漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「斥セキ」 <しりぞける> と「訴ソ」「泝ソ」「拆タク」「柝タク」

2021年09月28日 | 漢字の音符
 セキ・しりぞける  斤部おのづくり
   
解字 篆文は「广(たてもの)+屰(逆さの人)」の会意。建物から人が逆行するかたちで人が出てくること。転じて、建物から退けられた意となり、さらにしりぞける意となる。隷文は、屰⇒干に変化し、草書をへて現在の斥になった。これほど大きな変化をする字は珍しい。
覚え方 「斤(おの)+丶(機能を否定する印)」の指示文字。斤(おの)に機能を否定する印である「丶」をつけ、「斧を使わない・斧を近付けない」つまり、しりぞける意を表わす。
意味 (1)しりぞける(斥ける)。おしのける。「排斥ハイセキ」「斥力セキリョク」(二つの物体間で互いに遠ざけようとする力。反発力) (2)(武器をしりぞけて)こっそり様子をさぐる。うかがう。「斥候セッコウ

イメージ 
 「しりぞける」(斥・訴)
 「形声字」(泝・拆・柝)
音の変化  セキ:斥  ソ:訴・泝  タク:拆・柝

しりぞける
 ソ・うったえる  言部
解字 「言(ことば)+斥(しりぞけられた人)」の会意。斥は退けられた人が建物から出てくる形。退けられた人が言葉でうったえること。
意味 (1)うったえる(訴える)。「訴訟ソショウ」「告訴コクソ」「直訴ジキソ」 (2)同情を求める。「哀訴アイソ

形声字
 ソ・さかのぼる  氵部
解字 「氵(かわ)+斥(ソ)」の形成。ソは遡・遡(さかのぼる)に通じ、川をさかのぼること。
意味 さかのぼる(泝る)。「泝江ソコウ」(長江をさかのぼる)「泝洄ソカイ」(深みをめぐりながら川をさかのぼる)「泝沿ソエン」(流れに沿ってさかのぼる)
 タク・さく  扌部
解字 「扌(て)+斥(セキ)」の形成。セキは析セキ(さく)に通じ、手でさくこと。発音はセキ⇒タクに変化した。さく・わける意となる。
意味 (1)さく(拆く)。「拆裂タクレツ」(さけわれる)「拆毀タクキ」(さいてこわす)(2)わける。「拆字タクジ」(漢字を偏・旁・脚などに分けて吉凶を占う。松を十八公、泉を白水などという類) (3)ひらく。(=拓)
 タク・き  木部
解字 「木(き)+斥(タク)」の形成。タクという名の木。拍子木をいう。また、拓タクに通じ、ひらく意味がある。
意味 (1)き(柝)。拍子木。「柝が入る」(相撲の土俵入りなどの際に拍子木が打たれること)「柝頭きがしら」(幕切れや舞台転換のきっかけに打つ拍子木の最初の音)「警柝ケイタク」(注意をうながすために打つ拍子木)「撃柝ゲキタク」(拍子木を打ち鳴らすこと) (2)ひらく。(=拓)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符 「兓シン」<カミサシ>と「朁サン・セン」「蚕サン」 「潜セン」「簪シン」

2021年09月18日 | 漢字の音符
 シン・サン  儿 部          

解字 篆文は兂シン(髪に留める用具のカミサシ・髪挿し)二本をならべた形で、カミサシの先がするどい、髪のすきまに入りこむ意。簪シン(かんざし)の元になった字。 
意味 するどい。尖るさま。細くするどい。せまいすきまにわりこむ。たすける。


 サン・セン  曰部 

解字 篆文は「曰(いう)+兓シン・サン(カミサシ)」の会意形声。曰(いう)に先がするどいカミサシを加えて、言う行為をゆがめること。つまり、そしる・中傷する意となる。譖シンの原字。現代字は曰⇒日に変化。また、兓シンは横長の字であり、右辺(旁つくり)に配置することがむずかしいため、朁サン・センが兓シン・サン(はいりこむ意)の代わりに使われる。
意味 (1)そしる。譖シンの原字。 (2)兓シン・サン(はいりこむ)の代替え字。 (3)かつて(=曽)。

イメージ
 「そしる」(譖)
 「はいりこむ」(潜・蚕・僭・簪)
音の変化  サン:朁・蚕  シン:譖・簪  セン:潜・僭

そしる
 シン・そしる  言部
解字 「言(ことば)+朁(そしる)」の会意形声。朁は、そしるの原字。言をつけて元の意味を表す。
意味 そしる(譖る)。そしり。中傷する。「譖訴シンソ」(そしり訴える)「譖言シンゲン」(そしりの言葉)

はいりこむ
[潛] セン・ひそむ・もぐる・くぐる  氵部
解字 旧字は潛で「氵(水)+朁(=兓。はいりこむ)」の会意形声。水にもぐる意。新字体は旧字の兓 ⇒ 夫夫に変化した替になった。右辺の替は、替タイ(かえる)と字形が同じであるが別字である。
意味 (1)もぐる(潜る)。水にもぐる。くぐる(潜る)。「潜水センスイ」「潜航センコウ」「潜り戸くぐりど」 (2)ひそむ(潜む)。かくれる。ひそかに。「潜入センニュウ」「潜在センザイ
[蠶] サン・かいこ  虫部
解字 「虫+虫(たくさんのむし)+朁(=兓。はいりこむ)」の会意形声。桑の葉の間に入りこんでいるたくさんの虫の意で蚕(かいこ)を表す。のち、蠶⇒蚕に簡略化された。蚕は、天からもたらされた貴重な虫の意。
意味 かいこ(蚕)。桑の葉を食べて脱皮をかさね繭(まゆ)をつくる虫。繭から生糸ができる。「養蚕ヨウサン」「蚕糸サンシ」「蚕繭サンケン」(蚕の作った繭)「蚕食サンショク」(蚕が桑を食べるように少しづつ侵してゆくこと)
 セン  イ部
解字 「イ(ひと)+朁(=兓。はいりこむ)」の会意形声。人が他人の領分に入りこむこと。
意味 (1)おかす。こえる。「僭越センエツ」(身分を越えて出すぎる)「僭称センショウ」(身分を越えた称号を名乗る)「僭主センシュ」(武力で王位を奪い帝王の称号を僭称する者)「僭賞センショウ」(度を超えた褒美)「僭賞濫刑センショウランケイ」(度を超えた褒美と刑の濫発。適正を欠いた賞罰) (2)おごる。
 シン・サン・かんざし  竹部
解字 「竹(たけ)+朁(=兓。はいりこむ)」の会意形声。髪に入りこむ竹製のカミサシ。竹に限らずさまざまな材料のカミサシをいう。当初は髪にさして冠を固定する道具であったが、のち、これに飾りがつき、婦人の髪にさす装飾品の「かんざし」となった。
意味 (1)かんざし(簪)。婦人の髪にさす装飾品。「花簪はなかんざし」「玉簪たまかんざし」「簪占かんざしうら」(簪による占い) (2)冠の固定具。「簪笏シンコツ」(簪としゃく(笏)。貴族の礼装)
<紫色は常用漢字>

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「賁ヒ・フン」<ふき出る> と「噴フン」「憤フン」「墳フン」

2021年09月15日 | 漢字の音符
 ヒ・フン・ホン             

解字 篆文は「貝+芔」の会意。芔は草の芽がいっせいに出る形。賁フンは、貝がぱっと水管から水を出す意で「ふき出る」、噴き出たものが「盛りあがる」イメージを持つ。現代字は上部が卉に変化した。また、ヒの音で斐(模様がならんで美しいさま)の意、ホンの音で奔ホン(勢いよく走る)に通じて、いさむ・つわものの意となる。
意味 (1)かざる・かざり・あや・あや模様の美しいさま。「賁然ヒゼン」(飾りあるさま)「賁如ヒジョ」(美しいさま) (2)いさむ。つわもの。「賁士ホンシ」(勇士)「虎賁コホン」(勇猛な軍隊) (3)(音符字のイメージ)ふきでる。もりあがる。

イメージ  
 「形声字」(賁) 
 「ふき出る」(噴・憤・濆) 
 噴き出たものが「盛りあがる」(墳)

音の変化  ヒ・ホン:賁  フン:噴・憤・濆・墳

ふき出る
 フン・ふく  口部
解字 「口+賁(ふき出る)」 の会意形声。口からものが噴き出ること。
意味 ふく(噴く)。ふきだす。「噴出フンシュツ」「噴火フンカ」「噴水フンスイ
 フン・いきどおる 忄部
解字 「忄(心)+賁(ふき出す)」 の会意形声。胸に詰まっていた感情がふきだすこと。
意味 (1)いきどおる(憤る)。「憤慨フンガイ」(憤も慨もいきどおる意)「憤然フンゼン」「憤怒フンド・フンヌ」(いきどおり怒る) (2)いきりたつ。「発憤ハップン
 フン・わく  氵部
解字 「氵(水)+賁(ふき出す)」の会意形声。水がわき出ること。また、みぎわをいう。
意味 (1)わく(濆く)。ふく。水が盛んにわき出る。「濆衍フンエン」(あふれる)「濆発フンパツ」(湧出する) (2)みぎわ。ほとり。「渓濆ケイフン」(谷川のほとり)「汀濆テイフン」(汀も濆も、ほとりの意)

盛りあがる
 フン・はか  土部
解字 「土+賁(盛り上がる)」 の会意形声。大きく盛りあがった土の墓。
意味 はか(墳)。土を盛り上げてつくった墓。「古墳コフン」「墳墓フンボ」「円墳エンフン
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「矛ム」<やりほこ> と「務ム」「霧ム」「茅ボウ」「袤ボウ」「鶩ボク」

2021年09月12日 | 漢字の音符
 ム・ボウ・ほこ  矛部
 銅矛(弥生時代後期)東京国立博物館蔵

解字 鋭い両刃の穂先をつけた槍のような青銅製武器の象形。下の袋部に柄をさしこんで使う。金文第1字は、上の曲線が刃先、根もとの半環状のものは、飾り紐をつける耳といわれる部分と思われる。第2字は敄の金文から矛の部分を抜き出した。下の耳が左へも伸びている。秦(戦国)は金文の字形が全部耳になってくっついた形。下の第2字(敄から該当部分を抜き出した)は耳に点が入っている。説文解字第1字(古文)は金文第2字が変化した形に戈(ほこ)が付いている。戈がとれた第2字は説文解字の矛として確立し、漢代(隷書)をへて現在の矛になった。矛は「ほこ」の意で部首となる。また、ほこの意味で音符となるほか、発音のム・ボウで形声字となる。
覚え方 よ()の()ほこる(ほこ)は、盾(たて)を突きぬけ矛盾なし 「予+ノ=矛
意味 ほこ(矛)。長い柄の先に両刃の剣状刺突具をつけた武器。「矛盾ムジュン」(①ほことたて。②つじつまの合わないこと)「矛戟ボウゲキ」(戟は二つの刃先のあるほこ)
参考 矛は部首「ほこへん・むのほこ」となる。この部に属する字は非常に少なく、主な字は部首の矛以外に、矜キョウ・務・矞イツ、ぐらいしかない。このうち、務・矞イツ、は音符になる。

イメージ
 「ほこ・ほこさき」(矛・茅・袤)
 「形声字」(敄・務・霧・鶩)
音の変化  ム:矛・敄・務・霧  ボウ:茅・袤  ボク:鶩

ほこ・ほこさき
 ボウ・かや  艸部
解字 「艸(くさ)+矛(ほこさき)」の会意形声。矛先のような穂に長い柄のような茎がつく草。
意味 かや(茅)。ススキ・スゲ・チガヤなどの総称。屋根をふく材料となる。「茅葺かやぶき」(茅で屋根を葺く)「茅屋ボウオク」(茅葺きの屋根)「茅場かやば」(茅を刈る場所)
 ボウ・ながさ・ひろがり  衣部
解字 「衣(ころも)+矛(ほこ先)」の会意形声。矛は長い柄の先に両刃の剣をつけた武器だが、実際に描かれているのは矛先の部分。矛先は上部になるので、衣の帯から上の部分をいう。
意味 (1)帯から上をおおう衣。ゆったりした上着。 (2)ながさ。ひろがり。南北にわたって地をおおう長さ。東西の長さを「広」という。「広袤コウボウ」(よことたてのひろがり)「広袤千里コウボウセンリ」(東西と南北が千里もあるひろがり)「延袤エンボウ」(延はここで東西、袤は南北。よことたてのひろがり)「延袤万余里エンボウマンヨリ

形声字
 ム・ブ  攵部

解字 金文および秦(春秋戦国)は、発音を表す矛の下に人が描かれ、横に攴ボク(棒状のものを持ちたたく形)を配している。人を打つ形で発音はム。意味は必須ヒッス(必ず)となっている[簡明金文詞典]。字形は[説文解字]から人が省かれた敄となった。説文は「彊キョウなり」(つよい)としている。現代の中国の辞典は、①つよい。②古くは「劺ボウ」に同じで勉力(はげます・激励する)とし、日本の辞典は、「(務に通じ)つとめる」としている。おそらく最初の字形である人を打つかたちから、強いる⇒はげます⇒つとめる意がでてくると思われる。この字は現在ほとんど使われることがないが、務を解字するための重要な字形である。
意味 (1)つよい。彊なり。 (2)はげます。激励する。 (3)つとめる。
 ム・ブ・つとめる・つとまる・つとめ  力部

解字 秦(戦国)の第1字は、発音をあらわす矛ムに「人(ひと)+攴ボク」がついた敄で、はげます・つとめる意。第2字は、敄に力(気力)がついた務になった。力がついて、自身が懸命に、つとめ・はげむ意となり、つとめ・役目の意味でも用いる。この字形が説文解字から現在へと続いている。
意味 (1)つとめる(務める)。つとまる(務まる)。はげむ。はたらく。「務施フシ」(施しをつとめる)「勤務キンム」 (2)つとめ(務め)。やくめ。「業務ギョウム」「公務コウム」「任務ニンム
※「務める」は、その人の役目としての仕事をする。「勤める」は、会社などに雇われて仕事をする。
 ム・ブ・きり  雨部
解字 「雨(あめ)+務(ム)」の形声。ムは無ム・ブ(ない)に通じ、雨が無くなり細かい水滴となって空中にうかぶもの。
意味 きり(霧)。水蒸気が細かい水滴となり煙のように浮かんだもの。霧状のもの。「霧中ムチュウ」「五里霧中ゴリムチュウ」(広さ五里にわたる霧の中に居て、現状がわからないこと)「霧笛ムテキ」(霧の深い時に、船や灯台が鳴らす警笛)「濃霧ノウム」「噴霧器フンムキ
 ボク・ブ・あひる  鳥部

解字 篆文は「矛ム・ブ+攴ボク+鳥(とり)」の形成字。現代字は「鳥+敄ム・ブ」のム・ブ・ボクとなったが、発音が増えた。これは篆文で矛と攴が離れているため、発音が別個になったのであろう。攴ボク(打つ)の発音は、手で細い棒をもち鳥をたたいて小屋に入れたり出したりする「あひる」の意。矛の発音は(はせる)に通じ、かける意となる。
意味 (1)あひる()。「鶩列ボクレツ」(あひるのように並ぶ)「鶏鶩ケイボク」(ニワトリとアヒル。平凡な人のこと)「寧(むし)ろ黄鵠コウコクと翼を比ぶるか、寧(むし)ろ鶏鶩ケイボクと食を争うを為さんか」(私は、一挙に千里を飛ぶという黄色を帯びた白鳥(すぐれた人)の翼と競うのか、それとも鶏鶩ケイボク(凡人)と餌の争いをするのか) (2)かける。駆ける。早く走る。「馳鶩チブ」(はやく走ること)
<紫色は常用漢字>

<参考>
 ジュウ・ニュウ・やわらかい  木部
解字 「木(き)+矛(ほこ)」の会意。矛は鋭い両刃の穂先に長い柄をつけた武器で矛先をかたどった字。それに木のついた柔は、矛の柄の意で、柄にする木を矯(た)めて、まっすぐにすること。矯めるとき柄を曲げて調整することから、転じて「やわらかい」意となった。
意味 (1)やわらか(柔らか)。やわらかい(柔らかい)。「柔軟ジュウナン」「柔毛ジュウモウ」(2)よわい。しっかりしていない。「柔弱ニュウジャク」「優柔ユウウジュウ」(3)やさしい。「柔和ニュウワ」「柔順ジュウジュン」(4)やわらげる。てなずける。「懐柔カイジュウ
イメージ  「やわらかい」 (柔・揉・蹂・鞣)
音の変化  ジュウ:柔・揉・蹂・鞣
音符「柔ジュウ」を参照。

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「衰スイ」<みのに似た粗末な喪服> と「蓑サ」

2021年09月09日 | 漢字の音符
  スイ・サイを追加しました。
 スイ・サイ・おとろえる  衣部
 台湾の麻布の喪服

解字 篆文は「衣(ころも)+冄ゼン(毛状のものが垂れる形)」の会意。冄ゼンは、毛のようなものが垂れる形で、ここではシュロなどの毛状の繊維をさし、これに衣のついた「衣+冄ゼン」は、シュロなどで出来た雨具のミノをいう。蓑(みの)の原字。現代字は、冄ゼン⇒日の両側が突き出た形に変化した「衰」になった。中国では葬式のとき親族は粗末な麻布を用いて、縁(へり)を縫わない喪服を作って着た。これが、へりがふさふさしているミノに似ていることから、衰サイと呼ばれ喪服の意味となった。のち、簡略化され白装束の胸の前に麻布を着けるだけのことが多い。葬礼や服喪の間すべて平生の礼を控えるので、へらす・衰える意となる。
意味 (1)おとろえる(衰える)。「衰退スイタイ」「衰弱スイジャク」「衰微スイビ」 (2)葬衣。喪服。「衰絰サイテツ」(衰は胸の前に着け、絰は首と腰につける麻。中国で喪中に着る衣服)

イメージ 
 「みの・喪服」
(衰・蓑・縗)
 「形声字」(榱)
音の変化  スイ:衰・榱  サ・サイ:蓑・縗

みの・喪服
 サ・サイ・みの  艸部
 シュロ蓑をつけた中国の農夫(検索サイトの写真から・原サイト不明)
解字 「艸(草)+衰(みの)」の会意形声。衰はもともとミノの意だが、喪服やおとろえる意となったので、艸(草)をつけて元の意味を表した。
意味 みの(蓑)。かや・すげ・わら等で編んだ雨や雪を防ぐ外衣。中国ではシュロ製が多い。「蓑衣サイ」(みの)「蓑笠サリュウ・みのかさ」「蓑虫みのむし」(蓑を着たような虫。ミノガ科の蛾の幼虫)
 サイ  糸部
解字 「糸(ぬの)+衰(喪服)」の会意形声。喪服また喪服の代わりに付ける麻の布。
意味 (1)喪服の代わりの麻布。「縗絰サイテツ」(縗は胸の前に着け、絰は首と腰につける麻。喪中に着る服。=衰絰サイテツ) (2)喪服。「縗素サイソ」(白の喪服)「縗斬サイザン」(端・縁へりを縫わないままの喪服。荒い麻布で作る)「縗墨サイボク」(黒い喪服)

形声字
 スイ・たるき  木部
解字 「木(き)+衰(スイ)」の形声。スイという名の木で、垂木をいう。垂木は屋根の棟から軒に垂れるように渡す木。
覚え方 発音のスイは垂スイ・たれるに通じ、屋根の棟から軒に垂れるように渡す垂木(たるき)。なお「木+垂」の棰スイは、つえ・杖のむちの意だが日本では垂木の意で用いる。
意味 たるき(榱)。「榱桷スイカク」(榱も桷も、たる木の意)「榱椽スイテン」(榱も椽も、たる木の意)「榱題スイダイ」(たる木の端。たる木の出っ張ったところ) 
<紫色は常用漢字>


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「斯シ」 <さく・きる>

2021年09月04日 | 漢字の音符
 シ・これ・この  斤部    

解字 「其+斤キン(おの)」の会意。は箕(み)を台のうえにのせた形で「四角い」イメージがある。説文解字は「析(さ)くなり」として析セキ(木を斤で割く・割る)の意味があるとする。しかし、「其+斤」から析セキの意味を引き出すのはむずかしい。私は、其は棋(四角い木の盤・本来の意味は将棋盤)と解釈し、この木盤の上に物をおき斤(おの)で切ったり割いたりする意ととらえたい。また、発音のシは此・之などに通じ、「これ・この」の意味で用いられる。
意味 (1)さく(斯く)。きる(斯る)。きりはなす。「墓門に棘いばら有り、斧を以て之を斯(さ)く」(詩経・墓門) (2)これ(斯)。この(斯の)。「斯界シカイ」(この社会。この方面)「斯学シガク」(この分野の学問)「斯業シギョウ」(この事業・業務)「斯道シドウ」(この道)(3)外国語の音訳字。「瓦斯ガス」(gasの音訳。現代中国で斯はスと発音する)「大阪瓦斯」(大坂ガスの登記上の商号)

イメージ
 「さく・きる」(斯・廝・撕・嘶)
音の変化 シ:斯・廝・撕  セイ:嘶

さく・きる
廝[厮] シ・こもの  广部
解字 「广(たてもの)+斯(さく・きる)」の会意形声。建物の中で切ったり割いたり料理や炊事の仕事をする召し使いをいう。厮は異体字。
意味 (1)こもの(廝)。めしつかい。しもべ。雑用。「廝役シエキ」(①こまごまとした雑役。②雑用をする召し使い)「廝徒シト」(召し使い)「廝養シヨウ」(馬の餌をつくり世話をする召し使い) (2)たがいに(=相)。~しあう。「廝打シダ」(なぐりあう)
 シ・セイ・さく  扌部
解字 「扌(て)+斯(さく)」の会意形声。手でさくこと。
意味 (1)さく(撕く)。ばらばらに引きさく。「撕破シハ」(破ってさく) (2)いましめる。教えみちびく。「提撕テイセイ」(①ひっさげる。②特に禅宗で師が弟子を奮起させ導くこと)
 セイ・サイ・いななく  口部
解字 「口(声をだす)+斯(さく)」の会意形声。引き裂くような連続した、やかましい声を出すこと。
意味 (1)いななく(嘶く)。いばゆ・こころく<名義抄>。馬が声高く鳴くこと。「嘶馬セイバ」(馬がいななく)「嘶噪セイソウ」(いななき騒ぐ) (2)虫や鳥が鳴く。「蟬嘶センセイ」(セミの鳴き声)「雁嘶ガンセイ」(カリの鳴き声) (3)声がかすれる。「嘶啞セイア」(かすれ声) (4)むせぶ。

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「几キ 」<つくえ>と「机キ」「肌キ」「飢キ」

2021年09月01日 | 漢字の音符
  フを追加しました。
 キ  几部つくえ          

解字 足つきの四角い台を横から描いた象形。机の原字。部首ともなる。机(つくえ)以外は発音のキを生かして形声文字として用いられる。
意味 (1)つくえ(几)。ひじかけ。「几案キアン」(つくえ:几・案ともに机の意) (2)部屋を仕切る道具。「几帳キチョウ
参考 几は部首「几つくえ」になる。漢字の左辺・右辺・下に付いて、机や台の意を表す。なお、中空の器物の形である凡や、風の略体からなる凰・凧・凩・凪なども便宜的に含めている。主な字は以下のとおり。
 凱ガイ・かちどき(几+音符「豈ガイ」)
 凭ヒョウ・もたれる(几+任の会意)
 処ショ・おる(几+夂の会意)
 凡ボン・およそ(象形)
 夙シュク・つとに(凡+夕の会意)
 風の略体からなる凰オウ・凧たこ・凩こがらし・凪なぎ、など。
  このうち、処ショ・凡ボンは音符となる。

イメージ 
 「つくえ」
(几・机)
 「同音代替」(肌・飢)
 「同体異字」
音の変化  キ:几・机・肌・飢  フ:

つくえ
 キ・つくえ  木部
解字 「木(き)+几(つくえ)」の会意形声。几はもともと机の形であり、これに木を加え元の意味をはっきりさせた。
意味 つくえ(机)。「机上キジョウ」「机下キカ」(手紙の宛名に添える尊敬語)「文机ふづくえ

同音代替
 キ・はだ  月部にく
解字 「月(からだ)+几(キ)」の形声。キは幾につうじる。「月幾」これで1字(発音キ)は、肌の異体字で、①頬の肉、②はだ(肌)の意がある。幾は、「こまかい・わずか」のイメージがあり、きめのこまかい体の部分で、はだの意となる。
意味 はだ(肌)。はだえ。「肌膚キフ」(はだ。皮膚。肌も膚も、はだの意)「肌着はだぎ」「肌理きめ」(①皮膚の表面のこまかいあや②もくめ)「肌合(はだあ)い」
 キ・うえる  食部
解字 「食+几(キ)」の形声。キは幾に通じる。幾には、「わずか」のイメージがあり、食べ物がわずかしかないこと。うえる意となる。(=饑
意味 うえる(飢える)。うえ(飢え)。ひもじい。「飢餓キガ」「飢饉キキン」「飢渇キカツ」(食べ物や飲み物が少なく苦しむこと)

同体異字
鳧[鳬] フ・けり  鳥部
 ケリ(ウィキペディアより)

解字 金文は「人がかがんでいる形+隹(とり)」で、水田でかがみこんで作業をしている人のそばで、隹が鳴いているさま。水田などに棲みついている水鳥の仲間をいう。篆文は隹⇒鳥になり人の形が勹の変形になった。説文解字注は「今の野鴨なり。家鴨(アヒル)を舒鳧ジョフ(ゆったりした鳧)という」としている。楷書は「鳥+几」のになった。この字で几は人の形が変化した字で、几ではない。発音のフは会意とされる。は省略体の俗字。
意味 (1)のがも()。かも()。「舒鳧ジョフ」(アヒル)「鳧翁フオウ」(かもの首に生えた毛)「鳧鴨フオウ」(かもやアヒル。また水鳥の総称) (2)人名。「魚鳧ギョフ」(古代の蜀[古蜀]の第3代君主。歴代君主の「蚕叢サンソウ・柏灌ハッカン・魚鳧ギョフ」の3代はそれぞれ個別の王朝を構成した部族であり、またそれぞれが蜀の地で養蚕・農業・漁業を行っていた部族であるとする説がある。) (3)[日本]①けり()。チドリ科の水鳥。湖沼などの水辺にすむ。 ②けり()。物事の決着。過去の助動詞「けり」に当てた用法。「けりがつく」
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする