漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「并ヘイ」<あわせる・ならぶ> と 「併ヘイ」「塀ヘイ」「餅ヘイ」「瓶ビン」

2022年02月26日 | 漢字の音符
 ホウ・ヘンを追加しました。
并[幷] ヘイ  干部

解字 「人人+二」の会意。人がつきしたがう形の从ジュウに二を加えて横につないだ形。あわせる・ならぶ意を表わす[字統]。新字体で「并」の形に変化する。現在、パソコンでは各字の旧字がでないので、すべてに「并」を使います。
意味 あわせる(并せる)。ならぶ(并ぶ)。

イメージ 
 「あわせる」
(并・併・餅・絣・迸・胼) 
 「ならぶ」(屏・塀・瓶・駢)
音の変化  ヘイ:并・併・餅・屏・塀  ヘン・ベン:駢・胼  ホウ:絣・迸  ビン:瓶  

あわせる
 ヘイ・あわせる  イ部
解字 「人(ひと)+并(あわせる)」の会意形声。人をさらに加えて并(あわせる)の意味を強めた。
意味 (1)あわせる(併せる)。「合併ガッペイ」「併合ヘイゴウ」 (2)ならぶ。「併発ヘイハツ
 ヘイ・もち  食部 
解字 「𩙿(食が偏にきた形)+并(あわせる)」の会意形声。小麦粉や米粉などをこね合わせて焼いたり蒸した食品。日本ではもち米を蒸して搗いた食品をいう。新指定の常用漢字で、𩙿⇒飠にしても可。
意味 (1)小麦粉などをこねて焼いたり蒸した食品。「月餅ゲッペイ」(小麦粉などを材料にした中国風の焼き菓子)「煎餅センベイ」「画餅ガヘイ」 (2)[国]もち(餅)。もち米を蒸して搗いた食品。「鏡餅かがみもち」「菱餅ひしもち
 ホウ・ヒョウ・かすり  糸部
解字 「糸(いと)+并(あわせる)」の会意形声。日本では、あらかじめ染め分けた糸をあわせて織る織物の意味でつかう。本来の意味は多様性があり、日本ではほとんど使われない。
意味 (1)きぬ。無地のきぬ。 (2)わた(綿)。 (3)つぐ。続く。 (4)[国]かすり(絣)。絣糸(かすりいと)、すなわち前もって染め分けた糸を経糸(たていと)、や緯糸(よこいと、ぬきいと)、またはその両方に使用して織り上げる文様。また、かすり模様のある織物。飛白とも書く。「織絣おりがすり」「染絣そめがすり」(染めの技法で飛白(かすり)を表現したもの)
 ホウ・とばしる  辶部
解字 「辶(すすむ)+并(あわせる)」の会意形声。あわせ出ること。勢いよく出る意となる。新字体でないため二点しんにょう。
意味 (1)とばしる(迸る)。とばしり(迸り)。ほとばしる。勢いよく飛び散る。「迸発ホウハツ」(勢いよく発する)「迸出ホウシュツ」(ほとばしり出る。わきでる)「迸散ホウサン」 (2)とばちり(迸り)。とばっちり(迸り)。
 ヘン・ベン  月部にく
解字 「月(にく・皮ふ)+并(あわせる)」の会意形声。手や足の皮膚が重なったように厚くなること。「たこ」をいう。
意味 たこ(胼)。まめ。「胼胝ヘンチ・たこ」「胼手胼足ヘンシュヘンソク」(手足がたこだらけである。長期にわたるつらい労働)

ならぶ
 ヘイ・ビョウ・おおう  尸部
解字 「尸(居の略形:すまい)+并(ならぶ)」の会意形声。住居の中や周りにならんで、おおうものの意で衝立やへいを言う。また、おおう・(おおいの中に)ひきこもる意となる。
意味 (1)へい。かきね。(2)おおう(屏う)。かくす。ふせぐ。ついたて。「屏風ビョウブ」(室内に立てる風よけ、また仕切り)(3)(へいの中に)ひきこもる。しりぞく(屏く)。「屏居ヘイキョ」(①家にひきこもる。②世の中からしりぞく)「屏息ヘイソク」(息をひそめる。おそれ縮こまる)「屏語ヘイゴ」(ひそひそ話)
 ヘイ  土部
解字 「土(つち)+屏(へい)」の会意。土のへいの意。土塀だけでなく、ひろく囲い・垣根を意味する。
意味 へい(塀)。土べい。家や敷地の囲いとして設けたへい。「土塀ドベイ」「板塀いたべい
 ビン  瓦部
解字 「瓦(=瓦器。かわらけ)+并(ならぶ)」の会意形声。もと二つ並べて神にそなえる瓦器。また二つならべて上下させる井戸つるべ。のち、単に水をくむ器や、液体を入れる小口の容器の意となった。
意味 (1)かめ。「酒瓶シュビン」 (2)とっくり型の容器。「花瓶カビン」 (3)井戸つるべ。「釣瓶つるべ」 (4)[国]びん(瓶)。湯を沸かす器。「土瓶ドビン」「鉄瓶テツビン
 ヘン・ベン・ならぶ  馬部
解字 「馬(うま)+并(ならぶ)」の会意形声。二頭の馬をならべて車につけることから、ならぶ意となる。
意味 ならぶ(駢ぶ)。ならべる。つらなる。「駢肩ヘンケン」(肩をならべる)「駢文ベンブン」(ならぶ文で対句のこと。対句を基本とする文体をいう)「四六駢儷体シロクベンレイタイ」(駢も儷も、ならぶ意でここでは対句のこと。四字および六字の対句を基本とした文体。=駢儷体)
<紫色は常用漢字>

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音符「金キン」<最初は銅の延べ棒> と 「錦キン」「欽キン」「銜カン」

2022年02月23日 | 漢字の音符
 キン・コン・かね・かな  金部

解字 甲骨文は銅の延べ棒二つを積んだ形の象形。中国では春秋時代まで金属器は銅(青銅)にほぼ限られていた。(青銅は、銅と錫(すず)の合金で、多くの銅鉱石は錫を同時に含むので自然に青銅が得られた。)青銅は、本来、淡い金色をしており、当時の最高級の金属原料であった。その後、戦国時代中期以降に鉄や金銀の加工技術が普及し、やがて「金」は、金属の総称、また黄金を指して使われるようになった[甲骨文字小字典]。
 金文第一字は、「A(やね)+二印(銅の延べ棒)+王(王様)」の会意で、王が倉庫で保管している銅の延べ棒を表す。金文第二字は、 と王が合体して全の形になり、そこに二点が入りこんだ形。篆文は王の字形が変化し、二印が左右に分かれて入りこんだ。現代字は、金文第二字の二点が両側に分かれて入った形の「金」になった。なお、銅の字は金が黄金の意になってから作られた字で、「金+同」は、金と同じような色をしている銅の意。
意味 (1)きん(金)。こがね(金・黄金)。「黄金オウゴン」「金塊キンカイ」 (2)かね(金)。かな(金)。金属の総称。「金属キンゾク」 (3)ぜに。通貨。かね(金)。おかね。「金額キンガク」「金融キンユウ」 (4)りっぱな。美しい。「金言キンゲン」 (5)五行(木・火・土・金・水)。七曜(日・月・火・水・木・金・土)の一つ。「金星キンセイ」「金曜キンヨウ

イメージ 
 「黄金・金属」
(金・錦・銜)
 「形声字」(欽)
音の変化  キン:金・錦・欽  カン:銜

黄金・金属
 キン・にしき  金部
解字 「帛ハク(きぬ織物)+金(金糸)」の会意形声。帛は「白+巾」で白い絹布のこと。錦は、金糸や色糸を織り込んだ美しい模様を織り出した絹織物。なお、重さが黄金と等しい値打ちがある色糸の絹織物との説もある。金は部首でかつ音符になっている。
意味 (1)にしき(錦)。金糸や銀糸・色糸などを織り込んだ美しい織物。「錦旗キンキ」(錦のみはた。①官軍の標章。②自分の行為・主張を権威づけること) (2)にしきのように美しい。「錦絵にしきえ」「錦秋キンシュウ
 カン・ガン・くつわ・ふくむ  金部
解字 「行(ゆく)+金(金具)」の会意。馬の口を横に行き(ゆく・わたす)、くわえさせる金具。馬のくつわをいう。会意のため金は発音に関係しない。
馬銜バカン(ネットの乗馬商品より)
意味 (1)くつわ(銜)。くつばみ。轡くつわとも書く。馬の口にくわえさせて手綱をつける金具。「馬銜バカン」(馬のくつわ)「銜勒ガンロク」(銜も勒も、くつわの意)(2)(馬がくつわを)くわえる(銜える)。ふくむ(銜む)。「銜枚カンバイ」(馬の口に枚[薄い木片]をくわえさせ声を出させない)「銜哀致誠ガンアイチセイ」(哀を銜み誠を致す。人の死を弔う語)

形声字
 キン・つつしむ  欠部

解字 金文と篆文は「欠(口をあけて声を出す)+金(キン)」の形声。この字の成り立ちについて納得できる解字が見つからない。古典の意味は、「詩経・小雅」に「鐘(かね)を鼓(こ)すること欽欽キンキンたり」とあり鐘の音のなるさまを表現していることから、[漢字源流字典](中国)は、金を鐘の略体とみなし、鐘の音を聞いた人が声を出して感動し、天を敬いあおぐ意とする。さらに、敬う意から天皇の行為に対する敬称の意になった。
意味 (1)鐘の音の形容。「欽欽キンキン」(鐘の音の鳴るさま) (2)うやまう。「欽仰キンギョウ」(相手をうやまいあおぐ)「欽慕キンボ」(うやまいしたう) (3)天皇に関する事柄につけ敬意を表す。「欽定キンテイ」(天子が制定する)「欽命キンメイ」(天子の命令。また、その使者)「欽差キンサ」(天子や天皇の命により使者として差しつかわす)「欽差大臣」(皇帝の全権委任を得て対処する大臣。清朝の官職名) (4)つつしむ(欽む)。「欽明文思キンメイブンシ」(つつしみ深く、道理に明るく、文を理解し、思慮深い。古代の聖王・尭ギョウをほめたたえた語。[書経・尭典])
<紫色は常用漢字>

参考 金は部首「金きん」になる。字の偏(左)に付き、常用漢字で33字ある。
常用漢字
 金キン・かね  (部首) 33字
 鋭エイ・するどい(金+音符「兌エイ
 鉛エン・なまり(金+音符「㕣エン」)
 鍋カ・なべ(金+音符「咼」)
 鑑カン・かんがみる(金+音符「監カン」)
 鏡キョウ・かがみ(金+音符「竟キョウ」)
 錦キン・にしき(「金+帛」、金は部首で音符)
 銀ギン(金+音符「艮コン」)
 鍵ケン・かぎ(金+音符「建ケン」)
 錮(金+音符「固」)
 鉱コウ(金+音符「広コウ」)
 鋼コウ・はがね(金+音符「岡コウ」)
 鎖サ・くさり(金+音符「𧴪」)
 錯サク(金+音符「昔セキ」)
 銃ジュウ(金+音符「充ジュウ」)
 鐘ショウ・かね(金+音符「童ドウ」)
 錠ジョウ(金+音符「定テイ」)
 針シン・はり(金+音符「十ジュウ」)
 銭[錢]セン・ぜに(金+音符「戔セン」)
 鍛タン・きたえる(金+音符「段ダン」」
 鋳チュウ・いる(金+音符「寿ジュ」)
 釣チョウ・つる(金+音符「勺シャク」)
 鎮チン・しずめる(金+音符「真シン」)
 鉄テツ(「金+失シツ」の会意
 銅ドウ(金+音符「同ドウ」)
 鈍ドン・にぶい(金+音符「屯トン」)
 鉢ハチ(「金+本ホン」の会意
 釜フ・かま(金+音符「父」)
 銘メイ・しるす(金+音符「名メイ」)
 鈴レイ・すず(金+音符「令レイ」)
 鎌レン・かま(金+音符「兼ケン」)
 錬レン・ねる「金+音符「柬カン
 録ロク・しるす「金+音符「彔ロク」」

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音符「刃ジン」 <刀のやいば> と「忍ニン」「認ニン」「靭ジン」

2022年02月19日 | 漢字の音符
 ジン・ニン・は・やいば  刀部

解字  甲骨文は刀の先のほうに〇印をつけ、ここに切る部分である刃があることを示した指示文字(下の二股になった部分は刀の柄)。篆文は〇⇒短線になって刀の筆画の二画目に付いた。隷書(漢代)は短い線が斜め画と交差、旧字は斜め画と平行にノ印となり、現代字は交差した刃になった。刀は刀身の片側に刃がついており、刃の部分は鍛錬されて硬く刃先は鋭い。一方、刃の反対側のミネは厚く平らになっている。刃が両側にあるものを剣という。
甲骨文字の刀は、なぜ二股になっている方が柄なのか?

中国の古代刀は鍔(つば)の部分が伸びて柄の手を保護するようになっているものがあり、甲骨文字の刀はこのような鍔を描いているのかもしれない。[古代刀の検索サイトから]
意味 (1)は(刃)。やいば(刃)。切るために薄く鋭く加工した刀の部分。「刀刃トウジン」(刀のやいば)「刃物はもの」 (2)刃物で切る。「刃傷ニンジョウ」(刃物で人を傷つける)

イメージ  
 「刀の刃(は)」(刃・籾)
 「形声字」(忍・認・荵・靭・仞)
音の変化  ジン:刃・靭・仞  ニン:忍・認・荵  もみ:籾

刀の刃(は) 
<国字> もみ  米部
 籾
解字 「米(こめ)+刃(は)」の会意。刃のような尖った筋が外皮にある脱穀する前の米。
意味 (1)もみ(籾)。脱穀する前の外皮に包まれたままの米。もみごめ。「種籾たねもみ」(種子としてまく籾)「籾摺機もみすりき」(籾を摺って籾殻もみがらを取り去る機械) (2)もみがら。「籾殻もみがら」(脱穀して取り去った籾のから)

形声字
 ニン・しのぶ・しのばせる  心部
解字 「心(こころ)+刃(ジン・ニン)」の形声。ジン・ニンは、任ニン・ジン(たえる)に通じる。任に仕事などを引き受ける意味があるが、さらに仕事を引き受けて「たえる」意味がある。忍は耐える心、すなわち、しのぶ意となる。
意味 (1)しのぶ(忍ぶ)。つらいことを粘り強く持ちこたえる。「忍耐ニンタイ」(忍も耐も、たえる意)「忍従ニンジュウ」(がまんして従う)「忍辱ニンジョク」(恥をしのぶ)「忍苦ニンク」(苦しみをがまんする)「堪忍カンニン」(たえ忍ぶ。たえて許す) (2)むごい。「残忍ザンニン」 (3)[国]しのび(忍び)。しのばせる(忍ばせる)。めだたないように物事をする。「忍術ニンジュツ」「忍者ニンジャ
 ニン・みとめる  言部
解字 「言(ことば)+忍(たえる)」の会意形声。[字統]によれば、もと「言+刃」で[説文解字]に「なやむなり」とある字。認の字は[説文解字]になく、のち認識する(認める)意味で用いられるようになったという。
覚え方 「言(ことば)+忍(たえる)」で、耐えてねばり強く主張する意が転じて、主張が認められる意となる。
意味 みとめる(認める)。「認可ニンカ」「認定ニンテイ」「認識ニンシキ
 ニン  艸部
解字 「艸(くさ)+忍(たえる)」の形声。ニンという名の草。「荵冬ニンドウ」に使われる字。忍冬とも書く。
意味 「荵冬ニンドウ・すいかずら」とは、スイカズラ科のつる性常緑低木。忍冬とも書く。その葉は秋に少し残り冬を越すので「冬を耐え忍ぶ草」の意であり、生薬名となっている。解熱・利尿剤。また、花は金銀花といい薬用。「荵冬酒(忍冬酒)ニンドウシュ」(スイカズラの茎葉を干したものを焼酎にいれた薬用酒) 「荵冬文(忍冬文)ニンドウモン」(忍冬のようなつる草を図案化した文様)
 ※冬のスイカズラの写真は、GOOブログ「スイカズラ 冬を耐え忍ぶ姿 - 木曽Now2 」に紹介されている。
 ジン・ニン・しなやか  革部
解字 「革(なめしがわ)+刃(ジン・ニン)」の形声。ジン・ニンは、任ニン・ジン(たえる)に通じる。革カクは動物の皮を加工して、やわらかく強くした皮の加工品である「なめし革」をいい、靭ジンは、なめし革のようにしなやかで、かつ丈夫(たえる)なさまをいう。
意味 (1)しなやか(靭やか)。やわらかく強い。「強靭キョウジン」「靭帯ジンタイ」(骨の関節を結び付けている帯のような繊維性のやわらかく強い組織)「靭皮ジンピ」(樹木外皮のすぐ内側にある柔らかな部分) (2)[国]うつぼ(靭)。靫サイ・うつぼ(矢を入れて腰に付ける用具)の誤用。
仞[仭] ジン・ひろ  イ部
解字 「イ(ひと)+刃の旧字(ジン)」の形声。ジンは尋ジン(左右の手をひろげた長さ)に通じ、人が左右の手をひろげて長さを測ること。また、その長さ。仞は特に高さや深さの単位に使う。
意味 (1)ひろ(仞)。高さや深さの単位。周代で7尺または8尺。「千仞センジン」(=千尋)「千仞の谷」(千尋の谷。非常に深い谷) (2)はかる。高さ深さをはかる。
<紫色は常用漢字>

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音符「言ゲン」<はっきりと言う> と 「信シン」「罰バツ」

2022年02月16日 | 漢字の音符
 解字をやり直しました。
 ゲン・ゴン・いう・こと  言部   

解字 甲骨文字第1字は、刃物()の下が伸びて口(くち)が付いたかたち。口から連続して出る音声が刃物で区切られる意で、音がひとつひとつ区切られて言葉になる意。第2・3字はの下から伸びた線に一やVがついた形で、刃物である辛シンの甲骨文字と同じ形になっている。甲骨文字の意味は、「いう・報告する・通達する[甲骨文字辞典]」で、区切ってはっきり言う意味になっており、これが言(ことば)の始まりである。金文は甲骨第3字のVが曲線化した形。篆文で上に短い一が追加された。隷書(漢代)では第2字で、口の上のすべてが横の線に変化し、現代字の言に続く。
 音符「言ゲン」は、厳密にいうと音符となる字はない。会意文字を集めているので、発音はバラバラである。言は部首となる。
意味 (1)いう(言う)。はなす。述べる。「言論ゲンロン」「断言ダンゲン」 (2)こと(言)。ことば(言葉)。「言行ゲンコウ」「遺言ユイゴン
参考 ゲンは、部首「言ごんべん・ことば」になる。左辺や下部に付いて、言葉・言葉を発する・言葉を使う意を表す。言部は常用漢字で68字(第6位)、約14,600字を収録する『新漢語林』では332字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 訂テイ(言+音符「丁テイ」)
 訪ホウ・たずねる(言+音符「方ホウ」)
 詳ショウ・くわしい(言+音符「羊ヨウ」)
 詰キツ・つめる(言+音符「吉キチ」)
 語ゴ・かたる(言+音符「吾」)
 請セイ・こう(言+音符「青セイ」)
 警ケイ(言+音符「敬ケイ」)
 誉[ヨ・ほまれ(言+音符「與」)
 誓セイ・ちかう(言+音符「折セツ」)など。

イメージ 
 「はっきりという・いう」
(言・信・詈・罰)
 「仮借カシャ(当て字)」(這)
音の変化  ゲン:言  シャ:這  シン:信  バツ:罰  リ:詈

はっきりという・いう
 シン・まこと  イ部
解字 「イ(人)+言(はっきりという)」の会意。一度はっきりと言ったことを押しとおす人の行為。
意味 (1)まこと(信)。「信義シンギ」 (2)信用する。「信任シンニン」 (3)ニュース・たより。「音信オンシン」「風信フウシン
 リ・ののしる  言部
解字 「罒(=网。あみ)+言(はっきりという)」の会意。言(はっきりという)が罒(網をかぶせられる)て、無効になること。ののしる意となる。
意味 ののしる(詈る)。きびしく非難する。「詈言リゲン」(ののしる言葉)
 バツ・バチ  罒部
解字 「詈(ののしる)+刂(刀)」の会意。詈って刀でこらしめること。
意味 (1)ばつ(罰)。しおき。こらしめ。「処罰ショバツ」「罪つみと罰バツ」「罰則バッソク」「体罰タイバツ」 (2)ばち(罰)。罪のむくい。「天罰テンバツ

仮借カシャ(当て字)
 シャ・ゲン・この・はう  辶部 
解字 「辶(ゆく)+言(いう)」の形声。本来は言葉を出しながら迎えにゆく意だが、この・これの意に仮借カシャ(当て字)された。また、日本では幼児が言葉を出しながら行く意から、「はう」という動詞に用いる。常用漢字でないため、二点しんにょう。
意味 (1)この。これ。「這般シャハン」(これら。このたび)「這裏シャリ」(このうち) (2)[国]はう(這う)。はらばう。「這子ほうこ」(はいはいする人形)「這松はいまつ」(地を這うように枝がのびる松)
<紫色は常用漢字>

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音符 「夬ケツ・カイ」 <ゆがけ・えぐりとる> と 「決ケツ」「欠(缺)ケツ」 「快カイ」

2022年02月14日 | 漢字の音符
   夬ケツ・カイの解字を改めました。ゆがけ(夬)の写真を追加しました。
 ケツ・カイ  大部
最初は弓のつるを引く「ゆがけ」

ゆがけ(夬)。右手の親指にはめている。[北京の弓箭師・楊福喜氏]

 解字 甲骨文字は三本指の手の先に〇を描き、指輪状のものをはめていることを表している。春秋戦国期の簡帛は、手のひとつの指に〇をはめている形を表す。これは弓を射るとき弦をひっぱるための「ゆがけ」と考えられている。「ゆがけ」は角や玉製の短円筒で、これを右手の親指にはめて、円筒の端に弓弦をひっかけ人差し指で押さえながら弓を引く(現在の「ゆがけ」は手袋の中に仕込まれている)。
 篆文になると、第1字は指の先に中の字が付いた形になり、第2字の[説文解字]で、コの形にタテ線になった。説文著者の許慎は夬を「分決するなり」として、切り分ける意に解釈した。これは篆文のコ形を刀と解釈し、これを手に持つ形としたためである。許慎にいたり夬の字は、字形と意味に大幅な変更がともなった。これ以降の夬は、刃物を手に持って物に切りこみを入れる意味が主流となり、音符として「えぐり取る」等のイメージで用いられる。(字形の変遷は中国の「字源」を参考にした)
意味 (1)ゆがけ(夬)。弓の弦を引く道具。弓懸とも書く。 (2)わける。 (3)きめる(=決)

イメージ  
 「えぐり取る」
(夬・抉・刔・決・快)
 「切り込みを入れる」(袂・玦・欠) 
 「切って分ける」(訣)
 「形声字」(鴃)
音の変化  ケツ:抉・刔・決・訣・玦・欠(缺)  カイ:夬・快  ゲキ:鴃  ベイ:袂

えぐりとる
 ケツ・えぐる  扌部
解字 「扌(手)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。手で刃物を使ってえぐること。夬には篆文でもわかるように手(又)が描かれており、それにまた手を加えている。これは、もともと夬でえぐりとる意を表していたが、後にさらに手を加えて意味を確認した形である。
意味 えぐる(抉る)。こじる(抉じる)。ほじくり出す。「抉出ケッシュツ」「抉剔ケッテキ」(抉も剔も、えぐる意。えぐりだす)
 ケツ・えぐる  刂部
解字 「刂(かたな)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。夬ケツは、えぐり取る意であり、それに刀(刂)を加えて意味を確認した字。
意味 えぐる(刔る)。くじる。ほじくりだす。抉と同じ。
 ケツ・きめる・きまる  氵部
解字 「氵(水)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。洪水のとき堤防の一部をえぐり取って水を流し、下流の町が氾濫で水に浸かるのを防ぐこと。また、堤防を切ることは決断を要することなので、決める意となる。
意味 (1)きれる。さける。堤防などが切れて水があふれ出る。「決壊ケッカイ」 (2)きめる(決める)。きまる(決まる)。「決定ケッテイ」「決断ケツダン」「決勝ケッショウ」 (3)思いきって。勢いがよい。「決起ケッキ」 (4)かならず。けっして(決して)。
 カイ・こころよい  忄部
解字 「忄(心)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。心のしこりを抉りとった後の心地よい感じ。
意味 (1)こころよい(快い)。「痛快ツウカイ」「快適カイテキ」「快晴カイセイ」 (2)はやい。「快速カイソク」 (3)病気が治る。「快気祝カイキいわい」 (4)するどい。「快刀乱麻カイトウランマ」(するどい刀で乱れもつれた麻を切る)

切り込みをいれる
 ベイ・たもと  衤部
解字 「衤(衣)+夬(切り込みをいれる)」 の会意。衣服の腕を出す部分に切り込みを入れて作る袖そで。本来は着物の袖の切り込みの意だが、袖やたもとの意となる。
意味 たもと(袂)。そで。筒袖の肘から肩までの間。また、袖の下の袋状の部分。「袂別ベイベツ」(袂を別つ)「分袂ブンベイ
 ケツ  玉部
 西周の玉玦
解字 「王(玉)+夬(切り込みをいれる)」 の会意形声。一方に切り込みの入った輪の形の玉。
意味 古代の装飾品。環状で一部が欠けている玉。小型の物は耳飾り(ピアス)として、比較的大きいものは装身具として用いられた。「玉玦ギョクケツ
[缺] ケツ  欠部(旧字は缶部)
解字 旧字は缺で「缶(ほとぎ)+夬(切り込みが入る)」 の会意形声。缶は土のうつわのこと。これに切り込みが入ってしまうこと。すなわち割れたり欠けたりすること。新字体で「欠」の字に置き換えられた。この結果、これまで「あくび」の意味だった欠ケンという字が、かける(欠ける)という意味と、ケツという発音を獲得した。
意味 (1)かける(欠ける)。かく(欠く)。割れる。「欠損ケッソン」 (2)たりない。不足する。「欠点ケッテン」 (2)やすむ。とりやめる。「欠席ケッセキ

切って分ける
 ケツ・わかれる  言部
解字 「言(いう)+夬(切って分ける)」 の会意形声。言葉で相手との関係を切って別れること。また、別れ(死)に際して家の秘伝を子孫に伝える(言)こと。
意味 (1)わかれる(訣れる)。いとまごい。「訣別ケツベツ」(=決別) (2)奥の手。おくぎ。「秘訣ヒケツ」「訣要ケツヨウ」(奥の手)

形声字
鴃[鴂] ゲキ・ケツ・もず  鳥部

鴃(もず)(「ウィクショナリー 鴃」より)
解字 「鳥(とり)+夬(ケツ)」 の形声。ケツが転音したケキ・ゲキの発音で、同音のケキ・ゲキ(もず)を表す。
意味 もず(鴃)。スズメ目モズ科の鳥。他の種類の鳥や動物の鳴き声をよくまねる。秋から11月頃にかけて縄張りを作り、高い梢などで鋭い声で鳴く。百舌鳥・ケキ・ゲキとも書く。「鴃舌ゲキゼツ」(モズの鳴き声から、ただやかましく聞こえる外国の言葉)「南蛮鴃舌ナンバンゲキゼツ」(南蛮は中国で南方の人をさげすんだことば。蛮人が話すわけのわからない言葉の意)
<紫色は常用漢字>

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音符「谷コク」<たに・こくもつ>と「俗ゾク」「裕ユウ」「浴ヨク」「欲ヨク」

2022年02月11日 | 漢字の音符
 コク・ヨク・たに・や・きわまる  谷部

解字 甲骨文字第1字はハ、第2字は Λ を重ねた形。[甲骨文字辞典]は「両側に山が分かれた場所を抽象的に表している」とする。私は以前からハを二つ重ねた字形に違和感を感じていた。「ハを二つ重ねれば谷でなく尾根だろう」と。しかし、漢字は甲骨文字の時代からタテ書きである。「本当はハをもうひとつ横に書きたかったのだが、やむをえず下に重ねたのではないか」と考え、実際にハ・Λ を横に並べて描いてみたのが下図である。第3図の口がつく谷はハとハの真ん中に描いてみた。すると少しは谷らしくなった。口はおそらく谷によく見られる滝つぼであろう。

さらに実際の谷の写真と、谷を Λ 線で描いてみたのが下図である。

   
この谷の写真と Λ 線の図形により、Λ がタテに重なった部分は尾根であり、横に並んだ場合に谷を表すことが分る。したがってハや Λ を重ねた形は、横にならべたと思えばよいのだろう。金文第1字は「ハハ口」、第2字は「ハハ V」で下に V がつく。「ハハ口」の形は篆文で少し変形したが隷書(漢代)までつづき、現代字は「ハ+𠆢+口」の谷になった。なお、谷は同音の穀コクに通じて穀物の意味があり、中国では谷の意味でも使うが、多くは穀物の意味で使われている。
意味 (1)たに(谷)。や(谷)。「渓谷ケイコク」「谷風コクフウ・たにかぜ」「谷間たにま」 (2)みち。通路。 (3)低いところ。くぼみ。「気圧の谷」 (4)きわまる(谷まる)。 (5)こくもつ(穀物)。同音の穀コクに当てた用法。「陸谷リクコク」(=陸穀。トウモロコシ)
参考 谷は部首「谷たに」になる。漢字の左右に付いて谷の意味を表す。この部首は非常に少なく、常用漢字は部首の谷のみ。その他の主な字に
 谿ケイ・たにがわ(谷+音符「奚ケイ」)
 谺カ・こだま(谷+音符「牙ガ」)
 豁カツ(谷+音符「害ガイ」)がある。

イメージ 
 「たに」(谷・硲・峪・俗)
 同音の穀コクに通じ「穀物」(裕・欲・慾)
 「形声字」(浴)
音の変化  コク:谷  ゾク:俗  ユウ:裕  ヨク:峪・浴・欲・慾  はざま:硲

たに
 <国字> はざま  石部
解字 「石(いし)+谷(たに)」の会意。石のごろごろしている谷あい。
意味 はざま(硲)。谷あい。谷間。「硲はざまの路」
 ヨク・たに  山部
解字 「山(やま)+谷(たに)」の会意形声。山あいの谷。発音はヨクが使われている。
意味 (1)たに(峪)。山あいの谷。(2)地名。「嘉峪関カヨクカン」(甘粛省嘉峪関市にあった関所。万里の長城の西端にあり、古くから中央アジアに通じる要所であった。
 ゾク   人部
解字 「イ(ひと)+谷(たに)」の会意形声。谷の流域にすむ人々の意。同じ流域に住む人の習わしや習慣をいう。のち、ひろく世の中・世間の意となった。
意味 (1)ならわし。「風俗フウゾク」「習俗シュウゾク」 (2)世の中・世間。「俗世ゾクセイ」「俗説ゾクセツ」 (3)ありきたり。ありふれた。「通俗ツウゾク」 (4)いやしい。ひくい。「俗悪ゾクアク」「卑俗ヒゾク」(低俗。下品)

穀物
 ユウ・ゆたか  衤部
解字 「衤(ころも)+谷(穀物)」の形声。裕は、衣服と食べ物(穀物)があり、ゆたかなこと。発音は、コク⇒ユウに変化。
意味 (1)ゆとりがある。ゆたか(裕か)。「裕福ユウフク」「富裕フユウ」 (2)ひろい。心がひろい。「寛裕カンユウ
 ヨク・ほっする・ほしい  欠部
解字 「欠ケン(口をあけている人)+谷(穀物)」の形声。欲は、人が口をあけて食べ物(穀物)を欲しがること。発音は、コク⇒ヨクに変化。
意味 (1)ほしい(欲しい)。ほっする(欲する)。ほしがる。のぞむ。「欲求ヨッキュウ」「欲望ヨクボウ」 (2)物をほしがる気持ち。「意欲イヨク」「食欲ショクヨク
 ヨク  心部
解字 「心(こころ)+欲(ほしい)」の会意形声。欲しいと思う心。人間の慾望をいう。常用漢字でないため、欲に書き換えることが多い。
意味 (1)ほしいと思う心。「慾情ヨクジョウ」(=欲情) (2)むさぼる。「貪慾ドンヨク」(=貪欲)

形声字
 ヨク・あびる・あびせる   氵部

解字 金文は人が水のほとりで水浴している形で谷ヨクは発音を表している。戦国期から「氵(みず)+谷(ヨク)」の形声字となり現代字の浴になった。水をあびる、湯あみする意のほか、うける・こうむる意ともなる。
意味 (1)あびる(浴びる)。あびせる(浴びせる)。水をかぶる。湯あみする。身体を洗う。「入浴ニュウヨク」「浴室ヨクシツ」(2)うける。こうむる。「日光を浴びる」「放射線を浴びる」「浴恩ヨクオン」(うけた恩)
<紫色は常用漢字>

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音符「曷カツ」<請い求める>と「喝カツ」「渇カツ」「褐カツ」「葛カツ」「掲ケイ」「謁エツ」

2022年02月08日 | 漢字の音符
 カツ・なんぞ・いずくんぞ  日部   

解字 篆文は「曰エツ(いう)+匃カイ(もとめる)」の会意。カイは死者をだいて、そのよみがえりをねがう形。曰エツは、いう意(現代字で日に変化)。両者を合わせた曷は、よみがえりの願いを大きな声で言う形で、「請い願う」意味となる。しかし、本来の意味でなく、「なんぞ」「いずくんぞ」の助字に仮借カシャ(当て字)された。新字体の音符になるとき、下部が、匃⇒匂に変化する。
意味 曷(なに)。曷ぞ(なん-ぞ)。曷んぞ(いずく-んぞ)。「曷若(いかん)」「曷為(なんすれぞ)」「曷以(なにをもってか)」

イメージ 
 「仮借カシャ
(曷) 
 「請い求める」(渇・葛・褐・謁・蝎・靄・藹)
 よみがえりを願って「大きな声をだす」(喝・歇・蠍) 
 「形声字」(掲・羯・臈・偈)

音の変化  カツ:曷・渇・葛・褐・蝎・蠍・喝・羯  ケイ:掲  ケツ:歇・偈  ロウ:臈  アイ:靄・藹  エツ:謁    

請い求める
 カツ・かわく  氵部
解字 旧字は渴で「氵(水)+曷(請い求める)」の会意形声。咽がかわいて水を欲しがること。また、水がかわく・かれる意味となる。新字体は渇になる。
意味 (1)ひどく欲しがる。咽がかわく。「渇望カツボウ」 (2)かわく(渇く)。かれる。「渇水カッスイ」「枯渇コカツ
 カツ・くず・かずら  艸部  
解字  「艸(草)+曷(請い求める)」の会意形声。光りを求めてツルをのばして繁茂する草。つる性の植物をいう。※新指定の常用漢字のため下部を匂にしても可。

葛のつる(「葛の蔓」より)

葛の根(「吉野本葛天極堂」より)
意味 (1)くず(葛)。マメ科のつる性の多年草。根から生薬や葛粉を作り、つるの繊維から布を作る。「葛布くずふ」「葛粉くずこ」「葛根湯カッコントウ」(葛の根から作る生薬) (2)かずら(葛)。かつら(葛)。つる草。「葛藤カットウ」(かずらや藤のつるがもつれ、からむこと。もつれ。心の迷い) (3)人名。地名。「葛飾北斎かつしかホクサイ」(江戸後期の浮世絵師)「葛飾区かつしかク」(東京都の区名)「葛城かつらぎ」(奈良盆地南西部一帯の古地名)
 カツ・カチ・ぬのこ  衤部
解字 旧字は褐で「衤(衣)+曷(=葛の略体)」の会意形声。つる性植物の繊維から作った衣。新字体で褐に変化。

中国明代の葛紗制の衣服(「衣之道・葛布」より)
https://zhuanlan.zhihu.com/p/373573260
意味 (1)ぬのこ(褐)。あらい布の粗末な衣服。「褐衣カチエ」(褐布の狩衣)「褐夫カップ」(粗布を着ている身分の卑しい者) (2)かわいた感じの茶色。暗褐色。「褐色カッショク」「褐炭カッタン」(暗褐色の質のよくない石炭)「褐鉄鋼カッテコウ」(暗褐色の製鉄鉱石)
 エツ・まみえる 言部
解字 旧字は謁で「言(いう)+曷(請い求める)」の会意形声。請い求める意の曷カツが、仮借カシャされ別の意味になったため、言をつけて元の意味をあらわした。また、身分の高い人に請い求める形から、まみえる(謁見する)意となる。
意味 (1)請う。求める。申し上げる。 (2)まみえる(謁える)。身分の高い人に会う。「謁見エッケン」「拝謁ハイエツ
 カツ・きくいむし  虫部
解字 「虫(むし)+曷(求める)」の会意形声。エサを求めて木のなかに巣くう虫で、キクイムシをいう。また、同音である蠍カツに通じサソリの意味もある。
意味 (1)キクイムシ科の甲虫。キクイムシ。 (2)「蝎虎カッコ」とは、やもりをいう。 (3)[俗語]さそり(蝎)。サソリ科の総称。「蛇蝎ダカツ」(蛇とサソリ) 
 アイ・もや  雨部
解字 「雨(あめ)+謁(=曷。請い求める)」の会意形声。雨を神に請い求めること。それに応えて神がその徴候をみせること。
意味 もや()。雲気がたちこめること。空気中に一面に水蒸気が立ちこめること。霧より見通しのよいものをいう。「朝靄あさもや」「夕靄ゆうもや」「靄靄アイアイ」(雲やかすみの集まりたなびくさま。ゆったりしているさま)
 アイ  艸部
解字 「艸(草)+謁(=。もや)」の会意形声。は雲気のたちこめるさま。艸がついたは、草の気がたちこめる意。草木が繁茂しその気のたちこめる状態をいう。また、人の心にたとえて、心が充実しおだやかなことをいう。
意味 (1)草木のしげるさま。さかんなさま。「藹然アイゼン」(①草木の盛んなようす。②気持ちがおだやかなさま) (2)おだやかなさま。心がなごむさま。「和気藹藹ワキアイアイ

大きな声をだす
 カツ・しかる  口部
解字 旧字は噶で「口(くち)+曷(大きな声をだす)」 の形声。口から大きな声を出すこと。新字体は喝に変化。
意味 (1)しかる(喝る)。おどす。「恫喝ドウカツ」 (2)大声をあげる。「喝采カッサイ」(やんやともてはやす)「喝破カッパ」(①つきやぶるような大声。 ②邪説をしりぞけ真理を言う)
 ケツ・やむ  欠部
解字 「欠(口をあけて声をだす)+曷(大きな声をだす)」 の会意形声。大きな声を出している相手に、口をあけて声を出し、相手の勢いを止めること。
意味 (1)やむ(歇む)。やめる。「歇後ケツゴ」(後をやむ。成語の後半を省略すること) 「間歇カンンケツ」(一定の間隔をもって止み、また起きること)「間歇泉カンケツセン」(一定の間隔をおいて周期的に熱湯を噴き出す温泉)(2)やすむ。「歇坐ケツザ」(宴中の小休憩)「歇家ケッカ」(旅館) (3)つきる。「歇滅ケツメツ」(ほろびる)
 カツ・ケツ・さそり  虫部
解字 「虫(むし)+歇(やすむ)」の会意形成。夜行性の昆虫であるサソリをいう。昼間は岩陰や土の中、隙間などに隠れて過ごす虫であるので、歇(やすむ)を用いたものと思われる。なお、同音の蝎カツもサソリの意味がある。
意味 さそり()。サソリ目の節足動物。尾の先の針に毒をもち刺す。蝎カツとも書く。「蛇蠍ダカツ」(蛇とさそり)「蠍座さそりざ」(サソリの形をした星座。夏の星座)「蝮蠍フクケツ」(まむしと、さそり。凶悪な人)

形声字
 ケイ・ケツ・ゲチ・かかげる  扌部
解字 旧字は揭で「扌(手)+曷(ケツ・ゲチ)」 の形声。ケツ・ゲチは桀ケツ・ゲチ(かかげる)に通じる。桀ケツは人を高くかかげて、はりつけにする(=磔)意がある。掲ケイ・ケツは手で高くかかげること。異体字に搩ケツ(上に持ち上げる)がある。ケイは慣用音。
意味 (1)かかげる(掲げる)。高くさしあげる。「掲揚ケイヨウ」 (2)目につくよう示す。貼り出す。「掲載ケイサイ」「掲示ケイジ
 カツ・ケツ  羊部
解字 「羊(ひつじ)+曷(カツ)」の形声。カツは割カツ(わける)に通じ、オスの羊の精巣を取り去って去勢すること。また、羊を飼う民族である五胡のひとつをいう。
意味 (1)異民族の名。五胡のひとつで匈奴の別種。中国の山西省内に居住した。「羯鼓カッコ」(①雅楽に使う両面太鼓。②能楽や歌舞伎で使う小太鼓。異民族で五胡のひとつである羯ケツが用いた鼓から)(2)去勢した雄羊。「羯羊カツヨウ
 ロウ  月部にく
解字 「月(肉)+葛(ロウ)」の形声。ロウは臘ロウ([国]仏教寺院の僧侶の年功によって得られる身分)に通じ、地位の称。
意味 (1)まつりの名。冬至後に歳を送る祭り。(=臘ロウ) (2)[国]僧の位。また、宮廷の官女の高位のもの。「上臈ジョウロウ」(①修行を積んだ高僧。②宮中の高位の女官。③江戸幕府大奥の御殿女中の高位のもの)
 ゲ・ケツ  イ部
解字 「イ(ひと)+葛(カツ⇒ケツ・ゲ)」の形声。[集韻]は「武也(なり)」とし発音はケツ「傑」とする。[正韻]は「疾シツ(速い)也」とし発音はケツ(朅)。[莊子·天道篇]は「偈偈乎ケツケツコ」として力んだ様子の意。なお、サンスクリット語のqāthā(韻文の歌)の音訳字に用い、現在はこの用法が主になっている。
意味 (1)つよい。すこやか。(2)はやい。(3)「偈偈ケツケツ」(骨折って努めるさま)(4)げ(偈)。梵語で仏の功徳をほめたたえる韻文体の歌。本来は「偈陀ゲタ」(サンスクリット語のqāthā(韻文の歌)の音訳字)だが、偈一字で表す。「偈頌ゲジュ」(仏の功徳や教えをたたえた歌)「偈文ゲブン」(偈の文章)
<紫色は常用漢字> 

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音符 「㱿カク」 <から・そとがわ> と 「殻カク」「穀コク」

2022年02月05日 | 漢字の音符
㱿 カク・から  殳部    

     上段が㱿カク、下段が南ナン
 苗族銅鼓

銅鼓の裏側は空洞になっている
解字 㱿カクの甲骨文は、中国南部に住む苗ミャオ族が用いる釣鐘式の楽器である銅鼓をバチで打っている形。金文はなく、篆文および現代字は形が変化して㱿となった。ところで、㱿カクの左辺は、下段「南」の甲骨文第一字と同じ形である。すなわち、南ナンは苗族の銅鼓の象形であり、これをバチで打つ形が㱿カクなのである。しかし㱿は打つ意よりも、外側に堅い殻(から)がある意に転用された。それは、楽器の銅鼓の形が中空で、裏を除くと外側が堅い銅で覆われているからである。
 一方、古代文字の図・下段の銅鼓の形は異なった変化をし、現代字で南となった。意味の南(みなみ)は、銅鼓を使う苗族が甲骨文字を使っていた殷インの南方に居住するからである。
意味 (1)うつ。(2)から。(=殻)。

イメージ 
 「から・そとがわ」
(殻・穀・愨・榖・鷇)
  銅鼓は中が「中空」(轂・觳)      
音の変化  カク:殻・愨・觳  コク:穀・榖・轂・鷇 

から・そとがわ
[殼] カク・から  殳部    
解字 旧字はで「几+㱿(から)」の会意形声。㱿カクは、銅鼓を打つ形、そこに几(=机・台座)をつけたカクは、銅鼓を台座に据えた形であり、㱿は異体字で同字。新字体は、旧字の殼⇒殻になった(殼の左辺の一がとれる)。
意味 から(殻)。物の表面をおおっている殻。穀物などの表面をおおっている殻。「貝殻かいがら」「卵殻ランカク」(卵のから)「外殻ガイカク」(外側にあるから)「地殻チカク」(地球の最も外の層)
覚え方 さむらい()は()つくえ()るまた()でカクになる。
[穀] コク  禾部
解字 「禾(こくもつ)+㱿カク(から)」 の会意形声。から(殻)をもっている禾(こくもつ)の形で、脱穀(穀粒から殻を取り去る)する前の穀物を表す。新字体は旧字の左辺の一がとれる。
意味 こくもつ(穀物)。米・麦・黍・粟など、殻に覆われている穀物。「五穀ゴコク」(人が常食とする五種類の穀物。米・麦・粟あわ・黍きび・稗ひえ・豆など、諸説があり一定していない)「穀倉コクソウ」(穀物を入れる倉。また、穀物の主要産地)「穀雨コクウ」(二十四節気の一つ、太陽暦の4月21日頃。穀物を潤し育てる雨の意)
覚え方 さむらい()は()のぎ()るまた()で
 カク・つつしむ・まこと  心部
解字 「心(こころ)+㱿カク(から)」 の会意形声。心を殻でつつみ冒険をせず、つつしむこと。堅実で誠実な態度をいう。
意味 (1)まこと(愨)。義理がたく誠実なこと。「誠愨セイカク」(まこと。誠実)「愨士カクシ」(誠実な士)(2)つつしむ(愨む)。堅実な態度でものごとをおこなう。
 コク・こうぞ  木部
解字 「木(き)+㱿カク(そとがわ=樹皮)」 の会意形声。木の外側の形で樹皮の意。樹皮から紙をつくる木である榖(こうぞ)をいう。
意味 こうぞ(榖)。楮とも書く。クワ科の落葉低木。樹皮は和紙の原料となる。「榖皮紙コクヒシ」(こうぞ製の紙)
 コク・ひな  鳥部
解字 「鳥(とり)+㱿カク(から)」 の会意形声。殻をつついて生まれたばかりのひなをいう。
意味 ひな()。かえろうとするひな。「鷇食コクショク」(ひなが母鳥の捕ってきたエサを食べる。鳥のひなのように母の恵みを受ける)「鷇卵コクラン」(ひながかえる)

中空
 コク・こしき  車部
①車輪中央の轂コク(ハブ)。
②切断した轂コク(ハブ)。
①②とも、古材オブジェ(株式会社・ウォールデコ)のHP
解字 「車(くるま・車輪)+㱿カク(中空)」 の会意形声。車輪の軸を受ける部分である「こしき」をいう。軸を通すため内側が中空になっている。
意味 (1)こしき()。車輪の中央の円い部分で、放射状に差し込まれた輻(や)を集めて受けている所。その中心を車軸が通っている。ハブ。「車轂シャコク」(車のこしき)「肩摩轂撃ケンマコクゲキ」(肩摩は肩がすれあう。轂撃がぶつかりあう。人や車の往来が激しく混雑していること)「転轂テンコク」(こしきを回す、車で荷物を運ぶ) (2)くるま。「輦轂レンコク」(輦は貴人がのる手車(人がひく車)、はくるま。天子の乗り物)「轂下コクカ」(輦轂レンコクの下(もと)の意から天子のひざもと。宮城のある地。帝都)「推轂スイコク」(くるまを推して前にすすめる。推し進める。協力する)
 カク・コク・さかずき  角部
解字 「角(つの)+㱿カク(中空)」 の会意形声。角の中空部分を利用したさかずき。また、角カクに通じ、角突き(きそう)意がある。
意味 (1)さかずき()。角で作った杯。 (2)ます。容量をはかる道具。=斛コク。 (3)きそう。「觳抵カクテイ」(力をきそうこと。=角抵。)
<紫色は常用漢字>

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音符 「舌ゼツ」 <した>  と 「銛セン」「甜テン」

2022年02月02日 | 漢字の音符
  銛(もり)の解字をやり直しました。
 ゼツ・セツ・した  舌部
 大トカゲの舌

解字 口の中から舌が出ている形の象形。甲骨文第1字は下の先が二つに分かれており、蛇やトカゲなど爬虫類の舌を描いたと思われる。第2字は点を加えて唾液を描いている。第3字は舌先の二股をもう一つ描く。しかし、意味は人の舌の意味で使われているという。金文は二股に唾液の点を4つ加えた。篆文にいたり舌先がU字に十、現代字は全体が千となった舌になった。なお、舌カツとは同形異義の別字。
意味 (1)した(舌)。べろ。したの形をしたもの。「舌根ゼッコン」(舌のねもと)「舌先したさき」「舌鼓したつづみ」 (2)いう。しゃべる。ことば。「舌禍ゼッカ」(自分の口から起こる災い)「毒舌ドクゼツ」(意地の悪い言葉)「筆舌ヒツゼツ」(筆で書き、口で話す)
参考 ゼツは部首「舌した・したへん」になる。舌部は非常にすくなく常用漢字では1字(舌)のみ。約14,600字を収録する『新漢語林』では17字が収録されている。このうち舌の意味をもつのは舐シ・なめる だけ。字のなかに舌と似た部分があるので便宜的に入れている字に、舒ジョ・舘カンがある。

イメージ 「した」(舌・甜・恬・銛)
音の変化  ゼツ:舌  セン:銛  テン:甜・恬

した
 テン・あまい  甘部
解字 「甘(あまい)+舌(した)」の会意。舌で感じる甘さ。
意味 あまい(甜い)。うまい。「甜菜テンサイ」(さとう大根。根の汁から砂糖をつくる)「甜瓜テンカ・まくわうり」 (2)ここちよい。「甜言蜜語テンゲンミツゴ」(蜜のようにあまく心地よく感じる言葉)
 テン・やすらか  忄部
解字 「忄(心)+舌(=甜。ここちよい)」の会意。心地よい心。
意味 (1)やすらか(恬らか)。やすい。「恬然テンゼン」(①やすらかなさま。②心に何も感じず平気なさま)「恬安テンアン」(恬も安も、やすらかの意) (2)あっさりしている。「恬淡テンタン」(あっさりとしたさま)
 セン・もり  金部
①鍤(スキ) ②クジラ銛
①https://www.bilibili.com/read/cv4106664/ 漢代使用の鍤(スキ)の図  
②ヤフオクの写真「鯨銛」から
解字 「金(金属)+舌(した)」の会意形声。[説文解字]は「臿ソウ(=鍤)」(スキ)の属なり。金に従い舌聲(声)」とする。臿ソウは耕作のスキであり、金が加わった鍤ソウは、舌の形をした木製農工具の臿ソウ(スキ)の先に金属の刃をはめたスキを言った。転じて、スキの刃先が、するどい意となり、後に、この刃の形を先につけて魚を刺すモリの意味になった。その理由はスキの刃先の両端が下にのびた形をしており、これが「返し」となって魚が外れないからである。
意味 (1)すき(銛)。先に金属の刃を履かせた農具。耕作に用いる。 (2)するどい。鋭い刃をもつ武器。利器。「銛利センリ」(刃物の切れ味がよいさま)「銛矛センボウ」(するどい矛ほこ) (3)もり(銛)。棒や竹竿の先に返しのついた鋭い刃をつけ、投げたり突いて魚を捕らえる漁具。「銛突き漁もりつきりょう」「銛先もりさき
<紫色は常用漢字>  

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