漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

特殊化した部首 「攵のぶん」

2018年10月22日 | 特殊化した部首
「攵のぶん」は攴ボクが変化した字。攴から攵ボクへの変化は隷書で起こり、楷書ではほとんどが攵になった。まず、攴ボクから見てゆこう。

攴[攵] ボク  攴部      

解字 甲骨文字でわかるように、手に棒や木の小枝を持って、たたくさまの象形。たたく・うつ意を表す。攴が正字だが、楷書ではほとんど「攵」に変わる。具体的に「どうたたく」かは、攵に対する字によって異なる。例えば、牧ボクの場合は牛をたたくムチであり、枚マイの場合は木をけずるオノである。
意味 (1)うつ。たたく。 (2)むちうつ。 (3)撃つ。
参考 攴は部首「攴ぼくづくり」になる。漢字の右辺(旁)に付いて、たたく意を表す。この部首は現在、ほとんどが攵に変化しているので非常に少ない。主な字は敲コウ・たたく(攴+音符「高コウ」)、および、旧字の敍ジョ(攴+音符「余ヨ」)=叙、の2字。

にみる「攴ぼくづくり」の変遷


篆字と隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた書体)の第一字は「古+攴」のかたち。隷書第二字で攴が「𠂉+乂」に変化し、楷書で攵になった。つまり、攴のトの部分が「ノ+一」に、又の部分が乂に変化して攵ボクが成立した。
 なお、攵ボクが「のぶん」と呼ばれるのは、東晋や初唐の書の「文」が攵と似ているので、第一画のノをつけて「ノ文」と言ったためと思われる。

『新書道字典』(二玄社)の「文」
真ん中の二字と左上は攵に似ている。

 攴は漢字の右辺に置かれたとき、ほとんどが攵に変化し、部首「攵のぶん・ぼくづくり」となり、たたく・うつ意味を表す。常用漢字で16字、約14,600字を収録する『新漢語林』では72字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 攻コウ(攵+音符「工コウ」)・改カイ(攵+音符「己キ」)
 放ホウ(攵+音符「方ホウ」)・政セイ(攵+音符「正セイ」)
 敗ハイ(攵+音符「貝バイ」)・救キュウ(攵+音符「求キュウ」)
 敏ビン(攵+音符「毎マイ」)・故コ(攵+音符「古コ」)
 敵テキ(攵+音符「啇テキ」)など。
 また、攵部に属する会意文字である、敢カン・散サン・敬ケイ・数スウ、は音符となる。

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特殊化した部首 「王たまへん」 と 「王オウ」の関係

2018年10月17日 | 特殊化した部首
ギョクが左辺(偏)に付くとき、王の形をとり「たまへん」と呼ばれる。なぜだろうか? 王と玉の成り立ちを比較してみよう。

 ギョク・たま  玉部

  上が玉、下が王
解字 上段の玉の甲骨文字は、三つの玉(宝石)を紐で貫きとおした形の象形。短い横線が玉で、タテ線が紐。古代中国で礼服着用の時などに腰飾りにした。玉は古代人の信仰の対象であり、のち、多く礼器(祭祀や賓客の接待に用いる器)として用いられた。金文から上下の線がとれ、王の形になった。篆文も王の形であるが、王様の王と区別するため、王は上の二横画を接近して書き、玉は等間隔に書いていた。隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた書体)や楷書になって、点を加えて玉とし、王と区別 した。
 一方、王は大きな戉エツ(まさかり)の刃部を下にして置く形の象形。王位を示す儀式の器として玉座の前におかれた。武器(武力)によって天下を征服した者のこと。篆文では玉と区別するため上の二本の横画を接近していたが、隷書で玉に点が付いたため、楷書で以前の玉の形である王と入れ替わったかたちになった。玉は部首となるが、偏になるとき王の形になる。
意味 (1)美しい石。ぎょく。宝石。「宝玉ホウギョク」(宝として大事にしている玉)「玉石ギョクセキ」(すぐれたものと劣ったもの) (2)たま(玉)。美しい。「玉露ギョクロ」(玉のように美しい露) (3)天子や天皇につける美称。「玉座ギョクザ」「玉音ギョクオン」 (4)たま。真珠。
参考 玉は部首「玉たま」になる。漢字の下部に付いて玉(貴石)の意味を表す。主なものは常用漢字の3字である。
 玉ギョク(部首)、璧ヘキ(玉+音符「辟ヘキ」)、璽(玉+音符「爾ジ」)

キュウにみる「王たまへん」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の球キュウ・たまの変遷、上に玉の部分を抜き出した。

 球の篆文は「王+求」である。これは、最初に掲げた玉の篆文を見ると分かる。つまり玉は篆文で王の形だったのである。玉は隷書レイショで点がついた玉になったが、隷書でも左辺(偏)は王のままで、これは現在の楷書に続く。つまり、「王たまへん」は金文・篆文から王のままで、現在まで変わっていないのである。ちなみに、金文からある環カン・珈の字も、偏は王の形である。なお、楷書(現代の字)では、王の下の横線が右に少し上向きとなる。

玉は漢字の左辺(偏)に付いたとき王の形になり部首「王たまへん・おうへん」になる。常用漢字で12字、約14,600字を収録する『新漢語林』では216字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 王オウ(部首)、玩ガン(王+音符「元ゲン」)
 珠シュ(王+音符「朱シュ」)、珍チン(王+音符「㐱シン」)
 現ゲン(王+音符「見ケン」)、球キュウ(王+音符「求キュウ」)
 理(王+音符「里リ」)、瑠(王+音符「留リュウ」)
 璃(王+音符「离リ」)、環カン(王+音符「睘カン」)




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特殊化した部首 「火カ」と「灬れっか」

2018年10月02日 | 特殊化した部首
 火が部首になるとき、火のかたちのままと、灬に変化する場合がある。灬は下部に置かれたとき変化するかたちで「れっか・れんが」と呼ばれる。

 カ・ひ・ほ  火部

解字 火の燃える形の象形(金文は単独字としては存在しないが、炎から1字を抜き出した)。「ひ」の意味を表わす。火は部首となり、火の意味で会意文字をつくる。
意味 (1)ひ(火)。ほのお。「火力カリョク」 (2)かじ。「火災カサイ」「失火シッカ」 (3)光りのあるもの。明かり。「灯火トウカ」 (4)五行(木・火・土・金・水)の一つ。「火星カセイ」  (5)七曜の一つ。「火曜日カヨウビ
参考 火は部首「火ひ・ひへん」になる。漢字の左辺(偏)や下部に付いて、火や火の状態を表す。常用漢字は14字、約14,600字を収録する『新漢語林』では194字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 火[部首]:灯[燈]トウ(火+音符「登トウ」) 
 焼ショウ(火+音符「尭ギョウ」)、煙エン(火+音符「垔イン」)
 燃エン(火+音符「然ゼン」)、燥ソウ(火+音符「喿ソウ」)
 爆バク(火+音符「暴ボウ」)、煩ハン(火+頁の会意)
 炉[爐](火+音符「盧ロ)、灰カイ(火+又の会意)
 災サイ(火+音符「巛サイ」)、炎エン(火+火の会意)

  「灬 れっか」の成立
熊ユウにみる「灬れっか」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の熊ユウ・くまの変遷、上に火の部分を抜き出した。

 篆文の火が「灬れっか」に変化するのは隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた字)からだが、ほとんどの字は、火から灬へと直接に変化しており、その中間段階は見いだせなかった。しかし、篆文の字体の一種である印篆インテン(印章に使われる篆字)にヒントとなる字体が見つかったので、それを収録した。熊ユウの下部の篆文第一字は火、第二字は印篆で、火はΛの左右に点がつく形。篆文第一字の火が人の左右に点がつくのに対し、第二字はΛの左右に点がつき、隷書から下部は4点になるので、火から灬への流れがたどれるかと思う。しかし、印篆の成立年代がはっきりわからず、この流れは推定にすぎない。

 火が下部に付いたとき、多くが部首「灬れっか・れんが」に変化する。常用漢字で12字、『新漢語林』では45字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 点テン(灬+音符「占セン」)、烈レツ(灬+音符「列レツ」)
 煎セン(灬+音符「前ゼン」)、照ショウ(灬+音符「昭ショウ」)
 煮シャ(灬+音符「者シャ」)、熟ジュク(灬+音符「孰ジュク」)
 熱ネツ(灬+埶ゲイの会意)、熊ユウ・くま(灬+能の会意)
 焦ショウ(灬+隹の会意)
 火の意味以外の「灬」
 無ム(灬を含む舞う姿の象形)、為イ(灬を含む象を手で使う形の会意)


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特殊化した部首 「手シュ」 と 「扌てへん」

2018年09月07日 | 特殊化した部首
 手が部首になるとき、手のかたちのままと、扌に変化する場合がある。扌は左辺(偏)に置かれたとき変化するかたちで「てへん」と呼ばれる。

 シュ・て・た  手部

解字 金文・篆文は五本の指のある手を描いた象形。甲骨文字では三本指を描いた「又(手)」が用いられていたので五本指の手が出現するのは金文からである。隷書(漢代の役人が主に使用した書体)から、上部の曲線がノになって独立し、現在の手が成立した。手は音符にならず看カン(手+目)の字で会意となるのが例外で、組み合わせ漢字になるとき、ほとんどが部首となる。
意味 (1)て(手)。「手相てソウ」「手綱たづな」 (2)てなみ。うでまえ。「手段シュダン」「妙手ミョウシュ」 (3)てずから。「手記シュキ」 (4)てにする。「入手ニュウシュ」 (5)ある仕事をする人。「歌手カシュ」 (6)技芸にすぐれた人。「名手メイシュ
部首の手 手は部首「手て」になる。漢字の下部について手の意味を表す。常用漢字で9字、約14,600字を収録する[新漢語林]では34字が収録されている。主な字は以下のとおり。
(手+音符「麻マ」)、掌ショウ(手+音符「尚ショウ」)、摯(手+音符「執シツ」)、撃[擊]ゲキ(手+音符「毄ゲキ」)、拳ケン(手+音符「巻カン」)、挙[擧]キョ(手+音符「與ヨ」)、拿(手+合の会意)

「扌てへん」の成立
カツにみる「扌てへん」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の括カツの変遷、上に手の部分を抜き出した。

括の字で篆文の手は元の字とほぼ同じ。隷書は指を表す上向きの半円2つが2本の線になり、またタテの線が下部で湾曲した。現代字は横2線にまっすぐのタテ線が下ではねた「扌」になった。

部首「扌部てへん」 手が漢字の左側(偏)の位置に置かれたときの形で、手の意味を表す。常用漢字で87字(第3位)、約14,600字を収録する[新漢語林]で470字が収録されている。扌部と音符は大変なじみがよく、扌部と組み合わさる字はほとんど音符である。例外は形が似ているため便宜的に扌部に含めている才サイだが、この字も音符となる。扌の主な字は以下のとおり。
 打(扌+音符「丁テイ」)、扱キュウ(扌+音符「及キュウ」)、扶(扌+音符「夫フ」)
 批(扌+音符「比ヒ」)、枝(扌+音符「支シ」)、抄ショウ(扌+音符「少ショウ」)、
 披(扌+音符「皮ヒ」)、抵テイ(扌+音符「氐テイ」)、抗コウ(扌+音符「亢コウ」)




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特殊化した部首 「犬いぬ」 と 「犭けものへん」

2018年09月02日 | 特殊化した部首
犬が部首になるとき、犬の形のままと、犭に変化する場合がある。犭は偏(左辺)についたとき変化するかたちで「けものへん」と呼ばれる。

 まず、もとの形である犬の変遷を見てゆこう。 
 ケン・いぬ 犬部    

解字 甲骨文・金文は動物の「いぬ」を描いた象形。上にあたま、中が脚と胴、下に巻いた尻尾を描いている。篆文はおおきく形が変わり、隷書(漢代の役人が主に用いた書体)で大の右端が上に曲がった形になり、現代字で大に点がついた犬になった。当初はいぬの意味だけに使われたが、のちに組み合わせ漢字で偏(左辺)にくるとき、犬以外の「けもの」も表すようになった。
意味 (1)いぬ(犬)。子犬は狗と書く。「番犬バンケン」「犬猿ケンエン」 (2)[国]いぬ(犬)。①まわし者。スパイ。②むだなこと。「犬死いぬじに
参考 犬は、部首「犬いぬ」になる。漢字の右辺について犬の意味を表す。常用漢字で4字あり、部首の犬のほか、状[狀]ジョウ(犬+音符「爿ショウ」)、献コン(犬+南の会意)、獣ジュウ(単+口+犬の会意)、がある。

    「犭けものへん」の成立
シュにみる「犭けものへん」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の狩シュの変遷。上に犬の部分を抜き出した。

 狩の字で篆文の犬は元の字とほぼ同じ。隷書はタテ長になったため形がおおきく変り上下に弧状の線が通るようになった。現代の「犭けものへん」は、隷書の第1画⇒左はらいに変化して「犭」になった。

 部首「犭けものへん」は、犬が左辺(偏へん)に置かれたとき変化した形。意味は①犬に関すること、②犬以外のけもの、③人間の悪い行動、をあらわす。常用漢字では13字、約14,600字を収録する[新漢語林]では127字が収録されている。主な字は以下のとおり。
ハン(犭+音符「㔾ハン」)、狂キョウ(犭+音符「王オウ」)、狙(犭+音符「且ソ」)
シュ(犭+音符「守シュ」)、独[獨]ドク(犭+音符「蜀ショク」)、狭[狹]キョウ(犭+音符「夾キョウ」)
モウ(犭+音符「孟モウ」)、猫ビョウ(犭+音符「苗ビョウ」)、猿エン(犭+音符「袁エン」
ユウ「犭+音符「酋ユウ」」 、獲カク「犭+音符「蒦カク」」、獄ゴク(犭+言+犬の会意)
(犭+音符「狐コ」)、猪チョ(犭+音符「者シャ」)、狼ロウ(犭+音符「良リョウ」)


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