(牛の音符参照) にいる状態だったのではないだろうか。なお、牛のこうした状態を表す字に牿コクがある。
意味 (1)つげる(告げる)。知らせる。「告白コクハク」「通告ツウコク」「告示コクジ」 (2)うったえる。「告訴コクソ」「被告ヒコク(うったえられる人)

イメージ  
 「つげる」
(告・鵠・誥・造・慥)
 神にささげる牛を柵で囲うので牛は「動けない」(牿・酷・梏)
 「形声字」(浩・窖・皓・晧・靠)
音の変化  コク:告・鵠・牿・酷・梏  コウ:誥・窖・浩・皓・晧・靠  ゾウ:造・慥

つげる
 コク・コウ・くぐい・まと  鳥部 hú
解字 「鳥+告の旧字(つげる)」の会意形声。大空を高く飛び、はるかかなたの神に告げにゆく鳥。空を高く飛ぶ渡り鳥である白鳥をいう。
意味 (1)くぐい(鵠)。白鳥。鵠(くぐい)とは白鳥の古名。羽が白く高く飛ぶ水鳥。鴻コウ(おおとり)と共に大きな鳥の代表とされ、「燕雀いずくんぞ鴻鵠コウコクの志を知らんや」(燕や雀のような小さな鳥にどうして鴻鵠の大志がわかろうか)という成語がある。「黄鵠コウコク」(黄色を帯びた鵠(くぐい)。中国で死人を生き返らせるという想像上の鳥)「鵠立コクリツ」(白鳥のように首を長くしてつま立つ) (2)白い。「鵠髮コクハツ・コウハツ」(白髪) (3)まと(鵠)。弓の的。真ん中が白地でその周りに黒の同心円がある的。中心が白い(鵠)のでまとの意がある。「正鵠セイコク」(正に中央の鵠まと。弓の的の中央。ねらいどころ)「正鵠を得る」(的の中心に的中する)
 コウ・つげる  言部 gào
解字 「言(いう)+告の旧字(つげる)」の会意形声。つげる意だが特に上から下に告げる意で使う。
意味 (1)つげる(誥げる)。下につげる。命ずる。「誥戒コウカイ」(つげいさめる) (2)王の命令。その文体。「誥命コウメイ」(天子が命じる辞)
 ゾウ・ソウ・つくる  辶部 zào

解字 金文は種類が豊富だ。第1字(左上)は宀(建物)の中に彳と告を描く。第2字(左下)は、その下に止(あし)を付けている。第3字(右上)は、宀(建物)の中に舟と告を描き、第4字は、宀(建物)がとれて下に彳と止(あし)を付けている。
 この金文をどう解釈するのか。白川氏は[常用字解]で、「舟は盤(うつわ)で、ここに供え物をいれて神にすすめて祭ること。また、宀(建物)は廟(みたまや)であり、ここにお参りして告の儀礼をおこなう」としている。この説明からは造営(建てる)の意味はでてこない。
 [漢字源流字典]には、「金文の宀(建物)や舟は、建物と船を造ることだいう説もある」と書いてある。私はこの説が良いのではないかと思う。つまり、宀(建物)や舟(船)をつくると神に告げて、その建造物が無事に完成するように祈る儀式を表し、彳や止(あし)は、すすむ意なので、無事に進行するようにという意味ではないか。
 篆文(説文解字)になると、宀(建物)や舟の姿は消え、彳と止が合併した辵チャクと告からなる字となった。著者の許慎キョシンは「造は就シュウ・ジュ(成就・できあがること)也(なり)」としており、建築物や船が出来上がる意味が最もふさわしい。造はまた、進行の辵チャクが付くので、いたる意がある。現代字は「告+辶」の会意。
意味 (1)つくる(造る)。生みだす。こしらえる。「創造ソウゾウ」「造営ゾウエイ」(神社・仏閣などを建てること)「建造ケンゾウ」(建物・船など大きな構造物をつくること)「造語ゾウゴ」(新たに言葉を造ること) (2)いたる。きわめる。「造訪ゾウホウ」(おとずれる)「造詣ゾウケイ」(深く通じる) (3)[国]みやつこ(造)。古代の姓(かばね)の一つ。
 ゾウ・ソウ  忄部  zào
解字 「忄(こころ)+造(つくる)」の会意形声。造は宀(建物)や舟(船)をつくると神に告げて工事をすすめること。そこに忄(こころ)がついた慥は、建物などの造営にとりくむ心が篤実トクジツ(誠実で相手の立場を考える)なさまをいう。
意味 (1)まことあるさま。「慥然ゾウゼン」(まことあるさま)「慥慥ゾウゾウ」(篤実なさま)「慥慥爾ゾウゾウジ」(情け深く誠実なさま) (2)[国]たしかに(慥かに)。(3)[その他]あわただしい。多くの字典に記述はあるが具体的な事例は挙げられておらず根拠に乏しい。

うごけない
 コク  牛部 gù
解字 「牛(うし)+告の旧字(コク)」の形声。告コクという状態の牛をいう。[説文解字]は「牛馬の牢也(な)り。牛に従い告コクの聲(声)」とする。牛馬を養う檻(おり)をいう。
意味 (1)牛馬を養うおり。「牿服コクフク」(圈禁ケンキン。圈(かこい)で禁(ふさ)ぐ)「馬牛を以(もっ)て牿服し牢と為す[淮南子.齊俗]」(2)拘束する。かせをはめる。(=梏)「牿害コクガイ」(かせをはめられ傷害をうける)(3)牛の角にしばりつける横木。(=梏コク
 コク・てかせ  木部  gù
解字 「木(き)+告の旧字(うごけない。=牿)」の会意形声。手にはめて自由を奪う木の刑具をいう。[説文解字]は「手械(てかせ)也。木に従い告コクの聲(声)」としている。
意味 てかせ(梏)。「桎梏シッコク」(手足にかせをはめる。桎は足かせ)「梏械コクカイ」(てかせ)「梏惨コクサン」(酷刑) (2)しばる。
 コク・むごい  酉部  kù
解字 「酉(さけ)+告(うごけない=牿)」の会意形声。酔って動けなくなるような強い酒。転じて、ひどい・きびしい意となる。[説文解字]は「酒厚き味也(なり)。酉に従い告コクの聲(声)」とし濃厚な酒とする。[同注]は「引申(そこから転じて)已(すで)に甚しき之(の)義と爲(な)す。白虎通に曰く。酷は極也(なり)」とし、甚だしい・極めての意味があるとする。
意味 (1)むごい(酷い)。きびしい(酷しい)。ひどい(酷い)。「残酷ザンコク」「酷評コクヒョウ」「苛酷カコク」(きびしい)「過酷カコク」(厳しすぎる)「酷使コクシ」(厳しく使う) (2)はなはだ。ひじょうに。「酷似コクジ」「酷暑コクショ


形声字(コウ) 
 コウ・ひろい  氵部 hào
解字 「氵(水)+告(コク⇒コウ)」の形声。水がゆたかで広々としているさまを浩コウという。転じて、ひろい・おおきい意となる。
意味 ひろい(浩い)。大きい・ゆたかである。「浩然コウゼン」(心が広く大きい。ゆったりしているさま)「浩大コウダイ」(ひろく大きい)
 コウ・あなぐら  穴部 jiào
解字 「穴(あな)+告(コク⇒コウ)」の形声。穴(横穴・竪穴)が深くひろがった地中の穴蔵を窖コウという。物をたくわえておく穴蔵。
意味 あなぐら(窖)。あな。物をたくわえるための地中のあな。「地窖チコウ」(地中のくら)「酒窖シュコウ」(酒を保存する穴蔵)「窖蔵コウゾウ」(地中のくらに貯蔵すること。また、貯蔵した財物)  
 コウ・しろい  白部 hào
解字 「白(しろい)+告(コク⇒コウ)」の形声。白く光ることを皓コウという。白い・あきらかな意となる。
意味 しろい(皓い)。しろく光る。あきらかなさま。「皓歯コウシ」(光るように白い歯)「明眸皓歯メイボウコウシ」(澄んだひとみと白い歯。美人の形容)「皓然コウゼン」(白く光るさま。明らかなさま)
 コウ・あきらか  日部  hào
解字 「日(ひ)+告の旧字(コク⇒コウ)」の形声。日の出るさま。また、夜明けの光を晧コウという。皓の異体字。
意味 (1)日の出るさま。 (2)しろい(晧い)。白く光る。 (3)あきらか(晧らか)
 コウ・もたれる・よる  非部  kào
解字 「非(互いが背をむける)+告の旧字(コク⇒コウ)」の形声。背をむけた二人が背をよせあうことを靠コウという。よりかかる・よる・もたれる意味になる。
意味 (1)もたれる(靠れる)。よる(靠る)。たよる(靠る)。よりかかる。「依靠イコウ」(依も靠も、たよる意)「靠頼コウライ」(依頼する)「靠背コウハイ」(背もたれ)「靠天コウテン」(天にたよる。天にまかせる) (2)たがう(靠う)。そむく。背をむける。
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「合ゴウ」<ふたと器の口があう> と「閤コウ」「袷コウ」「蛤コウ」「恰コウ」「龕ガン」「給キュウ」「拾シュウ」「拿ダ」

2024年01月29日 | 漢字の音符
 ゴウ・コウ・ガツ・カツ・あう・あわす・あわせる 口部 hé・gě

解字 甲骨・金文は「(ふたの象形)+口サイ(器のかたち)」の会意。うつわにフタをかぶせ、ぴたりと合わせる形。あう。あわせる意を表わす。篆文以降、は𠆢 と一に分かれ「合」になった。
意味 (1)あう(合う)。あわす(合す)。あわせる(合わせる)。ぴったりあう。「投合トウゴウ」「合作ガッサク」 (2)あてはまる。「合致ガッチ」「適合テキゴウ」 (3)あつまる。あつめる。「集合シュウゴウ

イメージ 
 「あわせる」
(合・給・拾・閤・袷・洽・蛤・拿・翕・盒・
  ふたと器の口が「あう」(恰)

音の変化  ゴウ:合・盒  コウ:閤・袷・洽・蛤・恰  ガン:  キュウ:給・翕  シュウ:拾  ダ:拿  

あわせる
 キュウ・たまう・たまわる  糸部  gěi・jǐ
解字 「糸(いと)+合(あわせる)」の会意形声。機織りに使う織り糸の残りが少なくなると、新しい糸をあわせる(追加する)こと。足りないところをたす意になる。
意味 (1)たす。足りないものをたす。「給油キュウユ」「補給ホキュウ」 (2)たまう(給う)。たまわる(給わる)。「支給シキュウ」「給付キュウフ」「給食キュウショク」 (3)あてがい。てあて。「給料キュウリョウ」「俸給ホウキュウ
 シュウ・ジュウ・ひろう  扌部 shí・shè
解字 「扌(手)+合(あわせる)」の会意形声。落ちているものを手とあわせること。ひろう・ひろいあつめる意となる。また、発音が同じ十ジュウの大字(代りの字)となる。
意味 (1)ひろう(拾う)。あつめる。「拾得シュウトク」(拾って自分のものにする) 「拾遺シュウイ」(もれ落ちたものを拾う) (2)数字の十のこと。「拾円ジュウエン
 コウ・くぐりど  門部  gé・hé・xiá   
解字 「門(もん)+合(あわせる)」の会意形声。大門の傍らにあるくぐり戸をいう。大きな門に小さな門があわさっている意。また、くぐり戸のある大きな門をもつ宮殿の意味にも使う。
意味 (1)くぐりど(閤)。大門のわきの小門。「閤門コウモン」(2)宮中の小門。女性の部屋。「=閨ケイ」「閨閤ケイコウ」(3)宮殿。ごてん。役所。「太閤タイコウ」(①摂政または太政大臣の敬称。②豊臣秀吉の称。)「閤下コウカ」(宮殿に住む身分の高い人の尊称)「高閤コウカク」(たかどの)
 コウ・あわせ  衣部 jiá・qiā・ jié
解字 「衣(ころも)+合(あわせる)」の会意形声。裏地と表地を合わせた衣をいう。[説文解字]は「衣の絮(わた)無きもの也」としている。
意味 あわせ(袷)。裏地と表地を合わせた衣。裏地のついた着物。「袷衣コウイ」⇔単衣タンイ(一重の衣)。「袷羽織あわせはおり」「袷帷子あわせかたびら」(裏地付きかたびら。帷子とは裏地のない衣)
 コウ・ゴウ・あまねし  氵部 qià
解字 「氵(みず)+合(あわさる)」の会意形声。水があわさる意で、あまねく水がゆきわたること。うるおう、また広くゆきわたることから、あまねしの意となる。
意味 (1)うるおう。うるおす。「洽汗コウハン」(汗をかく)「洽衿コウキン」(えりがぬれる。泣く) (2)あまねし(洽し)。広くゆきわたる。「洽覧コウラン」(あまねく見ること。書物をあまねく読むこと)「洽覧深識コウランシンシキ」(見聞や知識が広く深いこと)「普洽フコウ」(広く行き渡る)「洽博コウハク」(博学)
 コウ・はまぐり  虫部 gé・há
解字 「虫(かい)+合(あわせる)」の会意形声。虫はここで貝。蛤は、貝がらを合わせる意で、二枚貝のはまぐりをいう。はまぐりは、自らの貝以外の貝と合わせてもぴったりとあわないことから、貝合わせに用いられる。
蛤の接合部分
意味 (1)はまぐり(蛤)。日本各地の内湾に生息する二枚貝。名前の由来は、浜辺の栗から。肉を食用とする。「蛤蜊コウリ」(はまぐりとあさり)「蛤鍋はまぐりなべ」「蛤灰コウカイ」(蛤の殻を焼いた灰。石灰にする) (2)はまぐりに似た二枚貝の総称。「蜃蛤シンコウ」(①おおはまぐり(大蛤)、②みずち(蛟)。想像上の動物)
 ダ・ナ  手部  ná
解字 「手(て)+合(あわせる)」の会意。手を相手につけた形で、捕える意。
意味 とらえる。つかまえる。「拿捕ダホ」(拿も捕も、つかまえる意)
 キュウ・コウ  羽部  xī
解字 「羽(はね)+合(あわせる)」の会意形声。鳥が羽をあわせて一斉に飛び立つ様子を表す。
意味 (1)おこる。多くのものがいっせいに起こるさま。「翕如キュウジョ」(いっせいに整って起こる) (2)さかん。「翕赫キュウカク」(さかんなさま)「翕習キュウシュウ」(勢いのさかんなさま) (3)あつまる。あつめる。「翕然キュウゼン」(集まるさま。集まり一つになる)「翕合キュウゴウ」(あつまる) (4)(吸キュウ・すう、闔コウ・とじる、と通じ)すう・おさめる。「翕翼キュウヨク」(翼をおさめてじっとしている)
 ゴウ  皿部  hé
解字 「皿(深い皿)+合(ふたをあわせる)」の会意形声。ふたと身をあわせる容器。
飯盒
意味 ふたもの。身とふたをあわせて閉じる容器。「飯盒ハンゴウ」(キャンプなどで使う炊飯兼用の弁当箱)「香盒コウゴウ」(香料をいれる容器。=香合)
 ガン・ずし  龍部 kān
解字 金文は「今(ふさぐ)+龍(龍の置物)」の会意形声。龍の置物を入れてふさぐ容器。篆文から今⇒合に変化したガンになった。発音は今コンの変化形(今に含ガンの音がある)。現代字の解字は「合(あわせる)+龍(龍の置物)」の会意で、龍の置物を入れて蓋を合わせる容器となる。仏教用語で、仏像を納める両開きの扉が付いた厨子ズシをいう。

諸尊仏龕ブツガン(九州国立博物館蔵「文化遺産オンライン」より)
意味 (1)ずし()。仏像などを納める両開きの扉がついた厨子。「仏龕ブツガン」「石龕セキガン」(石の厨子。石の塔)「石龕寺セキガンジ」(兵庫県丹波市にある寺、奥の院に石窟がある) (2)仏壇。「龕灯ガントウ」(①仏壇のともしび。②桶やブリキで釣り鐘形の外枠をつくり中に回転するローソク立てを付けた提灯)

あう
 コウ・カッ・あたかも  忄部 qià
解字 「忄(心)+合(あう)」の会意形声。心にぴったりと合うこと。思ったとおりにうまく合うこと。
意味  ちょうど(恰度)。あたかも(恰も)。まるで。ちょうどあう。「恰好カッコウ」(①ちょうどよい。②外見のようす)「恰幅カップク」(幅がちょうどあう意から、転じて人の体つきをいう)

関連音符 荅・答へ
 トウ   艸部  dá・dā              
解字 「艸(草)+合(あわさる)」の会意。さやの合わさった草である、さやまめの意から、小豆の意味がある。後漢の[説文解字]は、「小尗シュク(小豆)也。艸に従い合の声。発音はトウ(都合切)」とする。また、同音である答トウ(こたえる)と同じ意味で使われる。しかし、単独ではほとんど用いられず、トウの発音を生かして音符として使われる。
意味 (1)あずき(荅)。小豆。「荅菽トウシュク」(小豆) (2)こたえる。(=答) (3)あう。あわせる。
イメージ 
 「あずき」(荅) 
 「形声字」(塔・搭・鞳・剳)
 音の変化  トウ:荅・塔・搭・鞳・剳
 トウ・こたえる・こたえ  竹部
解字 「竹(たけ)+合(一致する)」の会意。合は一致する意があり、相手から質問されたとき「トウ」(合っている)と返事したことから、答える意味があった。それに竹や艸をつけた答・荅も「こたえる」意味をもつが、主に答が使われる。
意味 こたえる(答える)。こたえ(答)。応ずる。報いる。「回答カイトウ」「答弁トウベン
イメージ
 「こたえる」(答)
 「形声字」(箚)
 音の変化  トウ:答  トウ・サツ:箚
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「弟テイ」<順序よく巻く>と「悌テイ」「梯テイ」「剃テイ」「鵜テイ」「涕テイ」「第ダイ」「俤おもかげ」

2024年01月27日 | 漢字の音符
 テイ・ダイ・デ・おとうと  弓部  dì・tì・tuí


 上は弟、下は戈 
解字 甲骨文字は、武器であるほこ(戈)の柄に、すべり止めのため紐状の物を巻きつけた形。金文は戈の上部が Y になり下部の横線が上に上がった。篆文で上部のYが変形し下部がノとなり戈と歩調を合わせた変化をしている。現代字で上がソに変化した弟となった。[説文解字]は「韋束イソク之(の)次弟シダイ也」(なめし革のひもで物を束ね巻き付けてゆく順序なり)とする。
 弟は列国期の金文に至り、同輩中の年少者や兄弟の意味に用いている。これは戈の柄に巻き付いている部分は、刃の下なので兄弟の順序の下にある「おとうと」を示したもの。なお弟には革を順序よく巻いてゆくので「順序」のイメージがある。
意味 (1)おとうと(弟)。「兄弟キョウダイ」「弟妹テイマイ」(弟と妹) (2)でし。門人。教え子。「弟子デシ」「門弟モンテイ」「師弟シテイ」 (3)順序。序列。「次弟シダイ」(順序) (4)(年長者や兄に)したがう。=悌テイ

イメージ  
 「おとうと」
(弟・悌・俤)
 「順序」 (第・梯・涕)
 「形声字」(剃・鵜)
音の変化   テイ:弟・悌・梯・剃・鵜・涕  ダイ:第  おもかげ:俤

おとうと
 テイ  忄部  tì
解字 「忄(心)+弟(おとうと)」 の会意形声。兄に従順な弟の気持ちをいう。
意味 (1)したがう。年長者に従順なこと。「孝悌コウテイ」(父母に孝行し兄に従順なこと) (2)兄弟の仲がよい。「悌友テイユウ」(兄弟の仲むつまじい) (3)やすらか。やわらぐ。「豈悌ガイテイ
<国字> おもかげ  イ部 dì
解字 「イ(ひと)+弟(おとうと)」 の会意。「弟のような人」を表す国字。あの人は弟のおもかげがある。
意味 (1)おもかげ(俤)。面影とも書く。心に思い浮かべる顔や姿・様子。「父の俤がある」「古都の俤を残す」

順序
 ダイ・テイ  竹部 dì
解字 「竹(竹簡)+弟の略体(順序)」 の会意形声。竹簡に書いた文章を綴じるため一本ずつ順番にならべること。順序を定めることをいう。転じて昔の試験の意となり、順序が下位だと落第となる。また、邸テイ(やしき)に通じ、屋敷の意を表す。
意味 (1)しだい。順序。「次第シダイ」 (2)順序を表す語。「第一番」「第三者」 (3)昔の試験。「落第ラクダイ」「及第キュウダイ」(試験に合格する) (4)やしき。「第宅テイタク」(大きな屋敷)「聚楽第ジュラクダイ」(豊臣秀吉が京都に造営した壮大な邸宅)
 テイ・はしご  木部 tī
解字 「木(き)+弟(順序)」 の会意形声。二本の木の間に順序よく短い木が並ぶはしご。

雲梯(城攻めに用いた長い梯子・ウィキペディアより)
意味 はしご(梯)。「梯子テイシ・はしご」「雲梯ウンテイ」(①城攻めに用いた長い梯子。②梯子を水平に渡した遊戯施設)「梯田テイデン」(段々畑)「梯索テイサク」(なわばしご)「梯形テイケイ」(①はしごの形。②平行四辺形。台形) (2)「梯梧デイゴ」とは、マメ科の落葉高木。インドやマレー半島が原産。春から初夏にかけて咲く赤い花で知られ、日本では沖縄県が北限とされている。
 テイ・なみだ  氵部  tì
解字 「氵(水)+弟(順序)」の会意形声。目から次々と順序をつけるように流れ出るなみだをいう。泣いて流す「なみだ」の意。
意味 なみだ(涕)。「涕泣テイキュウ」(なみだを流して泣く)「涕涙テイルイ」(なみだ)「涕泗テイシ」(涕は、ながれる涙、泗は泣くときでる鼻水)

形声字
 テイ・そる  刂部  tì
解字 「刂(かたな)+弟(テイ)」の形声。テイは抵テイ(ふれる・あてる)に通じ、刀の刃を顔や頭にあてて毛をそること。
意味 そる(剃る)。髪やひげをそりおとす。「剃髪テイハツ」「剃度テイド」(剃髪して得度すること。仏門に入ること)「剃刀かみそり
 テイ・う  鳥部  tí
解字 「鳥(とり)+弟(テイ)」の形声。テイという名の鳥。日本では鵜(う)を指すが、中国ではペリカン科の鳥をいう。
意味 (1)う(鵜)。川・湖・海岸などにすむ黒色の鳥。水中にもぐり魚を獲る。鵜飼にもちいる。「鵜飼うかい」(飼いならした鵜を使ってアユなどを捕らせる漁)「鵜匠うショウ」(鵜飼で鵜を操る漁師)「鵜呑(うの)み」(まるごとのみこむ) (2)がらんちょう。ペリカン科の鳥。くちばしが長くあごの下に大きな袋がある。「鵜鶘テイコ・がらんちょう
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「宣セン」<広く知らせる>と「喧ケン」「萱ケン」「諠ケン」「暄ケン」「鰚はらか」

2024年01月25日 | 漢字の音符
 セン・のたまう  宀部 xuān

解字 甲骨文は「宀(たてもの)+まわりこむ形」であるが、詳細な記述はなく施設名を表している[甲骨文字辞典]。金文・篆文は、宀の中の「まわりこむ」形が複雑になり、上や上下に横線がつき、現代字で「宀+亘セン」になった。亘センは垣(めぐらす)意で周囲を垣(土塀)で取り巻いた宮殿。特に天子が居住する正殿をさす。転じて、宮殿に住む天子から発せられるお触れをいう。
意味 (1)天子が居住する正殿。「宣室センシツ」(古代の宮殿の名) (2)のたまう(宣う)。天子が意向を知らせる。「宣旨センジ」(天皇の命を伝える公文書)「託宣タクセン」(神に祈って受けたおつげ) (3)告げ知らせる。ひろく知らせる。「宣言センゲン」(広く外に表明する)「宣伝センデン」(①広く述べ伝える。②商業的な知らせ。コマーシャル) 

イメージ 
 「広く知らせる」
(宣)  
 「形声字」(喧・諠・萱・暄)
 「その他」(鰚)
音の変化  セン:宣  ケン:喧・諠・萱・暄  はらか:鰚

形声字
 ケン・かまびすしい・やかましい  口部 xuān
解字 「口(くち)+宣(セン⇒ケン)」の形声。口からやかましい声をだすことを喧ケンという。
意味 かまびすしい(喧しい)。やかましい(喧しい)。さわがしい。「喧伝ケンデン」(やかましく世間にいいふらす)「喧騒ケンソウ」(やかましくさわがしい。=喧噪)「喧嘩ケンカ」(①やかましいこと。②いさかい・争い)
 ケン・かまびすしい  言部 xuān
解字 「言(はなす)+宣(=喧)」の会意形声。かまびすしい(喧しい)意味の口⇒言(はなす)に変えた異体字。
意味 (1)かまびすしい(諠しい)。やかましい(諠しい)。やかましく騒ぐ。「諠譟ケンソウ」(やかましいこと)「諠譁ケンカ」(やかましいこと。 いさかいをすること。)
 ケン・カン・かや  艸部 xuān
解字 「艸(草)+宣(ケン)」の形声。ケンはケン(わすれる)に通じ、人に憂いを忘れさせる草のワスレ草をいう。ケンは「艸(くさ)+諼ケン(わすれる)」の会意形声で、わすれ草をいい萱ケンの異体字。日本では、かやをいう。
意味 (1)わすれぐさ(萱草)。ヤブカンゾウ(藪萱草)の別称。身につけると憂いを忘れるという草。「萱堂ケンドウ」(①母親の部屋。②転じて母親。母は家の北堂におり、堂の庭に憂いを忘れるようにと萱草を植えていたのでいう) (2)[国]かや(萱)。ススキ・スゲなど屋根を葺く草の総称。「刈萱かるかや」(山野に自生するイネ科の多年草)「苅萱堂かるかやドウ」(高野山にある苅萱道心とその子・石童丸の伝説ゆかりのお堂)
暄[煊] ケン・カン・あたたかい  日部 xuān
解字 「日(太陽)+宣(ケン)」の形声。陽光のあたたかいさまを暄ケンという。煊ケンは異体字で、火であたたかいさまをいう。
意味 あたたかい(暄かい)。あたたかさ。「暄寒ケンカン」(あたたかさと寒さ)「暄暖ケンダン」(あたたかい)「暄和ケンワ」(あたたかくのどか)

その他
<国字> はらか  魚部 xuān
解字 「魚(さかな)+宣」。はらか(鰚)。はらか(腹赤)とも書き、「はらあか」の変化した語。ニベ(鮸)の異名、また、一説にはマス(鱒)の別称という。毎年正月に、大宰府から朝廷に献上した[日本国語大辞典]。鰚の解字は不明だが、大宰府から朝廷に献上したので、宣センを天子が居住する正殿=朝廷と解釈すると献上魚の意味がでる。
<紫色は常用漢字>

<参考音符>
 セン・カン・コウ   音符「亘セン・カン」へ
意味 (1)めぐる。めぐらす。 (2)わたる(亘)。人名に用いる。

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「秀シュウ 」<ひいでる>と「綉シュウ 」「銹シュウ 」「透トウ」「誘ユウ」「莠ユウ」

2024年01月23日 | 漢字の音符
 シュウ・ひいでる  禾部 xiù              



  上から、秀・光・見
解字 春秋戦国期の石鼓文(石碑文)は「禾(穀物が実って穂が垂れている形)+ひざを曲げた人」の会意。人が穀物を世話し実らせること。篆文は戦国期とほぼ同じだが、人の左が長くなった。この形は光や見の篆文(説文解字)と同じである。光は甲骨・金文では火を頭にのせてひざまずく人であり、人が火をあつかうさまが光って見えることから「光」の字が生まれた。見は目の下にひざまずく人を描いた形で、人が目で見るさま(目をつかう人の行動)を表した。光と見があらわす造字方法を秀にあてはめると、人が穀物を実らせるまでのさまざまな行為を表している。発音字典の[正韻]は「榮える(華がさく)なり。茂るなり。美なり。禾(穀物の穂)が華を吐くなり。発音は繡シュウ」とする。[詩経·大雅]は「(植えた黄茂=黄色の穀物の種)が實(まこと)に発(芽がでて)實(まこと)に秀(穂がでる)」とする。意味は、穀物を実らせる人の行為を穀物が独りでに成長するさま、①つまり植物がのびる。②植物が開花する形になり、さらに種から実をつけるまでのダイナミックな動きから転じて、ぬきんでる・ひいでる・すぐれる意となった。字形は隷書(漢代)で、人のひざまずく形⇒乃に変化した秀になった。
意味 (1)のびでる。花が咲く。「秀而(しか)して不実フジツ」(穀物の穂はのびたが、実がならない)「孟夏モウカ(夏のはじめ)苦菜(にがな)秀(い)づ」(夏のはじめに苦菜の花が咲く。礼記・月令)「蘭ランに秀(花)有り。菊に芳(かおり)あり」(劉徹・秋風辞)「秀穎シュウエイ」(稲の穂が勢いよく育つ。才能がすぐれる。穎は穂先の意) (2)ひいでる(秀でる)。すぐれる。ぬきんでる。「秀峰シュウホウ」(高くそびえる峰)「秀逸シュウイツ」(すぐれ抜きんでる)「秀偉シュウイ」(すぐれて立派なさま)「秀才シュウサイ」(①すぐれた学才、②中国の科挙の一種目) 

イメージ 
 「すぐれる・ひいでる」
(秀・誘)
 「抜きん出る」(透・莠)
 「形声字」(綉・銹)
音の分布  シュウ:秀・綉・銹  トウ:透  ユウ:誘・莠

すぐれる・ひいでる
 ユウ・さそう・いざなう  言部 yòu
解字 「言(ことば)+秀(すぐれる・秀でる)」の会意。たくみな言葉でさそうこと。
意味 (1)さそう(誘う)。いざなう(誘う)。「勧誘カンユウ」「誘導ユウドウ」「誘因ユウイン」 (2)おびき出す(誘き出す)。おびく(誘く)。そそのかす。「誘惑ユウワク」「誘拐ユウカイ

抜きん出る
 トウ・すく・すかす・すける  辶部 tòu
解字 「辶(ゆく)+秀(抜きん出る)」の会意。抜け出でてゆくこと。とおる・つきぬける意から転じて、すける・すきとおる意も生じた。
意味 (1)とおる(透る)。つきぬける。「浸透シントウ」 (2)すく(透く)。すかす(透かす)。すける(透ける)。「透明トウメイ」「透視トウシ」(すかして見る)「透写トウシャ」(すき写し)」「透徹トウテツ」(①すきとおること。②明晰であること)
 ユウ・ユ・はぐさ  艸部 yǒu
解字 「艸(くさ)+秀(抜きん出る)」の会意形声。作物の間から抜きんでてのびる雑草。
意味 (1)はぐさ(莠)。えのころぐさ。たのひえ。水田にはえる雑草。稲に似ているが、葉ばかりのびてみのらない雑草。「莠草ユウソウ」(はぐさ) (2)本物に似ているが役に立たない雑草から、まやかし。善に似ているが中身は悪なもの。「莠言ユウゲン」(まやかしのことば)「莠言ユウゲン自口ジコウ」(莠言は口(くち)自(よ)りす)〔詩経・小雅・正月〕

形成字
 シュウ・ぬいとり  糸部 xiù
解字 「糸(いと)+秀(シュウ)」の形声。シュウは繍シュウ(ぬいとり・ししゆう)に通じ、糸がついた綉は、ぬいとりの意。繍の画数を少なくするため同音の字に代えたもの。
意味 ぬいとり(綉)。ししゅう。(=繍)「刺綉シシュウ」(=刺繍)
 シュウ・さび・さびる  金部 xiù
解字 「金(金属)+秀(シュウ)」の形声。シュウは繍シュウ(ぬいとり・ししゆう)に通じ、金属の表面に刺繍のような模様ができる金属のさび。この解字でできた字に、 シュウがあるが、画数を少なくするため同音の銹シュウに代えたもの。
意味 さび(銹)。さびる(銹る)。空気や水にふれて金属の表面にできるさび。錆さび・ショウとも書く。「銹気シュウキ」(さびけ)「銹渋シュウジュウ」(さびつく)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「缶フ・カン」<胴がふくれた器>と「匋トウ」<缶を窯で焼く>「陶トウ」「淘トウ」「掏トウ」「萄トウ」

2024年01月21日 | 漢字の音符
 フ・ほとぎ  缶部 fǒu
           
 
缶(ほとぎ)[搜狗(Sogou)百科]より  
解字 甲骨文字は土器の一般像で、意味は祭器、祭祀名、地名など[甲骨文字辞典]とする。中国ネットの検索エンジン「搜狗(Sogou)百科」の説明では「古代の酒漿(漉す前の酒)を盛る瓦器。腹が大きく口が小さい。有るものは蓋(ふた)有り。銅製も有り」とある。甲骨文のタテ線上部のᐱは蓋を表しているのかも知れない。金文は口の上が午(杵の原字)に誤ったとされる[甲骨文字辞典]。篆文は下が口⇒凵になり、現代字は「午+凵」の缶になっている。誤った字が現在まで続いているのは珍しい。なお、酒をいれた缶(ほとぎ)は、宴会中に酔った参加者が棒で缶を叩きながら歌をうたうことがあり、楽器としても使われのちに四角い打楽器となった。
意味 (1)ほとぎ(缶)。酒や水をいれた土製や青銅製のうつわ。「缶偏ほとぎへん」(部首・缶の名称) (2)楽器として使う。「撃缶ゲキフ」(缶ほとぎを楽器のかわりにうって拍子をとる)
参考 缶は、部首「缶ほとぎ」になる。漢字の左辺に付いて、ふくれた器の意を表す。しかし、この部に属する字は少なく主なものは、旧字の罐(=缶)・缺(=欠)の2字しかない。

イメージ 
 「まるくふくれた器」
(缶・缶[罐])
音の変化  フ:缶  カン:缶[罐]

まるくふくれた器
[罐] カン・かま  缶部 guàn
解字 旧字は罐で「缶(まるくふくれた器)+雚(カン)」の形声。カンという名のまるい器。缶は、酒器・水器として用いられたが、罐カンは、甕(かめ)の類を指した。日本では、オランダ語でkanと発音する容器を表すために使われた。新字体は、旧字から雚を省略した。この結果、缶は本来の意味である「ほとぎ」以外にカンという発音と、土器以外の器という意味を獲得した。
意味 (1)かめ。水をいれる素焼きのかめ。(2)[国] かん(缶)。ブリキなどの金属製の容器。「缶詰カンづめ」「薬缶ヤカン」(もと薬を煎じるのに用いた容器。銅などで造った湯沸かし)(3)[国] かま(缶)。「汽缶キカン」(蒸気を発生させる缶。ボイラー)「缶焚(かまた)き」(ボイラーをたく人)「汽缶車キカンシャ」(蒸気機関車のこと)


    トウ <土器を作って窯で焼く>
 トウ  勹部 táo・yáo          

解字 金文は煙り出しのついたカマドに缶(ほとぎ)を入れた形で、窯で土器を焼くこと。篆文で「勹(つつむ)+缶(まるくふくれた土器)」の会意となった。勹は、ここではカマドを意味し、作った土器をカマドで焼くかたち。金文では人名および姓として用いられている(やき物を作る人や、その人々の姓の意か)。戦国期以降はやき物製作の意となっている。
意味 (1)やき物を焼く。 (2)やきもの(=陶)

イメージ 
 「土器を窯で焼く」
(陶) 
 「形声字」(淘・掏・萄)
音の変化  トウ:陶・淘・掏・萄

土器を窯で焼く
 トウ・すえ  阝部 táo・yáo
解字 「阝(丘)+匋(土器を窯で焼く)」の会意形声。丘に作った窯(穴窯や登り窯)で土器を焼くこと。丘につくった窯は、炎が下から上に流れ高温で焼けるため、土器はかたく焼き締まる。
意味 (1)すえ(陶)。やきもの。「陶器トウキ」「陶芸トウゲイ」「陶物すえもの」 (2)(窯で焼くと土がかたく締まることから)人を教え育てる。「陶冶トウヤ」(才能・素質を引き出し人材を育てる)「薫陶クントウ」(立派な人の薫りが人を育てる) (3)たのしむ。うっとりする。「陶酔トウスイ」「陶然トウゼン

形声字
 トウ・よなげる  氵部 táo
解字 「氵(みず)+匋(トウ)」の形声。[正字通]に「米を淅(あら)うなり」とあり、米を淘(と)ぐことをいう。また砂金などを流し洗いしてより分けることを淘汰という。こまかい物を水中でゆり動かし良い物と悪い物を選び分けること。
意味 (1)よなげる(淘げる)。米をとぐ。すすぐ。よりわける。「淘金トウキン」(砂金を水でよりわける)「淘汰トウタ」(よりわけて不要のものを除く。汰も水で洗ってよりわける意)「自然淘汰シゼントウタ」(自然界で適応する生物は生き残り、しないものは滅びること)
 トウ・する  扌部 tāo
解字 「扌(手)+匋(=淘。よりわける)」の会意形声。手で大事なもの(財布など)を選り分けて抜き取ること。
意味 する(掏る)。すりとる。人が身につけているお金を手探りして抜き取ること。「する」の日本語は「擦る(こする)」に由来する。「財布を掏(す)る」「掏児すり
 ドウ・トウ  艸部 táo
解字 「艸(草木)+匋(トウ)」の形声。草木の名でトウ・ドウの音を表す字として用いられる。
意味 果樹の「葡萄ブドウ」に用いる字。葡萄は蔓性の落葉低木の果樹およびその果実をいう。西域から中国に伝わり、西域の言葉のbudawを音訳したもの。「葡萄酒ブドウシュ」「葡萄色ブドウいろ」(赤みがかった紫色)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「荅トウ」<トウの音>「塔トウ」「搭トウ」「鞳トウ」 と「答トウ」「箚トウ・サツ」

2024年01月19日 | 漢字の音符
  増補しました。
 トウ   艸部 dá・dā              

解字 「艸(草)+合(あわさる)」の会意。さやの合わさった草である、さやまめの意から、小豆の意味がある。後漢の[説文解字]は、「小尗シュク(小豆)也。艸に従い合の声。発音はトウ(都合切)」とする。また、同音である答トウ(こたえる)と同じ意味で使われる。しかし、単独ではほとんど用いられず、トウの発音を生かして音符として使われる。
意味 (1)あずき(荅)。小豆。「荅菽トウシュク」(小豆) (2)こたえる。(=答) (3)あう。あわせる。

イメージ 
 「あずき」
(荅) 
 「形声字」(塔・搭・鞳・剳)
音の変化  トウ:荅・塔・搭・鞳・剳

形声字
 トウ  土部 tǎ
解字 「土(つち)+荅(トウ)」の形声。トウは、土などでできた仏舎利塔(釈迦の供養塔)である梵語のstupa(ストゥーパ)の音訳字「卒塔婆ソトウバ」に用いられる字。
意味 (1)[仏]仏の骨を納める高い建物。「卒塔婆ソトウバ・ソトバ」(①仏塔。②墓に立てる上部を塔形にした細長い板)「仏塔ブットウ」「宝塔ホウトウ」(仏塔のひとつ。円筒形の塔身に方形の屋根をもつ塔) (2)(仏塔が楼閣建築となったことから)高くそびえる建造物。「鉄塔テットウ」「尖塔セントウ
 トウ・のる・のせる 扌部 dā
解字 「扌(手)+荅(トウ)」の形声。手で積み込む動作をトウという。[常用字解]によると「古い用例はなく、宋代の詩に『肩に道衣を搭(か)けて帰る』の句があり、肩に手でうちかける動作をいう」とある。転じて現在は、手で荷物を持ちあげて積み込むこと、また積み込んでのる意に用いる。
意味 (1)のせる(搭せる)。のる(搭る)。積み込む。積み込んでのる。「搭載トウサイ」(積み込む)「搭乗トウジョウ」(船や飛行機にのる) (2)かける。つるす。「搭鉤トウコウ」(鉤かぎにかける。僧侶が衣鉢袋を僧堂の鉤に掛けること。転じて、僧が一寺にとどまり修行すること)
 トウ  革部 tà
解字 「革(かわ)+荅(トウ)」の形声。鼓(つづみ)の革から出る音をトウという。[説文解字]に「鐘鼓の聲(音)なり」とあり、鐘をうつ音である鏜トウと併用して、鐘鼓の音、その擬声語として用いる。
意味 鐘鼓の音、その擬声語。「鏜鞳トウトウ」(かねやつづみを打つ音の形容)
 トウ・さす  刂部
解字 「刂(刀)+荅(トウ)」の形声。刀で刺すことをトウという。転じて、突きさしてとめることをいう。
意味 (1)さす(剳す)。つきさしてとめる。動かないようにとめる。 (2)鐮刀(鎌かま)。

    トウ <あう・一致する>
 トウ・こたえる・こたえ  竹部 dá
解字 「竹(たけ)+合(一致する)」の会意。合は一致する意があり、相手から質問されたとき「トウ」(合っている)と返事したことから、答える意味があった。それに竹や艸をつけた答・荅も「こたえる」意味をもつが、主に答が使われる。
意味 (1)こたえる(答える)。応ずる。報いる。「答弁トウベン」「応答オウトウ」「答申トウシン」 (2)こたえ(答)。返事。「回答カイトウ」「名答メイトウ
イメージ
 「こたえる」(答)
 「形声字」(箚)
音の変化  トウ:答  トウ・サツ:箚
形声字
箚[劄] トウ・サツ  竹部 zhá
解字 「刂(かたな)+答(トウ=剳トウ。さす)」の形声。箚トウは剳トウ・さすに通じる。刀で刺すことを箚トウという。サツの音は慣用音。劄は異体字。箚サツは申しぶみの意味に使うことが多く冊子サッシ(とじほん)の意味からか。
意味 (1)さす(刺す)。「箚青トウセイ・サッセイ」(いれずみ。=刺青) (2)申しぶみ。突き刺してとめておく文書。下の者から上の者に差し出す文書の一種。「箚子サッシ・トウシ」(官府で用いる上奏などの文書)「駐箚チュウサツ」(外交官などが任務のためにしばらく外国に滞在すること。駐在して文書を差し出す。) (2)書き記す。ある事柄の感想文。「箚記サッキ・トウキ」(書物を読んだ感想を随時書き記した物。感想文)「洗心洞箚記センシンドウサッキ」(洗心洞[大塩平八郎の塾]の読書ノート)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「冘イン・チン」 と 「沈チン」「枕チン」「鴆チン」「耽タン」「酖タン」「眈タン」

2024年01月16日 | 漢字の音符
 イン・(チン)・ユウ  冖部 yín・yóu
 

上は冘イン、下は沈チン          
解字 冘インについて[説文解字]は「人が 冂ケイ(境界)を出づるに従う」とし「冘冘インインとして行く皃(かたち)なり」(人がゆく・すすむ)とする。
意味 (1)ゆく。すすむ。 (2)「冘予ユウヨ」(ぐずぐずするさま=猶予) (3)冘(イン⇒タン)の変化で音符「冘タン」になる。
冘インの原字は金文からある
 下段・沈チンの甲骨文字は犠牲の牛を水中に沈める祭祀儀礼だが、金文から水の横に冘インの原字らしきものが出現している。しかし、この形が何を表すのかはっきりしない。篆文にいたり冘ははっきりした形となり、後漢の[説文解字]は冘の単独の意味を「行く皃(かたち)」とするが、著者の許慎は金文を見てないと思われ、この解字は信頼できない。そこで私は冘インを発音を表す音符と解釈したい。

イメージ 
 「チンの音」(沈・枕・鴆) 
 「タンの音」(耽・酖・眈)
音の変化  チン:沈・枕・鴆  タン:耽・酖・眈

チンの音
 チン・ジン・しずむ・しずめる  氵部 shěn・chén

解字 甲骨文第一字は、両側に水、中央に牛を描いた形であり[甲骨文字辞典]は、犠牲の牛を水中に沈める祭祀儀礼を表すとし、第二字は牛を上下逆向きにして水中に落とす様を表す、とする。金文は水の横に人のような姿にH印をつけた冘インの初形になり、篆文で「水+冘」が確立し、水⇒氵に変化した隷書をへて現代の沈となった。この字は牛を水中に沈める形から沈める意であるが、金文で牛⇒冘に変化しており、冘は発音を表す音符となっており、沈の意味は国名・人名となっている。のち[詩経·小雅](春秋時代)で「楊の舟、載(すなわ)ち沈み載ち浮かぶ」と沈む意味で使われるようになった。ようやく甲骨文字の意味に元帰りした。
意味 (1)しずむ(沈む)。しずめる(沈める)。「沈没チンボツ」「沈香ジンコウ」(沈水香木の略。水に沈む比重の重い香木。ジンチョウゲ科の常緑高木の樹腋が固まり、バクテリアなどの働きによって芳香を放つもの。上質のものを伽羅キャラという)(2)思いにしずむ。「沈黙チンモク」「沈思黙考チンシモッコウ」 (3)おちつく。「沈静チンセイ」 (4)とどこおる。「沈滞チンタイ
 チン・まくら 木部 zhěn
解字 「木(き)+冘(チン=沈。しずめる)」の会意形声。寝るとき頭を沈める木製のまくら。
意味 (1)まくら(枕)。「枕元まくらもと」「枕頭チントウ」(まくらもと) (2)(枕は頭[先端]とともにあることから)[国]前置きの言葉。「歌枕うたまくら」「枕言葉まくらことば
 チン  鳥部 zhèn
解字 「鳥(とり)+冘(チン=沈。しずむ)」の会意形声。毒を体に沈殿させているという伝説の鳥。鴆はマムシを食ってその毒を体に蓄えているので、その羽を酒にひたすと激毒を得ることができるとされる。
意味 羽に毒がある鳥の名。「鴆毒チンドク」(鴆の羽にある猛毒。害毒)「鴆殺チンサツ」(鴆毒で人を殺す)「鴆酒チンシュ」(鴆の羽を酒にひたした毒酒)

タンの音
 タン・ふける・たれる  耳部 dān

解字 「耳(みみ)+冘(タン)」の形声。後漢の[説文解字]は「耳大きく垂れる也(なり)。耳に従い冘(タン)の聲(声)」とする。耳たぶが大きく垂れる形で、たれる意。転じて「ふける。夢中になる」意味ともなる。一般に、耳を立てるときは辺りに注意を払うが、耳を垂れる時は周りに注意を払わず自分のことに熱中する意となる。
意味 (1)たれる(耽れる)。耳が垂れさがっていること。「夸父コフ耽耳タンジ」(夸の父は耽れた耳をもつ。「淮南子・墬形」) (2)ふける(耽る)。夢中になる。「耽溺タンデキ」(不健全なことに夢中になる)「耽読タンドク」(書物を読みふける)「耽美タンビ」(美にひたる)
 タン・チン・ふける  酉部 dān
解字 「酉(さけ)+冘(=耽。夢中になる)」の会意形声。酒にふけること。
意味 (1)ふける(酖る)。酒におぼれる。「酖酖タンタン」(酒を飲んでたのしむ)「酖溺タンデキ」(酒におぼれる) (2)鴆酒チンシュのこと。鴆酒とは、身体に毒のある鴆チンの羽を酒にひたした毒酒。「酖酒チンシュ」(=鴆酒)「酖殺チンサツ」(鴆酒で人を殺す=鴆殺チンサツ
 タン・にらむ  目部 dān
解字 「目(め)+冘(=耽。夢中になる)」の形声。集中して見つめること。にらむ意となる。
意味 にらむ(眈)。ねらい見る。「眈眈タンタン」(ねらい見る。野心を以て機会をねらう)「虎視眈眈コシタンタン
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「是ゼ」 <さじ> と 「提テイ」「堤テイ」「醍ダイ」「題ダイ」「匙シ」

2024年01月15日 | 漢字の音符
 ゼ・シ・これ  日部

解字 金文第一字はサジの柄を手でもつ形に、発音を表す「止」をつけた字。上部の丸印に点は、サジの先のすくう部分をあらわしている。金文第二字は、サジを手にもつ形⇒早に似た字に変化し、そこに止がつく。金文は、シの発音から仮借カシャ(当て字)され、この・これ、の意(=之。此)。篆文は、匙(さじ)のすくう部分が「日」の形で独立し、残りが止と合体して正(一+龰)と同じ形となった。現代字は、これを引き継ぎ「日+正(一+龰)」の是となった。 音符「正セイ」 を参照。
 [説文解字](後漢)は、この「日+正」の部分を、「直(ただ)しき也(なり)。日と正に従う」とし、[同注]は「天下の物、日より正しきは莫(な)き也(なり)」と解釈して、是非ゼヒの是(ただしい)とした。しかし、もとがサジの形から変化した字なので、この解釈は無理がともなう。
 私がヒントになったのは「牛耳を執る」という言葉である。これは「左伝」(哀公17年)にあり、春秋戦国時代の中国で諸侯の会盟(相会して盟約を行なう)に際して、盟主が牛の耳を執って裂き、其の血をすすって誓い合ったという故事から同盟の盟主となることを言う。しかし、「牛の耳を執って裂き、其の血をすする」というのは、かなり大雑把な表現である。正確には牛の耳の一部を切り、そこから出る血を器にいれ諸侯に回して血を飲ませたのであろう。諸侯は器に口をつけて血を飲むのでなく是(さじ)ですくって少し口に入れたのではないだろうか」。盟約をするときサジにすくった血を飲むことは、盟約が、ただしい・ただしいと認める意となり、ぴったり意味があう。これは私の仮説である。
 なお、指示を表す「これ・この」の意は、仮借カシャ(当て字)の用法である。発音は、シから転音したゼが、ただしい意を表すため用いられる。
意味 (1)ただしい。ただしいと認める。「是認ゼニン」「是非ゼヒ」(よしあし) (2)よいとして定めた方針。「国是コクゼ」「社是シャゼ」 (3)真実。まこと。「求是キュウゼ」(誠・真実を求める)「 実事求是ジツジキュウゼ」(事実の実証に基づいて物事の真理を追求すること) (4)これ(是)。この。指示代名詞。「色即是空シキソクゼクウ」(色とは即ちこれ空なり)

イメージ 
 「ただしい(仮借)」
(是)
 本来の意味である「さじ」(提・堤・匙)
 「形声字」(醍・題)
音の変化  ゼ:是  シ:匙  テイ:提・堤  ダイ:醍・題

さじ
 テイ・チョウ・さげる  扌部
解字 「扌(手)+是(さじ)」の会意形声。サジをもった手を、すくう物にまっすぐのばすこと。手をさしだす意。転じて、手にさげて持つ意ともなる。
意味 (1)さし出す。かかげる。「提出テイシュツ」「提案テイアン」「提唱テイショウ」 (2)さげる(提げる)。手にさげて持つ。「提げ重さげじゅう」(手にさげて持ち運べる重箱)「提灯チョウチン」(手にさげて持つ灯り) (3)先に立って指導する。「提督テイトク」(艦隊の司令官)
 テイ・つつみ  土部
解字 「土(つち)+是(=提。まっすぐのばす)」の会意形声。まっすぐのびている土のつつみ。発音辞典の[正韻]は「土を築いて水を遏(とど)めるを堤と曰(い)う。音は底テイ」とする。
意味 つつみ(堤)。土手。「堤防テイボウ」「突堤トッテイ」(突き出た堤防)「防波堤ボウハテイ」「築堤チクテイ
 シ・ジ・さじ  ヒ部 

高麗時代の青銅匙(古美術・骨董店の写真から)
写真の「匙を手にもつ形」は是の金文第一字と同じである。
解字 「ヒ(さじ)+是(さじ)」の会意形声。是は、さじを表した象形文字であるが、仮借カシャ(当て字)して「ただしい・これ・この」の意に使われる。本来のさじの意を表すためにヒ(さじ)と組み合わせた匙の字が作られた。日本語の「さじ」は茶匙サジからきている。 
音符「ヒ(さじ)」 を参照。
意味 (1)さじ(匙)。液体や粉末をすくいとる道具。スプーン。「薬匙ヤクジ・やくさじ」(粉末状の薬をすくいとる匙)「匙加減さじかげん」(薬を調合する際の加減。状況に応じた手加減)「茶匙サジ・ちゃさじ」「小匙こさじ」 (2)匙形の鍵(かぎ)。「鑰匙ヤクシ」(鑰も匙も、かぎの意)「匙匣シコウ」(はこのかぎ)

形声字 
 ダイ・テイ  酉部
解字 「酉(さけ)+是(シ・ゼ⇒ダイ)」の会意形声。[説文解字]は「清酒也(なり)。酉(さけ)に従い是(ダイ)の聲(声)」とし、澄んだ酒とする。醍醐ダイゴに用いられる字。
意味 (1)醍醐ダイゴに用いられる。醍醐とは、牛乳・羊乳を精製した甘く濃厚な液汁で、最高の美味とされる。醐は、「酉(発酵する)+胡(表面をおおう)」で、発酵した牛乳の表面に浮き出たクリームの層をいう。「醍醐味ダイゴミ」(①最上の味。②本当のおもしろさ。③仏教の最高真理の教え)(2)地名。「醍醐ダイゴ」(京都市伏見区の地名。醍醐寺がある)
 ダイ  頁部
解字 「頁(頭部)+是(シ・ゼ⇒ダイ)」の形声。[説文解字]は「額(ひたい)也(なり)。頁に従い是ダイの聲(声)」とし、ダイという名の頭部の「ひたい(額)」を言う。是シ・ゼに醍ダイの音がある。額(ひたい)は顔の中央正面にあることから、書物の最初のページに記す題字、さらに詩歌や文章の内容を一言で表す題名などの意となる。
意味 (1)ひたい(題)。額(ひたい) (2)巻物や書物の巻頭にしるす文字。また、詩歌・文章・美術作品等でその主意を示すもの。「題字ダイジ」「題名ダイメイ」「表題ヒョウダイ」「画題ガダイ」 「題跋ダイバツ」(書物の初めの文と終わりの文)(3)問い。解決を求められる事柄。「問題モンダイ」「議題ギダイ
<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「智チ」 と 「知チ」 <智が先にできた字>「痴チ」「踟チ」「蜘チ」

2024年01月13日 | 漢字の音符
智が先にできた

 
上は「智」、中は「知」、下は「矢」
解字 甲骨文はネットの「漢典」に掲載されている字で「〒+口+矢の変形」で構成されている。〒は示の甲骨文であり神を示す意の字。「〒+口」は、神に口で祈る意となる。矢の変形を矢と解釈すると、矢をそなえて祈る形となる。甲骨文の意味は不明だが、武具である矢は、願い事をするときの手段として使われることがあり(例えば「医」)矢が願い事をかなえる道具と意識されていたのかもしれない。
 金文は「大+口+于+曰(いう)」の形。甲骨文の矢の変形とされた字は、ここで大になっている。また〒⇒于になり、さらに曰が下部に付いた。〒⇒于の変化は後の篆文で〒とほぼ同じ形になっていることから、于=示の意味でよいと思われる。金文の意味は①聡明、②知る、③姓、である。この意味から金文を解釈すると、「人(大)が口で神(〒)に祈り(曰)、神の啓示を知ったので聡明だ」となる。
 篆文は、大⇒矢、曰⇒変形となり、楷書は曰の変形⇒日となり、〒の変形が取れた智になった。何故篆文で大⇒矢への変化が起こったのか。その理由は甲骨文字が矢の変形字であり、もともと矢を用いていたが金文でのみ大に変化したのではないか思われる(金文と時代が近い戦国期の智は矢が用いられている字が多い)。
 一方、下欄の知は、篆文から出てきた字で、智の下部を省略した形。智と同じ意味を表すが、のちに、智は、かしこい・さとい等、頭のはたらきがよい意味に限定されるようになり、知は、知る・知らせ・知り合うなどの意味が中心になった。
 チ・しる・しらせる  矢部   
意味 (1)しる(知る)。さとる。わかる。「知覚チカク」「知識チシキ」「知性チセイ」 (2)ちえ。物事を考える能力。「知力チリョク」「機知キチ」 (3)しらせる(知らせる)。しらせ。「通知ツウチ」「告知コクチ」 (4)しりあう。しりあい。「旧知キュウチ」「知遇チグウ」(知見を認めた上での厚い待遇) (5)つかさどる。おさめる。「知行チギョウ」(土地を治める。支配する)「知事チジ
 チ・さとい  日部    
意味 (1)ちえ。頭のはたらき。物事を知り分ける能力。「智恵ちえ」(すぐれた心の動き)「才智サイチ」(才能と智恵) (2)さとい(智い)。さとる。かしこい。賢人。「智者チシャ」「智能チノウ」(=知能)「智謀チボウ

イメージ 
 神の真意を「知る・さとる」(知・智・痴)
 「形声字」(踟・蜘)
音の変化 チ:知・智・痴・踟・蜘

知る・さとる
[癡] チ・おろか  疒部
解字 旧字は癡で「疒(やまい)+疑(うたがう)」の会意。疑い深くなることが病的になること、おろか・くるう意となる。なお、癡は仏教用語として悟りをさまたげる三つの煩悩である「三毒」(貪ドン(貪欲ドンヨク)・瞋シン(瞋怒シンド・いかる)・癡)の一つとされ、 癡は妄想 、混乱、鈍さを指す。発音のチを借りた痴は癡の俗字であったが、常用漢字として用いられるようになった。あえて痴を解字すると「疒(やまい)+知(知る・さとる)」の会意形声。病にかかったように、知る・さとることができなくなる意となる。
意味 (1)おろか(痴か)。たわけ。おろかもの。しれもの(痴れ者)。「痴人チジン」「痴態チタイ」「痴呆チホウ」 (2)色情に迷う。「痴漢チカン」「痴情チジョウ」「痴話チワ」 (3)一つのことに夢中になる。「書痴ショチ」 (4)[仏教]悟りをさまたげる三つの煩悩である三毒のひとつ。痴(ち)は、無知や誤解、妄想などの心の状態を表す。

形声字
 チ  足部
解字 「足(あし)+知(チ)」 の形声。踟は「踟躕チチュウ」「踟躇チチョ」など、二字連文として使われる字で、同じ意味を表す「躊躇チュウチョ」の「躊チュウ」と最初の音が同じことから、躊チュウ(ためらう・たちもとおる)の意味で使われた。
意味 (1)たちもとおる。いきつもどりつする。「踟躕チチュウ」(たちもとおる)「踟躇チチョ」(いきつもどりつする)(2)とどまる。
 チ  虫部
解字 「虫(むし)+知(チ)」の形声。チは踟(いきつもどりつする)に通じ、クモの巣の上でいきつもどりつする虫のクモをいう。
意味 「蜘蛛チチュウ・くも」に用いられる字。蜘蛛は、発音が同じ「踟躕チチュウ」(たちもとおる。いきつもどりつする)を知と朱に虫をつけて表し、巣の上でいきつもどりつするクモを表した字。「蜘蛛手くもで」(蜘蛛の足が八方に出たような形)「蜘蛛の巣」(蜘蛛の掛けた網)「蜘蛛膜くもまく」(脳を包む膜のひとつ。蜘蛛の巣のような模様が見られることから)
覚え方 「虫+知(ちえ)」で、精巧な網を張る知恵のある虫。
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする