漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「弗フツ」<はらいのける>と「払フツ」「沸フツ」「仏ブツ」「費ヒ」

2022年06月29日 | 漢字の音符
 しきみを追加しました。
 フツ・ず  弓部

解字 甲骨文第一字は、二本の木に縄または、つるがまきついている形。まっすぐ伸びようとする木が巻きついたものを、ふりはらう意。第二字は、木がタテの棒二つになった。金文・篆文は、「ハ(そりかえる形)+まいた縄」の形で、同じ意味を表す。弗は、はらいのける・ふりはらう等の意味があるが、仮借カシャ(当て字)されて、否定の意味に用いられる。漢字検索の手掛かりとしての部首は弓。新字体に含まれるときは、弗 ⇒ ムと変化することが多い。音符イメージは、つるや縄・紐(ひも)を「はらいのける」「ふりはらう」となる。
意味 (1)~ず(弗)。~ない。打ち消しの助字。「平らかなら弗(ず)」 (2)[国]ドル。米国の貨幣の単位。「弗箱ドルばこ」(金庫) (3)「弗素フッソ」(非金属元素のひとつ)の略。

イメージ 
 「仮借カシャ」
(弗)
 「はらいのける・ふりはらう」(払・沸・費)
 「ブツ・フツの音」(仏・梻・彿・髴)
 「ヒの音」(狒)
音の変化  フツ:弗・払・沸・彿・髴  ブツ:仏  ヒ:費・狒  しきみ:梻

はらいのける・ふりはらう
[拂] フツ・はらう  扌部
解字 旧字は拂で「扌(手)+弗(はらいのける)」の会意形声。手で左右にはらいのけること。新字体は、弗⇒ムに変化した。
意味 (1)はらう(払う)。はらいのける。なくなる。「払底フッテイ」(すっかりなくなる)「払拭フッショク」(はらいぬぐう) (2)夜があける。「払暁フツギョウ」 (3)[国]お金をはらう。「支払(しはら)い」「月払(つきばら)い」
 フツ・わく・わかす  氵部
解字 「氵(水)+弗(はらいのける)」の会意形声。煮えたぎった湯が下から回りをはらいのけるように上がってくること。
意味 わく(沸く)。わかす(沸かす)。たぎる。「煮沸シャフツ」「沸点フッテン」「沸騰フットウ
 ヒ・ついやす・ついえる  貝部
解字 「貝(財貨)+弗(ふりはらう)」の会意形声。お金をふりはらうように使ってしまうこと。
意味 (1)ついやす(費やす)。ついえる(費える)。「消費ショウヒ」「浪費ロウヒ」 (2)ついえ。物入り。「費用ヒヨウ」「会費カイヒ」「食費ショクヒ

ブツ・フツの音
[佛] ブツ・フツ・ほとけ  イ部
解字 旧字は佛で 「イ(人)+弗(ブツ)」の形声。ブツの音を表し、梵語のbuddha:佛陀ブッダ(さとりを開いた人)に当てる。新字体は、弗⇒ムに変化。また、弗には助字で打消しの意味があり、「イ(人)+弗(フツ)」で人をはっきり認識できない⇒ほのか・似ているの意味がある。
意味 (1)ほとけ(仏)。悟りを開いた人。ブッダ(仏陀)。釈迦。「仏教ブッキョウ」「仏門ブツモン」 (2)[国]ほとけ(仏)。死人。 (3)[国]フランス。「仏蘭西フランス」の略。「仏文フツブン」(フランス文学) (3)ほのか。かすか。似ている。「仿仏ホウフツ」(仿は似る意、仏は、かすかの意で、かすかに似る意。また、仏を似る意味にすると、ありありと思いだす意味ともなる。)
 <国字> しきみ  木部
解字 「木(き)+佛(ほとけ)」の会意。香気があり枝葉を仏(佛)前に供える木。樒とも書く。
意味 しきみ(梻)。モクレン科の常緑小高木。枝葉を仏(佛)前にそなえる。山地に自生し、寺院や墓地に植栽されている。また葉や樹皮の粉末が抹香、線香として利用される。名前の由来は、実が猛毒のため「悪しき実」から[広辞苑]という。シキビとも。
彿 フツ  彳部
解字 「彳(ゆく)+弗(=佛。似る)」の会意形声。仿仏ホウフツ(ありありと思いだす)の意を、発音を表す「方弗ホウフツ」に彳を付けて表した字。
意味 「彷彿ホウフツ」に使われる字。彷彿ホウフツとは、ありありと思い浮かぶ。「叔母さんは幼いころの母を彷彿とさせた」
 フツ  髟部
解字 「髟(髪の毛)+弗(=佛。似る)」の会意形声。仿仏ホウフツ(ありありと思いだす)の意を、発音を表す「方弗ホウフツ」に髟(髪の毛=人の姿)を付けて表した字。ここまでくると、かなり凝った字としか言いようがない。
意味 「髣髴ホウフツ」に使われる字。よく似ているさま。ありありと思い浮かぶ。「街道の家並みは江戸期の姿を髣髴とさせる」

ヒの音
 ヒ  犭部
解字 「犭(けもの)+弗(ヒ)」の形声。ヒという名の獣。ヒのイメージは不明。一説に非(わるい)に通じ、人を食べる猿に似た伝説上の獣とする。
意味 「狒狒ヒヒ」に使われる字。狒狒ヒヒとは、①古くは、中国や日本で、大形の猿のような妖怪を言った。「石見重太郎の狒狒退治伝説」②オナガザル科の大形の猿の総称。アフリカにすむ口先が突き出て犬歯が発達し、性質が荒いマントヒヒなどをいう。
<紫色は常用漢字>

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音符「畾ライ」<かさなる>と「塁ルイ」「累ルイ」と「雷ライ」

2022年06月26日 | 漢字の音符
 擂ライを追加しました。
 ライ・ルイ  田部 

解字 田の字を三つ重ねたかたち。同じものが重なる意味を表す。この字で田は土地ではない。始まりは雷ライの篆文・(雨+畾)に由来するようだ。この字で田三つはカミナリの音が鳴り響くさまを表しており、田は太鼓などの音を出すもの三つが重なった形である。ここから、畾は「かさなる」イメージがある。なお、この字は篆書を収録した後漢の[説文解字]に見えない。篆文は、壘ルイから土をとり作成した。

イメージ 
 「かさなる」
(塁・累・螺・騾)
音の変化  ルイ:塁・累  ラ:螺・騾

かさなる
[壘] ルイ・とりで 土部
解字  旧字は壘で、「土(つち)+畾(かさなる)」の会意形声。土を重ねて作った土壁のこと。転じて、土壁をつらねたとりで。新字体は旧字の、壘⇒塁に変化した。
意味 (1)とりで(塁)。土や石などを重ねて作った小城。「孤塁コルイ」(孤立したとりで)「塁壁ルイヘキ」(とりでの壁) (2)るい(塁)。野球のベース。「塁審ルイシン」「本塁打ホンルイダ」 (3)かさなる。かさねる。
 ルイ・かさねる・かさなる 糸部

解字 篆文は、「糸(いと)+畾(かさなる)」の会意形声。つながった糸がかさなること。つながったまま、かさなってゆくことをいう。現代字は、「田+糸」の累に変化。
意味 (1)かさなる(累なる)。かさねる。「累代ルイダイ」(代々)「累積ルイセキ」「累進ルイシン」(数量が増加するにつれて比率が大きくなること) (2)つながり。「係累ケイルイ」(つながること。特に、自分が世話をすべき両親・妻子など)
 ラ・つぶ・にし  虫部
 田螺(ウイキペディアより)
解字 「虫(ここでは貝)+累(かさなる)」の会意形声。らせん状にかさなった殻をもつ貝。
意味 (1)つぶ(螺)。にし(螺)。にな。巻貝の総称。「田螺たにし」「螺鈿ラデン」(巻貝の薄片を木地に埋め込んだ細工) (2)ほらがい。「法螺ほら」(①大形の巻貝。②ほらがいに穴をあけ吹き鳴らすようにしたもの) (3)うずまき。らせん。「螺旋ラセン」(うずまき状に旋回する)「螺旋階段ラセンカイダン
 ラ  馬部
解字 「馬(うま)+累(かさなる)」の会意形声。雄ロバと雌ウマの遺伝子がかさなる馬。雄ロバと雌ウマの交雑種であるラバをいう。
意味 らば(騾馬)。雄ロバと雌馬との交雑種。馬より小形、強健で耐久力が強く労役に使われる。一代雑種で繁殖は不能。「騾車ラシャ」(騾馬が引く車)


    ライ <かみなり>
 ライ・かみなり  雨部

解字 甲骨文はイナズマの間に口(音がでる)を二つ付けた形。金文は、イナズマに田(太鼓など大きな音のでるもの)を四つ配した形。篆文は、「雨(あめ)+畾(音がかさなる)」の会意形声。雨雲のなかで、かみなりの音が、ごろごろと重なって響くこと。現代字は篆文の畾⇒田に省略された雷になった。
意味 (1)かみなり(雷)。いかずち(雷)。「雷鳴ライメイ」「雷同ライドウ」(雷が響くと同時に、この響きに応ずる意。人の言うことにすぐ同調する)「雷電ライデン」(雷とイナズマ)「雷神ライジン」(雷電を起こす神) (2)(雷のような音がする)爆薬を用いる兵器。「地雷ジライ」(地中に埋め、触れると爆発する兵器)「水雷スイライ」(水中を進行し当たると爆発する兵器)「魚雷ギョライ」(魚形の水雷)

イメージ 
 「かみなり」
(雷・儡・擂)
 「形声字」(蕾)
音の変化  ライ:雷・儡・擂・罍・蕾

かみなり
 ライ  イ部
解字 「イ(ひと)+畾(=雷。かみなり)」の会意形声。かみなりのように大きな声を出すが中身はない人。あやつり人形をいう。
意味 「傀儡カイライ」に使われる字。傀儡カイライとは、あやつり人形のこと。転じて、人の手先になってその意のままに動く者。
 ライ・する  扌部

擂鉢と擂粉木(web版 むかしの道具展・千葉県立中央博物館)
解字 「扌(て)+雷(かみなりの音)」の会意形声。雷のようにゴロゴロと音を出す石臼を手でまわして穀物をすりつぶすこと。転じて、内側に刻み目をつけた陶器の鉢にゴマなどを入れ、先の丸い棒ですりつぶすこと。中国では、雷のような音を出す意から、太鼓を打つ意味でも用いる。
意味 (1)する(擂る)。すりつぶす。「擂鉢すりばち」「擂粉木すりこぎ」「擂細ライサイ」(擂って細かくする) (2)[中国]太鼓を打つ。「擂鼓レイコ」(太鼓をたたく)
 ライ  缶部
解字 「缶(ほとぎ・つぼ)+畾(=雷。かみなり)」の会意形声。雷の文様を付したつぼの意。

雷紋のひとつ(検索サイトから。原サイトなし)
 雷紋とは直線がつぎつぎと曲折していく幾何学的模様で、中国では3千年以上の昔から青銅器・陶器、木彫、建築などに用いられている。田畑を潤す雷雨を表す紋様のため、豊作、吉祥の象徴と考えられている。罍ライは、こうした雷紋が刻されたつぼの意だが、[字通]は、「雷紋は殷・周の器に地紋として一般的に用いられており、罍ライに限るものではない」としている。罍ライの用途は酒つぼなどが多い。したがって、起源は雷紋であるものの、ライという名の酒つぼ、とするのが適切と思われる。
意味 (1)さかだる。「罍尊ライソン」(酒器)「罍罌ライオウ」(酒だる)「罍觴ライショウ」(酒の盃)「罍恥ライチ」(飲酒のとき、準備した酒だるの酒がなくなること) (2)たらい(盥)。手を洗う器。「罍洗ライセン」(手を洗う器)

形声字
 ライ・つぼみ・つぼむ  艸部
解字 「艸(草花)+雷(ライ)」の形声。ライは畾ライ(かさなる)に通じ、花びらが重なり合い、まだ花が開かないつぼみ。
意味 つぼみ(蕾)。つぼむ(蕾む)。まだ開かない花。「花蕾カライ」(花のつぼみ)「味蕾ミライ」(舌の上にある蕾つぼみのような味覚の受容器官。約1万個ある。味覚芽)
<紫色は常用漢字>

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音符「全ゼン」 <欠けるところがない> と 「栓セン」「詮セン」

2022年06月20日 | 漢字の音符
  全ゼンの解字を改めました。
 ゼン・セン・まったく・すべて  入部

解字 上図は㒰ゼンで「入(屋根)+工(工具)」の会意。工具で屋根が完成し全てが出来上がること。下図の全ゼンは、工⇒王に変化した俗字で、のちにこの字が使われて正字となった。建物が、すべて(全て)完成し、欠けるところがない意味となる。
意味 (1)まったく(全く)。まったし。すっかり。すべて(全て)。「全快ゼンカイ」「全滅ゼンメツ」「全部ゼンブ」「全体ゼンタイ」 (2)欠けるところがない。そろう。まっとうする。「完全カンゼン」「全能ゼンノウ

イメージ 
 「欠けるところがない」
(全・詮・栓・筌・痊・銓)
音の変化  ゼン:全  セン:詮・栓・筌・痊・銓

欠けるところがない
 セン  言部  
解字 「言(ことば)+全の旧字(欠けるところがない)」の会意形声。欠けめなく説明して、物事を明らかにすること。また、欠けることなく質問して調べる意もある。2010年指定の新常用漢字のため全は旧字になっている。全でも可。
意味 (1)あきらか。詳しく説き明かす。「詮解センカイ」(くわしく解明する)「詮釈センシャク」(説き明かす) (2)しらべる。「詮議センギ」(①話しあって物事を明らかにする。②罪人を取り調べる)「詮索センサク」(細かく調べる)」 (3)[国]せん(詮)。なすべき手段。ものごとをしたかい。「詮なきこと」「所詮ショセン」とは、つまるところ。けっきょく。
 セン  木部
解字 「木(き)+全(欠けるところがない)」の会意形声。隙間なく穴をぴったりとふさぐ木のせん。
意味 せん(栓)。穴や器の口などをふさぐもの。「耳栓みみせん」「血栓ケッセン」(血液が固まって固形物となったもの)「元栓もとせん
 セン・うえ  竹
 漁筌
解字 「竹(たけ)+全の旧字(欠けるところがない)」の会意形声。竹を欠け目なく編んで、魚を獲る漁具。
意味 うえ(筌)。魚を獲る道具。竹を編んで筒型や徳利型にし、入口に漏斗状のかえしを挿しこみ中に入った魚が出られないようにしたもの。うけ。もじ。「漁筌ギョセン」(魚をとる筌)
 セン・いえる  疒部
解字 「疒(やまい)+全の旧字(欠けるところがない)」の会意形声。体に欠けるところが無くなったので、病が癒(い)えること。
意味 いえる(痊える)。病気がなおる。「痊愈センユ」(病がいえること。痊も愈も、いえる意)「痊安センアン」(いえる)「病痊ビョウセン」(病がいえる)
 セン・はかる  金部
解字 「金(金属)+全(欠けるところがない)」の会意形声。金属が欠けるところなく詰まったものの意。[説文通訓定聲]には、「衡コウなり」とあり、棒ばかり(衡)に用いる錘 (おもり)をいう。転じて「はかり」「はかる」意味となる。
意味 (1)はかり。「銓衡センコウ」(①はかり。②はかりしらべる) (2)はかる(銓る)。はかって選ぶ。「銓択センタク」(はかりえらぶ)「銓序センジョ」(えらんで官位につける)「銓考センコウ」(はかり考える。選考)
<紫色は常用漢字>

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音符「肖ショウ」 と 「消ショウ」「宵ショウ」「硝ショウ」「削サク」

2022年06月17日 | 漢字の音符
     ショウ <小さいからだつき>
ショウ・にる・あやかる  月部にく

解字 金文の夕は肉の意であり、金文・篆文・旧字とも、「月(からだ)+小(小さい)」の会意形声。体つきが小さいこと。親から生まれた小さい体の子を意味し、親と似ている意となる。新字体は上部の小が変化した肖になった。音符になるとき「小さい」イメージとなる。
意味 (1)にる(肖る)。にている。あやかる(肖る)。「肖似ショウジ」(よく似ていること)「不肖フショウ」(父に似ていないで愚かなこと)「不肖の息子」(①自分の子供をへりくだっていう。②バカ息子) (2)にせる。かたどる。「肖像画ショウゾウガ」 (3)小さい。

イメージ 
 「似ている」
(肖)
 小さい体から「小さい」(削・消・銷・蛸・宵・哨・梢・悄・屑・逍・筲・鞘・霄) 
 「形声字」(硝・稍・趙)
音の変化  ショウ:肖・蛸・消・銷・宵・哨・梢・悄・逍・鞘・硝・稍・霄  サク:削  セツ:屑  ソウ:筲  チョウ:趙

小さい
 サク・けずる  刂部
解字 「刂(刀)+肖(小さい肉)」の会意形声。刀で小さい肉片を切りとることから、けずりとること。
意味 けずる(削る)。けずりとる。そぐ(削ぐ)。はつる(削る)。「削除サクジョ」「削減サクゲン」「添削テンサク」(書き加えたり削ったりする)
 ショウ・きえる・けす  氵部
解字 「氵(水)+肖(小さい)」の会意形声。水をかけて火を小さくして、消す。よわめる意とけす意がある。
意味 (1)きえる(消える)。けす(消す)。「消火ショウカ」 (2)つきる。なくなる。「消息ショウソク」(消は死ぬ、息は生きる、生死・安否のこと。また動静・様子)「解消カイショウ」「抹消マッショウ」(塗り消す。消して除く) (3)よわる。おとろえる。「消極的ショウキョクテキ
 ショウ・とかす・とける・けす  金部
解字 「金(金属)+肖の旧字(=消の略体。消える)」の会意形声。金属製のかたちあるものが消えること。かたちが熱でとける意と、かたちが消える意とある。
意味 (1)とかす(銷かす)。とける(銷ける)。「銷鎔ショウヨウ」(銷も鎔も、とける意)「銷金ショウキン」(金をとかす) (2)けす(銷す)。つきる。「銷暑ショウショ」(暑さを銷す。夏の暑さをしのぐこと。=消夏)「銷魂ショウコン」(魂がぬけたようになる)「銷失ショウシツ」(=消失) (3)おとろえる。「銷弱ショウジャク
 ショウ・たこ  虫部
解字 「虫(小動物)+肖の旧字(=消の略体。消える)」の会意形声。敵に襲われたときスミを吐いて姿を消すタコ。
意味 (1)たこ(蛸)。鮹ショウ・章魚とも書く。頭足類タコ目の軟体動物。長い脚(実際は腕)が8本ある。墨を噴いて煙幕のようにひろげ敵から逃げる。「蛸足たこあし」(一か所からいくつも分かれでること)「蛸足配線たこあしハイセン」 (2)蜘蛛くもの一種。あしたかぐも。
 ショウ・よい  宀部
解字 「宀(いえ)+肖(小さくなる)」の会意形声。日が暮れて家の中にさしこむ光が弱くなる頃を言う。
意味 よい(宵)。よる。夜のまだふけない間。「宵闇よいやみ」「元宵ゲンショウ」(旧暦1月15日の夜)
 ショウ・みはり  口部
解字 「口(くち)+肖の旧字(小さくする)」の会意形声。口を小さくして口笛を吹く。口笛を吹いて急を知らせること。
意味 (1)口笛を吹いて急を知らせる。呼子の笛を吹く。 (2)みはり(哨)。ものみ。「哨戒ショウカイ」(警戒してみはる)「歩哨ホショウ」(要所に立って警戒にあたること)「哨兵ショウヘイ
 ショウ・こずえ  木部
解字 「木(き)+肖(ちいさい)」の会意形声。木の上の小さくなってゆく所。こずえ。
意味 (1)こずえ(梢)。木のさき。 (2)すえ。はし。物の末端。「末梢マッショウ」(はし。先端。末端)「末梢神経マッショウシンケイ」(身体の先端各部と連絡する神経)
 ショウ・けわしい 山部
解字 「山(やま)+肖(=梢。こずえ)」の会意形声。木の梢のように先がとがり険しい山。
意味 (1)けわしい(峭しい)。山の細くとがったさま。「孤峭コショウ」「峭壁ショウヘキ」(けわしい山の壁。絶壁) (2)性質がきびしい。するどい。「奇峭キショウ」(①山が険しくそびえたつ。②性格などが際立ってするどい)「峭刻ショウコク」(きびしくむごい)「峭直ショウチョク」(性質がきびしく一途なこと)「峭厲ショウレイ」(研ぎすましたようにきびしい)
 ショウ・うれえる  忄部
解字 「忄(こころ)+肖の旧字(小さい)」の会意形声。心が小さくなること。心細くなり、しょんぼりすること。
意味 (1)うれえる(悄える)「悄然ショウゼン」(①元気なくしょんぼりする。②しずかでものさびしい)(2)しずかな。ひっそりしてさびしい。「悄静ショウセイ」(しずかなこと)
 セツ・くず  尸部
解字 「尸(人が座ったかたち)+肖の旧字(小さい)」の会意。小さい人の意で、こせこせした小心者をいう。否定形にもちいると、「いさぎよくない」となる。転じて、役に立たない、くずの意となる。
意味 (1)人がこせこせする。「屑屑セツセツ」(こせこせと小事にこだわるさま)「不屑フセツ」(いさぎよしとせず) (2)くず(屑)。きれはし。役に立たないもの。「人間の屑くず」「屑米くずマイ」「屑糸くずいと
 ショウ  辶部
解字 「辶(ゆく)+肖の旧字(小さい)」の会意形声。小またでうろうろと歩くこと。
意味 さまよう。ぶらつく。「逍遥ショウヨウ」(気ままに歩く)「逍遊ショウユウ」(ぶらついて遊ぶ)
 ソウ・ショウ・めしびつ  竹部
解字 「竹(たけ)+肖の旧字(小さい)」 の会意形声。竹製の小さいかごの意。ご飯を盛るめしびつを言った。また、容量の小さい器であることから、わずかの量の意となる。
意味 (1)めしびつ。ふご。かご。「竹筲チクソウ・チクショウ」(めしびつ) (2)わずかの量。1斗2升の竹器。中国周代の一斗は約1.94 リットルで日本の1升にちかい。「斗筲トソウ・トショウ」(①量目の僅かなこと。②人物の器量のちいさいこと)「斗筲之人トソウ(トショウ)のひと」(器量の小さい人物のたとえ。=斗筲之材) (3)おけ。「筲箍ソウコ・ショウコ」(おけのたが)
 ショウ・さや  革部
解字 「革(かわ)+肖の旧字(ちいさい)」の会意形声。中にひとまわり小さい刀をいれる革製のさや。以前、刀のさやは革で作った。
意味 (1)さや(鞘)。刀をおさめる筒。「鞘当(さやあ)て」(すれ違ったとき鞘がふれ、互いにとがめ立てること)「毛根鞘モウコンショウ」(毛根をおおっている鞘のような細胞) (2)革のひも。ムチの先。 (3)買値と売値の差額。「利鞘りざや
 ショウ・そら  雨部
解字 「雨(あめ)+肖(ちいさい)」の会意形声。ちいさい雨で、雨として落ちる前の雲や雲気をいい、転じて「そら」の意味となる。
意味 (1)そら(霄)。天の雲気。「霄元ショウゲン」(おおぞら)「霄月ショウゲツ」(空にある月)「霄壌ショウジョウ」(天と地)「霄壌雲泥ショウジョウウンデイ」(天と地、雲と泥ほどの差) (2)そらたかく。「霄峙ショウジ」(高くそばだつ)「雲霄ウンショウ」(雲のある空。転じて高い地位) (3)みぞれ。

形声字
 ショウ  石部
解字 「石(鉱物)+肖(ショウ)」の形声。ショウという名の鉱物。
意味 「硝石ショウセキ」に用いる字。無色のガラス状の結晶体で火をつければ紫の炎を出して燃える。ガラス・火薬などの原料。「硝酸ショウサン」(空中で発煙する無色刺激臭の液体)「硝煙ショウエン」(火薬の爆発によって起こる煙り)「硝子ガラス」(建築材料や器具につかう透明で硬い材料)
 ショウ・やや  禾部
解字 「禾(こくもつ)+肖(ショウ)」の形声。ショウは少ショウ(すこし)に通じ、穀物の量が少ないこと。転じて、分量・程度がわずかの意で使う。
意味 (1)分量・程度がわずか。すくない。やや(稍)。すこしばかり。「稍(やや)大きめ」 (2)しばらくのあいだ。「稍(やや)あって」(しばらくして)(3)時間や程度がすすむさま。次第に。ようやく。「稍稍ショウショウ」(だんだん。すこしずつ)
 チョウ  走部
解字 「走(足の動作)+肖の旧字(チョウ)」の形声。チョウは超チョウ(こえる)に通じ、こえる意。主に中国の国名や人名に用いられる。
意味 (1)こえる。超える。 (2)中国の戦国時代の国の名。戦国七雄のひとつ。「趙女チョウジョ」(趙の国の女)「趙舞チョウブ」(趙の女性の舞まい) (3)姓。「趙高チョウコウ」(秦代の宦官。始皇帝の死後、権力を奮ったが殺された)
<紫色は常用漢字>

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音符「兪ユ」<ぬきとる>と「愉ユ」「癒ユ」「諭ユ」「喩ユ」「輸ユ」

2022年06月14日 | 漢字の音符
 渝ユを追加しました。
 ユ  入部

解字 金文は「舟(容器)+手術刀+印(患部からでた膿)」の会意。舟は容器の意。患部を手術刀で切り、出た膿(うみ)を容器でうける形。手術刀で身体の化膿した部分を切開し、中の患部や膿をぬきとる意。愈・癒の原字[字統]を参考にした。但し、字統は手術刀(針)を余としているが、余とは少し形が異なる。しかし、本来の、ぬきとる意味は、愈・愉・癒で表されるようになったので、仮借カシャ(当て字)され、しかり・はい、の意で使われる。現代字は、手術刀の上部が「入+一」に、下部の刀と膿が「くく」に変化した兪になった。新字体で使われるとき兪⇒俞となる。
意味 (1)しかり(兪り)。はい。 (2)姓。「兪氏ユシ」(兪姓の一族)「俞樾ユエツ」(清末の学者) (3)ますます。いよいよ。=愈。 (4)いえる。いやす。やすらぐ。=愈。

イメージ 
 患部の膿を「ぬきとる」(兪・愈・愉・癒・諭・喩・偸・鍮)
 「とりだす」(輸・揄・逾・踰)
 「形声字」(楡・渝・瑜)
音の変化  ユ:兪・愈・愉・癒・諭・喩・輸・揄・逾・踰・楡・渝・瑜  トウ・チュウ:偸・鍮

ぬきとる
 ユ・いよいよ  心部
解字 「心(心臓)+兪(ぬきとる)」の会意形声。手術で患部を抜き取り、心臓の鼓動が順調に回復すること。術後の経過がますます良くなること。
意味 (1)いえる。病気がなおる。=癒。 (2)いよいよ(愈)。ますます。「愈」(ますます多し)「愈数しばしば」 (3)まさる。すぐれる。
 ユ・たのしい  忄部
解字 旧字は、「忄(心)+兪(ぬきとる)」の会意形声。成り立ちは愈と同じ形だが、愈が体の回復を示すのに対し、愉は回復した心の喜びを表す。新字体は愉に変化。
意味 たのしい(愉しい)。たのしむ。よろこぶ。「愉快ユカイ」「愉悦ユエツ」(心から楽しみよろこぶ)
 ユ・いえる・いやす  疒部
解字 旧字は、「疒(やまい)+愈 (いえる)」の会意形声。愈は病がいえること。これに疒(やまい)をつけて病がいえる意を強めた字。また、傷が治って皮膚がくっつく意ともなる。新字体は癒に変化。
意味 (1)いえる(癒える)。いやす(癒す)。病気がなおる。「治癒チユ」「平癒ヘイユ」 (2)傷口がふさがる。くっつく。「癒合ユゴウ」(傷口がくっつくこと)「癒着ユチャク」(①皮膚がくっつくこと。②必要以上に組織や人が結びつくこと) 
 ユ・さとす  言部
解字 旧字は、「言(ことば)+兪(ぬきとる)」の会意形声。言い聞かせて疑念やしこりを取ってあげること。新字体は諭に変化。
意味 さとす(諭す)。言い聞かせる。教え導く。「教諭キョウユ」(学校の先生)「諭告ユコク」(さとし告げる)「諭旨ユシ」(趣旨をさとし告げる)
 ユ・たとえる・さとす  口部
解字 「口(いう)+兪(ぬきとる)」 の会意形声。口でしゃべって心のわだかまりをとってあげる意。諭と同じ意味だが、他のものにたとえて、さとす意もある。
意味 (1)さとす(喩す)。=諭。教えさとす。「喩告ユコク」(さとし告げる) (2)たとえる(喩える)。たとえ。「比喩ヒユ」(比べてたとえる)「隠喩インユ」(直接的でなく間接的な表現(暗示)でたとえる=暗喩アンユ
 トウ・チュウ・ぬすむ  イ部
解字 「人(ひと)+兪(ぬきとる)」の会意形声。中身を抜きとる人。また、その動作。
意味 (1)ぬすむ(偸む)。ぬすみ。「偸盗チュウトウ」(ぬすみ。ぬすびと) (2)むさぼる。「偸安トウアン」(目前の安楽をむさぼる)
 チュウ・トウ  金部
解字 「金(=銅)+兪(ぬきとる)」の会意形声。金は、ここで銅を含む鉱石をさす。この鉱石を製錬し純粋な銅をとりだしたものをいう。また、自然銅の純度の高いものをいう。なお、現在は銅と亜鉛の合金をいう。
意味 (1)製錬した純粋な銅。「真鍮シンチュウ」(純粋な銅。現在は銅と亜鉛の合金をいう)「鍮石トウセキ」(純度の高い自然銅の鉱石) (2)銅と亜鉛の合金。加工しやすくさびないので、広く用いられる。黄銅。「真鍮シンチュウ」(銅と亜鉛の合金)

とりだす
 ユ・シュ・おくる  車部
解字 旧字は「車(くるま)+兪(とりだす)」の会意形声。取り出したものを車ではこぶこと。新字体は輸に変化。おくる・運んで献上する・運んでおさめる意などとなるが、勝者に納める意から、負ける意ともなる。
意味 (1)おくる(輸る)。うつす。はこぶ。「輸送ユソウ」「空輸クウユ」「輸血ユケツ」 (2)献上する。税をおさめる。「輸財ユザイ」(財産や物資を政府に寄付する)「輸租ユソ」(租税を納める) (3)まける。「贏輸エイユ・エイシュ」(勝ちと負け。は勝つ輸は負ける)
 ユ  扌部
解字 「扌(て)+兪(とりだす)」 の会意形声。手で取り出すこと。ひきだす意となる。また、揄揚ユヨウ(ほめそやす)から転じた、からかう意もある。
意味 (1)ひく。ひきだす。ひきずる。「揄揚ユヨウ」(ひきあげる。ほめそやす) (2)もてあそぶ。からかう。「揶揄ヤユ」(揶も揄も、からかう意)
 ユ・こえる・いよいよ  辶部
解字 「辶(ゆく)+兪(とりだす)」の会意形声。とりだして持ってゆく意で、場所が変わるので、ある地点をすぎる、こえる意となる。また、愈ユに通じ「いよいよ」の意を表す。
意味 (1)こえる(逾える)。すぎる。「逾月ユゲツ」(翌月)「逾侈ユシ」(度をこしたぜいたく)「逾邁ユマイ」(逾も邁も、すぎる意)「日月逾邁ジツゲツユマイ」(月日がどんどん過ぎてゆくこと) (2)いよいよ(逾)。「江碧鳥逾白」(江(こう)碧(みどり)にして鳥(とり)逾(いよいよ)白く:杜甫)
 ユ・こえる  足部
解字 「足(あし)+兪(=逾。こえる)」の会意形声。足でこえること。逾と同じ「すぎる」意と、足で高いところを越える意がある。
意味 (1)こえる(踰える)。=逾。こす。すぎる。「踰年ユネン」(年をこえる)「心の欲する所に従い規矩(のり)を踰えず(論語)」 (2)のりこえる。とびこえる。「踰越ユエツ」(のりこえる)「踰牆ユショウ」(垣根(牆)を越える)

形声字
 ユ・にれ  木部
解字 「木(き)+兪(ユ)」 の形声。ユ(兪)という名の木で、にれ(楡)をいう。
意味 にれ(楡)。ニレ属の落葉高木の総称。ハルニレ・アキニレ・オヒョウなどがある。日本では一般にハルニレをさす。樹高は30 ~35メートル、直径は1メートルに達し、日本産のニレ属樹木としては最大である。材は堅く細工物に適する。「楡英ユエイ」(にれの花)「楡柳ユリュウ」(にれと、やなぎ)
 ユ・かわる  氵部
解字 「氵(みず)+兪(ユ)」 の形声。ユという名の川。現在の四川省重慶市域を流れる嘉陵江の古称である渝水をいう。かつて重慶一帯を渝州と言ったので、渝は重慶の略称として用いられている。また、水流が「かわる」「あふれる」意味で用いられる。
意味 (1)かわる(渝わる)。かえる。「渝盟ユメイ」(盟約をたがえる) (2)あふれる。「渝溢ユイツ」(渝も溢も、あふれる意) (3)川の名。地名。「渝水ユスイ」(重慶市域の嘉陵江の古称)「渝州ユシュウ」(隋唐代に今の重慶市付近に置かれた州)「思君不見下渝州(李白「峨眉山月歌」)」(君を思っても(君は)見え(不)ず(船は)渝州に下っていく)
 ユ  玉部
解字 「王(玉)+兪(ユ)」 の形声。ユという名の玉。美しい玉の名をいう。
意味 (1)美しい玉の名。「瑾瑜キンユ」(瑾も瑜も、美しい玉の意)「瑾瑜匿瑕キンユトクカ」(すぐれた才のある立派な人物でも小さな弱点がある。瑕カは玉のキズ。全体が素晴らしい宝石に小さなキズがあっても、価値は下がらないという意)「瑾瑜キンユ瑕(きず)を匿(かく)す」とも読む。(2)梵語(サンスクリット語)の音訳字。「瑜伽ユガ(yoga)」(古代インド発祥の瞑想を主とする宗教行法。現在の身体運動をともなうヨーガ(ヨガ)の源流)
<紫色は常用漢字>

    お知らせ
主要な漢字をすべて音符順にならべた、『音符順 精選漢字学習字典 ネット連動版』石沢書店(2020年)発売中です。


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音符「雚カン」<耳状羽毛のある鳥>と「観カン」「歓カン」「勧カン」「懽カン」「讙カン」「灌カン」「缶・罐カン]「権ケン」  

2022年06月11日 | 漢字の音符
 カン  隹部  

 ミミズク(ウィキペディアより)
解字 甲骨文第一字は「頭部の耳状羽毛+隹(とり)」の象形で、頭部に耳状羽毛をもつミミズクの象形と思われる。甲骨文第二字は、そこに口が二つ付いた形で、ミミズクが口で鳴き交わしている形を表す。ミミズクは「耳付く」でウサギの耳のように羽毛が出ていることから名づけられたが、独立した種類でなくフクロウの仲間である。金文から口二つが両目のようについた形になり(甲骨文にもこの字形がある)、篆文にも引き継がれ、現代字は上が草冠に変化している。白川静氏は[字通]で、この口二つをミミズクの両目と解釈しているが、私はミミズク(フクロウ)が口々に鳴き交わす声と解釈したい。
 フクロウは夜行性で暗闇でも良く見えるように眼球が発達していて、ネズミなどを捕食して生活している。夜に仲間同士で鳴き交わして生活しており、フクロウの鳴き声は昔からよく知られていた。宮崎学氏は「フクロウと会話する方法」という文章で、10年にわたり山の中で寝泊まりしてフクロウと会話し16種類のフクロウの声を通訳できるようになったという。
 そこで私は雚カンを、①ミミズク(フクロウ)②目のいいフクロウは「つぶさに見る」③フクロウが鳴き交わして「さわがしい」イメージを提唱したいと思う。なお、甲骨文字では観の原字とされ、視察の意と祭祀の意で用いられている[甲骨文字小字典]。のちにこの字はコウノトリの仲間と解釈され、コウノトリの原字とされている。
 雚カンは新字体に含まれると、の左辺に変化する。(この字形を、のにどり(ノ二隹。隹のノは二の上の一に付けて書く。)と覚える)
意味 (1)視察する。(=観)。(2)コウノトリ。鸛の原字。

イメージ
 「ミミズク(フクロウ)」
(雚・鸛)
  目のいいフクロウは「つぶさに見る」(観)
  フクロウが鳴き交わして「さわがしい・にぎやか」(歓・懽・讙・勧)
 「形声字」(権・灌・缶[罐])
音の変化  カン:雚・鸛・歓・観・懽・讙・勧・灌・缶[罐] ケン:権

ミミズク(フクロウ) 
 カン・こうのとり  鳥部
解字 「鳥(とり)+雚(ミミズク・フクロウ)」の会意形声。雚は頭部の耳状羽毛が描かれており、ミミズク(フクロウ)と思われるが、のち大型の水鳥にあてた鸛の字が篆文からできた。後漢の[説文解字]は「鸛專カンセンであり、畐蹂フクジュウ。䧿かささぎの如く、短尾が短い。之(これ)を射ると,矢を銜(くわ)え人に射(射返)す。鳥に従い雚の聲(声)」とするが意味が不明。具体的にはコウノトリ科の鳥に当てている。
意味 こうのとり科の鳥。「白鸛コウノトリ」「黒鸛ナベコウ」「烏鸛ナベコウ」。西洋のこうのとりは赤ん坊を運んでくるとされる。

つぶさに見る
 カン・みる  見部
解字 旧字は觀で「見(みる)+雚(つぶさに見る)」の会意形声。視力のいいフクロウ類の鳥がつぶさに見ること。新字体は観に変化する。甲骨文字で雚は視察の意味だという。
意味 (1)みる(観る)。ながめる。「観客カンキャク」「観光カンコウ」(2)くわしく見る。「観察カンサツ」(3)見えるありさま。「美観ビカン」「景観ケイカン」「奇観キカン」(4)見て考えること。ものの見方・考え方。「観念カンネン」「主観シュカン

にぎやか・さわがしい
 カン・よろこぶ  欠部
解字 旧字は歡で 「欠(口をあけた人)+雚(にぎやか)」の会意形声。口をあけてにぎやかに声を出すこと。新字体は歓に変化する。
意味 よろこぶ(歓ぶ)。たのしむ。親しく。「歓喜カンキ」(心から喜ぶ)「歓迎カンゲイ」「歓待カンタイ」「歓声カンセイ」(喜びの声)「歓談カンダン」(打ち解けて話す)
 カン・よろこぶ  忄部
解字 「忄(こころ)+雚(=歓。よろこぶ)」の会意形声。心からよろこぶこと。
意味 よろこぶ(懽ぶ)。「懽娯カンゴ」(よろこびたのしむ)
 カン・かまびすしい  言部
解字 「言(はなす)+雚(にぎやか)」の会意形声。にぎやかに話すこと。
意味 (1)かまびすしい(讙しい)。やかましい。「讙嘩カンカ」(かまびすしい) (2)よろこぶ。(=懽)
 カン・すすめる  力部

解字 篆文は「力(ちから)+雚(カン)」の形声。カンは讙カン(やかましい)に通じ、やかましく言って力でおすこと。すすめる・説きすすめる意となる。
意味 (1)すすめる(勧める)。はげます。奨励する。「勧誘カンユウ」「勧業カンギョウ」(産業を発展させるよう勧める)「勧進カンジン」(寺院・仏像のために寄付を募ること)(2)説得する。「勧告カンコク」(あることをするように説きすすめる)

形声字
 ケン・ゴン・はかり・はかる  木部

棹(天秤)ばかり(「砺波正倉」より)錘の位置をずらし棹が平らになると棹の目盛りを読む。

清代の権(錘)「権度製造所造」と刻印されている。https://7788tqsc.997788.com/s453/78930703/
解字 旧字は權で「木(木の棒)+雚(カン⇒ケン)」の形声。[説文解字]は「黄華木。黄色の華が咲く木」とする。しかし、この字は春秋時代に初出で、当時はどんな意味だったのだろうか。①[論語・堯曰]は、「権量を謹(つつし)み」(はかりめ(権)とますめ(量)をととのえ=こまかく気をくばる) ②[孟子・梁恵王上]は「権(はか)りて然る後に軽重を知る」(目方を測ってのちに軽重を知る)となっており、ともに重さをはかる秤(はかり)であった。また、③三国時代の魏(B220-265)の[広雅・釋器]は「錘スイ之(こ)れを権と謂う」として、秤の錘(おもり)も権とする。新字体は権に変化。
 中国の秤は春秋中晩期に楚国ですでに製造されており、それは衡器コウキ=木衡であったとされる。木衡とは棹秤(さおばかり)である。当初、木の名前であった権の木偏は棹を意味し、発音のケンは借音(音を借りて他の意味を表す)で「はかり」さらに「おもり」の意味に用いられた。棹秤は一本の棹と一個の錘で重さを測れる便利な道具である。しかし、棹の目盛りや錘の重さなどを統一しないと不正が起きやすい。そこで、国や地方の支配者は棹秤の規格を厳重に定めた。そこから棹秤の規格を統制できる力を「権力」といい、他人をおさえて支配する力の意味となる。
意味 (1)はかる(権る)。はかり(権)。目方をはかる。おもり。「権度ケンド」(はかりと、ものさし)「権衡ケンコウ」(はかりのおもりとさお、即ちつりあい)(2)物事を強制したり処置する威力。ちから。いきおい。「権力ケンリョク」「特権トッケン」「権益ケンエキ」(権利と利益)(3)はかりごとをする。はかる。「権謀ケンボウ」「権術ケンジュツ」(4)[仏]「権化ゴンゲ」(仏・菩薩が姿を変えてこの世に現れること。=権現ゴンゲン
灌[潅] カン・そそぐ  氵部
解字 「氵(水)+雚(カン)」の形声。カンの形声。カンは盥カン(たらい)に通じ、たらいに水をそそぐこと。この字には新字体に準じた潅カンがある。
意味 (1)そそぐ(灌ぐ)。水を流し込む。「灌水カンスイ」(水をそそぎかける)「灌漑カンガイ」(農地に人工的に水を引いてそそぐ)「灌頂カンチョウ」([仏]頭の頂に水をそそぐこと)「灌仏会カンブツエ」(釈迦像の頭上に甘茶をかける法会)(2)むらがり生える。「灌木カンボク」(背の低い木)
[罐] カン・フ・かま・ほとぎ  缶部
解字 旧字は罐で「缶(まるく腹がふくれ先がすぼまった土器)+雚(カン)」の形声。カンという名のまるい器。缶は、酒器・水器として用いられたが、罐カンは、甕(かめ)の類を指した。日本では、オランダ語でkanと発音する容器を表すために使われた。新字体は、旧字から雚を省略した。この結果、缶は本来の意味である「ほとぎ」以外にカンという発音と、土器以外の器という意味を獲得した。
意味 (1)ほとぎ(缶)。腹部がまるくふくれた土器。酒や水をいれる容器。秦代には打楽器としても用いた。(2)[国] かん(缶)。ブリキなどの金属製の容器。「缶詰カンづめ」「薬缶ヤカン」(もと薬を煎じるのに用いた容器。銅などで造った湯沸かし)(3)[国] かま(缶)。「汽缶キカン」(蒸気を発生させる缶。ボイラー)「缶焚(かまた)き」(ボイラーをたく人)
<紫色は常用漢字>

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音符「柔ジュウ」<やわらかい>と「揉ジュウ」「蹂ジュウ」「鞣ジュウ」

2022年06月08日 | 漢字の音符
 糅ジュウを追加しました。
 ジュウ・ニュウ・やわらか・やわらかい  木部
 矛(東京国立博物館蔵)

解字 「矛(ほこ)+木」の会意。矛は諸刃の剣状の刃に長い柄をつけた武器だが、矛自体は先端の剣の部分の象形である。それに木のついた柔は、矛の柄の意味で、柄にする木を矯(た)めて、まっすぐにすること。矯めるとき柄を曲げて調整することから、転じて「やわらかい」意となった。
意味 (1)やわらか(柔らか)。やわらかい(柔らかい)。「柔軟ジュウナン」「柔毛ジュウモウ」 (2)よわい。しっかりしていない。「柔弱ニュウジャク」「優柔ユウウジュウ」 (3)やさしい。「柔和ニュウワ」「柔順ジュウジュン」 (4)やわらげる。てなずける。「懐柔カイジュウ

イメージ 
 「やわらかい」
(柔・揉・糅・蹂・鞣)
音の変化  ジュウ:柔・揉・糅・蹂・鞣

やわらかい
 ジュウ・もむ・もめる  扌部
解字 「扌(手)+柔(やわらかい)」の会意形声。手でもんでやわらかくすること。また、柔が矛の柄にする木を矯(た)めて、まっすぐにする意であることから、扌(手)をつけて、その矯(た)める動作を表す。
意味 (1)もむ(揉む)。もんでやわらかくする。「揉み消す」 (2)ためる(矯める)。曲げたわめる。まがりをまっすぐにする。「揉木ジュウボク」(木をためてまっすぐにする)「揉輪ジュウリン」(木をためて輪を作る) (3)[国]もめる(揉める)。「内輪揉(うちわも)め」
 ジュウ・まじる  米部
糅飯(かてめし)
「ブログ素人料理百珍」より
解字 「米(こめ)+柔(=揉ジュウの略。もむ)」の会意形声。米を手でもむようにしてまぜる。[全訳漢字海]は「品質の異なる他の米と混ぜる」としている。
意味 (1)まじる(糅じる)。まぜる。「雑糅ザツジュウ」(雑多にまじる。混在する。)「合糅ゴウジュウ」(まじりあう) (2)[国]かてる(糅てる)。米に他の食材をまぜあわせる。「糅飯かてめし」(米に他の食材をまぜて炊いた飯)「糅(か)てて加えて」(その上に。更に)
 ジュウ・ふむ  足部
解字 「足(あし)+柔(やわらかい)」の会意形声。足でやわらかく踏みにじること。
意味 ふむ(蹂む)。ふみにじる。「人権蹂躙ジンケンジュウリン」(人の権利をふみにじること。蹂ジュウも躙リンもふみにじる意)
 ジュウ・なめす  革部
解字 「革(かわ)+柔(やわらかい)」の会意形声。動物の皮をなめして柔らかい革にすること。
意味 なめす(鞣す)。動物の皮を草や木の汁につけたりして手を加え柔らかい革にすること。「鞣革なめしがわ
<紫色は常用漢字>

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音符「賓ヒン」<大切な客> と「嬪ヒン」「殯ヒン」「浜ヒン」「鬢ビン」「檳ビン」

2022年06月05日 | 漢字の音符
 繽ヒンを追加しました。
[賓] ヒン・まろうど  貝部

解字 甲骨文第1字は「建物+万(頭を一で強調した人)+上向きのあし(止)」の形(万は、後に数字の万に転用された字)。建物の中に外から歩いてきた人物が居る形。第2字は人物(万)の横にひざまずいた人(卩セツ)がいる。「字源」(李学勤編)は、この字を「外から来た客人(万)を主人(卩)が座って応接している形」とする。金文は「建物+万(客人)+貝(財貨)」の形で、この客人は贈答品を持ってきた。相当身分の高い貴人である。意味は客人・贈送(贈呈)・人名。
 篆文は、万の代わりに正に似た字に変化した。[説文解字]は「敬う所なり(敬うべき大事な客)」としているだけで、正に似た字はウ冠と合わせ、この字の発音を表しているとするが、納得できるものではない。この字は現在の字では、歩(步)の下部になっていることから、私は甲骨文字の上向きのあし(止⇒歩)が変化したものと考えたい。従って意味は遠くから歩いて贈答品を持ってきた身分の高い大切な客となる。また、客を迎えた主人は、大切な客につきしたがう意となる。旧字体の賓⇒賓になる。
意味 (1)まろうど(賓)。大切な客。「賓客ヒンキャク」「主賓シュヒン」「来賓ライヒン」「国賓コクヒン」 (2)したがう。主たるものにしたがう。「賓従ヒンジュウ」(お供してしたがう)「賓服ヒンプク」(お供して服する)

イメージ 
 「大切な客人」(賓)
 客人にはいつも応接する主人が「そばにつく」(嬪・擯・殯・鬢・繽・浜)
 「形声字」(檳)
音の変化  ヒン:賓・嬪・擯・殯・繽・浜  ビン:鬢・檳

そばにつく
 ヒン・ひめ  女部
解字 「女(おんな)+賓(そばにつく)」の会意形声。天子のそばで仕える女。
意味 (1)天子に仕える女官やそばめ。こしもと。「嬪御ヒンギョ」(天子につかえる女官)「妃嬪ヒヒン」(①天子の夫人である妃と嬪。②天子につかえる女官) (2)ひめ(嬪)。女性の美称。「別嬪ベッピン」(とりわけ美しい女)  
 ヒン・しりぞける  扌部
解字 「扌(て)+賓(そばにつく)」の会意形声。客人のそばについて手でみちびくこと。また、客人に不審な者が近づいたとき、手でおしのけること。
意味 (1)みちびく。客を案内する。「擯介ヒンカイ」(主人と客との間に介在して世話をする) (2)しりぞける(擯ける)。手でおしのける。「擯斥ヒンセキ」(おしのける。排斥する)「擯却ヒンキャク」(しりぞける)
 ヒン・かりもがり  歹部
解字 「歹(死体)+賓(そばにつく)」の会意形声。死体を埋葬する前に、親族などが棺のそばにしばらくいること。
意味 かりもがり(殯)。死体を埋葬する前、棺にいれてしばらく安置すること。「殯宮ヒンキュウ」(天皇や皇族の棺を葬送の時まで安置する御殿。かりもがりのみや。あらきのみや)「殯柩ヒンキュウ」(かりもがりの柩)
 ビン  髟部かみがしら

もっと知りたい日本髪。鬢・髱(びん・たぼ)(ポーラ文化研究所より)
解字 「髟(かみのけ)+賓(そばにある)」の会意形声。髪の毛から続く(そばにある)耳ぎわの毛をいう。
意味 びん(鬢)。耳ぎわの髪の毛。「鬢毛ビンモウ」(びんの毛)「双鬢ソウビン」(左右の)「付け油」(がほつれないように付ける油)
 ヒン  糸部
解字 「糸(いと)+賓(そばにある)」の会意形声。細長い糸がそばにあつまり、①重なりさかんなこと、②もつれ乱れること。
意味 (1)多くさかんなさま。「繽繽ヒンヒン」(多くさかんなさま) (2)いりみだれるさま。「繽紛ヒンプン」(もつれ乱れるさま)「落英繽紛ラクエイヒンプン」(花などのみだれ散るさま)
[濱]ヒン・はま  氵部
解字 旧字はで「氵(水)+賓(そばにある)」の形声。水ぎわの意で、海または湖に沿った水ぎわの平地をいう。新字体は、旧字の賓⇒兵に変化した浜。現代中国では、宀(建物)の下に兵をつけた「滨」を使う。これは賓(bīn・ビン)と兵(bīng・ビン)の発音が近いからである。日本で兵を使うのは、中国の用法に影響されたからと思われる。
意味 (1)水ぎわ。波打ちぎわ。「浜海ヒンカイ」(海沿いの地。海辺)「浜涯ヒンガイ」(波打ち際) (2)[国]はま(浜)。海または湖に沿った水際の平地。「浜辺はまべ」「浜千鳥はまちどり」「浜唄はまうた」(漁師が浜辺でうたう唄) (3)地名。「横浜よこはま」「長浜ながはま」ほか。 (4)姓。「浜はま」「浜田はまだ」「浜口はまぐち」「浜中はまなか」ほか。

形声字
 ビン  木部
解字 「木(き)+賓(ビン)」の形声。ビンという名の樹木。ビンはマレーシア語で、ビンロウ(檳榔)の意味である「pinang(ピナング )」からと言われる。
檳榔(ウィキペディアより)
意味 「檳榔ビンロウ」に使われる字。檳榔とは、ヤシ科の常緑高木(檳榔樹)。羽状複葉で、果実は鶏卵大でキンマの葉に包んで噛み嗜好品とする。実も檳榔という。「檳榔子ビンロウジ」(檳榔の果実=檳榔)
<紫色は常用漢字>

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部首「凵カン(かんがまえ)」について

2022年06月02日 | 漢字の音符
 私はこのブログで「部首の占める位置とその12区分」(2021.10.2)と題し、部首が漢字のどの部分を占めるかで、12区分したらどうかと提起させていただいた。幸いにも私の提起は支持されており、最近はこのブログの人気記事のトップスリーにいつも入っている。

 しかし、この記事を読んだ方から「こうした区分けをするなら凵カン(かんがまえ)も入るのではないか」という質問をたびたびいただいた。図形的な見方からすると、「左右と下部を占める「凵カン」という位置にも何か重要な部首があるのではないか」と思われるのであろう。

凵部に属する主な字は、凶キョウ、出シュツ、凹オウ、凸トツ、函カンのみ
 この点については私も同じように考え、あらかじめ「凵カン」の位置を占める部首を調べてみた。すると、この位置を占めるのは部首凵カンだけであり、凵部に属する主な字は、凶キョウ、出シュツ、凹オウ、凸トツ、函カンの5字のみであった。しかも、出シュツ、凹オウ、凸トツ、函カンは、凵カンとその他の部分が分離できない。つまり、当該漢字に凵の部分があるので、凵部に属しているだけの字なのである。しかし、分離できない字は音符になる可能性が強い。案の定、出シュツ、と函カンは音符である。

 そこで私は、凵部を12区分からはずした理由を「凵カン(かんがまえ)の対象となる主な字は凶キョウぐらいであり省略した。この部首は、敢えて区分をつくるほどでなく、教えるとき追加で言及すればよいと思う。」と書いた。この時点で私は凶キョウを「凵+メ」に分離できると思っていたのである。
 ところで、凶キョウも音符になる。その後、音符「凶キョウ」の記事を書く機会に改めてこの字を分析してみると、兇キョウから分離した字で、「凶キョウ」は、凵とメに分離できないことが判明した。今回、こうした事情も踏まえて、改めて部首「凵カン」について詳しく記述してみたい。

甲骨文字で「凵カン」だった字
部首「凵カン」に入る前に甲骨文字で「凵カン」だった字を紹介しておきたい。それは音符「臽カン」である。

この字は甲骨文字で人が落とし穴におちこんださまである。金文はさらに穴の入口の〇印と下にある尖ったクイを描く。篆文から落し穴が臼の字になった。落し穴・おちいる意となる。現在は、この字に阝(こざと)が付いた陥カンが常用漢字になっている。臽カンの変遷をみると、凵カンは人が落ちるほどの穴であることが分かる。

 カン・ケン・コン  凵部

解字 [説文解字]を音符順にまとめた[説文通訓定聲](朱駿聲編)は「一説に坎カン(あな)也。塹ザン(ほり)也。地を穿つの象。凶字此に従う。」として、坎(あな)や塹(ほり)の形とする。凵部に属する「出シュツ」の甲骨・金文(下記の出を参照)は「あな(穴)」描いており、もとは穴やくぼみの意味である。
意味 くぼむ。
部首「凵カン」
カンは部首「凵かんがまえ・かんにょう」になる。字の成り立ちは「くぼみ」であるが、そのほか下部が凵形になっている漢字が、凵部に属している。凵部の主な字は、以下の5字である。
常用漢字
 キョウ・ク・クウ・わるい 凵部

参考 兇キョウ

参考 禽キン

解字 [説文解字]で許慎は篆文の字形を「悪なり。地面が掘られ、その中に陥るさま(✕)」とし、落とし穴に落ちた状態で、わるい意味とする。しかし、戦国期の第一字は篆文と似ているが、第2字は落とし穴と✕が連続しており落し穴に落ちた形ではない。私は凶は兇キョウから分離した字だと考える。甲骨文字および楚簡(=戦国)の兇は「鳥網の略体(禽の甲骨第1字)+ひざまずく人」と見ることができる。古くから鳥網は敵を捕獲する目的でも使われており、「鳥網で捕獲されて恐懼キョウクする人」と解字すると意味がぴったり合う。
 この字から凶が分離し、意味も①わるい。②わざわい、となったため、兇には、わるい・わるもの、の意が追加された。
意味 (1)わるい(凶い)。わるもの。「元凶ガンキョウ」「凶行キョウコウ」 (2)わざわい。不吉。「吉凶キッキョウ」 (3)ききん(飢饉)。作物の出来が悪い。「凶作キョウサク」 (4)おそれる。「凶凶キョウキョウ」(おそれるさま)
 シュツ・スイ・でる・だす  凵部

解字 [甲骨文字辞典]は、「歩行を示す止(あし)の下部にへこみ(凵カン=穴)が描かれており穴から出ることを表したものであろう」とする。字形は最終的に、あしの部分が「山の中央線が下に出た形」になり、これに穴を表す凵がついた出になった。でる・あらわれる意となる。
意味 (1)でる(出る)。だす(出す)。外にでる。「門出かどで」「出港シュッコウ」(2)あらわれる。「出現シュツゲン」「露出ロシュツ」 (3)でむく。「出演シュツエン」 (4)すぐれる。「傑出ケッシュツ
 オウ・くぼむ 凵部
解字 中央がくぼんだ姿を描いた象形。字の下部が凵形になっていることから、凵部に所属している。
意味 (1)くぼむ(凹む)。へこむ。(2)くぼみ。「凹凸オウトツ」 
 トツ・でこ 凵部 
意味 中央が突き出た姿の象形。字の下部が凵形になっていることから、凵部に所属している。
意味 (1)突き出る。でこ(凸)。「凸起トッキ」「凸凹でこぼこ
常用漢字以外
函(凾) カン・ゴン・はこ 凵部  

解字 甲骨文および金文は、矢が入っている矢筒のかたち。篆文から字形が変わり、現代字はさらに変化した函となった。意味は矢を収納することから、各種のはこ・いれる意。のち、よろいを収納する箱にもなったことから、よろいの意もある。凾は異体字。この字は字形に凵があるので凵部に属している。
意味 (1)矢筒。「矢函シカン」 (2)はこ(函)。各種の収納箱。物を入れる蓋付きの容器。「剣函ケンカン」(剣をいれる箱)「函使カンシ」(手紙を入れた函を届ける使い) (3)よろい。「函人カンジン」(よろいを作る職人) (5)地名。「函館はこだて」(北海道南端の港湾都市)

凵部のまとめ
 凵部に属する主な字は、字から凵を分離できない一体型の字である。「部首の12区分」は、部首とそれ以外の部分が分離できることを前提としており、凵部はこれに当てはまらない。
(なお、届カイ・とどく、の旧字「屆カイ」の音符となっている凷カイは、凵と土に分離できるが、極めて特殊な字であり、本稿の対象としていない。)

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