漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「勿ブツ」<なかれ> と「物ブツ」「刎フン」「吻フン」「忽コツ」「惚コツ」「笏コツ」「惣ソウ」と「匆ソウ」「怱ソウ」「葱ソウ」

2024年07月30日 | 漢字の音符
 ブツ・モチ・なかれ  勹部

解字 甲骨文は弓の略体と小点に従い、おそらく弓の弦が切れたさまを表している。甲骨文字では転じて否定の助辞として用いられている[甲骨文字辞典]。金文は弓の略体が誤って形が近い刀と小点に従う字が用いられ、篆文をへて勿の字体となったが、意味は一貫して否定を表す「勿(なか)れ」となっている。
意味 (1)なかれ(勿れ)。禁止を表わす。「勿忘草わすれなぐさ」「王請(こ)う疑う勿(なか)れ」(孟子・梁上) (2)ない。否定を表わす。「勿論モチロン」(論ずるまでもなく)

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 「ない」
(勿・物・忽・惚)
 「形声字」(刎・笏・吻・惣)

音の変化  ブツ:勿・物  フン:刎・吻  コツ:忽・惚・笏  ソウ:惣  

ない
 ブツ・モツ・もの  牛部
解字 「牛(うし)+勿(特定の色がない)」の会意形声。特定の色がない、即ち、黄色や黒など純色の牛でなく、まだら牛のこと。この牛の色を「物色」(まだら牛の色)と言っていたが、のち、もの(物)の色の意となり、転じて、すべての物の意味になった。
意味 (1)もの(物)。いっさいのもの。「食物ショクモツ」「博物ハクブツ」(ひろく物事に通じていること)(2)ものごと。ことがら。転じて、世間。「物議ブツギ」「物騒ブッソウ」(3)ひと。「傑物ケツブツ
 コツ・ゆるがせ・たちまち  心部
解字 「心(こころ)+勿(ない)」の会意形声。心がない状態をいい、忘れる・不注意・重視しない意となる。また、忘れていた事をふと思いだすことから、突然の意となる。
意味 (1)ゆるがせ(忽せ)。いいかげん。「忽略コツリャク」(おろそかにする)「粗忽ソコツ」(軽はずみ。あわただしい)(2)たちまち(忽ち)。にわかに。「忽然コツゼン」(にわかなさま)
 コツ・ほれる・ぼける・ほうける・とぼける  忄部
解字 「忄(心)+忽(心がない)」の会意形声。心がない状態に、さらに忄(心)をつけて、放心した状態をいう。
意味 (1)うっとりする。「恍惚コウコツ」(うっとりする状態)(2)ぼんやりする。ほうける(惚ける)。ぼける(惚ける)。(3)[国]ほれる(惚れる)。恋慕する。心酔する。

形声字
 フン・はねる  刂部
解字 「刂(刀)+勿(ブツ⇒フン)」の会形声。刀で切ることをフンという。[説文解字]は「剄(くびきる)也(なり)。刀に従い勿の聲(声)」とし、首を切る意味で用いる。
意味 はねる(刎ねる)。首を切る。「刎頸フンケイ」(首をはねる。首を切ること)「刎頸フンケイの交わり」(友人のためなら首を切られても後悔しない程の真の交友)「刎死フンシ」(自ら首を切って死ぬ)
 コツ・しゃく  竹部
解字 「竹(たけ)+勿(コツ)」の形声。コツという名の忘れないようにメモしておく竹の札。

しゃくを持つ聖徳太子像(ウィキペディア「聖徳太子二王子像」から)
意味 (1)しゃく(笏)。備忘のため儀式次第を書き記した紙片を貼った板片。礼服である束帯を着用の際、手に持って威厳を整える。日本では発音のコツが骨コツに通じるのを嫌い、長さがほぼ1尺あるので、「しゃく」と呼んだ。日本では木製が殆どだが、中国では、天子は珠玉、諸侯は象牙、士は竹を用いたという〔字統〕。「牙笏ゲしゃく」(象牙製の笏。正倉院には聖武天皇遺愛品とされる「通天牙笏ツウテンゲしゃく」長さ34.9㎝が所蔵されている) (2)人名。「飯田蛇笏いいだだこつ」(山梨県出身の俳人。大正期の「ホトトギス」隆盛期の代表作家として活躍した)
 フン・くちびる  口部
解字 「口(くち)+勿(フン)」の形声。フンは賁フンに通じる。賁は、貝がぱっと水管から水を出す意で、ふき出る以外に、噴き出たものが「盛りあがる」意がある。吻は、口のまわりが盛り上がった「くちびる」をいう。
意味 (1)くちびる(吻)。くちさき。動物で口あるいはその周辺が前方へ突出している部分。「接吻セップン」(くちびるを接すること)「吻合フンゴウ」(①くちびるを合わせるように物事がぴったり合うこと。②外科手術で分離している血管や神経を接続すること) (2)口ぶり。「口吻コウフン」(①口ぶり。言いぶり。②口さき。くちばし)
 ソウ・すべる・すべて  心部
解字 ソウ(すべる。統べる)の異体字。扌(てへん)を牛にし心を合わせて惣となった。本来の揔ソウは、「扌(手)+怱(ソウ)」の形声。ソウは総(總)ソウ(すべる)に通じ、手ですべてを一つにまとめること。なお揔ソウは第4水準字で漢検の配当外となっている。
意味 (1)すべる(惣る)。統べる。すべて(惣て)。統べて。「惣菜ソウザイ」(すべての菜。日々の食事の副食物。ご飯のおかず。=総菜)(2)「惣領ソウリョウ」とは、総領とも書き、①家名を受け継ぐ子。また、長男・長女。②数カ国の政務を監督した日本古代の官。すべおさ。「惣村ソウソン」(民衆が村の自治を行なうこと。南北朝時代に広まった)
覚え方 ものごころ(物心)ついたときから領として大事にされる。


    ソウ <ソウの音>
 ソウ  勹部
解字 囱ソウ(まど)の異体字。本来の意味でなくソウの音を表す。ブツの字との関係はない。
意味 (1)あわただしい。あわてる。(=怱) (2)[国]「匆匆ソウソウ」とは、手紙の末尾に書き添えて、取り急ぎの意を表す。草々。

イメージ 
 「形声字」
(匆・怱・葱)  
音の変化  ソウ:匆・怱・葱

形声字
 ソウ  心部
解字 「心(こころ)+匆(ソウ)」の形声。ソウは早ソウ(はやく・すぐ)に通じ、はやくしようと心があわてること。
意味 あわてる。にわか。あわただしい。いそぐ。「怱怱ソウソウ」(①いそがしいさま。②手紙の末尾に書き添えて、取り急ぎの意を表す。=匆匆ソウソウ)「怱卒ソウソツ」(①あわただしいこと。②突然なこと)「怱忙ソウボウ」(いそがしいこと。怱も忙も、いそがしい意)「怱劇ソウゲキ」(非常にいそがしいこと。あわただしく落ち着かない)
 ソウ・ねぎ  艸部
解字 「艸(草)+怱(ソウ)」の形声。ソウは草ソウ(くさ)に通じ、草の色である青色をいう。また、あおい野菜であるネギを表す。
意味 (1)あおい。「葱青ソウセイ」(①草木の青々としていること。②ネギの葉)(2)ねぎ(葱)。葉が管状で細長い野菜。「葱坊主ネギボウズ」(小花が集まり坊主頭のように咲くネギの花)「玉葱たまねぎ」(ネギに似た野菜で、地下の鱗茎がまるくなり食用とする)
<紫色は常用漢字>

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音符「歳サイ」<年の歩みをマサカリで区切る> 「穢ワイ」「濊ワイ」「噦エツ」 と 「年ネン」

2024年07月28日 | 漢字の音符
  改訂しました。
[歲] サイ・セイ・とし  止部 suì



  上が歳サイ、中が歩、下が戌ジュツ
解字 歩(旧字・步)の字を、大きな刃をもつマサカリである戌ジュツの上下に分けて書いた形が歳である。年の歩みをマサカリで区切る意味となる。甲骨文字は戌(マサカリ)の刃の上下に歩の左足と右足の古字を配した形。金文は戌(マサカリ)の刃が異常に大きくなり、両方の歩が上下で包まれる形だが、歩は篆文の形に近い。篆文は上の戌(マサカリ)の刃の覆いがとれ、旧字で「止(上のあし)+戌(まさかり)+步の下部」の歲になった。この字が本来の字であり、現在の中国(簡体字)・台湾(繁体字)とも歲になっている。意味は一年一年の意となる。ところが、日本では新字体の歩に影響され、新字体は歩(旧字・步)の下部が「一+小」の歳となったが、まったく意味のない変化をしたものである。画数が同じであり不必要な変化であった。歳の音符字とのつながりを断ち切ってしまったからである。
意味 (1)とし(歳)。つきひ。一年。「歳月サイゲツ」「歳末サイマツ」「歳時記サイジキ」(一年の自然や行事を解説した本)「歳入サイニュウ」(その年度の収入) (2)よわい。年齢。「百歳ヒャクサイ」 (3)(年に準じた使い方)みのり。収穫。「豊歳ホウサイ」「凶歳キョウサイ

イメージ 
 「年の歩みをマサカリで区切る」(歳)
 「歩みを区切る」(噦・穢)
 「形声字」(濊)
音の変化  サイ:歳  ワイ:穢・濊  エツ:噦

歩みを区切る
 エツ・カイ・しゃっくり  口部 yuě・huì
解字 「口(くち)+歲(歳の旧字。歩みを区切る)」の会意。口からでる吐息が区切ったように出ること。しゃっくり・しゃくる意。
意味 (1)しゃっくり(噦り)。しゃくる(噦る)。横隔膜のけいれんで声帯が狭くなり息が通るたびに「ヒック」と発音する現象。吃逆キツギャクともいう。(2)しゃくる(噦る)。しゃくりあげる。すすり泣きをする。 (3)えずく(噦く)。吐き気がする。むかつく。
 ワイ・エ・アイ・けがれる・きたない  禾部 huì
解字 「禾(イネ科の穀物)+歲(歳の旧字。歩みを区切る)」の形声。禾(イネ科の植物)の間に生えてくる雑草を区切る(刈り取る)意で除かれた耕地の雑草をいう。また、取り除かれた雑草から転じて、けがれる・きたない意となる。
 ここからは私見であるが、確かに雑草を放置しておくと虫や微生物が繁茂し、きたなくなる。近年、D・モントゴメリーは著作『土・牛・微生物』(2018年)で、農薬の使い過ぎに反対し、雑草などに微生物が繁茂し土壌微生物は保全され、肥沃な土が再生し病害虫も減り作物の収量も確保されることを明らかにした。雑草がきたないというのは漢字を作った人の感覚であり農民は気にしていなかったのではなかろうか。
意味 (1)雑草。「穢草ワイソウ」(雑草) (2)けがれる(穢れる)。けがれ。けがわらしい。きたない(穢い)。「醜穢シュウワイ」(醜くけがらわしい) (3)エの発音。仏教や神道用語に使われる。「穢土エド」(けがれた世界)「穢身エシン」(けがれた身)「産穢サンエ」(出産のとき子の父母にこうむるというけがれ)

形声字
 ワイ・カツ  氵部 huì・huò
解字 「氵(みず)+歲(歳の旧字。ワイ)」の形声。ワイという名の川で濊河ワイガ・濊水ワイスイをいう。また、水の深くひろいさま。穢ワイに通じて、けがれるさま。古代の民族の名に用いる。
意味 (1)川の名。「濊河ワイガ」(河北省を流れる川)「濊水ワイスイ」(江西省を流れる川) (2)水の深くひろいさま。「汪濊オウワイ」(水の深く広いさま) (3)けがれる(濊れる)。にごる・よごれる。「濁濊ダクワイ」(にごりけがれる) (4)古代の民族の名。「濊ワイ」とは紀元前2世紀の中国東北部にいた種族。

    ネン <穀物のみのり>
 ネン・とし  干部 nián

解字 「禾(イネ科の植物が穂をつけた形)+人」の会意。甲骨文は、人が実った穂をつけたイネ科の植物を肩または頭上にのせている形で、穀物を収穫して運んでいるさま。穀物がみのる意を表わす。また、穀物の収穫は年に一度であるので一年の意となる。漢代の隷書で一(一度の意)をつけ年一度の収穫を表した形から、現在は一⇒タテになった年の字が出来あがった。
意味 (1)みのる。穀物のみのり。「祈年祭キネンサイ」(五穀の豊穣と国の安寧などを祈る祭り) (2)とし(年)。一年。「年俸ネンポウ」「新年シンネン」 (3)よわい。年齢。「老年ロウネン」「少年ショウネン
<紫色は常用漢字>

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音符「之シ」<足が前にすすむ>「芝シ」 と 「乏ボウ」「泛ハン」「貶ヘン」  

2024年07月26日 | 漢字の音符
 シ・これ・の・ゆく   ノ部 zhī


 上は之シ、下は止シ
解字 之の甲骨文字は下の足(止)が一線から出て進む形。下の足裏をかたどった図形には左右の足をかたどった2種があるが、この字形は右足が一線から出発して進むかたち。金文は止に近い形に変化したが、篆文で地上から草がのびるような形になったため、草がのびる意に解され、草冠をつけた芝の字ができた。現代字は、漢代の隷書をへて、まったく姿を変えた「之」に変身し、本来の意味でなく指示・強める意の「これ・この」、また、主格や修飾の「の」に仮借カシャ(当て字)された。本来の意味は(4)の之(ゆ)く、として残っている。
意味 (1)これ(之)。この。「之(これ)を読む」 (2)の(之)。「夫子フシ(孔子)之(の)道」 (3)この(之)。(4)ゆく(之く)。いたる。「死に之(いた)る。(5)字形が曲がりくねることから。「之字路シジロ」(まがりくねった道)「之繞シンニュウ・シンニョウ」(部首の 辶・辶を言う)

イメージ 
 「仮借カシャ
(之) 
 「進みゆく」(芝) 
音の変化  シ:之・芝  

進みゆく
 シ・しば  艸部 zhī
解字 「艸(くさ)+之(進みゆく⇒長くのびる)」の会意形声。之の篆文は、地上から草がのびる意に解釈され、寿命をのばすという霊草のマンネンタケ(霊芝)の意味になった。日本では、すくすくのびる草である芝の意となる。

霊芝(マンネンタケ)(中国のネットから)
https://www.meipian.cn/1kc53x77
意味 (1)マンネンタケ。「霊芝レイシ」(延命の霊薬として薬用酒などに使われるキノコ)(2)[国]しば(芝)。すくすく伸びる草。「芝生しばふ」「芝居しばい」(桟敷席と舞台との間の芝生に設けた庶民の見物席(広辞苑)。転じて興業物)


    ボウ <身動きがとれない>
 ボウ・とぼしい  ノ部 fá

解字 金文は「ノ印+止の古型(あし・すすむ)」の会意。すすむ止の古型(あし)がノ印でさえぎられ、動きがとれないさま。篆文は、上部がノ⇒一になり、下部の止の古型(すすむ)が左右反転した形。現代字は「ノ+之」のかたちに変化した。之もすすむ意であり、ノによって身動きできない意は変わらない。
意味 (1)とぼしい(乏しい)。力や金がなくて動きがとれないさま。たりない。まずしい。「貧乏ビンボウ」「耐乏タイボウ」「窮乏キュウボウ
覚え方 「ノ印+之(進みゆく)」のかたちで、之(進みゆく)にノ印をつけて、「進む」とは逆の「動きが取れない」意を表わした。

イメージ
 「とぼしい」(乏・貶)
 「形声字」(泛)
音の変化  ボウ:乏  ハン:泛  ヘン:貶  

とぼしい
 ヘン・おとす・おとしめる・けなす  貝部 biǎn
解字 「貝(財貨)+乏(とぼしい)」の会意形声。財貨が乏しくなって減ること。転じて、値打ちがおちる。人の値打ちを下げる行為をいう。
意味 (1)おとす(貶とす)。低く評価する。官位を下げる。「貶斥ヘンセキ」(官位を下げてしりぞける)(2)おとしめる(貶める)。さげすむ。けなす(貶す)。「褒貶ホウヘン」(褒めることと貶すこと)「毀誉褒貶キヨホウヘン」(ほめたりけなしたりすること。誉褒ヨホウは、ほめる、毀貶キヘンは、けなす)

形声字
 ハン・ホウ・うかぶ  氵部 fàn
解字 「氵(水)+乏(ハン)」の形声。ハンは汎ハン(うかぶ・ひろい)に通じ、うかぶ、ひろい意となり、汎とほぼ同じ用法で使われる。
 発音がホウの泛ホウは「襾(ふた)+乏(ホウ)」の、ふた(蓋)が覆(くつがえ)る意の音符字(パソコンで出ない)に通じ、くつがえる意となる。
意味 [Ⅰ]ハンの音。(1)うかぶ(泛ぶ)。「泛舟ハンシュウ」(水に浮かんだ舟。=汎舟)「泛宅ハンタク」(うかぶ宅で、船の家)「浮家泛宅フカハンタク」(浮家も泛宅も、船の家。船の中に住む意で、放浪する隠者の暮らしをいう) (2)ひろい。あまねく。「泛論ハンロン」(全体にわたって論ずる。=汎論)「泛愛ハンアイ」(広く愛する。=汎愛)
[Ⅱ]ホウの音。くつがえす。ひっくりかえす。「泛駕ホウガ」(馬車が転覆する)「泛駕之馬ホウガのうま」(馬車をひっくりかえす馬。御者に従わず気概のある馬から、常道に従わない英雄の例え)
<紫色は常用漢字>

<之を含む参考音符>
「之」の字形変化は多様で、「寺」で上部の土になり、「先」で上部の「ノ+土」になる。
 ジ・シ・てら  寸部 sì

解字 金文第一字は、「之(すすむ)+又(手)」の会意形声。之は、足が下の線から出る形で、前に進むことを示す。又は手で、手にものを持つ意。金文第二字は又⇒寸になっており、この寸は手の意。之と寸が合わさった寺は、手に文書などを持ち、足で前にすすむ「使い」を表し、宮中などで働く事務系の下級役人の意。転じて、役人が働く場所である役所や朝廷などを表す。現代字は上部が土に変化した寺になった。この字を見ると我々はすぐ寺(てら)を思い浮かべるが、この意は仏教伝来以降、渡来した僧侶を外国使節の応接・対応を司る役所(鴻臚寺コウロジ)にしばらく住まわせたことから出た。
意味 (1)役所。朝廷。官庁。「寺人ジジン」(宮中の小臣) (2)てら(寺)。「寺院ジイン」「仏寺ブツジ」 (3)はべる(=侍)。
イメージ 
 「下級の役人」
(寺・侍・等・待・峙・痔)
 寸の意味である「手にもつ」(持)
 之の意味である「すすむ」(時・蒔・詩)
 「形声字」(特)
音の変化  ジ:寺・侍・峙・痔・持・時  シ:蒔・詩  タイ:待  トウ:等  トク:特
音符「寺ジ」

 セン・さき  儿部にんにょう xiān

解字 甲骨文は「足が下線から出発するかたち(之)+人」 の会意。人の上に出発する足を加えて、先にゆく人を表す。甲骨文字では王が臣下に命じて先に行かせることを占うことがおおいという[甲骨文字小字典]。他の人より先に行く意が原義で、また、時間のあとさきの意味にも用いる。現代字は上が「ノ+土」の形に、下が人⇒儿になった「先」に変化した。
意味 (1)さき(先)。さきのほう。「先頭セントウ」「先導センドウ」 (2)さきにゆく。さきだつ。さきんじる。「先着センチャク」「先駆者センクシャ」 (3)時間的にはやい。以前。「先日センジツ」「先代センダイ
イメージ  「さき」 (先・洗・跣・筅・銑)
音の変化  セン:先・洗・跣・筅・銑
音符「先セン」

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音符 「睿エイ」と「叡エイ」「濬シュン」 と 「壑ガク」

2024年07月24日 | 漢字の音符
  深い谷の中の残骨を見て、この世の無常を悟る
 エイ・さとい  目部 ruì


 下図は歺ガツ
解字 篆文は「歺ガツ(残骨)+谷の略体+目(め)」の会意。歺ガツは歹ガツの変形字(音符「歹ガツ」を参照)で残骨の形。深い谷の中の残骨を目で見て、この世の無常を悟ること。さとい・かしこい意となる。エイの原字で、現在は音符「睿エイ」の役割をしている。
意味 (1)さとい(睿い)。ものわかりがよい。かしこい。(=叡)。(2)賢くて聡明な人(=叡)。(3)天子に関することを尊んで言うときの言葉(=叡)。

イメージ 深い谷の残骨を見てこの世の無常をさとる意から「さとい」「深い谷」のイメージがある。
 「さとい」(睿・叡)
 「深い谷」(濬)
音の変化  エイ:睿・叡  シュン:濬  

さとい
 エイ・さとい  又部 ruì 

解字 金文は「歺ガツ(残骨)+谷の略体(たに)+目(みる)+見(みる)」の会意。深い谷の中の残骨を見る形で、構造は「睿エイ+見」の形。篆文および現代字は「歺ガツ(残骨)+谷の略体+目(め)+又(手)」で、深い谷の中の残骨を見て手にとること。いずれも残骨を見て手に取り、この世の無常を悟ること。さとい・かしこい意となる。
意味 (1)さとい(叡い)。かしこい。あきらか。「叡智エイチ」(=英知)「叡才エイサイ」(物事を深く理解できる才能)(2)天子・天皇に関する尊敬語。「叡覧エイラン」(天子が見ること)「叡旨エイシ」(天子のおおせ)(3)地名。「比叡山ヒエイザン」(①京都市北東にそびえる山。王城鎮護の霊山として知られる。山頂下に延暦寺がある。②延暦寺の山号。比叡山延暦寺)

鴨川から見る秋の比叡山(ウィキペディア「比叡山」より)

深い谷
 シュン・ふかい・さらう  氵部 jùn・xùn
解字 「氵(みず)+睿(深い谷)」の形声。水の流れる深い谷の形。深い意の他、深くする意から、さらう(水底の土砂などをさらう)意ともなる。
意味 (1)ふかい(濬い)。奥深い。「濬池シュンチ」(深い池)「濬谷シュンコク」(深い谷)「濬哲シュンテツ」(深い知恵のあるさま。また、その人)(2)(ふかくする意から)さらう(濬う)。(=浚)。水底の土砂などをさらう。さらって流れを通す。「溝渠コウキョを濬う」(さらって溝渠(みぞ)を通す)

関連音符
 ガク・たに 又部 hé・hè・huò  

解字 「歺ガツ(残骨)の変形字+谷(たに)+又(て)」で、残骨を谷で手にとる形で、深い谷を表す(この略体に目がつくと叡エイになる)。
意味 たに()。壑ガクの原字。現在は壑ガクで表記される。

イメージ
「深い谷」
・壑)
音の変化  ガク:・壑

深い谷
 ガク・カク・たに  土部 hè
解字 「土(つち)+(深い谷)」の会意形声。壑ガクガク(深い谷)に土(土地)がつき、深い谷の地形を表した字。
意味 (1)たに(壑)。深い谷。「岩壑ガンガク」(岩のある谷)「千巌万壑センガンマンガク」(けわしい岩山や谷が続くさま)「丘壑キュウガク」(丘とたに)(2)ほり。からほり。(3)あな。いわや。「壑谷ガクコク」(①たに。②あなぐち)

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音符「名メイ」 <なまえ> と 「銘メイ」「茗メイ」「酩メイ」

2024年07月22日 | 漢字の音符
 メイ・ミョウ・な  口部 míng


  上は名、下は月
解字 甲骨文字は「月+口」からなり、月は月のでる夜間、口は祭器の口サイ(器物)であり、夜間に行われる祭祀(神や祖先の祭り)とみるべきであろう[甲骨文字辞典]とする。金文は名をしるす形の銘メイの意味で使われるようになり、篆文で[説文解字]が「夕(暗い夜)+口(くち)」の会意とし、暗い夜に相手が見えないので自分から口で名乗る意とした。これらの解釈をへて現在は、名前・名のる・名ずける・名だかい意などで用いられる。
 月には中に点のある形とない形があり両方が使われたが、篆文から点のある形だけになって最終的に月の形になった。点のない形は夕の字になった。
意味 (1)な(名)。なまえ。呼び名。名乗る。「名称メイショウ」「姓名セイメイ」「名字ミョウジ」(2)なづける。「命名メイメイ」(3)なだかい。「名声メイセイ」(4)人数を数える語。「両名リョウメイ

イメージ 
 「なまえ」
(名・茗)  
 「形声字」(銘・酩)
音の変化  メイ:名・銘・茗・酩

なまえ
 メイ・ミョウ  艸部 míng
解字 「艸(くさ)+名(なまえ)」の会意形成。(味がおいしいと)名前の知られている植物の意で、茶の木の若葉をいう。茶の字は、陸羽が『茶経』(760年頃成立)の中で使ってから一般的になったが、それまでは、荼(苦い草)や、茗メイなどが使われていた。茗は、茶の字が定着してからも、茶を表す字として使われる。
意味 (1)ちゃ(茗)。茶の木。茶の木のやわらかい若葉。「茗宴メイエン」(茶会。茶の湯の会)「茗器メイキ」(茶の湯の道具)「茗園メイエン」(茶ばたけ) (2)[国]「茗荷ミョウガ」とは、ショウガ科の宿根草。暖地の山林に野生化、また、栽培もする。夏、根本から花穂を出す。花穂と若芽は食用とする。

形声字
 メイ・しるす  金部 míng
解字 「金(金属)+名(メイ)」の形声。金属器に文字などを刻むことを銘メイという。鼎(かなえ)など金属器にしるされた文字は消えることがない。そこで、深くきざまれる・一流の、等の意味ともなる。死者の功績をたたえ名前を銘(しる)すことから、名前の意味の萌芽ともなった。

刀に刻まれた銘(「刀剣ワールド」より)
意味 (1)しるす(銘す)。きざむ。金属や石碑などに文字をきざむ。「銘文メイブン」「刻銘コクメイ」(2)製作者の名前。「刀銘トウメイ」「無銘ムメイ」(3)深く心にきざむ。「銘記メイキ」「感銘カンメイ」(4)上等な。一流の。「銘菓メイカ」「銘柄米メイがらマイ
 メイ・よう  酉部 mǐng
解字 「酉(さけ)+名(メイ)」の形声。メイは冥メイ(奥深い)に通じ[字通による]、酒に深く酔うこと。「酩酊メイテイ」という語に使われる。酩酊は中国語発音で、mǐng/dǐngであり、両字の語尾(韻母)が ingでそろっている。これを畳韻ジョウイン(同じ韻をかさねる)の語という。畳韻の語は、聞いて心地よい響きがある。さらにこの語は、部首が酉でそろっており大変珍しい(こういう語を連綿語というらしい)。部首がそろうと、目で見ても心地よい語となる。おそらく、酒にひどく酔った状態を表す語として詩人が作り出したのであろう。酩酊は、この組み合わせでしか使われない漢字であるから、酩と酊は、それぞれ半人前の字であり、二つそろって一人前となる。いわば相互依存症になっている漢字といえる。
意味 よう(酩う)。酒にひどく酔う。「酩酊メイテイ」(ひどく酒に酔う)「大酔酩酊ダイスイメイテイ」(ひどく酔って、ぐてんぐてんになる)
<紫色は常用漢字>

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音符 「舌カツ」と「刮カツ」「筈カツ」「活カツ」「闊カツ」「括カツ」「憩ケイ」「話ワ」

2024年07月20日 | 漢字の音符
  カツ<小刀で穴をあける>
<関連文字>
 ケツ  氏部
 
 カツ
 
  上は氒ケツ、下は舌カツ
解字 上の関連文字・氒ケツの金文第1字は彫刻刀など先の丸い刃に柄がついた形の象形。第2字は柄に横線が入ったかたち。篆文は丸刃⇒氏、横線の入った柄⇒十に変化し、現代字で氒ケツとなった。意味は彫刻刀で「ほる」。また、仮借(当て字)で、「その」の意がある。字形の変遷はネット「漢典」の氒より。
 下の舌カツの篆文は「氏(氒ケツの略体)+口(あな)」の会意形声(ケツ⇒カツに転音)で、𠯑カツ(上が氏、下が口)。意味は「氒の略体(丸刃の彫刻刀)」で口(あな)をあけること。すなわち、小刀でけずって穴をあけること。漢代の隷書で、氏が千に変化して口と一体化した舌カツになり、現代字へと続く。同形の舌(ゼツ・した)とは別字。舌カツを音符に含む字は、小刀で「けずる」、あけた穴の中を「すらすら通る」イメージを持つ。

イメージ  
 小刀で「けずる」(刮・筈)
 あけた穴を「すらすら通る」(活・闊・話・憩)
 「形声字」(括)

音の変化  カツ:刮・筈・活・闊・括  ケイ:憩  ワ:話

けずる
 カツ・けずる・こそげる  刂部
解字 「刂(かたな)+舌(けずる)」の会意形声。舌カツは、小刀でけずるかたち。そこに刂(刀)をつけて、けずる意を強めた字。
意味 (1)けずる(刮る)。こそげる(刮げる)。けずり除く。かきとる。そぐ。「刮刷カツサツ」(けずり取る。こすり取る。=刮削カツサク)(2)こする。「刮目カツモク」(目をこすってよく見る)
 カツ・やはず・はず  竹部
解字 「竹(竹の矢)+舌(=刮。けずる)」の会意形声。矢の矢羽側にある弦をうけるけずり込みをいう。また、弓の両端の弦をかける所もいう。
意味 (1)はず(筈)。やはず(筈)。矢筈とも書く。矢羽側に弦を受ける切り込みがある。(2)茶道具のやはず(筈)。茶道で掛け軸を床の間にかけるのに用いられる道具。

①②とも茶道具の筈(やはず)だが、①は竹の矢端を削りこんだ本来の矢筈のおもかげをとどめている。(ネットの古道具販売広告から)
(3)[国]ゆはず(弓筈)。弓の両端の弦をかける所。本来の字は「弭(ゆはず)」(4)[国](筈と弦はいつも合うことから)当然そうなること。道理。「そんな筈はない」「手筈てはず」(前もって決める手順)

すらすら通る
 カツ・いきる  氵部
解字 「氵(水)+舌(すらすら通る)」の会意形声。水が穴からすらすら通り流れること。[説文解字]は、「水の流るる聲(声)なり」とする。転じて、勢いがよい。いきいきとしていること。
意味 (1)勢いよく動く。いきいきとしている。「活気カッキ」「活発カッパツ」 (2)いきる(活きる)。いかす(活かす)。「活用カツヨウ」「生活セイカツ
 カツ・ひろい  門部
解字 「門(もん)+活(勢いよく通る)」の会意形声。門が広くて通りやすいこと。転じて、人の心にも言う。
意味 (1)ひろい(闊い)。「闊葉樹カツヨウジュ」(広く平たい葉を付ける樹木=広葉樹)(2)心がひろい。のびのびと。「闊達カッタツ」(心が広く物事にこだわらない)「闊歩カッポ」(大またで堂々と歩く)(3)(気が大きすぎて)うっかりする。注意がたりない。おろそか。「迂闊ウカツ」(うっかりする)
 ワ・カ(ク)・カイ(クイ)・はなす・はなし  言部
解字 「言(ことば)+舌(すらすら通る)」の会意形声。言葉がすらすらと続くこと。発音のワは、カ(ク)からクが取れた形の唐音。
意味 (1)はなす(話す)。語る。「会話カイワ」「講話コウワ」(2)はなし(話)。ものがたり。「実話ジツワ」「民話ミンワ
 ケイ・いこい・いこう  心部
解字 「息(いき)+舌(すらすら通る)」の会意形声。息がつまる状態から、呼吸がなめらかに通るようになること。おちつくこと。
意味 いこう(憩う)。くつろぐ。いこい(憩い)。「休憩キュウケイ」「小憩ショウケイ

形声字
 カツ・くくる  扌部
解字 「扌(て)+舌(カツ)」の形声。手でまるく束(たば)ねることを括カツという。[説文解字注]は「絜ケツ也。絜者(は)麻一耑タン也(なり)。引申して絜束ケッソク(麻紐で束ねる)と爲す之(これ)を絜ケツ、凡そ物を圍(かこ)う度(とき)之(これ)を絜ケツと曰う」とし、くくる意とする。
意味 くくる(括る)。まとめる。くびる。くびれる(括れる)。「一括イッカツ」(ひとまとめ)「包括ホウカツ」(ひとつに包んでまとめる)「概括ガイカツ」(ひっくるめてまとめる)「括弧カッコ」(弧状のもので括る)「括カツノウ」(①ふくろの口をくくる。②くくりまとめる。③口をつぐむ。知能をかくす)
<紫色は常用漢字>

<参考音符>
 ゼツ・した  舌部
解字 口の中から舌が出ている形の象形。舌カツとは同形異義の別字。
意味 (1)した(舌)。べろ。したの形をしたもの。「舌根ゼッコン」(舌のねもと)(2)いう。しゃべる。ことば。「舌禍ゼッカ」(自分の口から起こる災い)「毒舌ドクゼツ」(意地の悪い言葉)
イメージ  「した」(舌・甜・恬・銛)
音の変化 ゼツ:舌  セン;銛  テン:甜・恬
音符「舌ゼツ」へ

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音符「枼ヨウ」<葉の古字・うすっぺらい>と「葉ヨウ」「蝶チョウ」「諜チョウ」「鰈チョウ」「牒チョウ」「喋チョウ」「緤セツ」「渫セツ」「笹ささ」

2024年07月18日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ヨウ・は  木部

解字 甲骨文は、三枚の葉が木の上にある形の象形で木の葉を意味する。金文は上部で、十十十(三枚の葉)が下部で連結し、その下に木がつく形。篆文は中央の十が大きくその下の左右に十がついて連結し、下に木がつく。隷書(漢代)は十十が乚の上に乗り、下に木がつく形を経て現在の「世+木」に変化した枼になった。枼は葉の古字である。また、上部が世(三十年で一世代)であるために世の中の意で用いられることがある。
意味 (1)は(枼)。木の葉の古字。(2)薄い木片。(=牒)(3)音符になるとき「世セイ」の意味で用いられることがある。

イメージ 
 「葉の古字」
(枼・葉・笹)
  葉のように「うすっぺらい」(蝶・鰈・牒・諜・喋)
 「世の代替字」(緤・渫)
音の変化  ヨウ:枼・葉  チョウ:蝶・鰈・牒・諜・喋  セツ:緤・渫  ささ:笹

葉の古字
 ヨウ・は  艸部
解字 「艸(くさ)+枼(葉の古字)」の会意形声。枼は葉の古字で、もともと葉の意。それに艸(くさ)を付けて葉の意味を明確にした字。
意味 (1)は(葉)。草木の葉。「紅葉コウヨウ」「落葉ラクヨウ」「葉脈ヨウミャク」「針葉樹シンヨウジュ」(2)葉の形をしたもの。「前頭葉ゼントウヨウ」(頭の前方にある大脳半球の一部)「肺葉ハイヨウ」(肺が木の葉のように分かれる各々の部分)(3)紙など薄いものを数える語。「一葉イチヨウ
<国字> ささ  竹部
解字 「竹(たけ)+世(枼の略体=葉の古字)」の会意。葉ばかりで幹がない竹。ささ。

笹の自生する場所(「巨大な笹の葉を採る」より)
意味 (1)ささ(笹)。背の低い竹の総称。「笹舟ささぶね」「笹飴ささあめ」(2)笹の葉のような形。「笹身ささみ」(ニワトリの、笹の葉のような形をした、やわらかい胸の肉)(3)姓。「笹部ささべ」「笹岡ささおか」「笹田ささだ」「笹山ささやま

うすっぺらい
 チョウ  虫部
解字 「虫(むし)+枼(うすっぺらい)」の会意形声。うすっぺらい葉のような羽をもつ虫。
意味 (1)ちょう(蝶)。ちょうちょ。ちょうちょう。「蝶々チョウチョ」「胡蝶コチョウ」(蝶の異称)(2)蝶に似たもの。「蝶番ちょうつがい」「蝶結び」(紐や帯を蝶の形に似せて結ぶこと)
 チョウ・かれい  魚部
解字 「魚(さかな)+枼(うすっぺらい)」の会意形声。うすっぺらい魚。
意味 かれい(鰈)。浅い海の底にすむ平べったい魚。海底にすむのに適応し両目が底と反対側につくよう進化した。カレイ科の硬骨魚の総称。両目は腹を下にすると右になり、似た魚であるヒラメと区別できる。「笹鰈ささがれい」(ヤナギムシガレイの生干し。笹の葉に似ていることから)

「左(だり)、鮃らめに右、鰈かれい」
腹を手前に置いて左に顔があるのがヒラメ,右にあるのがカレイ。
 チョウ・ふだ  片部
解字 「片(きれはし)+枼(うすっぺらい)」の会意形声。薄い木札。
意味 (1)ふだ(牒)。文書を記した木の札。書きつけ。「符牒フチョウ」(しるし。記号)「牒状チョウジョウ」(順番に回して用件を伝える書状。まわしぶみ)(2)役所の公文書。「官牒カンチョウ」(太政官からの公文書)「通牒ツウチョウ」(書面で通知すること)「最後通牒サイゴツウチョウ
 チョウ  言部
解字 「言(ことば)+枼(うすっぺらい)」の会意形声。敵地に入り、うすっぺらな軽い言葉を使って相手の反応をさぐること。
意味 (1)まわしもの。しのび。スパイ。「諜者チョウシャ」「間諜カンチョウ」(敵の間に入る諜者)(2)うかがう。さぐる。「諜報チョウホウ」(さぐって報せる)
 チョウ・しゃべる  口部
解字 「口(くち)+枼(うすっぺらい)」 の会意形声。内容のないうすっぺらい言葉をしゃべること。
意味 しゃべる(喋る)。口数が多い。「喋喋チョウチョウ」(ぺらぺらとしゃべる)「喋喋喃喃チョウチョウナンナン」(男女がうちとけて語り合うこと。喃喃ナンナンも、しゃべる意)

世の代替字 
 セツ・きずな  糸部
解字 「糸(いと)+枼(=世セイ⇒セツ)」の形声。枼は世と代替されることがある。紲セツは、「糸(ひも)+世(長い時間。三十年)」で、長い間、紐でつながれること。馬や牛を紐で杭などにつなぐ意で束縛すること。「きずな(絆)」という言葉は近年、人と人の結びつきという意味で用いられるが、緤にはその意味はない。
意味 (1)きずな(緤)。=紲セツ。「縲緤ルイセツ」(まつわるひも。やっかいな束縛)(2)つなぐ。「緤馬セツバ」(馬をつなぐ)
 セツ・さらう  氵部
解字 「氵(水)+枼(=世セイ⇒セツ)」の形声。セツは泄セツ(=排泄ハイセツ。不要なものを体外に出す)に通じる。渫の字では、川や溝の中の不要なものを取り出す意味になる。
意味 さらう(渫う)。河川や溝の水深を深くするため水底の泥や砂などを除きとる。「浚渫シュンセツ」(水底の土砂や石をさらうこと)「浚渫船シュンセツセン」「井渫セイセツ」(井戸さらい)「井渫不食セイセツフショク」(井(せい)渫(さら)えども食せず。井戸がきれいになっても飲用としない。賢者が登用されないままでいる)
<紫色は常用漢字>

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音符「㓞ケイ」<きざむ>と「絜ケツ」「潔ケツ」「齧ゲツ」「契ケイ」と「禊ケイ」「喫キツ」「楔セツ」

2024年07月16日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ケイ・ケツ・ゲツ  刀部 qì・qià・yáo            

解字 甲骨文字は傷を表す指示記号の丰カイと刀(かたな)」に従い、おそらく刀で傷をつける様子を表している[甲骨文字辞典]。金文から左右が入れ替わるが同じかたちで続き、篆文の[説文解字]は「巧みに㓞(きざ)む也(なり)。刀に従い丯カイの聲(声)。発音は恪入切とする。横に三本の線を刻したものに、さらにタテの線を刻したかたち。単独で使われず音符として用いられる。刀で刻み目を横に三本つけ、これをタテ半分に切った形でもあり、刻み目のついている部分を別々に保管し、後でつき合わせて割り符(約束のしるし)にする意味もある。新字体の音符になるとき、丰の下は突き出ない。
意味 (1)傷をつける。巧みにきざむ。(2)刻み目をつけて半分に分ける。

イメージ 
 「きざむ」(齧・絜・潔)
音の変化  ケツ:絜・潔  ゲツ:齧 

きざむ
 ゲツ・かじる・かむ  歯部 niè
解字 「齒(歯の旧字)+㓞(きざむ)」の会意形声。歯でものをきざむこと。[説文解字]は「噬ゼイ(かむ・くう)也(なり)。齒に従い㓞の聲(声)。発音は五結(ゲツ)切」とする。
意味 かむ(齧む)。かじる(齧る)。「齧歯類ゲッシルイ」(犬歯を持たず前歯の発達した哺乳動物。ネズミ・ウサギ・リスなど)「齧噬ゲツゼイ」(かむ・かじる・くいこむ。噬ゼイもかむ・かじる意)
 ケツ・ケイ  糸部 jié・xié

麻苧(あさお)(「京都神具製作所のブログ」より)
解字 「糸(いと)+㓞(きざむ)」の会意形声。麻の皮の繊維をタテに割いて(きざんで)糸状にしたもの。いわゆる麻苧(あさお)で、これを白木の棒の先にたくさん付けて垂らしたものが大麻おおぬさ(=大幣)である。大麻(おおぬさ)は古くから神事に用いられ、これを振って清め祓(はら)いをする。
意味 (1)きよめる。きよい。「絜斎ケッサイ」(神仏に祈願する前に、物事をつつしみ心身を清らかにする。)「絜白ケッパク」(心が清くけがれがないこと。)(2)麻苧(あさお)で、つなぐ(絜ぐ)・むすぶ(絜ぶ)。「子孫は累世ルイセイを絜(つな)ぐ」(子孫は何世代も馬車に乗ることを絜(つな)ぐ)[韓非子・五蠹篇])
 ケツ・いさぎよい  氵部 jié  
解字 「氵(水)+絜(身をきよめる)」の会意形声。絜ケツは、身をきよめること。これに氵(水)のついた潔は、水を身体にかけて身を清めること。また、身をきよめて物事をおこなうので、いさぎよい意となる。
意味 (1)きよい。けがれがない。きれい。「潔白ケッパク」「潔斎ケッサイ」(水を身体にかけて心身を清めること)「清潔セイケツ」「潔癖ケッペキ」(極度に不潔をきらうこと)(2)いさぎよい(潔い)。思いきりよく立派。


 <人が木片などに刻み目を入れて割符をつくる>
 ケイ・ケツ・セツ・キツ・ちぎる・きざむ  大部 qì・qiè・xiè

解字 「大(人の正面形)+㓞(きざむ)」の会意形声。人が木片などに刻み目を入れてタテの線で分け、割符をつくること。割符を持った二人はのちに刻み目が合うことを確認し約束の印とする。きざむ意と、割符を作って約束する意とある。
意味 (1)ちぎる(契る)。約束する。「契約ケイヤク」「契機ケイキ」(ちぎりをきっかけに)(2)割り符。割り印。「契印ケイイン」「契符ケイフ」「契合ケイゴウ」(ぴったり一致する)(3)きざむ(契む)。しるしをつける。ほる。

イメージ 
 刻み目をつけたものを半分に分けて「ちぎる」(契)
 「きざむ」(喫・楔)
 「形声字」(禊)
音の変化 キツ:喫  ケイ:契・禊  ケツ:楔  

きざむ
 キツ  口部 chī
解字 「口(くち)+契(きざむ)」の会意形声。食べ物を口の中できざむ(かむ)こと。本来は食べる意であるが、「のむ」「すう」意でも使われる。
意味 (1)食べる。かむ。「喫飯キッパン」(飯を食べる)「満喫マンキツ」(十分に飲み食いする。十分に満足する)(2)のむ。「喫茶キッサ」(3)すう。「喫煙キツエン」(4)こうむる。身にうける。きっする(喫する)。「喫驚キッキョウ」(びっくりする=吃驚)「喫水線キッスイセン」(船の水中と水上の境)
 セツ・ケツ・くさび  木部 xiē
解字 「木(き)+契(きざむ)」の会意形声。きざみ目(割れ目)を作り、そこに先を尖らせた木を打ちこむこと。打ち込んで割ったり、両方にまたがらせて打ち込み、つなぎ合わせたりする。

木材を芯まで乾燥させるため楔をうちこむ(「森本工務店のHP」より)
意味 (1)くさび(楔)。うつ。先がV字形になった堅い木片や金属片。隙間に差し込んで物を割ったり、押し上げたりする。「楔形文字くさびがたモジ」(古代メソポタミアを中心に用いられた粘土に先の尖った用具で刻まれた楔状の文字)「木楔きくさび」(木のくさび)「楔撃ケツゲキ」(うちこむ)(2)物と物をつなぎ合わせるもの。「楔留(くさびど)め」(楔を打って継ぎ目を留めること)

楔形文字

楔差しホゾ接ぎ(「半布里工房のHP」より)

形声字
 ケイ・みそぎ・はらう  示部 xì
解字 「示(祭壇:神)+契(ケイ)」の形声。伝承古文字に「示(神)+絜ケイ(きよめる)」の[示絜](これで一字。発音はケイ)があり、水辺で身をきよめ災難をはらう祭祀をいう。古代中国で三月上巳(初めての巳の日)に川辺で行われた不祥を除去する祭祀を言った。六朝期になると永和9年(353)3月3日、会稽郡(今の浙江省紹興市)で人工河川の曲水を配した蘭亭に紳士があつまり、王羲之オウギシ(政治家・書家)が催した修禊シュウケイ(禊みそぎを修める)の雅(みなび)な会として復活した。酒をいれた盃を曲水に流し、詩をつくりながら酒を飲むという風雅な催しで日本の雛祭りの源流になったとも云われる。「蘭亭序」は、ここで詠まれた詩集の序文として自ら書写した草稿。
意味 みそぎ(禊)。はらう(禊う)。水で身体を洗いきよめる。また、そのまつり。「祓禊フッケイ」(はらうこと。祓も禊も、はらう意)「禊事ケイジ」(みそぎの祭り)「禊宴ケイエン」(禊事のあとの酒宴)「修禊シュウケイ」(禊みそぎを修める)
<紫色は常用漢字>

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音符「冫ヒョウ」<こおり> と「氷ヒョウ」「馮ヒョウ」「憑ヒョウ」「凴ヒョウ」

2024年07月14日 | 漢字の音符
  改訂しました。
[仌] ヒョウ  冫部にすい

解字 篆文は、固まっている氷のかたち。氷の中の筋模様のかたちとされる。のち、仌となり、これが変形して冫となった。氷を意味するが、単独で用いられることなく、氷や冷たい意を中心に部首「冫にすい」として用いられる。
意味 こおり
参考 部首としての「冫にすい」。冫は漢字の左辺(偏)や下部に付いて、氷・冷たい・寒いなどの意を表す。常用漢字で7字、約14,600字を収録する『新漢語林』では48字が収録されている。
常用漢字 7字
 冫にすい (部首)
 凝ギョウ・こる(冫+音符「疑ギ⇒ギョウ」)
 准ジュン・なぞらえる(準の略字)
 凄セイ・すごい(冫+音符「妻サイ⇒セイ」)
 凍トウ・こおる(冫+音符「東トウ」)
 冬トウ・ふゆ(冫を含む会意)
 冶ヤ・いる(冫+音符「台タイ⇒ヤ」)
 冷レイ・つめたい(冫+音符「令レイ」)
常用漢字以外
 凋チョウ・しぼむ(冫+音符「周シュウ⇒チョウ」)
 氷[冰]ヒョウ・こおり(水+音符「冫ヒョウ」)
 冴ゴ・さえる(冫+音符「牙ガ⇒ゴ」)ほか

イメージ 
 「こおり」
(冫・氷)
 「形声字」(馮・凴・憑)

音の変化  ヒョウ:冫・氷・馮・凴・憑

こおり
[冰] ヒョウ・こおり・ひ  冫部

解字 金文は氷のかたまりが二つ水に浮いているさま。篆文は冰で「冫(こおり)+水(みず)」の会意形声。水がこおったものの意。旧字まで同じ形が続くが現代字は、冫が一点になって水の左上に付いた形になった。
意味 (1)こおり(氷)。ひ(氷)。「氷河ヒョウガ」「氷雨ひさめ」(①ひょう。②みぞれ)「氷魚ひうお」(アユの稚魚。氷のように透き通っている小魚)(2)こおる(氷る)。「氷結ヒョウケツ」(水がこおること)(3)こおりのように。「氷解ヒョウカイ」(氷がとけるようになくなる)

形声字
 ヒョウ・フウ  馬部

解字 「馬(うま)+冫(ヒョウ)」の形声。ヒョウはヒョウ(馬が集団で駆ける)に通じ、馬が速く走ること。また、馬が河を渡ること。
意味 (1)馬が速く走る。さかんなさま。「馮気ヒョウキ」(①さかんな意気、②いきどおる気)(2)(馬に例えて)徒渉する。「馮河ヒョウガ」(歩いて河を渡る。無謀なこと)(3)よる(馮る)。(=凴)。よりかかる。(4)つく(馮く)。(=憑)。(5)姓。「馮夷ヒョウイ・フウイ」とは、黄河の水神の名。馮夷は、もと人名。伝説では、黄河をわたるとき流されて死んだので天帝が黄河の水神としたという。
 ヒョウ・もたれる  几部
解字 「几(つくえ)+馮(ヒョウ)」の形声。ヒョウは、凭ヒョウ(もたれる・よる)に通じ、几(つくえ・ひじつき)にもたれる意。凭ヒョウは、「几(つくえ)+任(まかせる)」で、机にひじを任せる(もたれさせる)意。

凴几ヒョウキ(「古道具販売サイト」より)
意味 もたれる(凴る)。よる。よりかかる。「凴几ヒョウキ」(ひじかけ。ひじをもたれさせるもの)「凴欄ヒョウラン」(欄干にもたれる)
 ヒョウ・よる・つく・たのむ  心部
解字 「心(こころ)+馮(=凴。もたれる)」の会意形声。もたれる心から、よりかかる・たのむ意となる。また、転じて、相手にとりつく意となる。
意味 (1)よる(憑る)。よりかかる。たのむ(憑む)。たのみとする。「憑拠ヒョウキョ」(よりどころ。根拠)「憑恃ヒョウジ」(よりかかりたのむ。恃はたのむ意)「信憑シンピョウ」(信じてたよる)「信憑性シンピョウセイ」(証言などの信用できる度合)(3)つく(憑く)。とりつく。「憑依ヒョウイ」(霊などがのりうつること)「憑き物つきもの」(人にとりつき異常な行動をさせる霊。物の怪)「憑巫よりまし」(神霊がとりつく人間。特に霊媒としての女性や子供。ものつき)
<紫色は常用漢字>

<参考 冫(にすい)が含まれる音符>
 トウ・シュウ・ふゆ  冫部

解字 甲骨文は、糸の両端を結びとめた形の象形。糸の末端を結んで終結の意とするもので終の原字。もと、冬は終わる意味で使われていた。金文は間に日を加えて、太陽が終わりに近づく意(冬至)。篆文は日がはずれたが、下に冫(氷)を加えて氷のはる寒い冬を示す。旧字は、「夂(下向きの足:おりる)+冫(氷)」の会意に変化した。氷が降りてくる冬の意。よくみると、現代字は下が冫でない冬である。これでは冬に氷がこない。意味のない変化をしたものである。
意味 ふゆ(冬)。「冬眠トウミン」「越冬エットウ」「冬至トウジ
音符「冬トウ」の漢字 トウ:冬・疼  シュウ:終・柊・螽
音符「冬トウ」を参照 
 カン・さむい  宀部

解字  金文・篆文とも、「宀(建物)+屮(草)四つ+人+冫(こおり)」の会意。屋内に草を敷きつめ、人(金文は足つき)がその中で冫(こおり=さむさ)を避けている形で、さむい意味を表わす。現代字は「塞ソク」と上部の形は同じになったが、塞はレンガで建物をふさぐ形なのに対し、寒は草を建物に敷きつめて、冷たい物(冫:こおり)が来ないよう防いでいる形である。新字体は冬と同じく下に氷(冫:こおり)がこない寒となったが、この字では寒くならない。
意味 (1)さむい(寒い)。つめたい。「寒気カンキ」「寒帯カンタイ」 (2)さびしい。貧しい。「寒村カンソン」「寒煙カンエン」(ものさびしく立つ煙り)
音符「寒カン」の漢字 カン:寒  ケン:搴・蹇
音符「寒カン」の漢字  

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音符「曼マン」 と 「漫マン」「慢マン」「蔓マン」「鰻マン」「幔マン」「鏝マン」「鬘マン」「饅マン」

2024年07月12日 | 漢字の音符
 改訂しました。
 マン  日部 màn        


目出し帽(販売広告より)。この下に帽子をかぶせる又(手)をつけた形が曼マン
解字 金文は「かぶりもの+まゆ(眉)と目+又(手)」の会意。篆文は「冃ボウ(かぶりもの)+罒(横に描かれた目)+又(手)」となった。ずきん(頭巾)を手でひいて深くかぶり、目だけ出している形。[字通]はこの頭巾を「面衣メンイ」としている。貴人の女性が外出するとき人目を避けるため目だけ出す特別な頭巾があったのかも知れない。眉目ビモクの美しさがあらわれる意で、婦人の美しい目元をいう。
 しかし、音符イメージは頭巾を「かぶる(おおう)」となる。現代字は、冃ボウ⇒日に変化した曼となった。字の構造は冒ボウ(=帽子)に又をつけた形である。
意味 (1)(出ている目が)美しい。「曼理マンリ」(美しい肌理きめ)「曼姫マンキ」(美しい姫)(2)ひろい(=漫)「衍曼エンマン」(ひろくはびこる)「衍曼流爛エンマンリュウラン」(悪がひろくはびこり、流れみだれる。悪が世の中全体に広がること)(3)本来の意味でなく梵語の音訳語として使われる。「曼荼羅マンダラ」(多くの仏を模様のように描いた絵)「曼珠沙華マンジュシャゲ」(①天上に咲くという花。②彼岸花の別称)

イメージ 
 「おおう」
(曼・蔓・鰻・幔・鏝・鬘・饅・漫)
  かぶりものをして目だけ出すことから「まわりが見えない」(慢)
音の変化  マン:曼・蔓・鰻・幔・鏝・鬘・饅・漫・慢

おおう
 マン・つる  艸部 màn・wàn・mán

石垣をおおう蔓草(筆者撮影)
解字 「艸(くさ)+曼(おおう)」の会意形声。おおいひろがってのびる草。つる草の意となる。
意味 (1)つる(蔓)。つる草。かずら。「蔓草つるくさ」(茎がつるになって他の物にからみつく草の総称)「蔓草寒煙マンソウカンエン」(はびこるつる草と寂しい煙。荒れ果てた古跡の景色)(2)のびる。はびこる(蔓延る)。「蔓延マンエン」(はびこる)「蔓生マンセイ」(つるが伸びて成長する) 
 マン・うなぎ  魚部 mán
解字 「魚(さかな)+曼(=蔓。つる)」の会意形声。つるのように細長い魚のウナギ。

ウナギ・鰻(「三重県のお魚図鑑」より)
意味 うなぎ(鰻)。ウナギ科の細長い魚。「鰻登(うなぎのぼ)り」(見る見るうちにのぼること)「鰻の寝床」(間口が狭く奥行きの深い家)
 マン・バン  巾部 màn
解字 「巾(ぬの)+曼(おおう)」の会意形声。巾(ぬの)でおおうこと。
意味 まく。ひきまく。「幔幕マンマク」(式場などにはりめぐらす幕)「帷幔イマン」(帷は、たれぎぬ、幔はひきまく。周囲にめぐらした幕)
 マン・こて  金部 màn
鏝(こて)(販売広告から)
解字 「金(金属)+曼(おおう)」の会意形声。壁に土を塗っておおう金属の道具。
意味 こて(鏝)。壁を塗る道具。「仕上鏝しあげごて」(塗った壁面を仕上げする鏝)
 マン・かずら・かつら  髟部かみがしら mán
解字 「髟(かみのけ)+曼(おおう)」の会意形声。髪をおおう飾り、また、毛髪でつくったかぶりもの。
意味 (1)かずら()。髪飾り。つる草などを連ねた飾り。「花はなかずら」「華ケマン」(仏堂内陣の欄間などに掛ける装飾。もとインドの花輪の頭飾りだったが、仏具となったもの。多くは金銅製。)「玉たまかずら」(玉を緒に通し頭に掛けた装具。髪の美称)(2)かつら()。かもじ。毛髪で作ったかぶりもの。(3)人名。「勝ショウマン」(梵語のŚrīmālāの漢語訳。コーサラ国王の娘。アヨーディヤー国王に嫁いだ。=勝夫人)「勝ショウマンギョウ」(勝鬘夫人を語り手とする大乗仏教の経典)
 マン・ぬた  食部 mán
饅頭(ウィキペディアより)
解字 「食の旧字(たべもの)+曼(おおう・かぶせる)」の会意形声。小麦粉など練ってつくった皮で、小豆(あずき)などの餡(あん)をかぶせた食べ物。饅の左辺を食と書いても可。
意味 (1)「饅頭マンジュウ」(皮で餡をおおった菓子)に使われる字。(2)[国]ぬた(饅)。魚・野菜などを酢味噌であえた料理。
 マン・みだりに・そぞろに  氵部 màn  
解字 「氵(水)+曼(おおってひろがる)」の会意形声。水が溢れておおいひろがる意。転じて、とりとめのない意となり、さらに、こっけいの意まで拡大した。
意味 (1)ひろい。水の果てなく広いこと。「漫漫マンマン」(2)みだりに(漫りに)。とりとめがない。「散漫サンマン」「放漫経営ホウマンケイエイ」(3)なんとなく。そぞろに(漫ろに)。「漫然マンゼン」「漫遊マンユウ」(4)こっけいな。「漫画マンガ」「漫才マンザイ

まわりが見えない
 マン・あなどる  忄部 màn 
解字 「忄(心)+曼(まわりが見えない)」の会意形声。曼は目出し帽のため、正面を向いたままでは、まわりが見えず井の中の蛙となり、心がおごること。また、まわりが見えないため、ゆっくりと進む意ともなる。
意味 (1)おごる。あなどる(慢る)。「自慢ジマン」「慢心マンシン」「高慢コウマン」(2)おこたる(慢る)。なまける。「怠慢タイマン」(3)ゆるやか。おそい。「慢性マンセイ」「緩慢カンマン
<紫色は常用漢字>

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