漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「川セン」「巡ジュン」「順ジュン」「訓クン」「災サイ」と「州 シュウ」「酬シュウ」

2015年12月30日 | 漢字の音符
「川セン」「州 シュウ」の甲骨文字をみると、いずれにも水の流れが描かれている。この二文字は水の流れでつながっている。

  川 セン <川の流れにしたがう>
 セン・かわ  川部             

解字 水の流れる形の象形。「かわ」を表わす。甲骨文では川の流れを示す点々が見える。川は部首となり、また音符にもなる。
意味 かわ(川)。かわの流れ。「川上かわかみ」「小川おがわ」「川面かわも」「河川カセン

イメージ  
 「かわ」(川・巡・圳)
 川の「流れに沿う」(順・訓・馴)  
 川が溢れる意から「わざわい」(災)
 「形声字」 (釧)
音の変化   セン:川・釧・圳  ジュン:巡・順・馴  クン:訓  サイ:災

か わ
 ジュン・めぐる  辶部
解字 「辶(ゆく)+巛(かわ)」の会意。この川は田畑のみぞの意(常用字解)。みぞ(水路)に沿って小舟などで耕作地をめぐること。
意味 めぐる(巡る)。(1)みてまわる。「巡視ジュンシ」「巡回ジュンカイ」(2)まわり歩く。「巡業ジュンギョウ」「巡礼ジュンレイ
 セン  土部
解字 「土(耕作地:田)+川(かわ)」の会意形声。耕作地(田)の中の水路の意。また、水路の走る田を意味する地名。中国南部の福建省・広東省などに多い。
意味 (1)田の水路。(2)地名。「深圳シンセン」(田に深い水路のある地を表した地名。広東省南部、香港の北に隣接する都市。当初は文字通り水路の走る田園がひろがる農村だったが、香港と隣接するため国境の町として栄えるようになり、さらに改革開放が始まると真っ先に経済特別区になり(1980年)外国資本の進出によって商工業が発展した新興都市)

流れに沿う
 ジュン・したがう  頁部
解字 「頁(あたま)+川(流れに沿う)」の会意形声。あたま・からだが流れに沿うこと。流れに逆らわないこと。
意味 (1)したがう(順う)。すなお。「順応ジュンノウ」「従順ジュウジュン」 (2)都合がよい。「順調ジュンチョウ」「順当ジュントウ」 (3)道筋や次第。「順序ジュンジョ
 クン・おしえる・よむ  言部 
解字 「言(いう)+川(流れ)」の会意形声。物事のすじ道(流れ)を言い聞かせること。
意味 (1)おしえる(訓える)。おしえ。さとす。「訓育クンイク」「家訓カクン」「訓戒クンカイ」(教えさとし、いましめる) (2)よむ(訓む)。古典の文をおしえる(訓える)とき、現在の言葉で解釈すること。「訓釈クンシャク」(字義をときあかす) (3)くんよみ(訓読み)。漢字に当てた日本語のよみ。「訓読クンドク」(①漢字の日本語読み。②漢文を日本語の語順で解釈して読む)「字訓ジクン」(漢字のくんよみ)
 ジュン・なれる・ならす  馬部
解字 「馬(うま)+川(=順。したがう)」の会意形声。馬が飼い主にしたがうこと。
意味 (1)なれる(馴れる)。ならす(馴らす)。「馴化ジュンカ」「馴致ジュンチ」(なれさせる)「馴染(なじ)む」 (2)おとなしい。すなお。

川が溢れる
 サイ・わざわい  火部
解字 「火+巛サイ」の会意形声。巛サイは、もと「巛(水流)+一」で、巛の中央に一線を引いた字。水流がふさがれて溢れる水害を表わし「わざわい」の意。これに火のついた災は、火のわざわいの意だが、ひろく「わざわい」の意となる。  
意味 わざわい(災い)。よくない出来事。「災害サイガイ」「震災シンサイ」(地震の災害)「災禍サイカ」(災も禍も、わざわいの意)
<参考> 災は、ほのおが燃える形ではない。ほのおは炎エンであらわす。

同音代替
 セン・くしろ  金部
解字 「金(金属)+川(セン)」の形声。センは穿セン(穴をあける)に通じ、穴があいた金属の輪の意で、腕輪のこと。
意味 (1)うでわ。くしろ(釧)。腕にはめる飾りの輪。「釧くしろ着く」(枕言葉。手節たふし[手の関節の意から手首・腕の意]にかかる)(2)地名。「釧路くしろ」(北海道の地名。腕輪の意でなく、アイヌ語の発音に当てた)


   シュウ <川のなかす>
 シュウ・す  川部           

解字 川の中になかすのできたさまを描いた象形。砂地(なかす)の周囲を水が取り巻くことを示す。水流によって自然に区画されている地域をいう。
意味 (1)す(州)。川のなかす。「三角州サンカクス」「中州ナカス」 (2)大きなしま。「本州ホンシュウ」「神州シンシュウ」 (3)昔の行政区画。「九キュウシュウ」「信州シンシュウ(長野県の昔の呼び名)「州司シュウシ」(州の役人) (3)大陸。「欧州オウシュウ

イメージ  
 「なかす」
(州・洲)   
 「形声字(シュウ)」(酬)
音の変化   シュウ:州・洲・酬

なかす
 シュウ・す・しま  氵部
解字 「氵(水)+州(なかす)」の会意形声。水に取り囲まれた中州。州が行政区画の意味に使われたので、水を付けて本来の意味を強調した字。しかし、現代表記では州に書きかえるので、ほとんど使われない。
意味 (1)す(洲)。しま(洲)。「中洲なかす=中州」 (2)大陸。「五大洲ゴダイシュウ=五大州」

形声字(シュウ)
 シュウ・ジュ・むくいる  酉部
解字 「酉(さけ)+州(シュウ)」の形声。シュウは壽シュウ・ジュ(長く続く)に通じ、主客の酒杯のやりとりが長く続くこと。転じて、盃を返す、むくいる意となる。「酉(さけ)+壽」のシュウ・ジュは酬の異体字で同字。
意味 (1)むくいる(酬 いる)。「応酬オウシュウ」(相手の動作に応じて動作を返す) (2)むくい(酬 い)。お返し。「報酬ホウシュウ」(労働の対価として払われる金品)
<紫色は常用漢字>

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「早ソウ」 「艸ソウ」 「草ソウ」 の関係

2015年12月17日 | 漢字の音符
 「早ソウ」は夜明けの意、「艸ソウ」は、くさの意。この二つがなぜ一緒になって「草ソウ」ができたのか。

           ソウ <朝はやい>
 ソウ・サッ・はやい・はやまる・はやめる  日部           

解字 戦国古文(戦国時代に使われた字体。篆文の前の文字)は、「日(太陽)+十(こうら)」で、現代字と同じ早である。篆文は、十の部分が、Tに帽子をかぶせたような形に変化し、現代字は、再び戦国古文と同じ早となった。十は、こうら(甲羅)なので、解字は「日(太陽)+十(=甲:こうら)」 の会意となる。
 この字の解字は、まだ定まっていないようで、字典によりさまざまな解釈がある。中には全体をサジ(スプーン)の形だとし、はやい意は仮借カシャ(当て字)とする説もある(字統)が、これは無理がある。日の下部が甲であることは字形からも間違いない。
 解字の一つは、甲が甲乙丙~と続く十干の最初の文字であることから、甲を第一段階と位置付け、日(太陽)が昇ってくる最初の段階、すなわち、まだ日が昇るまえの夜明けを意味する、というものである。この説は覚えやすいし、それなりに説得力もある。しかし、こうした解字は甲の付く他の字では見当たらない。
 音符「甲」の一般的解字は、甲が甲羅であることから「かぶせる・おおう」イメージを使う。(音符「甲」を参照)。例えば、閘コウは、水門に板などをかぶせて水量を調節する閘門(水量を調整する水門)の意。匣コウ(はこ)は、「匚(はこ)+甲(かぶせる)」で、箱にふたをかぶせる意で、ふたのついた箱の意になる。そこで第二の解字は、かぶせるイメージを当てはめたもので、日(太陽)に甲羅をかぶせたように、日光がまだ直接差してこない夜明けの意となる。しかし、この解釈の難点は、甲羅をかぶせるならば何故甲が上にこないのか、ということだろう。しかし、閘の字は、門にかぶせるのに甲が門の中に入っているし、匣も、はこにかぶせるのに匚(はこ)の中に甲が入っているので、あまり気にしないでよいのかも知れない。
 以上、両説とも少し疑点の残る解字であるが、どちらがいいかは読者におまかせしたい。現在の字体は、篆文の、T字に帽子がかぶさったような形(甲)⇒十に変化した。ではなぜ、甲が現代字で十に変化したのだろうか。甲の古代文字をみてみよう。

甲骨文・金文第一字は、十の形をしている。これは亀の腹の甲に十字紋があることから甲羅を意味する。ところが篆文はT字に帽子がかぶさったような形に変形した。篆文の甲の部分が、「早」の字で十になったのは、古い字形に元返りしたかたちなのである。
意味 はやい(早い)。 (1)朝がはやい。よあけ。「早朝ソウチョウ」「早暁ソウギョウ」 (2)時期がはやい。「尚早ショウソウ」(いまだ早い)「早計ソウケイ」(はやまった計画。軽率な考え) (3)季節がはやい。「早春ソウシュン」「早稲わせ」(稲の品種のうち早く実るもの) (4)すぐに。「早急ソウキュウ」「早速サッソク


           ソウ <くさ>
 ソウ・くさ  艸部             

解字 草の芽生えである屮テツを二つ合わせた形。並び生える草を表す。「くさ」の意味で使われていたが、のち艸が草冠として使われるようになり、新たに草の字が作られた。
意味 (1)くさ(艸)。くさの総称。 (2)くさかんむり(草冠)。旧字では「十十」、新字体では「十十」の横線をつなげた「艹」で草の意味を表す。
 キ・くさ  十部

解字 屮テツ(くさ)を三つ重ねて、たくさんの草を表した形。広く草花を表す。字形は、屮が十に変化した、十が三つから、十に廾をつけた卉になった。
意味 くさ(卉)。草や花の総称。「卉服キフク」(草織りの衣。くず麻の衣)「花卉カキ」(くさばな。鑑賞のため栽培する植物)「花卉園芸かきえんげい」(観賞用植物の栽培またその産業)「卉木キモク」(草花と樹木)


          草の字の誕生
 ソウ・くさ  艸部

解字 戦国古文(篆文の前の字体)は、「艸(くさ)+早(ソウ)」 の形声。艸(くさ)はもともとソウと呼ばれており、草を表わしていた。艸が「くさかんむり」に専用されるようになったので、ソウという発音をもつ「早」を下に付けて「くさ」を表わした。つまり草冠となってしまった艸と区別するため、同音の早を付けた次第。篆文で早の字体が変化したが、現代字は戦国古文の艸が「くさかんむり」に変化した草になった。
意味 (1)くさ(草)。くさはら。「草原ソウゲン」「雑草ザッソウ」 (2)そまつな。草でできた。「草庵ソウアン」(草ぶきのいおり)「草屋くさや」(くさぶきの家) (3)くさわけ。はじまり。「草創期ソウソウキ」(初めて創ったころ) (4)したがき。「草案ソウアン」「起草キソウ
<紫色は常用漢字>

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