漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「里リ」<すじめがつく耕地>と「理リ」「裏リ」「厘リン」「埋マイ」

2021年03月31日 | 漢字の音符
 黄砂の季節です。「バイ・つちふる」を追加しました。
 リ・さと  里部

「田(四角く区切りをつけた耕地)+土(土地神を祀る形)」の会意。区画された耕地とその土地神を祀るほこらがある集落(さと)をいう(大修館漢語新辞典)。村里の意味を表す。また、耕地の大きさから、距離の単位も表す。
意味 (1)さと(里)。むらざと。いなか。「村里むらざと」「郷里キョウリ」「里謡リヨウ」 (2)みちのり。距離の単位。一里は周代で三百歩(405メートル)、現代中国は500メートル、日本では約4キロ。「里程リテイ」(みちのり)「五里霧中ゴリムチュウ」(広さ五里にわたる霧の中にいる)「千里眼センリガン

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 「村里・いなか」
(里・俚・狸・埋・) 
 区画された耕地から「すじめがつく」(理・裏・厘・糎・鯉)
 みちのりから「距離の単位」(哩・浬)
音の変化  リ:里・俚・狸・理・裏・鯉  リン:厘  マイ:埋  バイ:  センチ:糎  マイル:哩  カイリ:浬

村里・いなか
 リ  イ部
解字 「イ(人)+里(村里・いなか)」の会意形声。村里に住む人。都ふうでない人。
意味 いやしい。いなかくさい。「俚言リゲン」(①上品でない言葉・②地方の特有の言葉)「俚俗リゾク」「俚諺リゲン」(民間のことわざ)「俚歌リカ」(民間で流行する歌)
 リ・たぬき  犭部
解字 「犭(けもの)+里(村里・いなか)」の会意形声。村里に棲む動物であるたぬき。
意味 (1)たぬき(狸)。「狐狸コリ」(きつねとたぬき)「狸穴まみあな」(2)ずるがしこい人。「狸親父たぬきおやじ
 マイ・メ・バイ・うめる・うまる・うもれる  土部
解字 「土(つち)+里(=狸の略体」」の会意。狸の仲間が土に穴をほって冬ごもりすること。穴をほって入口を塞ぐので、転じて、うめる・うまる意となる。会意の発音マイは、マイ(昧:くらい)と同系の発音。
意味 (1)うめる(埋める)。うずめる。「埋葬マイソウ」「埋蔵マイゾウ」(2)うまる(埋まる)。うもれる(埋もれる)。「埋没マイボツ」(3)(国)うめる(埋める)。他の物でおぎなう。「損を穴埋めする」
 バイ・マイ・つちふる  雨部
解字 「雨(ふる)+バイ(=(埋):うずめる)」の会意形声。雨は、ここで降る意。貍バイは同音のバイ(埋の異体字)に通じ、うずめる意。土ぼこりが降り地上をうずめること。中国で黄砂が降る意で用いられる。
意味 つちふる(ふる)。モンゴルや中国北部の黄土地帯で、春の吹き荒れる季節風によって大量の細かな砂塵が空高く舞い上がって大気中に広がり、遠くまで及ぶ現象。3月から5月に多く、日本にも飛来する。春の季語。「霾翳バイエイ」(巻き上げられた土砂が空を覆って暗いこと)「霾晦バイカイ・よなぐもり」(風が土をふらして暗いこと。訓の[よな]は、日本で噴火による降灰をいう)「霾風バイフウ」(土ふらす風)「黄霾コウバイ」(黄砂の土ふる)

すじめがつく
 リ・ことわり・おさめる  玉部
解字 「王(=玉)+里(すじめがつく)」の会意形声。宝石の表面にすけて見えるすじめ。転じて、物事のすじみちの意となる。また、玉の原石を磨いて肌理(きめ)を出すことから、ととのえる意となる。
意味 (1)宝石のすじめ。きめ。もよう。「玉理ギョクリ」「地理チリ」「節理セツリ」(岩石の割れ目。物事の筋道)(2)ことわり。物事のすじみち。「理解リカイ」「理由リユウ」(3)おさめる。ととのえる。「管理カンリ」「理事リジ」「整理セイリ」(4)自然科学。「理科リカ」「理学リガク
[裡] リ・うら  衣部
解字 「衣(ころも)+里(すじめがつく)」の会意形声。衣を縫うとき、縫い目(すじめ)が表にでないように縫う。すると縫い目が裏側になるので、うらの意味を表す。また、衣の裏である内側をいう。裡は同字。もと、うちがわ・内部の意で、よく用いられた。
意味 (1)うら(裏)。うらがわ。「裏面リメン」「表裏ヒョウリ」「裏打うらうち」(2)うち(内)。うちがわ。「脳裏ノウリ」(頭のなか)「屋根裏やねうら」「袖裏そでうら
 リン  厂部
解字 「厂(がけ)+里(すじめがつく)」の会意形声。がけの下の狭い土地の筋目の意で、わずか・こまかい意を表す。(釐の略字だが、厘で解字した)。
意味 わずかな量を表す単位。(1)少数の単位。1の百分の1。(2)貨幣の単位。一厘は一銭の十分の一「厘毛リンモウ」(ごくわずかな金銭)(3)重さの単位。一匁(もんめ)の百分の一。
 リ・こい  魚部
郡山市の鯉
解字 「魚(さかな)+里(すじめがつく)」の会意形声。うろこのすじめがはっきり見える魚の「こい」。本来は里という名の魚であり形声字であるが、覚え方として里の田畑のような模様のうろこを持つ魚と覚えるとよい。
意味 こい(鯉)。コイ科の淡水魚。「緋鯉ひごい」「錦鯉にしきごい」「鯉幟こいのぼり

距離の単位
 リ・マイル  口部
解字 「口(くちまね)+里(距離の単位)」の会意形声。一里の長さを英語で口まねする意で、英語のマイル(mile)を表す。
意味 マイル(哩)。1マイルは1.6km。
 リ・かいり  氵部
解字 「氵(海)+里(距離の単位)」の会意形声。カイリ(海里)の意。
意味 (1)カイリ(浬)。1海里は1.852km。 (2)ノット(浬)。1ノットは1海里/毎時
<国字> センチメートル  米部
解字 「米(メートル)+厘(少数の単位。百分の1)」の会意。1メートルの百分の1の長さ。
意味 センチメートル(糎)。長さの単位。1メートルの100分の1。
<紫色は常用漢字>

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音符「矣イ」<矢が当ってとまる>と「挨アイ」「埃アイ」「欸アイ」「俟シ」「竢シ」「拶サツ」

2021年03月28日 | 漢字の音符
 イ  矢部 yǐ

解字 金文・篆文ともに「ム(以の略体)+矢(や)」の会意形声。以イは甲骨文字で人が物を手で携えたかたちで、現在「ム」で表される字体は、その略体。特に具体的な物を表すのでなく、発音「イ」を表している。従って、矢の先にム(イ)がついた矣は、矢が当たって止まった形で、その発音がイであることを示している。意味は、仮借カシャ(当て字)されて、文末につけて断定や推定の語句を表す助字として用いられる。矣が音符になるとき、矢が「あたる」、当たって「とまる」イメージがある。
意味 文末につけて断定や推定の語句を表す。(1)なり(矣)。 (2)か(矣)。 (3)かな(矣)。 (4)のみ(矣)。

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 「仮借カシャ」(矣)
 矢が「あたる」(挨・埃)
 当たって「とまる」(俟・竢)
 「アイの音」(欸)
音の変化  イ:矣  アイ:挨・埃・欸  シ:俟・竢

あたる
 アイ・おす  扌部 āi・ái
解字 「扌(手)+矣(あたる)」の会意形声。手で打ちあてる形で、相手の背中をうつ・おす意となる。
意味  (1)背中をたたく。(2)おす(挨す)。押しのけて進む。押してひらく。「挨拶アイサツ」(①おおぜいが押し合ってすすむ。②[国]安否・寒暖の言葉をとりかわす。転じて、おじぎ・返礼)(3)つづいて進む。「挨次アイジ」(あとからあとからと続いて進む)
覚え方  挨拶をまとめて語呂合わせで覚えると便利。
 てむや(扌ム矢)でアイ、て く く く た(扌くくくタ)でサツ
 アイ・ほこり  土部 āi
解字 「土(つち)+矣(あたる)」の会意形声。(強風が土にあたり)土からほこりが発生すること。空中にたちこめるほこりを言う。
意味 (1)ほこり(埃)。ちり。空中を舞う細かいちり。「塵埃ジンアイ」(ちりやほこり。また、俗世間)「埃滅アイメツ」(ほこりのように消えてなくなる)(2)俗世間。俗事。(3)地名。「埃及エジプト」(中国語発音はアイジ āi jí で、Egypt の前半の発音に当てた)

とまる
 シ・まつ  イ部 sì・qí
解字 「イ(ひと)+矣(とまる)」の会意。人が止まってまつこと。
意味 (1)まつ(俟つ)。「俟河清シカセイ」(黄河の水の澄むのを待つ)「俟望シボウ」(まち望む)「俟命シメイ」(①天命をまつ。②命令をまつ)
 シ・まつ  立部 sì
解字 「立(たつ)+矣(とまる)」の会意。立ち止まってまつこと。
意味 (1)まつ(竢つ)。=俟。まちうける。「竢望シボウ」(待ち望む)「竢門シモン」(門に待つ)「竢時シジ」(時機を待つ)「竢命シメイ」(①天命をまつ。②命令を待つ)

アイの音
 アイ・なげく  欠部 ǎi・ēi・éi・ěi・èi
解字 「欠ケン(口をあける)+矣(アイの音)」の会意形声。欠はケンの発音で口をあける形。欸は口をあけてアイと声を出し、なげくこと。
意味 (1)なげく(欸く)。ああとなげく。「秋冬緒風ショフウを欸く」(秋から冬になるときの風をなげく) (2)「欸乃アイダイ」とは(①船頭のかけごえ。舟歌。②木こりの歌)


    サツ <せまる>
 サツ・せまる  扌部 zā・zǎn
解字 「扌(手)+巛+夕」の会意。字の初形が知られておらず成り立ちは不明。
意味 せまる(拶る)。後ろから押しのける。「挨拶アイサツ」(もとは大勢の人が押しのけ合って進む意。現在は人と人との受け答え)
覚え方 「挨拶アイサツ」は語呂合わせで覚えると便利。
 てむや(扌ム矢)でアイ、てく く く た(扌くくくタ)でサツ
<紫色は常用漢字>

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音符「韱セン」<ほそい> と「繊セン」「殲セン」「籤セン」「孅セン」「懺ザン」「讖シン」

2021年03月25日 | 漢字の音符
 セン  韭部にら


解字 上段は㦰センで「人人(たくさんの人)+戈(ほこ)」、戈で多くの人を切りつける意。
下段の韱センは「韭キョウ+㦰セン」の形声。韭キョウはニラ。㦰センはこの字ではニラの一種である「やまにら」の発音がセンであることを示している。意味は、①やまにら。②ほそい。しかし、音符になると㦰センの意味である「たくさんの人を切る」イメージがある。
意味 (1)やまにら。 (2)ほそい。

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 「ほそい」繊・籤・讖・孅
 「人人+戈」(㦰)の意味である「たくさんの人を切る」殲・懺
音の変化  セン:繊・籤・殲・孅  ザン:  シン:

ほそい
 セン  糸部
解字 旧字はで「糸(いと)+(ほそい)」の会意形声。ほそい糸の意。旧字のは新字体でに変化する。
意味 (1)ほそい糸。糸すじ。「繊維センイ」(細い糸状の物質)「化繊カセン」(化学繊維の略) (2)ほそい。かぼそい。こまやか。しなやか。「繊細センサイ」(かぼそく優美な)「繊麗センレイ」(ほっそりと麗しい)「繊妍センケン」(ほっそりと美しいさま)
 セン・くじ  竹部
解字 「竹(たけ)+(ほそい)」の会意形声。記号や文字を書いた竹の細い棒。占セン(うらなう)に通じ、この棒を用いて吉凶・勝負・等級などを決めるクジの意となる。この字は画数が多いので選に書き換えるものが多い。
意味 (1)くじ()。おみくじ。ふだ。「抽籤チュウセン」(を抽(ひ)く。=抽選)「当籤トウセン」(当たりくじ。=当選) (2)かずとり。物を数えるときの細くけずった竹の棒。 (3)[国]ひご(籤)。「竹籤たけひご」(竹を細く割ってまるく削ったもの)
 シン  言部
解字 「言(ことば)+(=の略体。おみくじ)」の会意形声。おみくじで出た吉凶を話すこと。予言すること。
意味 しるし。未来の吉凶・禍福の前兆。わずかな事柄で未来の予言をする。「讖言シンゲン」(予言)「讖緯シンイ」(未来を予言して書きしるしたもの。=讖記シンキ)「図讖トシン」(未来の吉凶を予言した書)
 セン・かよわい  女部
解字 「女(おんな)+(ほそい)」の会意形声。細くかよわい女。
意味 (1)かよわい(孅い)。しなやか。たおやか。「孅研センケン」(ほっそりと美しい=「繊妍センケン」に同じ)「孅弱センジャク」(よわよわしい) (2)こまかい。わずか。「孅介センカイ」(こまかい・ちいさい・細小)

たくさんの人を切る
 セン・つくす  歹部
解字 「歹(しぬ)+(たくさんの人を切る)」の会意形声。皆殺しにすること。
意味 つくす(くす)。ほろぼす。皆殺しにする。「殲滅センメツ」(残さず滅ぼす)「殲撲センボク」(うちほろぼす)
 ザン・サン・くいる  忄部
解字 「忄(こころ)+(たくさんの人を切る)」の会意形声。たくさんの人を切って心で悔いること。
意味 くいる(いる)。後悔する。「懺悔ザンゲ・サンゲ」(過去の非を後悔して神や仏に告白する)
<紫色は常用漢字>

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音符「彦ゲン」<ひたいに文様を描く成人儀礼>と「顔ガン」「産サン」

2021年03月22日 | 漢字の音符
 ゲン・ひこ  彡部

解字 金文から旧字まで「文(文様)+厂(ひたい)+彡(いろどり)」 の会意。彦は額に一時的に顔料で文様をつけること。男子が一定年齢に達すると、成人への加入儀礼として額に文様を描く行事をする元服の儀礼を示す。その儀礼を終えた者を彦という[字統を参考にした]。新字体は、旧字の文⇒立(の上部)に変化。
意味 (1)ひこ(彦)。男子の美称。⇔媛(ひめ) (2)すぐれた青年。「俊彦シュンゲン」「彦士ゲンシ」(りっぱな人物) 「彦聖ゲンセイ」(才徳のすぐれる人)(3)地名。「彦根ひこね」(滋賀県の琵琶湖東岸中央部にある市)

イメージ  
 「成人儀礼」
(彦・諺) 
 「額に文様をえがく」(顔・産)
 「同音代替」(薩・偐)
音の変化  ゲン:彦・諺  ガン:顔・偐  サツ:薩  サン:産

成人儀礼
 ゲン・ことわざ  言部
解字 「言(ことば)+彦の旧字(成人儀礼)」 の会意形声。成人儀礼を終えた若者に、氏族の年長者が社会生活の知恵を伝える言葉。
意味 ことわざ(諺)。民衆の生活から生まれて伝えられる教訓的な短い言葉。「諺語ゲンゴ」(ことわざ。俗語)「俚諺リゲン」(庶民のことわざ)「諺文オンムン」(朝鮮語を書き表すハングルの旧称)

額に文様をえがく
 ガン・かお  頁部

解字 金文は「彦の略体(額に文様をえがく)+面(おもて)」の会意形声。ひたいに描いた文様がある顔の面(おもて)の意で、成人の儀礼にひたいに文様をつけた若者の顔(かお)を表す。篆文は、面⇒頁ケツ(頭を強調した人の形)に変化した顏になり、さらに旧字の顏⇒新字体の顔になった。意味は「かお」及び、ひたいに模様を描くことから色をぬる意がある。
意味 (1)かお(顔)。かおつき。「紅顔コウガン」「顔色かおいろ」「顔面ガンメン」「顔役かおやく」 (2)いろどり。色をぬる。「顔料ガンリョウ
 サン・うむ・うまれる・うぶ  生部
解字 「生(うまれる)+彦の略体(額に文様をえがく)」の会意。生まれた子に加入儀礼として額に文様の印しをつけること。加入儀礼を済ませてから正式に一族に認められ、子がうまれる意となる。日本でも生まれてまもない赤子を産土神(うぶすながみ)に抱いて行き、ひたいに大の字などを書いてもらう習俗がある。
意味 (1)うむ(産む)。うまれる(産まれる)。子がうまれる。「出産シュッサン」「産婆サンバ」 (2)生じる。「生産セイサン」 (3)その土地でとれる物。「土産みやげ」 (4)生活のもとになる資材。「財産ザイサン」「恒産コウサン」 (5)[国]うぶ(産)。うまれたままの。「産着うぶぎ」「産湯うぶゆ

同音代替
 サツ  艸部
解字 「艸(草)+阝(おか)+産の旧字(サン)」の形声。サンの音が変化してサツとなった字。梵語の発音サツを音訳するため使われるほか、地名に用いられる。
意味 (1)梵語の音訳字。「菩薩ボサツ」(悟りを求める人の意の梵語) (2)地名。「薩摩さつま」(九州南部の旧国名。今の鹿児島県西部)「薩摩芋さつまいも」(薩摩地方でよく栽培されたことから名付けられた芋。甘蔗。カライモ。)
 ガン・ゲン・にせ  イ部
解字 「イ(ひと)+彦(ガン)」の形声。ガンは贋ガン(にせもの)に通じ、偽の人の意。転じて、にせものをいう。偐は贋ガンの異体字。
意味 にせ(偐)。本物をまねて作ったもの。まがいもの。「偐紫田舎源氏」(にせむらさきいなかげんじ)とは、江戸後期の柳亭種彦の未完の長編。源氏物語をまね時代設定を変えて作り直した作品。
<紫色は常用漢字>


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音符「憂ユウ」<心がうれえる> と「優ユウ」

2021年03月16日 | 漢字の音符
 ユウ・うれえる・うれい・うい  心部 

解字 金文の憂は種類が豊富だ。上左は目の上に髪の毛を描き、その下に手足をつけた人で、手が目の前に大きく描かれている。左下は坐り姿の人の目の前に手を独立させている。なぜ、手を強調させるのか。この姿は物思いに沈んでいるさまを表しているという説があるが、当たっているかも知れない。私たちも困ったことが起きたとき、手を額にあてて「まいったな」という動作をするではないか。
 一方、金文の右上の字は、手を目の前に挙げているのは共通しているが、頭の部分が少し違う。[字統]は、この部分を頁ケツとし「頁ケツは儀礼をおこなうときの人の姿で、この場合は頭に喪章をつけた形である」とし、憂は喪中にあって愁(うれ)え佇む人の形」としている。右下の字に至って、これまでの3字はすべて頁ケツ(頭部を重点に描いた人)となり、その下に心のついた字になった。すなわち、これまで人物の動作で表された憂慮(うれえる)の意味は、心が受け持つようになったのである。篆文は「頁(下のハ⇒冖に変化)+心+夊(下向きの足)」からなる憂となり、現代字に至っている。
意味 うれえる(憂える)。うれい(憂い)。思いなやむ。つらい。「憂慮ユウリョ」「憂色ユウショク」(心配そうな顔色)「憂愁ユウシュウ」(心配と悲しみ)「物憂(ものう)い」

イメージ 
 「うれえる」
(憂・優)
 思い悩む人の心が「みだれる」(擾)
音の変化 ユウ:憂・優  ジョウ:擾

うれえる
 ユウ・やさしい・すぐれる  イ部
解字 「イ(人)+憂(うれえる)」の会意形声。憂える状態を演ずる役者のこと。悲劇役者を意味した。その演技が「上品でうつくしい」「やさしい」「すぐれている」意となる。
意味 (1)役者。「俳優ハイユウ」「女優ジョユウ」 (2)上品で美しい。やさしい(優しい)。「優美ユウビ」「優雅ユウガ」 (3)すぐれる(優れる)。「優秀ユウシュウ

みだれる
 ジョウ・みだれる  扌部
解字 「扌(手)+憂(みだれる)」の会意。手でかきまわして、みだすこと。なお、擾は俗字で、本来の字の憂は、ドウ(猿の一種)。「扌(手)+ドウ(猿の一種)」は猿が手でかき乱す意。と似ている憂が代わりに用いられた。従って発音もドウが変化したジョウになっている。なお、(2)の、ならす意は猿を手なずける意からか。
意味 (1)みだれる(擾れる)。乱れる。みだす。かきみだす。「擾乱ジョウラン」(擾も乱も、みだれる意。いりみだれること)「騒擾ソウジョウ」(さわぎみだれる)「擾擾ジョウジョウ」(みだれるさま) (2)ならす。なつける。「擾化ジョウカ」(ならして感化させる)
<紫色は常用漢字>

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音符「心シン」<心臓> と 「沁シン」「芯シン」「蕊ズイ」

2021年03月13日 | 漢字の音符
 シン・こころ  心部

解字 甲骨文字は心臓のかたちの象形で、左右の心房(血液をためるところ)と心室(心房の下部にあり血液を送り出すところ)が分れた状態を表現している。金文から心室がひとつになり、篆文で心室から血管のようなものがついた形になった。隷書(漢代の役人などが主に使用した書体)から、篆文の各部分が分離した形の「心」になり、これが現代字に続いている。心臓は全身に血液を送る器官であり、生命の源であることから、広く人間の意志・感情の動きをいう「こころ」の意ともなり、金文から用いられた。これは英語のheart(心臓)が、こころ(心)の意味になるのと同じ。日本語の「こころ」の語源は諸説あるが、私見では「ここ(此処)+ろ(接尾語)」で、此処のところ、即ち自分の胸の内をいう。
 なお、[学研漢和]は、この字をシンと発音するのは、沁シン(しみわたる)-浸シン(しみわたる)-滲シン(しみる)と同系で、血液を細い血管のすみずみまで、しみわたらせる心臓の働きに着目したものとしている。
意味 (1)しんぞう。「心臓シンゾウ」。「心筋シンキン」「心房シンボウ」 (2)こころ(心)。「心理シンリ」「心眼シンガン」 (3)物事の中心。「核心カクシン
参考 シンは、部首「心こころ」になる。おもに漢字の下部に置かれて、心臓・心・胸などの意味を表す。常用漢字で43字、約14,600字を収録する『新漢語林』では156字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 悲(心+音符「非」)
 患カン(心+音符「串カン」)
 怠タイ(心+音符「台ダイ・タイ」)
 恩オン(心+音符「因イン」)
 想ソウ(心+音符「相ソウ」)
 怒(心+音符「奴ド」)など。
 なお、感カン・思・意・志・悉シツ・愛アイ、便宜的に属している必ヒツは音符ともなる。
心が下部で変形したものが、「㣺したごころ で、大や夭・共などの下に入るとき変形する。
 慕(㣺+音符「莫」)
 忝テン(㣺+音符「天テン」)
 恭キョウ(㣺+音符「共キョウ」)
  などがある。忝テンは音符ともなる。
心が左辺に置かれたときの形が部首が「忄りっしんべん で、常用漢字で31字、『新漢語林』では291字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 忙ボウ(忄+音符「亡ボウ」)
 怖(忄+音符「布」)
 性セイ(忄+音符「生セイ」)
 愉(忄+音符「兪」)
 慣カン(忄+音符「貫カン」)
 憬ケイ(忄+音符「景ケイ」)など。

イメージ 
 「心臓」
(心・沁)
 意味(3)の「中心にある」(芯・蕊)
音の変化  シン:心・沁・芯  ズイ:蕊

心臓
 シン・しみる  氵部
解字 「氵(水)+心(心臓)」の会意形声。心臓から血液が全身のすみずみまで送られるように、水がすみずみまで、沁みること。
意味 (1)しみる(沁みる)。水がしみこむ。心にしみる。「沁入シンニュウ」(しみこむ)「沁み沁みしみじみ」(深く心にしみる。よくよく)「身に沁みる」 (2)川の名。黄河の支流。

体の中心にある
 シン  艸部
 灯芯
解字 「艸(草)+心(体の中心にある)」 の会意形声。草の茎の中心部を通る髄ズイのこと。灯油に浸して火をともして灯りとする灯芯として用いられた。
意味 (1)植物の茎のしん。また、灯芯草(灯心草)トウシンソウをいう。灯芯草とは、イグサ科の多年草で、茎の白い随ズイを灯りをともす「しん」にする。「灯芯トウシン」「空芯クウシン」(芯の中が空からの状態)「空芯コイル」(電線を円筒形に巻き円筒の中に何もいれない状態のコイル) (2)物の中心部分。(心の意味③と通用する)。「芯が強い」(3)[国]しべ。(=蕊)「花芯カシン
 ズイ・しべ  艸部
解字 「艸(草)+惢ズイ(中心にある多くのもの)」の会意形声。惢ズイは、中心にある多くのものの意。これに艸(草)のついた蕊は、花の中心にあるオシベとメシベの総称。
意味 しべ(蕊)。花のおしべとめしべ。「雄蕊おしべ」「雌蕊めしべ
<紫色は常用漢字>

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音符「丙ヘイ」<台座の形>と「柄ヘイ」「病ビョウ」と「陋ロウ」「鞆とも」

2021年03月10日 | 漢字の音符
 ヘイ・ヒョウ・ひのえ  一部

解字 甲骨文字は建築物の入り口の象形。しかし、単独では原義の用例がなく、十干の三番目に仮借カシャ(当て字)された[甲骨文字辞典]。金文では筋かいの入った台座のような形になり、篆文で上に一が追加され、現代字は丙になった。
意味 ひのえ(丙)。十干の三番目。「甲乙丙コウオツヘイ」「丙午ひのえうま」(干支の丙午の年。災害が起きると考えられた)
 十干とは、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10の要素の順列。これを五行(木・火・土・金・水)に配列し、おのおのに兄(え)と弟(と)を当てて訓読みする。以下を参照。

十干の読み方(オンライン無料塾「ターンナップ」より)

イメージ   
 「仮借カシャ」(丙)  
 「形声字」(病・柄・炳)  
 「その他」(陋・鞆)
音の変化  ヘイ:丙・柄・炳  ビョウ:病  ロウ:陋  とも:鞆

形声字
 ビョウ・ヘイ・やむ・やまい  疒部           
解字 「疒(やまい)+丙(ヘイ)」の形声。ヘイは并・併ヘイ・ヒョウ(あわせる)に通じ、病気がさらに重くなること。重い病をいう。ビョウ(ヒョウ)は呉音、ヘイは漢音。
意味 (1)やむ(病む)。やまい(病)。「病気ビョウキ」「病院ビョウイン」「看病カンビョウ」「疾病シッペイ」(2)欠点。短所。「病癖ビョウヘキ」「病根ビョウコン」(悪い習慣)
 ヘイ・がら・え  木部
解字 「木(き)+丙(ヘイ)」の形声。ヘイはヘイ(手に取る)に通じ、手に取る木製の部分をいい、斧などの手に取る木製の柄をいう。なお、後漢の[説文解字]は、同字として棅ヘイをあげており、この字はまさしく「手に取る木」である。また、武器の柄を持つと、権力を手にできるので、権力・勢いの意がある。
意味 (1)え(柄)。ある道具を持つための棒。「ほうきの柄」 (2)勢い。権力。「権柄ケンペイ」(政治をおこなう権力)「横柄オウヘイ」(おごりたかぶって無礼な)(3)[国]がら(柄)。身体つき。性質。状態。「人柄ひとがら」「大柄おおがら」「身柄みがら」 (4)[国]がら(柄)。布地の模様。「図柄ズがら
 ヘイ・ヒョウ・あきらか  火部
解字 「火(ひ)+丙(ヘイ)」の形声。ヘイは并・併ヘイ・ヒョウ(あわせる)に通じ、火の灯りがあわさり明るくかがやくこと。また、あきらかなさまをいう。
意味 (1)あきらか(炳らか)。「炳焉ヘイエン」(明らかなさま)「炳然ヘイゼン」(明らかなさま)「炳炳ヘイヘイ」(①明らかに輝く。②著名なさま)「炳煥ヘイカン」(炳も煥も、あきらかの意) 

その他
 ロウ・せまい・いやしい  阝部 
        
解字 春秋戦国時代の古文は、「L字形+丙」の形。意味は「せまい」であることから、「匸(奥まった場所)+内(うち)」と解釈し、奥まった内側の狭い場所としたのではないかと思われる。篆文は「阝(おか)+匸(奥まった場所)+丙」となったが、楷書で古文にもどり「阝(おか)+L字形+丙」となった。意味は丘にある狭い岩穴の部屋の形で、狭い意と、岩穴にすむいやしい人・ところを表す。発音も丙ヘイ・ヒョウとは全くことなるロウであり、これは牢ロウ(牢屋)の発音と似ている。
意味 (1)せまい(陋い)。「陋屋ロウオク」(小さく狭い家) (2)いやしい(陋しい)。悪い。「陋劣ロウレツ」(いやしく劣る)「陋巷ロウコウ」(狭くきたない街)「俗陋ゾクロウ」(俗でいやしい)「陋習ロウシュウ」(悪い習し)
<国> とも  革部
解字 「革(なめしがわ)+丙(丙の字形)」の会意。丙の字形に似た腕にはめる当て革をあらわす国字。丙の字の内の部分に手首をはめる形。
  

鞆を手首につけた射手(ウィキペディア「鞆」より)
意味 とも(鞆)。ほむだ。弓を射る時に左手首につけて、矢を放ったあと弓の弦が手首に当たるのを防ぐ道具。革製の半円形で、はめてから紐で結びつける。「鞆音ともね」(弦が鞆に当った音)「鞆の浦」(地名:鞆に似た手首輪の形をした浦。広島県福山市にある。古くから潮待ちの港として栄えた)
<紫色は常用漢字>

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音符「耒ライ」<すき> と「耜シ」<すき>「誄ルイ」

2021年03月04日 | 漢字の音符
 ライ・すき  耒部 

解字 甲骨文字の単独字はないが、耤セキ(下欄の参考図)の字からスキの部分を抜き出した。土を掘り返すスキの形の象形で、先が二つに枝分かれし、足をのせて踏む横木がその上に描かれている。金文は神農耕作図のスキに近くなった。篆文は耤セキの金文をへて成立した形で、木(柄)の上に斜線が三本はいった形になったが、現代字は一本減った耒ライとなった。耒ライは部首となり、スキを用いる意味の漢字に用いられる。中国の伝説に神農氏がスキを発明し民に耕作を教えたとされ、神農がスキを用いて耕作する図がある。
 耒  神農耕作図   
意味 すき(耒)。土を掘り返す農具。「耒耕ライコウ」(すきで田畑をたがやす)「耒耜ライシ」(すき。耒も耜も、すきの意)「耒鍤ライソウ」(耒も鍤も、すきの意)「耒耨ライドウ」(すきで耕して雑草を除く)
参考 耒ライは部首「耒:すき・すきへん」になる。左辺に付いて土をほりかえす意を表す。主な漢字に「耘ウン(耒+音符「云ウン」)」「耗モウ(耒+音符「毛モウ」)」「耕コウ」(耒+井の会意)「耜」(耒+㠯(以)の会意)がある。

イメージ
 「すき」
(耒・耜)
 「同音代替」(誄)
音の変化  ライ:耒  ルイ:誄  シ:耜

すき
 シ・すき  耒部    

篆文第一字は「木(き)+㠯(以)」で木を以て耕す形。篆文第二字(六書通)は「耒ライ(すき)+㠯(以)」の会意で、耒を以て耕す形。いずれも䎣(耒スキで以て耕作する)の意。㠯は、以と元は同じ字で以の古い形(但し、本来は㠯の左上のタテ線が欠けた形だが、ネットでは出ない)。現代字は第二字が継承された耜になっている。どんな形のスキか興味のあるところだが、中国浙江省の新石器時代の河姆渡(かぼと)遺跡から発見されたスキが耜という名で紹介されており、耜の原初形態がわかる。
 河姆渡遺跡出土の骨耜とその復元図
意味
 すき(耜)。耕作に用いる農具のひとつ。土を掘り返す道具。「耒耜ライシ」(すき)

同音代替
 ルイ・しのびごと  言部
解字 「言(ことば)+耒(ライ⇒ルイ)」の形声。発音のルイは耒ライの転音。ルイは累ルイ(かさねる)に通じ、言葉がかさなること。葬式で人々が生前の行いを累ねて述べて死者を悼むこと。
意味 しのびごと(誄)。死者の生前の功徳をたたえること。「誄詞ルイシ」(故人の生前の功業を数え上げて述べる歌や言葉)「誄文ルイブン」(死者の生前の功徳をたたえる文章=誄辞ルイジ

<参考 耒ライのかたちの変遷が分かる字>
 セキ・たがやす  耒部 

解字 甲骨文第一字は、人が二本刃のスキを手にとり使うさま、第二字は片足をスキに当てて踏み込んでいるさまの象形。いずれもスキに脚を踏む横木が描かれている。人がスキを用いて土を掘り起こすこと。金文第一字は「人が両手をのばしてスキをもつ形+昔セキ(かさなる)」の会意形声で、人がスキで掘り起こした土を重ねるように耕すこと。第二字は、スキと手の形が一体となって右側の両腕を伸ばした人と分離した。篆文は「耒ライ+昔」の耤セキとなったが、金文で耒ライが人から分離してゆく過程が分かる。
意味 たがやす(耤す)。土を起こして重ねる。「耕耤コウセキ」(耕も耤も、たがやす意)「耤田セキデン」(古代に天子自らが耕した田畑。祭祀用の穀物を天子自らが耕作する農耕儀式。)

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音符「離リ」<はなれる>「璃リ」と「离チ」「禽キン」

2021年03月01日 | 漢字の音符
  解字をやり直しました。
 リ・はなれる・はなす  隹部

  上は離、下は离
解字 離の甲骨文は取っ手のついた鳥網で上の鳥を捕獲したかたち。春秋戦国時代になると鳥が隹となって分離し、鳥網は上に山のような形が付き、下部も網の取っ手が禸の初形に変形した。篆文の鳥網は上部が屮になり、楷書は亠となった离となり、これに隹がついた離となった。楷書の离のうち、亠を除いた部分が甲骨文字の「柄の付いた鳥網」である。
 この字は本来、鳥網で鳥を捕獲する意味であるから網に「かかる」意味をもつ。しかし、後に「はなれる」意で使われるようになった。なぜ離れる意になったかは定かでないが、捕獲した鳥を網から「はなす」意からと思われる。
意味 (1)はなれる(離れる)。はなす(離す)。「分離ブンリ」「別離ベツリ」「離宮リキュウ」「隔離カクリ」「離婚リコン」 (2)かかる(離かる)。つく(離く)。とりつく。「離殃リオウ」(わざわいに取りつかれる)「離騒リソウ」(騒=憂いに取りつかれる。屈原クツゲンの叙事詩の題名)

イメージ
 「はなれる」
(離・籬)
  意味(2)の「かかる・つく」(黐)
 「リの音」(璃)
音の変化 リ:離・籬・璃  チ:黐

はなれる
 リ・まがき  竹部
解字 「竹(たけ)+離(はなれる)」 の会意形声。竹と竹の間隔が離れている垣根。
意味 まがき(籬)。竹や柴をあらく編んだ垣根。「籬垣ませがき」「籬下リカ」(まがきのそば)
 リ・したたる  氵部
解字 「氵(みず)+离(離の略体。はなれる)」の会意形声。水がはなれて(分かれて)水滴となって、したたること。また、离という名の川。
意味 (1)したたる(漓る)。ながれる(漓れる)。しみこむ。「淋漓リンリ」(淋も漓も、したたる意。)「墨痕淋漓ボッコンリンリ」(筆で書いたものが、生き生きとしてみずみずしいさま。また、筆の勢いが盛んなさま。「墨痕」は墨のあと。)「流汗淋漓リュウカンリンリ」(流れる汗がしたたる) (2)川の名。「漓江リコウ」(中国南部、広西チワン族自治区東北部を南流する潯江ジンコウの支流。=漓水リスイ) (2)うすい。

かかる・つく
 チ・もち・とりもち  黍部
解字 「黍(もちきび)+离(離の略体。かかる・つく)」の会意。黍はここで「もちきび」で粘る意。ねばる「もちきび」に鳥がくっつくこと。鳥を捕らえる粘っこいもちをいう。
意味 もち(黐)。とりもち(黐)。ねばる。「黐竿チカン」(とりもち竿)「黐樹チジュ」(もちの木。樹皮から鳥黐(とりもち)を作ることができ、これが名前の由来となった。)

リの音
 リ  玉部
解字 「王(玉)+离(リ。離から独立した字体)」の形声。リと呼ばれる宝玉。
意味 (1)玉の名。「瑠璃ルリ」(青色の宝石。また、ガラスの古名)「玻璃ハリ」(仏教用語で七宝の一つ。水晶) (2)「浄瑠璃ジョウルリ」に使われる字。仏教用語で、清らかで透明な瑠璃の意。また、三味線伴奏の語り物音楽のひとつ。


    チ <山の神獣> 
 チ・リ  禸部ぐうのあし

解字 春秋戦国文は「林+鳥あみを手でもつかたち)」 の会意。林の中で鳥網を使う形だが、どんな意味で用いられたか不明。篆文に至り、後漢の許慎は「獣の形をした山の神なり」とした。楷書は離の偏とまったく同じ形になった。単独で用いられることなく「獣の形の山の神」のイメージとなる。
意味 (1)山の神獣。魑と同じ。 (2)はなれる。離の左辺と同形なので、単独で離れる意で使うことがある(現在は中国簡体字がこの用法)。本稿で、この用法は離に含めた。

イメージ   
 「獣の形の山の神」(魑・螭)
音の変化  チ:魑・螭

獣形の山の神
 チ  鬼部
解字 「鬼(おに)+离(獣形の山の神)」 の会意形声。鬼のような獣形の山の神。
意味 すだま。ばけもの。もののけ。山の精。「魑魅チミ」(山林の気から発する怪物)「魑魅魍魎チミモウリョウ」(さまざまなばけもの)
 チ・みずち  虫部
解字 「虫(へび)+离(獣形の山の神)」 の会意形声。大蛇と獣形の山の神を合わせた伝説上の猛獣。
意味 みずち(螭)。あまりょう(雨竜)。黄色い竜。角のない竜。「螭虎チコ」(みずちと虎。勇猛の士)「螭首チシュ」(みずちの頭の飾り」「螭魅チミ」(=魑魅)

     
    キン <とり>
 キン・とり  禸部 ぐうのあし

解字 甲骨文第1字は、取っ手のついた網のかたち。第2字はさらに狩猟の対象である隹(とり)を加えた字[甲骨文字辞典]。金文は発音を表す今キンが追加され、この字の発音がキンであることを示している。特に金文第2字は横線の先を又(手)にして手でもつ意を加えた。篆文は金文第2字が変化したかたちで、上から「今キン+鳥あみ+手の変化した形」となり、楷書の禽キンとなった。禽の上から4画目までが今を表している。
 本来の意味は鳥あみだが、この字が「とり」の意を表すのは甲骨文第2字で分かるように、鳥を捕まえることを前提とした網だからと思われる。なお、禽と离の両者が似ているのは、字のなかに「取っ手のついた鳥網」が含まれているためである。「人やね+离=禽」と覚えると書きやすい。
意味 (1)とり(禽)。鳥類の総称。「家禽カキン」(家で飼う鳥。ニワトリ・アヒルなど)「猛禽モウキン」(性質が荒い肉食の鳥)「禽獣キンジュウ」(鳥とけもの) (2)とらえる。いけどる。(=擒キン)「禽獲キンカク

イメージ  「とり・とりあみ」(禽・擒・檎)
音の変化  キン:禽・擒  ゴ:檎

とり・とりあみ
 キン・とらえる・とりこ  扌部
解字 「扌(手)+禽(とりあみ)」 の会意形声。手で禽(とりあみ)をもち、鳥を捕まえること。
意味 とらえる(擒える)。とりこ(擒)。いけどりにする。「擒縦キンショウ」(捕えたり放したり、自在にあつかうこと)「擒獲キンカク」(生けどりする)「生擒セイキン」(生けどり)「縛擒バクキン」(とらえ縛る)
 ゴ・キン  木部
解字 「木+禽(とり)」の会意形声。禽(とり)が来る木の意。
意味 「林檎リンゴ・(リンキン)」に使われる字。林檎とはバラ科リンゴ属の果樹、およびその果実。名前の由来は「林檎リンキンの果実は味が甘く、能く多くの禽(とり)をその林に来らしむ[本草綱目]」からとされる。つまりリンゴの実は甘く多くの禽(とり)がその林に来るから禽(とり)の来る木の林の意。
<紫色は常用漢字>

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