漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「畏イ」<杖を振り上げる鬼>と 「猥ワイ」「隈ワイ」

2020年09月28日 | 漢字の音符
 イ・ワイ・エ・おそれる  田部           

解字 甲骨文は、鬼の面(田の字)を被った人が、杖のようなものを手に持ち振りあげている形。甲骨文の意味は、「刑具を持った鬼。信仰の対象になっている」とある[甲骨文字辞典]。金文は杖を下におろした形。恐ろしい鬼が杖を振り回すかたちから、それを見て、人が、おそれる意を表す。また鬼は鬼神としての一面もあることから、うやまう意ともなる。篆文から形が変わり、下部が長の下と似たかたちとなった。現代字は「田+長の下部」の形。漢字検索の手掛かりとなる部首は「田」。
覚え方 た()いち()れ()の()はらい()で畏イ
意味 (1)おそれる(畏れる)。「畏怖イフ」(畏も怖も、おそれる意)「畏縮イシュク」(おそれちじこまる)「後生可畏コウセイカイ」(後生畏る可(べ)し。後進の者は将来大人物になるかもしれないから畏れるべきである[論語])「畏敬イケイ」(おそれうやまう) (2)かしこまる(畏まる)。おそれ多い。うやまう。「畏友イユウ」(尊敬する友人)「畏愛イアイ」(うやまい親しむ)

イメージ  
 おそろしい鬼を人が「おそれる」(畏)
 鬼が杖を振り回し行動が「みだれる」(猥)
 「同音代替」(隈)
音の変化  イ:畏  ワイ:猥・隈

みだれる
 ワイ・みだりに  犭部
解字 「犭(いぬ)+畏(みだれる)」の会意形声。畏は、鬼が杖をふりまわし乱れた行動をする形、犭(いぬ)をつけた猥は、犬が乱れるように動くさまを、人に例えていう。秩序をみだす意から、みだら、けがらわしい意となる。
意味 (1)みだりに(猥りに)。秩序をみだして。むやみに。 (2)みだら(猥ら)。けがらわしい。「猥雑ワイザツ」(下品でみだらなこと)「猥褻ワイセツ」(みだらなこと)「猥談ワイダン」(性についてのみだらな話)

同音代替
 ワイ・くま  阝部
解字 「阝(おか)+畏(ワイ)」の形声。ワイは窐ワイ・エ(くぼむ。窪ワ・エ(くぼむ)から氵を省いた字)に通じ、阝(おか)がくぼんで曲がりこんだところをいう。
意味 (1)くま(隈)。山や川が曲がりこんだところ。奥まったところ。すみ。「隈曲ワイキョク」(すみ。くま)「界隈カイワイ」(そのあたりの奥まった所。そのあたり一帯。)「隈(くま)なく」(すみずみまで) (2)[国]くま(隈)。彩色を加えてぼかす。役者の顔の色どり。「隈取(くまど)り」(①ぼかし。②役者の化粧法)「隈笹くまざさ」(イネ科ササ属の一種。冬になると葉のふちが白く隈取られることから。熊笹とも書く)
<紫色は常用漢字>

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音符「同ドウ」<まるい筒形の容器>「銅ドウ」「胴ドウ」「洞ドウ」「筒トウ」

2020年09月26日 | 漢字の音符
 ドウ・おなじ  口部 

解字 甲骨文・金文は「凡(盤=容器)+口(まるい口)」の会意。凡は甲骨・金文の形から板製の角ばった水槽などの象形と考えられ、容器の意。これに口のついた同は、まるい筒型の容器と考えられる。しかし、甲骨文字は祭祀名・地名で、金文は人名。[字統]は、この容器が酒杯と考えられ、この字を含む興キョウ・コウが多くの人の手で同を持ち上げる形であり「集まった者同士が酒杯を交わして一体となる儀礼に用いる。この儀礼の参加者が合一して一体となるのが原義。一体となることから、同じ・ひとしい意となった」としており、興の字が成立した春秋・戦国以後にこの意味が成立したものと思われる。同を音符に含む字は、同が筒型の酒器であることから、「筒の形」「穴があく」イメージがある。
意味 (1)おなじ(同じ)。ひとしい。「同一ドウイツ」「同窓ドウソウ」 (2)ともにする。一緒に。「共同キョウドウ」「同伴ドウハン」 (3)あつまる。「会同カイドウ」 (4)さかずき。

イメージ 
 「同じ・同一」
(同・銅)
 同が筒型の酒器であることから「つつの形」(筒・胴)
 筒型の酒器は「穴があいている」(洞・桐・恫)
音の変化  ドウ:同・胴・洞・銅・恫  トウ:筒・桐 

同じ・同一
 ドウ・あかがね  金部
解字 「金(黄金)+同(同じ)」の会意形声。金は当初、銅(青銅)の意味で使われた。青銅(銅と錫の合金)は本来、淡い金色をしており当時の最高級の金属原料であった。のち、鉄や金銀の加工技術が普及し、「金」は、金属の総称、また黄金を指して使われるようになったので、銅を表すため金に同をつけた銅が作られた。意味は、黄金と同じような色をしている銅(青銅)を表す。多くの銅鉱石は錫を同時に含むので自然に青銅が得られた。のち、精錬技術が発展し純度の高い銅がつくられると、あかがねと呼ばれるようになった。[甲骨文字小字典]
意味 どう(銅)。あかがね(銅)。「銅貨ドウカ」「銅銭ドウセン」「銅鐸ドウタク」「赤銅シャクドウ
※こがね(黄金)・しろがね(白金=銀)・くろがね(鉄)・あかがね(銅)
 
つつの形
 トウ・つつ  竹部
解字 「竹+同(つつの形)」の会意形声。中が中空になっている竹のつつ。
意味 (1)竹のくだ。「竹筒たけづつ」 (2)中がうつろの円柱。「水筒スイトウ」「煙筒エントウ」(=煙突) (3)[国]つつ(筒)。銃身または砲身。鉄砲または大砲。「大筒おおづつ」、楽器の中空の部分。「太鼓の胴どう
 ドウ  月部にく
解字 「月(からだ)+同(つつの形)」の会意形声。身体の筒のかたちの部分。
意味 (1)首・手足を除いた体の中央の部分。「胴体ドウタイ」「胴上(どうあ)げ」 (2)物の中央の太い部分。物事の中央。「胴元ドウもと

穴があいている
 ドウ・ほら  氵部
解字 「氵(水)+同(穴があいている)」の会意形声。水が大地の中を流れて造りだした穴。
意味 (1)ほら(洞)。ほら穴。「洞窟ドウクツ」「洞穴ドウケツ」「空洞クウドウ」 (2)つらぬく。見とおす。「洞察ドウサツ
 トウ・ドウ・きり  木部
中心に穴があいている桐丸太
解字 「木(き)+同(穴がある)」の会意形声。幹の中心部に穴があき空洞となる木。桐の木の中心部は必ず穴があいて空洞となっている。この解字は桐の木に穴があることからの私見であるが、覚え方として掲載した。しかし、漢字を作った人が桐の木の穴を自覚していたのか疑問である。「説文通訓定聲」(清代)に「その材は琴瑟キンシツ(琴と大琴)に適する」とあることから、筒型の楽器である琴(日本で箏ソウとも)の材料に用いられる木の意味であろう。因みに中国の琴の説明に「桐木等を用いて制成する」とあり、日本では箏の説明に「箏は桐の木をくり抜いた、上下からなる箱状の楽器(要旨)」(ウィキペディア)としている。
意味 (1)きり(桐)。ゴマノハグサ科の落葉高木。成長が早く材は軽い。湿気を通さず、割れや狂いが少ないという特徴があり、家具などの木材として重宝される。「桐箪笥きりダンス」「桐油トウユ」(アブラギリの種からとる油)「桐花紋トウカモン」(桐の花を意匠化した家紋) (2)あおぎり。
 ドウ・トウ  忄部
解字 「忄(こころ)+同(穴があく)」の会意形声。心に穴があくような状態。心が痛んだり、おそれること。
意味 (1)いたむ。心がいたむ。「恫痛ドウツウ」(かなしみいたむ) (2)おそれる。「恫疑ドウギ」(おそれて疑う) (3)おどす。おどかす。「恫喝ドウカツ」(おどして恐れさせる)
<紫色は常用漢字>

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音符「虎コ」<とら>と「虐ギャク」<虎がツメを現す>

2020年09月24日 | 漢字の音符
 コ・とら  虍部            

解字 虎のかたちの象形。甲骨文字は最も写実的に描かれ、金文以降、抽象化されている。現代字は「虍(トラの頭)+儿(人あし)」の形になっている。
意味 とら(虎)。「虎口ココウ」「猛虎モウコ」「虎狼コロウ」(トラとオオカミ。転じて、残忍な者)
参考 虎は部首「虍とらがしら」になる。
常用漢字  5字
 コ・とら(虍+儿)
 ギャク・しいたげる(虍+逆ヨの会意)
 キョ・むなしい(虍+丘の変化字)
 グ・おそれ(虍+音符「呉ゴ⇒グ」)
 リョ・とりこ(力+音符「盧ロ⇒リョの略」)

イメージ 
 「とら」
(虎・彪・琥・鯱)
音の変化  コ:虎・琥  ヒョウ:彪  しゃち:鯱

と ら
 ヒョウ・ヒュウ・あや  彡部
解字 「彡(模様)+虎(とら)」の会意。虎の皮の模様をいう。
意味 (1)まだら。虎の皮の斑文。「彪彪ヒョウヒョウ」(まだらになっているさま)(2)あや(彪)。あざやかな模様「彪炳ヒュウヘイ・ヒョウヘイ」(あざやかで美しい。文章の美しさなどを例える)
 コ  王部
解字 「王(玉)+虎(とら)」の会意形声。虎が死後に玉になったと信じられた宝石。
意味 「琥珀コハク」に使われる字。琥珀とは地質時代の樹脂などが地中に埋まり生じた一種の化石で、黄色を帯びた半透明の玉。パイプ・装身具などに加工される。「琥珀色コハクいろ」(黄色みを帯びた茶色)
<国字> しゃち  魚部
解字 「魚(さかな)+虎(とら)」の会意。虎のように獰猛ドウモウな魚。
意味 (1)しゃち(鯱)。イルカ科の海獣。イルカの仲間では最大で体長約9メートル。性質は獰猛ドウモウで、時には群れで鯨などを襲う。(2)しゃちほこ(鯱)。鯱鉾とも書く。姿は魚で頭は虎、背中に鋭いとげを持っている想像上の動物。また、それを模した棟飾りのひとつ。城郭建築に多く大棟の両端につける。「金の鯱しゃちほこ」(金箔などで金色に仕上げた鯱)

      ギャク <虎がツメを現す>
 ギャク・しいたげる  虍部 

解字 篆文第一字(六書通字)は、虎が爪(ツメ)を出した形。篆文第二字(説文解字)は、そこに人を加えて虎が人を襲おうとする形。人をむごいめにあわせる意。篆文第一字が現代に引き継がれ、新字体は虎のツメが逆ヨのかたちの虐に変化した。
意味 しいたげる(虐げる)。いじめる。「虐待ギャクタイ」「虐刑ギャクケイ」(むごい刑罰)「虐政ギャクセイ」(人民をしいたげる政治)
覚え方 とら()の逆ヨ()で、待うける。

イメージ 
 「ひどい」
(虐・謔・瘧)
音の変化  ギャク:虐・謔・瘧

 ギャク・たわむれる  言部
解字 「言(いう)+虐の旧字(ひどい)」の会意形声。ひどく言う。転じて、からかう意。
意味 たわむれる(謔れる)。冗談を言う。ふざける。からかう。「諧謔カイギャク」(しゃれ。ユーモア)「謔笑ギャクショウ」(ふざけてわらう)「戯謔ギギャク」(たわむれおどける)
 ギャク・おこり  疒部
解字 「疒(やまい)+虐の旧字(ひどい)」の会意形声。ひどい発熱が周期的におこる病気。
意味 おこり(瘧)。わらわやみ。マラリア。「瘧疾ギャクシツ」(=おこり)「瘧草えやみぐさ」(①リンドウの古名。リンドウの根は竜胆リュウタンと呼ばれ薬用になる。②オケラの別称)
<紫色は常用漢字>

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音符「定テイ」<さだめる>と「錠ジョウ」「綻タン」

2020年09月22日 | 漢字の音符
 テイ・ジョウ・さだめる・さだまる・さだか  宀部  

解字 甲骨文・金文は、「宀(たてもの)+正(都邑を攻撃し支配する)」 の会意。宀は宇(宇内=天下)の意。正は甲骨文で分かるように「口(城郭)+止(あしで進む)」で、城郭に向かって進撃し都邑を征服・支配すること。定は、天下を征服・支配し、世の中がおさまること。ゆるぎなく維持される状態を固定することから、さだまる、安定する意となる。現代字は正の下部が龰に変化した。
意味 (1)さだめる(定める)。さだまる(定まる)。きめる。「決定ケッテイ」「定員テイイン」 (2)落ち着く「安定アンテイ」 (3)さだめ。「規定キテイ」 (4)きっと。必ず。「必定ヒツジョウ

イメージ 
 「さだめる」
(定・掟) 
 「安定する・固定する」(碇・淀・錠)
 「形声字」(綻)
音の変化  テイ:定・掟・碇  テン:淀  ジョウ:錠  タン:綻

さだめる
 テイ・ジョウ・おきて  扌部
解字 「扌(て)+定(さだめ)」の会意形声。さだめを書いた紙や札を手で張り出したり立てること。公にされた、さだめ・きまりのこと。
意味 おきて(掟)。きまり。さだめ。「天掟テンテイ」(天のおきて)
<国字> ジョウ・おおせ 言部
解字 「言(ことば)+定(さだめ)」の会意。定めを言葉で表すこと。
意味 (1)おおせ(諚)。上からの命令。「勅諚チョクジョウ」(天皇のおおせ。みことのり)「御諚オンジョウ」 (2)おきて(掟)

安定する・固定する
 テイ・いかり  石部
解字 「石(いし)+定(安定する)」の会意形声。縄をつけた木の枝に石を括り付けて沈め、舟の位置を安定させるイカリ。金属製のイカリは錨ビョウという。
意味 (1)いかり(碇)。 (2)いかりを下ろす。舟をとめる。「碇泊テイハク
 テン・デン・よど・よどむ  氵部
解字 「氵(水)+定(安定する)」の会意形声。水が早く流れずに、よどむこと。※中国では浅い湖の意。多く地名に用いられる。
意味 よど(淀)。よどみ(淀み)。よどむ(淀む)。「淀川よどがわ」(琵琶湖から流れ出て京都盆地をへて大阪湾に注ぐ川。上流を瀬田川、宇治から淀までを宇治川という)「淀舟よどぶね」(淀川を往来し人や荷物を運んだ舟)
 ジョウ  金部
解字 「金(金属)+定(固定する)」の会意形声。つぎ目に流し込んで固定する錫(すず)などの金属をいう。また、固まったつぶ銀をいう。転じて、つぶ形の薬。日本では扉を固定する金具の意で、錠前(ジョウまえ)の意に用いる。
意味 (1)丸く固めた薬。「錠剤ジョウザイ」 (2)[国]じょうまえ。「施錠セジョウ」「手錠テジョウ
<国字> しかと  耳部
解字 「耳(みみ)+定(固定する)」の会意。耳で聞いて忘れないこと。
意味 しかと(聢と)。たしかに。しっかりと。まちがいなく。確と。「聢と頼んだぞ」

形声字
 タン・ほころびる  糸部
解字 「糸(布)+定(タン)」の形声。タンは旦タン([日が]あらわれる)・袒タン(はだぬぐ・ほころびる)に通じ、布が破れて中味が外にあらわれる意。花の咲く意にも用いる。
意味 (1)ほころびる(綻びる)。「破綻ハタン」(やぶれほころびる) (2)花がほころびる。「紅綻コウタン」  <参考>[中国]「綻放タンホウ」(花火が開く)
<紫色は常用漢字>

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同訓異字「つとめる」 勤める・務める・努める

2020年09月19日 | 同訓異字
問題 次のに上の漢字を入れてください。
(1)大役をめる。
(2)技術向上にめる。
(3)工場にめる。

 「つとめる」というと普通、「力を尽くしてことを行うこと」というイメージがありますが、語源はなんと「ツト(夙)」(朝早く)に由来するそうです。「ツト-む」は、「朝早くから立ちはたらく意で、ものごとにつとめ精出すこと」と「字訓」にあります。「岩波古語辞典」にも「ツト-め」はツト(夙)と同根としています。「ツト-める」は活用変化したかたちです。
 そういえば「つと」を含む言葉は結構あります。「つとに」といえば「①朝早く、②早くから」という意味ですし、「つとめて」といえば枕草子の「春はあけぼの、冬はつとめて(早朝・あかつき)」などでおなじみですね。
 日本人は「つとめる」を、朝早くからはたらく意で用いましたが、漢字の伝来によりそれぞれの字の意味に合わせて使い分けるようになりました。漢字字典で「つとめる」を引くと20字以上が出ていますが、ここではよく用いる3つの漢字を紹介します。

 その前に、語源の「ツト」も漢字がありますので紹介します。
 シュク・つとに  凡部

解字 甲骨文字は月に向かって両手をのばして座る人の形(会意)。月に祈る形を表している。金文は「月+両手を出す人」、篆文は「夕+両手を出す人」の形。篆文の夕は夕方でなく月の意。夜のまだ明けやらぬうちから月を拝するさまで、早朝から(また、早くから)の意味を示す。現代字は「両手を出す人」の部分が「凡」に変化した「凡+夕」の夙になった。
意味 (1)つとに(夙に)。はやく。(A)朝早く。「夙起シュクキ」(朝早く起きる)(B)むかしから。「夙志シュクシ」(早くから抱いていたこころざし)。(2)あさ。早朝。「夙夜シュクヤ」(朝早くから夜おそくまで。また、早朝)

「つとめる」の漢字3種です
 キン・ゴン・つとめる  力部
勤の音符は堇キン  土部

解字 甲骨文は手を縛られ火の上に立つ人で、ひでりのとき犠牲の人を焚(や)いて雨乞いをする祭祀を表している(「字源(中国)」「字統」などを参照)。金文もほぼ同じ形を踏襲したが、篆文で下部が火⇒土に誤った変化をして意味も「ねばつち」や「ぬる」意となったが、形声字の音符になると「ひでり」、ひでりで実りが「わずか・すくない」イメージをもつ。
意味 (1)ねばつち。(2)ぬる。
キン・ゴンの解字
解字 旧字は勤で「力(ちから)+堇(日でり・艱難カンナン)」の会意形声。日でりの続く困難な状態の中で力のかぎりをつくすこと。つとめる・はげむ意となる。日本では会社・役所などで働く意味でも用いる。
意味 (1)つとめる(勤める)。精を出す。こまめに働く。「勤勉キンベン」「勤労キンロウ」 (2)[国]つとめ(勤め)。つとめる(勤める)。会社・役所などの従業員・職員として働く。また、その仕事。「勤務キンム」「銀行に勤める」「勤め人」 (3)つとめ(勤め)。寺での修行。「勤行ゴンギョウ」「本堂でお勤めをする」

 ド・つとめる  力部
努の音符は奴    

解字 「女(おんな)+又(て)」の会意。手で女を捕らえ、不自由化して奴隷にする意。女だけでなく男女の奴隷につかう。
意味 (1)しもべ。召使い。使用人。「奴隷ドレイ」「農奴ノウド」(領主に隷属して農業を行なう農民) (2)[国]やっこ(奴)。武家の下男。大名行列にお供の先をつとめた。「町奴まちやっこ」(江戸市中の侠客)「奴凧やっこだこ」 (3)やつ(奴)。他人をいやしめていう語。「奴等やつら
努の解字
解字 「力(スキ)+奴(農奴)」の会意形声。力は農具のスキの象形。農奴がスキで黙々と農作業をすること。
意味 (1)つとめる(努める)。はげむ。「努力ドリョク」「解決に努める」「完成に努める」 (2)[国]つとめて(努めて)。できるだけ。「努めて早起きする」 (3)[国]ゆめ(努)。「努努ゆめゆめ」(けっして)

 ム・つとめる  力部
務の音符は矛


銅矛(弥生時代後期)東京国立博物館蔵
解字 長い柄の先に、鋭い両刃の穂先をつけた槍のような武器の象形。金文は、上の曲線が刃先、途中の半環状のものは、銅戈写真の下部に見える、飾り紐をつける耳といわれる部分と思われる。この下に柄がつく。篆文は形が大きく変わり、これを受け継いで隷書レイショ(漢代)が成立、現代字へとつづく。矛は部首となるが、「ほこ」の意で音符ともなる。
覚え方 よ()の()ほこる(ほこ)は、盾を突きぬけ矛盾なし「予+ノ=矛
意味 ほこ(矛)。長い柄の先に両刃の剣をつけた武器。「矛盾ムジュン」(①ほことたて。②つじつまの合わないこと)「矛戟ボウゲキ」(戟は二つの刃先のあるほこ)
務の解字
解字 「攵(つく)+力(ちから)+矛(ほこ)」の会意形声。矛を力をいれて突くこと。戦いの場などで力いっぱい役目を果たす意となる。攵ボクは、もとの形は攴ボクで「うつ」意。ここでは矛をつく意となる。
意味 (1)つとめ(務め)。やくめ。自分の役割としての仕事。「業務ギョウム」「公務コウム」「任務ニンム」 (2)つとめる(務める)。自分の役目にはげむ。「勤務キンム」「議長を務める」「主役を務める」「親の務め」 (3)つとめて(務めて)。ぜひとも。「務必ムヒツ」(かならず)

問題と正解 
(4)大役をめる。
(5)技術向上にめる。
(6)工場にめる。
正解
(1)大役を「つとめる」は、役割を果たすことですから、矛を持って自分の役割をする務が正解です。
(2)技術向上に「つとめる」は努力する意ですから、努が正解です。
(3)工場に「つとめる」は日本では、精を出す・こまめに働く意である勤が慣用的に使われます。

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同訓異字「さく」 割く・裂く・咲く

2020年09月15日 | 同訓異字
問題 次のに上の漢字を入れてください。
(1)仲をく。
(2)花がく。
(3)時間をく。

 「サ-く」の語源は、ひとつにまとまっているものを二つにはなす意です。手をもちいて、ひきやぶる・やぶく意になり、刃物をもちいると切り開く意になります。「サ-く」は目的語をとる他動詞ですが、「サ-ける」は自動詞形です。
 なお、花が「サ-く」は、花のつぼみが開くことですが、花弁が「サ-ける」(裂ける)ように広がることから、ひとつにまとまっているものを二つにはなす意である「サ-く」と同源の言葉といえます。
 今回は、二つにはなす意の「サ-く」から二文字、つぼみがさく意の一文字を紹介します。

二つにはなす意
 レツ・さく・さける  衣部
裂の音符は、列レツ

解字 篆文は「刂(刀)+毛髪のある頭骨(巛+夕)レツ」の会意。「巛+夕」は、「巛(毛髪)+夕(=歹。死者の骨)」で毛髪のある頭骨の意。これに刂(刀)がついた列は毛髪のある頭骨(死者の頭部)を刀で切りはなす形で、「きりはなす」が原義。また、古代の墓(殷墓)では、切りはなした頭骨をいくつも、墓の出入り口に並べて、悪邪をさえぎる呪いとしたので「ならべる」意味となる(字統を参考にした)。現代字は、「巛+夕」(毛髪のある頭骨)⇒歹ガツ(死者の骨)に変化した列レツになった。列は、ならべる意味が中心となり「きりはなす」意味は音符に残る。 意味(1)つらねる(列ねる)。つらなる(列なる)。(2)ならべる。ならんだ順序。
裂の解字
解字 「衣(ころも)+列(切りはなす)」の会意形声。衣の布地を切りはなすこと。日本語では、ひきさく意になる。
意味 (1)さく(裂く)。ひきさく。「布を裂く」「生木を裂く」。さける(裂ける)。「決裂ケツレツ」「亀裂キレツ」「裂傷レッショウ」 (2)[国]ひきはなす。「二人の仲を裂く」 (3)ばらばらに分かれる。「分裂ブンレツ」「破裂ハレツ」「炸裂サクレツ」(爆弾などが破裂すること)

 カツ・わる・わり・われる・さく  刂部
割の音符は害ガイ

解字 金文は、「取っ手のある大きな針+口サイ(うつわ)」からなる。口は神への願いの文をいれる器の口サイで、これを大きな針で突き刺して、器の中の願いの目的を失わせること[字統]。そこなう、願いがさまたげられるので、わざわいが起きる意となる。篆文以降は「宀(やね)+丯カイ(キズをつける)+口(うつわ)」の会意に変化したが意味は同じ。害を音符に含む字は、「そこなう」、大きな針を「さしこむ」イメージがある。新字体は丯の下が付き出ない。 意味(1)そこなう(害う)。傷つける。(2)さまたげる。じゃまをする。「妨害ボウガイ」(3)わざわい。災難。「災害サイガイ
割の解字
解字 「刂(刀)+害(そこなう)」の会意形声。刀で切って物を損なうこと。
意味 (1)わる(割る)。分ける。「分割ブンカツ」「割譲カツジョウ」(土地などを割いて他に譲る) (2)さく(割く)。きる。切って取る。「割烹カッポウ」(肉を割いて煮る。料理すること) (3)さく(割く)。一部を切り分けて他に振りむける。「時間を割く」「紙面を割く」「人手を割く」 (4)わりあい(割合)。比率。「五割ごわり

花が開く
 ショウ・さく  口部            

解字 篆文は、「竹+夭」で笑と同じ。隷書レイショに属する後漢の石碑の文字から、「口+关」 の咲ショウが出現した。关は笑(わらう)の竹かんむり⇒ソに、夭⇒天に変化した俗字(略字)とされ、咲は口をあけて笑う意。この字は、笑の篆文第一字の「口夭」との関連もふかい。すなわち、笑と咲は異体字の関係にある。
 なお、日本では笑ったとき口もとのほころびるさまを花の開くさまに例え、花が咲く意味で江戸時代から使い始めた。今日ではこの用法が一般化し、咲は「花が咲く」意となり、わらう意どころか、発音のショウも忘れられた存在になっている。
意味 (1)わらう。笑う。えむ。 (2)[国]さく(咲く)。「花が咲く」「遅咲(おそざ)き」 (3)名乗り(名前に使用)として「えみ・さ・さき・さく」がある。

問題と正解
(1)仲をく。
(2)花がく。
(3)時間をく。
正解
(1)仲を「さく」は、二人の仲を「ひきはなす」意味ですから、衣(布)を切り離す意から派生した意である「裂く」になります。
(2)花が「さく」は、花が開く意ですから、日本では笑うから変化した俗字の「咲く」が正解です。中国では、花が咲くことを「開花」と表現します。
(3)時間を「さく」は、全体の一部を分ける(分割)意味ですから、割くが正解です。
※なお、(1)(3)の「さく(裂く・割く)」の発音アクセントは、さく(HL)、(2)の「さく(咲く)」は、さく(LH)となり、話し言葉ではアクセントで区別しています。(Lはlowで低い。Hはhighで高い)

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音符「奐カン」<分娩で子どもをとりあげる>と「換カン」「喚カン」

2020年09月11日 | 漢字の音符
 カン  大部           

解字 金文は身体をひねった大のかたちの人が股間をひろげており、その下に両手を描く。女性が分娩するとき両手で子どもをとりあげる形。篆文は上部が人の側面に変化した。現代字は両手が大に変化した奐になった。この字は換カン(とりかえる)の原字であるが、子をとりあげる形が何故「とりかえる」意になるのか? 私は子をとりあげ新しい生命が誕生し、先祖と入れ替わることから「かえる」意になったと推定する。なお、単独では仮借カシャ(当て字)されて、「あきらか」「さかんなさま」の意になる。
意味(1)あきらか。=煥。 (2)さかん。 (3)かえる。とりかえる。=換。

イメージ 出産で子が先祖と入れ替わることから「かえる」。出産のとき妊婦が「さけぶ」生まれた子が母を「よぶ」、仮借の意である「あきらか」
 「かえる」(換)
 出産のとき「さけぶ・よぶ」(喚)
 意味(1)の「あきらか」(煥)
 形声文字(渙)

音の変化  カン:換・喚・煥・渙

かえる
 カン・かえる・かわる  扌部
解字 「扌(手)+奐(かえる)」の会意形声。手で入れ換えること。
意味 かえる(換える)。かわる(換わる)。とりかえる。「交換コウカン」「換言カンゲン」(言い換える)「換算カンサン・カンザン」「転換テンカン」「換気扇カンキセン
さけぶ・よぶ
 カン・わめく・よぶ  口部
解字 「口(くち)+奐(さけぶ・よぶ)」の会意形声。口から発する叫び声、および呼ぶ声。
意味 (1)わめく(喚く)。さけぶ。「喚声カンセイ」(さけびごえ)「阿鼻叫喚アビキョウカン」(地獄の苦に耐えられず泣き叫ぶ) (2)よぶ(喚ぶ)。よびよせる。「喚起カンキ」(よび起こす)「喚問カンモン」(呼び出して問いただす)
あきらか
 カン・あきらか  火部
解字 「火(ひ)+奐(あきらか)」の解字形声。火のひかりにより、あきらかになること。
意味 あきらか(煥らか)。光かがやくさま。「煥然カンゼン」(光かがやくさま)「煥発カンパツ」(外面に輝きあらわれる)「才気煥発サイキカンパツ
形声文字
 カン  氵部
解字 「氵(みず)+奐(カン)」の形声。意味は氵(みず)で、カンは発音を表す。この字の意味は水が飛び散ること。煥カンが光かがやく意で光が四方に拡がる意から、水が四方に飛び散る意になったと思われる。
意味 ちる(散る)。はなれる。「渙発カンパツ」(天皇が詔勅を発布すること。水が散るように四方に発布する意)「渙散カンサン」(病気で発熱していたものが徐々に下がること) (2)(氷が散って)とける。「渙然カンゼン」(とけるさま)「渙然氷釈する(カンゼンヒョウシャクする」(氷のとけるように、疑惑や迷いがなくなる。杜預ドヨ「春秋左氏伝序」) 
<紫色は常用漢字>

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同訓異字「しめる」 占める・閉める・締める・絞める

2020年09月07日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)首をめる
(2)店をめる
(3)帯をめる
(4)土地を買いめる

 「シメ-る」の語源「シメ」は二つあり、ひとつは「シメ(締)」で、まわりから強い圧力をくわえて、ものの隙間やゆるみをなくす意です。もうひとつは「シメ(標)」で、土地の領有を示し、また場所を守るために杭などを立てたり、縄を張る(しめ縄)などして標(しるし)とするものです。なお、この他に「しみ-る(染みる・浸みる)」の他動詞形である「シメ-る(湿る)」がありますが、ここでは省略させていただきます。

 古代の日本人は、「しめ-る」という言葉で、上記の内容を含む表現をしていたと思われますが、漢字が伝来してその意味を知ることにより、漢字を用いてより明確な意味で用いるようになりました。
 今回は一つ目のシメ(締)の意味から二つの漢字。二つ目のシメ(標)の意味から二つの漢字を紹介します。

 テイ・むすぶ・しめる  糸部
音符の解字 締の音符は帝テイ

解字 甲骨文字で分かるように、三本脚の祭卓の脚をH印でしばった形の安定した大きな祭壇をいう。金文から祭卓に供物(-印)をのせる。最も尊い神を祀るときの祭卓で、その祭祀の対象となるものも帝とよんだ[字統ほか]。帝には、祭卓の脚部を「むすぶ」イメージがある。
テイの解字
解字 「糸(ひも)+帝(むすぶ)」の会意形声。糸(ひも)でしっかりと結ぶこと。むすぶ、転じてとりきめる意。日本では、ゆるみのないようにしめる意で用いる。
意味 (1)むすぶ(締ぶ)。とりきめる。「締結テイケツ」「締約テイヤク」 (2)しめる(締める)。しまる(締まる)。しめくくる。「帯を締める」「締め込み」(力士のふんどし)「ネジを締める」「心を引き締める」「締め切り」

 コウ・しめる・しぼる  糸部
音符の解字 絞コウの音符は交コウ

解字 人が脚を交差させた姿の象形。X型に交わる意味をしめす。
コウの解字
解字 「糸(ひも)+交(交差させる)」の会意形声。糸(ひも)を交差させてしめること。ひもを人の首(くび)にかけ交差させて両端をひっぱり「くびる」意である「しめる」として用いられることが多い。日本では、「しぼる」(ねじる)意でも用いられる。
意味 (1)しめる(絞める)。「絞殺コウサツ」(絞め殺す)「絞首コウシュ」(首を絞める)「絞罪コウザイ」(絞首刑に相当する罪) (2)[国]しぼる(絞る)。「絞り染め」

 セン・うらなう・しめる  ト部

解字 甲骨文第1字は、肩甲骨の象形の中に卜(うらない)と祭祀を象徴する口サイを描いた形で、甲骨占卜センボク(うらない)を表現した会意文字。第2字は肩甲骨を省いたかたち。意味は甲骨の卜兆(ひびわれ)を見て将来を判断すること[甲骨文字辞典]。春秋戦国以降、現在まで第2字の形が続いている。なお、この字は占う意のほかに「占める」意がある。この意味は甲骨の上に占う文字をきざみ連ねて、文字が甲骨の上を「占める」からとされる。この意味から占の音符を含む字は「場所をしめる」イメージを持つ。
意味 (1)うらなう(占う)。うらない(占)。「占卜センボク」(うらない。占も卜も、うらなう意) (2)しめる(占める)。「占有センユウ」「占拠センキョ」(場所を占めて他人をよせつけない)「独占ドクセン

 ヘイ・とじる・とざす・しめる  門部
音符の解字 閉の音符は才サイ

解字 杭などの先に目印をつけ境界などをしるしたもの。しるし(標し)・標識。甲骨文字は在ザイの原字として「ある」意味で使われている。金文でも「正月に才(あ)り」など在の意味で用いられているが、財ザイ(たから・価値あるもの)の意でも使われる例があり、意味が「ある」から「価値あるもの」へと変化していった。のちに「才能ある」「生まれつきの素質」などの意味になった。。
ヘイの解字
解字 「門(もん)+才(しるし・標識)」の会意。門の前にしるし(標識)が立てられたかたち。このしるしは境界を表し、門を入ることを禁ずる意。すなわち、門をとじる・しめる意となる。
意味 (1)とじる(閉じる)。とざす(閉ざす)。しめる(閉める)。「閉鎖ヘイサ」「閉門ヘイモン」 (2)とじこもる。とじこめる。「閉塞ヘイソク」 (3)おわる。「閉会ヘイカイ
<紫色は常用漢字>

問題と正解
(1)首をめる
(2)店をめる
(3)帯をめる
(4)土地を買いめる
正解
(1)首を「しめる」は、首に紐をかけ交差させて「しめる」ことですので、正解は音符・交コウが入った絞です。
(2)店を「しめる」は、店を閉ざす意味ですから閉が正解です。
(3)帯を「しめる」は、帯をゆるみやすきまのないように「しめる」意ですから、締が正解です。なお、「締める」は「気を引き締める」のように人の気持ちや心を「しめる」意でも使います。
(4)土地を買い「しめる」は、場所の領有を示すことですから占が正解です。

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音符「才サイ」<しるし・標識>と「在ザイ」「材ザイ」「財ザイ」「存ソン」「閉ヘイ」

2020年09月03日 | 漢字の音符
 サイ  手部

解字 杭などの先に目印をつけ境界などをしるしたもの。しるし(標し)・標識。甲骨文字は在ザイの原字として「ある」意味で使われている。金文でも「正月に才(あ)り」など在の意味で用いられているが、財ザイ(たから・価値あるもの)の意でも使われる例があり、意味が「ある」から「価値あるもの」へと変化していった。のちに「才能ある」「生まれつきの素質」などの意味になった。

現代の才?(河川敷工事の十字型クイ・茨木市の安威川で。工事現場の人に聞いたら「チョウバリ」と呼んでいるという。2020.9月)
意味 (1)生まれつきの能力。素質。「英才エイサイ」「天才テンサイ」 (2)さい(才)。働き。能力。「文才ブンサイ」「才覚サイカク」(知力のはたらき)

イメージ 
 「しるし・標識」(才・閉)
 標識が「ある」(在・存・豺)
 「ある」が変化した「価値あるもの」(材・財)
音の変化  サイ:才・豺  ザイ:在・材・財  ソン:存  ヘイ:閉

しるし・標識
 ヘイ・とじる・とざす・しめる・しまる  門部
解字 「門(もん)+才(しるし・標識)」の会意。門の前にしるし(標識)が立てられたかたち。このしるしは境界を表し、門を入ることを禁ずる意。すなわち、門をとじる意となる。
意味 (1)とじる(閉じる)。とざす(閉ざす)。しめる(閉める)。「閉鎖ヘイサ」「閉門ヘイモン」 (2)とじこもる。とじこめる。「閉塞ヘイソク」 (3)おわる。「閉会ヘイカイ

ある
 ザイ・ある  土部
解字 「土(つち)+才(ここにある)」の会意形声。土地の上にある意。
意味 (1)ある(在る)。いる。「存在ソンザイ」「在野ザイヤ」 (2)ある場所・立場にいる。「在職ザイショク」「在位ザイイ」 (3)ざい。いなか。「在所ザイショ」(いなか。郷里)
 ソン・ゾン・ある・たもつ  子部
解字 「子(こ)+才(=在。いる)」の会意形声。子がいる意。また、幼い子をたもつ。いたわる意となる。
意味 (1)ある(存る)。いる。「存在ソンザイ」「存亡ゾンボウ」「生存セイゾン」 (2)たもつ(存つ)。ながらえる。「保存ホゾン」「存命ゾンメイ」 (3)いたわり問う。「存問ソンモン」(安否を問う) (4)おもう。かんがえる。心得る。「存分ゾンブン」(思うまま)「所存ショゾン
※在は場所に「いる」こと。存は人が「いる」こと。
豺[犲] サイ・やまいぬ  豸部むじな
解字 「豸(けもの)+才(=在。いる)」の会意形声。豸は、けものを表すが、ここでは犭と同じく犬の意。豺サイは犬がいる意で、山にいるオオカミのたぐいを表す。また、人に例えて悪逆な者の意味にもなる。字は「犭(けもの)+才」の犲サイとも書く。
意味 やまいぬ(豺)。オオカミのたぐい。悪逆な者。「豺虎サイコ」(山犬と虎。転じて、獰猛な人)「豺狼サイロウ」(山犬とオオカミ。転じて、欲深く残忍な人)「豺目サイモク」(山犬の目。転じて、人の鋭い目)

価値あるもの
 ザイ  木部
解字 「木(き)+才(価値あるもの)」の会意形声。役に立つ木。
意味 (1)物をつくる素材となる木。「材木ザイモク」「建材ケンザイ」 (2)もと。原料。「材料ザイリョウ」 (3)はたらき。才能。才能ある人。「逸材イツザイ」「人材ジンザイ
 ザイ・サイ・たから  貝部
解字 「貝(財貨)+才(価値あるもの)」の会意形声。価値ある財貨。
意味 (1)たから(財)。とみ。「財産ザイサン」「財布サイフ」「財源ザイゲン」 (2)役に立つもの。「家財カザイ」「資財シザイ
<紫色は常用漢字>

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