漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「毛モウ」<け> と 「耗モウ」「耄モウ」「尾ビ」「梶ビ」

2023年11月11日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 モウ・ボウ・け  毛部          

解字 体から生えている毛の象形。金文は毛根がついた形。人や動物の毛を表わす。毛は体表の生え際から分かれて生えることはあるが、金文のように途中から枝分かれすることはない。密集する毛を見て、枝分かれしていると思ったのであろう。
意味 (1)け(毛)。人や動物の毛。「毛髪モウハツ」「毛筆モウヒツ」 (2)細くて小さいもの。わずか。「毛細血管モウサイケッカン」 (3)草木が生えること。「二毛作ニモウサク」「不毛フモウの地」
参考 毛は部首「毛け」になる。漢字の左右および下部に付いて、毛および毛で作られたものを表す。常用漢字は部首の毛1字のみ。主な字は以下のとおり。
 毛モウ・け(部首)
 毬キュウ・まり(毛+音符「求キュウ」)
 絨ジュウ(毛+音符「戎ジュウ」)・厚地の毛織物
 毯タン・けむしろ(毛+音符「炎エン」)・もうせん
 毫ゴウ・すこし(毛+音符「高コウ」)
 氈セン・けむしろ(毛+音符「亶タン・セン」)
 毳ゼイ・むくげ(「毛+毛+毛」の会意)など

イメージ 
 「人や動物の毛」
(毛・尾・梶・旄・毳)
 毛の意味(2)から「細い・わずか」 (耗・耄・粍・瓱・竓)
 「会意形声字」(髦)
音の変化  モウ:毛・耗・耄  ビ:尾・梶   ボウ:旄・髦  ゼイ:毳
 <国字> ミリ:粍・瓱・竓

動物の毛
 ビ・お  尸部しかばね

解字 甲骨文は、かがんだ人の尻から生えている毛を描き、尻から生えている毛を表す。人に尻尾はないので、比喩的表現で動物の尻尾を表している。戦国以降、かがんだ人⇒人が腰かけた形になり、楷書は「尸+毛」の尾となった。意味は動物の尾を表す。
意味 (1)お(尾)。動物のしっぽ。「尾行ビコウ」「首尾シュビ」(首と尾。初めと終わり)「交尾コウビ」(動物の交接。生殖のとき動物が尾と尾を交わらせるように見えることから)「尾花おばな」(ススキ) (2)細長い物の末端。「末尾マツビ
 ビ・かじ  木部
解字 「木(き)+尾(動物のしっぽ)」 の会意形声。日本では動物のお尻から生え下がっている尾のように、船尾から下げる木製の方向舵などの意に用いる。また、クワ科コウゾ属の木の名に用いる。中国では木の先の意で梢(こずえ)の意味がある。
意味 (1)かじ(梶)。舵とも書く。船尾につけて船の進行方向を決める道具。「梶を切る」(梶を動かして方向を変える) (2)人力車などを引っぱるための柄。「梶棒かじぼう」 (3)かじのき(梶の木)。クワ科コウゾ属の落葉高木。コウゾを古くは「カゾ」といい、それが転訛した名とされる。「梶紋かじもん」(梶の葉を図案化した家紋」「梶鞠かじまり」(七夕のとき、梶の枝に鞠をかけて二星に供える行事) (4)[中国]こずえ(梢)
 ボウ・はたかざり  方部
解字 「旗の略体+毛(牛の毛)」 の会意形声。竿頭に、からうしの尾の毛をつけた旗の一種。
 
ボウを持つ使節(中国のネットから。現在なし)
意味 (1)はたかざり(旄)。軍の指揮や使節の旗に用いる。「旄麾ボウキ」(軍を指揮する旗)「旄節ボウセツ」(使者のもつ旗)「旄牛ボウギュウ」(からうし。ヤク。からうしの尾の毛を旄に用いることから) (2)耄モウ(おいぼれる)に通じ、としより。「旄期ボウキ」(老人)
 ゼイ・セイ・むくげ  毛部
解字 「毛+毛+毛」 の会意。密生する細い毛をいう。
意味 (1)むくげ(毳)。にこげ。「毳毛ゼイモウ」(細くやわらかい毛) (2)毛織物。「毳衣ゼイイ」(毛織の服)「毳帳ゼイチョウ」(毛織の幕)
 キョウ・(セイ・ゼイ)・そり  木部

トナカイが引く橇(そり)(中国ネットの検索画面より)
解字 「木(木製)+毳(セイ⇒キョウ)」の形声。橇キョウの異体字に橋キョウがある。橋は横に渡した木組であり左右に手すりがある構造物であることから、橋には乗り物である「そり」の意があった。橇キョウは漢代から見える。なぜ喬に毳ゼイ⇒キョウの字が当てられたのか不明である。橇キョウは古くは泥路上を動物に引かせて走行する乗り物であった。[史記·夏本紀]に「水行乗船,泥行乗橇」とある。また雪上を走る乗り物として用いられた。なお、かんじき(橇)の意味には蹻キョウが異体字となっている。
意味 (1)そり(橇)。泥地上や雪上をすべり走る乗り物。「橇車キョウシャ」(そり)「雪橇ゆきぞり」 (2)かんじき(橇)。雪中を歩く時、踏み込まないように足にはく用具。

細い・わずか
 モウ・コウ・へる  耒部すきへん
解字 「耒(すき)+毛(細くなる)」 の会意形声。耒ライは土地を掘り起こすスキの象形。「耕(たがやす)」の偏にも使われている。スキを使って土を起こしていると、すり減って細くなる意で、すり減ること。
意味 へる(耗る)。すりへる。へらす。「消耗ショウモウ」「摩耗マモウ」「心神耗弱シンシンコウジャク」(心がすり減って弱くなること)
 モウ・ボウ・ほうける  老部
解字 「老(おいる)+毛(細くなる)」 の会意形声。やせ細って衰えた老人。
意味 おいぼれる。ほうける(耄ける)。「耄碌モウロク」(年老いて心身の働きがにぶる)「衰耄スイボウ」(衰えおいぼれる)
<国字> ミリメートル  米部
解字 「米(メートル)+毛(ほそい)」 の会意。毛の細さを示す長さの単位。1メートルの千分の一を示す。
意味 ミリメートル。長さの単位。1000分の1メートル。
 <国字> ミリグラム  瓦部  
解字 「瓦(グラム)+毛(わずか。1000分の1)」 の会意。
意味 ミリグラム。mg。重さの単位。1000分の1グラム。
 <国字> ミリリットル  立部
解字 「立(リットル)+毛(わずか。1000分の1)」 の会意。
意味 ミリリットル。ml。容量の単位。1000分の1リットル。1ml(ミリリットル)=1cc(シーシー)  

会意形声字
 ボウ・モウ・たれがみ  髟部
解字 「髟(長いかみ)+毛(モウ・ボウ)」 の会意形声。髟ヒョウは「镸(長の変形)+彡(細かいものがたくさん並んでいるさま)」 で、あたまの髪の意。そこに毛け(ボウ・モウ)がつき、髪のなかの長い毛の意で、子供や若者が前に垂らす前髪をいう。
意味 (1)たれがみ(髦)。さげがみ。子どもや若者の髪がひたいの前に垂れ下がっているもの。「髦髫ボウチョウ」(さげがみの子ども。髦も髫も、たれがみの意)「両髦リョウボウ」(両側に振り分けたたれがみ。幼児)「時髦ジボウ」(流行している。モダンな。垂れがみ以外にも言う) (2)前髪のすぐれた若者。「髦士ボウシ」(すぐれた人)「髦彦ボウゲン」(すぐれた人)「髦俊ボウシュン」(すぐれた人) (3)たてがみ(髦)。馬の長い前髪。「髦馬ボウバ」(長いたてがみの馬) 
<紫色は常用漢字>

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