漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

紛らわしい漢字 「良リョウ」 と 「艮コン」

2017年12月16日 | 紛らわしい漢字 
 良リョウと艮コンはよく似た漢字だ。艮コンの上に を付けたら良リョウになる。しかし、この二つの字は成り立ちがまったく異なる。現在の字は、たまたま似てしまっただけである。両字の成り立ちと、この字が音符となる常用漢字を紹介します。

    リョウ <よい穀物を選りわける器具>
 リョウ・よい  艮部こん

解字 良の解釈については諸説があり定まっていない。甲骨文字は上と下に袋の入口状のものが描かれていることから、上の入り口から穀物をいれ、よいものを選り分ける器具との説がある。私はとりあえずこの説で解字してみたい。いれた穀物が途中の箱に入ると揺り動かし、箱下に張った網からクズが落ち、残ったよいものを逆さにして上の口から取り出す器具と考えると、よいものを選りわける器具であるから、「よい」意となる。また、よいものを選り分けるために「ゆらす」というイメージができる。現在の字は古代文字の原型をまったくとどめていない。よく似ている艮と一緒に、「上に点のあるのが良リョウ、無いのが艮コン」と覚えるといいだろう。そして漢字検索のための部首としては「艮」になっているのも両字が似ているということ。新字体の左辺になるとき、良⇒郎の左辺に簡略化される。
意味 よい(良い)。すぐれている。好ましい。「良心リョウシン」「良否リョウヒ」「良薬リョウヤク」「良好リョウコウ

イメージ  
 穀物を入れて良い物を選別する器具から「よい」(良・郎・朗・娘)
 選別の際に器具をゆするので「ゆする・ゆれる」(浪)
 「同音代替」(廊)
音の変化  リョウ:良  ロウ:郎・朗・浪・狼・廊  ジョウ:娘

よ い
 ロウ  阝部  
解字 「阝(邑:まち)+良の略体(よい)」の会意形声。まちに住む教育や地位のある人(良士)が原義。転じて、若い男の意を中心に使われる。
意味 (1)おとこ。若い男。「新郎シンロウ」「野郎ヤロウ」(田舎者。若い男) (2)けらい。主人に仕えるもの。「郎党ロウトウ」(従者)「下郎ゲロウ」(使われている身分の卑しい男) (3)男子の名前に用いる。「太郎」「次郎」
 ロウ・ほがらか  月部
解字 「月(つき)+良の略体(よい )」の会意形声。よい月、すなわち明るい月の意。きよらかで曇りがないことを性格に転じて、ほがらかの意を持つ。
意味 (1)あかるい。よい。「清朗セイロウ」「朗報ロウホウ」 (2)ほがらか(朗らか)。「明朗メイロウ」 (3)たからか。声たかく。「朗読ロウドク」「朗詠ロウエイ」(声高くうたうこと)
 ジョウ・むすめ  女部
解字 「女(おんな)+良(よい)」の会意形声。よい女の意。若い女のほか、母親の意もある。
意味 (1)むすめ(娘)。おとめ。未婚の女性。「娘盛(むすめざか)り」「娘婿むすめむこ」「看板娘かんばんむすめ」 (2)はは(母)「娘娘ニャンニャン」(もと母。中国の民間信仰の女性神)

ゆらす。ゆれる
 ロウ・ラン・なみ  氵部
解字 「氵(水)+良(ゆれる)」の会意形声。水がゆれるように動く大きな波。
意味 (1)なみ(浪)。おおなみ。「波浪ハロウ」 (2)さすらう。さまよう。「放浪ホウロウ」「浪人ロウニン」 (3)みだりに。ほしいままに。「浪費ロウヒ

同音代替
 ロウ  广部
解字 「广(やね)+郎(ロウ)」の形声。ロウは梁ロウ・リョウ(両岸をわたす)に通じ、建物の両側を渡す屋根のある通路の意。
意味 (1)わたどの。「回廊カイロウ」 (2)建物の中に作られた通路。「廊下ロウカ


     コン <後ろをむいて睨みつける>
 コン・ゴン・うしとら  艮部        

解字 甲骨文は目を大きく描いた人の形で、見ケンと向きが反対の字。見ケンが前を向いて見るのに対し、艮コンは後ろを向いて見る形で、悪意を持って相手を睨みつける意となる。対象者に呪いを掛ける魔術で、呪いを掛けられた方は、その場で動けなくなるとされる。篆文は目の下に右向きの人をつける。現代字は形が大きく変化した「艮」になった。
 悪意を持って相手を睨みつけるのは、邪眼ジャガン・邪視ジャシ・魔眼マガンなどと呼ばれ、世界に広範囲に分布する民間伝承の一つ。魔女とされる女性が持つ特徴とされ、邪眼にあうと病気になって衰弱し、ついには死に至ることさえあるといわれる。艮の意味は、邪眼にあって進めず「とまる・とどまる」意だが、仮借カシャ(当て字)され、「易の八卦のひとつ」および「うしとら(方角)」の意味で使われる。
意味 (1)とまる。とどまる。 (2)易の八卦の一つ。 (3)うしとら(艮)。北東の方角。鬼門。 (4)もとる。さからう。(=很)

イメージ  
 「後ろを向いてにらむ」
(艮・限)
 「後ろを向く」(跟・銀)
 にらまれて動けず、その場に「とどまる」(根・恨・痕)
 「同音代替」(眼)
音の変化  コン:艮・跟・根・恨・痕  ゲン:限  ガン:眼  ギン:銀

後ろを向いてにらむ 
 ゲン・かぎる  阝部

解字 「阝(かいだん・はしご)+艮(後ろを向いてにらむ・邪眼)」の会意形声。聖所へ上がる階段の下に、邪眼を配置してにらみをきかせ、邪悪が入りこまないようにすること。金文は目が離れて見張っている。階段の下で、くぎる・かぎる意となる。
意味 (1)かぎる(限る)。くぎる。「限定ゲンテイ」「制限セイゲン」 (2)さかいめ。はて。「限界ゲンカイ」「限度ゲンド

後ろをむく
 コン・かかと  足部
解字 「足(あし)+艮(後ろをむく)」の会意形声。人が後ろを向いたとき、足の後ろは、かかとになる。また、かかとに付いて行く意となる。
意味 (1)かかと(跟)。くびす。きびす。 (2)したがう。人のあとについていく。「跟随コンズイ」(人の後について行く。=跟従。)
 ギン・しろがね 金部
解字 「金(きん)+艮(=跟。あとにつく)」の会意形声。金のあとに従う銀。金の次に位置する銀の意。
意味 (1)ぎん(銀)。しろがね(銀)。「銀箔ギンパク」 (2)銀に似た色。「銀河ギンガ」(天の川)「銀幕ギンマク」(映画のスクリーン) (3)お金。「銀貨ギンカ

とどまる
 コン・ね  木部
解字 「木(き)+艮(とどまる)」の会意形声。土の中にいつまでもとどまる木の根。
意味 (1)ね(根)。草木の根。「球根キュウコン」 (2)物のねもと。おおもと。「根源コンゲン」「根本コンポン」 (3)がんばり。気分。「根気コンキ」「精根セイコン
 コン・うらむ・うらめしい  忄部
解字 「忄(心)+艮(=根。ね)」の会意形声。いつまでも心に根をもつこと。
意味 うらむ(恨む)。うらめしい(恨めしい)。「遺恨イコン」(恨みを残す)「痛恨ツウコン
 コン・あと  疒部
解字 「疒(やまい)+艮(とどまる)」の会意形声。身体にいつまでも残る傷の跡。
意味 (1)あと(痕)。きずあと。「刀痕トウコン」「傷痕ショウコン」 (2)あと(痕)。あとかた。「痕跡コンセキ」「墨痕ボッコン」(すみのあと。筆のあと)

同音代替
 ガン・ゲン・め・まなこ  目部
解字 「目(め)+艮(ガン)」の形声。ガンは丸ガン(まるい)に通じ、まるい目、すなわち目玉・眼球をいう。
意味 (1)め(眼)。まなこ(眼)。めだま。まなざし。「眼光ガンコウ」「眼下ガンカ」「開眼カイゲン」(新たにできた仏像や人形に目を描きいれ魂を迎えいれること) (2)目のようにまるい。「銃眼ジュウガン」(城壁などに開けた射撃用の穴)「方眼紙ホウガンシ
<紫色は常用漢字>

参考
 音符「良リョウ」
 音符「艮コン」

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