由 ユウ・ユ・ユイ・よし 田部
上が由、下が卣ユウ
解字 上段・由の甲骨文字第一字は器物である口さいの上に楕円形がある形。第二字はタテ線に●印がある形。殷代には方向を変えて進む。目的地以外の場所に立ち寄る。吉凶語や祭祀名などとして使われたが字源は不明[甲骨文字辞典]。金文は口の中に横線が入ったものが出現し、篆文以降に由の形になった。篆文は秦代の字形で[説文解字]にこの字はない。発音字典の[廣韻]は「従う也(なり)」。[韻會]は「因(よ)る也(なり)」。[博雅]は「用(もち)いる也(なり)」。それに甲骨文字の「目的地以外の場所に立ち寄る(経由)」。などさまざまな意味がある。
これらの意味は由の字形以外に、同音の卣ユウの意味が含まれているのではないか、と考える説が非常に多い。私もこの説に共感するひとりである。下段の卣ユウは酒器の一種で、香草で香りをつけた酒を入れるため、香りが飛ばないように蓋をつけた器。意味は祭祀名(酒を捧げる儀礼であろう)[甲骨文字辞典]。金文はほぼ同じ形をしており、意味は酒器および酒器を数える数量詞として使われている[簡明金文詞典]。甲骨文字で卣ユウが香りが飛ばないように注ぎ口に蓋をつけた器であり、蓋をあけると注ぎ口から液体が出てくることから、「~より(経由)」の意となり、さらに「よりどころ(由来)」の意となった。由を音符に含む字は「つぼ」「中から抜け出る」「抜き出す」等のイメージを持つ。
意味 (1)よりどころ。いわれ。「由来ユライ」「理由リユウ」「由緒ユイショ」(物事の由来した糸ぐち。来歴) (2)~より。~から。「経由ケイユ」 (3)もとづく。よる。「自由ジユウ」(自分にもとづく) (4)伝聞。~のよし(由)。
イメージ
「つぼ」(由・油・釉)
注ぎ口がつぼの「中から抜け出る」(軸・舳・袖・宙・笛・冑・胄・鼬)
「ぬきだす」(抽・紬・迪)
「その他」 (柚・届)
音の変化 ユウ:由・釉・鼬 ジク:軸・舳 シュウ:袖 チュウ:宙・冑・胄・抽・紬 テキ:笛・迪 ユ:油・柚 カイ:届
つぼ
油 ユ・あぶら 氵部
解字 「氵(液体)+由(つぼ)」の会意形声。この氵は汁の意で、穀物の実などをつぶして絞り出した液体が、つぼに入っているかたちで、あぶらをさす。
意味 あぶら(油)。「灯油トウユ」「石油セキユ」「大豆油ダイズユ」「油断ユダン」(気を許していて灯台の油がなくなり灯が消えること)
釉 ユウ・うわぐすり 釆部
解字 「釆(采の変形字=彩。いろどる)+由(つぼ)」の会意形声。釆は、采の変形字で彩の意。つぼなどの陶器を彩るため表面にかけるうわぐすり。台湾や香港では「采+由」で表記されている。
意味 (1)うわぐすり。「釉薬ユウヤク」 (2)陶磁器や漆器のつや。
中から抜け出る
軸 ジク 車部
解字 「車(車輪)+由(中から抜け出る)」の会意形声。車輪中心部の穴を抜け出て向かいの車輪とつながる心棒。
意味 (1)車のじく。「車軸シャジク」 (2)回転するものの中心となるもの。「地軸チジク」 (3)重要な地位。「中軸チュウジク」「主軸シュジク」「枢軸スウジク」(中心となる重要な部分) (4)書画の巻物。「掛軸かけじく」「軸装ジクソウ」(掛軸に仕立てる) (5)[野球]「軸足じくあし」(打者や投手で、自分の体を支えるほうの足)
舳 ジク・へさき 舟部
解字 「舟(ふね)+由(中から抜け出る)」の会意形声。船体から抜け出たような形のへさき。
意味 へさき(舳)。舟の先端部。「舳先へさき⇔艫とも」「舳艫ジクロ」(船首と船尾)
袖 シュウ・そで 衤部
解字 「衤(衣)+由(中から抜け出る)」の会意形声。衣の内側から外へ抜け出ているそで。
意味 そで(袖)。腕を抜き出す衣服のそで。「袖手シュウシュ」(ふところ手をする)「長袖ながそで」「袖珍シュウチン」(袖に入る程の小型のもの)
宙 チュウ・そら 宀部
解字 「宀(たてもの)+由(抜け出る)」の会意形声。建物から抜けでたひろい空間をいう。
意味 そら(宙)。大空。空間。「宇宙ウチュウ」「碧宙ヘキチュウ」(あおぞら)「宙返(チュウがえ)り」
笛 テキ・ふえ 竹部
解字 「竹(たけ)+由(中から抜け出る)」の会意形声。竹の管の一方から吹き込んだ息が、他の穴を通って抜け出る楽器。ふえ。
意味 ふえ(笛)。竹の管に穴をあけて吹き鳴らす楽器。「横笛ヨコブエ」「警笛ケイテキ」
冑 チュウ・かぶと 冂部
解字 「冃(頭部のかぶりもの)+由(抜け出る)」の会意形声。頭部の被り物とそこから抜け出たように飾りが付くかぶと。兜トウとも書く。
意味 (1)かぶと(冑)。「甲冑カッチュウ」(よろいとかぶと) (2)よろい。甲冑カッチュウを、「かぶととよろい」と解釈したため。しかし、解字からは明らかに「かぶと」である。※甲コウにも、よろい・かぶと両方の意がある。
胄 チュウ・つぐ 月部にく
解字 「月(からだ)+由(抜け出る。由来する)」の会意形声。身体から抜け出て続いている(由来する)血筋。
意味 つぐ(胄ぐ)。よつぎ(胄)。続いている血筋。「胄胤チュウイン」(後の子孫。後代)「胄裔チュウエイ」(血筋を引いた子孫)「胄子チュウシ」(跡を継ぐ長男。あととり)
鼬 ユウ・ユ・いたち 鼠部
イタチ
解字 「鼠(ねずみ)+由(抜け出る)」の会意形声。小さな穴や隙間でも抜け出ることができる細長いネズミのような動物。
意味 いたち(鼬)。ネコ目イタチ科の哺乳類の総称。体は細長く柔軟で、5センチほどの隙間を抜け出ることができる。「鼬ごっこ」(互いに同じことを繰り返し、進展しないこと)「鎌鼬かまいたち」(物に触れていないのに鎌の切りきずのような傷ができる現象。鼬のしわざと考えられた)「鼬瓜いたちうり」(キュウリの異称)
ぬきだす
抽 チュウ・ひく・ぬく 扌部
解字 「扌(手)+由(抜きだす)」の会意形声。手でひきだす・ぬきとる意。
意味 (1)ひく(抽く)。ぬく(抽く)。「抽糸チュウシ」(糸をひっぱり出す)「抽斗チュウト」(引き出し。斗は枡(ます)の意) (2)抜け出る。「抽象チュウショウ」(個々の象(かたち)を抜け出たもの)
紬 チュウ・つむぎ 糸部
解字 「糸(いと)+由(抜きだす)」の会意形声。マユから糸を引き出すこと。
意味 (1)つむぐ。マユや綿から糸を引き出す。「紬績チュウセキ」(糸をつむぐ) (2)つむぎ(紬)。くずまゆや真綿をつむいだ太糸で織った絹織物。「大島紬おおしまつむぎ」 (3)つづる。集めつづる。
迪 テキ・みちびく 辶部
解字 「辶(ゆく)+由(抜きだす)」の会意形声。人の才能をぬきだすこと。
意味 (1)みちびく(迪く)。教えみちびく。「啓迪ケイテキ」(ひらき導く)「啓迪院ケイテキイン」(医者の曲直瀬道三が京都に建てた私立の医学校) (2)ふむ(迪む)。実行する。「允(まこと)に厥(そ)の徳を迪(ふ)む」(允(まこと)にその徳政を実行する) (3)登用する。すすめる(迪める)。
その他
柚 ユ・ゆず 木部
解字 「木(き)+由(ユ)」の形声。ユという名の木、およびその実をいう。日本でユズ、中国では、ザボン(文旦)をいう。
意味 ゆず(柚)。ミカン科の常緑低木。実は冬に熟し香りがよい。果汁は、日本料理等において調味料として、香味・酸味を加えるために用いられる。「柚子ゆず」「柚子味噌ゆずみそ」 (2)[中国]ザボン。文旦。果肉は柚より大きい。
届 カイ・とどける・とどく 尸部
解字 「尸(からだ)+由(中から抜け出る)」の会意。体(胴)から抜け出た二本の脚が地面にとどいていること。旧字は屆カイであるが、字義が明らかでないため現代字で解字した。
意味 (1)[国]とどく(届く)。とどける(届ける)。 (2)[国]とどけ(届)。「欠席届ケッセキとどけ」「転入届テンニュウとどけ」 (3)いたる。きわまる。
<紫色は常用漢字>
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上が由、下が卣ユウ
解字 上段・由の甲骨文字第一字は器物である口さいの上に楕円形がある形。第二字はタテ線に●印がある形。殷代には方向を変えて進む。目的地以外の場所に立ち寄る。吉凶語や祭祀名などとして使われたが字源は不明[甲骨文字辞典]。金文は口の中に横線が入ったものが出現し、篆文以降に由の形になった。篆文は秦代の字形で[説文解字]にこの字はない。発音字典の[廣韻]は「従う也(なり)」。[韻會]は「因(よ)る也(なり)」。[博雅]は「用(もち)いる也(なり)」。それに甲骨文字の「目的地以外の場所に立ち寄る(経由)」。などさまざまな意味がある。
これらの意味は由の字形以外に、同音の卣ユウの意味が含まれているのではないか、と考える説が非常に多い。私もこの説に共感するひとりである。下段の卣ユウは酒器の一種で、香草で香りをつけた酒を入れるため、香りが飛ばないように蓋をつけた器。意味は祭祀名(酒を捧げる儀礼であろう)[甲骨文字辞典]。金文はほぼ同じ形をしており、意味は酒器および酒器を数える数量詞として使われている[簡明金文詞典]。甲骨文字で卣ユウが香りが飛ばないように注ぎ口に蓋をつけた器であり、蓋をあけると注ぎ口から液体が出てくることから、「~より(経由)」の意となり、さらに「よりどころ(由来)」の意となった。由を音符に含む字は「つぼ」「中から抜け出る」「抜き出す」等のイメージを持つ。
意味 (1)よりどころ。いわれ。「由来ユライ」「理由リユウ」「由緒ユイショ」(物事の由来した糸ぐち。来歴) (2)~より。~から。「経由ケイユ」 (3)もとづく。よる。「自由ジユウ」(自分にもとづく) (4)伝聞。~のよし(由)。
イメージ
「つぼ」(由・油・釉)
注ぎ口がつぼの「中から抜け出る」(軸・舳・袖・宙・笛・冑・胄・鼬)
「ぬきだす」(抽・紬・迪)
「その他」 (柚・届)
音の変化 ユウ:由・釉・鼬 ジク:軸・舳 シュウ:袖 チュウ:宙・冑・胄・抽・紬 テキ:笛・迪 ユ:油・柚 カイ:届
つぼ
油 ユ・あぶら 氵部
解字 「氵(液体)+由(つぼ)」の会意形声。この氵は汁の意で、穀物の実などをつぶして絞り出した液体が、つぼに入っているかたちで、あぶらをさす。
意味 あぶら(油)。「灯油トウユ」「石油セキユ」「大豆油ダイズユ」「油断ユダン」(気を許していて灯台の油がなくなり灯が消えること)
釉 ユウ・うわぐすり 釆部
解字 「釆(采の変形字=彩。いろどる)+由(つぼ)」の会意形声。釆は、采の変形字で彩の意。つぼなどの陶器を彩るため表面にかけるうわぐすり。台湾や香港では「采+由」で表記されている。
意味 (1)うわぐすり。「釉薬ユウヤク」 (2)陶磁器や漆器のつや。
中から抜け出る
軸 ジク 車部
解字 「車(車輪)+由(中から抜け出る)」の会意形声。車輪中心部の穴を抜け出て向かいの車輪とつながる心棒。
意味 (1)車のじく。「車軸シャジク」 (2)回転するものの中心となるもの。「地軸チジク」 (3)重要な地位。「中軸チュウジク」「主軸シュジク」「枢軸スウジク」(中心となる重要な部分) (4)書画の巻物。「掛軸かけじく」「軸装ジクソウ」(掛軸に仕立てる) (5)[野球]「軸足じくあし」(打者や投手で、自分の体を支えるほうの足)
舳 ジク・へさき 舟部
解字 「舟(ふね)+由(中から抜け出る)」の会意形声。船体から抜け出たような形のへさき。
意味 へさき(舳)。舟の先端部。「舳先へさき⇔艫とも」「舳艫ジクロ」(船首と船尾)
袖 シュウ・そで 衤部
解字 「衤(衣)+由(中から抜け出る)」の会意形声。衣の内側から外へ抜け出ているそで。
意味 そで(袖)。腕を抜き出す衣服のそで。「袖手シュウシュ」(ふところ手をする)「長袖ながそで」「袖珍シュウチン」(袖に入る程の小型のもの)
宙 チュウ・そら 宀部
解字 「宀(たてもの)+由(抜け出る)」の会意形声。建物から抜けでたひろい空間をいう。
意味 そら(宙)。大空。空間。「宇宙ウチュウ」「碧宙ヘキチュウ」(あおぞら)「宙返(チュウがえ)り」
笛 テキ・ふえ 竹部
解字 「竹(たけ)+由(中から抜け出る)」の会意形声。竹の管の一方から吹き込んだ息が、他の穴を通って抜け出る楽器。ふえ。
意味 ふえ(笛)。竹の管に穴をあけて吹き鳴らす楽器。「横笛ヨコブエ」「警笛ケイテキ」
冑 チュウ・かぶと 冂部
解字 「冃(頭部のかぶりもの)+由(抜け出る)」の会意形声。頭部の被り物とそこから抜け出たように飾りが付くかぶと。兜トウとも書く。
意味 (1)かぶと(冑)。「甲冑カッチュウ」(よろいとかぶと) (2)よろい。甲冑カッチュウを、「かぶととよろい」と解釈したため。しかし、解字からは明らかに「かぶと」である。※甲コウにも、よろい・かぶと両方の意がある。
胄 チュウ・つぐ 月部にく
解字 「月(からだ)+由(抜け出る。由来する)」の会意形声。身体から抜け出て続いている(由来する)血筋。
意味 つぐ(胄ぐ)。よつぎ(胄)。続いている血筋。「胄胤チュウイン」(後の子孫。後代)「胄裔チュウエイ」(血筋を引いた子孫)「胄子チュウシ」(跡を継ぐ長男。あととり)
鼬 ユウ・ユ・いたち 鼠部
イタチ
解字 「鼠(ねずみ)+由(抜け出る)」の会意形声。小さな穴や隙間でも抜け出ることができる細長いネズミのような動物。
意味 いたち(鼬)。ネコ目イタチ科の哺乳類の総称。体は細長く柔軟で、5センチほどの隙間を抜け出ることができる。「鼬ごっこ」(互いに同じことを繰り返し、進展しないこと)「鎌鼬かまいたち」(物に触れていないのに鎌の切りきずのような傷ができる現象。鼬のしわざと考えられた)「鼬瓜いたちうり」(キュウリの異称)
ぬきだす
抽 チュウ・ひく・ぬく 扌部
解字 「扌(手)+由(抜きだす)」の会意形声。手でひきだす・ぬきとる意。
意味 (1)ひく(抽く)。ぬく(抽く)。「抽糸チュウシ」(糸をひっぱり出す)「抽斗チュウト」(引き出し。斗は枡(ます)の意) (2)抜け出る。「抽象チュウショウ」(個々の象(かたち)を抜け出たもの)
紬 チュウ・つむぎ 糸部
解字 「糸(いと)+由(抜きだす)」の会意形声。マユから糸を引き出すこと。
意味 (1)つむぐ。マユや綿から糸を引き出す。「紬績チュウセキ」(糸をつむぐ) (2)つむぎ(紬)。くずまゆや真綿をつむいだ太糸で織った絹織物。「大島紬おおしまつむぎ」 (3)つづる。集めつづる。
迪 テキ・みちびく 辶部
解字 「辶(ゆく)+由(抜きだす)」の会意形声。人の才能をぬきだすこと。
意味 (1)みちびく(迪く)。教えみちびく。「啓迪ケイテキ」(ひらき導く)「啓迪院ケイテキイン」(医者の曲直瀬道三が京都に建てた私立の医学校) (2)ふむ(迪む)。実行する。「允(まこと)に厥(そ)の徳を迪(ふ)む」(允(まこと)にその徳政を実行する) (3)登用する。すすめる(迪める)。
その他
柚 ユ・ゆず 木部
解字 「木(き)+由(ユ)」の形声。ユという名の木、およびその実をいう。日本でユズ、中国では、ザボン(文旦)をいう。
意味 ゆず(柚)。ミカン科の常緑低木。実は冬に熟し香りがよい。果汁は、日本料理等において調味料として、香味・酸味を加えるために用いられる。「柚子ゆず」「柚子味噌ゆずみそ」 (2)[中国]ザボン。文旦。果肉は柚より大きい。
届 カイ・とどける・とどく 尸部
解字 「尸(からだ)+由(中から抜け出る)」の会意。体(胴)から抜け出た二本の脚が地面にとどいていること。旧字は屆カイであるが、字義が明らかでないため現代字で解字した。
意味 (1)[国]とどく(届く)。とどける(届ける)。 (2)[国]とどけ(届)。「欠席届ケッセキとどけ」「転入届テンニュウとどけ」 (3)いたる。きわまる。
<紫色は常用漢字>
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