漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「巠ケイ」<まっすぐのびる>と「経ケイ」「径ケイ」「茎ケイ」「軽ケイ」「勁ケイ」「痙ケイ」「怪カイ」

2024年03月30日 | 漢字の音符
  増訂しました。
巠[圣] ケイ・キョウ  巛部 jīng・xíng            

解字 織機にたて糸をピンと張ったさまの象形。まっすぐ、たてにまっすぐの意を表わす。単独で用いられることはなく、まっすぐの意で音符となる。新字体では、巠⇒圣に変化する。
意味 たて糸(=経) 

イメージ 
  機織りのたて糸が「たてにまっすぐ」(経・頸・剄・脛・勁)
 「まっすぐのびる」(径・茎・痙・軽)
 「同体異字」(怪)
音の変化  ケイ:経・頸・剄・脛・勁・径・茎・痙・軽  カイ:怪

たてにまっすぐ
 ケイ・キョウ・へる  糸部 jīng
解字 旧字は經で「糸(いと)+巠(たてにまっすぐ)」の会意形声。巠は、もとの意味がたて糸で、それに糸をつけて本来の意味を強調した。また、織機で、たて糸が布地をまっすぐ通り抜ける(経る)、横糸の間をかわるがわるくぐりぬけておさまる等の意味がある。
意味 (1)たていと。たて。「経度ケイド」(地球のたての線)「経緯ケイイ」(たてとよこ。いきさつ) (2)へる(経る)。まっすぐ通り抜ける。「経過ケイカ」「経口ケイコウ」(口を経て体内に入る) (3)おさめる。いとなむ。「経営ケイエイ」「経理ケイリ」 (4)つね。つねに変わらない。「経常ケイジョウ」 (5)不変のすじ道を説いた書。 「経典キョウテン」「五経ゴキョウ」(儒教で尊重される五つの経典) (6)仏陀のおしえ。「お経キョウを唱える」「経文キョウモン
 ケイ・くび  頁部 jǐng
解字 「頁(あたま)+巠(たてにまっすぐ)」の会意形声。頭から下へまっすぐたてにのびる首すじ。
意味 (1)くび(頸)。「頸動脈ケイドウミャク」「頸椎ケイツイ」(頸の骨)
 ケイ・くびきる  刂部りっとう jǐng
解字 「刂(かたな)+巠(=頸。くび)」の会意形声。首を刀できること。
意味 くびきる(剄る)。刀で首を切る。「自剄ジケイ」(自ら首を切る)「剄死ケイシ」(自剄して死ぬ)
 ケイ・すね  月部にく jìng
解字 「月(からだ)+巠(たてにまっすぐ)」の会意形声。膝から足首までまっすぐのびるところ。すね。
意味 すね(脛)。はぎ。ひざから足首の部分。「脛骨ケイコツ」(すねの骨)「脛布はばき」(すねに巻く布)
 ケイ・つよい  力部 jìn・jìng
解字 「力(ちから)+巠(たてに張った糸)」の会意形声。縦に張った糸に力を加え、強く張ること。強く張ってたるみがないさまをいい、転じてしっかりしてつよい意となる。
意味 つよい(勁い)。かたい。するどい。「勁草ケイソウ」(風に強い草。意志の強固なたとえ)「勁捷ケイショウ」(強くて動作がすばやい)「勁健ケイケン」(強くて丈夫)

まっすぐのびる
 ケイ・みち  彳部 jìng
解字 旧字は徑で「彳(ゆく)+巠(まっすぐのびる)」の会意形声。二つの地点をまっすぐつないだ道のこと。二つの地点をまっすぐつなぐ道は近道であり、遠まわりをしないため車の通れない山道であったり小道となる。図形では、さしわたしの意となる。
意味 (1)みち(径)。こみち。ちかみち。「山径サンケイ」 (2)さしわたし。「直径チョッケイ」「口径コウケイ」 (3)まっすぐ。ただちに。「直情径行チョクジョウケイコウ」(自分の思ったとおりまっすぐに行動すること)
 ケイ・くき  艸部 jīng
解字 旧字は莖で「艸(くさ)+巠(まっすぐのびる)」の会意形声。草のまっすぐのびる部分。
意味 くき(茎)。植物のくき。くきのような形をしたもの。「地下茎チカケイ」「根茎コンケイ」(地下をはう根状のくき)「茎若布くきわかめ
 ケイ・ひきつる  疒部 jìng
解字 「疒(やまい)+巠(まっすぐのびる)」の会意形声。筋肉がピンとのびてひきつる症状。
意味 ひきつる(痙る)。つる。「痙攣ケイレン」(筋肉が急激に収縮しこわばること)「痙縮ケイシュク」(筋肉がひきつる(痙)のに対応して、手足が勝手に縮んでしまうこと)
 ケイ・キン・かるい・かろやか  車部 qīng
解字 旧字は輕で「車+巠(まっすぐに)」の会意形声。まっすぐにすいすいと走る車。兵士だけが乗る軽くて速い戦車のこと。戦場で荷物を運ぶ輜重シチョウ車より軽いので、軽い・軽やかに動く意となる。

中国古代の戦車(ネット検索画面から)
意味 (1)かるい(軽い)。「軽石かるいし」「軽減ケイゲン」(減らして軽くする)「軽傷ケイショウ」 (2)かろやか(軽やか)。身軽にうごく。「軽快ケイカイ」「軽妙ケイミョウ」 (3)かるがるしい。「軽率ケイソツ」「軽薄ケイハク」「剽軽ヒョウキン」(気軽で滑稽なこと。おどける)※キンは唐音。 (4)かろんじる。「軽視ケイシ

同体異字
 カイ・ケ・あやしい・あやしむ  忄部 guài                  

解字 圣は「又(手)+土(つち)」の会意で、手でまるめた土のかたまり。塊カイと同じ。怪は「忄(心)+圣(=塊。まるい異様なかたまり)」の会意形声で、異様なものを見てあやしむこと[学研漢和]。圣コツ・カイは、巠ケイ⇒圣(新字体)に置きかえられる以前からある元の字であり、巠(圣)とは異なる。
意味 (1)あやしい(怪しい)。あやしむ(怪しむ)。ふつうでない。「奇怪キカイ」「怪獣カイジュウ」「怪人カイジン」「怪訝ケゲン」(あやしみいぶかる) (2)ばけもの。もののけ。「怪談カイダン」「妖怪ヨウカイ」 (3)なみはずれた。「怪童カイドウ」「怪力カイリキ
<紫色は常用漢字>

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音符「匊キク」<まるく包む>と「菊キク」「掬キク」「鞠キク」「麴キク」「椈キク」

2024年03月28日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 キク  勹部つつみがまえ jū

解字 金文・篆文とも、「米(こめつぶ)+勹(つつむ)」の会意。勹ホウは、人が身体をまげたかたちで、つつむ意。これに米を合わせた匊キクは米をつつむようにすくいとる形。掬キク(すくう)の原字。単独では使われないが、「まるく包む」イメージをもつ。
意味 すくう。

イメージ 
 「まるく包む」(匊・菊・掬・鞠・麴・椈)
音の変化  キク:菊・掬・鞠・麴・椈

まるく包む
 キク・すくう  扌部 jū
解字 「扌(手)+匊(まるく包む)」 の会意形声。手のひらをまるくしてすくいとること。
意味 すくう(掬う)。むすぶ。両手ですくいあげる。「掬水キクスイ」(両手で水をすくう)「掬飲キクイン」(すくって飲む)
 キク  艸部 jú

花弁がまるく包む菊の花
解字 「艸(くさ)+匊(まるく包む)」 の会意形声。多くの花弁がまるく包むように集まる菊の花の意。
意味 (1)きく(菊)。キク科の多年草。「菊花キッカ」「菊月キクゲツ」(旧暦九月の別名)「観菊カンギク」(菊の花を観賞する)「残菊ザンギク」(秋の末に咲き残った菊の花)「菊水キクスイ」(①無数の菊が自生し菊花から濡れ落ちたしずくが集まり谷川となり、その水を飲む下流の小さな集落の人々はすべて長寿の者ばかりという中国の伝説。②酒造メーカーの名前) (2)姓の一つ。「菊池」「菊地」「菊川」「菊谷」
 キク・まり  革部 jū
解字 「革(かわ)+匊(まるく包む)」 の会意形声。革で外をまるく包んだまり。また、「身+(まるく)」の身匊キク(これで一字。身をまるくかがめる)に通じ、身をかがめて子を抱き育てる意味にも使われる。
意味 (1)まり(鞠)。けまり。「蹴鞠けまり」「鞠庭まりば」(蹴鞠をおこなう場所) (2)やしなう。そだてる。「鞠育キクイク」(養い育てる)
麴[麹] キク・こうじ  麥部むぎ qū
 
団子状の麹(「発酵する食卓」より)
解字 「麥(むぎ)+匊(まるく包む)」 の会意形声。新字体に準じた「麹」も常用される。中国大陸などでは、麦(小麦のほか、アワ・コウリャンなど)をすりつぶしたり、臼で搗いて粉砕し、そこに水を加えて手で丸めたもの。これをそのままにしておくと麦などの穀物に付着しているカビが繁殖して種麴になる(これを餅麴もちこうじという)。なお、種麴を用いてカビをはえさせたものも言う。
 日本酒などの種麴の原点は稲穂につく稲麹菌を、蒸した米とまぜてつくる「散麹ばらこうじ」で製法が異なる。(小泉武夫氏の著作を参考にした)
 
稲穂に付いた稲麹(「稲麹(いねこうじ)を発見」より)
意味 (1)こうじ(麴・麹)。米や麦・豆などを蒸し、種麴を散布してコウジカビを生じさせたもの。「麴菌こうじキン」「麴室こうじむろ」(麴をつくるための温室)「麴花こうじばな」(蒸した米に麹菌がついて淡黄色になったもの)「餅麴もちこうじ」(麦などを粉砕し水を加えて餅のようにまるめて作る種麹)「散麴ばらこうじ」(蒸し米に稲麹菌を付着させた種麹)「紅麴べにこうじ」(蒸した米に紅麴菌を混ぜ入れ発酵させたもの。発酵で赤い色素が生まれる) (2)さけ。「麴院キクイン」(酒を造る所)
キク・ぶな  木部 jú
解字 「木+匊(まるく包む⇒手のひら)」 の会意形声。手のひらのような葉をもつコノテガシワ(児の手柏)の別称。日本ではブナの木の意味で用いる。
意味 (1)コノテガシワ(児の手柏)の別称。ヒノキ科の常緑高木。柏樹。 (2)[国]ぶな(椈)。ブナ科の落葉高木。橅(ぶな)とも書く。「椈森ぶなもり」(秋田県中央部の山)
<紫色は常用漢字>

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音符「韋イ」<城壁のまわりをめぐる>と「偉イ」「違イ」「囲(圍)イ」「緯イ」「幃イ」「葦イ」「衛エイ」「諱キ」

2024年03月26日 | 漢字の音符
  改定しました。
 イ  韋部 wéi

解字 甲骨文字と金文は、「進む足+囗(城壁)+進む足」の会意。城壁の上下に左右逆向きの足を加えて、城壁を守備のため巡回する形を表わす。韋は、ぐるぐるまわる意から足の速いと俗伝がある韋駄天に当てる他、緯(よこいと)に通じ、竹簡の書物の綴じ糸の意になる。また、綴じ糸が革ひもと考えられたことなどから、後に、なめし革の意ができた。新字体で用いられるとき、韋⇒偉の右辺に変化する。音符になると城壁をまもるため、「まわりをめぐる」「行ったり来たりする」イメージがある。
意味 (1)とじひも。「韋編三絶イヘンサンゼツ」(書物の綴じ紐が三度も切れるほど熟読すること。韋は、なめしがわの紐とされてきたが、実際は緯(よこいと)に通じ、綴じ紐の意とされる)(2)韋駄天イダテンは、バラモン教の神でシバ神の子とされ、伽藍を守る神。また足が速いとの俗伝がある。「韋駄天イダテン」(足の速い人) (3)なめし革。「韋革イカク」(なめしがわ)「韋柔イジュウ」(なめしがわのように柔らかい)
参考 韋は部首「韋なめしがわ」になる。漢字の左辺に付いてなめし革の意をあらわす。この部に属する字は少なく、主な字は以下のとおり。
 トウ・つつむ(韋+音符「舀トウ」)
 カン(韋(=圍。かこい・領域)+倝(はた)の略)

イメージ 
 「まわりをめぐる」
(韋・衛・囲・幃・葦)
 「行ったり来たりする」(緯・違)
 「形声字」(偉・諱)
音の変化  イ:韋・囲・幃・葦・緯・違・偉  エイ:衛  キ:諱

まわりをめぐる  
 エイ・まもる  行部 wèi
解字 「行(ゆく)+韋(まわりをめぐる)」 の会意形声。まわりをめぐる(韋)かたちに、さらに行(ゆく。彳と亍に分かれる)をつけ、厳重に巡回して中を守ること。
意味 (1)まもる(衛る)。ふせぐ。「衛兵エイヘイ」「衛生エイセイ」(生命をまもる)「親衛シンエイ」(天子・国家元首などの身辺を護衛すること) (2)まわる。「衛星エイセイ」(惑星のまわりを公転する星)
[圍] イ・かこむ・かこう  囗部 wéi
解字 旧字は圍で、「口(かこい)+韋(まわりをめぐる)」 の会意形声。まわりを巡って守備している城を外からかこむこと。城を攻める時、包囲する形をいう。新字体は、旧字の韋が井(井戸枠)に変わった。
意味 (1)かこむ(囲む)。かこう(囲う)。とりまく。「包囲ホウイ」 (2)まわり。「周囲シュウイ」 (3)かぎり。境界。「範囲ハンイ
 イ・とばり  巾部 wéi
解字 「巾(ぬの)+韋(=圍。かこう)」の会意形声。まわりを布でかこった「とばり」をいう。
① 
①和漢三才図会の「帷幄」、②「日本国語大辞典」掲載図の「帷幄」
意味 とばり(幃)。まわりを囲む布。「幃幄イアク」(とばり。戦場などで幕を張り作戦を立てる所)「幃幕イマク」(=幃幄)
 イ・あし・よし  艸部 wěi
解字 「艸(草)+韋(まわりをめぐる)」 の会意形声。水辺をめぐるように生える背の高い草。[説文解字]は「大葭(あし)也(なり)。艸(草)に従い韋の聲(声)」と、大きな葭(あし)とする。

ヨシ刈り(滋賀県近江八幡市円山町付近)(「淡海環境保全財団・ヨシとは」より)
意味 あし(葦)。よし(葦)。イネ科の多年草。水辺に自生し高さ約2メートルをこえる。茎はまるく、スダレやヨシズの材料となる。アシは悪し、に通じるとして、ヨシとも呼ばれる。「葦簀よしず」「葦笛あしぶえ」(葦の葉を丸く巻いて作った笛)「葦席イセキ」(あしで編んだむしろ)「葦汀イテイ」(葦のはえている水ぎわ)「葦舟あしぶね」(①葦で作った舟。②葦を積んだ舟)

行ったり来たりする 
 イ・よこいと 糸部 wěi
解字 「糸(いと)+韋(行ったり来たりする)」 の会意形声。機織りで布を織るとき、横に行き来する糸。
意味 (1)よこいと(緯)。「緯糸ぬきいと」⇔ 経糸(たていと)。「緯書イショ」(経書ケイショが不変の道(たて糸)を説くのに対し、緯書はよこ道である占いや予言を記した書)「讖緯シンイ」(讖は予言する、緯は緯書。予言を記す書物) (2)よこ。東西の方向。「緯度イド」(赤道に平行して地球の表面を南北に測る基準)「北緯ホクイ」「南緯ナンイ」「緯線イセン
 イ・ちがう・ちがえる  辶部 wéi
解字 「辶(すすむ)+韋(行ったり来たりする)」 の会意形声。行くほうと来るほうが異なる道を行くこと。行き違いになること。転じて、ちがう・そむく意となる。
意味 (1)ちがう(違う)。異なる。「違和感イワカン」(ちぐはぐな感じ)「相違ソウイ」 (2)たがう。そむく。「違反イハン」「違約イヤク

形声字
 イ・えらい  イ部 wěi
解字 「人(ひと)+韋(イ)」の形声。発音のイは畏(おそれうやまう)に通じる。そこにイ(ひと)が付いた偉は、おそれうやまう人、転じて、すぐれる・えらい意を表す。
意味 (1)えらい(偉い)。すぐれる。「偉大イダイ」「偉人イジン」 (2)大きい。さかんな。「偉観イカン」「偉容イヨウ
 キ・いみな  言部 huì
解字 「言(ことば)+韋(キ)」 の形声。キは忌(いむ)に通じ、本名を言うのをさけること。古代の漢字文化圏では、本名の漢字は家族など親しい人のみにしか知らせなかった(本名を教えると、その漢字を用いた呪術などに使われるのを避けるため、という説もある)。したがって諱とは生前の本名をいう。韋の発音は、イとエイが主であるが、褘キ・イ(ひざ掛け。JIS第三水準)のようにキの発音もある。
意味 (1)いみな(諱)。亡くなった人の本名。歴代天子の本名。 (2)死後に尊んで付けた称号。諡シ・おくりなとも。 (3)いむ。口にすることをさける。「諱言キゲン」(おそれはばかって言わない)「諱忌キキ」(さけて言わない)
<紫色は常用漢字>
               
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音符 「甲コウ」<こうら・かぶせる> と「匣コウ」「閘コウ」「岬コウ」「胛コウ」「狎コウ」「押オウ」「鴨オウ」

2024年03月24日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 コウ・カン・きのえ・よろい  田部 jiǎ
 亀の腹甲


 甲骨文と金文はカメのお腹の甲羅
解字 甲骨文はタテ線と横線を交差させた形。意味はほとんどが十干の一番目である甲(きのえ)で用いられている。金文は十字を四角く取り囲んだ形。甲骨文と金文は、亀の甲羅の継ぎ目を描いた象形で十字になっていることから背中の甲羅(六角形)でなく腹の甲である。篆文はT字形の上に帽子のようなものを被せた形に変化し、現代字は甲になったが、カメの腹甲の模様をたどると篆文も楷書にもなる。現代字まで甲羅の影響をうけているとは思えないが不思議な一致である。
 かたどっているのはカメの腹甲であるが、意味はカメや甲殻類の外側をおおう固い外面をいう。漢字検索のための部首は田。固いカバーを「かぶせる」イメージがある。
意味 (1)かたいから。こうら。また、物のかたい外面。「甲羅コウラ」(甲はカメなどの甲、羅は網目で甲のうえに網のような模様がついているから)「甲殻コウカク」(外側を覆う固い殻)「甲骨文字コウコツモジ」(亀の腹甲や獣骨に書かれた文字)「甲板カンパン」(船のデッキ) (2)よろい(甲)。「甲冑カッチュウ」(甲はよろい、冑はかぶと)「甲騎コウキ」(よろいを着て馬に乗った兵士)「装甲車ソウコウシャ」(甲鉄板装備の車) (3)きのえ(甲)。甲乙丙丁~と続く十干の第一。等級の第一。「甲種コウシュ」(第一の種類)「甲乙コウオツ」(①順序。②優劣)「甲子コウシ」(十干の甲と十二支の子(ね)を組み合わせた年。60年に一度回ってくる最初の年にあたる)「甲子園コウシエン」(甲子の年に当たる1924年(大正13)にできた野球場)(4)[国] ①かぶと(甲)。よろい(甲:鎧)と、かぶとを誤って逆に用いる用法。 ②物の背面。「手の甲」 ③地名。甲斐かい(山梨県の略)「甲州コウシュウ」 ④カン。声の調子の高いこと。「甲高い声」

 十干とは、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10の要素の順列。これを五行(木・火・土・金・水)に配列し、おのおのに兄(え)と弟(と)を当てて訓読みする。以下を参照。

十干の読み方(オンライン無料塾「ターンナップ」より)

イメージ 
 「甲羅」
(甲)
  甲羅は表面をおおうことから「かぶせる」(押・匣・閘・胛・狎)
 「同音代替」(岬)
 「オウの音」(鴨)
音の変化  コウ:甲・匣・閘・岬・胛・狎  オウ:押・鴨
 コウとオウは、kouのkが欠落してouとなった変化。

かぶせる
 オウ・コウ・おす・おさえる  扌部 yā
解字 「扌(手)+甲(かぶせる)」の会意形声。手で外からかぶせて押さえる意。
意味 (1)おす(押す)。おさえる(押さえる)。とりおさえる。「押収オウシュウ」(証拠品を押さえて収める)「押領オウリョウ」(無理やり奪う) (2)判をおす。「押印オウイン」「花押カオウ」(記号風の署名)
 コウ・はこ  匚部はこがまえ xiá
解字 「匚(はこ)+甲(かぶせる)」の会意形声。箱にふたをかぶせる意で、ふたのついた箱。
意味 はこ(匣)。こばこ。ふたつきの箱。「鏡匣キョウコウ」(鏡をいれるはこ)「文匣ブンコウ」(手箱)「匣鉢さや」(陶磁器を焼く時、保護のためかぶせる容器)
 コウ・オウ  門部 zhá
解字 「門(もん)+甲(かぶせる)」の会意形声。水門に板などをかぶせて水量を調節すること。
中島閘門(「とやま観光ナビ」より)
富山市の富岩(ふがん)運河中流域にあるパナマ運河方式の閘門で、国の重要文化財に指定されている。
意味 (1)水門。ひのくち。「閘門コウモン」(運河や河川に設けて水量を調節して船を通過させる水門)「閘河コウカ」(河の水門) (2)せきとめる。門を開け閉めする。「開閘カイコウ
 コウ・かいがらぼね  月部にく jiǎ
解字 「月(からだ)+甲(かぶせる)」の会意形声。身体の中にあり、肩の後方から肋骨をおおっている三角状の骨。
意味 かいがらぼね(胛)。「肩胛骨ケンコウコツ」(意味は解字を参照。肩甲骨とも書く)
 コウ・なれる  犭部 xiá
解字 「犭(いぬ)+甲(=押の略体。おさえる)」の会意形声。犬を押さえつけて馴れさせること。
意味 (1)なれる(狎れる)。なれ親しむ。「狎昵コウジツ」(狎も昵も、なれ親しむこと。なれ親しみ遠慮がなくなる)「狎客コウカク」(なじみの客) (2)あなどる。軽んじる。「狎玩コウガン」(からかう)

形声字
 コウ・キョウ・みさき  山部 jiǎ
解字 「山(やま)+甲(キョウ)」の形声。キョウは夾キョウ・コウ(はさむ)、峡キョウ(はざま)に通じ、山と山にはさまれた山あいの意。日本では、両側を海にはさまれた陸地の意で使う。
意味 (1)みさき(岬)「佐多岬さたみさき」(鹿児島県南端の岬)「足摺岬あしずりみさき」(高知県南西部にある岬) (2)二つの山のあいだ。山あい。山のかたわら。「山岬サンコウ」(山と山の間)
 オウ(アフ)・かも  鳥部 yā
解字 「鳥(とり)+甲(オウ)」の形声。オウ(アフ)・オウ(アフ)と鳴く鳥。あひるを表す。日本ではカモをいう。
意味 (1)あひる。水鳥のカモ科のマガモを原種とする家禽。「家鴨カオウ」 (2)[国]かも(鴨)。カモ科の鳥のうち小形の水鳥の総称。日本では越冬のため渡ってくる鳥が多い。「野鴨のがも」「鴨脚オウキャク・いちょう」(樹木のイチョウの別名・鴨の足の形がイチョウの葉に似ていることから)
<紫色は常用漢字>
               
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音符「㐱シン」<体のできもの> と 「疹シン」「診シン」「軫シン」「畛シン」「珍チン」「趁チン」「餮テツ」「殄テン」

2024年03月23日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 シン 人部  zhěn
 
解字 「人(ひと)+彡(たくさん)」の会意。人の体に多くのできもの(発疹)がでること。

イメージ
 「多くのできもの」(疹・診・殄・
 「形声字」(珍・趁・軫・畛)

音の変化 シン:疹・診・軫・畛  チン:珍・趁  テツ:  テン:殄

多くのできもの
 シン  疒部 zhěn          
解字 「疒(やまい)+㐱(多くの吹き出物が出る)」の会意形声。身体に多くのできものが出る病気を表す。
意味 (1)皮膚に小さな吹き出物のできる病気。とくに、はしかをいう。「発疹ハッシン・ホッシン」(皮膚に吹き出物が出ること)「湿疹シッシン」(かきむしると膿汁がでる発疹)「風疹フウシン」(風疹ウィルスによる発疹性の急性皮膚伝染病。三日ばしか。風によって拡がると考えられた。)「麻疹マシン」(麻疹ウィルスによる急性熱性発疹性の感染症。語源は蕁麻疹ジンマシンから。蕁麻ジンマ(イラクサ)の葉に触れると皮膚がはれることから名付けられた。) (2)とびひ。皮膚病の一種。「疱疹ホウシン」(皮膚に小さな水疱と膿疱ができること。ヘルペス)「帯状疱疹タイジョウホウシン」(痛みと赤い斑点や水ぶくれが帯状に現れる病気)
 シン・みる  言部 zhěn
解字 「言(ことば)+㐱(多くのできもの)」の会意形声。発疹した患部を、言葉を交わしながら診ること。
意味 みる(診る)。しらべる。病状を調べる。「診察シンサツ」「診断シンダン」「往診オウシン」「誤診ゴシン
 テン・つきる・つくす  歹部 tiǎn
解字 「歹(死ぬ)+㐱(多くのできもの)」の会意。体に多くのできものが出て死ぬこと。
意味 (1)つきる(殄きる)。たやす(絶やす)。「殄滅テンメツ」(死に絶える) (2)ことごとく(殄く)。「殄廃テンハイ」(ことごとくすてる)
 テツ・むさぼる  食部 tiè

 饕餮文とうてつもん
解字 「食(たべる)+殄(ことごとく)」の会意形声。ことごとく食べること。むさぼること。発音は、テン⇒テツに変化。
意味 る(むさぼる)。「饕餮トウテツ」(饕も餮もむさぼる意。饕餮トウテツは人をむさぼり食うという悪い獣。後代には魔除けの意味をもった。模様化したものが青銅器などの装飾に用いられている。

形声字
 チン・めずらしい  玉部 zhēn
           
解字 「王(玉)+㐱(シン⇒チン)」の形声。[説文解字]は「(宝)也(なり)」とし貴重な玉の意。めずらしい・とうとい意となる。また、めずらしい意から普通と変わっている意ともなる。
意味 (1)めずらしい(珍しい)。「珍事チンジ」「珍客チンキャク」 (2)だいじな。とうとい。「珍重チンチョウ」(珍しいとして大切にする)「珍宝チンポウ」 (3)かわっている。「珍奇チンキ」「珍妙チンミョウ」(①珍しくてすぐれる。②変わっていておかしい)
 チン  走部 chèn
解字 「走(はしる)+㐱(チン)」の形声。走って追うことを趁チンという。発音字典の[広韻]は「逐(お)う也(なり)」とする。また、ある機会を利用して・~に乗じて、の意味になる。
意味 (1)おう(趁う)。走る。「花の底にいる山蜂は遠くまで人を趁(お)う」(杜甫の詩)「趁食チンショク」(食をおう。食を求める)「涼趁リョウチン」(涼しさをおう) (2)ある機会を利用して。乗じて。つけこむ。「趁時チンジ」(その時に乗じて)「趁間チンカン」(隙間につけこむ。機会に乗ずる)
 シン・よこぎ  車部 zhěn

車の車箱の軫(轸)。(中国のネットから。車箱底部四周の木を指している)
解字 「車(くるま)+㐱(シン)」の形声。㐱シンは枕シン(下部に配置する木)に通じ、車の車箱底の四囲の横木を軫シンという。
意味 (1)よこぎ(軫)。車箱下部を囲う横木をいう。また、車をいう。「車軫シャシン」(車箱の横木) (2)ことじ。琴の糸をささえるこま。 (3)疹シンに通じ、いたむ。うれえるさま。「軫懐シンカイ」(心をいためる)「軫恤シンジュツ」(いたみあわれむ)「軫悼シントウ」(いたみかなしむ) (4)星座の名。二十八宿のひとつ。みつかけぼし。「翼軫ヨクシン」(隣り合う星座の翼宿と軫宿)
 シン・あぜ  田部 zhěn
解字 「田(耕地)+㐱(シン)」の形声。[説文解字]に「井田(井字形の土地)間の陌(みち)也(なり)」とあり、あぜみちをいう。
意味 (1)あぜ(畛)。あぜみち。耕地の境の道。 (2)さかい。境界。「畛域シンイキ」(境界)「封畛ホウシン」(領地の境界を定める)
<紫色は常用漢字>

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漢和字典 使った感想(5)「新漢語林」

2024年03月21日 | 漢和字典・使った感想

  大修館書店といえば漢和辞典の最高峰である「大漢和辞典」の出版社として知られる。親字5万余字、熟語53万余語を収録した漢和辞典で、1927年(昭2)漢字学者・諸橋徹次氏と大修館社長の鈴木一平氏の間で出版契約が成立してから、太平洋戦争を挟んで完成する1960年(昭35)まで35年かかったという歴史をもつ日本を代表する漢和辞典である。
 ここで紹介する小型サイズ(H18.5㎝)の「新漢語林」は、「大漢和辞典」の代表編集者である諸橋轍次氏のもとで編集に協力した鎌田正・米山寅太郎氏によって、学校教育との一体化を図った簡明で使用しやすい漢和辞典として編集された。親字は14,629字、熟語は約5万語。1,952ページの字典である。

例によって午ゴのページを見てみる。

以下の順序で構成されている。
(1)見出し語「午」の横に[筆順]がある。(常用漢字・人名用漢字に付く)
(2)[字義]として「①うま。ア、十二支の第七位。イ、月では陰暦五月。「端午」ウ、時刻では正午。エ、方位では南。オ、五行では火。カ、動物では馬。②さからう。そむく。もとる。③まじわる。交錯する。十文字に交わる。
 最後に[名前]として日本での読み方として、「うま・ご・ま」をあげる。
(3)[解字]として、甲骨文・金文・篆文の字体を表示する。因みに「大漢和辞典」の午では、甲骨文字と金文は表示されていない。新しく判明した古文字を追加している。
 字体の種類を[象形]として「金文でわかるように、両人がかわるがわる手にしてつく「きね」の象形。交互になるの意味から、陰陽の交差する十二支の第七位のうまの意味を表す。杵ショの原字。午を音符に含む形声文字に、許・迕などがあり、これらの漢字は「きね」の意味を共有している。」とする。
 次に[逆]として、重要な逆熟語を5語あげている。
(4)熟語として、10語あげて各語の説明をしている。

 続いて音符字の杵ショ・許キョ・滸コ・忤ゴの項目をとりあげる。
ショ

(1)見出し語の横に[筆順]がある。人名用漢字のため。
(2)[字義]として、①きね。②つち。臼に入れたものをつく道具。ア、砧を用いて布を打つ際のつち。「杵声(きぬたの音)」。イ、土壁などをつき固めるつち。③たて。大きな盾。身を守る武具。説明文の下に二人の人が杵をもち臼をつく図版がある。
(3)[名前]として、き・きね [難読]として、杵築。
(4)[解字]として、篆文の字体を表示。形声。木+午(音)。音符の午ゴ⇒ショは、両人が向き合ってかわるがわるつく、きねの象形で、きねの意味を表したが、午が十二支のうまの意味に用いられるようになり、木を付した。

キョ・コ・ゆるす [ページの写真は省略]
(1)見出し語の横に[筆順]がある。常用漢字のため。
(2)[字義]として、①ゆるす。具体的な意味として、ア~オまで列挙し、用例とその意味を解説している。②仲間になる。③進む。④おこす(興す)。⑤もとところ。「何許いずこ」、⑥ばか-り。ほど。用例とその意味がある。⑦これ。このように。か-く。⑧なに。⑨周代の国名。
(3)[名前]もと・ゆき・ゆく [難読]として、6例あり。
(4)[解字]として、金文・篆文の字体を表示する。形声。言+午(音)。音符の午は、きねの形をした神体の象形。神に祈ってゆるされるの意味を表す。
 [逆]として、重要な逆熟語を3語あげる。
(5)熟語として、11語をあげて各語の説明をしている。


[字義]ほとり。水岸。みずぎわの地。「水滸」
[解字]形声。氵+許(音)。


[字義]①さか-らう。もとる。②みだれる。
[解字]形声。忄(心)+午(音)。音符の午は牾に通じ、さからうの意味を表す。
[熟語]として、「忤視ゴシ」をあげて、解説している。

「新漢語林」の特長
 午とその音符字を紹介したうえで、この字典の感想は以下のようになる。
(1)見出しの漢字は、大きく[字義]と[解字]に分けて具体的に説明しているが、その際、常用漢字については特に詳しく説明しており、[用例]として挙げた字は、その意味も叙述するなど分かりやすく解説している。また、人名用漢字も、常用漢字に準じる説明になっている。しかし、これ以外の字については、滸、忤で分かるように2~3行の説明ですませている。したがって、この字典は日常生活に必要不可欠な漢字を重点的に説明した字典といえる。また、主要な漢文頻出の漢字・熟語を含む用例を、読みと現代語訳付きで多数追加しており。漢文学習にも対応できる字典となっている。
(2)音符となる字は、その音符の特徴を指摘して説明している。午では「金文でわかるように、両人がかわるがわる手にしてつく「きね」の象形。杵ショの原字。午を音符に含む形声文字に、許・迕などがあり、これらの漢字は「きね」の意味を共有している。」とする。音符字として言及しているのはこの字典しかない。なお『漢字源』(学研プラス)が「同源語」として午・御・許・杵・忤・滸・迕、を提示している。
(3)杵の形についての疑問。
 しかしながら、[解字]の説明には納得しかねる表現がある。午に「金文でわかるように、両人がかわるがわる手にしてつく「きね」の象形。交互になるの意味から、陰陽の交差する十二支の第七位のうまの意味を表す。」とするが、午の金文は杵を象っているだけであり、両人がかわるがわる手にするかどうかは不明である。おそらく杵の図版をもとに想像したものと思われるが、この図版は一例であって、いつも二人がそろって杵をつくわけでなく、また杵のかたちも図版のように一方の先だけが太いのではない。二人以上がそろって杵をつくのは行事のときだと思われる。
 因みに、下の写真は中国ネットにあった臼と杵の写真である。
 ②
写真①は中国ネットにあった臼と杵の写真であるが、杵は両端がふくらんだ形をしている。杵の形としては、こちらのほうが一般的である。②は中国ネットの臼で穀物をつく写真であるが、右の女性は穀物を臼に落として補給しており、左の男性一人が臼をついている。

『漢語林』[第二版]2011年4月1日発行 大修館書店
著者:鎌田正 米山寅太郎

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音符「曹ソウ」<荷物を運ぶ仲間>と「遭ソウ」「槽ソウ」「漕ソウ」「艚ソウ」「糟ソウ」

2024年03月19日 | 漢字の音符
  改定しました。
 ソウ・ゾウ・ともがら   曰部 cáo

解字 甲骨文字は「東(荷物を入れた袋)+東(荷物を入れた袋)+口(くち)」の形。荷物二つで荷物を運ぶ二人を表す。そこに口がついて、荷物を運ぶ人が互いに話をしている形で、ともがら・なかまの意だが、意味は地名。金文は口⇒口にものを含む形になるが、意味は国名で春秋時期の曹国の意味がある。篆文は曰(いう)になり裁判用語として使われたため、司法関係の役所や広く役人の意味となった。
 音符イメージとしては、「なかま・ともがら」のほかに、東が荷物を入れる袋であることから、ともがらが「荷物をはこぶ」イメージがある。東が荷物を入れた袋であることについては、音符「東トウ」を参照。
意味 (1)なかま。ともがら(曹)。「朋曹ホウソウ」(ともがら) (2)つかさ(曹)。裁判官。役人。「法曹ホウソウ」(法律家) (3)軍隊などの階級の一つ。「軍曹グンソウ」(陸軍下士官の一つ) (4)「曹司ソウシ」とは、役所。官庁。小役人。「曹司ゾウシ」とは、[国]①宮中の女官などの部屋。②貴族の部屋住みの子弟。「御曹司オンゾウシ」(堂上家の部屋住みの子息。名門の子弟) (5)外国語の音訳。「曹達ソーダ」(オランダ語 soda[ナトリウム塩。通常は炭酸ナトリウムを指す]の音訳語)「重曹ジュウソウ」(重炭酸曹達の略。炭酸水素ナトリウムの俗称) (6)国名。「曹国ソウコク」(BC1046年~BC487年)。周代諸侯国の一つ。山東省にあった。(7)姓のひとつ。「曹操ソウソウ」(三国魏の政治家)
覚え方  ついたち(一日)、ふつか(| |日)で。実際の書き方は、こちら

イメージ 
 「なかま・ともがら」
(曹・遭)
 ともがらが「荷物をはこぶ」(漕・艚・槽)
 「その他」(糟)
音の変化  ソウ:曹・遭・漕・艚・槽・糟

なかま・ともがら
 ソウ・あう  辶部 zāo
解字 「辶(ゆく)+曹(ともがら)」の会意形声。ともがらがゆくと、ともがらと道で出会うこと。
意味 あう(遭う)。であう。めぐりあう。「遭遇ソウグウ」(思いがけずあう)「遭難ソウナン」(災難にあう)「遭罹ソウリ」(悩み事にぶつかる。[難に]あう。)

荷物を運ぶ
 ソウ・こぐ  氵部 cáo
解字 「氵(水)+曹(荷物を運ぶ)」の会意形声。水路で荷物を運ぶこと。
意味 (1)船で物を運ぶ。「漕運ソウウン」(船で物をはこぶ) (2)船で物を運ぶ水路。「漕渠ソウキョ」(漕運のための水路) (3)こぐ(漕ぐ)「漕艇ソウテイ」(ボートをこぐ)
 ソウ  舟部 cáo
解字 「舟(ふね)+曹(=漕。水路で荷物を運ぶ)」の会意形声。水路で荷物を運ぶ舟。
意味 水上運送用の木船。また、ひろく小舟のこと。「艚子ソウシ」(小舟)
 ソウ・おけ  木部 cáo
解字 「木(き)+曹(=艚。ふね)」の形声。木製の舟型の容器。当初、馬や牛のえさを入れる「かいばおけ」を言った。のち、水や酒を蓄える容器の意に使われる。

かいばおけ・馬槽(胴は舟型になっている。中国のネットより)
意味 (1)おけ(槽)。かいばおけ。「馬槽バソウ」 (2)水や酒をたくわえる容器。「水槽スイソウ」「浴槽ヨクソウ」「酒槽シュソウ

その他
 ソウ・かす  米部 zāo

解字 春秋戦国時代に使われた籀文チュウブンは「東東(袋二つ)+酉(さけ)」の会意形声。東は筒状の袋で、これに酒のもろみ(濾していない酒)をいれた形。上から圧力をかけて絞ると酒ができる。袋に残ったものが、カス(糟)である。篆文第一字(六書通)は、「酉+曹ソウ」の形になり、篆文第二字で「米(米からつくる酒)+曹(=東東。ふくろ)」の会意形声に変わったが、意味は酒かすである。籀文の字形は、「象形字典Vividict.com]による。
意味 (1)かす(糟)。「糟糠ソウコウ」(酒のかすと米のぬか。まずい食べ物)「糟糠の妻」(粗末な食事をした貧乏な時から苦労を共にしてきた妻)「糟粕ソウハク」(糟も粕も、酒かすの意。かす。つまらいものの例え)「糟魚ソウギョ」(かすづけの魚) (2)酒かすをしぼる前の、もろみ。こしてない酒。
<紫色は常用漢字>

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音符「𡈼テイ」<ぬきんでる>と「呈テイ 」「程テイ」「逞テイ」「酲テイ」「聖セイ」

2024年03月17日 | 漢字の音符
  改定しました。
𡈼 テイ  土部 tǐng   

解字 甲骨文は、「土(つち)+立つ人」の会意。土の土台(土盛り)の上に立つ人のかたち。篆文は、土の上の人がすこし前かがみになっている。現代字は「ノ+土」の𡈼の形になった。意味は、①まっすぐ立つ。ぬきんでる。②良い。𡈼テイが音符になったとき、「壬ジン」や「王オウ」の形に変化することが多い。
意味 (1)ぬきんでる。まっすぐ立つ。つきでる。まっすぐのびる。(2)よい。
イメージ 「ぬきんでる・まっすぐ立つ」

    テイ <さしだす>
 テイ  口部 chéng           

解字 「口サイ𡈼テイ(まっすぐ立つ)」の会意形声。口サイは器(うつわ)。これをまっすぐ立つ人がかかげるさま。さしだす・さしあげる意となる。転じて、しめす・あらわす意ともなる。新字体は、𡈼テイ⇒王に変化する。
意味 (1)さしだす。さしあげる。「贈呈ゾウテイ」「進呈シンテイ」「謹呈キンテイ」(つつしんでさしあげる) (2)しめす(呈す)。あらわす。「呈示テイジ」(呈も示も、しめす意)「露呈ロテイ」(隠れているものが外に表われ出る)

イメージ 
 原義の「さしだす・あらわす」(呈・裎) 
 𡈼テイの意味である「ぬきんでる」(程・逞・酲)
 「その他」(聖)
音の変化  テイ:呈・裎・程・逞・酲  セイ:聖

さしだす・あらわす
 テイ  衤部 chéng・chěng
解字 「衤(ころも)+呈(あらわす)」 の会意形声。衣から肌が表れでること。
意味 (1)肌をだす。はだかになる。「裎袒テイタン」(はだぬぐ。裎も袒も、はだぬぐ意)「裸裎ラテイ」(はだかになる)(2)ひとえの衣。

ぬきんでる・まっすぐ立つ
 テイ・ほど  禾部 chéng
解字 「禾(いね)+呈(=𡈼。まっすぐ立つ)」 の会意形声。まっすぐ立つ稲の長さから、長さの単位ひいてみちのりの意。また、長さの標準となることから、きまり・さだめの意となった。 
意味 (1)(稲の長さから)長さの単位。ながさ。みちすじ。みちのり。「里程リテイ」(みちのり。里数)「道程ドウテイ」(みちのり・みちすじ)「行程コウテイ」(みちのり) (2)標準。きまり。さだめ。「規程キテイ」「教程キョウテイ」「課程カテイ」「工程コウテイ」( 作業の手順。またその進み具合) (3)ほど(程)。ほどあい。ぐあい。「程度テイド
 テイ・たくましい  辶部 chěng
解字 「辶(ゆく)+呈(ぬきんでる)」 の会意。他の人よりぬきんでて進むこと。
意味 (1)勢いがさかん。思い通りにする。いさましい。「逞欲テイヨク」(欲望をほしいままにする)「不逞フテイ」(①不平をいだき、従順でない。②勝手な暴れ者。ふらちな) (2)[国]たくましい(逞しい)。体格ががっしりしている。才気があり信頼できる。
 テイ  酉部 chéng
解字 「酉(さけ)+呈(ぬきんでる)」 の会意。酒を飲むのが人よりぬきんでる意。とことんまで酒を飲む意となり、その結果、悪酔いすること。
意味 (1)とことんまで酒を飲む。酩酊する。「酲酔テイスイ」(深く酔う)
(2)悪酔いする。二日酔い。「酲困テイコン」(悪酔いする)

その他
 セイ・ショウ・ひじり  耳部 shèng

甲骨文は「耳を強調した人(良く聞こえる耳)+口(口から出た言葉)」の会意で、言葉を聴く意。金文も同じ構造で聴く意であるが、「聖人」の熟語で道徳と知能のきわめて高い人の意味となっている。篆文で「耳+口+𡈼テイ(ぬきんでる人)」 の会意となり、新字体で𡈼テイ⇒王に変化した聖となった。意味は行いが高尚で、物事に博く通じ造詣の深い人をいう。また、天子の尊称、宗教的な崇拝対象などを表す字となった。
意味 (1)ひじり(聖)。知徳がすぐれ物事の理に通じている人。 ①さとい。かしこい。「聖人セイジン」(知徳がすぐれた最高の人格者)「聖臣セイシン」(すぐれた臣下)「聖童セイドウ」(神童。天才児) ②一つの道で奥義を窮めた人。「剣聖ケンセイ」「詩聖シセイ」(傑出した詩人。また、詩仙の李白に対し、杜甫をいう)「聖堂セイドウ」(孔子をまつった廟) ③宗教的な崇拝対象。「聖母セイボ」(イエスの生母マリア)、「日蓮ニチレン聖人ショウニン」(仏教) ④天子の尊称。「聖王セイオウ」 ⑤崇高な。荘厳な。「神聖シンセイ」「聖地セイチ」 (2)[国]ひじり(聖)。高徳の僧侶。「高野聖こうやひじり
<紫色は常用漢字>

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音符「袁 エン」<遠い・長い>と「遠エン」「園エン」「薗エン」「轅エン」「猿エン」

2024年03月15日 | 漢字の音符
  改定しました。
 エン  衣部 yuán 
    
解字 袁は「遠エン」の音符字から分離してできた字。袁姓は河南省を発祥の地とし、四川、華北、江南にかけて幅広く分布する。歴史書の伝説によれば、舜の子孫である陳の公族、轅濤塗エントウトが太康県(現在の河南省周口市の県)に領土を与えられ、その子孫が祖にちなんで轅から車を省いた袁を姓としたのに始まるとされる。袁姓の人が歴史上で数多く活躍し始めるのは前漢の頃からである。
意味 (1)[説文解字]は、「長い衣服のさま」とする。 (2)姓。「袁紹エンショウ」(後漢末の武将。曹操と戦って敗れた)「袁山松エンサンショウ」(晋代の官吏。「後漢書」を著す)「袁凱エンガイ」(明代初期の詩人)「袁世凱エンセイガイ」(中国清末・中華民国初期の軍人・政治家)

イメージ 
 「姓」(袁)
 「遠い・長い」(遠・園・薗・轅)
 「形声字」(猿)
音の変化  エン:袁・遠・園・薗・轅・猿

とおい・ながい
 エン・オン・とおい  辶部 yuǎn

解字 甲骨文第1字は「彳(ゆく)+〇(円)+衣(上下に分かれる)」の形。「彳(ゆく)+衣」は衣を着て行く意(この形も甲骨文にある)。〇(円)については諸説あるが、円エンの発音を表す音符だとする説がある。第2字は、上から「止(あし)+衣+又(手)」の形。衣を手で身に着けて止(あし)で出かける形で、〇(円)はない。甲骨文の意味は、地名またはその長、および祭祀名だというから、字体の本来の意味は分からない。
 金文第1字は甲骨文の両方を取り入れた形で、「彳+止+〇(円)+衣(上下に分かれる)」(止と衣の亠は一体化している)、第2字はさらに下に止(あし)が付いた形で、この止は上の彳と合わさると辵チャク(=辶)となり行く意。金文の意味は遠近の遠の意になっている。
 篆文は「辵チャク+屮+〇(円)+衣(上下に分かれる)」となり、金文の止が屮に略された。意味は「遥かなり」とあり遠い意。形は隷書レイショ(漢代)の変化をへて現代字の遠になったが、袁の部分は「止と衣の上部」⇒土になり、下部の衣あしは、レ⇒ | に変化した。
意味 (1)とおい(遠い)。距離の隔たりが大きいこと。「遠足エンソク」「遠方エンポウ」「遠因エンイン」「遠隔エンカク」「遠洋エンヨウ」 (2)時間の隔たりが大きいこと。「遠紀オンキ・エンキ」(宗派の祖をたたえる法会) (3)隔たりが大きい。親しくない。「疎遠ソエン
 エン・その  囗部くにがまえ yuán
解字 「囗(かこみ)+袁(=遠。長い)」の会意形声。囲いの長い広い敷地。新字体のため、袁の下部のレ⇒ | に変化。[説文解字]は「所以樹果也。从囗袁聲。」(果を樹(う)える所以(ゆえん)なり。囗(かこい)に従い袁の聲(声)」とし、果樹を植える場所とする。
意味 (1)その(園)。果樹・野菜・草花の畑。「梅園バイエン」「菜園サイエン」「農園ノウエン」「庭園テイエン」 (2)人々が遊歩したりする憩いの場。「苑園エンエン」「名園メイエン」 (3)一定の区域とその内部の施設。「学園ガクエン」「動物園ドウブツエン」「楽園ラクエン
 エン・その  艸部 yuán
解字 「艸(くさ)+園(その)」の会意形声。その(草木を栽培する区域)の意味を艸をつけて強めた字。園と同字だが、人名や地名に用いられることが多い。新字体に準じて、袁の下部のレ⇒ | に変化。
意味 その(薗)。果樹などを植えた畑。一定の区域や庭。「薗田そのだ」(姓)「上薗うえぞの」(姓)「薗子そのこ」(名前)「薗原湖そのはらコ」(地名)
 エン・ながえ  車部 yuán

御所車(牛車)の轅
解字 「車(くるま)+袁(=遠。長い)」の会意形声。車の前方に出ている長い棒。一本の棒では先端に横木をつけて二頭の馬に引かせる。二本の棒では中に牛馬を入れてひかせる。
意味 ながえ(轅)。写真は車の前方に出ている二本の棒(牛馬を中に入れてひかせる)。「轅下エンカ」(轅の下。人に使われること)「轅門エンモン」(陣営の門。軍の門。中国で、戦陣で兵車を並べて囲いとし、出入り口は兵車の轅を向かい合わせて門にしたことから)

形声字
 エン・さる  犭部 yuán
解字 「犭(けもの)+袁(エン)」の形声。エンは爰エン(引く)に通じ、木の上に住みつき枝を引く猿を表わす。猨エンはサルの正字。
意味 さる(猿)。「猿猴エンコウ」(サル類の総称。猴もサルの意)「猿啼エンテイ」(サルの鳴き声)「犬猿ケンエンの仲」
<紫色は常用漢字>

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漢和字典 使った感想(4)「字統」「字通」「常用字解」

2024年03月13日 | 漢和字典・使った感想
 「説文解字」を超える字書をめざした「字統」

 中国で字書の聖典とよばれる「説文解字」。これを超えるようと企図した字典が「字統」である。立命館大学で甲骨文字と金文の卜辞(ぼくじ)二万点をノートに写しとり、整理して備えていた文学部教授の白川氏は「甲骨金文学論叢」の第4集(1956年)で、これまで清代の考証学においても批判の対象とされることのなかった、漢の許慎の「説文解字」の体系を根本から批判した。「この時点で、私は新しい文字学の立場からする字源字典の構想を持ったが、その前に「説文解字」の全体に、徹底的な分析を加える機会をもちたいと思った」(「私の履歴書 白川静」(日経新聞連載)と書いている。
 卜辞(ぼくじ)二万点に及ぶ手書きのノート(「白川静読本」の表紙見返しより)

 白川氏が甲骨文字と金文の約二万片に及ぶ卜辞(ぼくじ)をノートに写しとる作業のなかで見つけたのは、その字形から浮かびあがる中国古代の生活であり、そこから生まれる人々の思考方法である。字源の説明は自然と神と人との関わりを結びつけるものが多く、白川漢字学の特長となっている。
 その後、神戸市の白鶴美術館を会場にした月1回の講義の成果である「金文通釈」52輯、併行しておこなってきた「説文解字」の講義をまとめた「説文新義」全16巻の蓄積を基礎にして字源字書としての「字統」が発行されたのは、白川氏が大学を退官して自由の身になってからであった。1984年に刊行され、同年、毎日出版文化賞特別賞を受賞、その後、「字統普及版」(1994年)が刊行された。収録文字は親字の総数が5478字で、副見出しとして示した字を含めると約7000字。文字配列は多くの字典が部首配列をしているのに対し、字音の五十音配列にしている。

 各字の説明は「午ゴ」に例をとると、最初に古代文字を配列し、その順序は篆文、続いて甲骨文、金文の順番になっており「説文解字」を重視している。続いて字形を「象形」「会意」「仮借」「形声」に分けて表示してから、本文として古代文字の字形をもとに字源の説明をする。午ゴでは「説文」の陰陽五行説の解字を批判して、午は杵の形であるが、これを呪器として邪悪を祓うことがあり、その祭儀を御ギョといい、その初文である禦ギョと結び付けて説明している。
「字統」の特長
 二万字にも及ぶ筆記作業で、当時の甲骨文・金文の世界に没頭し、その文字の性質を生活文化および精神文化の両面から知ることになった白川氏が、甲骨文・金文が発見される以前に書かれた「説文解字」の字源を批判的に書き改めた書といえる。最初に「説文」の解釈を説明してから、次に金文・甲骨文の用法を説明し本来の使い方の例を述べて字源を説明する。
 その文章はこれまで旧態依然とした漢字の解釈の世界に、新鮮な観点をもたらし日本で脚光を浴びることとなった。しかし古代人の精神に入り込んだとされる漢字の解釈には異論を唱える人もいる。
「字統」平凡社 1984年8月  27cm 1013ページ
「新訂 字統」平凡社 2004年12月  27㎝ 1136ページ
「字統 普及版」平凡社 1994年3月 22cm 1067ページ
「新訂字統 普及版]平凡社 2007年6月 H21.5㎝ 1107ページ

漢和字典としての体裁を整えた「字通」

 収録字数は約9,500字。収録熟語は約50,000語。2,094ページ。大型サイズ(H26.5㎝)。字源の書であった「字統」の完成後、取り上げた各字を中心に他の重要な字を加えて漢和字典としての体裁を整えたのが「字通」である。1996年に出版された。午ゴの部分を見ると、

(1)古代文字が、篆文⇒甲骨文字⇒金文の順に掲載されている。各字は一重丸・二重丸などで区別されているが、「字統」のように文字で区別したほうが分かりやすい。
(2)古代文字の成り立ちを、象形・仮借・会意・形声に分けて解説している。内容は「字統」の文章を簡略化したものが基本である。
(3)「古訓」として[名義抄]や[字鏡集]などに掲載されている訓をあげている。
(4)「部首」として「説文解字」「玉篇」などで部首になっている字は、その部に所属する漢字を列挙している。
(5)「声系」として、午声に属する漢字を列挙している。
(6)「語系」として音韻によって類似する漢字を列挙している。音韻は中国語の発音中の共通部分であり、「声系」の漢字より範囲が広くなる。
(7)続いて、熟語を列挙して意味を説明している。逆熟語は熟語のみ列挙する。
「字通」の特長
 一般的な漢和辞典より収録字数は少ないが、重要と思われる字はもれなく収録されており、使用に不便はない。また、字のなりたちから、「声系」「語系」まで、その字の基本的な位置がわかるほか、熟語のほか逆熟語の数がとても多く、豊富な語彙に到達できる。これらの丁寧な説明は他の字典より充実している。
 唯一の欠点は、大型サイズで2000ページを超える本であるため、とても重く片手で持てないことである。私はいつも手に届く場所に置いておき、両手で取り出してからページをめくる。なお、「字通」の内容の一部はネットの「コトバンク」で公開されており、閲覧が可能である。
「字通」 平凡社 1996年10月 H26.5㎝   2093ページ
「字通 普及版」 平凡社 2014年3月 H23㎝   2435ページ 

「常用字解」

 1981年(昭56)それまでの「当用漢字表」に代わって「常用漢字表」が告示された。これにより、これまでの1850字から1945字に増えたのを機会に、中学・高校生向けに字源を中心に解説したのが「常用字解」(2003年初版)である。また、2010年11月には「常用漢字表」にさらに196字を追加し、5字を削除した2136字となった。白川氏は2006年に逝去されたので、新たに追加された字は「字通」「字統」などの記述をもとに作成された。
 以下に道ドウのページを見ると、

(1)見出し字(道)の横に、古代文字の金文(2種)、と篆文が表示されている。
異族の人の首を手に持ち、その呪力(呪いの力)で邪霊を祓い清めて進む!?
(2)[解説]として、金文2の古代文字は、「首+辵(辶)+又(て)」で、首を手に持って行く意味となる。「この字は導であるが、古い時代には他の氏族のいる土地は、その氏族の霊や邪霊がいて災いをもたらすと考えられたので、異族の人の首を手に持ち、その呪力の力で邪霊を祓い清めて進んだ。その祓い清めて進むことを導(みちび)くといい、祓い清められたところを道といい「みち」の意味に用いる。」と独特な解説をしている。
(3)[用例]として、「道中」「道程」「道標」「邪道」「神道」の6熟語を解説している。
「常用字解」の特長
(1)中学生・高校生向けの字典というより、字源に興味のある大人向けの字典である。漢字に興味をもつ人なら読み応え十分であり、その成り立ちから解説する本書によって奥深い漢字の世界に惹かれる人は多いに違いない。
(2)なお「字統」との関係で言えば、「字統」と「常用字解」は同一字でも文章の内容が少し異なる場合が多い。これは、①「字統」は出版以来、ほとんど内容を変えていない。②「常用字解」は「字統」出版後9年経過してから書かれており、生徒・学生向きということから、内容をわかりやすく変えたと思われる。したがって、同じ字を「字統」と「常用字解」で読むと参考になるときもある。
「常用字解」平凡社 2003年12月 19.5㎝ 
「常用字解 第二版」平凡社 2012年10月 19.5㎝

白川漢字学説の検証サイトが登場
 白川氏の漢字字源説は共感する人もいる一方、納得できないと言う人もいる。白川学説を具体的に検証してみようというサイトがある。これは漢字辞典の編集者である某氏が立ち上げた「常用漢字論ー白川学説の検証」というサイトである。このサイト名でネット検索すると、たどり着ける。
 およそ1200字について個別に検証しており、これ以外にもさまざまな角度からのテーマで検証している。このサイトを読んでみると、納得できる箇所が随所にあり、これを読むと参考になることが多い。両方を読み比べると、漢字に対する理解がより深まるのではないだろうか。





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