漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「蟲チュウ」<むし> と 「虫チュウ」「繭ケン」 

2022年08月29日 | 漢字の音符
 ヘビに似たヘビより小さな生き物がむしの原義
[蟲] チュウ・むし  虫部

解字 甲骨文は頭が丸くそこから長い胴がのび、先が曲がったへびの形を二匹えがく。その下は三匹のへびを描く。しかし[甲骨文字辞典]は、この字はへびを描いているのでなく、へびに似ているが相対的に小さなミミズやウジなどを描いているのであろう」とする。要するにヘビに似たヘビより小さな生き物が蟲むしの原義なのである。金文は先が矢印になったヘビらしきもの二つと三つになり、篆文は先が出るが後ろは丸みを帯びたヘビらしくないもの二つと三つになり、旧字は虫の字三つの蟲になった。
 蟲は当初、ヘビに似た小さな子虫から始まったがその後、意味が広がり動物の総称としても言うようになり、羽蟲は鳥、毛蟲は獣、甲蟲は亀、鱗蟲は龍、裸蟲は人、などとも言われる程、意味がひろがった。これは虫の部首に現れている。
 第二次大戦後の漢字簡素化(当用漢字表)により、蟲チュウ⇒虫となった。しかし虫はそれまで蟲とは別字で虫とよばれ蝮まむしの古字とされていた。それがチュウの発音となり、蟲の字が担ってきた役割をすべて引き受けることになったのである。
 虫は部首となり、また虫の意味で会意文字をつくるが、虫の音符字はほとんどない。わずかに「火蟲(これで一字)チュウ」(くすべる)という字があるが、現代の漢和辞典には入っていない。
意味 (1)むし(虫)。昆虫類の総称。小動物の総称。「虫媒花チュウバイカ」「毛虫ケムシ」「虫害チュウガイ」「益虫エキチュウ」「回虫カイチュウ」 (2)動物類の総称。羽虫は鳥、毛虫は獣、甲虫は亀、鱗虫は龍、裸虫は人。 (3)むし(虫)。子どもが起こす病気。「疳(かん)の虫」 (4)むし(虫)。ある事に熱中する人。「本の虫」
虫は部首「虫むし・むしへん」になる。部首としての役割が中心の文字。文字の左辺や下部に付いて、昆虫・爬虫類・貝類・いろんな動物などを表す。「新漢語林」では、313字が収録されている。主な字は以下のとおり。
常用漢字 10字
 チュウ・むし (部首)
 コウ・にじ(虫+音符「工コウ」)
 ケイ・ほたる(虫+音符「𤇾ケイ」
 サン・かいこ(虫+天の会意)  
 ダ・へび(虫+音符「它タ」)
 バン・えびす(虫+音符「䜌(亦)バン」
 ブン・か(虫+音符「文ブン」)
 ホウ・はち(虫+音符「夆ホウ」)
 ミツ(虫+音符「必ヒツ」)
 ユウ・とける(虫+鬲レキの会意)
常用漢字以外
 カ・かたつむり(虫+音符「咼カ」)
 ガ・が(虫+音符「我ガ」)
 カイ・かに(虫+音符「解カイ」)
 ギ・あり(虫+音符「義ギ」) 
 コウ・はまぐり(虫+音符「合コウ」)
 シツ・ひる(虫+音符「至シツ」)
 セン・せみ(虫+音符「単タン⇒セン」)
 チョウ(虫+音符「枼ヨウ⇒チョウ」)
 フク・まむし(虫+音符「复フク」)
 ワ・かえる(虫+音符「圭ケイ⇒ワ」)ほか
 
イメージ
 虫は音符字を作らず会意文字となる。 
 「むし」(虫・繭・蠱)
音の変化  チュウ:虫  ケン:繭  コ:蠱  

む し
 ケン・まゆ  糸部

解字 「桑の葉のかたち+糸+虫」 の会意。桑の葉を食べている虫が、糸を吐きだしてできるまゆ。
意味 まゆ(繭)。また、まゆからとった絹糸。「繭糸ケンシ」(きぬ糸)「繭玉まゆだま」(木の枝にまゆの形をした餅をつけた小正月の飾り物)
覚え方 くさ()かぶせ()いと()ひく()むし()がつくるまゆ
 コ  虫部
解字 「蟲(多くの毒虫)+皿(うつわ)」の会意。深い皿の中に多くの毒虫を入れて共食いをさせ、最後に残った虫が呪霊をもつとされ、この虫をつかって呪いをおこなった。まじない・まどわす意となる。
意味 (1)まじない。また、それに用いる虫。「巫蠱フコ」(巫女とまじないの虫) (2)まどわす。「蠱女コジョ」(人をまどわす女)「蠱媚コビ」(なまめかしくまどわす)「蠱疾コシツ」(精神錯乱の病気) (3)害する。「蠱毒コドク」(人を害すること。蠱も毒も害する意) (4)穀物につく虫。害虫。
<紫色は常用漢字>

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音符「析セキ」<さく・わける>と「淅セキ」「蜥セキ」「晰セキ」

2022年08月26日 | 漢字の音符
 セキ・さく  木部

解字 「木(き)+斤(おの)」の会意。斤(おの)で木を割ること。
意味 (1)わる。さく(析く)。わける。別々にはなす。「析薪セキシン」(薪をわる) (2)解く。分けて明らかにする。「分析ブンセキ」「解析カイセキ」(細かく分析して解く)

イメージ
 「わける」(析・淅・蜥)
 「わけて明らかにする」(晰・皙)
音の変化  セキ:析・淅・蜥・晰・皙

わける
 セキ・よなげる  氵部
解字 「氵(みず)+析(わける)」の会意形声。水に米を入れてかきまぜ、米についたほこりやごみを洗い流すこと。また、水でといだ米をいう。
意味 (1)よなげる(淅げる)。米をとぐ。「淅玉セキギョク」(といだ米) (2)かしよね。水でといた米。「淅米かしよね」 (3)川の名。「淅水セキスイ」(河南省に源を発し漢水に注ぐ川) (4)「淅淅セキセキ」とは、①風の音のさま。②鈴などの音のさま。「淅瀝セキレキ」とは、秋風や雨雪の寂しい音。
 セキ  虫部
解字 「虫(はちゅう類)+析(分ける・別々にはなす)」の会意形声。尻尾を切り離す虫。
意味 「蜥蜴とかげ・セキエキ」に使われる字。蜥蜴とは、爬虫類トカゲ亜目の総称。石竜子とも書く。尾を切り離して敵から逃げる。また、環境やストレスによって自身の体色を変える能力を持っている。蜴エキは、「虫+易(かえる)」で体の色を変える能力を持つトカゲの意。

分けて明らかにする
 セキ・あきらか  日部
解字 「日(ひ)+析(分けて明らかにする)」の会意形声。日の光の中で、分けて明らかにする意で、非常にはっきりしているさまを言う。
意味 あきらか(晰らか)。はっきりしているさま。「明晰メイセキ」(明らかではっきりしていいる)「頭脳明晰ズノウメイセキ」「晰晰セキセキ」(あきらか)「晰類セキルイ」(はっきりと分類する)
 セキ・しろい  白部
解字 「白(しろい)+析(=晰。あきらか)」の会意形声。あきらかに白い。特に、人の皮膚の色の白いことをいう。
意味 (1)しろい(皙い)。人の皮膚が白い。「白皙ハクセキ」(皮膚の色が白い。色白)「長身白皙チョウシンハクセキ」(背が高く色が白い)「皙種セキシュ」(白色人) (2)あきらか。「皙皙セキセキ」(あきらか)
<紫色は常用漢字>

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音符「戌ジュツ」<大きな刃で相手を圧倒する> と「威イ」「鰄イ」「滅メツ」「縅おどし」

2022年08月23日 | 漢字の音符
 鰄イ・かいらぎ、を追加しました。
   ジュツ <大きな刃で相手を圧倒する> 
 ジュツ・いぬ  戈部

解字 甲骨文字・金文ともにマサカリの大きな刃の部分を中心に描いた象形。篆文になりマサカリの下の刃が独立して一になり、現代字の戌になった。戌は大きな刃なので、これで「相手を圧倒する」イメージを持つ。元の意味に関係なく、十二支の11番目「いぬ」に仮借カシャ(当て字)された。
意味 いぬ(戌)。十二支の第十一。時刻では午後8時、およびその前後の2時間。方角では西北西、動物では犬に当てる。「戌亥いぬい」(方角で北西=乾)

十二支(「暮らし歳時記 十二支と方位」より)

イメージ 
 「いぬ(仮借)」
(戌)
 大きな刃で相手を「圧倒する」(威・縅・鰄・滅)
音の変化  ジュツ:戌  イ:威・鰄  メツ:滅  おどし:縅

圧倒する
 イ・おどす  女部  
解字 「女(おんな)+戌(圧倒する)」 の会意。女を刃物で圧倒する形で、おどす意。
意味 (1)おどす(威す)。おびやかす。「威圧イアツ」「威嚇イカク」 (2)いかめしい。「威厳イゲン」「威風イフウ」「権威ケンイ
<国字> おどし・おどす  糸部
赤糸威大鎧(岩槻の五月人形より)
解字 「糸+威(おどす)」の会意。よろいのサネ(鉄や革の小片)を糸(=緒お。ひも)で通す「おどし(緒通し)」の作業、および通した糸をいう。「緒通し(おどし)」を「威し」に当てて作った国字。なお、糸をつけず威だけで表記することもある。
意味 おどし(縅)。おどす。よろいのサネ(鉄や革の小片)を糸(緒)または細い革でつづり合わせること。「赤糸縅あかいとおどし鎧」(あかね染めの糸で縅した鎧よろい)「韋縅かわおどし」(鹿の皮の紐を使って縅した)
 イ・かいらぎ  魚部
解字 中国では「古書上に見える魚の名」であるが、日本で独特の意味に発展した。「魚(さかな)+威(おどす)」の会意形声。魚の背に周囲をおどすように突起上の帯をもつサメの一種。このサメ皮は梅の花の模様に見えるので「梅花皮(かいらぎ)」といい、古くから刀剣の鞘(さや)や柄(つか)に巻かれて装飾品となった。

左は、かいらぎ皮。右は、黒塗りして研ぎだした刀の鞘

梅花皮の原皮。これまでサメ皮とされてきたが、鱏エイ(ray)の仲間とのこと。
以上の写真は、「Yoshimasa Iiyamaのブログ」から引用させていただいた。
掲載の承諾を得ようとメッセージを送ったのですが、うまくつながりませんでした。すみません。
意味 (1)中国で古書にみえる魚の名。 (2)[日本]かいらぎ(鰄)。サメ皮の一種とよばれてきた梅花形の突起状のある皮。刀の柄や鞘を包む装飾に用いる。 (3)[日本]かいらぎ(鰄)。茶道で井戸茶碗のうわぐすりのちぢれた模様をいう。
「かいらぎ」の語源 室町時代の辞書『節用集』に、「海かい刀鞘」「鰄同」とある(同上ブログによる)。「海にすむ乱暴者の鬼」のような魚、と解釈すると「魚+威(おどす)」という解字と合うような気がします。

 メツ・ほろびる・ほろぼす  氵部
解字 「氵(水)+火+戌(圧倒する)」 の会意。水をかけて火を圧倒する意。転じて、きえる・ほろびる意となる。
意味 (1)きえる。火や明かりが消える。「点滅テンメツ」 (2)ほろびる(滅びる)。ほろぼす(滅ぼす)。「滅亡メツボウ」「絶滅ゼツメツ」「滅菌メッキン」 (3)死ぬ。「入滅ニュウメツ
<紫色は常用漢字>

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音符「或ワク」<城壁都市を武器で守る>「国[國]コク」「域イキ」「惑ワク」

2022年08月19日 | 漢字の音符
  彧イクを追加しました。
 ワク・ある・あるいは  戈部 

解字 金文第一字は「口(城壁)+周囲に四本の線+戈(ほこ)の略体」の会意。口は城壁に囲まれた城郭で、その外側の周囲の線は領域の範囲を示す。城郭を中心に武器の戈で守られた領域を示す。第二字は口(城壁)をかこむ線が上下の二線に簡略化された。篆文は、線が下に一つとなり、口の上に正式な戈を描く。これは城壁都市を周辺の領域線で軍隊が守る形で、古代の國(国)を表しており國の原字。
 意味は古代の国を表したが、のち域と國の字に分かれると本来の意味を失い、或は「ある」「あるいは」の意味に仮借カシャ(当て字)された。
意味 (1)ある(或る)。「或る日」「或る人」(2)あるいは(或いは)

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 「仮借(当て字)」(或)
 「領域を武器で守る」(国[國])
 「境界を区切る」(域・彧・惑・馘・閾)
 「その他」(摑)
音の変化  ワク:或・惑  イキ:域・閾  イク:彧  カク:馘・摑  コク:国[國]
 
領域を武器で守る    
[國] コク・くに  囗部
解字 旧字は國で「囗(大きなかこい)+或(領域を武器で守る)」の会意で、城壁都市を中心に武力が及ぶ地域を含んだ大きな國の意。古代の小さなくにが、統合されて大きな國が成立した。新字体は或ワクを玉に置き換えた。玉が入った国は、玉座に座る皇帝が治める国の意。
意味 (1)くに(国)。一つの政府に属する社会。「国民コクミン」「国家コッカ」 (2)日本。「国学コクガク」「国字コクジ」 (3)昔の行政区画の一つ「国司コクシ」「国府コクフ

境界を区切る
 イキ・さかい  土部
解字 「土(土地)+或(境界を区切る)」の会意形声。境界を区切った土地。
意味 (1)さかい(域)。土地の区切り。「区域クイキ」「域内イキナイ」「地域チイキ」 (2)くに。国土。「領域リョウイキ」「異域イイキ」(異国) (3)限られた範囲。「声域セイイキ」「聖域セイイキ
 イク・うつくしい 彡部
解字 「彡(いろどり)+或(境界を区切る)」の会意形声。彡を強調するため或の戈はノが略されている。彩り豊かな美しい地域。郁イク(香気の盛んなさま)の通用字として知られる。
意味 (1)盛んに茂る。「彧彧イクイク」(盛んにしげる。物事がさかん。=郁郁)(2)うつくしい。あや。かざり。文章のあるさま。「彧文イクブン」(文化が盛ん) (3)郁と通用する。 
 ワク・まどう  心部
解字 「心(こころ)+或(境界を区切る)」の会意形声。境界を狭く限定され、自由にやろうとしていた心がとまどうこと。
意味 (1)まどう(惑う)。まどわす(惑わす)。とまどう。「迷惑メイワク」「幻惑ゲンワク」「不惑フワク」 (2)うたがう。「疑惑ギワク」 (3)「惑星ワクセイ」とは、天球上で動かないようにみえる恒星の付近をとまどうように動いている星の意。遊星ともいう。実際は、恒星の周囲を規則的に公転している。太陽系では水星・金星・地球などの総称。⇔恒星。
 カク・くびきる  首部
解字 「首(かしら)+或(境界を区切る)」の会意形声。首(かしら・あたま)を境界で区切ること。すなわち、頭からはみ出ている耳を切ること。のち、首(かしら)全体を切る意となった。
意味 (1)耳を切る。敵を殺した証拠に耳を切ること。「馘耳カクジ」(耳を切る) (2)くびきる(馘る)。首を切る。「馘首カクシュ」(首を切る。解雇する)
 イキ・ヨク・しきみ  門部
解字 「門(もん)+或(枠を区切る)」の会意形声。門で区切られ、外と内を分ける境の横木をいう。
意味 (1)しきみ(閾)。しきい(閾)。「行くに閾(しきい)を履(ふ)まず[論語]」 (2)くぎる。くぎり。「識閾シキイキ」(意識が生じるのと消えるのとの境界)「閾値イキチ」(境目となる値)

その他
摑[掴]カク・つかむ  扌部
解字 「扌(て)+國(カク)」の形声。中国で古く「打つ」意で使われた字。日本では攫カク(つかむ)に通じ、「つかむ」意で用いられる。「扌+国」の掴カクは新字体に準じた字で、現在この字が通用している。
意味 (1)うつ。(2)[国]つかむ(摑む)。つかむ(掴む)。にぎる。「腕を掴む」「大金を掴む」
覚え方 自らの、て()で、くに()を、(つか)んだ男。[国盗り物語]
<紫色は常用漢字>

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音符 「淮ワイ」 と 「匯カイ」

2022年08月17日 | 漢字の音符
    ワイ・エ <ワイという名の川>
 ワイ・エ  氵部
解字 「氵(みず=川)+隹(ワイ・エ)」の形声。隹の発音はスイだが、淮でワイ・エの発音となる。ワイという名の川をいう。
 北の黄河、南の長江に挟まれた淮河(図版引用先
意味 (1)川の名。「淮河ワイガ」(北の黄河と南の長江の間を東西に流れる中国の大河。全長約1000キロ。南北に通じる大運河が交差する。=淮水ワイスイ)「淮南ワイナン」(淮河以南の地方) (2)地名。「淮陰ワイイン」(今の江蘇省淮安市。淮河流域の平野にある。漢初に韓信カンシンが領地として封ぜられた) (3)「淮南子エナンジ」(漢の淮南王・劉安が学者を集めて作った思想書。エナンの発音は呉音)

イメージ
 「かわ」
(淮・匯)
音の変化 ワイ・エ:淮  カイ・ワイ:匯
かわ
 カイ・ワイ  匚部はこ
解字 「匚(はこ)+淮(かわ)」の会意。匚(はこ)の字形は右が開いているが、実際は上が開いているハコ(箱)の意。ハコのような窪んだ地形に川が流れ込むこと。(水が)めぐる、(水が)あつまる。また「あつまる」意味から、集まった物資を金貨・銀貨以外の手形・小切手・証書などの方法で処理する「為替を組む」意味がある。
意味 (1)めぐる。「淪匯リンカイ」(めぐる) (2)あつまる。「匯集カイシュウ」(あつまる)「匯合カイゴウ」(合流する)「匯報カイホウ」(集報) (3)地名。「徐家匯ジョカカイ」(上海の副都心のひとつ。明末に徐光啓が農業をするために開墾し当初「徐家庫」と言ったが、二つの河川が合わさるところだったので、徐家匯と改名された。ジョカワイとも) (3)為替を組む。「匯銭カイセン」(為替)「匯票カイヒョウ」(為替手形)「匯兌カイダ」(為替を現金化する)


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音符 「啇テキ」 <帝を祭ることのできる者> と 「敵テキ」 「嫡チャク」

2022年08月13日 | 漢字の音符
 蹢テキを追加しました。
啇[啻] テキ・チャク  口部                 
       

 上が啇、下が帝
解字 金文・篆文は啻テイ・タイ・シで、「帝テイ+口サイ(祝詞を入れた器。祭祀を象徴する)」の会意。帝は、神をまつるときに供物を載せる台を描 いた象形で、三本の脚をH印でしばった形の上に台をつけた祭卓をいい、その祭祀の対象となるものを帝とよんだ。そこに祭祀を意味する口サイのついた啻は、帝をまつる意となり、「帝を祭ることのできる者」のイメージがある。啇テキは、啻が変形した異体字で、帝の巾と口があわさって古となり、啇の形になった。発音もテキ・チャクに変化した。テキ(啻)のもう一つのイメージは、もとになった字の帝が三本の脚をH印でむすぶ形であることから、「ひと所にまとめる」

イメージ 
 「帝を祭ることのできる者」(適・敵・謫・鏑・嫡)
 「ひと所にまとめる」(摘・滴・蹢)
音の変化  テキ:適・敵・鏑・摘・滴・蹢  タク:謫  チャク:嫡

帝を祭ることのできる者
 テキ・かなう  辶部
解字 「辶(ゆく)+啇(帝を祭ることのできる者)」の会意形声。帝を祭ることのできる者が行くことは、帝の子孫でありふさわしい意となる。
意味 (1)ふさわしい・かなう(適う)。「適正テキセイ」「適当テキトウ」 (2)うまくあてはまる。「適用テキヨウ」(あてはめて用いる) (3)心にかなう・ここちよい。「快適カイテキ」「自適ジテキ」 (4)ゆく。おもむく。
 テキ・かたき  攵部ぼくづくり
解字 「攵(=攴ボク。打つ)+啇(帝を祭ることのできる者)」の会意形声。帝を祭ることのできる者を打つ者は敵になる。
意味 (1)かたき(敵)。あだ。「敵国テキコク」「外敵ガイテキ」「仇敵キュウテキ」 (2)競争や試合の相手。「好敵手コウテキシュ」 (3)あい対する。「敵対テキタイ」「匹敵ヒッテキ
 タク・チャク・せめる  言部
解字 「言(ことば)+啇(=敵)」の会意形声。敵に向かって言う言葉。敵に対して罪をせめ、流罪などにすること。発音はタク・チャクに変化。
意味 (1)せめる(謫める)。つみする。とが。罪をきせて罰する。 (2)流罪にする。「流謫ルタク」(地方に流される)「謫所タクショ」(流罪されて住んでいる所)「遷謫センタク」(左遷されて流される)
 テキ・かぶらや  金部
鏑矢(猪飼弓具店)
解字 「金(金属)+啇(=敵)」の会意形声。敵に打つ矢の先が金属になっている鏃(やじり)をいう。のち、「鳴鏑メイテキ」と言って鏃の後ろに骨製や木製のふくらんだ笛のような鳴り物をつけた矢を言うようになった。鳴り物の矢は、古くは嚆矢コウシと言ったが、鳴鏑メイテキと呼ばれるようになってから、ふくらんだ鳴り物の部分も指すようになった。日本では、ふくらんだ部分が蕪(かぶら)に似ているので、かぶら矢という。
意味 (1)やじり。矢の先端にある尖った部分。=鏃ゾク。「鋒鏑ホウテキ」(ほこさきと、やじり。転じて武器、兵器) (2)かぶらや(鏑)。鏑矢とも書く。かぶら(鏑)。矢の先に蕪(かぶら)形の鳴り物をつけたもの。また、その鳴り物をいう。鏑(かぶら)は中が中空で矢を射ると音がする。「鳴鏑メイテキ
 チャク・よつぎ  女部
解字 「女(おんな)+啇(帝を祭ることのできる者)」の会意形声。帝を祭ることのできる者と結婚する女の意で、正妻を表す。また正妻から生まれた帝と血がつながった直系の子。
意味 (1)本妻・正妻。「嫡室チャクシツ」 (2)よつぎ。あとつぎ。「嫡子チャクシ」 (3)直系の血筋。「嫡流チャクリュウ」「正嫡セイチャク

ひと所にまとめる
 テキ・つむ  扌部
解字 「扌(て)+啇(ひと所にまとめる)」の会意形声。手の指をひと所にまとめること。つまむ・つむ意となる。
意味 (1)つむ(摘む)。つまむ(摘む)。つみとる(摘みとる)。「茶摘(つ)み」「摘出テキシュツ」 (2)選び出す。「摘要テキヨウ」(要点を選び出して書く)「指摘シテキ」(選び出して指さす)
 テキ・しずく・したたる  氵部
解字 「氵(みず)+啇(ひと所にまとまる)」の会意形声。水がひと所にまとまってしずくになること。また、しずくが連続して落ちること。
意味 (1)しずく(滴)。したたり落ちる水のつぶ。「水滴スイテキ」「雨滴ウテキ」 (2)したたる(滴る)。「滴水テキスイ」「滴下テキカ
 テキ・たたずむ  足部
解字 「足(あし)+啇(ひと所にまとまる)」の会意形声。足をひと所にとどめること。たたずむ意味になる。
意味 (1)たたずむ(蹢む)。たちもとおる。もどりつする。躑テキと同じ。「蹢躅テキチョク」(①たちもとおる。②足ぶみしてもどかしがる) (2)ひづめ。豚のひづめ。馬や牛のつめ。
<紫色は常用漢字>

<関連音符>
 テイ・みかど  巾部           

解字 甲骨文字で分かるように、三本脚の祭卓の脚をH印でしばった形の安定した大きな祭壇をいう。金文から祭卓に供物(-印)をのせる。最も尊い神を祀るときの祭卓で、その祭祀の対象となるものも帝とよんだ[字統ほか]。
意味 (1)天の神。あまつかみ。「天帝テンテイ」 (2)みかど。天子。天皇。「帝王テイオウ」「皇帝コウテイ
イメージ 
 「神を祀る祭卓」
(帝)  
 祭卓の脚部を「むすぶ」(締)  
 「同音代替」(蹄・諦・啼)
音の変化  テイ:帝・締・蹄・諦・啼
音符「帝テイ」へ

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音符「禺グ」<蛇形のものが相交わる>と「愚グ」「偶グウ」「遇グウ」「隅グウ」

2022年08月10日 | 漢字の音符
 後漢の[説文解字]は、禺を「上は鬼の字の上部と似ており、下は禸ジュウ(けものの足跡)から成り、鬼のような頭をもつケモノ⇒頭の大きなサル」と解釈した。したがって多くの字典は、この字の意味を、「獣の名。おながざる」としている。サルで解釈すると愚グ(おろか)の意がすぐ導かれるので、私もこれまでサル説で解字していたが、それ以外の文字の解字は、かなり無理をしており分かりにくいところがあった。そこで、これまで意味不明だった金文の字形を解字して考察してみたい。
 藕グウを追加しました。


 グ・グウ  禸部ぐうのあし 

<参考図(下)>  ウ

解字 金文の禺は禹と似ている。禹の金文第一字は、二匹の虫をタテとヨコに組み合わせた形。オスとメスなので頭のかたちが異なっている。金文第二字でタテの虫が頭の大きい蛇のような形になり、ヨコの虫が手(又)のような形に変化し、篆文で少し変形してから禹になった。虫は蛇とされるが竜とする説もある。もと水神としてまつられ、転じて、中国古代の聖王の名となった。
 一方、禺は、金文では頭が田になっているが、あとは禹の金文第二字と似ている。この両字の相似を指摘したのは白川静氏で「禺は禹と字形が近く、蛇形のものが相交わる形であったと考えられ、おそらく竜頭の神であろう」(字通)としている。私も伝説または神話上の二匹の蛇形の動物が相交わる形だと思う。なぜなら、こう考えることにより、禺の音符を解くイメージが出てくるからである。まず、禺は相交わる形なので「対になる」、蛇形の動物なので、丘や山の「くぼんだところ」に棲むイメージがでてくる。なお、後漢の[説文解字]が解釈した「頭の大きなサル」は、その後作られた新しい漢字のイメージに用いられる。
意味 (1)おながざる。頭の大きなさる。(2)すみ。(=隅)
イメージ 禺は「蛇型のものが相交わる」形で、相交わるので「対になる」、蛇形のものが棲むのは丘や山の「くぼんだところ」、後の解釈である「頭の大きなサル」
  「蛇型のものが相交わる」 (禺)
  相交わるので 「対になる」 (偶・遇・耦・藕・寓)
  蛇形のものが棲むのは丘や山の 「くぼんだところ」 (隅・嵎)
  後の解釈である 「頭の大きなサル」 (愚)
音の変化  グ:禺・愚  グウ:偶・遇・耦・藕・寓・隅・嵎

対になる
 グウ・たまさか  イ部
解字 「イ(ひと)+禺(対になる)」の会意形声。対になる人の意で、ともがら・つれあい、人と対になる「人と同じような形の人形」、二で割り切れる数の意味になる。また、遇グウ(たまたま会う)に通じ、たまたまの意もある。
意味 (1)ともがら。つれあい。「配偶ハイグウ」(2)人の形に似た人形。「土偶ドグウ」「偶人グウジン」「偶像グウゾウ」(①信仰の対象の像。②崇拝・盲信の対象とされるもの)(3)二で割り切れる数。「偶数グウスウ」(4)たまさか(偶)。たまたま。まれに。「偶然グウゼン」「偶発グウハツ
 グウ・あう  之部
解字 「之(ゆく)+禺(=偶。ともがら・つれあい)」の会意形声。道でともがらと出会うこと。思いがけず会うことから、たまたまの意もある。また、出会った人をもてなすこと。
意味 (1)あう(遇う)。思いがけず会う。「遭遇ソウグウ」(遭も遇も、であう意)「奇遇キグウ」(奇跡的にあう)「千載一遇センザイイチグウ」(千年に一度しかあえないチャンス) (2)(思いがけず会うことから)たまたま。この意味は偶が受け持っている。 (3)もてなす。あつかう。「待遇タイグウ
 グウ・たぐい  耒部
解字 「耒(スキ)+禺(=偶。ともがら・つれあう)」の会意形声。土地を耕すとき、二人ならんでスキを使って耕すこと。
意味 (1)ならびたがやす。二人で並んでスキをたがやす。「耦耕グウコウ」(並んで耕す)(2)たぐい(耦)。ともがら。あいて。「耦立グウリツ」(二人が並んで立つ)「耦居グウキョ」(二人暮らし)
 グウ・はすのね  艸部
解字 「艸(植物)+耦(=耦耕。ならびたがやす)」の会意形声。艸はここで蓮(ハス)の意。ハスの根である蓮根は水を張った水田で育てる。収穫するには現在、水圧ポンプの水流で取り出す方法が一般的だが、以前は水を落としてからスキなどで掘り起こして収穫した。ハスの根になぜ「耦」を用いるのか定かでないが、蓮根は横に連続してつながっており、それを途中で折らないよう収穫するために耦耕(ならび起こす)して、ていねいに掘り起こしたものと思われる。
横に広がって伸びるハスの根(http://www.whzyblh.com/news/60)
意味 (1)はすのね(藕)「荷(はす)は芙蕖フキョ(はすの別称)なり、(略)その実は蓮(はちす)なり、その根は藕グウなり」(爾雅・釈草) 
藕糸(日本蓮学会)
(2)はす(藕)「藕糸グウシ」(①ハスの葉柄や地下茎を折ったときに出る細い糸。②細いつながり)「藕断糸連グウダンシレン」 (ハスを分断してもハスの糸はつながっている。関係が完全には切れていないことの例え)「藕花グウカ」(ハスの花) (3)姓のひとつ。
 グウ・グ  宀部
解字 「宀(いえ)+禺(=偶の意味④たまたま)」の会意形声。たまたま住むことになった家。また、自分の家でなく、よその家のこととして示すこと。
意味 (1)仮住まいする。身をよせる。「寓居グウキョ」「寄寓キグウ」(他人の家に身を寄せること)(2)ことよせる。かこつける。「寓意グウイ」(他の物事にかこつけて、本当の意味をそっと示すこと)「寓話グウワ」(動植物を擬人化したたとえ話)

くぼんだところ
 グウ・すみ  阝部       
解字 「阝(おか)+禺(くぼんだところ)」の会意形声。丘のくぼんで奥まったところをいう。転じて、曲がったかどや方形の四すみの意。また、かどは中央のはずれにあるので、かたすみの意ともなる。
意味 (1)すみ(隅)。かたすみ。中央でないところ。「片隅かたすみ」「辺隅ヘングウ」(都から遠い土地。かたいなか)「一遇イチグウ」(一方のすみ。かたすみ)(2)方形の四すみ。かど。「四隅よすみ」「重箱の隅すみ」「隅奧グウオウ」(へやのすみ)
 グウ  山部
解字 「山(やま)+禺(くぼんだところ)」の会意形声。山のくぼんだところ。山のおくまったところをいう。
意味 山のくま。山の奥まったところ。「嵎角グウカク」(山のくま)「嵎嵎グウグウ」(曲折する)

頭の大きなサル
 グ・おろか  心部
解字 後漢の[説文解字]は、禺を「頭は鬼の字の上部で、下は禸ジュウ(けものの足跡)から成り「頭の大きなサル」と解釈した。この解字は本来の意味である「蛇形の動物が相交わる意」が忘れられて、その後に成立したものと思われる。愚の字は、禺の解釈が「頭の大きなサル」になって以後に成立したと字と思われる。解字は、「心(こころ)+禺(頭の大きなサル)」 の会意形声。人までは行かないサルの心。
意味 (1)おろか(愚か)。おろか者。「愚民グミン」「愚劣グレツ」「愚者グシャ」(2)自分や身うちを謙遜していう言葉。「愚見グケン」「愚妻グサイ」「愚考グゴウ
<紫色は常用漢字>

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音符「異イ」<鬼の面をかぶり両手をひろげた人>「翼ヨク」 と 「冀キ」

2022年08月07日 | 漢字の音符
 イ・ことなる  田部

解字 人が鬼やらい(追儺ツイナ)にかぶる面をつけて、両手をひろげているさまの象形。面をかぶると恐ろしい別人になるところから、「ことなる」の意を表わす。現代の字は「田+共」に変化した。異は、「ことなる」「両手を上げる」イメージを持つ。
意味 (1)ことなる(異なる)。別の。「異郷イキョウ」「異性イセイ」 (2)普通とちがう。めずらしい。「畏才イサイ」 (3)正しくない。「異端イタン」「異教イキョウ」 (4)あやしい。「怪異カイイ

イメージ
 「ことなる」
(異・糞) 
 「両手をひろげる」(翼)
音の変化  イ:異  フン:糞  ヨク:翼

ことなる
 フン・くそ  米部
解字 「米(こめ)+異(ことなる)」の会意。米(ごはん)が食べられてのち、肛門から出てきた以前と異なったもの。大便を表す。転じて、けがれ等の意味になる。
 なお、この字は本来、両手でちり取りに汚物を入れて棄てる形。その変化が複雑であるため省略し、現代字の「米+異」で解字した。糞の字形変遷(「漢字古今字資料庫」の糞より)
意味 (1)くそ(糞)。大便。「糞尿フンニョウ」 (2)けがれ。きたないもの。「糞土フンド」(きたない土。けがらわしいもの。また腐った土)「糞牆フンショウ」(腐った土の壁)「朽木糞牆キュウボクフンショウ」(朽ちた木は彫刻できず、腐った壁は塗りかえができない。精神のくさった人間は教育のしようがないこと) (3)はらいのぞく。「糞除フンジョ」(はらいのぞく)

両手をひろげる
 ヨク・つばさ   羽部
解字 「羽(はね)+異(両手をひろげる)」の会意形声。両手をひろげた形の鳥の羽を翼(つばさ)をいう。また、翼は飛行を助けるので、たすける意もある。なお、異(イ⇒ヨク)の形声字とし、ヨクは翊ヨク(鳥がとぶ。たすける)に通じるとする説もある。
意味 (1)つばさ(翼)。鳥などのはね。「翼下ヨッカ」「主翼シュヨク」「銀翼ギンヨク」(飛行機のつばさ) (2)たすける(翼ける)。「翼賛ヨクサン」(力をそえてたすけること)


    キ <すぐれた能力をもつ>
 キ・こいねがう  ハ部   

解字 金文は、手をひろげた鬼に角がある形の象形[字統]。篆文から、手をひろげた鬼は「異」に、さらに現代字で角が「北」に変化して、冀となった。冀は角がある鬼の姿で、すぐれた能力をもつ鬼を表す。しかし本来の意味でなく、発音のキが希(のぞむ・こいねがう)に通じ、こいねがう意を表す。また、鬼の上部が人が背をむけるように見えることから北と解釈し、古代中国を九州に分けた図では「北方の州なり」とし冀州としたので地名ともなった。冀州は黄河下流の北部で、山西省・河北省・北京を含む広い地域をさしたが、現在は河北省の略称となっている。

古代中国(『尚書・禹貢』)の九州(https://www.lishizhuan.com/lsjm/wjzm/345687.html)
意味 (1)こいねがう(冀う)。こうあってほしいと願う。「冀求キキュウ」(こいねがう)「冀望キボウ」(願い望む)「僥冀ギョウキ」(僥倖を願う) (2)現在の河北省の略称。人口7460万人。省都は石家荘市。

イメージ 
 「同音代替」
(冀)
 「すぐれた能力をもつ」(驥)
音の変化  キ:冀・驥
すぐれた能力をもつ
 キ  馬部
解字 「馬(うま)+冀(すぐれた能力をもつ)」の会意形声。すぐれた能力をもつ馬。
意味 一日に千里を走る名馬。駿馬。「驥足キソク」(駿馬の足。すぐれた才能)「驥足を展(の)ばす」(すぐれた才能を開花させる)「驥尾キビ」(駿馬の後方。すぐれた人物の後ろ)「驥尾に付す」(駿馬の後方に付いて行けば千里も遠い地に行く。すぐれた先達に付いて事をなしとげる)「驥塩車に服フクす。驥服塩車キフクエンシャ」(名馬が塩を運ぶ車を引かされている意から、才能ある者が世に認められない例え)
<紫色は常用漢字>

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音符「甘カン」<口にものを含みあじわう> と 「柑カン」「疳カン」「酣カン」「坩カン」「鉗カン」「箝カン」「嵌カン」「紺コン」「甜テン」」

2022年08月04日 | 漢字の音符
 紺コンの解字を改めました。
 カン・あまい・あまえる・あまやかす  甘部

解字 甲骨文は、「口+一印」の指事文字。口の中に一で示した物を含んだ状態を表すが、うまい・あまいは後起の意味で、甲骨文字では、①地名またはその長、②祭祀名になっている[甲骨文字辞典]。篆文は[説文解字]が、「美(おいしい)なり。甘なり。五味の一と為す。」とし、うまい・あまい意味となった。現代の字形は甘に変化した。甘を音符に含む字は、「あまい・うまい」「中に物を含む」イメージを持つ。
意味 (1)うまい。あまい(甘い)。「甘旨カンシ」(うまい味)「甘酒あまざけ」 (2)こころよい。「甘美カンビ」(①あまくて味がよい。②心をうっとりさせる)「甘言カンゲン」(人の気にいるような言葉) (3)あまんじる(甘んじる)。満足する。しかたなく我慢する。「甘受カンジュ」(さからわずに受け入れる) (4)[国]あまい(甘い)・きびしくない。あまえる(甘える)・あまやかす(甘やかす)。 
参考 カンは部首「甘あまい・かん」になる。この部に属する字は非常にすくない。常用漢字では甚ジンがあるが、これは上部が甘と似ているため。甘い意では甜テンがあるのみ。なお、甚ジンは音符になる。
 
イメージ 
 「あまい・うまい」
(甘・甜・柑・疳・酣)
  「中にものを含む」(坩・拑・鉗・箝・嵌・紺)
音の変化  カン:甘・柑・疳・酣・坩・拑・鉗・箝・嵌  コン:紺  テン:甜

あまい・うまい
 テン・あまい  甘部
解字 「舌(した)+甘(あまい)」の会意。舌に感じる甘さ。
意味 あまい(甜い)。「甜瓜テンカ」(まくわうり)「甜茶テンチャ」(甘茶)「甜菜テンサイ」(さとう大根)
 カン・みかん  木部
解字 「木(き)+甘(あまい)」の会意形声。甘い実のなる木。みかんの一種をいう。
意味 みかんの一種でやや小さなもの。こうじ(柑子)。みかん。「蜜柑ミカン」(温州ミカンなどで知られる日本の代表的ミカン)「柑橘類カンキツルイ」(ミカン類の常緑樹の総称)
 カン  疒部
解字 「疒(やまい)+甘(あまい)」の会意形声。甘いものなどの食べすぎから起きる子どもの胃腸病。また、カンの音から癇カン(幼児のひきつけ)の意にも用いられる。
意味 (1)小児に起こる慢性の消化器障害。「脾疳ヒカン」(小児の疳の一種で、慢性消化器障害) (2)[国]かん(疳)。小児の神経症の一種。ひきつけ・夜泣きなどをともなう。「疳の虫」(日本では幼児の疳は、中にいる虫によって起きると信じられ、虫封じなどのまじないが行われた)
 カン・たけなわ  酉部
解字 「酉(さけ)+甘(うまい)」の会意形声。酒がうまいとき。
意味 (1)たけなわ(酣)。ものごとのまっさかり。「酣春カンシュン」(春たけなわ) (2)たのしむ。酒をのんで楽しむ。「酣酔カンスイ」(十分に酔う)

中に物をふくむ
 カン・つぼ  土部
解字 「土(つち」+甘(中に物をふくむ)」の会意形声。中にものを含みいれる土のつぼ。特に、金属を入れて溶かす耐火性のつぼをいう。
意味 つぼ(坩)。るつぼ。「坩堝カンカ・るつぼ」(①るつぼ。②興奮・熱狂の場のたとえ。③種々のものが入りまじった状態のたとえ)
 カン・はさむ  扌部
解字 「扌(て)+甘(=坩。つぼ)」の会意形声。つぼを手ではさむこと。
意味 (1)はさむ。手ではさむ。 (2)(口を手ではさむ意から)つぐむ。口をとじる。
 カン・ケン  金部
解字 「金(金属)+甘(=拑。はさむ)」の会意形声。金属製のはさむ道具。
意味 (1)かなばさみ。「鉗子カンシ」(はさみの形をした医療器具) (2)くびかせ。「鉗徒ケント」(首かせをはめられた囚人)
 カン・はさむ  竹部
解字 「竹(たけ)+拑(はさむ)」の会意形声。竹の棒ではさむ意だが、竹にかかわらず広くはさむ意となる。口をつぐむ意は、拑にもあるが、慣例により「箝」が使われることが多い。
意味 (1)はさむ(箝む)。 (2)自由をうばう。「箝制カンセイ」(自由にさせないこと) (3)とざす。口をつぐむ。口に竹片をはさませて声をださせない。「箝口カンコウ」(口をつぐんで物を言わない)「箝口令カンコウレイ」(ある事柄について発言を禁止する命令)
 カン・ガン・はめる  山部
解字 「甘(=拑の略体。手ではさむ)+欠(口をあける=あな)」の会意形声。「甘+欠」は、手ではさんだものを、あなにはめることで、はめる意。これに山がついた嵌は、山中のくぼみ(あな)の意となる。現在は、山と無関係の「はめる」意で使われることが多い。
意味 (1)山中のくぼみ。谷の深いさま。ほろあな。「嵌谷カンコク」(①山のほら穴。②深い谷) (2)はめる(嵌める)。はまる。くぼみに押しこんではめる。「嵌入カンニュウ」(はめこむ)「象嵌ゾウガン」(かたちをはめ込む意。はめこみ細工。=象眼)
 コン・カン  糸部 
解字 「糸(いと)+甘(中に物をふくむ)」の会意形声。[説文解字]に「帛きぬの深青にして赤色を揚ぐるもの也」とし、深い青に赤色を含ませた色とする。また、「釈名シャクミョウ」(後漢)は「紺は含なり。青にして赤色を含むなり」とし、いずれも青色の染料に赤色を含ませた色としている。これが初期の紺色であった。
 現在の日本では、紫がかっている暗い青を指し、藍色系統では最も深い色とされている。

 日本の紺色(「色彩図鑑・紺色」より
中国の茄子の色が本来の紺色
  

中国のネット検索画面から。赤みを帯びた茄子を選んだ。
 現在、中国の辞書では「すこし紅を帯びた深い青」または「赤味がかった黒色」と書かれており、例として「茄子紺」とあり、茄子の色が紺色に例えられている。
意味 (1)こんいろ(紺色)。紫がかった濃い青色。「濃紺ノウコン」「紫紺シコン」(紫がかった紺色)「紺碧コンぺキ」(真夏の日差しの強い青空の色のような深く濃い青色。碧もあおい意) (2)紺色に染める。「紺屋こうや・こんや」(藍染を職業とするもの。後に一般に染物屋の意)「紺屋町こんやまち・こうやまち」(紺屋・染物屋が集まっている町)
<紫色は常用漢字>

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音符 「夭ヨウ」<身をくねらせる>と「妖ヨウ」「笑ショウ」「咲ショウ」「走ソウ」

2022年08月01日 | 漢字の音符
  ヨクの解字を改めました。
 ヨウ・わかい   大部
   
   左はヨウ、右はショク
 篆文は、大の字形の人が右に頭をかたむけた形で、身をくねらせる意味をあらわす。現代字は大の上にノがついた夭に変化した。この身をくねらせる人は柔軟性のある若い女性を表すと考えられ、妖ヨウ(なまめかしい)の原字。夭は、わかい意となるが、音符イメージは「身をくねらせる若い女」となる。なお、大の人が左に頭をかたむけた形が右図のショクで、同じく身をくねらせるさま。これに口をつけた呉は国名となっているが、口から声を出して身をくねらせ笑う形で、娯(たのしむ)の原字である。
意味 (1)わかい(夭い)。わかく美しい。「夭桃ヨウトウ」(若々しく美しい桃の花) (2)若死にする(=殀)。「夭折ヨウセツ」(わか死に)

イメージ
 「身をくねらせる若い女」
(夭・妖・殀・笑・咲)
 「身をくねらせる」(吞・飫)
 「その他」(沃) 
音の変化 ヨウ:夭・妖・殀  ヨク:沃  ヨ:飫  ショウ:笑・咲  ドン:吞

身をくねらせる若い女
 ヨウ・あやしい  女部
解字 「女(おんな)+夭(身をくねらせる若い女)」の会意形声。身をくねらせる若い女に、女をつけて強調した字。なまめかしく体をくねらせる若い女を表す。なお、篆文は妖の上に草冠がついているが、現代字で解字した。
意味 (1)あやしい(妖しい)。あやしげな。「妖術ヨウジュツ」「妖怪ヨウカイ」 (2)なまめかしい。「妖艶ヨウエン
 ヨウ・わかじに  歹部
解字 「歹(しぬ)+夭(身をくねらせる若い女)」の会意形声。身をくねらせる若い女が死ぬこと。
意味 (1)わかじに(殀)。早死に。「殀寿ヨウジュ」(若死にと長生き) (2)ころす。
 ショウ・わらう・えむ  竹部

 篆文第一字は、伝承古文字を収録した[六書通]に収録されている字で、「+夭」の形をしているが、おそらく「口+夭」で、身をくねらせる若い女が口から声をだして笑うさまと考えられる。篆文第二字は、「竹+夭(身をくねらせる若い女)」で、竹で表現された髪飾りをつけた若い女が身をくねらせて笑うさまで、第一字の口が省略されたかたちと考えられる。
意味 (1)わらう(笑う)。えむ(笑む)。「笑顔えがお」「笑止ショウシ」(笑わずにいられない)「笑覧ショウラン」(笑ってご覧ください)
 ショウ・さく  口部            

 篆文は、「竹+夭」で笑と同じ。隷書レイショに属する後漢の石碑の文字から、「口+关」 の咲ショウが出現した。关は笑(わらう)の竹かんむり⇒ソに、夭⇒天に変化した俗字(略字)とされ、咲は口をあけて笑う意。この字は、笑の篆文第一字の「口夭」との関連もふかい。すなわち、笑と咲は異体字の関係にある。
 なお、日本では笑ったとき口もとのほころびるさまを花の開くさまに例え、花が咲く意味で江戸時代から使い始め、享保2年(1717)の『書言字考節用集』に咲く意での用例がある。今日ではこの用法が一般化し、咲は「花が咲く」意となり、わらう意どころか、発音のショウも忘れられた存在になっている。
意味 (1)わらう。笑う。えむ。 (2)[国]さく(咲く)。花がさく。「遅咲(おそざ)き」 (3)名乗り(名前に使用)として「えみ・さ・さき・さく」がある。

身をくねらせる
呑[吞] ドン・のむ  口部
解字 篆文は、「夭ヨウ(身をくねらせる)+口(くち)」の会意。夭は人が身をくねらせているさま。それに口がついた呑ドンは、口からものをのみこんで身をくねらせているさまで、ものをまる吞みすること。「天+口」の吞も同字とされる。
意味 (1)のむ(吞む)。まるのみする。「吞舟ドンシュウ」(舟をまる吞みにする)「吞舟の魚」(舟をまる吞みするほどの大きな魚。転じて、大物。大人物) (2)とりこむ。「併呑ヘイドン」(あわせのむ。したがえる)
 ヨ・オ・あきる  食部
解字 「𩙿(=食。たべる)+夭ヨウ(身をくねらせる)」の会意形声。食べて身をくねらせること。宴会で飽きるほどたべるさまで、①宴会。ありあまる程のごちそう。②食べあきる意がある。発音はヨウ⇒ヨ・オに変化。
意味 (1)あきる(飫きる)。たべあきる。「飫聞ヨブン」(聞きあきる)「厭飫エンヨ」(あきる。厭も飫も、あきる意)「厭聞飫聴エンブンヨチョウ」(厭聞も飫聴も、聞きあきる意。なんべんも聞いて飽きたよ)「飽飫ホウヨ」(飽も飫も、あきる意) (2)宴会。さかもり。ごちそう。「飫賜ヨシ」(あり余るほどの御馳走をたまわる)「飫宴ヨエン」(酒盛り。宴会)「飫歌ヨカ」(宴会のときの歌) (3)地名。「飫肥オビ」(宮崎県日南市の中心地区。もと飫肥城を中心とした飫肥藩伊東氏5万石の城下町)

その他
 ヨク・そそぐ  氵部

解字 篆文は「氵(水)+芺ヨウ⇒ヨク(若い草)」で、若い草に水をかけること。芺ヨウは苦菜の意味があるが、ここでは若い苗の意。苗に水をかけて灌漑する意味がある。現代字は艸がとれた沃になった。そそぐ意のほか、地味がこえる意味ともなる。
意味 (1)そそぐ(沃ぐ)。水をかける。田畑を灌漑する。 (2)地味がこえる。「沃野ヨクヤ」「肥沃ヒヨク」 (3)(国)外国語の音訳語。「沃素ヨウソ」(ハロゲン族元素の一つ)

   ソウ<はしる>
 ソウ・はしる  走部          

解字 金文は、「夭(走る人の姿)+止(足の動作)」 の会意。夭は篆文以降、わかい・わかくしなやかの意に変化したが、甲骨文字では人が腕をふって走る様子を表した象形文字[漢字字形史小字典]。金文にいたり、夭にさらに足の動作を表す止をつけて、走る意を表す字とした。字形は漢代に夭⇒土に変化し、「土+龰(止の変形)」の走となった。走は部首になる。
意味 (1)はしる(走る)。「走破ソウハ」「奔走ホンソウ」 (2)にげる。「遁走トンソウ
参考 走は部首「走そうにょう」になる。走部では移動する・身体の動作の意で用いられる。走部は常用漢字で7字、約14,600字を収録する『新漢語林』では32字が収録されている。走部の主な字は以下のとおり。
常用漢字 7字
 ソウ・はしる(部首)
 エツ・こえる(走+音符「戉エツ」)
 キ・おきる(走+音符「己キ」)
 シュ・おもむき(走+音符「取シュ」)
 スウ・はしる(走+音符「芻スウ」)
 チョウ・こえる(走+音符「召ショウ」)
 フ・おもむく(走+音符「卜ボク」)
常用漢字以外
 キュウ・たけし(走+音符「丩キョウ」)
 チョウ(走+音符「肖ショウ」)ほか
 
<紫色は常用漢字>

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