漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「睪エキ」 <次々とつらなる> と 「駅エキ」「釈シャク」「択タク」「沢タク」「訳ヤク」

2021年07月29日 | 漢字の音符
 エキ・タク・ト  罒部  

解字 金文と篆文は「罒(め)+㚔ジョウ」の会意。㚔ジョウは甲骨文字で手枷(てかせ)となる字で、執シツでは甲骨文字が手枷の形になっている。楷書から㚔ジョウ⇒幸コウになった。㚔ジョウは手枷をはめられた捕虜の意味もあり、睪は多くの捕虜を見張っているさまと思われる。したがってイメージは、捕虜が繋がれて「次々とつらなる」イメージがある。新字体の音符になるとき睪⇒尺になる。
意味 (1)うかがう。うかがい見る。(2)さわ=沢。

イメージ
 「次々とつらなる」
(駅・沢・釈・懌・繹・択・訳)
 「形声文字」(鐸)
音の変化  エキ:駅・懌・繹  シャク:釈  タク:沢・鐸・択  ヤク:訳

次々とつらなる
 エキ・うまや  馬部
解字 旧字は驛で「馬(うま)+睪(次々とつらなる)」の会意形声。乗り換えのための馬を置いた「うまや」が次々とつらなること。馬を置いた中継所をいう。新字体は駅に変化。
意味 (1)うまや(駅)。馬を置いた中継所。「駅馬エキバ」(駅に用意し官用に使う馬)「駅鈴エキレイ」(公務出張の折、駅馬を使用できる印の鈴)「駅伝エキデン」(駅から駅へと人や馬が交代しながら伝えてゆくこと) (2)鉄道の停車場。「駅舎エキシャ」「駅弁エキベン
 タク・さわ  氵部   
解字 旧字は澤で「氵(水)+睪(次々とつらなる)」の会意形声。水たまりと草地がつながる湿地。また、よどみが連なる山間の渓谷。水分がたくさんあるところから、うるおう・うるおす意ともなる。新字体は沢に変化。
意味 (1)さわ(沢)。①水たまりと草地がつながる湿地。「沼沢ショウタク」(沼と沢)②水のたまっているところ。「湖沢コタク」③[日本]よどみが連なる山間の渓谷。「沢登(さわのぼ)り」 (2)うるおい(沢い)。めぐみ。「潤沢ジュンタク」(潤も沢も、うるおう意。また、十分ゆとりがあること)「沢山タクサン」(十分あること)「沢雨タクウ」(めぐみの雨)「恩沢オンタク」(おかげ) (3)つや。ひかり。「光沢コウタク」(なめらかな面が光を受けて輝く) (4)姓。「沢田・澤田さわだ」「沢木・澤木さわき」「成沢・成澤なるさわ」「寺沢・寺澤てらさわ」ほか、非常に多い。
 エキ  糸部
解字 「糸(いと)+睪(次々とつらなる)」の会意形声。糸がもつれずに次々と引き出されること。
意味 (1)引く。糸を引き出す。ぬく。 (2)つらなる。つらなりつづく。「絡繹ラクエキ」(絶え間なく続くこと)「繹騒エキソウ」(さわぎが続く)(3)のべる。陳述する。「演繹エンエキ」(①一つの事柄から他の事柄に押し広めて述べる。② deduction(推論の結果)の訳語。前提を認めるなら結論も認めざるをえないもの。数学における証明などをいう)
 シャク・セキ・とく・ゆるす・ぬぐ  釆部  
解字 旧字は釋で「釆ハン(分ける)+睪(次々とつらなる)」の会意。釆は、けものの指の分かれた形の象形で、分ける意。釈は次々とつらなっているものを分けて解き放つこと。解く意となる。転じて、解き明かす意ともなる。新字体は釈に変化。
意味 (1)ときはなつ。ほどく。ゆるす(釈す)。「釈放シャクホウ」「保釈ホシャク」 (2)とく(釈く)。ときあかす。「解釈カイシャク」「注釈チュウシャク」 (3)言い訳をする。「釈明シャクメイ」 (4)薄める。「希釈キシャク」 (5)すてる(釈てる)。ぬぐ。「釈甲シャクコウ」(よろいをぬぐ。転じて戦争をやめる)「釈褐セッカツ」(粗末な褐布の衣服をぬぎ、絹の官服を着る。はじめて役人になる) (6)仏や仏教を表わす語。「釈迦シャカ」「釈門シャクモン
 エキ・よろこぶ  忄部
解字 「忄(こころ)+睪(=釋・釈の略。ときはなつ)」の会意形声。心がときはなたれて感じるよろこび。
意味 よろこぶ(懌ぶ)。たのしむ。「欣懌キンエキ」(欣も懌も、よろこぶ意)「懌悦エキエツ」(懌も悦も、よろこぶ意)
 タク・えらぶ  扌部   
解字 旧字は擇で「扌(て)+睪(次々とつらなる)」の会意形声。つらなる中から手で選び出すこと。新字体は択に変化。
意味 えらぶ(択ぶ)。えらびとる。「選択センタク」「択一タクイツ」(二つ以上の中から一つを選ぶ)「採択サイタク」(えらびとる)
 ヤク・わけ  言部  
解字 旧字は譯で「言(ことば)+睪(=擇・択。えらぶ)」の会意形声。いろんな言葉から最も適当なものを選んで異民族の言葉を通訳すること。新字体は訳に変化。
意味 (1)やくす(訳す)。「翻訳ホンヤク」「通訳ツウヤク」 (2)訳したもの。「英訳エイヤク」 (3)[国]わけ(訳)。意味。ゆえ。いわれ。

形声文字
 タク  金部

解字 金文は「金(金属)+睪の古形(タク)+両手」の形声。タクという名の金属製の手で振ってならす鐘(かね)をいう。振って鳴らすので中に舌ゼツがある。篆文以降、「金(金属)+睪(タク)」の形成字となった。

意味 (1)舌ゼツで鳴らす鐘(かね)。ベル。柄を振ってならしたり、舌からのびる紐を引いて鳴らす。「金鐸キンタク」(舌が金属でできた鈴)「木鐸ボクタク」(①舌が木でできた鈴。法令を人民に示すとき鳴らした。②世の人を教え導く人) (2)祭礼の大鈴。「銅鐸ドウタク」(青銅製の釣鐘形の舌のある楽器。古代、西日本で祭器として使われた)
<紫色は常用漢字>

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音符「襄ジョウ」<豊かな耕作地> と「壌ジョウ」「嬢ジョウ」「譲ジョウ」「醸ジョウ」

2021年07月25日 | 漢字の音符
  襄ジョウの秦系文字を見つけました。
「漢字研究ブログ」という匿名のサイトから2018年に「襄ジョウ」の内容についてご批判をいただいた。内容の主な点は、①甲骨文字の解字がおかしい。②金文から篆文への変化につながりがないのは過去の研究成果を無視している。③篆文の解字もおかしい。という3点である。このサイトを拝見すると、古文字の研究者の方と思われ、専門家の方からご指摘をいただき大変感謝している。私はとりあえずご指摘に対し感謝するとともに、私の金文知識が未熟なので参考文献を教えていただきたいとお願いしたところ、多くの参考文献を教えていただいた。
 それから3年経つが、まだ内容を更新できていない。その理由の一つは、ご教示いただいた金文から篆文への移行過程の字形が、自分ではっきり納得できるものでなかったためである。その間、「襄」の字形はいつも気にかけて調べてはいたが、最近のネットに今まで見たことのない「秦系簡牘」とされる字形がアップされていることが分った。形を見ると明らかに篆文(説文解字)の前の段階の字形である。この字形を使えば金文から篆文への流れがうまく説明できるのではと思い、今回、3年ぶりに書き直すことにした。批評いただいた「漢字研究ブログ」に感謝いたします。

上の2点がその字形である。(https://www.zdic.net/zd/zx/qx/襄)出典は睡.日甲28、睡.35、とあることから、睡虎地秦墓竹簡[秦の官吏を務めていた喜という人物の墓から発見された竹簡]である。今回、この字形を加えて変遷図を作成した。

 ジョウ・ショウ  衣部

 甲骨文は皿の略体を上にのせた人の形。意味は地名で、そこは田猟地(狩猟地)だという[甲骨文字辞典]。皿は、おそらく窪んだ地形を意味し、これに人がついて窪地にすむ人の意であろう。窪地に集まる動物を狩猟した地だと思われる。「漢字研究ブログ」で、この説を批判されたが現状では撤回するつもりはない。というのは批判されただけで、対案を示していただいていないからだ。皿人については盆地という言葉が適切だと考える。盆というのは発音が分ブン⇒ボンに変化した皿状の器物であり、盆地というのは盆のような地形という意味だ。私は皿人は盆地にすむ人々と考えたい。
 金文は、この盆地(皿人)にいろいろな要素が加わる。金文第1字は皿人の左に土がつき、右に攴ボクがつく。攴は手に道具をもち打つ意だから、この土地が道具で耕され始めたのである。金文第2字は、上下に分離した衣のなかに、左から土、皿人(皿上の左右がふくらむ)、屮(草の芽生え)、そして皿の上に小さな〇(意味不明)がつく。[説文解字]は後の篆文で衣の意味について「漢の令に、衣を解きて耕す。これを襄という」とする。まず大事なのは[説文解字]が襄の字形を「耕す」と認めていることだ。つまり、襄は耕作する大地なのである。しかし衣は、着ている衣を脱いでこの大地を耕す意味なのだろうか。この点について誰も触れることがないが、「衣は袋を意味する」と私は考える。つまり、豊穣の大地で実った穀物を入れる袋と解釈したい。なお、金文の意味は仮借カシャ(当て字)で、①人名、②輔助(たすける)となっている。
 次の「秦系簡牘」で、金文の字形が引き継がれていることが判明した。つまり、衣に挟まれた字形は、皿の左右に描かれた膨らみが口口となって独立し、皿人の人は左の口の下に付き、土はその下にある。金文第2字の屮は又(手)2つに変化した。つまり、金文第2字の意味不明の〇が消えて屮は又(手)2つに変っただけで、基本的な要素は引き継がれているのである。
 篆文(説文解字)に至り、人の字形が逆S字状になり土が工に変化して逆Sに入り込み、又(手)2つが×2つになって残っている。つまり、金文の字形が多少の変化を伴いながら篆文に引き継がれていたのである。この字形を許慎が「衣を解きて耕す。これを襄という」と言ったのは、ある意味で慧眼といえよう。なぜなら彼は金文を知らなかったからである。
 篆文を引き継いだ後世の人々は、この不思議な字形が分らなかったに違いない。そして衣の中を「口口+𠀎」に変えてしまった。こうして出来上がった襄は、衣に覆われたジョウという発音の奇妙な字になってしまった。だから現在の襄は、その成り立ちを示すことなく、ジョウ・ショウという発音から上ジョウ(うえ)・丞ジョウ(たすける)・乗ジョウ(のる)・成ジョウ(なる)・陞ショウ(のぼる)などの類似音の影響を受けた意味が成立したと思われる。新字体で用いられるとき襄の口口がハに変化した㐮になる。
意味 (1)のぼる(襄る)。「襄陵ジョウリョウ」(丘にのぼる) (2)あがる(襄る)。あげる(襄る)。「交竜、首を襄(あげ)る」 (3)たかい。「襄岸ジョウガン」 (4)なす(襄す)。「襄事ジョウジ」 (5)たすける(襄ける)。「襄助ジョウジョ」 (6)はらう(襄う)。=攘。 (7)地名。「襄陽ジョウヨウ」(湖北省北部の県名) (8)人名「襄公ジョウコウ」(春秋時代の宋の君主)

イメージ  
 仮借カシャ(当て字)「あがる・のぼる」(襄・驤)
 金文の字形から「ゆたかな耕作地」(壌・穣・嬢)
 作物の実りを願い災厄を「はらう」(禳・攘・譲)
 収穫して「袋にいれた穀物」(醸・嚢・瓤・曩
 
音の変化  ジョウ:襄・驤・壌・穣・嬢・醸・禳・攘・譲・  ノウ:

仮借カシャ・あがる
 ジョウ・あがる  馬部
解字 「馬(うま)+襄(あがる)」の会意形声。馬が首をあげること。転じて、あがる・のぼる意ともなる。
意味 (1)あがる(驤がる)。馬が首をあげる。「驤首ジョウシュ」(馬が首をあげ、疾走の姿勢をしめす) (2)のぼる。あがる。おどりあがる。「騰驤トウジョウ」(とびあがる。騰も驤も、あがる意)「竜驤虎視リュウジョウコシ」(竜が天にのぼり虎がにらみ視る意。威勢が盛んで天下を睥睨(へいげい)するさま)

ゆたかな耕作地
 ジョウ・つち  土部
解字 旧字は壤で 「土(つち)+襄(豊かな耕作地)」の会意形声。金文は豊かな耕作地を意味し、この意味を土をつけて強調した字。新字体は壌に変化。
意味 (1)つち(壌)。耕作に適した土地。「土壌ドジョウ」(作物を育てる土地)「沃壌ヨクジョウ」(肥沃な土地)(2)大地。国土。「壌土ジョウド」(①土地。②領土)=壌地。
 ジョウ・みのる   禾部
解字 旧字は穰で、「禾(こくもつ)+襄(豊かな耕作地)」の会意形声。豊かな耕作地に実った穀物。新字体は穣に変化。
意味 みのる(穣る)。ゆたか。ゆたかにみのる。「豊穣ホウジョウ」「穣穣ジョウジョウ」(穀物が豊かに実るさま)
 ジョウ・むすめ  女部
解字 旧字は孃で 「女(おんな)+襄(豊かな耕作地)」 の会意形声。母なる大地の意。豊穣の女神であり、転じて母親の意。のち娘にも使われるようになった。新字体は嬢に変化。
意味 (1)母親。「嬢嬢ジョウジョウ」(母親) (2)むすめ(嬢)。=娘。おとめ。(上方で)いとはん(嬢はん)。未婚の女性。「令嬢レイジョウ」「愛嬢アイジョウ」 

はらう
 ジョウ  示部
解字 「示(神)+襄(はらう)」の会意形声。神に災厄などを、はらい除くよう祈ること。
意味 はらう(禳う)。おはらい。神に祈り災厄をはらう。「禳祷ジョウトウ」(祈ってはらう)「禳疫ジョウエキ」(疫病をおはらいする)
 ジョウ・はらう  扌部
解字 「扌(手)+襄(はらう)」の会意形声。手ではらうこと。
意味 はらう(攘う)。追い払う。しりぞける。「攘夷ジョウイ」(異民族を追い払う)「攘災ジョウサイ」(災いをはらいのぞく)「攘斥ジョウセキ」(はらいしりぞける)
 ジョウ・ゆずる  言部
解字 旧字は讓で 「言(ことば)+襄(はらう)」の会意形声。言葉ではらいよけるが原義。言葉を出して相手にゆずったり、言葉でへりくだって身にふりかかる災いをさけること。新字体は譲に変化。
意味 (1)ゆずる(譲る)「譲歩ジョウホ」(道の歩みを譲って先に行かせる)「譲位ジョウイ」(位を譲る) (2)へりくだる。「謙譲ケンジョウ」(相手をたてる)

袋にいれた穀物
 ジョウ・かもす  酉部
解字 旧字は釀で、「酉(さけつぼ)+襄(袋にいれた穀物)」 の会意形声。酒つぼの中に穀物を入れ酵母をまぜこんで、発酵させること。新字体は醸に変化。
意味 かもす(醸す)。発酵させる。「醸造ジョウゾウ」「醸成ジョウセイ」(発酵してゆくこと)「吟醸ギンジョウ」(吟味した原料で念入りに醸造する)
 ジョウ  瓜部
解字 「瓜(うり)+襄(種をいれる袋)」の会意形声。ここで襄は種をいれる袋の意。瓜の種を包んでいるふくろの部分。転じて、ミカンの房のふくろもいう。
意味 (1)うりわた。瓜の実の中の種子を包んでいる部分。(2)みかんの内の房の袋。「瓤嚢ジョウノウ」(柑橘類の果実の中の房の袋)「砂サジョウ」(瓤嚢(じょうのう)の中に詰まっている、果汁を含んだ小さな果肉の粒のこと)
嚢[囊] ノウ・ドウ・ふくろ  口部


  上段は嚢、下段は橐タク
解字 篆文は「タクの略体(ふくろ)+の略体(穀物をいれるふくろ)」の会意。タクの甲骨文字は、袋の上下を結んだ形。篆文で、この字の発音をしめす石タク(石セキに拓タクの発音がある)を囗で囲んで付け加えた。は、篆文での石の替わりにの「口口逆S工爻」を詰め込んだ形になったが、旧字では、の上部にの下部を合わせた形になり、穀物など中にいろんなものを入れ込むふくろの意。現代字は新字体に準じたが使われる。
意味 ふくろ()。「ノウチュウ」(①ふくろの中。②財布)「知チノウ」(知恵のありったけ。知恵ぶくろ)「氷ヒョウノウ」(氷を入れて患部を冷やすふくろ)「背ハイノウ」(背負いカバン)「土ドノウ」(土を入れたふくろ)
 ノウ・ドウ・さき・さきに  日部
解字 「日(ひ)+襄(ノウ)」の形声。ノウは嚢ノウ・ドウ(ふくろ)に通じ、太陽がふくろに入っている状態で見えないこと。すなわち日の出の前の意で、さきに(以前に)の意味となる。比較的近いとき、遠いときのいずれにも用いる。
意味 (1)さき()。さきに(に)。以前に。「ノウジツ」(昔。以前)「さきに」「ノウジ」(さきごろ)「ノウソ」(先祖。祖先)
<紫色は常用漢字>

参考音符 音符「タク」へ

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参考までに、これまでの説明(2018.2.28)を残しておきます。


 音符「襄ジョウ」 <豊かな耕作地>

 私はこれまで襄の金文の字形を解釈できず、篆文だけで解字していたが、このたび仮説ではあるが字形解釈ができたので、甲骨文から金文・篆文を含む字形の流れをたどってみたい。

襄[㐮]ジョウ  衣部

甲骨文は窪地、金文は豊かな耕地
 甲骨文は皿の略体を上にのせた人の形。意味は地名で、そこは田猟地(狩猟地)だという[甲骨文字辞典]。皿は、おそらく窪んだ地形を意味し、これに人がついて窪地にすむ人の意であろう。窪地に集まる動物を狩猟した地だと思われる。金文第1字になると、この田猟地は姿を変える。皿人の左に土がつき、右に攴ボクがつく。攴は手に道具をもち打つ意だから、ここの土地が道具で耕され始めたのである。金文第2字は、上下に分離した衣のなかに、左から土、皿人(皿上の左右がふくらむ)、又(手)、そして皿の上に小さな〇(意味不明)がつく。衣は袋で、この耕作地にまく種をいれる袋を示したものであろう。この地は土壌の肥えた豊穣の地なのである。しかし、金文の意味は仮借カシャ(当て字)で、①人名、②輔助(たすける)となっている。
篆文は呪いで祓う
 篆文は全く様相がことなる。金文との共通項は衣だけ。衣の中は上から、口二つ・逆S字の中に工印(呪具)、その右に爻(まじわる)がある。S印は寿の甲骨文では田のあぜ道を意味した。これらを総合すると、田のあぜ道で呪具の工をもち、口々に呪文をとなえ、まじわらせ(爻)、何かを祓う意であろう。旧字は衣の中が、「口口+𠀎」となったとなり、新字体で用いられるときの口口が八に変化したになる。 しかし意味は、発音の上ジョウに通じて、あがる・のぼる。金文から引き継ぐ、たすける。それに、地名・人名である。金文の「豊かな耕地」、篆文の「はらう」、それに衣が意味する「袋」はイメージで出てくる。
意味 (1)あがる。のぼる。「襄陵ジョウリョウ」(丘陵にのぼる)「襄岸ジョウガン」(高い岸) (2)たすける。「襄賛ジョウサン」(賛助) (3)地名。人名。「襄陽ジョウヨウ」(湖北省の地名。要害の地)「襄公ジョウコウ」(春秋時代の王) (4)はらう(=攘)。除く。

イメージ  
 「仮借カシャ・あがる」
(襄・驤)
 金文の字形から「ゆたかな耕作地」(壌・穣・嬢・醸)
 篆文の字形から「はらう」(禳・攘・譲)
 豊かな耕作地を包む衣から「種をいれるふくろ」嚢・瓤
音の変化  ジョウ:襄・驤・壌・穣・嬢・醸・禳・攘・譲・  ノウ:

仮借カシャ・あがる
 ジョウ・あがる  馬部
解字 「馬(うま)+襄(あがる)」の会意形声。馬が首をあげること。転じて、あがる・のぼる意ともなる。
意味 (1)あがる(驤がる)。馬が首をあげる。「驤首ジョウシュ」(馬が首をあげ、疾走の姿勢をしめす) (2)のぼる。あがる。おどりあがる。「騰驤トウジョウ」(とびあがる。騰も驤も、あがる意)「竜驤虎視リュウジョウコシ」(竜が天にのぼり虎がにらみ視る意。威勢が盛んで天下を睥睨(へいげい)するさま)

ゆたかな耕作地
 ジョウ・つち  土部
解字 旧字は壤で 「土(つち)+襄(豊かな耕作地)」の会意形声。金文は豊かな耕作地を意味し、この意味を土をつけて強調した字。新字体は壌に変化。
意味 (1)つち(壌)。耕作に適した土地。「土壌ドジョウ」(作物を育てる土地)「沃壌ヨクジョウ」(肥沃な土地)(2)大地。国土。「壌土ジョウド」(①土地。②領土)=壌地。
 ジョウ・みのる   禾部
解字 旧字は穰で、「禾(こくもつ)+襄(豊かな耕作地)」の会意形声。豊かな耕作地に実った穀物。新字体は穣に変化。
意味 みのる(穣る)。ゆたか。ゆたかにみのる。「豊穣ホウジョウ」「穣穣ジョウジョウ」(穀物が豊かに実るさま)
 ジョウ・むすめ  女部
解字 旧字は孃で 「女(おんな)+襄(=穣。ゆたかな)」 の会意形声。心も体もゆたかな女性。本来は母親を指したが、のち娘にも使われるようになった。新字体は嬢に変化。
意味 (1)むすめ(嬢)。おとめ。(上方で)いとはん(嬢はん)。未婚の女性。「令嬢レイジョウ」「愛嬢アイジョウ」 (2)母親。「嬢嬢ジョウジョウ」(母親)
 ジョウ・かもす  酉部
解字 旧字は釀で、「酉(さけつぼ)+襄(=穣。ゆたかにみのる)」 の会意形声。酒つぼの中に酵母をまぜこんで、発酵(豊かにみのる)させること。新字体は醸に変化。
意味 かもす(醸す)。発酵させる。「醸造ジョウゾウ」「醸成ジョウセイ」(発酵してゆくこと)「吟醸ギンジョウ」(吟味した原料で念入りに醸造する)

はらう
 ジョウ  示部
解字 「示(神)+襄(はらう)」の会意形声。神に災厄などを、はらい除くよう祈ること。
意味 はらう(禳う)。おはらい。神に祈り災厄をはらう。「禳祷ジョウトウ」(祈ってはらう)「禳疫ジョウエキ」(疫病をおはらいする)
 ジョウ・はらう  扌部
解字 「扌(手)+襄(はらう)」の会意形声。手ではらうこと。
意味 はらう(攘う)。追い払う。しりぞける。「攘夷ジョウイ」(異民族を追い払う)「攘災ジョウサイ」(災いをはらいのぞく)「攘斥ジョウセキ」(はらいしりぞける)
 ジョウ・ゆずる  言部
解字 旧字は讓で 「言(ことば)+襄(はらう)」の会意形声。言葉ではらいよけるが原義。言葉を出して相手にゆずったり、言葉でへりくだって身にふりかかる災いをさけること。
意味 (1)ゆずる(譲る)「譲歩ジョウホ」(道の歩みを譲って先に行かせる)「譲位ジョウイ」(位を譲る) (2)へりくだる。「謙譲ケンジョウ」(相手をたてる)

種をいれるふくろ
 ジョウ  瓜部
解字 「瓜(うり)+襄(種をいれる袋)」の会意形声。瓜の種を包んでいるふくろの部分。転じて、ミカンの房のふくろもいう。
意味 (1)うりわた。瓜の実の中の種子を包んでいる部分。(2)みかんの内の房の袋。「瓤嚢ジョウノウ」(柑橘類の果実の中の房の袋)「砂サジョウ」(瓤嚢(じょうのう)の中に詰まっている、果汁を含んだ小さな果肉の粒のこと)
嚢[囊] ノウ・ドウ・ふくろ  口部


  上段は嚢、下段は橐タク
解字 篆文は、「タクの略体(ふくろ)+の略体(種をいれるふくろ)」の会意。タクの甲骨文字は、袋の上下を結んだ形。篆文で、この字の発音をしめす石タク(石セキに拓タクの発音がある)を囗で囲んで付け加えた。は、篆文での石の替わりにの「口口逆S工爻」を詰め込んだ形になったが、旧字では、の上部にの下部を合わせた形になり、種など中にいろんなものを入れ込むふくろの意。現代字は新字体に準じたが使われる。
意味 ふくろ()。「ノウチュウ」(①ふくろの中。②財布)「知チノウ」(知恵のありったけ。知恵ぶくろ)「氷ヒョウノウ」(氷を入れて患部を冷やすふくろ)「背ハイノウ」(背負いカバン)「土ドノウ」(土を入れたふくろ)
<紫色は常用漢字>

参考音符 音符「タク」へ

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音符「巻カン 」 <まく・まるめる> と「圏ケン」「券ケン」「拳ケン」

2021年07月19日 | 漢字の音符
 ケンの金文を見つけました。 
[卷] カン・ケン・まく・まき  卩部 


解字 上の金文3字は最近、ネット検索していて見つけた字である。(https://www.zdic.net/zd/zx/jw/卷)これまでは、下図の篆文が一番古い字だった。私はあわててスクリーンショットを撮って保存した。この字にはそれぞれ出典が明示されている。まず、それぞれの器の名でネット検索した。しかし器は見つかったが、そこに記されている文字に「卷」の字を見つけることはできなかった。最後の手段は「集成1017」などの文献だが、私はこれらの文献を調べる手段をもっていないので確認できていない。
 しかし、これらの文字は非常に魅力的で「卷」の金文にふさわしいと思われる。3字とも、棒状のものを両手でつかんでいる横(or横下)に膝をまげて坐ったひとを描いている。この坐った人は現代字の卩セツに当たる(卩には下部が曲がった形のエンの右辺がある)。上の棒状のものを両手で持つ形は、文字を書いてまるめた竹簡や木簡または帛書を両手でもつ形であると思われる。その横(or横下)に描かれた「坐る人」は、旧字の卷の下部になった字である。上の字が「両手で巻物をもつ」、横下の字は夗(夕(からだ)をまるくするの右辺)から推定すると「まるくなる」意味である。そこで「巻ものを巻く」意味を表している(私見)。
 下図の篆文は「釆ハン・ベン+両手+身をまるめた人」の形になった。釆ハン・ベンは、けものの足の形で足の爪が分れる意であり、これまで私はけものの足につながる皮をまく形であると、苦しい説明をしていた。旧字は「釆ハン+両手」がに変化した卷になったが、察するに、釆の意味がよくわからないためににまとめたのではないか(同じような例に「襄ジョウ」がある)。新字体は卷⇒巻に変化する。
意味 (1)まく(巻く)。とりまく。「巻雲ケンウン」「巻紙まきがみ」 (2)まき(巻)。まきもの。書物。「巻頭カントウ」「万巻マンガン

イメージ 
 「まく・まるめる」
(巻・捲・倦・圏・券・拳・蜷)
 「まわす」(眷)
音の変化  カン:巻  ケン:捲・倦・圏・券・拳・蜷・眷

まく・まるめる
 ケン・まく・まくる・めくる  扌部
解字 「扌(手)+卷(まく)」の会意形声。卷は、まく意だが、さらに手をつけてまく動作(まくる・めくる)を表す。
意味 まく(捲く)。まくる(捲る)。めくる(捲る)。「捲土重来ケンドチョウライ・ジュウライ」(土ぼこりを巻き上げて再び来る。一度敗れた者が再び盛り返してくる)「捲握ケンアク」(まきこみにぎる。しっかりとにぎる) (2)いさむ。意気込む。「捲勇ケンユウ」(気勢が強く勇ましい)
 ケン・うむ  イ部
解字 「イ(ひと)+卷(まるめる)」の会意形声。人が疲れて身体をまるめること。長く物事を続けてあきたり、疲れることをいう。
意味 (1)うむ(倦む)。あきる(倦きる)。あぐむ。「倦厭ケンエン」(あきていやになる) (2)つかれる。「倦怠感ケンタイカン」(疲れてだるい感じ)
  ケン   囗部  
解字 「囗(かこい)+巻(まく)」の会意形声。一定の範囲をとりまくこと。新字体のため巻になる。
意味 (1)限られた区域。範囲。「圏内ケンナイ」「大気圏タイキケン」「文化圏ブンカケン」 (2)まる。まるじるし。「圏点ケンテン」(文字の傍らにつける小さい。. 、などのしるし)
 ケン・てがた  刀部  
解字 「刀(かたな)+巻の略体(まるめる)」の会意形声。巻の上部は巻物を表す。これに同じ約束ごとを左右に書き中央に押印し、刀で二つに分けて割符としたもの。甲乙が片方ずつ保存し、両方を照らし合わせて証拠とする。巻いて保存する割符を券といった。現在は平らな紙になっている。
意味 てがた。わりふ。証書。切符の類。「株券かぶケン」「金券キンケン」「食券ショッケン
 ケン・こぶし  手部
解字 「手(て)+巻の略体(まるめる)」の会意形声。まるめた手。手をまるく握りしめること。
意味 (1)こぶし(拳)。「鉄拳テッケン」(鉄のように固いこぶし)「拳骨ゲンコツ」(きつく握りしめたこぶし。拳固殴ち(げんこうち)が訛った語。拳骨は当て字。<語源由来辞典より>)「握り拳にぎりこぶし」「拳銃ケンジュウ」(片手でにぎって使う小型の銃)「拳握ケンアク」(拳で握る。わずかな物事のたとえ) (2)こぶしをにぎる。「拳拳ケンケン」(①かたく握って捧げ持つ。②つつしむ。ねんごろ。勤める。) (3)こぶしを使った武術。「拳闘ケントウ」(ボクシング)「拳法ケンポウ」(格闘武術。太極拳)
 ケン・にな  虫部
解字 「虫(かい)+卷(まく)」の会意形声。巻き貝をいう。
意味 (1)にな(蜷)。細長い巻貝の総称。カワニナ・ウミニナなどをいう。 (2)虫が体をまげて行くさま。かがまる。まげる。「蜷局ケンキョク」(まがった局面。順調でないさま) (3)姓。「蜷川にながわ」「蜷木になき

まわす
 ケン・かえりみる  目部
解字 「目(め)+卷の略体(まわす)」の会意形声。身体を後ろへまわして見ること。振り返って見る意で、特に思いをよせる・目をかける意となる。また、目をかけている家族・親族をいう。
意味 (1)かえりみる(眷みる)。振り返って見る。「眷想ケンソウ」(かえりみて想う) (2)目をかける。思いをよせる。「眷顧ケンコ」(特別に目をかける。ひいきにする)「眷恋ケンレン」(恋い慕う) (3)みうち。なかま。「眷属ケンゾク=眷族」(①血のつながりがある者。②目をかけている者)
<紫色は常用漢字>

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音符「八ハチ」<やっつ> と「分ブン」「粉フン」「紛フン」「雰フン」「頒ハン」「貧ヒン」「盆ボン」

2021年07月10日 | 漢字の音符
 ハチ・や・やつ・やっつ・よう  八部

解字 左右二つに分けたことを表す指事文字。仮借カシャ(当て字)して数字の八に当てる。刀をつけて分(わける)となるので分の原字ともいえる。八は部首となる。
意味 (1)やっつ(八つ)。数の名。やたび。はちばんめ。「八度ハチド」「八番目ハチバンメ」「八景ハッケイ」「八日ようか」 (2)多くの。数の多いさま。「八重やえ」「八つ裂き」
参考 八は、部首「八はち」になる。八の意味を表すのでなく、下部が八の形をしている漢字を便宜的に分類しているにすぎない。主な字は以下のとおり。
 八ハチ・公コウ・六ロク・共キョウ・兵ヘイ・其・具・典テン・兼ケン
 これらの文字は、いずれも分解不可能な象形文字や会意文字で、本来、部首別に分類するのは無理な字。そこで漢字の下部に八のかたちがあるものを無理やり八部とした。部首は意味を表すという部首別分類の矛盾がここにあらわれている。このうち、公コウ・六ロク・共キョウ・其キ・具グ・典テン・兼ケンは、音符となり多くの音符家族字を作っている。

イメージ 
 「やっつ」
(八)
 「ハの音」(叭)
音の変化  ハチ:八  ハ:叭
ハの音
 ハ  口部
解字 「口(くち)+八(ハ)」の形声。口から出るハの音。ハの発音を表す。
意味 「喇叭ラッパ」に用いられる字。喇叭とは、オランダ語roeperから来たといわれ、先が大きく開いている管に息を吹きいれ音を出す楽器をいう。「進軍喇叭シングンラッパ」「喇叭飲み」(瓶の口に直接口をつけて飲むこと)



    ブン <わける>
 ブン・フン・ブ・わける・わかれる・わかる・わかつ  刀部

解字 「八(左右にわかれる)+刀(かたな)」の会意。八は左右にわかれる形。これに刀を加え、二つに切り分けることを示し、分ける意味になる。
意味 (1)わける(分ける)。いくつかにわける。「分類ブンルイ」「分解ブンカイ」 (2)くばる。「分配ブンパイ」 (3)わかれる(分かれる)。ばらばらになる。「分散ブンサン」「分裂ブンレツ」 (4)物質の要素。「分子ブンシ」「成分セイブン」 (5)状態。程度。「気分キブン

イメージ 
 「わける」
(分・頒・貧・盆・躮)
 「細かく分かれる」(紛・雰・氛・芬・枌・粉・扮)
 「同音代替」(忿)
音の変化  ブン:分  フン:紛・雰・氛・芬・枌・粉・扮・忿  ハン:頒  ヒン:貧  ボン:盆  せがれ:躮

わける
 ハン・わける  頁部  
解字 「頁(あたま)+分(わける)」の会意形声。あたま数にわけること。斑ハン(まだら)に通じ、まだらの意もある。
意味 (1)わける(頒ける)。わけあたえる。広く行きわたらせる。「頒布ハンプ」(多くの人に配り分ける)「頒価ハンカ」(頒布する時の値段) (2)まだら。「頒白ハンバク」(しらが混じりの頭髪)
 ヒン・ビン・まずしい  貝部
解字 「貝(財貨)+分(わける)」の会意形声。財貨を分けてしまい、手元の財貨が少なくなるので、まずしい意味になる。
意味 (1)まずしい(貧しい)。みすぼらしい。「貧困ヒンコン」「貧民ヒンミン」「貧相ヒンソウ」「貧乏ビンボウ」(まずしいこと) (2)たりない。劣る。「貧血ヒンケツ」「貧弱ヒンジャク
 ボン  皿部 
 
曾孟嬭諫盆ソモウダイカンボン(「每日頭條」より)
解字 「皿(うつわ)+分(分れる)」の会意形声。每日頭條という香港のメディアに「春秋時期の盆はみな蓋がある」という見出しで5点の盆が紹介されている。写真は、その中のひとつ「曾孟嬭諫盆ソモウダイカンボン」であるが、上に蓋があり両側に取っ手がついた器である。用途は盛食器とされ、コース料理のひとつを器にいれて卓まで運び、そこで盛り付けをしたと思われる。形は底が平らで上に開いた形をしている。盆の字形は春秋金文が最初であり、実際に残る器に蓋が付属する事実は字の成立を考えるとき重視しなければならない。そこで盆は、「器(皿)の上に分かれる蓋のある容器」と考えたい(私見です)。その後、盆の蓋はなくなり下の形は、ほぼそのまま受けつがれている。後漢の[説文解字]は「盎オウ(はち)也(なり)。皿に従い分の聲(声)。発音は步奔切(ホン・ボン)」とする。ただし、日本では浅く平たい皿状のものもいう。
意味 (1)ぼん(盆)。底が平らで上に開いた容器。はち。「盆栽ボンサイ」「盆景ボンケイ」(盆の上に石や砂・植物を配してその風雅を味わうこと) (2)盆のような地形。「盆地ボンチ」「盆池ボンチ」 (3)[国]ぼん(盆)。浅く平たい、物を載せる道具。「角盆カクボン」(四角い平盆) (4)[仏]梵語のullambanaウランバナの音訳字:盂蘭盆に使われる字。「盂蘭盆ウラボン」とは、先祖の霊を迎えて供養する行事。「盂蘭盆会(え)」とも。「盆踊り」(祖霊の霊を迎える踊り)
 <国字> せがれ  身部
解字 「身(からだ)+分(わかれる)」の会意。自分の身体から分かれた分身の意で、自分の息子をいう。
意味 せがれ(躮)。自分の息子を謙遜していう。倅ソツとも書く。

細かく分かれる
 フン・まぎれる・まぎらわす・まぎらわしい  糸部
解字 「糸(いと)+分(分散する)」の会意形声。糸があちこち分散し入りみだれること。
意味 (1)まぎれる(紛れる)。「紛失フンシツ」 (2)いりみだれる。「紛糾フンキュウ」「内紛ナイフン」「紛争フンソウ
 フン  雨部
解字 「雨(あめ)+分(細かくわかれる)」の会意形声。雨が細かくわかれて、できるきり。また、もや。転じて、あたりにただよう気配、その場の空気等の意となる。
意味 (1)きり。もや。 (2)き(気)。大気。気分。けはい。「雰囲気フンイキ
 フン  气部
解字 「气(空中にただようもの)+分(細かくわかれる)」の会意形声。細かく分かれて空中にたちこめる気をいう。
意味 (1)空中にたちこめる気。天の気。=雰フン。「氛囲気フンイキ=雰囲気」 (2)吉凶や禍福を暗示する気。「氛フンを望む」(氛を観測する) (3)氛のうちの凶や禍に属する気。悪い気配。わざわい。「妖氛ヨウフン」(災いを及ぼす気)「氛翳フンエイ」(不吉な気。翳は、かげの意)「氛祥フンショウ」(不吉な気と、めでたい気)
 フン・かおる  艸部
解字 「艸(草花)+分(細かくわかれる)」の会意形声。草花の香りが分散すること。
意味 かおる(芬る)。かおり。こうばしい。「芬芬フンプン」(よい香りがする)「芬芳フンポウ」(こうばしいにおい)「芬郁フンイク」(かおりの高いさま)
 フン・そぎ  木部
解字 「木(き)+分(細かくわける)」の会意形声。木を薄くそいだ板をいう。
意味 (1)[日]そぎ(枌)。木を薄くそいだ板。「枌板そぎいた」 (2)ニレの一種。樹皮が白い。「枌楡フンユ」(ニレ。枌も楡も、にれの意)
 フン・こ・こな  米部
解字 「米(こめ)+分(細かくする)」の会意形声。米などの穀類の実を細かく磨りつぶして粉にすること。また、できた粉をいう。
意味 (1)こ(粉)。こな(粉)。「粉末フンマツ」「胡粉ゴフン」(白色顔料) (2)粉にする。「粉骨砕身フンコツサイシン」(骨を粉にし身を砕くほど努力する) (3)粉のおしろい。「粉白フンパク」 (4)かざる。「粉飾フンショク」(①よくみせようとして装い飾る。②実情を隠して見かけをよくする)
 フン・ハン  扌部
解字 「扌(て)+分(=粉。おしろい)」の会意形声。手でおしろいをつけて化粧すること。転じて、身なりを飾ること。
意味 よそおう。かざる。「扮飾フンショク」(①身なりを飾る。②化粧する) 「扮装フンソウ」(ある人物に似せてよそおう)

同音代替
忿 フン・いかる  心部
解字 「心(こころ)+分(フン)」の形声。フンは憤フン(いきどおる)に通じ、心からいかること。
意味 いかる(忿る)。「忿然フンゼン」(=憤然)「忿怒フンヌ」(=憤怒)
<紫色は常用漢字>

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音符「今コン」<ふたをかぶせる> 「琴キン」「吟ギン」「貪ドン」と「含ガン」

2021年07月07日 | 漢字の音符
  含ガンを独立させました。
 コン・キン・いま  人部

解字 甲骨文は 「印(ふた)+印(もの)」 の会意で、ふたをかぶせて、あるものを取り押さえた形。金文以下は、取り押さえたものの形が変化し、現代字では印の上下が分離し、下部は「フ」に変化した「今」になった。いずれも、ふたをかぶせて押さえた瞬間、すなわち「いま(今)」の意[学研漢和]。なお、「いま」の意は仮借カシャ(当て字)との説もあるが、「今かぶせた」のほうが覚えやすい。今が音符で用いられるとき、かぶせて「ふさぐ」イメージがある。
意味 (1)いま(今)。この時。現在。「今日コンニチ」「今朝けさ」「今晩コンバン」 (2)このたび。「今回コンカイ」「今度コンド

イメージ 
 「いま」
(今)
  ふたをかぶせて物を「ふさぐ」(吟・貪・衿・衾・黔)
 「形声文字」(琴・矜)
音の変化  コン:今  キョウ:矜  キン:衿・衾・琴  ギン:吟  ケン:黔  ドン:貪

ふさぐ
 ギン・うめく・うたう  口部  
会意 「口(くち)+今(ふさぐ)」 の会意形声。口をふさいで低いふくみ声を出すこと。うめく意となる。転じて、ふくみ声で調子をつけてうたうこと。また、口をふさいで中のものを味わう意となる。
意味 (1)うたう(吟う)。低い含み声でくちずさむ。「吟詠ギンエイ」(ふしをつけて詩歌をうたう) (2)うめく(吟く)。「呻吟シンギン」 (3)深く味わう。「吟味ギンミ」「吟醸ギンジョウ」(吟味した原料で醸造する)
 ドン・タン・むさぼる  貝部
解字 「貝(財貨)+今(ふさぐ)」 の会意形声。財貨を自分のふところに入れてふさぐこと。財貨をためこむこと。
意味 むさぼる(貪る)。よくばり。「貪欲ドンヨク」(非常に欲深い)「貪婪ドンラン」(欲のたいそう深いこと。貪も婪も、欲深い意)「貪色タンショク」(女色をむさぼる)「貪淫タンイン」(度をすぎて色を好む)
 キン・えり  衣部
解字 「衣(ころも)+今(ふさぐ)」 の会意形声。衣を胸元でふさぐ部分をいい、えりを意味する。
意味 えり(衿)。衣服のえり。えりくび。襟キンとも書く。「開衿カイキン」(えりを開く)
 キン・ふすま   衣部 
解字 「衣(ころも)+今(ふさぐ⇒おおう)」 の会意形声。身体をおおうようにかける大きな衣。衣のかたちをした夜着をいう。また、かけぶとんの意ともなる。衾は上からかぶせるので今が上につく。
意味 ふすま(衾)。寝るときかける夜着。かけぶとん。「衾褥キンジョク」(かけぶとんと、しきぶとん)「同衾ドウキン」(ひとつの夜具の中に共に寝る)「大衾長枕タイキンチョウチン」(大きなかけぶとんと長い枕。これで兄弟が仲良く寝られることから、兄弟の仲がよいこと)
 ケン・キン 黑部
解字 「黑(くろい)+今(ふさぐ⇒おおう)」 の会意形声。黒い色がおおう意でくろいこと。
意味 (1)くろい(黔い)。くろむ(黔む)。「黔突ケントツ」(煤けて黒くなった煙突)「黔首ケンシュ」(黒いあたまの意で、冠を付けていない秦の時代の人民をいう) (2)(黔首ケンシュから)人民。「黔黎ケンレイ」(黔も黎も、人民の意) (3)貴州省の略称。「黔州ケンシュウ」「黔驢之技ケンロのギ」(とるに足りない見かけ倒しの技量。ある人が黔州に驢馬(ロバ)を持って行き放したところ、この地の虎は最初、恐れたが、後に驢馬は蹴るしか技がないのを見抜いて食い殺したという故事から)

形声文字
 キン・こと  王部  

解字 春秋戦国期の古文は「大(手をひろげた人)+縦線から弦が左右に三本出ている形」で、手を広げた人が両手で楽器の弦を操作すること(下に発音を表す「金」が付くが省略した)。篆文は、古文の「縦線+左右三本の弦」⇒王王に変化し、また大⇒人に変化し人の脚が王の下部を巻き込んだ形になった。現代字は「王王(弦を操作する)+今キン」の形声。古文で下についていた金キンの発音を同音の今キンに代えた。絃楽器の「こと」をいう。
 琴(弦に柱(じ)が付かない。中国では各種の琴があるので古琴と言うことが多い。中国のネットから)
意味 こと(琴)。中空の胴の上に張った弦を弾いて音を出す楽器。古くは五弦で周代に七弦になった。琴は張った弦に柱(じ)が付かず、左指で弦を押さえ、右指で弦を弾いて音を出す。※箏ソウ・ことは形が琴と似ているが柱(じ)が付く。「琴瑟キンシツ」(琴と大琴。瑟は25弦・50弦などの大きな琴)「琴瑟相い和す」(琴と大琴の音調がよく合う。夫婦・兄弟の仲がよい」「琴書キンショ」(琴と書物。ともに文人の楽しみ」「琴線キンセン」(①琴の絃。②共鳴し感じやすい心情) (2)絃楽器の総称。「提琴テイキン」(バイオリン)「風琴フウキン」(オルガン)「月琴ゲッキン」(胴が満月のように円形の楽器) (3)[国]こと(琴)。筝ソウの通称。
 キョウ・キン・ほこる  矛部
解字 「矛(ほこ)+今(キョウ)」 の形声。キョウは、敬キョウ・ケイ(うやまう・つつしむ)に通じ、相手をうやまい、つつしんで矛(ほこ)を持つこと。貴人の護衛兵が自らの職務に誇りをもつこと。また、あわれむ意があるが、[字統]によると中国の斉・魯地方の方言であったという。
意味 (1)ほこる(矜る)。自負する。「矜持キョウジ」(自分の職務や能力に対し持つ誇り。プライド。=矜恃とも書く)「政治家としての矜持に鑑み、閣僚の職を辞する」(甘利明経済再生相の会見[2016.1.28]より)」(2)あわれむ(矜れむ)。「矜育キョウイク」(あわれんで育てる)

  ガン <ふくむ>
 ガン・ふくむ・ふくめる  口部  
解字 「口(くち)+今(ふさぐ)」の会意形声。口の中に物をいれてふさぐこと。
意味 ふくむ(含む)。ふくめる(含める)。「含有ガンユウ」「含蓄ガンチク」「包含ホウガン」「含味ガンミ」(①口中に含み味わう。②深い意味を味わう)

イメージ 「ふくむ」(含・莟・頷)
音の変化 ガン:含・莟・頷
ふくむ
 ガン・カン・つぼみ  艸部
解字 「艸(くさ)+含(ふくむ)」の会意形声。植物がその花蕊カズイ(おしべ・めしべ)を内に含んでおり、まさに花が開こうとするさま。
意味 (1)つぼみ(莟)。「新莟シンガン・シンカン」(新しいつぼみ) (2)はなしべ。花蕊カズイ。 (3)はな。「莟萏カンタン」(ハスの花)
 ガン・カン・あご・うなずく  頁部
解字 「頁(かお)+含(ふくむ)」 の会意形声。顔の中のものを含む部分。すなわち、口腔コウクウ(口のなか)を構成するあごをいう。また、承諾するとき、あごを動かすので、うなずく意となる。
意味 (1)あご(頷)。おとがい。したあご。顎ガクとも書く。「竜頷リュウガン・リョウガン」(竜のあご)(2)うなずく(頷く)。うなずいて承諾する。「頷首ガンシュ」(かしらをうなずく。承諾する)
<紫色は常用漢字>

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音符「瞿ク」<隹(とり)が目をきょろきょろさせる> と「矍カク」

2021年07月04日 | 漢字の音符
  カクを追加しました。
 ク・おそれる  目部

解字 「目+目+隹(とり)」の会意。目二つは両目の意。隹(とり)が両目をきょろきょろさせて見ること。そして、驚いたり、おそれること。懼の原字。
意味 (1)みる。目をみはる。(2)おそれる(瞿れる)。おどろく。「瞿瞿クク」(目をみはるさま。おどろきあわてるさま)「瞿然クゼン」(驚きおそれるさま)

イメージ
 「おそれる」
(瞿・懼)
  隹が「みる」(衢・矍・攫)
音の変化  ク:瞿・懼・衢  カク:矍・攫
おそれる
 ク・おそれる  忄部
解字 「忄(こころ)+瞿(おそれる)」の会意形声。瞿のおそれる意を忄(こころ)をつけて強調した字。
意味 (1)おそれる(懼れる)。「危懼キク」(あやぶみおそれる。=危惧キグ)「畏懼イク」(おそれること。畏も懼も、おそれる意)「恐懼キョウク」(おそれること) (2)地名。「懼坂かしこのさか」(大和川が奈良盆地から大阪府に流れ込む山峡にある亀の背付近の坂道。おそれる坂の意)

みる
 ク・ちまた  行部
解字 「行(十字路)+瞿(みる)」の形声。行は行く意味だが、もとは十字路の形(音符「行コウ」を参照)。は隹が上空から下を見ているかたちで上空からみた十字路を表す。
意味 (1)ちまた()。よつつじ。十字路。街中のにぎやかな路。「衢巷クコウ」(ちまた。衢も巷も、ちまたの意)「街衢ガイク」(まち。ちまた) (3)分かれ道。「衢路クロ」(わかれみち)「八衢やちまた」(道が八つに分かれた所。道がいくつにも分かれている所。迷いやすいたとえにもいう)
 カク・キャク  目部
解字 「瞿(目をきょろきょして見ている隹)+又(て)」の会意形声。両目をきょろきょろしている隹(とり)が、手でつかまれた形。意味は、①おどろき見るさま。②隹が手でつかまれ、すばやく反応する。きびきびとふるまう。の二つがある。
意味 (1)おどろきみるさま。おどろくさま。「矍矍カクカク」(目をきょろきょろさせておちつかない)「矍然カクゼン」(おどろくさま) (2)すばやく反応する。きびきびとふるまう。「矍鑠カクシャク」(老人がきびきびと元気にふるまうさま。鑠は、かがやく・元気がよい意)(3)つかむ。隹を手でつかむ形から。
 カク・つかむ・さらう  扌部
解字 「扌(て)+矍(つかむ)」の会意形声。手でつかむこと。
意味 (1)つかむ(む)。わしづかみする。「一攫千金イッカクセンキン」「攫取カクシュ」(つかみとる) (2)さらう(う)。かすめとる。「人攫(さら)い」

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音符「𦰩カン」 <日照り> と 「漢カン」「嘆タン」「難ナン」

2021年07月01日 | 漢字の音符
𦰩 カン  日部

 甲骨文第一字(上)は、動物の皮革の象形の下に火を加えた形。甲骨文字では原義でなく災害の意味で用いられている。第二字(下)はその略体で、この字が主に日照りの意味で用いられている[甲骨文字辞典]。この字について「字源(中国)」「字統」は「犠牲の人+火」で、日照りのとき犠牲の人を焚(や)いて雨乞いをする祭祀としているが、覚え方としては分かりやすいが、古代にそんな祭祀があったかは不明である。
 金文は下に火のついた形が継承されたが、第二字で上部が口⇒廿になった形が出現している。篆文になると、下部の火⇒土に変化し人の両手のように見える部分が「ハ」になった。隷書(漢代)で、現在に通じる「𦰩」が出現した。そして現在の正字(旧字)は「艹」が廿になった艱の左辺。残念なことに旧字はネットで表現できない。𦰩は日照りの意味を表す字として、篆文で日をつけた暵ができたので、現在、𦰩は単独で使用されていない。幸いにも新字体では「𦰩」となるので、記述には便利である。旧字体もネットで使えるユニコード規格が出現してほしい。
意味 日照り。かわく。暵の原字。

イメージ 
 「日でり・かわく」(暵・艱・嘆・歎・難・灘・儺)
 「形声字」(漢・攤)
音の変化  カン:暵・艱・漢  タン:灘・嘆・歎・攤  ナ:儺  ナン:難  

日でり・かわく
 カン・かわく・ひでり  日部
解字 「日(太陽)+𦰩の旧字(ひでり)」の会意形声。太陽が照り続けることによる「ひでり」を表す。
意味 (1)ひでり(暵)。旱カンと同じ。「天(天の神)暵カン(ひでり)を降ろす」 (2)かわく(暵く)。さらす(暵す)。「暵暵カンカン」(太陽が照り続けるさま)
 カン・かたい・なやむ  艮部
解字 「艮(とどまる)+暵の略体(日でり)」の会意形声。艮コンは、悪意を持って相手を睨みつける邪眼で、これに見つめられてとどまる意。音符「艮コン」を参照。 これに暵の略体(日でり)を加えた艱は、日照りで立ちすくむ意で、最も苦しい困難をいう。
意味 (1)かたい(艱い)。むずかしい。けわしい。 (2)なやむ(艱む)。くるしむ。「艱難カンナン」(困難になやみ苦しむ)「艱難辛苦カンナンシンク
 タン・なげく・なげかわしい  口部
解字 「口(くち)+𦰩(日でり)」の会意形声。日でりで土地がかわき作物も実らず、口からため息が出ること。のち、感心したときのため息にも使われるようになった。
意味 (1)なげく(嘆く)。なげき(嘆き)。なげかわしい。ため息をつく。「嘆息タンソク」「嘆声タンセイ」 (2)たたえる。ほめる。感心する。「感嘆カンタン
 タン・なげく  欠部
解字 篆文は「欠(口をあける人)+暵の略体(日でり)」の会意形声。日でりで土地がかわき作物も実らず、口をあけて(欠)なげくこと。嘆タンと構造が同じで、意味もほぼ同じ。常用漢字でないため、嘆に置き換えられることが多い。
意味 (1)なげく(歎く)。かなしむ。「歎息タンソク」(=嘆息)「悲歎ヒタン」(=悲嘆) (2)ほめる。たたえる。「歎賞タンショウ」(=嘆賞。ほめたたえる) (3)(仏)「歎異抄タンニショウ」とは、弟子がまとめた親鸞の語録。親鸞没後に起こった異議にたいし師の真意を伝えようとしたもの。
 ナン・かたい・むずかしい  隹部
解字 「隹(とり)+𦰩(日でり)」の会意形声。ひでりで大地が乾き、鳥が飛んで餌を見つけることもできないこと。
意味 (1)かたい(難い)。むずかしい(難しい)。「困難コンナン」「難問ナンモン」「難産ナンザン」 (2)わざわい。「遭難ソウナン」「艱難カンナン」(つらいこと)
 ダン・タン・なだ  氵部
解字 「氵(水)+難の旧字(むずかしい)」の会意形声。水の流れが速く、進むのに難しい所。
意味 (1)なだ(灘)。潮の流れが速く波の荒い海。「玄界灘ゲンカイなだ」(福岡県の北西の海) (2)せ。はやせ。岩石が多く流れが急な所。
 ナ   イ部
解字 「イ(ひと)+難の旧字(わざわい)」の会意形声。人がわざわいを追い出すこと。
意味 おにやらい。鬼を追い払う儀式。「追儺ツイナ」(大晦日の夜、悪鬼を追い出し疫病を祓う宮中の行事。近世から節分の行事となった)

形声字
 カン  氵部
解字 「氵(水)+𦰩(カンの音)」の会意形声。カンという名の川。漢水をいう。漢水(漢江)とは、長江の支流で現在の陝西省南部、秦嶺シンリン山脈の南麓に源を発し、湖北省を流れ武漢で長江に注ぐ。戦国時代、この地を支配した秦シンは漢水の上流域に漢中郡を置いた(「〜中」は河川流域の盆地をいう命名法)。秦が滅ぼされると、功労者の劉邦が漢中の地に王として封ぜられ、漢王を名乗った。劉邦は項羽との戦いに勝利 して、秦に次いで中国の再統一を果たし、前漢が成立すると支配が約400年に及んだことから、中国全土・中国人・中国文化そのものを指す言葉になった。なお、天の川を天漢と呼んで漢水に例えるのは、暵カン(日でり・かわく)に通じ、水のない川のイメージからと思われる。
意味 (1)中国にある川の名。「漢水カンスイ」 (2)天の川。天にある水のない川。「天漢テンカン」「星漢セイカン」 (3)中国の王朝の名。「前漢ゼンカン」「後漢ゴカン」 (4)中国の民族の名。また、広く中国・中国人をいう。「漢族カンゾク」(中国の主要民族で人口の9割を占める)「漢字カンジ」「漢学カンガク」「漢方カンポウ」 (5)から(漢)。あや。中国の古称。中国伝来の。 (6)(漢代に北方民族の匈奴が漢の兵士を「漢」と呼んだことから)おとこ。「悪漢アッカン」「好漢コウカン
 タン・ひらく・のばす  扌部
解字 「扌(て)+難の旧字(タンの音)」の形成。タンは覃タンに通じる。覃タンは、ふかい意のほか、およぶ・のびる意があり、扌のついた攤タンは、手で引っ張ってのばすこと。また、手でひろげること。
意味 (1)ひらく(攤く)。のばす(攤す)。「攤書タンショ」(書物をひらく)「攤開タンカイ」(開く) (2)ひろげる(攤げる)。全体にひろげて平均する。「攤還タンカン」(月賦など平均にして還す) (3)ゴザなどをひろげて品物をうる露店。「小攤ショウタン」(露店。屋台)
<紫色は常用漢字>
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