漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「曽ソウ」<こしき:層をなしてかさなる>「僧ソウ」「増ゾウ」「憎ゾウ」「贈ゾウ」

2016年02月25日 | 漢字の音符
[曾] ソ・ゾ・ソウ・ゾウ・かつて  日部       

 蒸し器   こしき(甑)による調理
左は簡易かまどに釜をのせ、その上にせいろ(蒸籠)を二つ重ねた蒸し器(ウィキペディアより)。右は土製のせいろの底に簀子を置いて、水をいれた甕かめの上にのせ米などを蒸す形。<高坂丘陵ねっと>より。現在は、せいろ(蒸し器)の部分を甑(こしき)というが、本来のこしきの字体は蒸し器と下の甕と含んでいる。
解字 金文は、「八(ゆげ)+田(むしき)+曰(水を入れた釜かま:古代では甕かめ)」を組み合わせた形。上に蒸し器を、下に水を入れた釜を重ねて置き、湯気のたちのぼる形で、穀物をふかす甑ソウ(こしき)の象形。甑の原字。層をなして重なる意を示す。篆文以降の字は、この字形が変形したもの。新字体は、旧字の曾⇒曽へ変化する。「かつて」「すなわち」など、かさなる意以外は仮借カシャ(当て字)の用法である。曽を音符に含む字は、「かさなる」イメージを持つ。 
意味 (1)かつて(曽て)。これまで。「未曽有ミゾウ」(いまだかつてない) (2)すなわち。 (3)かさなり。血のつながりの三代前。「曽祖父ソウソフ」(ひいおじいさん)「曽孫ソウソン・ひまご」(孫のこども)

イメージ 
 「かさなる」
(曽・層・増・憎・贈・噌)
 本来の意味の「こしき」(甑) 
 「ソウの音」(僧)
音の変化  ソウ:曽・層・甑・僧  ゾウ:増・憎・贈  ソ:噌

かさなる
 ソウ  尸部   
解字 旧字は層で「尸(やね)+曾(かさねる)」の会意形声。上へ上へと屋根を重ねた家の意でかさなること。新字体は層に変化。
意味 (1)かさなる。かさなり。「高層建築コウソウケンチク」「層雲ソウウン」「断層ダンソウ」 (2)人々や社会の区分。「階層カイソウ」「読者層ドクシャソウ
 ゾウ・ます・ふえる・ふやす  土部
解字 旧字は增で「土(つち)+曾(上にかさなる)」の会意形声。土を上にかさねて増やすこと。で新字体は増に変化。
意味 ふえる(増える)。ふやす(増やす)。ます(増す)。多くなる。「増加ゾウカ」「増強ゾウキョウ」「二割増(ま)し」
 ゾウ・にくむ・にくい・にくらしい・にくしみ  忄部  
解字 旧字は憎で「忄(こころ)+曾(かさなる)」の会意形声。相手に対するいやな感じが幾重にも重なること。で新字体は憎に変化。
意味 にくむ(憎む)。にくい(憎い)。「憎悪ゾウオ」「愛憎アイゾウ」「憎まれ口」
 ゾウ・ソウ・おくる  貝部
解字 旧字は贈で「貝(財貨)+曾(かさねる)」の会意形声。財貨を相手に持って行き、かさねあげること。新字体は贈に変化。
意味 おくる(贈る)。金品などを人におくる。「贈答ゾウトウ」「贈与ゾウヨ」「寄贈キゾウ・キソウ」「贈賄ゾウワイ」(賄賂を贈る)
 ソ  口部
解字 「口(くち)+曾(かさなる)」の会意形声。口から出る声がかさなり、かまびすしいこと。日本では、みそ(味噌)の「そ」の発音に当てる。
意味 (1)かまびすしい。 (2)[国]「味噌みそ」に使われる字。味噌とは大豆を原料として発酵させた調味料。「みそ」の語源は、奈良時代の文献に「未醤」(みしょう:まだ豆の粒が残っている醤ひしおの意味)と呼ばれた食品の発音が変化したとされる。「味噌汁みそしる」「味噌桶みそおけ」「手前味噌てまえみそ」(自分の味噌を自慢する)

こしき
 ソウ・こしき  瓦部
解字 「瓦(やきもの)+曾(こしき)」の会意形声。曾は、こしきを象った字で、もともと、こしきの意。かつて・かさなる等の意に使われたので、瓦をつけて本来の意味を表す。
意味 こしき(甑)。蒸し器。米などを蒸す瓦製の器。形は円く底に蒸気を通す複数の穴があり、その上に簀子(すのこ)を敷いて米などを入れ、下から水をいれた別の容器を沸騰させて蒸し上げる。現在は「蒸籠せいろう・せいろ」や金属製の蒸し器が用いられる。「甑中ソウチュウチリを生ず」(甑の中に塵がたまる。甑で飯を長いあいだ蒸すことが出来ないほど貧乏なこと=甑塵ソウジン)「甑島こしきしま」(鹿児島県薩摩川内市に属する島。有人島3島と多数の小規模な無人島からなる)

ソウの音
 ソウ  イ部
解字 旧字は僧で「イ(人)+曾(ソウ)」 の形声。ソウは梵語sam-gha(僧伽=仏門に入って修行する人々)のsamの当て字。また、「イ(人)+曾(かさねる)」で、寺での修行を経て徳が重なった人と解字することもできる。新字体は僧に変化。
意味 仏の道理をおさめる人。僧侶。「僧院ソウイン」「僧正ソウジョウ」(僧の階級のひとつ。大僧正の次の階級)「僧兵ソウヘイ」(寺院の私兵)「雛僧スウソウ」(おさない僧。小僧)
<紫色は常用漢字>

<参考音符>
会[會] カイ・エ・あう  人部
解字 甑(こしき:蒸し器=曾)にフタをした形の象形。調理をするとき、こしきにフタをあわせることから「あう」、釜からこしき・フタまで揃っていることから、あつまる意を持つ。旧字の會は、曽(こしきの原字)の旧字・曾から八をとり亼(ふた)をつけた形になっている。新字体で、會⇒会に簡略化される。
意味 (1)あう(会う)。であう。「会見カイケン」 (2)あつまる。「会議カイギ」「会合カイゴウ」 (3)心にかなう「会得エトク」 (4)とき・おり「機会キカイ」 
イメージ
  「あう」(会)
  釜からフタまで「よせあわせる」(絵・膾・鱠・檜)
  「同音代替」(獪)
音の変化  カイ:会・絵・膾・鱠・檜・獪
音符「会カイ」を参照

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「耶ヤ」<ヤの音を表す> と 「椰ヤ」「爺ヤ」「揶ヤ」

2016年02月13日 | 漢字の音符
 ヤ  阝部

  上段が邪、下段が耶
解字
 もと邪ジャ・シャ・ヤから変化した字。篆文を簡略化した隷書レイショ(漢代の役人などが主に使用した書体)で、左辺の牙が変化し、楷書(魏晋南北朝に盛んに用いられ初唐に完成した書体)で、牙⇒耳に変った耶ができた。邪の異体字であるが、ヤの発音で、音訳の字に用いられ、また、疑問などの終助詞に用いる[字統]。
意味 (1)や。か。疑問。反語。感嘆の助字。(2)外国語の音訳。「耶蘇会ヤソカイ」(キリスト教の教団)「摩耶マヤ」(釈迦の母)「耶律ヤリツ」(契丹キッタン族の姓の一つ)(3)地名。「耶馬溪ヤバケイ」(大分県・山国川上流の景勝地)「摩耶山マヤサン」(神戸市にある六甲山地の一峰)

イメージ 
 「ヤの音」
(耶・椰・爺)
 「同音代替」(揶)
音の変化  ヤ:耶・椰・爺・揶

ヤの音
 ヤ・やし  木部
解字 「木(き)+耶(ヤ)」の形声。熱帯地方原産のヤシという木を表すのに用いる。
意味 やし(椰)。椰子ヤシとも書く。ヤシ科の植物の総称。実は油脂・酒などの原料として利用される。ココヤシ・アブラヤシ・ナツメヤシなどで、普通、ココヤシを指す。「椰子の実」
 ヤ・じじ・じい  父部
解字 「父(ちち)+耶(ヤ)」の形声。父をヤと呼ぶこと。父親を呼ぶ俗称として用いられた。のち、老人の尊称としても使われる。
意味 (1)ちち。父の俗称。「阿爺アヤ」(お父さん。阿は親しみの気持ちを表す接頭語)(2)じじ(爺)。じい(爺)。老人の尊称。祖父。「お爺(じい)さん」「爺爺ヤヤ」(祖父)(3)[国]「親爺おやじ」(=親父・親仁)とは、①自分の父を親しんで呼ぶ語。②親方。親分。店の主人などを親しんで呼ぶ語。③年取った男性を指していう語。

同音代替
 ヤ・からかう   扌部 
解字 「扌(て)+耶(ヤ)」の形声。ヤは邪ヤ・ジャ(心がひねくれる)に通じ、ひねくれた心で相手を扱うこと。
意味 からかう(揶う)。もてあそぶ。「揶揄ヤユ」(揶も揄も、からかうこと)

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする