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漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

同訓異字 「あらわす」 表す・現す・著す 

2021年01月03日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)本性を
(2)喜びを
(3)本を
 
「アラワ-す」(他動詞)は、「あらは(あらわ)」の動詞形です。
「あらは」とは、内部にかくれているものが、むき出しになってるさまです。おおいかくすものがないさまで、①まる見え。②あきらか。③人目につく。④表立つ。などの意味です。

「アラワ-す」(他動詞)は、「あらは(あらわ)」の状態を動詞化したもので、
①(形・ようす・感情などを)表に出して示す。
② 書物を書いて世におくりだす。
③ 内部にかくれていたものが、あらわれる。
などの意味をもちます。
漢字字典で「あらわす」を引くと主なもので8字ありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ヒョウ・おもて・あらわす・あらわれる  衣部             
   
解字 篆文は「衣+毛」の会意で、毛が衣の上下を分けて入っている字です。意味は毛皮の衣。毛皮の衣は、毛のあるほうが表なので、「おもて」の意味を表します。現代字は衣の上部(亠+毛)が、龶に変化し、下部が衣あしとして残っています。
意味 (1)おもて(表)。うわべ。「表面ヒョウメン」「表裏ヒョウリ」 (2)あらわす(表す)。あらわれる(表れる)。「表現ヒョウゲン」「表彰ヒョウショウ」「表敬ヒョウケイ」 (3)しるし。めじるし。「表札ヒョウサツ」 (4)事柄が一目でわかるように整理したもの。「図表ズヒョウ」「年表ネンピョウ

 チョ・チャク・あらわす・いちじるしい  艸部
解字 著の解字は諸説があり、どれと決めがたい。以下は、諸説を参考にしたうえでの私見です。
 著は「艸(くさ)+ショ(多くのものが集まる)」の会意形声。者の甲骨文は「焚火+口」の形で、焚火のまわりに多くの人が集まって口々に話をする形。これに言をつけた諸ショ(もろもろ・多くの)の原字。著の本来の意味は草の繊維を織り合わせて(集めて)作られた布の衣で、転じて、衣を着る意。草の繊維から布を織り衣ができることから、多くの材料を集めてはっきりとした形が「あらわれる」意となる。日本では「いちじるしい」という訓になる。また、「あらわれる」から転じて、あらわす意となるが、この場合は文章を書きあらわす意味で用いる。なお、衣を着る意は、俗字である「着チャク」が受け持つようになった。著は成り立ちから言うと、箸チョの竹冠⇒艸に変化した字で、隷書(漢代)から見える比較的新しい字。
意味 (1)いちじるしい(著しい)。あらわれる。めだつ。「顕著ケンチョ」「著名チョメイ」 (2)あらわす(著わす)。書きあらわす。「著作チョサク」「著述チョジュツ」 (3)着る。着く。

 ゲン・あらわれる  玉部
 色つやや肌理がさまざまな宝石・ウイキペディアより
解字 「王(玉)+見(みる)」の会意形声。人が玉(たま。宝玉)を見る形。玉は美しい石の総称であり宝石の意。宝石は地球内部の高温で圧縮されたマグマが地表に出てくる過程でできた鉱物のうち、質が硬く光沢が美しい石をいう。各種の宝石を見ると、その宝石に特有な色つやや肌理きめ(表面の細かい文様)が見えることから、(色つやや肌理が)あらわれる意となる。また、宝石を見ると、肌理や色つやが「まのあたりに、いま」あらわれる意ともなる。現世(この世)の意は仏教用語からきた。現の字は、楷書から現れた比較的新しい字。以前は見ケン・ゲンの字で、現の意味を表していた。例「彗星スイセイ東方に見(あらわ)る」「見金ゲンキン」(現金)「見任ゲンニン」(現任)
意味 (1)あらわれる(現れる)。あらわす。「出現シュツゲン」「表現ヒョウゲン」 (2)いま。まのあたり。「現在ゲンザイ」「現況ゲンキョウ」「現実ゲンジツ」 (3)うつつ。この世。「現世ゲンセ」「現身うつしみ」(現世の人の身)
<紫色は常用漢字>

問題と解答 
(1)本性を
(2)喜びを
(3)本を
回答
(1)は、本性というかくれていたものが、あらわれる意ですから「現」です。
(2)は、人の感情である喜びをおもてに、あらわす意ですから「表」です。
(3)は、書物を書いて世におくりだす意ですから、「著」です。
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同訓異字「すすめる」 進める・勧める・薦める

2020年12月21日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)あの人をめる
(2)入会をめる
(3)交渉をめる    

「スス-める」(他動詞)は、「スス-む(自動詞)」(前に向かって出る。先へ動く・行く)」の動作をさらに促進させることで、
① 「スス-む」状態から、物事を一歩先の状態にまで持ってゆく。はかどらせる。
② 相手に「スス-む」状態から、さらに先の動作をするよう働きかける。
③ 人・物事などの良い点をのべて、その採用を相手にうながす。
などの意味をもちます。
漢字字典で「すすめる」を引くと主なもので7字ありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 シン・すすむ・すすめる  之部

解字 金文は隹(とり)の左横に彳(ゆく)、下に止(あし)が付いた形。隹が止(あし・あるく)で彳(ゆく)形。篆文は彳と止が合体して辵チャクになり、現代字は辵⇒辶に変化した進になった。辶は移動する意味であり、隹が移動するとは、空を飛ぶ意。隹は飛んで上昇して前にすすむ。したがって、進の字には、①上昇する。②前にすすむ。の二つの意味がある。
意味 (1)すすむ(進む)。前に出る。「前進ゼンシン」 (2)すすめる(進める)。前に出させる。「進軍シングン」(軍隊を進める) (2)のぼる。あがる。「昇進ショウシン」(地位がのぼりすすむ)「進捗チンチョク」(①官位などをあげる。②物事がはかどる)(3)ささげる。たてまつる。「進上シンジョウ

 カン・すすめる  力部

解字 篆文は「力(ちから)+雚カン(カン)」の形声。カンは讙カン(やかましい)に通じ、やかましく言って力でおすこと。すすめる・説きすすめる意となる。雚カン(フクロウ科の鳥)は夜に仲間同士で鳴き交わして生活しており、「さわがしい・にきやか」のイメージがある。なお、雚は漢字字典ではコウノトリ科の鳥とされるが、文字の形からみて疑問がある。
意味 (1)すすめる(勧める)。はげます。奨励する。「勧誘カンユウ」「勧業カンギョウ」(産業を発展させるよう勧める)「勧進カンジン」(寺院・仏像のために寄付を募ること)(2)説得する。「勧告カンコク」(あることをするように説きすすめる)
音符「雚カン」へ

 セン・すすめる  艸部

解字 「艸(くさ)+廌タイ(不正を指摘する聖獣)」の会意。聖獣が食べる草の意。転じて、この草をきちんと揃えて聖獣にお供えし、すすめる意となる。また、草をそろえて供える形から敷物・こもの意ともなる。
意味 (1)草。細かい草 (2)すすめる(薦める)。人を選んで推挙する。「推薦スイセン」「薦挙センキョ」(人を挙げてすすめる)「自薦他薦ジセンタセン」 (3)しく。敷物。こも(薦)。「薦席センセキ」(こもを敷いた席)「薦被(こもかぶ)り」(薦でつつんだ酒樽)
音符「廌タイ(不正を指摘する聖獣)」へ
<紫色は常用漢字>

問題と解答
(1)あの人をめる
(2)入会をめる
(3)交渉をめる
回答
(1)は、人・物事などの良い点をのべて、その採用を相手にうながす意ですから、です。
(2)は相手にある動作をするよう働きかける意ですから、です。
(3)は物事を一歩先の状態にまで持ってゆく。はかどらせる意ですから、です。

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同訓異字「おかす」 侵す・冒す・犯す

2020年10月22日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)罪を
(2)国境を
(3)危険を

 「オカ-す」の語源は諸説があり定まったものはないようです。意味は「定めらた基準や範囲をこえて踏み込む」です。具体的には、①法律やおきてなどを「おかす」。②人の領土や権限などに入り込む「おかす」、③あたりをはばからず無理やり物事をおこなう「おかす」があります。漢字字典で「おかす」を引くと主なもので6字ありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ボウ・おかす  曰部

解字 金文から旧字まで「目(め)+冃ボウ(ずきん)」の会意形声。冃は頭衣(かぶりもの)で、冒は、かぶりものから目だけ出している形。目だけ出したカブト(甲冑)をかぶって進む意から、周囲がみえず無頓着に行動する意となる[字統]。新字体は旧字の冃 → 日に変化した冒となった。
意味 (1)おかす(冒す)。向う見ずにすすむ。無理にする。「冒険ボウケン」「冒進ボウシン」(向う見ずに進む) (2)神聖なものをけがす。「冒涜ボウトク」(神聖・尊厳をおかしてけがす)「冒名ボウメイ」(他人の姓名を偽ってなのる) (3)おおう。かぶりもの。 (4)(一番上の頭にかぶることから)はじまり。「冒頭ボウトウ」(文章や言葉の初めの部分)

 ハン・おかす  犭部
解字 金文は「犭(いぬ)+㔾(ハン)」の形声。ハンは範ハン(きまり・のり)に通じる。ここで犬は、人の悪者を犬に例えた使い方で、犯は法や道徳を破る人、また、その行為をいう。
意味 (1)おかす(犯す)。決められたのり(法・則)をおかす。「犯罪ハンザイ」(罪を犯す)「犯人ハンニン」「共犯キョウハン」 (2)道徳をおかす。「女性を犯す」

 シン・おかす  イ部                

解字 甲骨文は「牛+帚(ほうき)+又(て)」で、帚(ほうき)を手に持ち牛を追い出し他所の土地の家畜を奪うこと。甲骨文字では侵略・略奪の意味だという[甲骨文字辞典を参照した]。金文は牛が人に代わった字。家畜の他、人を奪う意と思われる。篆文は人⇒イになり、隷書レイショ(漢代)から帚(ほうき)の下部の巾を省略して又にした侵が出現して現代に至っている。意味は、[春秋穀梁コクリョウ伝](前漢)に「人民を苞(とりこ)にし、牛馬を殴(か)るを侵と曰う」とあり、この字の古代の意味を伝えている。現在は、他者の権利・権限をそこなう。特に、他国、他人の土地に不法に立ち入る(攻め込む)意で用いられる。
意味 おかす(侵す)。他の者の権利・権限をそこなう。他人の領分に入り込む。「侵害シンガイ」「侵略シンリャク」「侵犯シンパン

問題と解答 
(1)罪を
(2)国境を
(3)危険を
回答
(1)は法律やおきてを「おかす」意ですから「犯」です。
(2)は領土を「おかす」意ですから「侵」です。
(3)は無理やりことを行う「おかす」ですから冒険の「冒」です。

別の問題
(1)学問の自由をす。
(2)尊厳をす。
(3)過ちをす。
回答
(1)学問の自由という権利(自由権)をおかすので「侵」です。
(2)尊厳という神聖なものをけがすので「冒」です。
(3)過ちは法や規則をおかすこと以外に失敗の意味もありますが、いずれにしても良くない行動ですから「犯」を使います。さらに意味を拡大して「ミスを犯す」などにも使います。


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同訓異字「つとめる」 勤める・務める・努める

2020年09月19日 | 同訓異字
問題 次のに上の漢字を入れてください。
(1)大役をめる。
(2)技術向上にめる。
(3)工場にめる。

 「つとめる」というと普通、「力を尽くしてことを行うこと」というイメージがありますが、語源はなんと「ツト(夙)」(朝早く)に由来するそうです。「ツト-む」は、「朝早くから立ちはたらく意で、ものごとにつとめ精出すこと」と「字訓」にあります。「岩波古語辞典」にも「ツト-め」はツト(夙)と同根としています。「ツト-める」は活用変化したかたちです。
 そういえば「つと」を含む言葉は結構あります。「つとに」といえば「①朝早く、②早くから」という意味ですし、「つとめて」といえば枕草子の「春はあけぼの、冬はつとめて(早朝・あかつき)」などでおなじみですね。
 日本人は「つとめる」を、朝早くからはたらく意で用いましたが、漢字の伝来によりそれぞれの字の意味に合わせて使い分けるようになりました。漢字字典で「つとめる」を引くと20字以上が出ていますが、ここではよく用いる3つの漢字を紹介します。

 その前に、語源の「ツト」も漢字がありますので紹介します。
 シュク・つとに  凡部

解字 甲骨文字は月に向かって両手をのばして座る人の形(会意)。月に祈る形を表している。金文は「月+両手を出す人」、篆文は「夕+両手を出す人」の形。篆文の夕は夕方でなく月の意。夜のまだ明けやらぬうちから月を拝するさまで、早朝から(また、早くから)の意味を示す。現代字は「両手を出す人」の部分が「凡」に変化した「凡+夕」の夙になった。
意味 (1)つとに(夙に)。はやく。(A)朝早く。「夙起シュクキ」(朝早く起きる)(B)むかしから。「夙志シュクシ」(早くから抱いていたこころざし)。(2)あさ。早朝。「夙夜シュクヤ」(朝早くから夜おそくまで。また、早朝)

「つとめる」の漢字3種です
 キン・ゴン・つとめる  力部
勤の音符は堇キン  土部

解字 甲骨文は手を縛られ火の上に立つ人で、ひでりのとき犠牲の人を焚(や)いて雨乞いをする祭祀を表している(「字源(中国)」「字統」などを参照)。金文もほぼ同じ形を踏襲したが、篆文で下部が火⇒土に誤った変化をして意味も「ねばつち」や「ぬる」意となったが、形声字の音符になると「ひでり」、ひでりで実りが「わずか・すくない」イメージをもつ。
意味 (1)ねばつち。(2)ぬる。
キン・ゴンの解字
解字 旧字は勤で「力(ちから)+堇(日でり・艱難カンナン)」の会意形声。日でりの続く困難な状態の中で力のかぎりをつくすこと。つとめる・はげむ意となる。日本では会社・役所などで働く意味でも用いる。
意味 (1)つとめる(勤める)。精を出す。こまめに働く。「勤勉キンベン」「勤労キンロウ」 (2)[国]つとめ(勤め)。つとめる(勤める)。会社・役所などの従業員・職員として働く。また、その仕事。「勤務キンム」「銀行に勤める」「勤め人」 (3)つとめ(勤め)。寺での修行。「勤行ゴンギョウ」「本堂でお勤めをする」

 ド・つとめる  力部
努の音符は奴    

解字 「女(おんな)+又(て)」の会意。手で女を捕らえ、不自由化して奴隷にする意。女だけでなく男女の奴隷につかう。
意味 (1)しもべ。召使い。使用人。「奴隷ドレイ」「農奴ノウド」(領主に隷属して農業を行なう農民) (2)[国]やっこ(奴)。武家の下男。大名行列にお供の先をつとめた。「町奴まちやっこ」(江戸市中の侠客)「奴凧やっこだこ」 (3)やつ(奴)。他人をいやしめていう語。「奴等やつら
努の解字
解字 「力(スキ)+奴(農奴)」の会意形声。力は農具のスキの象形。農奴がスキで黙々と農作業をすること。
意味 (1)つとめる(努める)。はげむ。「努力ドリョク」「解決に努める」「完成に努める」 (2)[国]つとめて(努めて)。できるだけ。「努めて早起きする」 (3)[国]ゆめ(努)。「努努ゆめゆめ」(けっして)

 ム・つとめる  力部
務の音符は矛


銅矛(弥生時代後期)東京国立博物館蔵
解字 長い柄の先に、鋭い両刃の穂先をつけた槍のような武器の象形。金文は、上の曲線が刃先、途中の半環状のものは、銅戈写真の下部に見える、飾り紐をつける耳といわれる部分と思われる。この下に柄がつく。篆文は形が大きく変わり、これを受け継いで隷書レイショ(漢代)が成立、現代字へとつづく。矛は部首となるが、「ほこ」の意で音符ともなる。
覚え方 よ()の()ほこる(ほこ)は、盾を突きぬけ矛盾なし「予+ノ=矛
意味 ほこ(矛)。長い柄の先に両刃の剣をつけた武器。「矛盾ムジュン」(①ほことたて。②つじつまの合わないこと)「矛戟ボウゲキ」(戟は二つの刃先のあるほこ)
務の解字
解字 「攵(つく)+力(ちから)+矛(ほこ)」の会意形声。矛を力をいれて突くこと。戦いの場などで力いっぱい役目を果たす意となる。攵ボクは、もとの形は攴ボクで「うつ」意。ここでは矛をつく意となる。
意味 (1)つとめ(務め)。やくめ。自分の役割としての仕事。「業務ギョウム」「公務コウム」「任務ニンム」 (2)つとめる(務める)。自分の役目にはげむ。「勤務キンム」「議長を務める」「主役を務める」「親の務め」 (3)つとめて(務めて)。ぜひとも。「務必ムヒツ」(かならず)

問題と正解 
(4)大役をめる。
(5)技術向上にめる。
(6)工場にめる。
正解
(1)大役を「つとめる」は、役割を果たすことですから、矛を持って自分の役割をする務が正解です。
(2)技術向上に「つとめる」は努力する意ですから、努が正解です。
(3)工場に「つとめる」は日本では、精を出す・こまめに働く意である勤が慣用的に使われます。

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同訓異字「さく」 割く・裂く・咲く

2020年09月15日 | 同訓異字
問題 次のに上の漢字を入れてください。
(1)仲をく。
(2)花がく。
(3)時間をく。

 「サ-く」の語源は、ひとつにまとまっているものを二つにはなす意です。手をもちいて、ひきやぶる・やぶく意になり、刃物をもちいると切り開く意になります。「サ-く」は目的語をとる他動詞ですが、「サ-ける」は自動詞形です。
 なお、花が「サ-く」は、花のつぼみが開くことですが、花弁が「サ-ける」(裂ける)ように広がることから、ひとつにまとまっているものを二つにはなす意である「サ-く」と同源の言葉といえます。
 今回は、二つにはなす意の「サ-く」から二文字、つぼみがさく意の一文字を紹介します。

二つにはなす意
 レツ・さく・さける  衣部
裂の音符は、列レツ

解字 篆文は「刂(刀)+毛髪のある頭骨(巛+夕)レツ」の会意。「巛+夕」は、「巛(毛髪)+夕(=歹。死者の骨)」で毛髪のある頭骨の意。これに刂(刀)がついた列は毛髪のある頭骨(死者の頭部)を刀で切りはなす形で、「きりはなす」が原義。また、古代の墓(殷墓)では、切りはなした頭骨をいくつも、墓の出入り口に並べて、悪邪をさえぎる呪いとしたので「ならべる」意味となる(字統を参考にした)。現代字は、「巛+夕」(毛髪のある頭骨)⇒歹ガツ(死者の骨)に変化した列レツになった。列は、ならべる意味が中心となり「きりはなす」意味は音符に残る。 意味(1)つらねる(列ねる)。つらなる(列なる)。(2)ならべる。ならんだ順序。
裂の解字
解字 「衣(ころも)+列(切りはなす)」の会意形声。衣の布地を切りはなすこと。日本語では、ひきさく意になる。
意味 (1)さく(裂く)。ひきさく。「布を裂く」「生木を裂く」。さける(裂ける)。「決裂ケツレツ」「亀裂キレツ」「裂傷レッショウ」 (2)[国]ひきはなす。「二人の仲を裂く」 (3)ばらばらに分かれる。「分裂ブンレツ」「破裂ハレツ」「炸裂サクレツ」(爆弾などが破裂すること)

 カツ・わる・わり・われる・さく  刂部
割の音符は害ガイ

解字 金文は、「取っ手のある大きな針+口サイ(うつわ)」からなる。口は神への願いの文をいれる器の口サイで、これを大きな針で突き刺して、器の中の願いの目的を失わせること[字統]。そこなう、願いがさまたげられるので、わざわいが起きる意となる。篆文以降は「宀(やね)+丯カイ(キズをつける)+口(うつわ)」の会意に変化したが意味は同じ。害を音符に含む字は、「そこなう」、大きな針を「さしこむ」イメージがある。新字体は丯の下が付き出ない。 意味(1)そこなう(害う)。傷つける。(2)さまたげる。じゃまをする。「妨害ボウガイ」(3)わざわい。災難。「災害サイガイ
割の解字
解字 「刂(刀)+害(そこなう)」の会意形声。刀で切って物を損なうこと。
意味 (1)わる(割る)。分ける。「分割ブンカツ」「割譲カツジョウ」(土地などを割いて他に譲る) (2)さく(割く)。きる。切って取る。「割烹カッポウ」(肉を割いて煮る。料理すること) (3)さく(割く)。一部を切り分けて他に振りむける。「時間を割く」「紙面を割く」「人手を割く」 (4)わりあい(割合)。比率。「五割ごわり

花が開く
 ショウ・さく  口部            

解字 篆文は、「竹+夭」で笑と同じ。隷書レイショに属する後漢の石碑の文字から、「口+关」 の咲ショウが出現した。关は笑(わらう)の竹かんむり⇒ソに、夭⇒天に変化した俗字(略字)とされ、咲は口をあけて笑う意。この字は、笑の篆文第一字の「口夭」との関連もふかい。すなわち、笑と咲は異体字の関係にある。
 なお、日本では笑ったとき口もとのほころびるさまを花の開くさまに例え、花が咲く意味で江戸時代から使い始めた。今日ではこの用法が一般化し、咲は「花が咲く」意となり、わらう意どころか、発音のショウも忘れられた存在になっている。
意味 (1)わらう。笑う。えむ。 (2)[国]さく(咲く)。「花が咲く」「遅咲(おそざ)き」 (3)名乗り(名前に使用)として「えみ・さ・さき・さく」がある。

問題と正解
(1)仲をく。
(2)花がく。
(3)時間をく。
正解
(1)仲を「さく」は、二人の仲を「ひきはなす」意味ですから、衣(布)を切り離す意から派生した意である「裂く」になります。
(2)花が「さく」は、花が開く意ですから、日本では笑うから変化した俗字の「咲く」が正解です。中国では、花が咲くことを「開花」と表現します。
(3)時間を「さく」は、全体の一部を分ける(分割)意味ですから、割くが正解です。
※なお、(1)(3)の「さく(裂く・割く)」の発音アクセントは、さく(HL)、(2)の「さく(咲く)」は、さく(LH)となり、話し言葉ではアクセントで区別しています。(Lはlowで低い。Hはhighで高い)

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同訓異字「しめる」 占める・閉める・締める・絞める

2020年09月07日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)首をめる
(2)店をめる
(3)帯をめる
(4)土地を買いめる

 「シメ-る」の語源「シメ」は二つあり、ひとつは「シメ(締)」で、まわりから強い圧力をくわえて、ものの隙間やゆるみをなくす意です。もうひとつは「シメ(標)」で、土地の領有を示し、また場所を守るために杭などを立てたり、縄を張る(しめ縄)などして標(しるし)とするものです。なお、この他に「しみ-る(染みる・浸みる)」の他動詞形である「シメ-る(湿る)」がありますが、ここでは省略させていただきます。

 古代の日本人は、「しめ-る」という言葉で、上記の内容を含む表現をしていたと思われますが、漢字が伝来してその意味を知ることにより、漢字を用いてより明確な意味で用いるようになりました。
 今回は一つ目のシメ(締)の意味から二つの漢字。二つ目のシメ(標)の意味から二つの漢字を紹介します。

 テイ・むすぶ・しめる  糸部
音符の解字 締の音符は帝テイ

解字 甲骨文字で分かるように、三本脚の祭卓の脚をH印でしばった形の安定した大きな祭壇をいう。金文から祭卓に供物(-印)をのせる。最も尊い神を祀るときの祭卓で、その祭祀の対象となるものも帝とよんだ[字統ほか]。帝には、祭卓の脚部を「むすぶ」イメージがある。
テイの解字
解字 「糸(ひも)+帝(むすぶ)」の会意形声。糸(ひも)でしっかりと結ぶこと。むすぶ、転じてとりきめる意。日本では、ゆるみのないようにしめる意で用いる。
意味 (1)むすぶ(締ぶ)。とりきめる。「締結テイケツ」「締約テイヤク」 (2)しめる(締める)。しまる(締まる)。しめくくる。「帯を締める」「締め込み」(力士のふんどし)「ネジを締める」「心を引き締める」「締め切り」

 コウ・しめる・しぼる  糸部
音符の解字 絞コウの音符は交コウ

解字 人が脚を交差させた姿の象形。X型に交わる意味をしめす。
コウの解字
解字 「糸(ひも)+交(交差させる)」の会意形声。糸(ひも)を交差させてしめること。ひもを人の首(くび)にかけ交差させて両端をひっぱり「くびる」意である「しめる」として用いられることが多い。日本では、「しぼる」(ねじる)意でも用いられる。
意味 (1)しめる(絞める)。「絞殺コウサツ」(絞め殺す)「絞首コウシュ」(首を絞める)「絞罪コウザイ」(絞首刑に相当する罪) (2)[国]しぼる(絞る)。「絞り染め」

 セン・うらなう・しめる  ト部

解字 甲骨文第1字は、肩甲骨の象形の中に卜(うらない)と祭祀を象徴する口サイを描いた形で、甲骨占卜センボク(うらない)を表現した会意文字。第2字は肩甲骨を省いたかたち。意味は甲骨の卜兆(ひびわれ)を見て将来を判断すること[甲骨文字辞典]。春秋戦国以降、現在まで第2字の形が続いている。なお、この字は占う意のほかに「占める」意がある。この意味は甲骨の上に占う文字をきざみ連ねて、文字が甲骨の上を「占める」からとされる。この意味から占の音符を含む字は「場所をしめる」イメージを持つ。
意味 (1)うらなう(占う)。うらない(占)。「占卜センボク」(うらない。占も卜も、うらなう意) (2)しめる(占める)。「占有センユウ」「占拠センキョ」(場所を占めて他人をよせつけない)「独占ドクセン

 ヘイ・とじる・とざす・しめる  門部
音符の解字 閉の音符は才サイ

解字 杭などの先に目印をつけ境界などをしるしたもの。しるし(標し)・標識。甲骨文字は在ザイの原字として「ある」意味で使われている。金文でも「正月に才(あ)り」など在の意味で用いられているが、財ザイ(たから・価値あるもの)の意でも使われる例があり、意味が「ある」から「価値あるもの」へと変化していった。のちに「才能ある」「生まれつきの素質」などの意味になった。。
ヘイの解字
解字 「門(もん)+才(しるし・標識)」の会意。門の前にしるし(標識)が立てられたかたち。このしるしは境界を表し、門を入ることを禁ずる意。すなわち、門をとじる・しめる意となる。
意味 (1)とじる(閉じる)。とざす(閉ざす)。しめる(閉める)。「閉鎖ヘイサ」「閉門ヘイモン」 (2)とじこもる。とじこめる。「閉塞ヘイソク」 (3)おわる。「閉会ヘイカイ
<紫色は常用漢字>

問題と正解
(1)首をめる
(2)店をめる
(3)帯をめる
(4)土地を買いめる
正解
(1)首を「しめる」は、首に紐をかけ交差させて「しめる」ことですので、正解は音符・交コウが入った絞です。
(2)店を「しめる」は、店を閉ざす意味ですから閉が正解です。
(3)帯を「しめる」は、帯をゆるみやすきまのないように「しめる」意ですから、締が正解です。なお、「締める」は「気を引き締める」のように人の気持ちや心を「しめる」意でも使います。
(4)土地を買い「しめる」は、場所の領有を示すことですから占が正解です。

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同訓異字 「あつい」 暑い・熱い・厚い

2020年08月28日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)いお茶
(2)い夏
(3)い友情

 「あつい」の語源は「アツ-まる(集まる)」のアツではないかと思います。集まる意のアツは、多くのものが一つの所に寄り合う・群がる、また集中する意味です。「集まる」は「集む」(文語形)「集める」(他動詞)の形にもなりますが、「アツ-い」という変化はありません。
  「アツ-い」という形になると、①火が集まって大きな熱をもち「あつ-い」意になります。②また、集まり重なることから、物質が集まり重なると、その上面と下面のへだたりが「あつ-い」意になります。

 古代の日本人は、「あつ-い」という言葉で、上記の二種類の表現をしていたと思われますが、漢字が伝来してから火や熱の「あつ-い」は、火が「あつ-い」と、太陽が「あつ-い」二種類の漢字を使い分けるようになりました。また、集まり重なりへだたりのある意の「あつ-い」は、これ以外に心が「あつい」意味でも用いられるようになりました。漢字伝来により「あつ-い」は意味が限定された多くの言葉に変化したと思われます。
 漢字字典で「あつ-い」を引くと、10字以上の漢字がありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ネツ・あつい  灬部
音符の解字 熱の音符は埶ゲイ・セイ

解字 甲骨文は両手で苗木をもってひざまずく人の形で、木を植え育てる様子を表す。金文は左辺が、木の下に土を加えた形。篆文は「坴(土の上に木がある形の変形字)+丮ケキ(人が両手を出した形)」の会意。ひざまずいた人が両手を出して土の上の木を手入れして育てている形。いずれも「植物に手を加えて育てる」意となる。現代字は、篆文の右辺が、丮⇒丸に変化した。
※埶ゲイの左辺の「坴」は、陸の右辺と同じ形だが、成り立ちの違う字。 
意味 (1)うえる。草木をうえる。 (2)いきおい。
 ネツ・あつい  灬部
解字 「灬(火)+埶(草木を植え育てる⇒育てて大きくする)」の会意。火を大きくしてゆくこと。草木を植え育てるように、たきぎに火をつけて火をおおきくしてゆくこと。火が発するネツ(温かさやあつさ)をいう。初期の火は温かく、大きくなった火は熱い。
意味 (1)ねつ(熱)。ほてる(熱る)。人の体温およびそれを超える温かさ。「平熱ヘイネツ」「微熱ビネツ」「発熱ハツネツ」「熱病ネツビョウ」「熱帯ネッタイ」 (2)あつい(熱い)。高温で手を触れられない。「熱湯ネットウ」「灼熱シャクネツ」(焼けて熱い) (3)あつい(熱い)。夢中になる。心をうちこむ。「熱心ネッシン」「熱意ネツイ」「熱狂ネッキョウ

 ショ・あつい  日部
解字 「日(太陽)+者(=煮シャ・ショ)」の会意形声。者シャは同音符字を含む煮シャ(にる)に通じ、太陽の光が煮えるような熱さの気候をいう。
意味 (1)あつい(暑い)。気温が高い。あつさ。「避暑ヒショ」 (2)夏。あつい季節。「暑中ショチュウ」(夏の暑いあいだ)「暑気ショキ」(夏のあつさ)

 コウ・あつい  厂部

解字 甲骨文字・金文・篆文とも「厂(石の略体。岩)+享キョウの倒立字(先祖を祀る建物)」の会意形声。享キョウは、先祖を祀る建物の形で祖先神に飲食物をたてまつり、祖先神をもてなす意を表わす。それに厂(石の略体。岩)がついた厚は、岩を刳りぬいて作った祖先を祀る堂、即ち墓を表す。地下にあるので享を倒立させて描 いている。いわゆる崖墓ガイボの一種をいう。漢代の黄河中下流域では、岩や崖を刳り抜き、地下に壮大な祖先を祀る堂を造り、祖先を厚く供養する諸侯や貴族の墓が作られた。これが厚葬である。心をこめて先祖を祀ることから、心のこもった・ねんごろの意となる。のち、厚みがある意でも使われる。現代字は、厂の中が「日+子」に変化した。
 なお、甲骨文字にも厚の字があるが、地名またはその長の意。金文は、多い・大きい意で用いており「厚福豊年」は、福が多く年(みのり)豊かの意。祖先神をもてなし一族の繁栄を願ったのであろう。後漢の[説文解字]は山稜が厚い意味とし、心がこもる・ねんごろ以外に「厚みがある」意でも使われるようになった。
意味 (1)あつい(厚い)。心がこもる。ねんごろ。たいせつにする。「厚意コウイ」「厚情コウジョウ」「温厚オンコウ」(おだやかで情に厚い) (2)あつい(厚い)。ぶあつい。「厚紙あつがみ」「重厚ジュウコウ」(重々しくしっかりしている)「肉厚にくあつ」 (3)あつかましい。「厚顔コウガン
<紫色は常用漢字>

問題と正解 
(1)いお茶
(2)い夏
(3)い友情
正解
(1)は高温であつい湯のお茶ですから、灬(火)がついた熱ネツです。
(2)は太陽のあつさですから、日がついた暑ショです。
(3)は友達を大切にする心ですから厚コウになります。
※なお、(1)(2)の「あつい」の発音アクセントは、あつい(LHL)、(3)の「あつい」は、あつい(LHH)となり、話し言葉ではアクセントで区別しています。(Lはlowで低い。Hはhighで高い)

<参考:厚のなかの倒立字のもとの形>
 キョウ・うける  亠部

解字 甲骨文・金文は、基礎となる台の上に建っている先祖を祀った建物の象形で「高」の字と似た高い建物を表す。祖先神に飲食物をたてまつって、祖先神をもてなす意を表わす。また、その結果、神の恩恵を受ける意ともなる。篆文は亯となったが、形のことなる第二字が出現し、現代字はその字の系統を受けつぎ、さらに下部が子になった。(音符「享キョウ」を参照)
意味 (1)たてまつる。すすめる。ささげる。「享祭キョウサイ」(物を供えて神を祭る) (2)(祖先神を)もてなす。ふるまう。「享宴キョウエン」(もてなしの酒盛り) (3)(神の意志を)うける(享ける)。受け納める。「享年キョウネン」(神からさずかった年数)「享楽キョウラク」(楽しみを受ける。十分に楽しむ)
参考 享キョウの音符字には心が「あつい」訓がある字が多い。
<例>
淳ジュン:淳(あつ)い。 
惇ジュン:惇(あつ)い。 
醇ジュン:醇(あつ)い。 
敦トン:敦(あつ)い。


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同訓異字「おさめる」 修める・治める・収める・納める

2020年08月23日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)国をめる
(2)学問をめる
(3)税金をめる
(4)成功をめる

「おさめる」の語源は「オサ(長)」で、多数の人の上に立ち、人々を統率し支配する者とする説が有力です。「オサ-む」は動詞化した言い方。「オサ-まる」「オサ-まり」「オサ-める」などは、「オサ-む」の活用変化です。

「おさ-める」は、「オサ(長)」が行う活動を表し、①人々の長となって世の中や物事を安定した整った状態にする意味がある。そして、整った状態にする意から、②個人が整った状態になるため学問・技芸などを身につける意味ともなる。また、派生の意味として、③物品を整った状態にして保管する意味にも使われる。さらに、④保管する場所に入れる。しいては手に入れる意味ともなる。

 古代の日本人は「おさ-める」という言葉で、上記の内容を含む多様な表現をしていたと思われるが、漢字が伝来してその意味を知ることにより、これまでの表現をそれぞれの漢字に当てはめて用いるようになった。漢字によって今までの表現がより明確化され、また漢字に訓を与えることにより漢字を日本語化したともいえる。
 漢和辞典で「おさめる」を引くと、20以上の漢字がありますが、今回は代表的な4つに限定して紹介します。

 チ・ジ・おさめる・おさまる・なおる・なおす  氵部
解字 「氵(水)+台(ジ・チ)」の形声。後漢の[説文解字]は山東省にあった川の名前としている。のち、中国南北朝時代の字典である[玉篇](543年)に「修治なり」とし川を治める意味になった。なぜ、川の名が治水の意味になったか不明であるが、この川で大規模な堤防工事などが行われたのかも知れない。その後、川を治めることは国を治めることになり、さらに病気をおさめる(なおす)意ともなった。
意味 (1)おさめる(治める)。水をおさめる。「治水チスイ」「治山チサン」(洪水を防ぐために植林する) (2)おさめる(治める)。おさまる(治まる)。乱れを正す。取り締まる。「治安チアン」 (3)(国を)おさめる(治める)。領地を治める。「政治セイジ」「統治トウチ」 (3)(病気を)なおす(治す)。なおる(治る)。おさまる(治まる)。「治療チリョウ」「治癒チユ」「全治ゼンチ」「痛みが治(おさ)まる」「咳が治(おさ)まる」

 シュウ・シュ・おさめる・おさまる  イ部
音符の解字 修の音符は攸ユウ・ユ。

金文は、「イ(人)+ 三つの点(水のたれるさま)+攴ボク(木の枝でたたく)」の会意。人の背中に水をかけ、手にもった枝葉でたたいて身を洗い清めること。篆文は、三つの点⇒タテの棒線に変化し、さらに現代字は、攴⇒攵に変化した攸になった。身を洗い清める意で、悠の原字。
修の解字 「彡(かざり)+攸(身を清める)」の会意。身を清めてから、新らたに飾り(彡)を身につけること。身を清める行をおえて、新たなものを得ること。
意味 (1)おさめる(修める)。学んで身につける。「修学シュウガク」(学問を修め習う)「修行シュウギョウ・シュギョウ」(学業や技芸を学び修める)「研修ケンシュウ」(研(みが)き修める) (2)形をととのえる。「補修ホシュウ」「修理シュウリ」 (3)かざる。模様をつける。「修飾シュウショク」「修辞シュウジ」(言葉を飾り立てること) (4)梵語の音訳語。「阿修羅アシュラ」(天上の神々に戦いを挑む悪神)「修羅場シュラば」(はげしい戦闘の場)

 ノウ・ナッ・ナ・ナン・トウ・おさめる・おさまる  糸部
音符の解字 納の音符は内ナイ。

内ナイは、甲骨文・金文とも「入(はいる)+建物」の形。建物に入る形で建物のなかを示す。篆文から入の上部が建物と一体化し、上につき出た形になった。旧字は「冂+入」の形だが、新字体は、入⇒人に変化した内になった。
納の解字 「糸(ぬの)+内(建物の中にいれる)」の会意形声。貢物としてきた布帛(布や絹)を倉の中にいれること。
意味 (1)おさめる(納める)。倉・役所の中にいれる。ひきわたす。「収納シュウノウ」「受納ジュノウ」「納屋なや」(物置小屋)「納戸なんど」(調度品等をしまう部屋)「納豆ナットウ」 (2)おさめる(納める)。支払う。差し出す。「納税ノウゼイ」「献納ケンノウ」(金品をたてまつる) (3)[国]しめくくる。「納会ノウカイ」「歌い納める」「見納(みおさ)め」。

[收] シュウ・おさめる・おさまる  又部  
解字 旧字は收で「攵(=攴。たたく意)+丩(=糾。あざなう)」の会意。あざなった縄や紐で人をたたき、括ってとりこむこと。もともとは、強制的に捕らえて収容すること。のち、手に入れる。受け取る。などの意で使われるようになった。新字体は旧字の攵⇒又に変化。
意味 (1)おさめる(収める)。ある範囲のなかに入れる。手に入れる。あつめる。とりいれる。「収穫シュウカク」(農作物を取り入れること。得たもの)「収益シュウエキ」(利益をあげる)「収入シュウニュウ」(一定期間に個人が得た現金やその等価物)「収録シュウロク」「収容シュウヨウ」(収も容も、受け入れる意)「手中に収める」「目録に収める」「効果を収める」 (2)おさまる(収まる)。安定した状態になる。「収束シュウソク」(おさまりがつく)「収縮シュウシュク」(縮んで収まる。ちぢまること) (3)とらえる。つかまえる。とりあげる。「収監シュウカン」(監獄に収容する)「収用シュウヨウ」(強制的に取り上げること)「徴収チョウシュウ」(とりあげる) 
<紫色は常用漢字>

問題と正解
(1)国をめる
(2)学問をめる
(3)税金をめる
(4)成功をめる
正解
(1)国を「おさめる」意は、川を「おさめる」意の治が正解です。川を治めることが国を治める意味に拡大しました。黄河・長江などの洪水にたびたび悩まされた中国では、まさに治水が国を治めること。日本も同様で為政者は治水を行いました。現在も治水は国を治める最重要事項の一つです。
(2)学問を「おさめる」は、②の個人が整った状態になるため学問・技芸などを身につける意味ですから、学んで身につける意の修シュウが正解です。
(3)税金を「おさめる」は、物納である絹などの布帛を税として建物の内側に入れるかたちの納ノウが正解です。
(4)成功を「おさめる」は、日本的なかたちの用法です。正解は収シュウですが、収の本義は糾(あざな)った縄で人をとらえて収容する意ですが、転じて、手に入れる・とりいれる意になりました。日本では、成果や成功など良い結果を手にすることを「おさめる」と表現します。農作物を取り入れる「収穫シュウカク」という熟語に影響されたのかも知れません。

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同訓異字「いたむ」 「痛む」「傷む」「悼む」

2020年08月19日 | 同訓異字
問題 に漢字を入れてください。
(1)恩師の死を
(2)屋根が
(3)足が

「いたむ」の語源は「イタ」で、程度のはなはだしいさまをいい、「イタ-む」は「イタ(程度のはなはだしいさま)+む(動詞化)」で、イタを動詞化した言葉。同じ語源に「イタ-く」(連用形)「イタ-い」(形容詞)などがある。

「いたむ」は、①程度はなはだしく感じる意から、②身体が苦痛を感じる、③心が苦しいさま。④さらに転じて、器具が破損するさま、⑤食物が腐敗するさま、などにも使われる。
古代の日本人は、「いたむ」という言葉で、上記の内容を含む表現をしていたと思われるが、漢字が伝来してから「イタむ」という概念を漢字によって区別するようになった。漢和辞典で「いたむ」を引くと、20以上の漢字があるが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ツウ・いたい・いたむ・いためる  疒部
解字 「疒(やまいだれ=病気)+甬(=通ツウとおる)」の会意形声。身体の中を突き通るような激しいいたみの意。中国語の辞書には「いたみ」という日本語はありませんから、痛の字の意味を「疾病・創傷等が引き起こす受け入れ難い感覚」と説明しています。つまり「いたい」のです。「イタむ」では②身体が苦痛を感じる意になります。また、中国語でも意味③の心が苦しいさまの意でも使います。さらに、「イタむ」の原義である①程度はなはだしく感じる意から、痛快・痛烈の意ともなります。
意味 (1)いたい(痛い)。いたむ(痛む)。いためる(痛める)。「痛風ツウフウ」「腰痛ヨウツウ」「痛手いたで」(①重い手傷。②ひどい打撃・損害) (2)(心が)いたむ(痛む)。なやむ。「痛恨ツウコン」「心痛シンツウ」 (3)いたく。はげしく。「痛快ツウカイ」「痛烈ツウレツ

 ショウ・きず・いたむ・いためる  イ部  

解字 これは難解な字。この字のどこを見ても「きず」の意味は出てこない。私は「六書通」にある異体字から説明している。篆文第一字は「六書通」にある異体字で、「矢+人の変形+昜(あがる)」の会意形声。昜ヨウは太陽があがる意で陽の原字。下からあがってきた矢にあたり人がキズつくこと。𥏻は正字ではないが、傷の成り立ちを探るうえで手掛かりとなる字。第二字は正字で、矢の代わりに人が付いて人がきずつく意とする。現代字は、「イ(人)+𠂉(ひと)+昜(あがる)」の傷になった。
意味 (1)きず(傷)。けが。「傷病ショウビョウ」「重傷ジュウショウ」「深傷ふかで」(重傷。深手) (2)きずつく。きずつける。「傷害ショウガイ」「中傷チュウショウ」(悪口を言って人を傷つける) (3)いたむ(傷む)。いためる(傷める)。かなしむ。「傷心ショウシン」「感傷カンショウ」(感じて心をいためる) (4)[国]器物・建物などをそこなう。「屋根が傷(いた)む」


 トウ・いたむ  忄部
解字 「忄(心)+卓(=掉トウ。振り動かす)」の会意形声。心が振り動かされる状態をいい、おそれる、かなしむこと。かなしむ意から人の死をいたむ意となる。
意味 (1)おそれる。悲しむ。「悼懼トウク」(悲しみおそれる) (2)いたむ(悼む)。人の死を悲しみ嘆く。「哀悼アイトウ」「追悼ツイトウ」「悼惜トウセキ」(人の死をいたみ、おしむ)

問題と正解
(1)恩師の死をむ 
(2)屋根が
(3)足が

(1)人の死を「いたむ」場合は、悼むを用います。この字は人の死を悼む場合の専用に使われます。中国から悼という漢字が伝来し、この字の意味を知ってから人の死を「いたむ」という言い方をしたのではないでしょうか。万葉集の挽歌(哀傷歌)では大伴家持が、妹(妻)の死を「いたき(痛き)心」という表現を使っています。
(2)屋根が「いたむ」の場合、身体的ないたみでなく、器具や家屋などのいたみとなります。痛の場合は、身体的ないたみ以外に、心の痛み・程度のはげしい意味はありますが、器具や家屋が「いたむ」言い方はありません。ここでは「きず」の意味の傷を器具や家屋が「いたむ」意味で用います。
(3)足が「いたむ」のですから身体的な「いたみ」です。身体的ないたみは痛ツウと傷ショウの2字がありますが、身体の「いたみ」は痛を用いるのが慣例です。傷ショウは「きず」という訓がありますので、これを第一としています。なお、「足が傷む」と書いても間違いではありません。しかし、今回のように3つの選択肢がある場合は痛が正解となります。   

追加の問題
(4)食品がむ。
正解 
(4)食品が傷む。痛は身体や心のいたみに使いますので、食品のいたみは傷を用いるのが一般的なようです。「食品に傷がつく」という言い方からの使用でしょうか。果物が傷むという言い方もあります。



コメント (2)
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