漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「冏(囧)」ケイ<星のひかり>「炯ケイ」「絅ケイ」「迥ケイ」

2019年03月29日 | 漢字の音符
冏[囧] ケイ  冂部

解字 甲骨文字は、〇形の星がひかるかたち。落合淳思著[甲骨文字辞典]によると、「冏[囧]ケイは、かつては窓枠とする説が有力視されていたが、青銅器などの分析から陰光(星の光)として用いられていることが判明した。内向きの曲線によって陰光を表示したのであろう」としており、意味は夜間(星の出ている夜)及び地名。金文もほぼ同じ形を継承している。篆文は囧の形になったが、現在は省略形の冏になり、囧は異体字。意味は、星の光(陰光)が、かがやく意。転じて、あきらかの意となる。炯[烱]の原字。
意味 あきらか(冏か)。(星が)光りかがやく。「冏冏ケイケイ」(光り輝くさま。=炯炯)

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 「星のひかり」
(冏・炯・絅)
 星の光は遠くから届くので「とおい」(迥)
音の変化  ケイ:冏・炯・絅・迥

星のひかり
炯[烱] ケイ  火部
解字 「火(火の光)+冋(=冏。星の光)」の会意形声。冏ケイ(星が光りかがやく)の意を、火(火の光)をつけて強調した字。烱ケイは異体字。
意味 (1)あきらか(炯か)。光り輝いて遠くから見えるさま。物事のはっきりしているさま。「炯眼ケイガン」(①きらきらと目がひかる。②洞察力がすぐれること。=慧眼)「炯然ケイゼン」(あきらかなさま)「炯耀ケイヨウ」(あかるくかがやく。栄光)「炯炯ケイケイ」(するどく光りかがやく)
 ケイ  糸部
解字 「糸(ぬの)+冋(星の光)」の会意形声。冏は窓枠とする説が有力であったので、絅は星の輝きがみえる窓枠と解釈すると、この字の意味が出てくるように思う。すなわち、窓にとりつけた布の意で、光をとおす薄い絹から、うすぎぬの意。転じて、ひとえものの意となる。
意味 うすぎぬ。ひとえもの。「絅裳ケイショウ」(うすぎぬの裳)「衣錦尚絅イキンショウケイ」(錦(にしき)を衣(き)て、絅(うすぎぬ)を尚(くわ)う。華麗な錦を人に見せ付けないため上から一重ものを重ね着するという意。才能や徳を外にあらわに出さないこと)

とおい
 ケイ・はるか  之部
解字 「之(ゆく)+冏(=冏。とおい)」の会意形声。行くのに遠いこと。
意味 はるか(迥か)。とおい。「迥迥ケイケイ」(はるかなさま)「迥然ケイゼン」(はるかなさま)「迥遠ケイエン」(はるかにとおい)「迥望ケイボウ」(遠望)

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音符「鷹オウ・ヨウ」 <たか> と 「応オウ」「膺ヨウ」

2019年03月26日 | 漢字の音符
 オウ・ヨウ・たか  鳥部

解字 金文は、手を挙げた人の胸元に隹(とり)が獲物(点)をくわえて戻ってきた形。この隹はタカを表し、鷹の原字。篆文は、「疒(やまいだれ)+人+隹+鳥」になったが、病だれは書き間違いと思われる。現代字で「广(やね)+イ(ひと)+隹(とり)+鳥(とり)」の鷹となった。このうち「䧹」が金文の部分、現在の字形から解字すると、人が屋根の下で隹(とり)を飼っている形となる。これに、鳥をつけてタカであることをはっきりさせたのが鷹である。現在の字形は金文とかけ離れたものになった。
意味 たか(鷹)。タカ科の鳥。曲がった鋭いくちばしと強い爪で小形の鳥獣を襲って食べる。古来から鷹狩りに使った。「鷹匠たかジョウ」(鷹を飼いならし訓練する人)「鷹狩たかがり」(飼いならした鷹を放って小型の鳥獣を捕えさせる狩猟)「鷹揚オウヨウ」(鷹が飛揚するように悠然としていること。ゆったりと落ち着いていること)「鷹眼ヨウガン」(鷹の目。鋭い目つき)「鷹視狼歩ヨウシロウホ」(鷹の目つきと狼の歩き方。①残忍な人物のたとえ。②隙を与えない豪傑のたとえ)

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 「たか」
(鷹・応)
 「タカをうけとめる」(膺)
音の変化  オウ:鷹・応  ヨウ:膺

たか
応[應] オウ・こたえる  心部
解字 旧字は應で、「心(こころ)+䧹(鷹の原字。たか)」の会意形声。鷹狩において、鷹匠と鷹はつねに心が一体となっており、鷹匠の要求を鷹は、受け入れ・したがい、それによって相手にこたえる意。新字体は、應から「イ+隹」を省略した形。
意味 (1)うけいれる。ききいれる。したがう。「応諾オウダク」「順応ジュンノウ」 (2)こたえる(応える)。うけこたえる。「呼応コオウ」「応答オウトウ」 (3)相手になる。「応対オウタイ」「応戦オウセン」 (4)つりあいのとれた。「応分オウブン」「相応ソウオウ

タカをうけとめる
 ヨウ・オウ・むね  月部にく
解字 「月(からだ)+䧹(タカをうけとめる)」の会意形成。戻ってくるタカを身体でうけとめること。人が鷹を「うける」、鷹が人の胸めがけて「あたる」⇒転じて人を「うつ」、人がタカを受けるところである「むね」の意となる。
意味 (1)うける。受ける。「膺受ヨウジュ」(膺も受も、受ける意)「膺命ヨウメイ」(命を受ける) (2)あたる。うつ。征伐する。「膺懲ヨウチョウ」(うちこらす) (3)むね(膺)。胸・心。「服膺フクヨウ」(むねに服する。心にとどめる)「拳拳服膺ケンケンフクヨウ」(心にとどめて忘れない。拳拳は、堅く握る意で 捧持するさま)「膺肺ヨウハイ」(胸中)

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音符「堇キン」<ひでり>と「僅キン」「勤キン」「謹キン」

2019年03月21日 | 漢字の音符
  「覲キン」を追加しました。
 キン  土部

解字 甲骨文は手を縛られ火の上に立つ人で、ひでりのとき犠牲の人を焚(や)いて雨乞いをする祭祀を表している(「字源(中国)」「字統」などを参照した)。金文もほぼ同じ形を踏襲したが、篆文で下部が火⇒土に誤った変化をして意味も「ねばつち」や「ぬる」意となったが、形声字の音符になると「ひでり」、ひでりで実りが「わずか・すくない」イメージをもつ。新字体では堇の上部の、廿⇒廾に変化する。
 なお、この字の成立ちについて[甲骨文字辞典]は、日照りを意味する「暵カン」の初文で、「堇キン」も同源字とし、甲骨文字では①動物の革の正面形、②その下に火を加えた形があるとし、①②とも、災害の意味で用いられているとしている。①の動物の革の象形を「ひでり」の意味に用いた理由については、明らかでないが、あるいは「日照りで死んだ動物が皮だけになった状態」という解釈による引伸義かもしれない、としている。
意味 (1)ねばつち。=墐キン。 (2)ぬる。 (3)わずか。=僅。

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 「日でり」
(饉・殣・勤・懃)
  日でりで稔りが「わずか・すくない」(謹・覲・僅・槿・菫)
音の変化  キン:饉・殣・勤・懃・謹・覲・僅・槿・菫

日でり
 キン・うえる  食部
解字 「食(たべもの)+堇(日でり)」の会意形声。日でりで作物の育ちが悪く、食べ物が極端に少ないこと。食へんは旧字体。
意味 うえる(饉える)。うえ。ひどく空腹になる。作物の凶作。「飢饉キキン」(農作物が実らず飢え苦しむこと)「凶饉キョウキン」(飢饉。凶作)
 キン  歹部
解字 「歹(しぬ)+堇(=饉。うえる)」の会意形声。飢えて死ぬこと。
意味 うえじに。餓死する。ゆきだおれ。「道殣ドウキン」(ゆきだおれ)
 キン・ゴン・つとめる・つとまる  力部
解字 旧字は勤で、「力(ちから)+堇(日でり)」の会意形声。日でりの続く困難な状況で力のかぎりをつくすこと。つとめる・はげむ意となる。新字体は勤に変化。
意味 (1)つとめる(勤める)。精を出す。「勤勉キンベン」「勤労キンロウ」 (2)つとめ。しごと。「勤務キンム」 (3)つとめ。修行。「勤行ゴンギョウ
 キン・ゴン・ねんごろ  心部
解字 「心(こころ)+勤(つとめる)」の会意形声。まじめに勤める心。
意味  ねんごろ(懃ろ)。ていねい。「慇懃インギン」(ねんごろで、ていねいなこと)「慇懃無礼インギンブレイ」(うわべはていねいだが、実は相手を見下していること)

わずか・すくない
 キン・つつしむ  言部
解字 旧字は謹で、「言(ことば)+堇(すくない)」の会意形声。言葉を少なくしてつつしむこと。新字体は謹に変化。
意味 つつしむ(謹む)。かしこまる。「謹慎キンシン」「謹告キンコク」(つつしんでお知らせする)「謹賀キンガ」(つつしんで祝う)
 キン・まみえる  見部
解字 「見(みる)+堇(=謹。つつしむ)」の会意形声。つつしんでお目にかかること。
意味 まみえる(覲える)。諸侯が天子にお目にかかる。あう。「覲礼キンレイ」「朝覲チョウキン」「参覲サンキン
 キン・わずか  イ部
解字 「イ(ひと)+堇(わずか)」の会意形声。堇は飢饉で食べ物が「わずか」の意。その意味をイ偏を付けて表した字。新指定の常用漢字のため旧字と同じ。上部を廿⇒廾に変化させても可。
意味 わずか(僅か)。ほんの少し。「僅少キンショウ」「僅差キンサ
槿 キン・むくげ  木部
解字 「木(き)+堇(わずかの時間)」の会意形声。朝咲いた花が夕方にしぼむ、はかない花をつける木。
意味 むくげ(槿)。木槿とも書く。アオイ科の落葉低木。花は一日でしぼむ。「槿花キンカ」(むくげの花)
 キン・すみれ  艸部
解字 「艸(草)+堇(わずかの時間)」の会意形声だが、堇の上部の廿⇒一に簡略化されている。当初、槿(むくげ)と同じ意味で使われたが、のちムクゲは槿・木槿と書くようになり、スミレに使われるようになった。なぜスミレに使われたかは不明。
意味 (1)むくげ。 (2)すみれ(菫)。スミレ科の多年草。道ばたで春に濃紫色の小さな花を咲かせる野草。「菫色すみれいろ」(濃紫色) (3)とりかぶと。キンポウゲ科の多年草。毒草の一種。
<紫色は常用漢字>

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音符 「弱ジャク」 <飾りのついた柔らかい弓>

2019年03月17日 | 漢字の音符
 ジャク・よわい・よわる・よわまる・よわめる  弓部          

解字 篆文は「弓二つ+彡二つ」の会意。彡は飾りを示す。飾りのついた儀礼用の弓の意。実戦用のものと異なり、弓勢の弱い弓であることから、よわい意となる[字統]。隷書以降、飾りの線が二本の弱になった。
意味 (1)よわい(弱い)。よわめる(弱める)。「弱小ジャクショウ」「胃弱イジャク」 (2)わかい。二十歳。「弱冠ジャッカン」(①男子20歳の異称。②年の若いこと) (3)~より少ない。「一時間弱」

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 弓勢の弱い弓から「よわい」(弱・鰯) 
 弓が「やわらかい」(溺・搦・嫋・蒻)
音の変化  ジャク:弱・搦・蒻  ジョウ:嫋  デキ:溺  いわし:鰯

よわい
<国字> いわし  魚部
解字 「魚(さかな)+弱(よわい)」の会意。陸にあげるとすぐ弱って腐りやすい魚であるイワシ。「いわし」の名も「よわし」から転じたといわれる。
意味 いわし(鰯)。(=鰮)。ニシン科のマイワシとウルメイワシ、カタクチイワシ科のカタクチイワシの3種を指す。沿岸性の回遊魚で群れで行動する。漁獲量が比較的多く大衆魚とされる。「鰯粕いわしかす」(鰯の油と水分を取って乾かしたもの。肥料になる)「鰯雲いわしぐも」(斑点状や列状に広がる雲。鰯大漁の兆しとされる雲)

やわらかい
 デキ・おぼれる  氵部
解字 「氵(水)+弱(やわらかい)」の会意形声。水におぼれてぐったりとなること。
意味 (1)おぼれる(溺れる)。「溺死デキシ」 (2)いりびたる。「溺愛デキアイ
 ジャク・ダク・からめる  扌部
解字 「扌(手)+弱(やわらかい)」の会意形声。手でやわらかくつかむこと。とる・つかむ意。日本では、捕えて縄でしばる意に使う。
意味 (1)とる。つかむ。「搦管ジャクカン」(筆を執る) (2)[国]からめる(搦める)。捕えてしばりあげる。「搦め手からめて」(①人をからめとる者。②城の裏門を攻める軍勢。③城の裏門⇔大手)
 ジョウ・たおやか  女部
解字 「女(おんな)+弱(やわらかい)」の会意形声。身体が細くやわらかい女。
意味 (1)たおやか(嫋やか)。しなやか。しとやか。「嫋娜ジョウダ」(たおやか。嫋も娜も、しなやか・たおやかの意) (2)つづく。細くうちつづく。「嫋嫋ジョウジョウ」(細くしなやかに続くさま)「余韻嫋嫋ヨインジョウジョウ」(音の響きが細くながく続く)
 ジャク・ニャク  艸部
解字 「艸(くさ)+弱(やわらかい)」の会意形声。やわらかい食品であるコンニャクの原料となる植物の意で、蒟蒻コンニャクに用いられる。
意味 (1)「蒟蒻コンニャク・クジャク」に用いられる字。蒟蒻とは、サトイモ科の多年生作物。地下茎は蒟蒻芋コンニャクいもと呼ばれ、普通3年目のものを収穫し食用とする。蒟蒻芋を粉末にし水を加えてこね、これに石灰乳を加え煮沸し、固めて豆腐のような食品にする。(2)やわらかく若い蒲がま。また、それで織ったむしろ。
<紫色は常用漢字>

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音符 「霍カク」 <にわか・はやい> と 「癨カク」

2019年03月13日 | 漢字の音符
 カク・にわか・はやい  雨部

解字 甲骨文字第1字は「雨(あめ)+隹(とり)」、第2字は雨の下に隹を3つにしたかたち。にわか雨で隹が慌てて飛び去るさま[甲骨文字辞典]。金文は隹3つ、篆文は隹2つのかたちであり、甲骨文からの流れをみると、隹の群れがにわか雨で飛び立つさまを表したと思われる。現代字は隹が一つになった霍カク(会意)になり、甲骨文字第1字と同じかたち。
意味 (1)にわか(霍か)・はやい(霍い)・すみやか。状態が急に変化するさま。「霍然カクゼン」(にわかに。はやいさま)「霍閃カクセン」(いなずま。いなびかり)「霍霍カクカク」(①ぴかぴかとひらめくさま。②わっわっと叫ぶさま)「霍公鳥ほととぎす」とは、ホトトギス科の鳥。 =杜鵑トケン(ほととぎす)
(2)癨カクに通じた意味。「霍乱カクラン」(①夏の急性の病気。②急におそう日射病)「鬼の霍乱」(普段はとても丈夫な人が、珍しく病気になることのたとえ)

イメージ 
 「にわか」
(霍・癨)
音の変化 カク:霍・癨

にわか
 カク  疒部
解字 「疒(やまい)+霍(にわか)」の会意形声。にわかに起こる病い。
意味 急におこる病気。急性の下痢。「癨乱カクラン」(炎暑のころ暑さに当たってはげしく吐く病気の総称)


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音符「辱ジョク」<石の農具でたがやす>と「褥ジョク」「縟ジョク」

2019年03月05日 | 漢字の音符
 ジョク・ニク・はずかしめる  寸部    

解字 「寸(て)+辰(石の農具)」 の会意。辰シンは石の農具。辱は、石の農具を用いて手で土地を耕すかたちで、くさぎる意。しかし、本来の意味でなく、発音のジョク・ニクから忸ジク・ニク(はじる)に通じ、はじる・はずかしめる意に使われる。
参考音符 音符「辰シン」 (石の農具)
意味 (1)はずかしめる(辱める)。はじる。「屈辱クツジョク」(屈服させられてはずかしめをうける)「恥辱チジョク」(恥も辱も、はずかしめの意)「雪辱セツジョク」(はずかしめをすすぐこと。雪はすすぐ意)「忍辱ニンニク」([仏]もろもろの侮辱を忍んで恨まないこと) (2)かたじけない(辱い)。「辱知ジョクチ」(かたじけなくも知り合いである。自分がその人と知り合いであることを、へりくだって言う)「辱友ジョクユウ」(友人に対して謙遜した言い方)

イメージ 
 「仮借カシャ(当て字)」
(辱)
 「石の農具でくさぎる」(耨・蓐・褥・縟・溽)
音の変化  ジョク:辱・蓐・褥・縟・溽  ドウ:耨

石の農具でくさぎる
 ドウ  耒部
解字 「耒(スキ)+辱(石の農具でくさぎる)」の会意。辱ジョクは、石の農具でくさぎる意であるが、はずかしめる意となったので、耒(スキ)をつけて本来の意味を表した。
意味 くさぎる。すき。くわ。「耨耕ドウコウ」(手スキで田畑の雑草をくさぎり耕すこと)
 ジョク・しとね  艸部
解字 「艸(草)+辱(石の農具でくさぎる)」の会意形声。くさぎった草の意で、古くは軍隊が野営のとき草を切ってその上に寝たので敷き草の意。のち、草で編んだ敷物をいう。
意味 しとね(蓐)。草で編んだ敷物。むしろ。寝るとき下に敷く物。ねどこ。「蓐食ジョクショク」(朝早く出発する際に寝床で食事をとること)
 ジョク・しとね  衣部
解字 「衤(ぬの)+辱(=蓐。しとね)」の会意形声。ぬのでおおった蓐(しとね)の意で、ふとんの類をいう。
意味 しとね(褥)。やわらかいしきもの。ふとん。「産褥サンジョク」(出産のときに産婦の用いるねどこ)「褥婦ジョクフ」(産褥にいる女性。産婦)「褥医ジョクイ」(産婦人科医)「褥瘡ジョクソウ」(床ずれ)※ふとんが一般化する以前は草のしとねが使われたため、「褥医⇒蓐医」「褥瘡⇒蓐瘡」とも書かれる。
 ジョク  糸部
解字 「糸(色糸)+辱(=褥。布のふとん)」の会意形声。布のふとんに色糸で模様が刺繍してあること。いろかざり・あや、の意。また、模様が込入りすぎていること。
意味 (1)いろどり。あや。「縟采ジョクサイ」(美しく飾りたてる)「縟繍ジョクシュウ」(美しいぬいとり)「縟麗ジョクレイ」(飾りたてる) (2)模様が込入っているさま。「縟礼ジョクレイ」(込入った礼儀作法)「繁文縟礼ハンブンジョクレイ」(形式や手続きが複雑で面倒なこと) (3)(褥ジョクと通じ)しとね。ふとん。
 ジョク  氵部
解字 「氵(湿気)+辱(石の農具でくさぎる)」の会意形声。農具でくさぎるころ(雑草が繁茂する時期)の湿気の高いさま。
意味 湿度が高くてじっとりする。蒸し暑い。「溽暑ジョクショ」(蒸し暑いこと。陰暦6月の異称。夏の季語)
<紫色は常用漢字>

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音符「弋ヨク」<いぐるみ・くい>「杙ヨク」と「式シキ」「試シ」「弑シ」「拭ショク」「軾ショク」

2019年03月04日 | 漢字の音符
 ヨク・いぐるみ  弋部しきがまえ    

 
弋射の図(ネット検索画面から。原サイトなし)
解字 甲骨文はクイの象形であり杙くいの原字。原義での用例はなく、地名またはその長として用いられている[甲骨文字辞典]。弋は甲骨文から戈(ほこ)の字と似た形であり、現代字も戈からノを取ったかたちだが、戈との関連はないようだ。この字は、のち「いぐるみ」の意に仮借カシャ(当て字)された。「いぐるみ」とは、参考甲骨文字・雉(きじ)の矢の部分に紐がまきついている形が示しているように、紐をつけた矢のこと。弓でこの矢を鳥に向かって射て、矢の紐を鳥にからませて獲る猟に用いられた。この猟を描いた弋射図をみると、射手が鳥の群れに向かって弋矢ヨクヤを射て紐を鳥にからめる様子が描かれている。紐の末端にまるい重りのようなものが見え、紐が鳥に触れると重りが反動で鳥に巻きついたと思われる。
意味 (1)いぐるみ(弋)。鳥をとるために弋矢に紐をつないだもの。また、それで鳥を射る方法。「弋射ヨクシャ」「遊弋ユウヨク」(①いぐるみで鳥をとる遊猟。②艦船が海上を往復して警戒する) (2)とる。狩りをする。「弋猟ヨクリョウ」(狩りをする。弋は鳥の狩り、猟は獣の狩り) (3)くい。地中に打ち込むくい。

イメージ 
 「仮借(いぐるみ)」(弋)
 「くい」(杙)
 「同体異字」(鳶)
音の変化 ヨク:弋・杙  エン:鳶

く い
 ヨク・くい  木部
解字 「木+弋(くい)」の会意形声。弋ヨクは元々くいの意だが、いぐるみの意となったので、これに木をつけて元の木のくいを表す。
意味 くい(杙)。牛などをつなぐくい(=弋)。「杙屋ヨクオク」(水上の家)


同体異字 
 エン・とび  鳥部

解字 甲骨文は、「戈(ほこ)+隹(とり)」の会意。武器の象形である戈(ほこ)と隹(とり)から成り、猛禽類を表している。武器を用いたのは猛々しさの象徴であろう[甲骨文字辞典]。金文は頭に戈の上半部をのせた鳥を描く。現代字は、戈⇒弋に変化した鳶になった。狩りをする猛禽類の鳥の意で、日本で「とび」を表す。発音のエンは円エン(まるい)に通じ、空をまるく円を描いて飛翔する鳥の意。
意味 (1)とび(鳶)。とんび。タカ科の猛禽。くちばしが鋭く曲がる。ほとんど羽ばたかずに尾羽で巧みに舵をとり、上昇気流に乗って輪を描きながら上空へ舞い上がり、餌を見つけると急降下して捕える。 (2)たこ。「風鳶フウエン」(鳶のかたちをした凧。いかのぼり) (3)とびいろ(鳶色)。とびの羽に似た茶褐色。 (4)[国]とび(鳶)。①鳶口とびくちの略。鳶のくちばしのような鉄のかぎをつけた消防用具。②消防夫。③高い足場で仕事をする工事に携わる者。「鳶職とびショク



    シキ < だんどり・順序 >
 シキ・ショク  弋部                 

解字 「工(工具)+弋」の会意。弋ヨクは、杙(くい)。式は、工具を用いてクイを順番に設置して式場を整えること。ある一定の順序で行なって完成させることをいい、型やきまりにはめる意となる。
意味 (1)のり。きまり。やりかた。「形式ケイシキ」「様式ヨウシキ」 (2)儀式。一定の作法で行う行事。「式典シキテン」「卒業式」 (3)敬礼する。 (4)計算の順序や方法を示したもの。「数式スウシキ

イメージ 
 「だんどり・順序」
(式・試・拭・弑・軾)
音の変化  シキ:式  シ:試・弑  ショク:拭・軾

だんどり・順序
 シ・こころみる・ためす  言部
解字 「言(いう)+式(だんどり・順序)」の会意形声。だんどりや順序を口で伝え、仕事のやり方を見ること。
意味 (1)ためす(試す)。こころみる。「試作シサク」「試合シアイ」 (2)ためして評価する。「試験シケン」「試問シモン
 ショク・ぬぐう・ふく  扌部
解字 「扌(手)+式(だんどり・順序)」の形声。だんどりよく手を動かして、きれいにしてゆくこと。ぬぐう・ふく意となる。
意味 ぬぐう(拭う)。ふく(拭く)。きよめる。「払拭フッショク」(すっかり取り除く)「拭目ショクモク」(目をぬぐって見る)「拭浄ショクジョウ」(ぬぐい清める)
 シ・シイ  弋部
解字 「杀(ころす)+式(順序)」の会意形声。相手を殺して順序を変えること。
意味 (1)シイする。臣が君主を、子が親を殺すこと。「弑逆シギャク・シイギャク」(=弑虐シギャク・シイギャク) (2)ころす。
 ショク・しきみ  車部
 
軾のついた戦車(検索サイトから)
解字 「車(くるま)+式(儀式)」の会意形声。儀式のとき戦車に乗った者が敬礼をするため立ち上がるとき支えにする車箱の横木。
意味 (1)しきみ(軾)。車箱の横木。これにつかまって車上から敬礼をする。「拠軾キョショク」(軾に拠る。横木に手をついて寄りかかる)「憑軾ヒョウショク」(軾に憑(よ)る) (2)しょくする。車上の礼。敬意をあらわす。「軾閭ショクリョ」(賢者の居る里門に敬意を表する)「伏軾フクショク」(軾によって伏す。車上で敬礼をする) (3)人名。「蘇軾ソショク」(北宋時代の詩人・書家。蘇東坡ソトウバともいう。弟は蘇轍ソテツといい、兄弟で車偏の名がついている。)
<紫色は常用漢字>

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音符 「孛ハイ・ボツ」 <ふくらむ> と 「勃ボツ」

2019年03月01日 | 漢字の音符
 ハイ・ボツ  子部

解字 篆文は、花のめしべの子房が盛んに満ちふくらむさまの象形。上の屮が、めしべの先を表し、子はタネ、両側の曲線が子房のふくらむさまを表す。現代字は、屮⇒十、両側の曲線⇒ 冖に変化した孛になった。単独では、星の彗星(ほうきぼし)の意に仮借カシャ(当て字)される。孛を音符に含む字は、「ふくらむ」イメージを持つ。
意味 (1)むっとする。草木の勢いがよい。(2)ほうきぼし。彗星スイセイ。「孛星ハイセイ」(ほうきぼし)「孛彗ハイスイ」(孛も彗も、ほうきぼしの意)

イメージ 
 「仮借カシャ」
(孛)  
 「ふくらむ」(勃・渤・悖)
音の変化  ハイ:孛・悖  ボツ:勃・渤

ふくらむ
 ボツ・にわかに 力部
解字 「力(いきおい)+孛(ふくらむ)」の会意形声。勢いよくふくらむこと。にわかにふくらむ意で、勢いが盛んなさまをいう。
意味 (1)にわか(勃かに)。にわかに起こる。「勃発ボッパツ」「勃起ボッキ」 (2)勢いが盛んなさま。「勃興ボッコウ」  
覚え方 と()わ()こ()の、ちから()で、(にわ)かにボッコウ
 ボツ  氵部
解字 「氵(みず)+勃(勢いが盛ん)」の会意形声。水の勢いが盛んで波打つこと。
意味 (1)わきたつ。波うつ。 (2)「渤海ボッカイ」とは、①海の名。中国の山東・遼東半島に囲まれた海。②国の名。中国東北部から朝鮮半島北部にかけてあった国。
 渤海
 ハイ・ボツ  忄部
解字 「忄(こころ)+孛(=勃。勢いが盛ん)」の会意形声。勢いが盛んでおごりたかぶり、まわりに逆らって、そむくこと。
意味 もとる(悖る)。そむく。さからう。「悖戻ハイレイ」(さからいもとる。悖も戻も、もとる意)「悖逆ハイギャク」(そむきさからう)「悖礼ハイレイ」(礼法にそむく)「悖乱ハイラン」(道理にもとり正道を乱す)「悖出悖入ハイシュツハイニュウ」(悖りて出づれば悖りて入る。道理に反した法令を出せば人民の恨みの声となって入ってくる)
<紫色は常用漢字>

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