漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「稣ソ」 <よみがえる> と 「蘇ソ」 「酥ソ」

2018年10月26日 | 漢字の音符
 ソ  魚部

解字 「魚(さかな)+禾(実った穀物)」の会意。この字の解釈は中国ネットの「百度百科」に興味深い説明が載っている。要約すると「寒波がきたとき大きな河では表面は凍りやすいが、魚はより深いところにゆき生き残る。ところが小河や小池では全面凍結してしまい氷の下の魚も深くへ行けず寒さで動けなくなる。こんな時、人々は実った穀物を収穫するように、(氷を割り)動かない魚を手に取ることができる。魚は漁獲されたのち、すぐに回復するので、このような状況を稣という。」 稣は、転じて「生き返る」意味に用いられる。もともと、魚と禾を合わせた字は何らかの説明が必要だが、この説明はかなり納得できる。
意味 (1)よみがえる。生き返る。いきる。「稣活ソカツ」(復活)「稣息ソソク」(息をふきかえす。よみがえる) (2)(穀物を収穫するように魚が獲れることから)かき集める。あつめとる。

イメージ 
 「よみがえる」(稣・蘇・酥)
音の変化 ソ:稣・蘇・酥

よみがえる
 ソ・ス・よみがえる  艸部
 紫蘇(ウィキペディアより)
解字 「艸(くさ)+穌(よみがえる)」の会意形声で、仮死した人をよみがえらせた伝説のある薬草の紫蘇をいう。また、よみがえる意で使われる。古代日本では同音の酥に通じ、乳製品の意味で使われた。
意味 ①しそ(紫蘇)。シソ科の一年草で、葉と果実は香りがよく食用・香味料・色素・薬用となる。「青紫蘇あおじそ」 (2)よみがえる(蘇る)。「蘇生ソセイ」 (3)地名。「蘇州ソシュウ」(中国の江蘇省南部の都市。運河による水運が生活に溶け込んでいることから「東洋のヴェニス」と呼ばれる)「阿蘇山アソサン」(熊本県北東部の活火山) (4)植物の名。「蘇芳スオウ」(①マメ科の小喬木。②蘇芳のサヤなどを煎じてつくる赤色染料、また、その色) (5)そ(蘇)。古代の日本で作られ献上された乳製品の一種。生乳を加熱濃縮した非発酵の乳製品と考えられている。平城宮木簡に「生蘇」と「精蘇」という二つのタイプの蘇が記されている。「貢蘇コウソ」(諸国に蘇を作らせ献上させる)
 ソ  酉部
解字 「酉(発酵する)+禾(=穌。よみがえる)」の会意形声。異体字に「酉+穌」の𨣺がある。疲労や病気で衰えた体がよみがえる効果があるとされる発酵乳製品をいう。生乳を桶にいれて長時間攪拌カクハンすると乳酸発酵がおこり、乳脂肪と乳糖が分離する。乳脂肪を取り出すとバターやチーズ状になり、乳酸発酵した乳糖がヨーグルト状になる。穌は、この両方を言ったようであるが、よみがえる効果があるのは乳酸菌を豊富に含み腸内の細菌を追い出す整腸作用があるヨーグルト系の飲料や食品であろう。カルピスを作った三島海雲は明治末期、仕事で北京から内モンゴルに入り当地の遊牧民たちが毎日のように飲んでいた酸っぱい乳をすすめられるまま口にしたところ、そのおいしさと健康効果に驚きを受けた。長旅ですっかり弱っていた胃腸の調子が整い体も頭もすっきりしたという。この酸乳は酥の一種であると思われる。
意味 (1)牛や羊などの生乳を乳酸発酵により精製した飲料や食品。「酥酪ソラク」(牛や羊の乳を発酵させて作った食品)「凝酥ギョウソ」(固形化した酥)「酥団ソダン」(酥酪を丸く制成した食品、色が白く光沢がある)「酥油ソユ」(酥酪の乳脂肪を分離した油)「酥灯ソトウ」(酥油の灯り) (2)酒の別名。「酥酒ソシュ」(乳発酵の酒) (3)(乳から作るため)白くやわらかい。清くなめらかなものの例え。「酥腕ソワン」(白くやわらかい腕)
参考 仏教の涅槃経に「五味の譬(たと)え」として、「牛より乳味を出し、乳より酪味ラクミを出し、酪味より生酥味ショウソミを出し、生酥味より熟酥味ジュクソミを出し、熟酥味より醍醐味ダイゴミを出す、醍醐味は最上なり。もし服する者あらば、衆の病皆除く」とあり、乳から酪⇒生酥⇒熟酥⇒醍醐の順に味が変化(高度化)してゆくとしている。
 最初の酪は普通は生乳からできる半凝固状の製品をいうが、ここでは液体の発酵乳か。また、生酥味というのは低発酵のヨーグルト系、熟酥味とは高発酵させた固形状のチーズ系と考えられる。最後の醍醐味については諸説あり確定していない。




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特殊化した部首 「攵のぶん」

2018年10月22日 | 特殊化した部首
「攵のぶん」は攴ボクが変化した字。攴から攵ボクへの変化は隷書で起こり、楷書ではほとんどが攵になった。まず、攴ボクから見てゆこう。

攴[攵] ボク  攴部      

解字 甲骨文字でわかるように、手に棒や木の小枝を持って、たたくさまの象形。たたく・うつ意を表す。攴が正字だが、楷書ではほとんど「攵」に変わる。具体的に「どうたたく」かは、攵に対する字によって異なる。例えば、牧ボクの場合は牛をたたくムチであり、枚マイの場合は木をけずるオノである。
意味 (1)うつ。たたく。 (2)むちうつ。 (3)撃つ。
参考 攴は部首「攴ぼくづくり」になる。漢字の右辺(旁)に付いて、たたく意を表す。この部首は現在、ほとんどが攵に変化しているので非常に少ない。主な字は敲コウ・たたく(攴+音符「高コウ」)、および、旧字の敍ジョ(攴+音符「余ヨ」)=叙、の2字。

にみる「攴ぼくづくり」の変遷


篆字と隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた書体)の第一字は「古+攴」のかたち。隷書第二字で攴が「𠂉+乂」に変化し、楷書で攵になった。つまり、攴のトの部分が「ノ+一」に、又の部分が乂に変化して攵ボクが成立した。
 なお、攵ボクが「のぶん」と呼ばれるのは、東晋や初唐の書の「文」が攵と似ているので、第一画のノをつけて「ノ文」と言ったためと思われる。

『新書道字典』(二玄社)の「文」
真ん中の二字と左上は攵に似ている。

 攴は漢字の右辺に置かれたとき、ほとんどが攵に変化し、部首「攵のぶん・ぼくづくり」となり、たたく・うつ意味を表す。常用漢字で16字、約14,600字を収録する『新漢語林』では72字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 攻コウ(攵+音符「工コウ」)・改カイ(攵+音符「己キ」)
 放ホウ(攵+音符「方ホウ」)・政セイ(攵+音符「正セイ」)
 敗ハイ(攵+音符「貝バイ」)・救キュウ(攵+音符「求キュウ」)
 敏ビン(攵+音符「毎マイ」)・故コ(攵+音符「古コ」)
 敵テキ(攵+音符「啇テキ」)など。
 また、攵部に属する会意文字である、敢カン・散サン・敬ケイ・数スウ、は音符となる。

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特殊化した部首 「王たまへん」 と 「王オウ」の関係

2018年10月17日 | 特殊化した部首
ギョクが左辺(偏)に付くとき、王の形をとり「たまへん」と呼ばれる。なぜだろうか? 王と玉の成り立ちを比較してみよう。

 ギョク・たま  玉部

  上が玉、下が王
解字 上段の玉の甲骨文字は、三つの玉(宝石)を紐で貫きとおした形の象形。短い横線が玉で、タテ線が紐。古代中国で礼服着用の時などに腰飾りにした。玉は古代人の信仰の対象であり、のち、多く礼器(祭祀や賓客の接待に用いる器)として用いられた。金文から上下の線がとれ、王の形になった。篆文も王の形であるが、王様の王と区別するため、王は上の二横画を接近して書き、玉は等間隔に書いていた。隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた書体)や楷書になって、点を加えて玉とし、王と区別 した。
 一方、王は大きな戉エツ(まさかり)の刃部を下にして置く形の象形。王位を示す儀式の器として玉座の前におかれた。武器(武力)によって天下を征服した者のこと。篆文では玉と区別するため上の二本の横画を接近していたが、隷書で玉に点が付いたため、楷書で以前の玉の形である王と入れ替わったかたちになった。玉は部首となるが、偏になるとき王の形になる。
意味 (1)美しい石。ぎょく。宝石。「宝玉ホウギョク」(宝として大事にしている玉)「玉石ギョクセキ」(すぐれたものと劣ったもの) (2)たま(玉)。美しい。「玉露ギョクロ」(玉のように美しい露) (3)天子や天皇につける美称。「玉座ギョクザ」「玉音ギョクオン」 (4)たま。真珠。
参考 玉は部首「玉たま」になる。漢字の下部に付いて玉(貴石)の意味を表す。主なものは常用漢字の3字である。
 玉ギョク(部首)、璧ヘキ(玉+音符「辟ヘキ」)、璽(玉+音符「爾ジ」)

キュウにみる「王たまへん」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の球キュウ・たまの変遷、上に玉の部分を抜き出した。

 球の篆文は「王+求」である。これは、最初に掲げた玉の篆文を見ると分かる。つまり玉は篆文で王の形だったのである。玉は隷書レイショで点がついた玉になったが、隷書でも左辺(偏)は王のままで、これは現在の楷書に続く。つまり、「王たまへん」は金文・篆文から王のままで、現在まで変わっていないのである。ちなみに、金文からある環カン・珈の字も、偏は王の形である。なお、楷書(現代の字)では、王の下の横線が右に少し上向きとなる。

玉は漢字の左辺(偏)に付いたとき王の形になり部首「王たまへん・おうへん」になる。常用漢字で12字、約14,600字を収録する『新漢語林』では216字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 王オウ(部首)、玩ガン(王+音符「元ゲン」)
 珠シュ(王+音符「朱シュ」)、珍チン(王+音符「㐱シン」)
 現ゲン(王+音符「見ケン」)、球キュウ(王+音符「求キュウ」)
 理(王+音符「里リ」)、瑠(王+音符「留リュウ」)
 璃(王+音符「离リ」)、環カン(王+音符「睘カン」)




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音符「歩ホ」<あるく >と「渉ショウ」「捗チョク」

2018年10月13日 | 漢字の音符
[步] ホ・ブ・フ・あるく・あゆむ  止部

解字 左右の足を上下に配した形で、前にあるく意を表す。旧字体で「步」になったが、新字体では、上が止、下が少の「歩」に変化する。
意味 (1)あるく(歩く)。あゆむ(歩む)。「散歩サンポ」「歩行ホコウ」 (2)立場。「地歩チホ」 (3)ぶ(歩)。割合。「歩合ブアイ」 (4)将棋のふ(歩)。「歩兵ホヘイ

イメージ  
 「あるく」
(歩・渉・陟・・捗)
音の変化  ホ:歩  ショウ:渉  チョク:陟・・捗

あるく
 ショウ・わたる  氵部 
解字 「氵(水)+歩(あるく)」の会意。水の流れを歩いて渡ること。川などを渡ることを言う。川は常に流れが変化するので浅いところを選んで注意深く渡るので、へる・経過する意に、また、川をいくつも渡って広い範囲を歩く意ともなる。
意味 (1)わたる(渉る)。川などをわたる。「徒渉トショウ」 (2)へる。経過する。「渉歴ショウレキ」(いろいろと経験をへる)(3)広い範囲を探しあるく。「渉猟ショウリョウ」(広く渡り歩いてさがす) (4)関与する。「干渉カンショウ
 チョク・のぼる  阝部
解字 「阝(はしご)+步(あゆむ)」の会意。阝には、丘の意と梯子(はしご)の意とあるが、ここでは梯子の意。陟チョクは梯子を歩む、即ち高い所にのぼること。
意味 (1)のぼる(陟る)。高い所にのぼる。「陟降チョクコウ」(のぼったりおりたりすること) (2)すすむ。高い位につく。
騭[隲] シツ・チョク・のぼる  馬部
解字 「馬(うま)+陟(のぼる)」の会意形声。馬がのぼること。馬によってのぼること。は異体字。
意味 (1)のぼる(る)。「チョクコウ」(のぼりおり) (2)さだめる。「品ヒンシツ」(品物に評価を加える) (3)おすうま。雄馬。「牡ボシツ」(おすうま) (4)名前。「桑原くわばらじつぞう」(日本の東洋史学者。は異体字)
 チョク・はかどる  扌部  
解字 「扌(て)+步(=陟。のぼる)」の会意。手を使って高い所にのぼる意で、のぼる意にさらに手をくわえて、仕事などが一段とすすみ、はかどる意に用いる。新指定の常用漢字のため、右辺は「步」であるが、「歩」と表記しても可。
意味 はかどる(捗る)。仕事が早く進行する。「進捗シンチョク」(仕事が順調にすすむ)「捗捗(はかばか)しい」(物事が順調にすすむ様子=捗(はか)が行く)
<紫色は常用漢字>

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音符「喜キ」 <よろこぶ> と 「嬉キ」「禧キ」「鱚きす」

2018年10月11日 | 漢字の音符
 キ・よろこぶ  口部

解字 「壴(たいこ)+口(祈りの言葉)」の会意。口サイは神への言葉である祝詞を入れる器。喜は、神に祈りの言葉をささげるとき太鼓を打ち、神を楽しませること。神が喜ぶ意となる[字統]。
意味 よろこぶ(喜ぶ)。うれしがる。いわう。さいわい。「喜悦キエツ」(心から喜ぶ)「喜捨キシャ」(喜んで捨てる。金品を寄付する)「喜劇キゲキ

イメージ   
 「よろこぶ」
(喜・嬉・禧)
 「キの音」(鱚)
音の変化  キ:喜・嬉・禧  きす:鱚

よろこぶ
 キ・うれしい・たのしむ  女部
解字 「女(おんな)+喜(よろこぶ)」の会意形声。女が喜ぶこと。また、女とたわむれて喜ぶこと。
意味 (1)うれしい(嬉しい)。よろこばしい。「嬉々キキ」(よろぶさま) (2)たのしむ(嬉しむ)。あそびたわむれる。「嬉戯キギ」(あそびたわむれる)「嬉遊キユウ」(たのしみ遊ぶ)
 キ・さいわい  示部
解字 「示(祭壇・いのる)+喜(神がよろこぶ)」の会意形声。神をよろこばせて福を祈ること。
意味 さいわい(禧)。めでたい。吉礼の挨拶語。「新禧シンキ」「禧慶キケイ

キの音
<国字> きす  魚部
解字 「魚(さかな)+喜(キ)」の形声。魚の名前であるキスのキの音を表すことから、魚へんに喜をつけた。キスの名は、沿岸にすむ魚からキシ(岸)の変化した言葉とされる。
意味 きす(鱚)。キス科の海魚。ほとんどが沿岸の浅い海の砂底にすむ。
<紫色は常用漢字>


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音符「鬼キ」<おに> と「愧キ」「塊カイ」「魁カイ」「槐カイ」「醜シュウ」

2018年10月10日 | 漢字の音符
 キ・おに  鬼部

解字 甲骨文第一字と金文は「田(仮面)+人(ひと)」の象形。おそろしい顔の面をつけた人を表す。また、甲骨文第二字は、示(祭壇)を付けており神の前で仮面をつけて行なう祭祀を示している。おそらく鬼やらい(悪鬼を祓い疫病を除く)のような祭祀であろう。篆文から尻尾のような形でムが加わった。鬼の意味は多様であるが、古代文字で表されているのは、人に災いをもたらす悪霊であろう。そのほか、鬼は死者の魂、また、神として祀られた霊魂、の三つに大きく分けられる。
意味 (1)おに(鬼)。人に害を与えるもの。かいぶつ。ばけもの。悪い物、恐ろしい物、強い物を象徴する存在である。「邪鬼ジャキ」(邪悪な鬼) (2)おに。死者の魂。亡霊。「鬼籍キセキ」(過去帳)「鬼哭キコク」(死者の霊が恨めしげに哭くこと) (3)ひとがみ。神として祀られた霊魂。「鬼神キシン」 (4)強く大きい者。人間わざと思えない。「鬼才キサイ」 (5)[国]おに(鬼)。想像上の生物。角が生えふんどしをしている。「鬼が島」 (5)勇猛な者。「鬼将軍おにしょうぐん」 (6)残忍な者。「鬼婆おにばば
参考 鬼は部首「鬼おに・きにょう」になる。漢字の左辺や右辺(旁)また下部に付き、「おに」「霊的存在」などを表す。約14,600字を収録する『新漢語林』では22字が収録されている。
常用漢字 5字
 (部首)
 コン・たましい(鬼+音符「云ウン」)
 シュウ・みにくい(鬼+音符「酉ユウ」)
 (鬼+音符「未ミ」)
 (鬼+音符「麻マ」)
常用漢字以外
 バツ・(ひでり)(鬼+音符「犮ハツ」)
 ハク・たましい(鬼+音符「白ハク」) 

イメージ  
 「おに」
(鬼・愧・傀・醜) 
  強く大きい鬼から「おおきい」(嵬・隗・塊・槐・魁)
  「シュウの音」(蒐)
音の変化  キ:鬼・愧  カイ:傀・塊・槐・嵬・隗・魁  シュウ:蒐・醜

おに
 キ・はじる  忄部
解字 「忄(心)+鬼(おに)」の会意形声。この鬼は人に害を与える邪悪な鬼。邪悪な鬼が自分の行いをはずかしく思うこと。
意味 はじる(愧じる)。はじ。自分の見苦しい行ないをはずかしく思う。「慙愧ザンキ」(はじいる)「愧死キシ」(恥じ入って死ぬ。死ぬほどはずかしい)
 カイ  イ部
解字 「イ(ひと)+鬼(おに)」の会意形声。人に鬼が憑依(とりつく)した状態。人が鬼に操られるように動くこと。あやつり人形をいう。また、おおきい人の意もある。
意味 (1)あやしい。もののけ。 (2)くぐつ。でく。あやつり人形。「傀儡カイライ」(他人に操られる者)「傀儡くぐつ」(操り人形)「傀儡師カイライシ・くぐつシ」(各戸を回り人形を操って金品をもらった者。人形まわし) (3)おおきい。りっぱ。「傀偉カイイ
 シュウ・みにくい・しこ  鬼部
解字 「鬼(おに)+酉(=酒。さけに酔った)」の会意形声。酒に酔った鬼。音符は「酉ユウ」だが参考のため重出した。
意味 (1)みにくい(醜い)。けがらわしい。「醜悪シュウアク」「醜名シュウメイ」(悪い評判)「醜態シュウタイ」 (2)にくむ。きらう。 (3)しこ(醜)。みにくいものをののしる語。「醜女しこめ」「醜男しこお

おおきい
 カイ  山部
解字 「山(やま)+鬼(おおきい)」の会意形声。おおきく高い山。
意味 高くおおきい。「嵬峨カイガ」(高くけわしい山)「崔嵬サイカイ」(高くそばだつ)
 カイ  阝部
解字 「阝(おか)+鬼(おおきい)」の会意形声。おおきくけわしいおか。
意味 (1)けわしい(隗しい)。たかい。「隗然カイゼン」(けわしいさま)(2)人名。「郭隗カクカイ」(中国・戦国時代の燕の人)「隗カイより始めよ」(燕の昭王に賢者の求め方を問われ、賢者を招きたければ、まず凡庸な私(隗)を重く用いよ、そうすれば自分よりすぐれた人物が自然に集まってくる、と答えたという「戦国策」の故事から、大事業をするには、まず身近なことから始めよ。また、物事は言い出した者から始めよということ)
 カイ・かたまり  土部
解字 「土(つち)+鬼(おおきい)」の会意形声。土の大きいかたまり。のち、かたまりを言う。
意味 (1)土くれ。土のかたまり。「土塊ドカイ」(土のかたまり。土くれ) (2)かたまり(塊)。「金塊キンカイ」「肉塊ニクカイ」「凝塊ギョウカイ」(こりかたまったもの)
 カイ・えんじゅ  木部
解字 「木(き)+鬼(おおきい)」の会意形声。成長して大木となる樹。庭園や街路樹として植えられ、夏に木陰を提供する。日本では鬼の出入りするといわれる屋敷内の鬼門(東北の方角)に植えて災厄をさける木とされた。
意味 (1)えんじゅ(槐)。槐樹。マメ科の落葉高木。庭園や街路樹に植えられる。大木に育つ。 (2)周代の朝廷で三本の槐樹を植え、この樹下に座ることのできるのは最高位の三人の高官とされた。「槐位カイイ」(三人の高官の位。=三公・三槐サンカイ)「槐門カイモン」(大臣の別称)
 カイ・さきがけ・かしら  鬼部

魁星(「詞と星の名」より)
解字 「斗(ひしゃく)+鬼(おおきい)」の会意形声。原義は大きな柄杓(ひしゃく)。大きな天空の柄杓である大熊座の北斗七星に当て、特に枡の部分にあたる4つの星をいう。また、枡の部分の第一星を魁星カイセイと呼んだことから、さきがけの意となった。また、さきがけは先頭に立つ意であり、かしら・首領、すぐれる意となる。本来は斗が部首だが、なぜか鬼が部首になっている。
意味 (1)大きなひしゃく。 (2)おおきい。「魁偉カイイ」(大きく立派なさま) (3)北斗七星。「天魁テンカイ」「魁星カイセイ」(①北斗七星の第一星 ②科挙試験の首席合格者) (4)さきがけ(魁)。物事のはじめとなる。 (5)かしら(魁)。首領。「首魁シュカイ」 (6)すぐれたもの。「魁士カイシ」(すぐれた男子)

シュウの音
 シュウ・あつめる  艸部
解字 「艸(草)+鬼(シュウ)」 の形声。シュウという名の草。あかね草をいう。また、集シュウ(あつまる)・収シュウ(える)に通じ、あつめる意や狩りをする意がある。
意味 (1)あかね草。 (2)あつめる(蒐める)。「蒐集シュウシュウ」 (3)狩りをする。「蒐猟シュウリョウ
<紫色は常用漢字>

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音符 「身シン」 <からだ> と 「射シャ」「謝シャ」

2018年10月07日 | 漢字の音符
 身体の意味を表す「身シン」と、弓で射る意の「射シャ」。両者には同じ形の「身」が含まれるが、この二つの音符の関係は?

   シン <腹部がふくれた人>
 シン・み  身部

解字 甲骨文第一字は、腹部にふくらみをつけて強調した形。第二字はふくらみの中に点を入れた形。甲骨文では、腹部をさす[甲骨文字小事典]。金文は甲骨文の第二字を引き継ぐかたちだが、腹部の点を子とみなして妊娠する意ともなり、また、身体の意味でも使われた。現代は身体の意でつかわれる。
意味 (1)み(身)。からだ。「身体シンタイ」 (2)おのれ。みずから。自分。「自身ジシン」「身近みじか」 (3)なかみ。本体。「刀身トウシン」「黄身きみ」(卵黄)
参考 身は部首「身み・みへん」になる。漢字の左辺(偏)に付いて、人間の体の意を表す。常用漢字は身一字のみ。その他の主な字は以下のとおり。
 躯(身+音符「区ク」)、躰タイ(身+音符「体タイ」)
 躬キュウ(身+音符「弓キュウ」)、躾しつけ(身+美の会意)


    シャ <弓で矢をはなつ>
 シャ・いる  寸部     

解字 甲骨文は弓に矢の形。金文は弓に矢を手でつがえて放つ形で、「矢を射る」意味を表わす。篆文から、弓の部分が身と誤って書かれ、手⇒寸になった射となり現在の字に続いている。
意味 (1)いる(射る)。弓で矢をいる。「射撃シャゲキ」「射程シャテイ」(矢などが届く距離) (2)あてる。的にあてる。「照射ショウシャ」(光や放射線などを当てる)「射幸心シャコウシン」(偶然に当てようとする心)

イメージ  
 弓で矢を「はなつ」(射・謝・
音の変化  シャ:射・謝  ジャ:
はなつ
 シャ・あやまる  言部
解字 「言(ことば)+射(はなつ)」 の会意形声。言葉を放つ意であるが、あやまる、お礼をいう、ことわる等、多様な意味で用いられる。
意味 (1)あやまる(謝る)。「謝罪シャザイ」「陳謝チンシャ」(事情を陳べてあやまる) (2)お礼をいう。「感謝カンシャ」 (3)ことわる。「謝絶シャゼツ
 ジャ・シャ  鹿部
解字 「鹿(しか)+射(はなつ)」 の会意形声。においを放つ鹿の意。
意味 じゃこうじか(麝香鹿)。シカ科の動物で、鹿よりも小さく角がない。腹部から香料の麝香がとれる。「麝香ジャコウ」(麝香鹿の香嚢から製した黒褐色の粉末で、芳香が強く薫物(たきもの)に用い、薬用にもなる)「蘭麝ランジャ」(蘭の花と麝香の香り。よい香りのこと)
<紫色は常用漢字>

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音符「師シ」<軍の師団>「帥スイ」「獅シ」と「遣ケン」「譴ケン」

2018年10月06日 | 漢字の音符
  ※篩ふるいの解字を改めました。
 シ  巾部            

解字 「 帀ソウ+𠂤タイ(祭肉)」 の会意。𠂤タイ(祭肉)は軍が奉ずる祭礼用の肉でここでは軍の意味で使われている。帀ソウは、旗印または曲刀とされ軍事品のシンボル。両字をあわせて軍隊の意。師とは軍隊の分けられた師団のこと。また、その師団を率いる人から転じて、後に教え導く人の意となった[字統を参考]。
意味 (1)軍隊。いくさ。「師団シダン」「師旅シリョ」(古代中国の軍隊組織で500人を「旅」といい、五旅を「師」と言った。また五師で「軍」を構成した) (2)多くの人の集まる所。みやこ。「京師ケイシ」(みやこ。京都) (3)先生。「教師キョウシ」「師範シハン」 (4)専門的な技術をもった人。「医師イシ」「絵師エシ」 (5)「師走しわす」とは、日本で12月の異称。

イメージ 
 「祭肉を奉ずる軍隊」
(師・帥)
  「形声字」(獅・篩)
  「師走(12月)」(鰤)
音の変化  シ:師・獅・篩・鰤  スイ:帥

祭肉を奉ずる軍隊
 スイ・ソツ・ひきいる  巾部
解字 「巾(はた)+𠂤タイ(=師。祭肉を奉ずる軍隊)」  の会意。旗幟で軍隊を率いること。
意味 (1)ひきいる(帥いる)。したがえる。「帥先ソッセン」(2)軍をひきいる最高の将官。「元帥ゲンスイ」「統帥権トウスイケン」 (3)大宰府の長官。「大宰帥ダザイのソツ・ソチとも

形声字  
 シ  犭部
解字 「犭(けもの)+師(シ)」の形声。シと呼ばれる獣。ライオンは、サンスクリット語でシンハ、シンハラ語でシーハと呼ばれており、最初のシ・シーの音を師で表し、犭へんを付けた字。獅子の二語でライオンを表す。
意味 しし(獅子)。ライオン。また、ライオンに似た想像状の動物。「獅子シシ」「獅子吼シシク」(仏が説法するのを獅子が吼えているさまに例えた)「獅噛シがみ」(獅子の顔面を模様化したもの)「唐獅子からじし」(日本のしし[鹿・猪]と区別する言い方)「獅子舞ししまい
 シ・ふるい・ふるう  竹部
竹篩
解字 「竹(たけ)+師(シ)」の形声。シは徙(ゆく・すぎる・うつる)に通じ、竹でできた網目を通過させて、網目より小さいものをえり分ける道具をいう。この「竹+徙」の簁は、篩と通用する。
意味 (1)ふるい(篩)。竹や曲げ物など円い枠の底に網(以前は竹で編んだ網)をはった道具で、中にいれたものを振り動かして大小を選別する。「篩管シカン」(植物の維管束内の篩状の組織)(2)ふるう(篩う)。ふるいにかける。

師走(12月)  
シ・ぶり  魚部
解字 「魚(さかな)+師(=師走)」の会意。師は、師走(しわす)の意で12月を表す。鰤は、石川県から関西地方では歳取り魚とされ、年末年始に食べる文化があり、年末の12月に鰤を買うことから師走の魚の意。
意味 (1)[国]ぶり(鰤)。アジ科の海水魚。全長約1.5メートル。温帯性の回遊魚で、夏季に日本の沿岸沿いに北上し、冬季に南下する。成長するにつれて名前が変わる出世魚で最後の名前がブリとなる。定置網や1本釣りで漁獲される。俳句の季語は冬。「寒鰤カンぶり」(冬の日本海で漁獲される大きな鰤で美味) (2)中国の古書で、毒のある魚や老魚をいう。



     ケン <軍隊をつかわす>
 ケン・つかわす・つかう・やる  之部       

解字  甲骨文は祭肉(𠂤タイ)を両手で持つかたちで祭祀名として用いられている[甲骨文字辞典]。金文は、さらに彳(ゆく)と止(あし)が加わり、祭肉を持って行くかたち。この祭肉は軍を意味することが多く、金文で軍を派遣する意で使われる。字体は篆文をへて現代字は、辶(ゆく)に「中+一」(両手で持つの変化形)+㠯(祭肉)」がついた遣となった。意味は軍の派遣のほか、つかわす・さしむける意となる。祭肉は本来、𠂤タイで表される(例:追)が、遣の字では略体の㠯になっている。(この略体も官などで使われている)
意味 (1)つかわす(遣わす)。やる(遣る)。さしむける。「派遣ハケン」「遣唐使ケントウシ」(2)[国]つかう(遣う)。使用する。「金遣(かねづか)い」「仮名遣(かなづか)い」(3)~しむ。せしむ。使役の助字。

イメージ  
 「軍隊をつかわす」
(遣・譴)
  「その他」(鑓)
音の変化  ケン:遣・譴  やり:鑓

軍隊をつかわす
 ケン・せめる  言部
解字 「言(ことば)+遣の旧字(軍隊をつかわす)」の会意形声。軍隊をつかわし武力を背景にして話すこと。威圧的に相手をせめる・とがめる意となる。
意味 せめる(譴める)。とがめる。とがめ。「譴責ケンセキ」(①あやまちや不正をきびしくとがめ、責めること。②公務員などの過失にたいする懲戒処分のひとつ)「呵譴カケン」(しかりせめる=呵責)(2)とがめ。つみ。「天譴テンケン」(天のとがめ。天罰)

その他
 <国字> やり  金部
解字 「金(金属)+遣の旧字(やり=やるの連用形)」の会意。遣ケンは日本語で「やる(遣る)」の訓があり、その連用形「やり(遣り)」を鎗やりに掛けた国字。
意味 やり(鑓)。やり(槍)。やり(鎗)。武器の一種。長い柄の先に先を尖らせた刃をつけた武器。
<紫色は常用漢字>

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※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

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紛らわしい漢字 「基キ」 と 「墓ボ」

2018年10月04日 | 紛らわしい漢字 
「基キ」と「墓ボ」は、一見似たように見えるが、両字から土を取ると「其キ」と「莫ボ・バク」になる。この二つの音符が発するメッセージを理解すると、両字はすぐ分かるし書ける。ついでに「其キ」と「莫ボ・バク」が音符となる常用漢字も覚えよう。

  キ <箕のかたち>
 キ・その・それ  ハ部

解字 甲骨文・金文は、収穫した穀物を中にいれ、あおってカラなどを取りのぞく道具である箕(み)を描いた象形。篆文は、箕を台の上にのせた形を描く。しかし、本来の意味でなく仮借カシャ(当て字)されて、やや遠い所の物をさす語や助字となった。
意味 (1)その(其の)。それ(其れ)。人や物をさす語。「其処そこ」 (2)それ。語気を強めたり、語調を整える助字。
イメージ  
 「その(仮借)」(其・期)
 「箕のかたち・四角い」(箕・基・棋・碁・旗・欺) 
音の変化  キ:其・期・箕・基・棋・旗  ギ:欺  ゴ:碁  
そ の
 キ・ゴ  月部
解字 「月(月日)+其(その)」の会意形声。ある指定された、その月日。
意味 (1)とき。おり。決められた時。「時期ジキ」「任期ニンキ」「期末キマツ」 (2)ねがう。あてにする。「期待キタイ」「所期ショキ
箕のかたち・四角い
 キ・み  竹部
 竹の箕
解字 「竹(たけ)+其(箕のかたち)」の会意形声。其は箕のかたちの象形。そこに竹をつけて竹製の箕を表す。
意味 み(箕)。穀物を中にいれ、あおってカラなどを取りのぞく道具。また、ちりとり。「箕箒キソウ・キシュウ」(ちりとりとほうき。掃除をすること)「唐箕とうみ」(木製の機械式になった箕。中国から伝わったので唐の字がつく)
 キ・もと・もとい  土部
解字 「土(つち)+其(四角い)」の会意形声。四角い土の壇。この上にお堂などの建物が建つので、転じて物事のもとになるものの意。
意味 もとづく(基づく)。もとい(基)。「基本キホン」「基礎キソ」「基準キジュン
 キ  木部
解字 「木+其(四角い)」の会意形声。囲碁及び将棋で使う四角い木の盤。
意味 囲碁・将棋。また、碁盤・将棋盤や碁石・駒。「棋士キシ」「棋局キキョク」「棋譜キフ」(囲碁・将棋の手順の記録)「棋客キカク」(囲碁・将棋をする人。棋士)
 ゴ  石部
解字 「石+其(=棋。四角い木の盤)」の会意形声。四角い木の盤に碁石をおく遊戯。
意味 ご(碁)。「碁盤ゴバン」「囲碁イゴ」「碁石ゴイシ
 キ・はた  方部
解字 「方𠂉(はた)+其(四角い)」の会意形声。旗から其をとった形は、旗のゆらめくさまを描いた象形。そこに其(四角い)をつけた旗は四角いはたの意。
意味 はた(旗)。はたじるし。「旗手キシュ」「校旗コウキ」「旗艦キカン」(司令官が乗っている軍艦)
 ギ・あざむく  欠部
解字 「欠ケン(口をあけて立つ人)+其(=倛)」の会意形声。其は倛(鬼やらいの四角い面)の略体。欺は、面をかぶってしゃべり相手をあざむくこと。
意味 あざむく(欺く)。だます。「欺瞞ギマン」「詐欺サギ

   ボ・バク <太陽が草原にしずむ>
 ボ・バク・ない・なかれ  艸部

解字 甲骨文・金文・篆文とも「艸(草)+日(太陽)+艸(草)」で、草のあいだに日のしずむ形の会意。太陽が草原に没するさまから、日暮れの意味を表す。暮の原字。また、太陽が見えなくなることから、「ない」の意味に用いる。転じて、はてしない・むなしい意ともなる。現代字は上の艸が艹に、下の艸が大に変化した。
意味 (1)日ぐれ。おそい。 (2)ない(莫い)。なし。なかれ(莫れ)。 (3)大きい。はてしない。「莫大バクダイ」 (4)むなしい。さびしい。「寂莫ジャクバク
イメージ  
 「かくれる・かくす」(莫・暮・墓・幕・膜・模)
 かくれると何も「ない」(漠・募・慕)
音の変化  ボ:莫・暮・墓・募・慕  マク:幕・膜  モ:模  バク:漠  
かくれる・かくす
 ボ・くれる・くらす  日部
解字 「日(ひ)+莫(かくれる)」の会意形声。莫は、もともと日ぐれの意。莫が、ない意で使われるようになったので、日をつけて元の意味を表した。この字には、日が二つあることから、莫が暮の原字であることがわかる。
意味 (1)くれる(暮れる)。日がくれる。「日暮(ひぐ)れ」「薄暮ハクボ」「暮色ボショク」 (2)季節・年・人生などの終わり。「暮秋ボシュウ」(秋の終りのころ)「歳暮サイボ・セイボ」(年のくれ。歳末の贈り物) (3)[国]くらす(暮らす)。くらし。
 ボ・はか  土部
解字 「土(つち)+莫(かくれる)」の会意形声。土のなかに亡き人を埋めてかくす墓。
意味 はか(墓)。はかば。「墓穴ボケツ」「墓参ボサン」「墳墓フンボ
 マク・バク  巾部
解字 「巾(ぬの)+莫(かくす)」の会意形声。物をかくして見えなくする布。
意味 (1)おおい布。たれまく。「天幕テンマク」(テント)「暗幕アンマク」(暗くするために張る幕) (2)仕切りに使う劇場などのまく。「幕間まくあい」「第一幕」 (3)将軍が政治を行なう所。「幕府バクフ」「幕臣バクシン
 マク  月部にくづき
解字 「月(からだ)+莫(かくす)」の会意形声。身体の筋肉や器官をおおいかくす薄いまく。
意味 まく(膜)。身体の内部や表面をおおう薄い皮。「粘膜ネンマク」「鼓膜コマク」「網膜モウマク」「皮膜ヒマク」(①皮と膜。②わずかのちがい)
 モ・ボ  木部
解字 「木(き)+莫(かくれる)」 の会意形声。木で本物そっくりの形をつくること。また、本物の型をとること。莫は、本物はその中にかくれている意。
意味 (1)かた。ひながた。「模型モケイ」「模範モハン」(①模は木製の型、範は竹製の型、器物をつくる型。②見習う手本) (2)まねる。かたどる。「模造モゾウ」「模刻モコク」 (3)かたち。ありさま。「模様モヨウ」(4)手さぐりする(=摸)。「模索モサク」 (4)地名。「相模さがみ」(旧国名。今の神奈川県の大部分)「相模湾さがみわん」「相模川さがみがわ」(神奈川県中央部を流れて相模湾にそそぐ川)
ない
 バク  氵部
解字 「氵(水)+莫(ない)」の会意形声。水のない状態をいう。また、転じて、なにもないさまをいう。
意味 (1)すなはら。荒野。「砂漠サバク」(2)はてしないさま。とりとめのないさま。「漠然バクゼン」「空漠クウバク」(なにもなく広い)
 ボ・つのる  力部
解字 「力(ちから)+莫(ない)」の会意形声。足りていない力仕事をする人を求めるのが原義で、土木などの力役や軍役の人を求めることをいう。転じて、ひろくつのる意となる。
意味 つのる(募る)。広く求める。「募金ボキン」「募集ボシュウ
 ボ・したう  㣺部
解字 「㣺(心)+莫(ないもの)」の会意形声。亡き父母など、現実にない人や身近にないものを心でおもうことが原義。故人に限らず、したう意となる。
意味 したう(慕う)。思いをよせる。「慕情ボジョウ」(恋いしたう心)「敬慕ケイボ」「恋慕レンボ」(恋いしたう)
<紫色は常用漢字>

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特殊化した部首 「火カ」と「灬れっか」

2018年10月02日 | 特殊化した部首
 火が部首になるとき、火のかたちのままと、灬に変化する場合がある。灬は下部に置かれたとき変化するかたちで「れっか・れんが」と呼ばれる。

 カ・ひ・ほ  火部

解字 火の燃える形の象形(金文は単独字としては存在しないが、炎から1字を抜き出した)。「ひ」の意味を表わす。火は部首となり、火の意味で会意文字をつくる。
意味 (1)ひ(火)。ほのお。「火力カリョク」 (2)かじ。「火災カサイ」「失火シッカ」 (3)光りのあるもの。明かり。「灯火トウカ」 (4)五行(木・火・土・金・水)の一つ。「火星カセイ」  (5)七曜の一つ。「火曜日カヨウビ
参考 火は部首「火ひ・ひへん」になる。漢字の左辺(偏)や下部に付いて、火や火の状態を表す。常用漢字は14字、約14,600字を収録する『新漢語林』では194字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 火[部首]:灯[燈]トウ(火+音符「登トウ」) 
 焼ショウ(火+音符「尭ギョウ」)、煙エン(火+音符「垔イン」)
 燃エン(火+音符「然ゼン」)、燥ソウ(火+音符「喿ソウ」)
 爆バク(火+音符「暴ボウ」)、煩ハン(火+頁の会意)
 炉[爐](火+音符「盧ロ)、灰カイ(火+又の会意)
 災サイ(火+音符「巛サイ」)、炎エン(火+火の会意)

  「灬 れっか」の成立
熊ユウにみる「灬れっか」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の熊ユウ・くまの変遷、上に火の部分を抜き出した。

 篆文の火が「灬れっか」に変化するのは隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた字)からだが、ほとんどの字は、火から灬へと直接に変化しており、その中間段階は見いだせなかった。しかし、篆文の字体の一種である印篆インテン(印章に使われる篆字)にヒントとなる字体が見つかったので、それを収録した。熊ユウの下部の篆文第一字は火、第二字は印篆で、火はΛの左右に点がつく形。篆文第一字の火が人の左右に点がつくのに対し、第二字はΛの左右に点がつき、隷書から下部は4点になるので、火から灬への流れがたどれるかと思う。しかし、印篆の成立年代がはっきりわからず、この流れは推定にすぎない。

 火が下部に付いたとき、多くが部首「灬れっか・れんが」に変化する。常用漢字で12字、『新漢語林』では45字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 点テン(灬+音符「占セン」)、烈レツ(灬+音符「列レツ」)
 煎セン(灬+音符「前ゼン」)、照ショウ(灬+音符「昭ショウ」)
 煮シャ(灬+音符「者シャ」)、熟ジュク(灬+音符「孰ジュク」)
 熱ネツ(灬+埶ゲイの会意)、熊ユウ・くま(灬+能の会意)
 焦ショウ(灬+隹の会意)
 火の意味以外の「灬」
 無ム(灬を含む舞う姿の象形)、為イ(灬を含む象を手で使う形の会意)

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