漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「ヒ ヒ」<さじ・女性の祖先>と「匙シ」「牝ヒン」「匂におう」

2016年12月26日 | 漢字の音符
 ヒ・さじ  ヒ部 

解字 甲骨文字は、手を曲げている人の側面形。甲骨文では二世代以上前の女性祖先の意味で使われている。女性の何らかの仕草を表したと思われる[甲骨文字辞典]。何の仕草かは不明(手を合わせて拝む姿かもしれない)。金文で同じ発音の「さじ」の意に仮借カシャ(当て字)された。のち、女性祖先の意は女をつけた「女ヒ=妣」に分化した。また、さじや杓子は食べ物をすくったり、とりわけることから、食事に使う小刀もさすようになり、のち「ヒ首あいくち」の意となった。
意味 (1)さじ(ヒ)。匙とも書く。しゃもじ。「ヒ箸ヒチョ」(さじとはし) (2)あいくち。短刀、また短剣。「ヒ首ヒシュ・あいくち」(鍔つばがなく柄口と鞘さや口がぴったり合うようにできた短刀。両方の口が合うことから、あいくちと言う)

イメージ  
 「さじ」
(ヒ・匙)
 原義である「女性祖先・女性」(妣・牝)
 「ヒの発音」(匂)
音の変化  ヒ:ヒ・妣  ヒン:牝  シ:匙  におう:匂

さじ
 シ・さじ  ヒ部
解字 「ヒ(さじ)+是シ(さじ)」の会意形声。是は、さじを表した象形文字であるが、仮借カシャ(当て字)され「ただしい・これ・この」の意に使われる。本来のさじの意を表すために匕(さじ)と組み合わせた匙の字が作られた。(匙の音符は是となる。参考のため重出した)
意味 さじ(匙)。液体や粉末をすくいとる道具。スプーン。「茶匙ちゃさじ」「小匙こさじ」「匙加減さじかげん」(薬を調合する際の加減。状況に応じた手加減)
 
女性祖先・女性
妣[女ヒ ヒ  女部

解字 甲骨文字は腕を曲げている人の側面形。甲骨文では二世代以上前の女性祖先の意味で使われている[甲骨文字辞典]。金文第2字で女がついた「女+ヒ」の字があらわれ女性祖先の意味をはっきりさせた。篆文から、死去した母親の意となり、ヒが同音の比になった「妣」となり現在につづく。
意味 なきはは(亡き母)。はは。「先妣センピ」(亡き母)⇔先考センコウ(亡き父)。「考妣コウヒ」(亡き父と母)「祖妣ソヒ」(亡くなった母と先祖)
 ヒン・めす・め  牛部
解字 「牛(うし)+ヒ(女性)」の会意形声。メスの牛の意。甲骨文字からある字。ヒは女性祖先の意であり、これに牛をつけて牛のメスを表した。甲骨文では羊や豕ぶたにヒをつけた字があり、それぞれの動物のメスの意を表した。のち、牛のメスである牝が、動物のメスを表す字となった。
意味 めす(牝)。⇔牡(おす)。鳥獣のめす。「牝馬ヒンバ」(めすの馬)「牝鶏ヒンケイ」(めすのニワトリ)「牝牡ヒンボ」(動物のメスとオス)

ヒの発音
<国字> におう  勹部  
解字 匀キンを書き変えた国字。匀は韵インの原字で、調子のそろったよい響きのこと。匂は二の代わりに「ニホヒ」のヒを入れ、よい香りの意とした。平安時代中期ころから用いられた[大修館漢語新辞典]。
意味 におう(匂う)。におい。よい香りがする。「匂い香においが」「匂袋においぶくろ
参考 いやなにおい「臭シュウ」に対して、いいにおいの意に用いる。
<紫色は常用漢字>

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音符「昏コン」<日暮れ> と「婚コン」「惛コン」

2016年12月19日 | 漢字の音符
 コン・くれ・くらい  日部  

解字 甲骨文第1字は、「右向きの人が体をかがめている形+日(太陽)」 の会意で、かがんだ人よりも低い位置に太陽があることで日暮れの様子を表す。甲骨文第2字に、人の手に横線をつけて強調した形がある[甲骨文字辞典]。篆文に至りこの線がのびて、右向きの人⇒氏に変化した昏コンになった。日がくれる、くらい意となる。
意味 (1)くれ(昏れ)。日暮れ。たそがれ時。「黄昏たそがれ」「昏冥コンメイ」(くらやみ) (2)くらい(昏い)。道理にくらい。「昏愚コング」(道理にうとくて愚か) (3)くらむ。目がくらむ。まよう。「昏倒コントウ」(目がくらんで倒れる)「昏睡コンスイ」(深く眠る。意識を失い目覚めない)

イメージ 
 「日暮れ・くらい」
 (昏・婚・
音の変化  コン:昏・婚・

日暮れ・くらい
 コン  女部
解字 「女(おんな)+昏(日暮れ)」の会意形声。女を迎えて日暮れに行なわれる結婚式。古代では日が暮れてから結婚式が行なわれた。
意味 夫婦になる。縁組をする。「結婚ケッコン」「婚姻コンイン」「婚儀コンギ」「既婚キコン」「未婚ミコン
 コン  忄部
解字 「忄(心)+昏(くらい)」の会意形声。心がくらくて道理がわからないこと。
意味 (1)くらい(い)。「コング」(道理にうとくて愚か=昏愚) (2)ぼける。ぼうっとしてわからなくなる。「コンボウ」(ぼうっとして忘れる)「コンゼン」(①心がぼんやりするさま。②くらいさま)
<紫色は常用漢字>

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音符「褱カイ」 <別れを惜しむ> と 「懐カイ」 「壊カイ」

2016年12月16日 | 漢字の音符
 カイ  衣部      

解字 「眔トウ(目からたれる涙)+衣」の形。衣は上下に分かれている。死者の衣の襟もとに涙をたれる形。別れを惜しむ意で死者との儀礼を意味する。新字体に含まれるとき、上から「十罒衣」の形に変化する。褱を音符に含む字は、「別れを惜しむ」イメージがある。
意味 なつかしい(=懐)。 [参考]音符「眔トウ」へ。

イメージ
 「別れを惜しむ」
(懐・壊)
音の変化  カイ:懐・壊

別れを惜しむ
 カイ・なつかしい・なつく・いだく・ふところ  忄部
解字 旧字は懷で「忄(心)+褱(別れを惜しむ)」の会意形声。別れを惜しむ心。なつかしい意から、さらに転じて、なつく・したしい、いだく・ふところの意ともなる。新字体は、懷⇒懐に変化。
意味 (1)おもう。おもい。なつかしい(懐かしい)。「懐旧カイキュウ」「懐郷カイキョウ」 (2)なつく(懐く)。したしむ。「懐柔カイジュウ」(てなずけ従わせる) (3)いだく(懐く)。ふところ(懐)。「懐紙カイシ」(たたんで懐にいれた紙。菓子などを取るのに使う)「懐妊カイニン」(妊娠する)
覚え方  こころ()に、とめころも(十罒衣)でしい
 カイ・エ・こわす・こわれる  土部
解字 旧字は壞で「土+褱(別れを惜しむ)」の会意形声。戦いなどに敗れ、住んでいた土地を去る時、別れを惜しみながら土地の神を祀る社を壊すこと。新字体は、壞⇒壊に変化。
意味 (1)こわす(壊す)。こわれる(壊れる)。やぶる。「壊滅カイメツ」(こわれてすっかりなくなる)「全壊ゼンカイ」「決壊ケッカイ」(堤防などがきれて壊れる)「壊血病カイケツビョウ」(血がこわれる病。ビタミンC の欠乏によって起こる貧血や出血の症状)「壊死エシ」(壊れて死ぬ。体の細胞や組織の一部が死んだ状態) (2)やぶれる(壊れる)。「壊走カイソウ」(やぶれにげる=潰走カイソウ
覚え方  つち()に、とめころも(十罒衣)で
<紫色は常用漢字>

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音符 「巳シ」  「己キ」 「已イ」

2016年12月14日 | 漢字の音符
 (み)は上に、(キ)は下につき、(イ)は半(なか)ば開(あ)けて、(すで)に(や)む(のみ)

    シ <へび>
 シ・み  己部 

解字 蛇のかたちの象形。丸い形の頭に長く細くのびた胴を描く。干支の6番目に当てられ、蛇のほか時刻や方角を表す。
意味 み(巳)。十二支の第六。動物ではへび、時刻では午前10時ごろ、方位では南南東をさす。「巳の刻みのこく」「巳の日の祓い」(陰暦三月上旬の巳の日に行われる祓いの行事)

イメージ 
「へび」
(巳・祀)
音の変化  シ:巳・祀
へび
 シ・まつる・まつり  示部
解字 「示(祭壇)+巳(へび)」の会意形声。へびを神として祭ること。
意味 まつる(祀る)。まつり。神としてまつる。「祀廟シビョウ」(祖先や先人を祀った建物)「合祀ゴウシ」(合わせ祀る)「祭祀サイシ」(神や祖先をまつること)


    キ <ひもの象形>
 キ・コ・おのれ  己部     

解字 甲骨文字はフツ (二本の棒などを紐でしばりあわせた形)の字の棒を省いた形と似ており、紐の象形であると考えられる[甲骨文字辞典]。しかし、甲骨文字では、十干の第六番目に仮借カシャ(当て字)された。また、のちに「おのれ」の意にも仮借された。
意味 (1)つちのと(己)。十干(甲コウオツヘイテイコウシンジン)の第六番目。五行(木火土金水)では戊とともに土に当てる。「つちのと」は土の弟の意で、土に当てられた戊(つちのえ・土の兄)の次にくることから。 (2)おのれ(己)。自分。「自己ジコ」「克己コッキ」(おのれにかつ)「知己チキ」(自分を理解してくれる人)

    イ <仮借カシャ(当て字)>
 イ・やむ・すでに・のみ  己部 

解字 人が物を携える形(以)から人を省いた携える物の象形。しかし、その原義に用いるられることなく、字形も「已」と「以」に分化して別の字となった。已は、仮借カシャ(当て字)され、やむ・すでに・のみ等の意に用いられる。
意味 (1)やむ(已む)。やめる。 (2)すでに(已に)。「已然イゼン」(すでにそうなっている)「既已すでに」 (3)のみ(已)。だけ。ばかり。「而已のみ」 (4)はなはだ。
<紫色は常用漢字>
       

         



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