漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。
拝[拜] ハイ・おがむ 扌部
解字 篆文は、「手(て)+一(床面)+手(て)」の会意。両手を一(床面)につき神をおがむこと。また頭を深くさげて、おじぎをすること。一は右の手の下についた拜となり、新字体は手⇒扌に変化した拝になった。※金文も存在するが、字形のつながりが薄いので省略した。
意味 (1)おがむ(拝む)。おじぎをする。「伏し拝む」(両手を地面について拝む)「礼拝レイハイ」(礼をして拝する。神仏などを拝むこと)「拝殿ハイデン」(神社で本殿の前に設けられた礼拝をするための社殿) (2)つつしんで~する。「拝謁ハイエツ」(お目にかかる)「拝観ハイカン」 (3)自分の行為に冠して相手に敬意を示す語。「拝啓ハイケイ」「拝見ハイケン」「拝読ハイドク」
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「深くおじぎをする」(拝・湃)
音の変化 ハイ:拝・湃
深くおじぎをする
湃 ハイ 氵部
解字 「氵(みず)+拜(深くおじぎをする)」の会意形声。何回も両手をついて、おじぎをするように波が上から下に落ちてさかまくこと。
意味 水の勢いの盛んなさまをいう。「澎湃ホウハイ」(水のみなぎり、さかんなさまから、転じて物事が盛んな勢いで起こるさま)
<紫色は常用漢字>
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手 シュ・て・た 手部
解字 五本の指のある手を描いた象形。手は、甲骨文字では三本指を描いた「又」(音符「又ユウ」 を参照)が用いられた。五本指の手が出現するのは金文からである。手は部首となり、拳ケン・挙キョ・撃ゲキ・摯シ・掌ショウ・拿ダ・摩マなどの字で、下について手の働きを表している。また、手が左辺に付いたとき「扌」に変化し、部首「扌てへん」となる。手は部首としての用途がほとんどで音符にならない。手の意味で会意文字を作る。そのため発音はバラバラである。
意味 (1)て(手)。「手相てソウ」「手綱たづな」 (2)てなみ。うでまえ。「手段シュダン」「妙手ミョウシュ」 (3)てずから。「手記シュキ」 (4)てにする。「入手ニュウシュ」 (5)ある仕事をする人。「歌手カシュ」 (6)技芸にすぐれた人。「名手メイシュ」
参考 部首の手は下につくときは手のままだが、左辺(偏)につくとき扌のかたちに変化する。意味は手および手の動作を表す。常用漢字で手部は9字、扌部てへんは87字(第3位)、約14,600字を収録する『新漢語林』では手部34字、扌部470字が収録されている。
手部・扌部とも音符と大変なじみがよく、手部・扌部と組み合わさる字はほとんど音符である。また、拝ハイと折セツは、この字がさらに音符となる。例外は形が似ているため便宜的に扌部に含めている才サイだが、この字も音符となる。
イメージ 「手」(手・看・承)
音の変化 シュ:手 カン:看 ショウ:承
て(手)
看 カン・みる 目部
解字 「目(め)+手(て)」の会意。手を目のうえにかざしてよく見ること。
意味 (1)みる(看る)。じっと見つめる。観察する。「看破カンパ」(見破る)「看過カンカ」(見過す) (2)見守る。見張る。「看護カンゴ」「看病カンビョウ」「看守カンシュ」
承 ショウ・うけたまわる 手部
解字 甲骨・金文は両手で、ひざまずいた人を持ち上げている形の会意。篆文ではさらに中央にもう一つ手が描かれ、三つの手で持ち上げている。いずれも尊者を奉(たてまつ)る形であるが、字の意味は尊者を持ち上げている側にある。持ち上げている側にとって、尊者の言うことを、受ける・受け入れる意となり、また受けたものを「ひきついでゆく」意となる。現代字の承は、三つの手が「水の両側+手」に、ひざまずいた人は「了(手と一部重複する)」に変化した。
意味 (1)うける。受け入れる。「了承リョウショウ」「承認ショウニン」 (2)つぐ。ひきつぐ。「継承ケイショウ」「口承コウショウ」 (3)[国]うけたまわる(承る)。聞くの敬語。
<紫色は常用漢字>
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舎[舍] シャ・やど・やどる 人部
解字 金文は、「口(かこい)+余の古い形(簡易な宿舎)」の会意。余は一本柱の上に屋根をもち、斜めの梁で支えた簡易な小屋で宿泊や休憩に使う。音符「余ヨ」 を参照。これに場所を表す口(かこい)がついた舎は、簡易な宿舎、やどの意、転じて、すまい・たてものの意となった。また、軍隊が一夜の宿とした軍の宿舎の意にも使われた。軍隊が一夜で宿をすてる(出発する)ことから、すてる意がある。新字体は、舍⇒舎に変化した。
意味 (1)やどる(舎る)。身をよせる。やど。「宿舎シュクシャ」(2)すまい。いえ。たてもの。「茅舎ボウシャ」(かやぶきの家)「校舎コウシャ」「田舎いなか」(田園の家が原義。郷里)(3)身内の者の謙称。「舎弟シャテイ」(自分の弟をいう語。他人の弟にもいう)「舎兄シャケイ」(実の兄)(4)軍隊の一夜の宿営所。軍隊の一日の行程。「舎次シャジ」(軍隊が宿る)「三舎サンシャ」(軍隊の三日の行程)(5)梵語の音訳。「舎利シャリ」(釈迦の遺骨)(5)おく(舎く)。すえおく。(7)放棄する。すてる。(=捨)
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「簡易な宿舎」(舎・捨)
音の変化 シャ:舎・捨
簡易な宿舎
捨 シャ・すてる 扌部
解字 「扌(て)+舍(簡易な宿舎)」の会意形声。舎は簡易な宿舎で、軍隊が一夜の宿をおいてのち、その宿をすてる意にも使われ、その意味を強調するため、扌(手)をつけた捨ができた。
意味 (1)すてる(捨てる)。手ばなす。「捨石すていし」「取捨選択シュシャセンタク」(2)[仏]金品を寺や僧に寄付する。ほどこす。「喜捨キシャ」(進んで寺社などに寄付すること)
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那 ナ・ダ 阝部
解字 「冄ゼン+阝(=邑:まち)」の会意。冄ゼンは、毛状のやわらかなものや、花の咲いたしなやかな枝などが、たくさん垂れたさまをいう。音符「冄ゼン」を参照。これに阝(まち)がついた那は、中国・陝西の地名を表わすが、また、冄ゼンの意味である、美しくしなやかのイメージがある。仮借カシャ(当て字)され、疑問の助字や指示詞などに使われる。
意味 (1)なんぞ・いかんぞ (2)あれ・どこ・どれ「那辺ナヘン」(いずこ・どこ) (3)梵語の音訳に用いる。「旦那ダンナ」(仏家が財物を布施する信者を呼ぶ語。転じて、主人、得意客など)「刹那セツナ」(極めて短い時間) (4)地名「伊那 いな」(長野県の地名)「那智なち」(和歌山県の地名。那智の滝・那智大社がある)「那智黒なちぐろ」(那智地方に産した黒色の石。碁石・硯石などに用いる)
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「地名・仮借ほか」(那)
「美しくしなやか」(娜)
「ダの音」(梛)
音の変化 ナ:那 ダ:娜・梛
美しくしなやか
娜 ダ・ナ 女部
解字 「女(おんな)+那(美しくしなやか)」 の会意形声。女のうつくしいさま。
意味 しなやか。たおやか。なよなよとして美しいさま。「婀娜アダ」(女の美しくたおやかなさま。なまめかしいさま)「婀娜アダな姿」
ダの音
梛 ダ・ナ・なぎ 木部
解字 「木(き)+那(ダ)」 の形声。ダという名の樹木。中国の古書に見える樹の名称。日本ではナギの木に当てる。
意味 なぎ(梛)。マキ科ナギ属の常緑高木。暖地に自生し、熊野速玉神社では神木とされる。海南島や台湾等に自生するが、太古、黒潮ラインに乗り日本の南紀・四国・九州の温暖な地方に定着した。葉は、しなやかで光沢があり、古く鏡の裏や守り袋に入れて災難よけにした。
<紫色は常用漢字>
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戻[戾] レイ・もどす・もどる 戸部
解字 篆文は「戸(家の出入り口)+犬(いぬ)」。[説文解字]は「曲がるなり。犬の戸下に出るに従う。戻なる者は身を曲戻(まげる)するなり」とし、犬が戸下をくぐるとき身をねじまげる意とする。この説をうけて[角川新字源]は「戸と犬から成り、犬が戸の下を身をくねらせてくぐりぬける」とし転じて「もとる」「いたる」意を表すとする。[新漢語林]も説文を引用して意味を説明している。
いったい戸は片開きのドアの象形であり、家の出入り口となる所である。こんな重要な場所に犬がくぐりぬける隙間があるのだろうか? 説文の説明は明らかにおかしい。一方、白川氏は[常用字解]で「戸は家の出入り口で、そこに犠牲の犬を埋めて祓(はら)い、邪悪な霊の入ることを拒否することを戻レイといい、もじる・いたる、の意味に用いる」とするが、中国で家の出入り口に犠牲の犬を埋めるという風習があったのか確認されていない。
「戸+犬」でなぜ、もとる・そむく意になるのか。
戻レイには、もとる・そむく・まがる等の意味があるが、「戸+犬」から、なぜこのような意味が出てくるのか。一般的に犬は漢字のなかで、人に例えて、ずるい・わるい意味で使われることが多い。私は以下のような解字を考えてみた。
家の出入口である戸の前にうろうろしていた犬が、突然、身をひるがえして戸口に向かってきて牙をむきだしている形。犬を人に例えて、①さからう。もとる。そむく意となり、その結果、つみ(罪)の意味ともなる。また、犬が身をひるがえす動作から、体を「ねじる」意味ともなる。字形は日本で、旧字の犬 ⇒ 大に変化した戻になる。なお、日本では、もどる・もどす意味でも用いる。
意味 (1)もとる(戻る)。さからう。「背戻ハイレイ」(背き、もとること)「暴戻ボウレイ」(荒々しく道理にもとること)「狼戻ロウレイ」(狼のように道理にそむく) (2)つみ。とが。「罪戻ザイレイ」(つみ・とが) (3)まがる。ねじける。「曲戻キョクレイ」 (4)ねじる。(=捩レイ)。 (5)[国]もどす(戻す)。もどる(戻る)。かえす。「返戻金ヘンレイキン」(返し戻すお金)「後戻(あともど)り」
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「さからう・そむく」(戻)
犬が身をひるがえす動作から「ねじる」(捩・綟)
「同音代替(ルイ)」(涙)
音の変化 レイ:戻・捩・綟 ルイ:涙
ねじる
捩 レイ・レツ・ねじる・よじる・もじる・ねじ 扌部
解字 「扌(手)+戾(ねじる)」の会意形声。手でねじる動作をいい、ねじる・よじる意。新字体に準じて、戸の中の、犬⇒大になる。
意味 (1)ねじる(捩じる)。よじる(捩る)。ひねる。「捩(ねじ)り鉢巻」 (2)ねじ(捩・捩子)。物をしめつけるらせん状の溝のあるネジ。 (3)もじる(捩る)。ひねる。有名な詩句などを言いかえる。 (4)むきをかえる。
綟 レイ・ライ・もじ 糸部
解字 「糸(いと)+戾(ねじる)」の会意形声。糸をねじって(もじって)織った布のこと、新字体に準じて、戸の中の、犬⇒大になる。
意味 (1)[国]もじ(綟)。もじ(綟子)。もじり。麻糸をよじって目を粗く織った布、緯(よこ)糸に対して経(たて)糸をねじって絡ませながら織って行くので隙間ができる。通気性が高いため夏の衣服や蚊帳などに用いる。「綟子織もじおり」「綟網もじあみ」(綟織りの細かい漁網。小魚をとるのに用いる) (2)もえぎ色。
ルイの音
涙 ルイ・なみだ 氵部
解字 旧字は淚で「氵(水)+戾(ルイ)」の形声。ルイは泪ルイ(なみだ)に通じ、なみだの意。泪ルイは「氵(水)+目(め)」で、目から水が流れる形で「なみだ」をいう(涙の異体字、現代中国ではこの字を使う)。新字体は犬⇒大に変化した涙になる。
意味 なみだ(涙)。なみだする。「感涙カンルイ」「悲涙ヒルイ」「涙線ルイセン」
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克 コク・かつ・よく 儿部ひとあし
解字 甲骨文第一字と金文は、カブトを頭に着けた人が腰掛ける形にかたどる。また、甲骨文第二字に、カブトをかぶり、戈(ほこ)を手にもつ立ち姿の異体字[漢字古今字資料庫の克]もある。意味は、かぶとをつけて戦いにかつ意を表わす。甲骨文の意味は、「勝利」「できる」意。金文も同じで「克敵コクテキ」という言葉があり敵に勝つ意。また「できる」意。篆文で変形し、現代字は克になった。現在の意味は、自分にうちかつ意が強い。
意味 (1)かつ(克つ)。うちかつ。「克服コクフク」(努力して困難にうちかつ)「克己コッキ」(自分にかつ) (2)よく(克く)。できる。じゅうぶんに。「克明コクメイ」(①克く明らかにすることができる。細かい所まで念をいれる。②まじめで正直なこと。)
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「かつ」(克・剋)
音の変化 コク:克・剋
かつ
剋 コク・かつ 刂部
解字 「刂(刀)+克(かつ)」の会意形声。刀を用いて相手にかつこと。克コクが、克己コッキ(おのれにかつ)の意味が強くなったので、刂(刀)をつけて相手にかつ意とした字。しかし、常用漢字でないので、克が剋の書き換え字として使われることが多い。
意味 (1)かつ(剋つ)。相手に打ちかつ。「下剋上ゲコクジョウ」(下の者が上の者の地位や権力をおかすこと=下克上)「相剋ソウコク」(勝とうとして両者が相争うこと=相克)「剋復コクフク」(戦いに勝って失地をとりもどし平和を回復する) (2)きざむ。「剋心コクシン」(心にきざむ) 「剋期コクキ」(期日を約束する) (3)きびしい。むごい。「厳剋ゲンコク」(非常にきびしい。厳も剋も、きびしい意)
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暴 ボウ・バク・あばく・あばれる 日部
解字 金文は「日(太陽)+動物の死体」の会意。動物の遺体が日にさらされている形。日にさらされるが原義。日の下の動物の遺体部分は、篆文以降いろんな漢字の組み合わせで表現されたが、現代字は「共+水」の形。遺体がさらされている環境は、日照りの続く乾燥地帯で時折、はげしい風が突然吹きおこることから、「はげしい」「にわかに」の意が生じた。本来の意味は、日をつけた曝バク(さらす)が作られた。
覚え方 にち(日)きょう(共)みず(水)で、暴
意味 (1)あらあらしい。はげしい。あばれる(暴れる)。「暴力ボウリョク」「暴風ボウフウ」「暴虐ボウギャク」 (2)にわかに。たちまち。急に。「暴発ボウハツ」「暴落ボウラク」 (3)あらわす。あばく(暴く)。「暴露バクロ」(①風雨にさらされる。②さらけだす)
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「はげしい・たちまち」(暴・瀑・爆)
本来の意味の 「さらす」(曝)
音の変化 ボウ:暴 バク:瀑・爆・曝
はげしい・たちまち
瀑 バク・たき 氵部
解字 「氵(水)+暴(はげしい)」の会意形声。はげしく落ちる水で、たきを表す。
意味 たき(瀑)。高い所からはげしく流れ落ちる水流。大きな滝。「瀑布バクフ」(大きな滝)「飛瀑ヒバク」(高い所から飛ぶように落ちる滝)
爆 バク・はぜる 火部
解字 「火(ひ)+暴(たちまち)」の会意形声。火の勢いがたちまち大きくなること。
意味 はぜる(爆ぜる)。はじける。「爆発バクハツ」「爆破バクハ」「被爆ヒバク」(爆撃を受ける。原水爆の被害をうける)
さらす
曝 バク・さらす 日部
解字 「日(ひ)+暴(さらす)」の会意形声。暴はもともと、さらす意であったが、はげしい・たちまちの意が主流となったので、日を付けて本来の意味を表した。
意味 さらす(曝す)。日にさらす。「曝書バクショ」(書物の虫干し)「曝衣バクイ」(着物の虫干し)「被曝ヒバク」(放射線にさらされる) ※「被爆ヒバク」との違いに注意。
<紫色は常用漢字>
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厚 コウ・あつい 厂部
解字 甲骨文字・金文・篆文とも 「厂(石の略体。岩)+享キョウの倒立字(先祖を祀る建物)」 の会意形声。享キョウは、先祖を祀る建物の形で祖先神に飲食物をたてまつり、祖先神をもてなす意を表わす。それに厂(石の略体。岩)がついた厚は、岩を刳りぬいて作った祖先を祀る堂、即ち墓を表す。地下にあるので享を倒立させて描 いている。いわゆる崖墓ガイボの一種をいう。漢代の黄河中下流域では、岩や崖を刳り抜き、地下に壮大な祖先を祀る堂を造り、祖先を厚く供養する諸侯や貴族の墓が作られた。これが厚葬である。心をこめて先祖を祀ることから、心のこもった・ねんごろの意となる。のち、厚みがある意でも使われる。現代字は、厂の中が「日+子」に変化した。
なお、甲骨文字にも厚の字があるが、地名またはその長の意。金文は、多い・大きい意で用いており「厚福豊年」(福が多く年(みのり)豊か)の文が残っている。先祖を含む一族に福が多いことを願ったのであろう。心がこもる・ねんごろ、および厚みがある意は篆文からのようである。
意味 (1)心がこもる。ねんごろ。たいせつにする。「厚意コウイ」「厚情コウジョウ」「温厚オンコウ」(おだやかで情に厚い) (2)あつい(厚い)。ぶあつい。「厚紙あつがみ」「重厚ジュウコウ」(重々しくしっかりしている)「肉厚にくあつ」 (3)あつかましい。「厚顔コウガン」
<紫色は常用漢字>
<参考:厚のなかの倒立字のもとの形>
享 キョウ・うける 亠部
解字 甲骨文・金文は、基礎となる台の上に建っている先祖を祀った建物の象形で「高」の字と似た高い建物を表す。祖先神に飲食物をたてまつって、祖先神をもてなす意を表わす。また、その結果、神の恩恵を受ける意ともなる。篆文は亯となったが、形のことなる第二字が出現し、現代字はその字の系統を受けつぎ、さらに下部が子になった。( 音符「享キョウ」を参照 )
意味 (1)たてまつる。すすめる。ささげる。「享祭キョウサイ」(物を供えて神を祭る) (2)(祖先神を)もてなす。ふるまう。「享宴キョウエン」(もてなしの酒盛り) (3)(神の意志を)うける(享ける)。受け納める。「享年キョウネン」(神からさずかった年数)「享楽キョウラク」(楽しみを受ける。十分に楽しむ)
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殿 デン・テン・との・どの 殳部
解字 篆文の左辺は、「尸(腰掛ける人)+丌キ(腰掛け)+冂(台)」の会意で、台上で床几ショウギに腰をおろしている貴人。これに、動作を表す殳シュがついた殿は台上に貴人が腰をおろす形で、天子や君主の住む場所の意。また、尻を下ろすことから、お尻の意味から転じた「しんがり」(列の最後)の意もある。現代字は、左辺が「尸+共」に変化した。
意味 (1)との(殿)。ずっしりと土台を構えた大きな建物。「殿堂デンドウ」「宮殿キュウデン」 (2)貴人の尊称。「殿下デンカ」「殿様とのさま」 (3)しんがり(殿)。軍隊が退却するとき、最後尾で敵の追撃を防ぐこと。「殿軍デングン」 (4)[国]どの(殿)。他人の姓名の下にそえて敬意を表わす語。「山田一郎殿どの」
イメージ 「腰掛ける」(殿・臀・澱)
音の変化 デン:殿・臀・澱
腰掛ける
臀 デン・しり 月部にく
解字 「月(からだ)+殿(腰掛ける)」の会意形声。腰掛けるとき下に着く身体の部分。
意味 しり(臀)。人の尻。物の底や下部。「臀部デンブ」(おしりの部分)「器臀キデン」(器の底)
澱 デン・テン・よどむ・おり 氵部
解字 「氵(水)+殿(腰掛ける⇒落ち着ける)」の会意形声。水が腰を落ち着けたように留まること。
意味 (1)よどむ(澱む)。水など滞って流れないこと。物事がなめらかに進まないこと。 (2)おり(澱)。物が底に沈んでたまる。液体の底に沈んだかす。「沈澱チンデン」(沈んでたまる。沈殿とも書く)「澱粉デンプン」(ジャガイモなどをすりおろして布で包み水に漬けて揉みほぐすと下に沈んでたまる粉末のこと。一般に種子・根茎などに含まれる炭水化物をいう)
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网 モウ・ボウ・あみ 网部
解字 甲骨文字は二本の支柱に網を張ったかたちの象形。篆文は支柱と上部が冂に変化し内側にメメで網を表す。現代字は篆文のかたちを受け継いだ网になった。罔モウ・網モウの原字。
意味 あみ(网)。
罔 モウ・ボウ・あみ 网部
解字 「网(あみ)+亡ボウ・モウ」 の会意形声。网は、あみの象形で発音はモウ・ボウであるが、そこにさらに発音を示す亡ボウ・モウを付けて网の発音をはっきりと示した字。現代字は网の中のメメ⇒「ソ+一」に変化した罔になった。網の原字。あみの意味のほか、あみでおおう。また、亡(ない)に通じて「ない」の意味を表す。
意味 (1)あみ(罔)。網する。「罔羅モウラ」(=網羅モウラ)「罔罟モウコ」(罔も罟も、あみの意) (2)おおう。くらい。道理にくらい。おろか。「学びて思わざれば即ち罔(くら)し[論語]」(3)ない。なし。否定の語。「罔極モウキョク」(はてがない)「罔極之恩モウキョクのオン」(はてがない恩で、父母の恩のこと)
イメージ
「あみ」(罔・網)
おおわれて「みえない・ない」(魍・惘)
音の変化 モウ:罔・網・魍 ボウ:惘
あみ
網 モウ・あみ 糸部
解字 「糸(いと)+罔(あみ)」 の会意形声。糸でできたあみ。
意味 (1)あみ(網)。「魚網ギョモウ」「投網とあみ」 (2)あみする。網で捕らえる。「一網打尽イチモウダジン」「網羅モウラ」(魚をとる網と鳥をとる羅。残らず集める) (3)あみのような。「網代あじろ」(川で竹や木を網のように組んで魚をとる仕掛け)「網膜モウマク」「通信網ツウシンモウ」
みえない・ない
魍 モウ・ボウ 鬼部
解字 「鬼(おに)+罔(みえない)」の会意形声。鬼は身体から離れてただよう死者の魂(たましい)の意。魍は姿のみえない魂で、人の魂だけでなく山水・木石の精気から生じる霊気や精をいう。
意味 すだま。もののけ。山水や木石の精。「魍魎モウリョウ」(山の霊気や木石の精)「魑魅魍魎チミモウリョウ」(山や川の怪物。さまざまのばけもの)
惘 ボウ・モウ・あきれる 忄部
解字 「忄(こころ)」+罔(ない)」の会意形声。心を失った状態をいい、気がぬける・ぼんやりする意となる。日本では、あきれると読む。
意味 (1)ぼんやりする。気がぬける。「惘然ボウゼン」「惘惘モウモウ・ボウボウ」(ぼんやりするさま。とまどう) (2)[国]あきれる(惘れる)。「惘れ果てる」
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