漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

今年の流行語大賞? 「忖度ソンタク」

2017年03月29日 | 漢字の音符
 今、忖度という言葉がマスコミをにぎわせています。「他人の心中をおしはかること」という意味ですが、この漢字はどのような原理でできているのでしょうか? 解字してみました。

 忖度の忖ソンは「忄(こころ)+寸」からできており、発音の忖ソンは寸の発音であるスン・ソンに由来しています。では寸とはどのような漢字なのでしょうか。

                スン・ソン <①ひじ。②親指の幅>
 スン・ソン  寸部

 親指の第一関節の幅が1寸

解字 甲骨文字は、三本ゆびで表した手の下方の湾曲する部分に短い曲線をつけ、ひじを表わした指示文字で、肘(ひじ)の原字です。寸は、もと肘を意味していました[甲骨文字小字典]。篆文テンブンは 「三本指の手+-印」 の形になり、手の親指一本分の幅の意味に変化しました。指の幅は人によってまちまちです。測ってみたら私の親指の幅は2.5㎝でした。中国の周代で1寸は2.25㎝だったそうです。のち、時の政権によって公定尺が決められました。日本では1寸は約3㎝で、その10倍が1尺です。
 寸は長さの意味のほか、親指一本の幅から、すこし・わずかの意ともなります。また、親指を当てて寸法をはかる意味があります。なお、甲骨文字の「ひじ」の意味は月(にく・からだ)をつけた肘ひじ・チュウの字になっています。
意味 (1)長さの単位。尺の十分の一。日本で1寸は約3㎝。周代では、2.25㎝。「五寸ゴスン」(日本で約15㎝) (2)長さ。「寸法スンポウ」(各部分の長さ。また、基準) (3)すこし。わずか。「寸暇スンカ」(わずかのひま)「一寸ちょっと」 (4)漢方で脈をみる部位のひとつ。手首から指1本分の脈所。「寸口スンコウ」(手首から親指1本下の脈拍をみる所) (5)(親指を当てて)はかる。寸法をはかる。

 では忖度の忖はどんな字なのでしょうか? 

 ソン・はかる  忄部
解字 「忄(こころ)+寸(はかる)」の会意形声。寸は、親指1本分の幅ですから、親指を当てて(長さなどを)はかる意味にもなります。忖の字では、はかるのが 忄(こころ)ですから、相手の心をはかる・おしはかる意となります。この字で忄(こころ)と寸(はかる)の両方の意味が合わさっていますので会意です。また、発音は寸スン・ソンのソンを受け継いでいますので形声文字となります。
意味 はかる(忖る)。おしはかる。思いはかる。「忖度ソンタク」(他人の心をおしはかる)「忖量ソンリョウ」(他人の心をおもいはかる=忖度)(忖測ソンソク」 (他人の心をおもいはかる=忖度)
 このように忖の次にくる字は、すべて「はかる」意味の漢字が付いています。


 次に度です。 

 度は、タクという発音より、温度・湿度など目盛りの単位や、ものさしの意味でよく使われますので、みなさんにも馴染みの深い字です。ところが、この字のなりたちを字典で調べると、ほとんどが、「庶の省略形+又(て)」となっていて、その説明を読んでも、なぜ物差しや目盛りの意味になるのか、さっぱり分かりません。
 多くの字典に目を通すうち、「字統」(白川静著)が、「席(しきもの)の省略形+又(て)」としているのを見て、これぞ度の本質を言い当てていると思いました。
その説を紹介します。

           ド <敷物を広げて大きさを測る> 
 ド・ト・タク・たび  广部

解字 度は「席の略体+又(手)」の会意。今では席というとイス席を思い浮かべますが、本来、席は敷物を表していました。席巻セッケンというのは、敷き物を巻き上げるように土地を攻めとることを言います。その席の略体に又(て)のついた度は手で敷物をひろげること。敷物は一枚の長さ・幅が決まっており、敷物を何枚も敷くことによって、長さや広さが分かるため「はかる」「ものさし」「めもり」の意となります。のち、きまり・のりの意味ともなりました。
意味 Ⅰ.ド・トの発音。 (1)ものさし。めもり。「尺度シャクド」「緯度イド」 (2)ほどあい。ていど。「速度ソクド」「程度テイド」 (3)たび(度)。回数。「毎度マイド」「都度ツド」 (4)きまり。のり。「制度セイド」「法度ハット」(おきて。禁令)
Ⅱ.タクの発音。 (1)はかる。おしはかる。「忖度ソンタク

 このように度は、ここでタクと読みますので「はかる」意となります。忖度は両方の字とも「はかる」であり、二つ合わせて相手の心をおしはかる意となります。しかし、忄(こころ)のついた忖が「相手の心をおしはかる」意で、メインの字であることはいうまでもありません。

今年の流行語大賞は「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」
 ことし話題になった言葉に贈られる「2017ユーキャン新語・流行語大賞」が2017年12月1日、発表され、年間大賞にはスマートフォンなどで写真を見栄えよく撮影する「インスタ映え」と、国有地の払い下げなどをきっかけにさまざまな場面で使われた「忖度(そんたく)」が選ばれました。(12月2日追記)

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音符 「彔ロク」 <きざむ・けずる> と 「録ロク」「緑リョク」「剥ハク」

2017年03月26日 | 漢字の音符
 ロク・(きり)  彑部けいがしら

キリ状の道具で木を刻み、木屑が飛び散る形の象形。甲骨文・金文の形は、まさにその道具が使われているさまを示している[字統]。篆文は他の字と混同して形が変わり、現代字は「彑(けいがしら)+水の変形」に変化した。彔を音符に含む字は、「きざむ・けずる」、けずったものが「こぼれおちる」イメージを持つ。新字体では、上の彑⇒ヨの下部が出た形に変化する。
意味 きざむ。木をきざむ。きり。

イメージ  
 「きざむ・けずる」
(録・菉・緑・剥)
 けずったものが「こぼれおちる」(禄・碌)
音の変化  ロク:録・禄・碌  リョク:菉・緑  ハク:剥

きざむ・けずる
 ロク・しるす  金部
解字 旧字は錄で「金(金属)+彔(きざむ)」の会意形声。青銅などの金属の表面に文字などを刻みつけることを録という。記録技術の発達により録音・録画などの概念が生まれた。新字体は録に変化。
意味 (1)しるす(録す)。文字を刻みつける。写し取る。おさめておく。「記録キロク」「録音ロクオン」「録画ロクガ」 (2)書きしるしたもの。「目録モクロク」「図録ズロク」「実録ジツロク
 リョク・ロク  艸部
① 
①染料材料のかりやす(刈安)正美屋HPより
カリヤスの葉と茎(三河の植物観察)
解字 「艸(草)+彔(きざむ)」の会意形声。葉や茎をきざんで煮出し、染料とするカリヤスのこと。
意味 (1)草の名。かりやす。こぶなぐさ。イネ科の一年草。葉は竹に似る。茎・葉を萌黄色の染料とする。「菉蓐リョクジョク」(かりやす) (2)草としてのかりやす・こぶなぐさの色。緑色。「菉竹猗猗ロクチクイイ」(かりやすと竹のみどり色が美しく盛んなさま。[詩経・衛風·淇澳])(3)録ロクに通じ、記録する。書きしるす。 
 リョク・ロク・みどり  糸部
解字 旧字は綠で「糸(いと)+彔(=菉リョク(カリヤス)の略体)」の会意形声。菉リョクは葉や茎をきざんで煮出し、染料とするカリヤスのこと。緑は、カリヤスの葉の色をいう。なお、現在の草木染の緑色は藍で染めた糸(藍色)を、かりやすで染めて緑色にする。新字体は緑に変化。
意味 みどり(緑)。みどり色。青と黄の間色。草木の新芽や若葉。草木。「緑化リョクカ」「緑地リョクチ」「緑茶リョクチャ」「緑青ロクショウ」(銅の表面に生ずるさび)
 ハク・はぐ・はがす・はがれる・はげる  刂部
解字 旧字は剝で「刂(刀)+彔(けずる)」の会意形声。刀でけずって表面をはがすこと。新字体は剥に変化。
意味 (1)はぐ(剥ぐ)。はがす(剥がす)。はぎとる。むく。「剥奪ハクダツ」「剥製ハクセイ」(動物の皮を剥いで中に詰め物をして製作する外見がそっくりな物) (2)はがれる(剥がれる)。はげる(剥げる)。はなれる。はげおちる。「剥落ハクラク」「剥離ハクリ

こぼれおちる
 ロク・さいわい  ネ部
解字 旧字は祿で「示(祭壇)+彔(こぼれおちる)」の会意形声。神からのおこぼれ。与えられた幸い。また、主君から与えられる米や給料をいう。新字体に準じて禄に変化する。
意味 (1)さいわい(禄)。天からの贈り物。「福禄寿フクロクジュ」(七福神のひとり。さいわいと長寿をもたらす神) (2)ふち(扶持)。役人の給料。「禄高ロクだか」(武士が主君から与えられた給与額)「禄米ロクマイ」(武士が給料として受けた米) (3)「元禄ゲンロク」とは、江戸時代中期、東山天皇期の年号。幕府将軍は徳川綱吉。1688年~1704年。
 ロク  石部
解字 「石(いし)+彔(こぼれおちる)」の会意形声。こぼれおちてきた石。役にたたないものをいう。
意味 (1)小石がごろごろしているさま。 (2)役に立たないさま。「碌碌ロクロク」(役にたたない)「碌でなし」(役に立たない者)「耄碌モウロク」(老いぼれて役に立たなくなること)
 ロク・リョク  氵部
解字 「氵(みず)+彔(こぼれおちる)」の会意形声。細かい目をとおして水がこぼれおちること。にごり酒などを「こす」意となる。
意味 (1)こす(淥す)。水や酒をこす。この字は普段つかわれないが、同音の漉ロク・こす の同音代替のもとの字になっている。(2)(漉した水が)きよい。(3)「淥水ロクスイ」は、中国の湖南省を流れる川の名。
<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

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中国の漢字音符辞典『学生識字快車』について

2017年03月16日 | 漢字音符研究会
第2回漢字音符研究会(2017年3月11日)

テーマ 中国の漢字音符辞典『学生識字快車』について
発表者 石沢誠司  ブログ「漢字の音符」編集者

はじめに
 私は2013年に『日中対照 早わかり簡体字字典』を出版した。この本を『中国語を歩く  辞書と街角の考現学』の著者・荒川清秀先生に贈呈したところ、先生からお礼の手紙をいただき、その中に「中国にも同じような本があります」との情報をいただいた。その本が『学生识字快车(学生識字快車)』2003年刊である。
 『学生识字快车(学生識字快車)』
 さっそく中国語の本を専門に取り扱う書店を通じてこの本を入手することができた。本の題名「学生識字快車」を訳すと「学生が文字を識る急行列車」だから、いわば「学生版早わかり簡体字字典」ということになる。この本は日本で音符または声符とよばれる字を「字根」と名付け、この字体を含む字を集め、字族として一覧表にしている。これは山本康喬氏が2007年に出版した『漢字音符字典』と字の排列および内容が非常によく似た本である。どちらも音符(=字根)を基準に文字を排列しているからである。

一冊の画期的な字典の存在が『学生識字快車』を誕生させた
 さて、この書の紹介にあたり、事前に紹介しておくべき1冊の本『倒序現代漢語字典』がある。この本は『学生識字快車』の序文によると、同書刊行の1年前に発行され、この画期的な字典の誕生が生み出したの成果のうえに『学生識字快車』が出来上がったという。そこで、まず『倒序現代漢語字典』を先に紹介し、続いて『学生識字快車』について論ずることにしたい。
 これらの二書とも中国漢字の発音をアルファベットで表記するピンインという表記方法を用いているので、まず、中国語の音節構造とピンインについて簡単に紹介したい。

Ⅰ中国語の音節構造
 中国語はすべて漢字で表されるので、一つの漢字は一つのまとまりを持った発音となっている。したがってその発音は、口から出るときの最小単位であって、これを音節という。
 中国語は一音節からなる語(1音節1漢字)が続く言語で、音節の数は約400、これに4つある声調(高低アクセント)の4を掛けると1600だが、すべてに4つの声調がないものもあり、約1200の音節となる。[※日本語は基本的音節が約100]

音節の実際の例
  山    本     康    乔[喬]   漢字表記 4文字
  shān    běn    kāng   qiáo     中国語ピンイン表記 4音節
 や・ま   も・と  や・す  た・か    日本語かな表記 8音節 
 ya-ma   mo-to  ya-su   ta-ka    日本語アルファベット表記 8音節
※中国語は4つの漢字であり4音節となる。日本語のかな表記およびアルファベット表記は8音節となる。

上記4文字の中国語音節(音韻)は短い横線(-)で区切った二つの部分に分けることができる。
 sh-ān(山)  b-ěn(本)  k-āng(康)  q -iáo(喬)
(1) 最初の sh  b  k  q を、頭子音という(中国では声母という)。
(2) 頭子音につづく ān  ěn  āng  iáo を韻母という。
(3) 韻母はすべて揃った形を「M+V+E / T」で表す。
  Mは介音カイオン(中間母音Medial )で、ここでは喬(乔)の i をいう。
  Vは主母音(Vowel)で、4字の ā ě ā á をいう。
  Eは尾音(Ending)で、康の ng 、喬(乔)の o をいう。
  Tは声調(Tone)で、主母音Vの上につく記号。(āは第1声、áは第2声、ǎは第3声、àは第4声)
 ※以上の音素のうち、主母音(V)は必ずあるが、他の音素はない場合がある。
  ピンインで表した場合、最小の音節は1字(例:餓è)、最大の音節文字数は6字(例:床chuáng)となる。

Ⅱ 『倒序現代漢語字典』(逆引き現代漢語字典)について
 以上の中国語音節構造をふまえ、『倒序現代漢語字典』の説明をしてゆきたい。
 『倒序現代漢語字典』
 中国では1956年に「漢字簡化法案」が公布され漢字の簡略化が順次実施された。そして1964年に発行された簡体字使用の基準「略字総表」に基いて簡体字がすっかり定着している。
 一方、漢字の発音をアルファベットで表記する「漢字ピンイン方案」が1958年に制定された。当初は初めて中国語を学ぶ小学生や外国人向けに使われていたが、情報技術の進歩により、アルファベット処理したデータが自由に加工や組み合わせができるようになった。文章の入力・加工・保存をパソコンで行うようになり、漢語の字典もコンピュータで編集されるようになると、新しい検索方法が考えだされた。
 長い間漢字情報技術の研究と実践に従事してきた著名な語言編纂学者である梁興哲氏は、ピンインを逆向きに編集した字典を作れば、全く新しい漢字検索方法になるのでは、と思いついて漢字逆引き字典である「倒序現代漢語字典」を2002年に出版した。興哲編創、商務印書館国際有限公司発行。680ページ。48.00元。

その方式は
(1) 韻母の最後のアルファベット表記が、 a e g i m n o r u の9文字しかないことを見つけ、この順番で音節を排列する。a の次は ba da fa cha sha zha …のように音節をピンインの逆向き順に漢字を排列した。
 これにより、例えば an の場合、続いて ban can dan fan gan han …のように排列されるので、語尾音が同じものが連続して並ぶ特徴がある。以下が索引の第1ページである。韻母が白抜き文字で表されている。

(2) 本文ページの左右外側に現在、9文字のどの文字を検索しているか分かるように該当する文字を白抜きにした。
(3) 逆向き音節のピンインを6つのタテ線区画に右詰めで表示し、該当の韻母を白抜きにした。
(4) 音節が変わる区切りに、その音節の漢字一覧表をつけて、わかりやすくした。
(5) さらに、同じ音節一覧表の中から同形の音符(字根と表現)を選び、他の発音の字も加えた「識字快車(早わかり識字)」を作成・配置した。(これが後の「学生識字快車」に発展する)
 以下は、中(zhong)の左ページと、右ページである。zhongの先頭に、この韻母に属する文字を声調別に一覧表にし、さらにこの中から、中と重を選んで、同形で発音の違う字を集め「識字快車」の欄を設けている。
中(zhong)の左ページ
中(zhong)の右ページ
その効果と限界
(1) 引き方が慣れれば、通常の辞書より速く引ける。また、「識字快車」により発音の異なる同形文字もすばやく引ける。
(2) 発売してまもなく電子辞書が急速に普及し、1字の検索だけでなく2字連続の音節も簡単に(むしろ1字より速く)検索できるようになったので、利点が薄れた。
(3) 逆向き配列は韻母の同じ字が前後にそろうということを人々に気付かせた。

Ⅲ『学生識字快車(学生早わかり字典)』の出版
 2002年に出版された『倒序現代漢語字典』のなかの「識字快車」の表を拡充した字典『学生識字快車』が、翌年の2003年に出版された。梁興哲編創、商務印書館国際有限公司発行。39.80元。本文766ページ、索引他147ページ、全体で913ページ。900ページを超えるこの字典は、中国人および世界中の中国語学習者が素早くまた効率的に漢字を学ぶための書として刊行された。
 900ページを超える『学生識字快車』
「学生識字快車」の内容
・音符を字根と名付け、974字の字根を選びその字族ごとに表にしている。収録した漢字数は約7000字である。
・字根の排列は、字根のピンイン順とし、字根表の中の漢字排列は、「倒序現代漢語字典」で採用したピンインの逆向き配列にしている。
・字族表の表外に、収録した漢字ごとに、ピンイン、部首、画数と筆画順をつけ、漢字の簡単な説明をして学習者の便宜をはかっている。
・索引として、収録した全漢字のピンイン索引、部首索引がつく。
以下は、字根「宗」とその字族のページである。

「学生識字快車」の評価
良い点
(1) 字根として同形の音符をまとめてあるため、この本をみると同形の音符がついた字とその発音がすぐに分かり便利である。
(2) 表外の漢字説明で、その漢字の概要が分かる。
欠点
(1) すべて簡体字の字体で統一しており、繁体字との繋がりが分からない。簡体字は当て字が多いため、字相互の関連が薄いものが多くある。例えば、字根「又ヨウ」は、本来なら音符「又ヨウ」に属する友ユウ・馭ギョ、を含むだけのはずある。ところが、簡体字では漢⇒汉、戯⇒戏、鶏⇒鸡、歓⇒欢など偏や旁が又に変わる略字が多く、これらも含まれるので又字族は非常に多くなる。
(2) そのため、発音の変化も多様な字根が多いので、覚えにくい。
以下は、「学生識字快車」の又族のページと、「早わかり簡体字字典」の音符「又ユウ」のページ。快車の又族のページは、当て字の文字を含むので15文字の発音がすべてバラバラになっている。それに対し「早わかり簡体字字典」の音符「又ユウ」は3文字のみだが、表の下に又を略字に使用した文字を注記し、そのページを案内している。
「学生識字快車」の又族のページ
「早わかり簡体字字典」の「又ユウ」のページ

音符(声符)を字根と表現したことについて
 音符を字根と表現したことについては、意義のあることだと思われる。
(1) 音符と表現すると、厳密には形声文字だけを音符家族に含めることになり、同じ音符を含む会意文字は含まない。しかし、字根とすることで、形声・会意文字の両方を含むことができる。
(2) 音符は音に関係するだけでなく、意味にも関係するので、音符を含む会意文字を形声文字と一体的にまとめることは、漢字学習に必要なことである。
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音符 「徹テツ」<とおる・とおす> と「撤テツ」「轍テツ」「澈テツ」

2017年03月11日 | 漢字の音符
 澈テツを追加しました。
 テツ・とおる  彳部        

解字 甲骨文は「鬲カク・レキ(三本足のうつわ)+又(て)」の会意で、祭祀に用いる三本足の器(食器)を手で陳列する様を表している。陳列からの引伸義で「とおる」の意味で用いられるようになった[甲骨文字辞典]。金文で「鼎に似た形の鬲+攴」の形になり、さらに篆文第一字は彳(ゆく)が付いた彳鬲攴であるが、第二字に彳育攴が現れ、これが現代字で攴⇒攵に変化した徹となった。篆文の鬲攴⇒育攵への変化はつながりがなく唐突で説明がむずかしいが、育は生れ出た子の身体を表す字で、母親の産道をとおる意で用いたのかもしれない。
意味 (1)つらねる。つらなる。 (2)とおる(徹る)。とおす。つらぬきとおす。「徹夜テツヤ」「徹底テッテイ」「貫徹カンテツ

イメージ 
 「とおる・とおす」
(徹・轍・澈) 
  もとの意味である「つらなる」(撤)
音の変化  テツ:徹・轍・澈・撤

とおる・とおす
 テツ・わだち  車部
解字 「車(=車輪)+徹の略体(とおる)」の会意形声。車輪のとおったあと。
意味 わだち(轍)。車の輪の通った跡。「車轍シャテツ」(車の通り過ぎた跡)「前轍ゼンテツ」(前を進む車のわだち)「前轍を踏む」(前人の失敗した方法をくりかえす)「転轍機テンテツキ」(線路の分岐する箇所につける切り替え装置。ポイント)「北轍南轅ホクテツナンエン」(轍は北の方向なのに、轅(ながえ)は南を向いている。志と行動が相反するさま)
 テツ・すむ  氵部
解字 「氵(みず)+徹の略体(とおる)」の会意形声。水がとおる意で、水が澄んで清いこと。
意味 すむ(澈む)。水が澄んできよい。「清澈セイテツ」「澄澈チョウテツ」「明澈メイテツ」「洞澈ドウテツ」(すきとおること)

つらなる
 テツ   扌部
解字 「扌(て)+徹の略体(つらなる)」の会意形声。つらなっている物を手でかたづける(撤収)こと。ひきあげる意となり、さらに、取り去る意となる。
意味 (1)ひきあげる。「撤退テッタイ」「撤収テッシュウ」 (2)取り去る。取り除く。すてる。「撤去テッキョ」「撤回テッカイ
<紫色は常用漢字>


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石沢誠司 「人の姿の音符 Ⅰ」

2017年03月08日 | 漢字音符研究会
 このブログに掲載した音符から、「人の姿の音符1」として冊子にまとめてみました。ご覧いただき感想やご意見などを「コメント」に御寄せいただければと思います。以下は目次です。



本文はここをクリックしてください。











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音符「尸シ」<死者および死者の代わりに席にすわる人> と「屍シ」

2017年03月01日 | 漢字の音符
 シ・しかばね・かたしろ  尸部しかばね

解字 甲骨文は、足が不自然に曲がった人の側面形であり、人間の屍体を表す。祭祀の供物として用いられており、人牲であろう[甲骨文字辞典]。金文の用法は不明。篆文第一字は人が椅子に腰かけた姿勢の象形。祖先の祭祀の時に亡き死者に代わって近親者が椅子に座った姿をいう。(祖父の祭祀には、孫が代わりに座ったとされる)。正体ではないが時々見られるタイプで、正字である第二字への移行を示す段階の字といえる。現代字は尸となった。意味は、①しかばね。②死者の代わりになるので、かたしろの意となる。
意味 (1)しかばね(尸)。かばね。死体。なきがら。「尸諌シカン」(しかばねとなって主君をいさめる)「尸所かばねどころ」( 死体を埋めるところ。墓場) (2)かたしろ(尸)。亡き死者に代わって座る人。また、代わりの人形など。「尸位シイ」(①人が死者に代わって祭祀の死者の位置につくこと。②才能がないのに高い位置について何もしないこと)「尸位素餐シイソサン」(しかるべき地位にいながら職責をはたさず無駄に俸禄をもらっていること。素餐は、ただ食事をすること)「尸者シシャ・ものまさ」(①祖先の祭祀に神霊の代わりになって祭りを受ける者。②葬儀で死者に代わって弔問を受ける人)「尸童よりまし」(神霊がよりつく人間。特に、祈禱師きとうしが神霊を乗り移らせたり、託宣をのべさせたりするための童子や婦女)
参考 尸は部首「尸しかばね」になる。漢字の垂れ(上部から左下にかけた位置)となり、(1)死体・死者、(2)すわる形から腰をおろした部分である「おしり」、(3)さらに「人のからだ」などの意味となる。また、(3)垂れの形から「建物の屋根・建物」の意ともなる。常用漢字では15字あり、約14,600字を収録する『新漢語林』では、尸部に49字ある。尸部の主な字は以下のとおり。
(1)死体の意。屍シ・しかばね・カイ・とどけ・ト・ほふる
(2)おしりの意。尻コウ・しり・キョ・いる・ビ・お・尿ニョウ・クツ・かがむ・シ・くそ・ゾク・つく
(3)人のからだの意。尼ニ・あま・リ・はきもの・テン・のべる
(4)建物の意。屋オク・や・ソウ
(5)便宜的に含めたもの。尺シャク・ジン・つきる・キョク
このうち、居・屈・尼・展・屋・尽・局は音符になる。

イメージ 「しかばね・死者」の他、死者の代わりに椅子に座るので、座ったとき椅子に着く部分である「おしり」のイメージがある。
 「しかばね・死者」(尸・屍)
 「おしり」(屎)
音の変化  シ:尸・屍・屎

しかばね・死者
 シ・しかばね  尸部

解字 「尸(しかばね)+死(死者)」 の会意形声。尸は人のしかばねの象形。篆文になり死ぬ意がついた屍ができた。屍は死者のからだ・しかばねの意を表す。
※音符「死シ」にも重出した。
意味 しかばね(屍)。なきがら。死体。「屍骸シガイ」(=死骸。死者の骨の意だが、人や動物の死体の意で使われる)

おしり
 シ・くそ  尸部
解字 「米(こめ)+尸(おしり)」の会意形声。お尻から米の消化された残り物が出ること。この字は尸が音符となり、また部首ともなっている。
意味 (1)くそ(屎)。ふん。大便。「屎尿シニョウ」(大便と小便) (2)体から出る分泌物やかす。「耳屎みみくそ」「目屎めくそ鼻屎はなくそを笑う」


           <参考 尸を含む音符>
 尸には「人が腰をおろす」「おしり」「ひと」のイメージから成る音符がある。(なお、さらに「屋根」を表すイメージなどがあるが、省略する。)

人が腰をおろす
キョ・いる  尸部

解字 金文・篆文は「人が腰をおろす形+古(=固。固定させる)」の会意形声。人が腰をおろす形を固定させること。ひとところにずっといる意となる。現代字は、人が腰をおろす形⇒尸に変化した「居」になった。ひとところにずっといることから「おちつける」「腰をおろす」イメージがある。
意味 (1)いる(居る)。おる(居る)。腰をおろす。「居心地いごこち」「居所キョショ」 (2)住む。住む所。「住居ジュウキョ」「居宅キョタク」 (3)いながら。そのまま。「居然キョゼン」(じっとする)
イメージ 
 「おちつける」
(居・据)
 「腰をおろす」(踞・裾)
 「同音代替」(鋸)
音の変化  キョ:居・据・踞・裾・鋸
音符「居キョ」を参照。

おしり
 ビ・お  尸部しかばね
解字 「尸(おしり)+毛(け)」の会意。お尻に生え下がっている毛。
意味 (1)お(尾)。動物のしっぽ。「尾行ビコウ」「首尾シュビ」(首と尾。初めと終わり)「交尾コウビ」「尾花おばな」(ススキ) (2)細長い物の末端。「末尾マツビ
イメージ 「動物のしっぽ」(尾・梶)
音の変化 ビ:尾・梶
音符「毛モウ」を参照。
 クツ・かがむ  尸部            

解字 金文・篆文は「尾(お)+出(でる)」の会意。うずくまった獣の尾が地上にのび出ている形を示し、獣がうずくまる意を表す。現代字は、尾から毛がとれて屈となった。一般に、身体をかがめる意味となる。また、うずくまる姿から屈服(したがう)する意ともなる。
意味 (1)かがむ(屈む)。まげる。「屈折クッセツ」「屈曲クッキョク」 (2)くじける。したがう。「屈服クップク」「屈辱クツジョク」 (3)ゆきづまる。きわまる。「窮屈キュウクツ」「理屈リクツ」(①理がゆきづまる意で、理由をこじつける。②また、道理・ことわりの意味にも使う) (4)つよい(=倔)。「屈強クッキョウ
イメージ  「身をかがめる」(屈・掘・堀・窟・倔)
音の変化  クツ:屈・掘・堀・窟・倔
音符「屈クツ」を参照。

ひと
 テン・のべる・ひろげる  尸部   

解字 篆文は、篆文は㞡テンで「尸シ(人のからだ)+𧝑テンの略体」。 𧝑テンは「衣(ころも。上下に分かれる)+㠭テン(工具四つで、極めて巧み)」で、極めて巧みに織った絹の衣の意、王后(きさき)の礼服の一つを表す。それに尸(人のからだ)を付けた㞡テンは、人のからだに𧝑テン(王后の礼服)を、ひろげてのばし、視ること。貴婦人の着付けのさまと思われる。ひろげのばす意から転じて、ならべる意ともなる。また、許慎は[説文解字]で「展は轉テン(ころがる)也」としており、ころがる意がある。字体は隷書レイショ(漢代)で㠭テン⇒龷 に変化し、現代字で衣あしのノがとれた展になった。
意味 (1)のべる(展べる)。のびる(展びる)。のばす(展ばす)。ひろげる。ひらく。「展開テンカイ」(くりひろげる。ひろがる)「進展シンテン」(すすみひろがる)「発展ハッテン」(はじまりひろがる) (2)ならべる。つらねる。「展観テンカン」(ならべて多くの人に見せる)「展示テンジ」(ならべ示す。作品をならべて見せる)  (3)みる。「展望テンボウ」(ながめ見渡す) (4)ころがる。「展転テンテン」(ころがる)
イメージ  
 「ひろげてのばす」(展)
 意味(4)の「ころがる」(碾・輾)
音の変化  テン:展・碾・輾
音符「展テン」を参照。
 ニ・あま  尸部

解字 「尸(ひと)+ヒ(ひと)」の会意。二人の人がもたれあっている形で、二人が相親しむさまを示す。のち、尼(あま)の意に用いる[字統]。
意味 (1)ちかづきしたしむ。 (2)あま(尼)。女の僧。出家した女性。梵語を漢訳した比丘尼ビクニ(出家して戒をうけた尼僧)の略称。「尼僧ニソウ」「尼寺あまでら
イメージ  「あま」(尼)
  二人が相親しむ形から「ちかづく」(昵)
 「くっつく」(泥) 
 「同音代替」(怩)
音の変化  ニ:尼  ジ:忸  ジツ:昵  デイ:泥
音符「尼ニ」を参照。

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