漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「由ユウ」<注ぎ口のついたつぼ>と「油ユ」「軸ジク」「袖シュウ」「宙チュウ」「笛テキ」「抽チュウ」「届とどけ」

2021年12月28日 | 漢字の音符
 ユウ・ユ・ユイ・よし  田部          

 上が由、下が卣ユウ
解字 上段・由の甲骨文字第一字は器物である口さいの上に楕円形がある形。第二字はタテ線に印がある形。殷代には方向を変えて進む。目的地以外の場所に立ち寄る。吉凶語や祭祀名などとして使われたが字源は不明[甲骨文字辞典]。金文は口の中に横線が入ったものが出現し、篆文以降に由の形になった。篆文は秦代の字形で[説文解字]にこの字はない。発音字典の[廣韻]は「従う也(なり)」。[韻會]は「因(よ)る也(なり)」。[博雅]は「用(もち)いる也(なり)」。それに甲骨文字の「目的地以外の場所に立ち寄る(経由)」。などさまざまな意味がある。
 これらの意味は由の字形以外に、同音の卣ユウの意味が含まれているのではないか、と考える説が非常に多い。私もこの説に共感するひとりである。下段の卣ユウは酒器の一種で、香草で香りをつけた酒を入れるため、香りが飛ばないように蓋をつけた器。意味は祭祀名(酒を捧げる儀礼であろう)[甲骨文字辞典]。金文はほぼ同じ形をしており、意味は酒器および酒器を数える数量詞として使われている[簡明金文詞典]。甲骨文字で卣ユウが香りが飛ばないように注ぎ口に蓋をつけた器であり、蓋をあけると注ぎ口から液体が出てくることから、「~より(経由)」の意となり、さらに「よりどころ(由来)」の意となった。由を音符に含む字は「つぼ」「中から抜け出る」「抜き出す」等のイメージを持つ。
意味 (1)よりどころ。いわれ。「由来ユライ」「理由リユウ」「由緒ユイショ」(物事の由来した糸ぐち。来歴) (2)~より。~から。「経由ケイユ」 (3)もとづく。よる。「自由ジユウ」(自分にもとづく) (4)伝聞。~のよし(由)。 

イメージ 
 「つぼ」
(由・油・釉)
  注ぎ口がつぼの「中から抜け出る」(軸・舳・袖・宙・笛・冑・胄・鼬)
 「ぬきだす」(抽・紬・迪) 
 「その他」 (柚・届)
音の変化  ユウ:由・釉・鼬  ジク:軸・舳  シュウ:袖  チュウ:宙・冑・胄・抽・紬  テキ:笛・迪  ユ:油・柚  カイ:届 
 
つぼ
 ユ・あぶら  氵部
解字 「氵(液体)+由(つぼ)」の会意形声。この氵は汁の意で、穀物の実などをつぶして絞り出した液体が、つぼに入っているかたちで、あぶらをさす。
意味 あぶら(油)。「灯油トウユ」「石油セキユ」「大豆油ダイズユ」「油断ユダン」(気を許していて灯台の油がなくなり灯が消えること)
 ユウ・うわぐすり  釆部
解字 「釆(采の変形字=彩。いろどる)+由(つぼ)」の会意形声。釆は、采の変形字で彩の意。つぼなどの陶器を彩るため表面にかけるうわぐすり。台湾や香港では「采+由」で表記されている。
意味 (1)うわぐすり。「釉薬ユウヤク」 (2)陶磁器や漆器のつや。

中から抜け出る
 ジク  車部
解字 「車(車輪)+由(中から抜け出る)」の会意形声。車輪中心部の穴を抜け出て向かいの車輪とつながる心棒。
意味 (1)車のじく。「車軸シャジク」 (2)回転するものの中心となるもの。「地軸チジク」 (3)重要な地位。「中軸チュウジク」「主軸シュジク」「枢軸スウジク」(中心となる重要な部分) (4)書画の巻物。「掛軸かけじく」「軸装ジクソウ」(掛軸に仕立てる) (5)[野球]「軸足じくあし」(打者や投手で、自分の体を支えるほうの足)
 ジク・へさき  舟部
解字 「舟(ふね)+由(中から抜け出る)」の会意形声。船体から抜け出たような形のへさき。
意味 へさき(舳)。舟の先端部。「舳先へさき⇔艫とも」「舳艫ジクロ」(船首と船尾)
 シュウ・そで  衤部
解字 「衤(衣)+由(中から抜け出る)」の会意形声。衣の内側から外へ抜け出ているそで。
意味 そで(袖)。腕を抜き出す衣服のそで。「袖手シュウシュ」(ふところ手をする)「長袖ながそで」「袖珍シュウチン」(袖に入る程の小型のもの)
 チュウ・そら  宀部  
解字 「宀(たてもの)+由(抜け出る)」の会意形声。建物から抜けでたひろい空間をいう。
意味 そら(宙)。大空。空間。「宇宙ウチュウ」「碧宙ヘキチュウ」(あおぞら)「宙返(チュウがえ)り」
 テキ・ふえ  竹部
解字 「竹(たけ)+由(中から抜け出る)」の会意形声。竹の管の一方から吹き込んだ息が、他の穴を通って抜け出る楽器。ふえ。
意味 ふえ(笛)。竹の管に穴をあけて吹き鳴らす楽器。「横笛ヨコブエ」「警笛ケイテキ
 チュウ・かぶと  冂部
解字 「冃(頭部のかぶりもの)+由(抜け出る)」の会意形声。頭部の被り物とそこから抜け出たように飾りが付くかぶと。兜トウとも書く。
意味 (1)かぶと(冑)。「甲冑カッチュウ」(よろいとかぶと) (2)よろい。甲冑カッチュウを、「かぶととよろい」と解釈したため。しかし、解字からは明らかに「かぶと」である。※甲コウにも、よろい・かぶと両方の意がある。
 チュウ・つぐ  月部にく
解字 「月(からだ)+由(抜け出る。由来する)」の会意形声。身体から抜け出て続いている(由来する)血筋。
意味 つぐ(胄ぐ)。よつぎ(胄)。続いている血筋。「胄胤チュウイン」(後の子孫。後代)「胄裔チュウエイ」(血筋を引いた子孫)「胄子チュウシ」(跡を継ぐ長男。あととり)
 ユウ・ユ・いたち  鼠部
 イタチ
解字 「鼠(ねずみ)+由(抜け出る)」の会意形声。小さな穴や隙間でも抜け出ることができる細長いネズミのような動物。
意味 いたち(鼬)。ネコ目イタチ科の哺乳類の総称。体は細長く柔軟で、5センチほどの隙間を抜け出ることができる。「鼬ごっこ」(互いに同じことを繰り返し、進展しないこと)「鎌鼬かまいたち」(物に触れていないのに鎌の切りきずのような傷ができる現象。鼬のしわざと考えられた)「鼬瓜いたちうり」(キュウリの異称)

ぬきだす
 チュウ・ひく・ぬく  扌部
解字 「扌(手)+由(抜きだす)」の会意形声。手でひきだす・ぬきとる意。
意味 (1)ひく(抽く)。ぬく(抽く)。「抽糸チュウシ」(糸をひっぱり出す)「抽斗チュウト」(引き出し。斗は枡(ます)の意) (2)抜け出る。「抽象チュウショウ」(個々の象(かたち)を抜け出たもの)
 チュウ・つむぎ  糸部
解字 「糸(いと)+由(抜きだす)」の会意形声。マユから糸を引き出すこと。
意味 (1)つむぐ。マユや綿から糸を引き出す。「紬績チュウセキ」(糸をつむぐ) (2)つむぎ(紬)。くずまゆや真綿をつむいだ太糸で織った絹織物。「大島紬おおしまつむぎ」 (3)つづる。集めつづる。
 テキ・みちびく  辶部
解字 「辶(ゆく)+由(抜きだす)」の会意形声。人の才能をぬきだすこと。
意味 (1)みちびく(迪く)。教えみちびく。「啓迪ケイテキ」(ひらき導く)「啓迪院ケイテキイン」(医者の曲直瀬道三が京都に建てた私立の医学校) (2)ふむ(迪む)。実行する。「允(まこと)に厥(そ)の徳を迪(ふ)む」(允(まこと)にその徳政を実行する) (3)登用する。すすめる(迪める)。

その他
 ユ・ゆず  木部
解字 「木(き)+由(ユ)」の形声。ユという名の木、およびその実をいう。日本でユズ、中国では、ザボン(文旦)をいう。
意味 ゆず(柚)。ミカン科の常緑低木。実は冬に熟し香りがよい。果汁は、日本料理等において調味料として、香味・酸味を加えるために用いられる。「柚子ゆず」「柚子味噌ゆずみそ」 (2)[中国]ザボン。文旦。果肉は柚より大きい。
 カイ・とどける・とどく  尸部
解字 「尸(からだ)+由(中から抜け出る)」の会意。体(胴)から抜け出た二本の脚が地面にとどいていること。旧字は屆カイであるが、字義が明らかでないため現代字で解字した。
意味 (1)[国]とどく(届く)。とどける(届ける)。 (2)[国]とどけ(届)。「欠席届ケッセキとどけ」「転入届テンニュウとどけ」 (3)いたる。きわまる。
<紫色は常用漢字>

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音符「戈カ」 <おのほこ> と 「戍ジュ」

2021年12月25日 | 漢字の音符
「おのほこ(戈)」の提唱 
 漢字の「ほこ」には2種類ある。ひとつは先がまっすぐな槍のかたち。もうひとつは先が柄と直角についているオノ(斧)の形である。やり形の「ほこ」には矛・鋒ホウ・鉾ボウがあり、おの形の「ほこ」には戈がある。
 そこで私は両者を区別するために「やりほこ」と「おのほこ」という言い方を提唱したい。おの(斧)は木を伐ったり割る道具である。鉄の刃は柄の先に直角に付いている。「おのほこ」は刃が直角に付いている「ほこ」である。

 カ・ほこ  戈部
 戈の刃先
https://kknews.cc/zh-sg/culture/jz29ooq.html

 
左は戈の各部分図(百度の図検索サイトより)。右はウィキペディアの写真から 
 甲骨文字は長い柄を持ち、先端に柄と直角に穂先が取り付けられた武器の象形。穂先の後部が柄の反対側にも出ている。柄の先端の右横線は部分図にみえる柄頭の冠(柲帽ヒボウ)。柲帽ヒボウには、鳥の形をしたものが多い。また柄尻は誇張して描いている。金文は柄尻を三本足にした。篆文は柄頭に反転したLがつき、下部は三本足⇒ノに変化、現代字は上の反転L⇒点になった戈。
意味 (1)ほこ(戈)。長い柄の先端に、柄と直角に両刃の穂先がついた武器。「戈甲カコウ」(ほことよろい)「干戈カンカ」(干たてと戈ほこ。武器。戦争)「偃戈エンカ」(戈をふせる。戦争をやめる) (2)いくさ。戦争。「戈船カセン」(いくさ船)
参考 矛は部首「戈ほこづくり・かのほこ」になる。漢字の旁つくり(右辺)について、武器や武器を用いた行動を表す。『新漢語林』では、49字が掲載されている。主な字は以下のとおり。
戈カ(部首):
 戯ギ・たわむれる(戈+音符「虚キョ」)
 戍ジュ・まもる(人+戈の会意)
 部首「戈」に属し音符となる字
 戎ジュウ・戌ジュツ・成セイ・我ガ・戒カイ・或イキ・戔セン・戚セキ・戠ショクなど。

イメージ 「ほこ」(戈・戍・找)
音の変化  カ:戈  ジュ:戍  找:ソウ

ほ こ
 ジュ・まもる  戈部

解字 甲骨文字から篆文まで「人+戈(オノほこ)」の会意。人が武器の戈を背負っている形。武器を背負う兵士の意から、甲骨文字では軍隊の意味で使われた。金文は守る意味が強い守衛の意味となり、以後、国境をまもる意が中心となった。現代字は人と戈が連続した戍となり、戊の中に点があるかのような字形になった。
意味 まもる(戍る)。武器を持って国境をまもる。「戍卒ジュソツ」(国境をまもる兵士)「戍楼ジュロウ」(国境守備隊の見張りやぐら)「衛戍エイジュ」(軍隊が永く一つの土地に駐屯する)「戍徭ジュヨウ」(国境をまもる兵役=徭役)
 ソウ・カ  扌部
解字 「扌(て)+戈(ほこ)」の会意形声。戈を手でもち使う動作をいい、この動作を舟の棹や櫂を動かす動作にたとえた(私見)。中国では口語で、さがす意でよく用いられる。
意味 (1)さおさす(找す)。舟をすすめる。 (2)たずねる(找ねる)。(舟をすすめて)たずねさがす。「尋找ジンソウ」(たずねさがす) 

戈カは、どう使ったのか?

戦車の上で戈カを持つ戦士(篠田耕一著『武器と防具 中国編』の表紙より)
 戈は、江戸時代の消防用具のトビのような形をしている。実際にどう使ったのであろうか。篠田耕一著『武器と防具 中国編』には、「中国の戦車は3人乗りで両側の2人が戈を使った。戈を両手で使い戦車がすれちがうときに敵の戦士に向けて、その刃を打ち込むか引っかけて斬る方法で使用した。戦車がすれちがって闘う場合、矛で直線的に突くより戈のほうが命中の機会が多く、戦車のスピードも利用できるためだった」と書かれている(なお、ウイキペディアでは、「車左が弓矢、車右が戈を持つ」とする)。また、「しかし、漢になって戦車がすたれると、戈は戦車戦にあまりにも適した特性のため、すたれてしまった」という。
 上の絵画は同書の表紙絵で戈を持つ戦士が描かれている。しかし馬車は4頭立であり(通常は2頭)、右の戦士は弓を持っている。上記の文章と異なり誇張されているが、当時の戦場の雰囲気を感じ取ることができる。


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音符「目モク」<め> 「泪ルイ」と「眉ビ」<まゆ>「媚ビ」

2021年12月22日 | 漢字の音符
 モク・ボク・め・ま  目部          

解字 めを描いた象形。甲骨文・金文は、目の形をそのまま描いているが、篆文からタテになった。目は、目の動きや状態、見るなどの意で部首となる。
意味 (1)め(目)。ものを見るめ。見る。「目前モクゼン」「注目チュウモク」「目(ま)のあたりにする」 (2)めあて。大切なところ。「目当(めあ)て」「目的モクテキ」 (3)見出し。区切った一つ一つ。「目次モクジ」「項目コウモク」 (4)かお。名誉。「面目メンボク」(人に合わせる顔)
参考 モクは部首「目め・めへん」になる。意味は目・目の動作・見る意を表す。目は部首としての活躍が中心で、音符「目モク」で、モク・ボクの発音を受け継ぐポピュラーな字は見当たらない。ここに収録した泪ルイは会意である。部首「目め・めへん」に属する字は、常用漢字で20字、約14,600字を収録する『新漢語林』では156字が収録されている。
常用漢字 20字
 目モク・め <部首> 
 看カン・みる(目+手の会意)
 眼ガン・まなこ(目+音符「艮コン」)
 県ケン・あがた(字形に目を含むため)
 瞬シュン・またたく(目+音符「舜シュン」)
 盾ジュン・たて(目を含む象形)
 省ショウ(目+音符「少ショウ」)
 真シン・まこと(字形に目を含むため)
 睡スイ・ねむる(目+音符「垂スイ」)
 相ソウ・あい(目+木の会意)
 眺チョウ・ながめる(目+音符「兆チョウ」)
 直チョク(目を含む会意)
 瞳ドウ・ひとみ(目+音符「童ドウ」)
 督トク・ただす(目+音符「叔シュク」)
 眉ビ・まゆ(目を含む象形)
 冒ボウ・おかす(目+音符「冃ボウ」)
 睦ボク・むつみ(目+音符「坴リク」)
 眠ミン・ねむる(目+音符「民ミン」) 
 盲モウ・めくら(目+音符「亡ボウ」) 
 瞭リョウ・あきらか(目+音符「尞リョウ」)
※目部のうち、会意や象形やその他に属する、相ソウ・盾ジュン・直チョク・眉・真シン・県ケンは音符ともなる。

イメージ  「め」(目・泪)
音の変化  モク:目  ルイ:泪


 ルイ・なみだ  氵部
解字 「氵(水)+目(め)」 の会意。目から流れる水、つまりなみだの意。涙ルイの異体字。現代中国では、涙が異体字で、泪は標準字として使われている。
意味 なみだ(泪)。なみだを流す。「泪珠ルイシュ」(涙の粒)「泪痕ルイコン」(涙が流れたあと)



       ビ <まゆ>
 ビ・ミ・まゆ  目部

解字 甲骨文は目のまゆを強調したかたち。意味は、①視察すること。閲兵の意味にも用いられる。②地名またはその長、③祭祀名となっている(甲骨文字辞典)。金文は目から離れた上に山型のマユを描いた象形。意味はマユのほか水辺(=湄ビ)、長い・満ちる、王や君の名前などがある。篆文から、目がタテ書きになったのに伴い、マユのかたちもタテ書きになって変形し、現代字は尸のなかにタテ棒が入った形になった。
覚え方 め()の上のコノ()ぼう(I)は毛なり。[漢字川柳]
意味 (1)まゆ(眉)。まゆげ。「眉目ビモク」(眉と目。容貌)「眉目秀麗ビモクシュウレイ」(容貌が優れて美しい)「白眉ハクビ」(①白いまゆ、②同類の中で最も傑出している人や物)「眉墨まゆずみ(=黛)」「眉間ミケン」(まゆとまゆの間)「焦眉ショウビの急」(火が眉をこがすほどの急) (2)(老人は眉毛が長くのびるから、また白い眉毛から)としより。老年。長寿。「眉雪ビセツ」(雪のような眉。老人の敬称)「眉寿ビジュ」(老人。長命の人) (3)地名。「眉山ビザン」(今の四川省にある市の名)

イメージ 
 「まゆ」
(眉・媚・楣)
 眉は目に「近い」(湄)
 「形声字」(嵋)
音の変化  ビ:眉・媚・楣・湄・嵋

まゆ
 ビ・こびる・こび  女部
解字 「女(おんな)+眉(まゆ)」 の会意形声。女の眉を強調した字で、女が眉をうごかして色っぽくふるまうこと。
意味 (1)こびる(媚びる)。こび(媚)。へつらう。なまめかしい。「媚笑ビショウ」(なまめかしい笑い)「媚態ビタイ」(男にこびる女の態度)「媚薬ビヤク」(性欲を増進させるとされる薬) 「蛾媚ガビ」(蛾の触覚のような三日月形の眉。美人の形容) (2)うつくしい。「風光明媚フウコウメイビ
 ビ・まぐさ・のき  木部
 
 窓の楣(まぐさ)
https://polaris-hs.jp/zisyo_syosai/magusa.html
解字 「木(き)+眉(まゆのような)」の会意形声。家の入口や窓の上に、眉のように横に付いている木。目草(まぐさ)とも書く。目草は目の上の草のような眉の意と思われる。
意味 (1)まぐさ(楣)。目草(まぐさ)とも。門または出入口の扉の上に横にわたした木。「門楣モンビ」「楣石まぐさいし」(窓または出入口の上に水平に渡した石)「楣式まぐさしき構造」(窓・出入口の上に横材を置く構造⇔アーチ式構造)(2)のき(楣)。ひさし。
近い
 ビ・ほとり  氵部
解字 「氵(みず)+眉(近い)」の会意形声。水に近いところで、ほとりの意。
意味 (1)ほとり(湄)。みぎわ。水辺。「在水之湄」(水の湄ほとりに在り)  (2)地名。「湄州島ビシュウトウ」(福建省莆田県にある島。中国の民間信仰の女神で海上航行の安全の守護神である媽祖(まそ)の昇天の地とされ対岸に媽祖廟がある)
形声字
 ビ  山部
解字 「山(やま)+眉(ビ)」の形声。ビという名の山。
意味 「峨嵋山ガビサン」に使われる字。峨嵋山とは、中国四川省にある山。中国仏教三大霊山の一つで奇勝に富む。「峨眉山」とも。
<紫色は常用漢字>

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音符「黄コウ」<黄色の佩玉>「横オウ」と「広[廣]コウ」<ひろい>「拡カク」「鉱コウ」

2021年12月19日 | 漢字の音符
[黃] コウ・オウ・き・こ  黄部

解字 甲骨文第一字は、人の腰のあたりに丸いものを巻いた形で、腰に佩玉ハイギョク(礼服着用のときに腰におびた玉)を帯びたかたちとされる。殷代の玉器には黄色いものが多く、そこから黄色の字義を表したと思われる[甲骨文字辞典]。第二字は腰のまるい線が田になった字でこれが後世に伝わった。金文になると上部に廿のかたちがつき、篆文で「大」の両手の部分が⇒ハになり、さらに旧字で、ハ⇒一に変化した黃になった。新字体は、旧字上部の廿⇒艹に変化した黄になった。黄は黄色の佩玉であり、璜の原字。
覚え方
新字体 (くさ)(いち)(よし)(ハ)で色。
旧字体 廿(にじゅう)(いち)(よし)(ハ)で色。
意味 (1)き(黄)。きいろ。「黄土オウド」「黄河コウガ」「黄金オウゴン・こがね」「黄昏たそがれ」(夕焼けが黄色に染まって暮れるころ) (2)きばむ。黄色みを帯びる。「硫黄イオウ」「黄変オウヘン
参考 黄[黃]は部首「黄き・きいろ」になる。しかし、主な字はコウしかない。この字で黃は、部首であるとともに音符ともなっている。

イメージ 
 原義である「黄色の佩玉」(黄・
 「同音代替」 (横・
音の変化  コウ:黄・璜・  オウ:横 

黄色の佩玉
 コウ・オウ  王部
 七璜組玉佩   七璜組玉佩の下部
解字 「王(玉)+黃(黄色の佩玉)」の会意形声。黃コウが黄色の意となったため、原義である「黄色の佩玉」の意を、王(玉)をつけて表した字。佩玉の璜は、薄くて円く中央に穴のあいた璧玉ヘキギョクを半分にした形とされている。写真は七つの璜を組み合わせた七璜組玉佩シチコウソギョクハイ(河南博物院藏)。西周晩期のもので璜は黄色味を帯びている。璜と璜の間は赤色のメノウと青色のルリの貫玉で飾っている。
意味 儀礼用の玉器の名。璧を半分にした形で、祭礼に用いたり、腰に帯びる佩玉にする。「玉璜ギョクコウ」「璜璜コウコウ」(輝くさま)

同音代替
 オウ・コウ・よこ  木部
解字 旧字は、「木(き)+黃(コウ)」の形声。コウは衡コウ(よこ・よこぎ)に通じ、門などによこに渡して遮るかんぬきの木をいう。よこ・よこたわる意となる。また、縦が従順であるのに対し、横は横柄・横行など秩序に反する意ともなる。
意味 (1)よこ(横)。「縦横ジュウオウ」 (2)よこたわる。「横臥オウガ」 (3)横切る。「横断オウダン」 (4)わがまま。道理にあわない。「横行オウコウ」(道理にあわないことが平然と行なわれる)「専横センオウ」(わがままを押しとおす)「横柄オウヘイ」(偉そうにふるまうさま。押柄(おしから)の音読したことに由来する。「押柄」は押しの強い人柄という意味で、これが音読されて「おうへい」となり「横」の字を当てるようになったもの。)「横死オウシ」(むだに死ぬ)
 コウ  黄部
解字 「學(まなぶ)の略体+黃(コウ)」の形声。コウは校コウ(まなびや)に通じ、学ぶ校舎の意。
意味 まなびや。学校。「昌平ショウヘイコウ」(江戸幕府の学問所。主に旗本・御家人の子弟を教えた。)「済々セイセイコウ」(熊本県立の高等学校の名前)



    広[廣] コウ < ひろがる >
[廣] コウ・ひろい・ひろまる・ひろめる・ひろげる  广部            

解字 旧字は廣で、「广(やね)+黃(コウ)」の形声。广ゲンは屋根、発音を表す黃コウは黄色の意味なので、ここでは意味に関係なく発音だけを表している。ではコウは何の音を同音代替したのか。私は同音の光コウ(ひかり)だと思う。廣の古代音(秦)・中古音(隋唐)の復元音(王力系統)は、ともにkuaŋで同一。また光の古代音(秦)・中古音(隋唐)の復元音も、ともにkuaŋで同一。従って、廣と光は同一の発音)。光は、「ひろがる」イメージがあり、これに广(やね)をつけた廣コウは、屋根の下に空間がひろがる大きいスペースをいう。転じて、ひろい意味を表わす。新字体は旧字の黃⇒ムに置きかえた広になった。
意味 (1)ひろい(広い)。「広場ひろば」「広大コウダイ」「広角コウカク」 (2)ひろめる(広める)。ひろがる(広がる)。「広告コウコク」「広言コウゲン

イメージ 
 「ひろがる」(広・拡・鉱・礦・曠・壙)
音の変化  コウ:広・鉱・礦・壙・曠  カク:拡

ひろがる
 カク・ひろげる  扌部
解字 旧字は擴で「扌(手)+廣(ひろがる)」の会意形声。手でひろげること。新字体は拡に変化。
意味 ひろげる(拡げる)。ひろがる。「拡張カクチョウ」「拡大カクダイ」「拡充カクジュウ」「拡散カクサン
 コウ・あらがね  金部
解字 旧字は鑛で「金(金属)+廣(ひろがる)」 の会意形声。地中にひろがる金属の原石のこと。新字体は鉱に変化。
意味 あらがね(鉱)。掘り出したままの金属の原石。「鉄鉱石テッコウセキ」「鉱山コウザン」「鉱脈コウミャク」「鉱毒コウドク
礦[砿] コウ・あらがね  石部
解字 「石(原石)+廣(ひろがる)」の会意形声。地中にひろがっている金属を含む原石。砿は新字体に準じた略字(異体字)。
意味 (1)あらがね(礦)。掘り出した天然の鉱石。「金礦キンコウ」(=金鉱)「礦業コウギョウ」(=鉱業)「礦石コウセキ」(=鉱石)
 コウ・あきらか・むなしい  日部
解字 「日(日光)+廣(ひろがる)」の会意形声。日の光がひろがって見通しがよいこと。あきらか・ひろい意となり、久しい・むなしい意も派生する。
意味 (1)あきらか(曠らか)。 (2)ひろい。おおきい。「曠野コウヤ」(=広野)「曠野あらの」(荒野)「曠達コウタツ」(心が広く物事にこだわらない) (3)むなしい(曠しい)。「曠日コウジツ」(無駄に日をすごす) (4)久しい。遠い。これまでに。「曠古コウコ」(昔から前例がない)「曠世コウセイ」(世にまたとない)
 コウ・あな  土部
解字 「土(つち)+廣(ひろがる)」の会意形声。土の中にひろがる穴の意味で、墓穴をいう。
意味 あな(壙)。はかあな。「壙穴コウケツ」(墓あな)「土壙墓ドコウボ」(地表面を堀りくぼめて造られた墓穴)
<紫色は常用漢字>

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山本康喬編著『改訂新版 漢字音符字典』東京堂出版

2021年12月16日 | 書評
 2018年に『増補改訂版 漢字音符字典』が品切れになった。書店の店頭から本が消えると間もなく、古書が異常に値上がりし、増補改訂版で3万円前後、2007年の初版でも1万円前後となり入手不可能な状態が続いていた。
 著者の山本康喬氏は改訂版の発行をめざし版元の東京堂出版と協議をかさねて準備をすすめてきたが、このたび3年の期間をへて新たな『改訂新版 漢字音符字典』が発行された。著者の熱意により新たな改訂版が発行されたことは漢検受験者、特に1級受験者にとって朗報にちがいない。本書によって6,400余の漢字が効率的に学習できるからである。

判型が一回り大きくなった。

     左が旧版、右が改訂新版
 改訂新版を手にした私は前版と比べ大きな違いを2点感じた。一つは本が一回り大きくなったこと。もう一つは索引が非常に充実したことである。
 まず大きくなった判型であるが、以前の本がB6判(128×182mm)だったのに対し、今回はA5判(148×210mm)と一まわり大きくなった。この影響は、本文においては文字が相対的に大きくなったので前著と変わらないが、余裕のできた空間に注釈などがかなり増えている。

充実した索引
 大きくなった効果は何より索引に現れている。前著の索引は総画索引でしかも全ての収録字を網羅したものではなかった。そのため、調べたい漢字がどのページにあるのか見つけるのに苦労したものだ。今回は総画索引をやめて、収録字をすべて掲載した音訓索引になった。1頁8段に組んだ索引は判型が大きくなければ不可能。判型を大きくしたのは索引を充実させるためと推察する。80頁になった索引は、この本の使い勝手を各段に向上させた。

巻末の未分類漢字を本文に繰り込む
 本文の前著との違いは、著者の山本さんによると、(1)前著で巻末に一括して掲載していた未分類の1級対象漢字37字と国字107字をすべて本文に繰り込んだこと。このため、どこにも属することのできない字は独立させたという。例えば、黹チ・ぬいとり、彝イ・つね、などの字である。すべての漢字が本文に入ったことで、すっきりした。 (2)収録したすべての漢字を六書(象形・指事・会意・仮借・形声・転注のみ省略)に分けて所属を明示し、また国字は[国]で示した。しかし、六書での分類分けにむずかしい字もあるので、そうした字は角川書店の『新字源』に準拠したという。 (3)音符字にその音符の子(こ)音符がある場合、見出し欄の横に、子(こ)音符を独立させて見やすくした。例えば、音符「辛シン」の欄の横に「宰サイ」を追加など。

未来の漢字字典はどうなる?
 このような改訂をへて『改訂新版 漢字音符字典』は、収録する約6,400字をぱらぱらとめくりながら一覧することができ、中の或る一字を見つけようと思ったら、充実した索引ですぐ見つかるすばらしい字典になった。
 私は空想する。この順序にならんだ本格的な漢字字典が出現したら面白いなと。そうなれば日本の漢字字典は、部首順にならべた「部首別字典」(ほとんどの漢和辞典)、漢字の発音順にならべた「字音順字典」(字統・字通・漢検漢字字典など)、音符順にならべた「音符順字典」の3種類になる。「音符順字典」を使う人は、漢字の核(=音符)となる字から探すわけだから、この字にどんな部首が組み合わさって漢字が成り立っているか、つまり漢字の本質を見分ける力を身につけることができる。⇒この字典の良さがわかり愛用者が増える。⇒「音符順字典」に参入する出版社が増える。~あくまで空想~

 装いも新たに刊行された本の定価は、3,200円(税込3,520円)と高くなったが、判型が大きくなったこと、頁数が318Pから351Pに増えたことを考慮するとやむをえない気がする。最近、多くの出版社の業績が低迷するなか、この本を単なる増刷でなく改訂新版として充実させた出版社に敬意を表したい。

山本康喬編著『改訂新版 漢字音符字典』東京堂出版 2021年12月発行 351P 3,520円(3,200円+税)





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音符「甹ヘイ」<贈り物にする礼物> と「聘ヘイ」<まねく>「娉ヘイ」

2021年12月13日 | 漢字の音符
 ヘイ  田部

解字 金文は、掲げて持つ台の上にカゴのような容器を二つ載せた形で、贈り物にする礼物をさす。篆文は、礼物が由に、台が丂コウの形になった甹ヘイとなった。
意味 (1)贈り物にする礼物。 (2)たすける。

イメージ 
 「贈り物にする礼物」
(俜・娉・聘・騁)
音の変化  ヘイ:俜・娉・聘  テイ:騁

贈り物にする礼物
 ヘイ  イ部
解字 「イ(ひと)+甹(贈り物にする礼物)」の会意形声。贈り物にする礼物を持ってゆく人の意で使者をいう。
意味 使者。つかい。つかう。「俜停ヘイテイ」(使いの姿が美しい様子)
 ヘイ・ヒョウ  女部
解字 「女(おんな)+甹(=俜。贈り物を持つ使者)」の会意形声。贈り物を持つ使者が、女を訪れること。贈り物(結納)を届けて結婚してほしい旨をのべるので、婚約する意となる。
意味 (1)とう。おとずれる。(2)婚約する。めとる。「娉納ヘイノウ」(結納)「娉財ヘイザイ」(結納品)「娉嫁ヒョウカ」(嫁をめとる)(3)(婚約した女が)うつくしい。「娉婷ヘイテイ」(あでやかで美しい)
 ヘイ・めす・まねく  耳部
解字 「耳(みみ)+甹(=俜。贈り物を持つ使者)」の会意形声。贈り物を持つ使者が先方を訪問し、こちらの希望を伝え、その返事を耳で聞くこと。また、人を招く場合に贈り物を持つ使者を派遣するので、まねく意となる。※一般の漢字字典では、聘に「まねく」の和訓をつけていないが、[字統]のみが付けている。
意味 (1)とう。おとずれる。たずねる。「聘問ヘイモン」(贈り物をたずさえて訪問する)(2)めす(聘す)。まねく(聘く)。「招聘ショウヘイ」(礼をつくして人を招きよぶこと)「聘賢ヘイケン」(礼儀をつくし賢人をまねく)「聘礼ヘイレイ」(①人を招くのに礼を以てする。また、その礼物。②婚約の礼物。ゆいのう)(3)妻をめとる。(=娉)。「聘后ヘイゴウ」(礼儀をつくして迎えた皇后)
 テイ・はせる  馬部
解字 「馬(うま)+甹(=俜。贈り物を持つ使者)」の会意形声。贈り物を持つ使者が馬を走らせること。
意味 (1)はせる(騁せる)。馬をはしらせる。「騁馳テイチ」(騁も馳も、馬を走らせる意)「駆騁クテイ」 (2)はせる(騁せる)。思いをはせる。自由に考えたり述べたりする。思いのままにする。「騁懐テイカイ」(思いをはせる)

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音符「立リツ」<しっかりとたつ>「粒リュウ」「拉ラ」「位イ」「泣キュウ」「翌ヨク」

2021年12月07日 | 漢字の音符
  ヨクを追加しました。
 リツ・リュウ・たつ・たてる  立部            

解字 甲骨文・金文が示しているように、「大(ひと)+一」の会意。大は立つ人の正面形、一は、その立つ所の位置を示す。立は一定の位置に立つ人の形で、立つ意。
意味 (1)たつ(立つ)。まっすぐ立つ。「起立キリツ」「立像リツゾウ」 (2)たてる(立てる)。さだまる。「建立コンリュウ」「立案リツアン」「確立カクリツ」 (3)はじまる。「立春リッシュン
参考 リツは、部首「立たつ・たつへん」になる。漢字の左辺および上・下部に付いて、立つ意および辛シン(針・刃物)の略体を表す。常用漢字で5字、約14,600字を収録する『新漢語林』で46字がある。主なものは以下のとおり。
 端タン・はし(立+音符「耑タン」)
 竣シュン(立+音符「夋シュン」)
 竪ジュ・たて(立+音符「臤ケン」)
 章ショウ・しるし(辛を含む会意)
 童ドウ・わらべ(辛を含む会意)
 竟キョウ・おわる(辛を含む会意)
  ※なお、章・童・竟は音符になる。

イメージ 
 「たつ」
(立・拉・颯)
 「一定の位置にたつ」(位・笠・粒・泣)
 「その他」(翌・翊)

音の変化 リツ:立  リュウ:笠・粒  ラ:拉  イ:位  キュウ:泣  サツ:颯  ヨク:翌・翊

たつ
 ラ・ラツ・ロウ・ひしぐ  扌部
解字 「扌(手)+立(しっかり立つ) の会意形声。しっかり立って手でつかむこと。つかんで引っぱる、にぎりつぶす意となる。
意味 (1)ひく。ひっぱる。「拉致ラチ」(無理に連れて行く)「拉麺ラーメン」(ひっぱり延ばして作る麺) (2)ひしぐ(拉ぐ)。くじく。くだく。ひしゃげる。「拉殺ラサツ」(手でおしつぶして殺す) (3)地名に使う。「拉薩ラサ」(中国チベット自治区の区都)
 サツ・ソウ  風部
解字 「風(かぜ)+立(立つ)」の会意。風が起き立つこと。
意味 (1)風の吹くさま。「颯颯サツサツ」 (2)きびきびしたさま。「颯爽サッソウ

一定の位置に立つ
 イ・くらい  イ部
解字 「イ(人)+立(一定の位置に立つ)」の会意。一定の場所に立つ人。どの場所に立つかによって位が変わる。
意味 (1)くらい(位)。階級。等級。「地位チイ」「位階イカイ」 (2)いる場所・方角。「位置イチ」「方位ホウイ」 (3)人を敬う語。「各位カクイ
 リュウ・かさ  竹部
解字 「竹(たけ)+立(一定の位置に立つ)」の形声。頭の上(一定の位置)を占めてかぶる竹編みのかさ。
意味 (1)かさ(笠)。かぶりがさ。「花笠はながさ」 (2)かさの形をしたもの。「電灯の笠」
※柄のある、かさを「傘サン」という。
 リュウ・つぶ  米部
解字 「米(こめ)+立(一定の位置に立つ)」の会意形声。米の一つ一つが重ならずに一定の位置を占めていること。ひとつぶ、ひとつぶをいう。
意味 (1)つぶ(粒)。穀物のつぶ。米つぶのように小さいもの。「米粒こめつぶ」「顆粒カリュウ」(顆も粒もつぶを意味する) (2)つぶ状の物を数える言葉。「三粒みつぶ
 キュウ・なく  氵部
解字 「氵(水)+立(=粒。つぶ)」の会意。水のつぶで涙の意。つぶが次々と流れて泣く意となる。
意味 なく(泣く)。涙を流す。また、涙。「号泣ゴウキュウ」「感泣カンキュウ

その他
 ヨク  羽部

解字 甲骨文第一字は鳥の翼(つばさ)の一翼の象形。第二字は翼に立がつき、翼で飛び立とうとする形。いずれも翼ヨクの意だが、甲骨文の段階ですでに次の日を含む近い将来を指す語となっているという[甲骨文字辞典]。翼で次の段階へ飛び移ることから翌日の意に仮借カシャ(当て字)されたと思われる。金文は第二字にさらに日(ひ)がつき、翌日へ飛ぶ意を表している。篆文から、翼の形⇒羽に置き換えられた翊ヨクになり、現代字は立が下についた翌になった。発音のヨクは翼ヨク(つばさ)のヨクであり、現代字では甲骨文字の翼を継承した羽がヨクを引き継いでいる。立の役割は飛び立とうとする意を表し、厳密にいうと音符ではない。しかし、羽にヨクの音はないので全体で会意となる。
意味 あくる。次の。「翌日ヨクジツ」「翌週ヨクシュウ」「翌年ヨクネン」「翌々ヨクヨク」(次のその次)「翌々日」(あさって)
 ヨク  羽部
解字 「羽(はね)+立(たつ)」の会意。羽で飛び立つ意。翌と翊はもともと同じ字で異構の関係にあるが、現在では用法が少し異なる。
意味 (1)とぶ。鳥がとぶさま。「翊翊ヨクヨク」(①鳥が一斉に飛びたって用心するさま。②慎重なさま) (2)たすける。(=翼)「輔翊ホヨク」(たすける。輔も翊も、たすける意=輔翼)「翊賛ヨクサン」(=翼賛)」 (3)あくる日。「翊日ヨクジツ」(=翌日)
<紫色は常用漢字>

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音符「行コウ」<ゆく ・ 向こうへ渡す>「桁コウ」「衡コウ」と「衍エン」

2021年12月01日 | 漢字の音符
 コウ・ギョウ・アン・いく・ゆく・おこなう  行部      
解字 甲骨文字でわかるように、十字路を描いた象形。道を行く、動 いて動作する(おこなう)などの意をあらわす。また、行列の意ともなる。行の左半分をあらわすのが「彳ぎょうにんべん」で「行く・路上」の意で偏ヘンとなる。行を音符に含む字は、「ゆく」「こちらからむこうへ渡す」、原義の「十字路」のイメージをもつ。
意味 (1)いく(行く)。ゆく(行く)。「行進コウシン」「歩行ホコウ」「行脚アンギャ」 (2)おこなう(行なう)。「行為コウイ」「施行シコウ・セコウ」 (3)おこない。「品行ヒンコウ」 (4)みち。「行路コウロ」 (5)ならび。「行列ギョウレツ」 (6)みせ。問屋。同業組合。「銀行ギンコウ
参考 行は部首「行ぎょうがまえ」になる。彳と亍のあいだに音符をはさみ、①移動する。②行動。③道路・町、の意味を表す。『新漢語林』では、21字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 術ジュツ(行+音符「朮ジュツ」)
 街ガイ・まち(行+音符「圭ケイ」)
 衙(行+音符「吾ゴ」)
 衝ショウ(行+音符「重ジュウ」)
 衛エイ・まもる(行+音符「韋イ」)
 衡コウ(行コウ+角の略+大)
 衍エン(「氵+行」の会意)

イメージ 
 「ゆく」
(行・絎・裄・鵆) 
  こちらから向こうへ「わたす」(桁・衡)
 「十字路」(衍・愆)
音の変化  コウ:行・絎・桁・衡  エン:衍  ケン:愆  ちどり:鵆  ゆき:裄

ゆく
 コウ・くける  糸部
解字 「糸(いと)+行(ゆく)」の会意形声。布を縫い合わせるとき、針を細かく刺して縫うのでなく、針を粗く刺して糸を進ませる(行く)ように縫うこと。日本では、粗く縫う部分を内側にして縫い目を表にあまり出さない縫い方(くけ縫い)をいう。
意味 (1)粗く縫う。綿入れの上着などを、中の綿がずれないよう上から粗く縫うこと。キルティング。 (2)[国]くける(絎る)。縫い目を表にあまり出さない縫い方。「絎縫(くけぬ)い」
<国字> ゆき  衣部
 裄丈(ゆきたけ)
解字 「衣(きもの)+行(ゆく)」の会意。着物の背の縫い目から袖口まで行った長さ。
意味 (1)着物で、着物の背の縫い目から袖口までの長さをいう。「裄丈ゆきたけ」(裄の長さ) (2)身体の背の中心から腕を下げた手首までの長さ。洋服の裄丈ゆきたけになる。
<国字> ちどり  鳥部
 鴨川チドリ
解字 「鳥(とり)+行(ゆく=あるく)」の会意。飛翔力に加え、速く歩くのにすぐれた鳥であるチドリを表す国字。
意味 ちどり(鵆)。千鳥とも書く。チドリ科の鳥の総称。渡りをする旅鳥が多く、海岸や平野の水辺にすむ。一般に鳥の趾(あしゆび)は4本が基本であるが、チドリは後趾の一本が退化しているものが多く、速く歩くのに適している。千鳥がジグザグに歩くことから、酔ってフラフラ歩くのを「千鳥足」という。「鵆足ちどりあし」(=千鳥足)  

わたす
 コウ・けた  木部
解字 「木(き)+行(まっすぐに渡す)」の会意形声。まっすぐ横に渡っている木。
意味 (1)けた(桁)。柱の上にかけわたした横木。屋根組みの場合、最上部の棟(むね)以外の、棟と平行に柱の上に渡した木。「屋桁オクコウ」(屋根の桁)「橋桁はしげた」 (2)ころもかけ。「衣桁イコウ」 (3)[国]そろばんの珠をとおす縦の棒。また、数の位どり。「桁違(けたちが)い」(差が非常に大きいこと)
 コウ・はかり・くびき  行部
  二頭の牛の首に渡した衡(くびき) 
解字 「[ク+田](角の略体。牛のつの)+大(牛のからだ)+行(渡す)」の会意形声。行は左右に分かれる。2頭の牛の角と身体(大)のあいだの首に渡した横木。この横木の真ん中にナガエや綱をつけて、車を引かせる(写真)。のち、天秤ばかりの横棒の意となり、はかりを意味するようになった。この字で行は部首と同時に音符にもなっている。
意味 (1)くびき(衡)。横木。馬車や牛車の横木(くびき) (2)はかり(衡)。はかり竿。重さをはかること。「度量衡ドリョウコウ」(度は長さ、量は容積、衡は重さ。ものを測ること、また、その単位) (3)平らか。つり合いがとれている。「平衡ヘイコウ」 (4)よこ。「連衡レンコウ」(東西の国が同盟すること)「合従連衡ガッショウレンコウ」(従ショウは縦の意で、合従は南北の国が同盟すること。連衡は東西の国が同盟すること。あわせて、どちらの同盟に入るか外交上のかけひきをすること)

十字路  
 エン・はびこる  行部
解字 「氵(みず)+行(十字路)」の会意。行は十字路を表した形。そこに水が割り込んだ衍エンは、水が街路にあふれる意。水があふれる・はびこる意から、転じて、ひろがる・ひろげる意となり、物事を幅広く説明する意で使われる。また、ひろがりすぎて余分に入ってしまう意ともなる。
意味 (1)はびこる(衍る)。あふれる。「蔓衍マンエン」(はびこること) (2)ひろがる。ひろげる。しく。「衍義エンギ」(意義を広く詳しく説明する)「敷衍フエン」(意義をのべひろげて説明する。わかりやすく詳しく説明する) (3)よぶんな。余り。「衍字エンジ」(誤って入った余分な字)「衍文エンブン」(誤って入った不要な文)
 ケン・あやまち・たがう  心部
解字 「心(こころ)+衍(水がいつもの溝からはみ出してあふれる)」の会意形声。通常の道理からはずれる心。発音は、エン⇒ケンに変化。(ア行エ段⇒カ行エ段)
意味 あやまち(愆ち)。たがう(愆う)。「愆義ケンギ」(義を誤る)「罪愆ザイケン」(罪をおかす過ち。悪い行い)「愆尤ケンユウ」(とがめ)「愆謬ケンビュウ」(失敗。間違い。過ち)「愆怠ケンタイ」(怠りあやまる)
<紫色は常用漢字>

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