漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「隓ダ」<こぼつ・おちる> と「隋ズイ」「随ズイ」「髄ズイ」「惰ダ」「堕ダ」

2021年04月29日 | 漢字の音符
 ダ・タ・キ  阝部   

字形の出典は漢典の隓の「字源字形」(https://www.zdic.net/hans/%E9%9A%93)
解字 金文は「阝(おか)+土土(多くの土)+又又(多くの手)」の会意。丘から多くの人々が手で多くの土を下に落とし、丘をくずすこと。金文は伝説上の聖王・禹が「隓山ダサン」(山をこぼつ)として用いられている。楚帛ソハク(戦国)の第一字(上)は金文と同じ構成。第2字(下)は肉が二つ重なった多がついた異体字。篆文第1字(説文解字)は、「阜(おか)+左左」となり、これまでの土を工に書き間違えた。この左がそのまま楷書に続いている。意味は説文解字が、「城敗れたる阜(おか)」としているが、最初の金文および楚帛が工でなく土であることから、阜(おか)の土をこぼつ・けずる意が正しいとおもう。なお、楚帛および篆文第2字の肉(多および月)がついた異体字は、「隋ズイ」および「堕」の原字といえる。
意味 (1)こぼつ。けずる。 (2)(こぼちた土が)おちる。おとす。

胎盤が落ちる
 ズイ・ダ・タ  阝部  
 
 篆文は「隓の略体(おちる)+月(にく)」の会意。この字は仮借カシャ(当て字)されて中国の王朝の意味で使われているが、本来は肉がおちること。説文解字は「肉を裂く」と説明しているが、肉が離れておちる意である。趙有臣氏によれば、馬王堆マオウタイ漢墓(湖南省長沙市にある紀元前2世紀の墳墓)の医帛『五十二病方』で隋を臍(へそ)の意味で用いているとしている。
 へそと、とれた「へその緒」(ネットの検索サイトから)
これは新生児が母体を離れたとき付いていたへその緒(肉)が、数日すると役割を終えて、へそから落ちる意味であるとする。したがって隋は、へその緒であるとともに「へそ」の意味でも使う(『五十二病方』中の「隋」の字に関する考察と解明・趙有臣。このタイトルでネットにPDFあり)。へその緒が落ちた痕(あと)のへそは、長円形をしているので長円形の意味もあるとする。
 卓見であるが私は、趙有臣氏が「落ちる」意味を「へその緒が、へそから落ちる」とするが、へその緒と連続している胎盤(子宮内で胎児を育てていた器官)が排出されることが「落ちる」意味であると考えたい。そうすると、胎盤とつながるへその緒が、生れ出た胎児から「だらりとたれる」イメージが出てくる。なお、へその緒は胎児から数センチのところで切断され、以前は胎盤とともに壺や甕(かめ)に入れて土中に埋められた。一方、切断され胎児に残ったへその緒は数日すると乾燥して離れ、その穴が臍(へそ)になる。
意味 (1)おちる。(=堕)「隋落ダラク」(隋も落も、おちる意) (2)おこたる。(=惰) (3)中国の王朝名。「隋ズイ」(分裂していた中国をおよそ300年ぶりに再統一した王朝。581-618年。日本と国交を結んだ。国号の由来は、創建者の楊堅(後の文帝)がもと隨州(湖北省北部)の刺史シシ(長官)だったことから、これに因んで隨から辶を取って名付けたとされる)「遣隋使ケンズイシ

イメージ 
 「中国の王朝名」(隋)
 隓および隋の意である「おちる」(堕)
 へその緒が「だらりとたれる」(惰・随・髄)
 へその緒の落ちたあと「長円形」(楕)
音の変化  ズイ:隋・随・髄  ダ:堕・惰・楕

おちる
  ダ・おちる  土部
解字 旧字は墮で「土(つち)+隋(おちる)」の会意形声。隋に落ちる意があり、土をつけて落ちる意をはっきりさせた字。新字体は工がとれた堕になる。
意味 (1)おちる(堕ちる)。くずれおちる。おとす。「堕落ダラク」(身をもちくずす)「堕胎ダタイ」(胎児をおろす) (2)おこたる。なまける。(=惰)

だらりとたれる
 ダ・おこたる  忄部
解字 「忄(心)+ 隋の略体(だらりとたれる)」の会意形声。心がだらけること。
意味 おこたる(惰る)。なまける。「怠惰タイダ」(怠も、惰も、なまける意)「惰性ダセイ」(なまけるくせ)「惰眠ダミン」(なまけて眠ってばかりいる。何もせずに過ごす)
  ズイ・したがう  辶部
解字 旧字は隨で「辶(ゆく)+隋(だらりとする)」の会意形声。相手にだらりとよりかかるようにして行くこと。主となる人にしたがって行く意となる。また、相手に頼りきるので、その保護の範囲で自由にすること。親に頼り切った子が自由にしているのと同じ。新字体は工が取れた随になる。
意味 (1)したがう(随う)。ともにする。「随行ズイコウ」「随員ズイイン」「随一ずいいち」(随う者のなかで一番、転じて多くの者のなかの第一位) (2)思いのまま。「随想ズイソウ」「随筆ズイヒツ」「随意ズイイ」(心のまま) (3)地名。「随州ズイシュウ」(隨州・隋州とも。中国にかつて存在した州。南北朝時代から民国初年にかけて、現在の湖北省随州市一帯に設置された。)
[髓] ズイ  骨部
解字 旧字は髓で「骨(ほね)+隨の略体(だらりとしたものがとおる)」の会意形声。骨のなかにへその緒のようなやわらかく長いものが通っているところ。骨の中心部にある髄をいう。新字体は工が取れた髄になる。 
意味 (1)骨の中心にある柔らかい組織。「骨髄コツズイ」「脳髄ノウズイ」 (2)物事の中心。「神髄シンズイ」(その道の奥義)「精髄セイズイ」(最もすぐれた大事な所) 

長円形
楕[橢] ダ  木部
解字 もとの字は橢で「木(き)+隋(長円形)」の会意形声。木の枝をまるく長円にした形をいう。現代字は隋の阝を省いた楕になる。
意味 細長くまるみのある形。長円形。小判型。「楕円ダエン」「楕円形ダエンケイ」「楕円体ダエンタイ」(楕円面によって囲まれる立体。ラグビーボールのような形)
<紫色は常用漢字>

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佐藤信弥著『周―理想化された古代王朝』中公新書

2021年04月23日 | 書評
最初は歯が立たなかった

 この本が出版(2016年)されてまもなくの頃、周という時代に興味があったので図書館で借りて読んでみた。私は図書館で借りたとき、今後使う可能性があるものは短くその感想を書くことにしている。2017年2月の読後感想は「ひとつひとつの内容はわかるがむずかしい、全体的なまとまりも把握しにくい。救いは文中に金文の原文とその読み下しが多数あること。将来、金文を調べるときの索引になる」とある。そして5点満点の評価は、3・5点となっている。この評価は本の内容が悪いということでなく、私はこの本に歯が立たなかったということだ。私にとって難しすぎたのである。
 西周前半期から後半期、そして春秋期から戦国期と、周王朝の歩みを新出史料を中心にして明らかにしようとするこの本は手ごわい本であった。

金文の臨書を始める
 最近、私は金文をもっと深く知ろうと思って、まとまりのある金文をそっくり手書きで写し取る、いわゆる臨書をしている。テキストは「中国古代の書2 金文」(天来書院)と「中国法書選1 甲骨文・金文」(二玄社)の2冊。ページを開いて文字がしっかり分かり、あまり長くないものを選んで臨書する。
 私はこのブログ「漢字の音符」で、基本となる音符を甲骨文字から楷書まで手書きして、その変遷を紹介している。金文の臨書をしていると、これまで書いたことのある文字が時々現れるので、なつかしい友達に会ったような気になる。ひとまとまりの文章を書き終えると、各行のあいだにテキストに載っている現在の字を赤字で書きこんでゆく。
 これで臨書はこれで終わりである。私は文章全体の内容まで把握しようとは思わない。テキストの読み下しを読んでも分からない箇所が多いからである。しかし、ブログで掲載している特定の字についてその使用法と意味を知りたいときがある。「もっと違う読み下しと解説がないか」と思ったとき、ふと以前読んだ、あの本を思い出したのだ。日記を3年ほど遡って書名「周―理想化された古代王朝」を確認し、図書館にリクストしてもう一度この本を読んだ。

もう一度読む
 感想は以前と同じで内容はむずかしいが、金文の原文と引用文献の多さに改めて感心した。巻末の引用参考文献は10ページにわたり、引用した金文の器名は3ページ、99点にのぼる。各章は引用文献のかたまりだ。(だから堅苦しい感じがするが)
 本文30頁
 例えば、30ページの「利簋リキ」は器の写真と銘文拓本を掲載し、本文では読み解いた文と、その日本語訳を掲載している。この「利簋」は天来書院刊のテキストにもあり、私はすでに臨書していたので、これを見ながら日本語訳を読むことができた。「この銘の解釈には諸説あるが中国古代史学の大家・楊博の説に沿って釈する」と書いてあり、金文の文字を読むにも、いろんな解釈があることがわかる。
 このように器と銘文が一緒に掲載されているページは少ないが、銘文だけの掲載も結構ある。また、釈文だけの掲載も多いが、それが私の持っているテキストに収録されている拓本であれば、テキストと照らし合わせることができる。最近は、器の名前が分れば、検索すると拓本がネット上で公開されているものが多い。

 こうした利点を考えて私はこの本を購入した。最初に読んでから4年後になる。臨書しながら「周―理想化された古代王朝」の器銘索引を調べて検索の手がかりとし、また「周―理想化された古代王朝」の本文を読みながらテキストやネットで銘文拓本を探し出して臨書する、ということを繰り返してゆくと、この本の内容と金文の理解が進んでゆくと思っている。以前、3・5点だったこの本の評価は、現在4点になった。さらに進めば評価5点になる日がくるのではないか。そう思えるほど含蓄の深い本である。
 佐藤信弥著『周―理想化された古代王朝』中公新書 定価820円(税別) 2016月9刊行

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音符「容ヨウ」<とりいれる> と「溶ヨウ」

2021年04月20日 | 漢字の音符
  容の解字をやり直しました。
 ヨウ・いれる・かたち  宀部

解字 甲骨文は「冂(建物)+Λ(入口)+口(くち)」の会意。「冂(建物)+Λ(入口)」は建物の入り口を入った内側の意で、甲骨文字で「内」を意味するが、十干(甲・乙・丙~)の丙ヘイに仮借(当て字)されている[甲骨文字辞典]。それに口(いりぐち)がつき、建物の内側に口(いりぐち)から物を取り入れる形で、中にいれる意となる。(しかし[甲骨文字辞典]はこの字形を収録していない。字形は[漢語古文字字形表][字統]から)。金文は建物がΛ、入り口がハ、口が〇になった。そして戦国(秦)で、「宀+ハ+〇」になったが、篆文(説文解字)で、「宀+ハ+ハ+口」になり現在の字形に近くなった。現在の楷書は、「宀(たてもの)+谷」の形だが、この谷は「たに」の意味ではない。
 容の意味は、建物の内側に口からとりいれる意、とりいれた中味、このほか、入っている物の外側のかたち・すがたの意となる。
意味 (1)いれる(容れる)。とりこむ。「収容シュウヨウ」「包容ホウヨウ」 (2)いれるのを許す。「許容キョヨウ」 (3)いれた中身。中に入っているもの。「内容ナイヨウ」 (4)(とり入れて入っている物の外側の)かたち(容)。すがた。「容姿ヨウシ」「陣容ジンヨウ」 (5)たやすい。「容易ヨウイ

イメージ 
 「とりいれる」
(容・溶・熔・鎔・榕)
 容の意味(4)の「すがた」(蓉)
音の変化  ヨウ:容・溶・熔・鎔・榕・蓉

とりいれる
 ヨウ・とける・とかす・とく  氵部
解字  「氵(みず)+容(とりいれる)」 の会意形声。水のなかに物がとけること。
意味 (1)とける(溶ける)。水にとける。とかす(溶かす)。とく(溶く)。「溶液ヨウエキ」「溶解ヨウカイ」「水溶性スイヨウセイ」 (2)熱で固体が液状になる。「溶岩ヨウガン」「溶接ヨウセツ」「溶融ヨウユウ」 (3)水の流れのさかんなさま。「溶溢ヨウイツ」(あふれること)
 ヨウ・とける  火部
解字 「火(ひ)+容(=溶。とける)」 の会意形声。火で熱せられて金属などが溶けること。常用漢字でないため、溶に書き換えることが多い。
意味 とける(熔ける)。とかす(熔かす)。「熔解ヨウカイ」(=溶解)「熔接ヨウセツ」(=溶接)
 ヨウ・とかす・とける   金部
解字 「金(金属)+容(=溶。とける)」の会意形声。金属が溶けること。
意味 (1)とかす(鎔かす)。とける(鎔ける)。金属を熱してとかす。金属がとける。「鎔鋳ヨウチュウ」(金属を鎔かして鋳造する) (2)いがた(鎔)。「鎔型ヨウケイ」(いがた)「鎔範ヨウハン」(①金属を鎔かして鋳型にいれる。②いがた)
 ヨウ・あこう  木部 
 アコウ果実の内部  
解字 「木(き)+容(とりいれる⇒とりこむ)」 の会意形声。イチジクのように実の中に花をつけるので、花を実の中にとりいれている木のこと。また、実は鳥やサルの餌となり、糞にまざった種子は木の上で発芽して繁茂し、気根を垂らして元の樹木にまつわりつく。気根が地面に達するとどんどん太くなり、元になった木は気根に囲まれて(とりこまれて)枯れてゆく。そこで、元の樹木をとりこんでしまう木の意で、絞め殺しの木ともいわれる。
意味 あこう(榕)。アコギ。赤榕あこうとも書く。クワ科イチジク属の常緑高木。「榕樹ヨウジュ・ガジュマル」(クワ科の常緑高木。熱帯・亜熱帯に生え、幹・枝はよく分枝して多数の気根をたれて地面に達すると幹になり成長する)

すがた
 ヨウ  艸部
解字 「艸(草)+容(すがた)」 の会意形声。すがた(容姿)の美しい花をつける草木。
意味 「芙蓉フヨウ」に使われる字。芙蓉とは、大きく美しい花をつける草の意で、①ハスの花の別称。美人のたとえ。②アオイ科の落葉低木。大形の一日花を開く。鑑賞用。「木芙蓉モクフヨウ」③「芙蓉峰フヨウホウ」とは、富士山の雅称。
<紫色は常用漢字>

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音符「兌ダ・エツ」<多様な意味をもつ字>「悦エツ」「閲エツ」「鋭エイ」「税ゼイ」「説セツ」「脱ダツ」

2021年04月17日 | 漢字の音符
 ダ・タイ・エイ・エツは、とらえどころのない音符である。その意味は多様で、また発音もさまざまだ。この音符に接すると、その多様性に圧倒される。私にとって「台ダイ」とともに最も難解な音符の一つである。今回、以前の原稿を書き改めたが、これで完成とは思っていない。
 ダ・タイ・エイ・エツ  儿部           

解字 甲骨文字は「兄(唱える人)+八(わかれる)」の会意だが、意味は不明。金文は、「師兌シエツ」(師という官の兌)という形で人名を表している。戦国時代に入ると、その意味が急に拡がる。以下、ネットの「漢語多功能字庫」によると、①戦国竹簡で兌を悦(エツ)と読み、気晴らし・愉快の意。②また兌を脱(ダツ・タツ)と読み、脱ぐ・ぬける意。③また兌を説(セツ・ゼイ・エツ)と読み、説(と)く意になり、④さらに漢代の帛書では、兌を鋭(エイ)と読み、鋭い意で用いている。
 なぜ兌は、このように多様な意味を持つのか?
 一つはその文字の形である。甲骨文字から楷書まで「八+兄」の形は変わらないが、[字通]は、兌の八は神気の彷彿として下るかたちで、兄(唱える人=巫祝みこ)は神がかりとなり、脱我・忘我の状態となることから、脱ダツや悦エツの意味がでるという。もう一つは兌の発音の多様さである。タイ・エツ・エイ・ダなどの発音は、いつごろから形成されたのか不明であるが、この多様な発音から意味が分化したと考えられる。この過程を辿るのは難しく、兌のイメージは、戦国時代から分離した各文字のイメージを踏襲することにしたい。また、現在の兌の意味(交換する)は由来が不明なので仮借(当て字)とさせていただく。新字体で用いられるとき、兌⇒兑 に変化する。
意味 (1)かえる。交換する。「兌換ダカン」(両替)「兌銀ダギン」(両替)「兌換紙幣ダカンシヘイ」(金貨・銀貨などと交換可能な紙幣」 (2)漢代の帛書の意味から、するどい。「兌利エイリ」(するどい) (3)戦国竹簡の意味から、よろこぶ。「和兌ワエツ」(なごみよろこぶ) (4)戦国竹簡の意味から、ぬける。ぬけでる。とおる。 (5)戦国竹簡の意味から、とく(説く・かたりのべる)。 (6)易の八卦・六十四卦のひとつ。

イメージ 
 「仮借」
(兌)
 意味(2)から「するどい」(鋭)
 意味(3)から「よろこぶ」(悦)
 意味(4)から「ぬける・ぬけでる・ぬく」(脱・蛻・閲・梲・税)
 意味(5)から「とく・かたりのべる」(説)
音の変化 エイ:鋭  エツ:悦・閲  ゼイ:蛻・税  セツ:説・梲  ダ:兌  ダツ:脱

するどい
 エイ・するどい  金部
解字 「金(刃物)+兌(するどい)」の形声。金属の刃物の先がするどい意。なお、発音のエイは穎エイ(ほさき。先のとがる)に通じる同音代替ともいえる。
意味 (1)するどい(鋭い)。先がとがっている。「鋭角エイカク」 (2)つよい。勢いがある。「鋭意エイイ」(気持ちを集中する)「精鋭セイエイ」(えりぬきの強い者) (3)すばやい。さとい。「鋭敏エイビン

よろこぶ
 エツ・よろこぶ   心部
解字 「忄(心)+兌(よろこぶ)」の会意形声。よろこぶに忄(心)をつけて、意味を確認した。
意味 よろこぶ(悦ぶ)。楽しむ。「悦楽エツラク」「喜悦キエツ

ぬける・ぬけでる・ぬく
 ダツ・ぬぐ・ぬける  月部にく
解字 「月(からだ)+兌(ぬける)」の会意形声。身体から衣服などがぬけること、ぬぐ意。転じて、ぬけだす・ぬく意ともなる。
意味 (1)ぬぐ(脱ぐ)。ぬげる(脱げる)。「脱衣ダツイ」 (2)ぬける。ぬけだす。「脱出ダッシュツ」「脱走ダッソウ」 (3)ぬく。「脱色ダッショク」 (4)はずれる。「脱線ダッセン
 ゼイ・セイ・ぬけがら  虫部
解字 「虫(むし)+兌(ぬける)」の会意形声。蛇やセミなどの脱皮したあとのぬけがら。
意味 (1)ぬけがら(蛻)。もぬけ(蛻)。裳脱(もぬ)け、とも書く。「蛻皮もぬけがわ」「蛻の殻もぬけのから」 (2)もぬける。脱皮する。
 エツ  門部
解字 「門(もん)+兌(ぬける)」の会意形声。門をぬける意。門は一種の関所であり、ここを通りぬける際に通過する人や物をチェックすること。
意味 (1)けみする(閲する)。しらべる。「検閲ケンエツ」(しらべあらためる)「校閲コウエツ」(調べて校正する)「閲兵エッペイ」(整列させた軍隊を巡視する) (2)本を読んでしらべる。「閲覧エツラン」(本や書類をしらべ読む)「閲読エツドク」 (3)経る。過す。経過する。「閲歴エツレキ」(経過したこと。人が社会ですごしたあと。履歴リレキ。)
 セツ・タツ・うだつ  木部
解字 「木(き)+兌(抜け出る)」の会意形声。家の梁はりから抜け出た短い束柱をいい、棟木むなぎを支える役割をする。のち、隣家との境の屋根や壁に張りだして設けた防火用の張りだし部をいう。
  
   うだつ①           うだつ②
意味 うだつ(梲)。卯建とも書く。①梁の上に立てて棟木を支える短い柱。②隣家との境の屋根や壁に張りだして設けた防火用の張りだし部。「梲(うだつ)があがらない」(出世できない。ぱっとしない)
 ゼイ・みつぎ  禾部  
解字 「禾(穀物)+兌(ぬく)」の会意形声。収穫した穀物の一部を税として抜き取ること。
意味 みつぎ(税)。ねんぐ。「税金ゼイキン」「納税ノウゼイ」「徴税チョウゼイ」(税を徴収する)「税関ゼイカン」(関所での徴税)

とく・かたりのべる
 セツ・ゼイ・エツ・とく  言部
解字 「言(いう)+兌(とく・かたりのべる)」の会意形声。兌(とく・かたりのべる)の意味を言(いう)をつけて確認した字。
意味 (1)とく(説く)。ときすすめる。「説明セツメイ」「演説エンゼツ」 (2)せつ(説)。考え。意見。「新説シンセツ」「学説ガクセツ」 (3)はなし。ものがたり。うわさ。「小説ショウセツ」「風説フウセツ」(4)エツの発音。よろこぶ。「説楽エツラク」(よろこびたのしむ)
<紫色は常用漢字>

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音符「召ショウ」<めす・まねく> と「招ショウ」「沼ショウ」「昭ショウ」「紹ショウ」「詔ショウ」「照ショウ」「超チョウ」

2021年04月11日 | 漢字の音符
 ショウ・めす  口部

解字 甲骨文第1字は、「人(ひと)+口(口でよぶ)」 の会意。人を言葉(口)で呼び出すこと。甲骨文第2字は、人が形の似ている刀に置き換わった字。甲骨・金文は、人と刀が似た字形で混同されることがある。金文から刀の字形が残り、現代字に続いている。意味は、甲骨文第1字の人を「めしだす」こと。「めしだす」ことは、「まねく」ことでもあり、招ショウの原字。音符イメージは、「めしだす」「まねく」となる。
意味 (1)めす(召す)。呼び出す。「召喚ショウカン」(よび出す)「召還ショウカン」(よび戻す)「召集ショウシュウ」 (2)まねく(=招) (3)[国]尊敬語。「思し召す」「召しあがれ」

イメージ 
 「めしだす」(召・詔) 
 「まねく」(招・沼・昭・照・紹・韶)
 「同音代替」(超・貂)
音の変化  ショウ:召・詔・招・沼・昭・照・紹・韶  チョウ:超・貂

めしだす
 ショウ・みことのり  言部
解字 「言(言葉)+召(めす)」の会意形声。人を召し出して告げる言葉。
意味 みことのり(詔)。天皇の言葉。「詔勅ショウチョク」(天皇が発する公文書)

まねく
 ショウ・まねく  扌部
解字 「扌(手)+召(まねく)」の会意形声。手まねきすること。
意味 (1)まねく(招く)。「招致ショウチ」(まねきよせる)「招待ショウタイ」「招聘ショウヘイ」(人を招き呼ぶ) (2)まねく。もたらす。「招災ショウサイ」(災いを招く)
 ショウ・ぬま  氵部
解字 「氵(水)+召(まねく)」の会意形声。川の流域が変わり、その結果、本流から水を招きいれたようになってできた沼。沼は自然に形成されたもの、池は掘って作ったものをいう。 
意味 ぬま(沼)。湖の小さくて浅いもの。「沼池ショウチ」(沼や池)「沼浜ショウヒン」(沼のほとり)
 ショウ・あきらか  日部
解字 「日(日光)+召(まねく)」の会意形声。日をまねく意。日光が輝いて明るいこと。
意味 (1)あかるい。あきらか(昭か)。「昭然ショウゼン」(あきらかなようす) (2)世の中がよくおさまる。「昭代ショウダイ」(よく治まっている世)「昭和ショウワ」(日本の年号。1926.12.25~1989.1.7)
 ショウ・てる・てらす・てれる  灬部れっか
解字 「灬(火)+昭(あきらか)」の会意形声。火の光で明らかにすること。照らすこと。
意味 (1)てらす(照らす)。てる(照る)。「照明ショウメイ」「照射ショウシャ」 (2)てり。ひかり。日の光。「残照ザンショウ」「日照ニッショウ」 (3)てらしあわせる。見比べる。「照合ショウゴウ」「照会ショウカイ」(問い合わせる) 
 ショウ  糸部
解字 「糸+召(まねく)」の会意形声。呼び寄せて糸でつなぐ意。
意味 (1)つぐ。うけつぐ。「紹述ショウジュツ」(前人の後を受けついで述べ行なう) (2)とりもつ。引き合わせる。「紹介ショウカイ」 (3)地名。「紹興ショウコウ」(中国浙江省の都市)「紹興酒ショウコウシュ」(紹興で作られる醸造酒の一種。もち米を原料とし長期熟成させたもの)
 ショウ  音部
解字 「音(音のひびき)+召(まねく)」の会意形声。音のひびきをまねく意で、ひびきのよい音の意。中国の伝説上の天子「舜シュン」が作ったといわれる舞楽の名。転じて、うつくしい・あきらかの意で用いられる。
意味 (1)舞楽の名。「韶舞ショウブ」(舜の舞楽の名)「韶武ショウブ(舜の楽と周・武王の楽) (2)うつくしい。うららか。「韶景ショウケイ」(うつくしくうららかな春の景色)「韶艶ショウエン」(うつくしく艶やか)「韶麗ショウレイ」(うつくしくうるわしい)「韶曼ショウマン」(韶も曼も、うつくしい意) (3)あきらか。「韶暉ショウキ」(明らかに輝く) (4)地名。「仰韶ギョウショウ」(中国の河南省北西部、洛陽西方にある新石器時代の彩陶文化遺跡名。中国読みではヤンシャオ)

同音代替
 チョウ・こえる・こす  走部
解字 「走(足の動作)+召(チョウ)」の形声。チョウは跳チョウ(とぶ)に通じ、とびこえる意。 
意味 (1)こえる(超える)。度をこす。「超越チョウエツ」「超過チョウカ」「超満員チョウマンイン」 (2)ぬきんでる。「超人チョウジン
 チョウ・てん  豸部
解字 「豸(けもの)+召(=超。とびこえる)」の会意形声。平野部の森林にすみ、木にのぼったり、枝をとびこえたりして生活するけもの。
意味 てん(貂)。イタチ科の哺乳類。山林で単独生活し雑食性。黄鼬(てん)とも書く。毛皮をとり、尾は冠飾りに用いた。「貂裘チョウキュウ」(てんの毛皮の衣)「貂冠チョウカン」(てんの尾飾りの冠)
<紫色は常用漢字>

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音符 「丑チュウ」 <つ か む> と 「紐チュウ」 「羞シュウ」

2021年04月04日 | 漢字の音符
 チュウ・うし  一部

解字 手の指先に力を入れて曲げ、強くものをつかむ形の象形。甲骨・金文は手の指先を曲げた形。手にタテの線を入れた篆文の形をへて、現在の丑になった。もとの意味で使われず、十二支の二番目に仮借カシャ(当て字)され「うし」となったが、丑の音符を含む字は、「つかむ」イメージを持つ。
意味 (1)うし(丑)。十二支の第二。「丑寅うしとら」(十二支に方位を当てた時の、丑と寅の中間の方角で北東を指す)「丑三つ時うしみつどき」(真夜中)「丑紅うしべに」(寒の内[立春前の約30日]の丑の日に売る紅。昔は牛の形の容器に入れて売った。口中の荒れを防ぐといわれる。寒紅とも)
書き方 「ふのに(フノニ)で(うし)」

イメージ 
 「うし(仮借)」
(丑) 
 「つかむ」(紐・鈕・羞・衄・狃) 
 「同音代替」(忸)
音の変化  チュウ:丑・紐・鈕  シュウ:羞  ジュウ:狃  ジク:衄・忸

つかむ
 チュウ・ニュウ・ひも  糸部
解字 「糸(よりいと)+丑(つかむ)」 の会意形声。より糸をつかんで結ぶこと。また、物を結んだり束ねたりする丈夫な組みひもをいう。
意味 (1)むすぶ。「紐帯チュウタイ」(二つを結びつけるもの)「紐情チュウジョウ」(心が結ばれる。かたい友情)「紐結チュウケツ」(むすぶ) (2)ひも(紐)。くみひも。物を束ねたり結ぶ太い糸。「靴紐くつひも」「紐解(ひもと)く」 (3)(印鑑のつまみにある穴に紐を通したことから)印のひも。転じて、印のつまみ。「亀紐キチュウ」(亀の形をした印のつまみ。=亀鈕)「蛇紐ダチュウ」(蛇の形をした印のつまみ=蛇鈕)
 チュウ・つまみ・ボタン  金部
解字 「金(金属)+丑(つかむ)」 の会意形声。金属製のつかむもので取っ手をいう。また、玉鈕ギョクチュウ(玉製印のつまみ)から、印のつまみの意でも用いる。
意味 (1)つまみ(鈕)。とって。器物の突起部分。「環鈕カンチュウ」(環状になった銅鐸などの吊り手) (2)印のつまみ。「亀鈕キチュウ」(=亀紐)「蛇鈕ダチュウ」(=蛇紐) (3)ボタン(鈕)。「鈕子チュウシ」(ボタン)「鈕釦チュウコウ」(ボタン)
 シュウ・はじる  羊部

解字 甲骨文と金文は「羊(ひつじ)+又(て)」の形。羊を神に供物として手で差し出す形で、供物をすすめる、また貢ぎ物を納める意。篆文から「羊+丑(つかむ)」の形になった。祭事で羊を神にすすめ献ずること。のち、すべて神に薦めるものをいう。また、神に対して、お恥ずかしいものですが、薦めますの意から、はじる意となり、この意が多く使われる。
意味 (1)すすめる。食物を供える。「羞膳シュウゼン」(すすめそなえるごちそう) (2)はじる(羞じる)。はじらう。はじ。「羞恥シュウチ」「羞辱シュウジョク」(恥をかかせること)
覚え方 「ひつじ()の()ふのに(フノ二)」で。ただし、羊は略体となる。
 ジク・はなぢ  血部
解字 「血(ち)+丑(つよくつかむ)」 の会意形声。鼻を強くつかまれ血が出ること。また、この行為でくじけること。
意味 (1)はなぢ(衄)。はなぢを出す。「衄血ジクケツ」(鼻血)「鼻衄ビジク」(鼻血) (2)くじける。やぶれる。「衄挫ジクザ」(くじけること。衄・挫とも、くじける意)「衄折ジクセツ」(折れくじける。失敗する)
 ジュウ・なれる・ならう  犭部
解字 「犭(いぬ)+丑(つかむ)」 の会意形声。犬をつかんで言うことをきかせること。犬が人になれる・ならう意となる。
意味 (1)なれる(狃れる)。 「狃恩ジュウオン」(恩になれて、ありがたいと思わない)「狃勝ジュウショウ」(勝ちになれる) (2)なれる。「狃習ジュウシュウ」(なれてならう)

同音代替
 ジク・ジュウ・はじる  忄部
解字 「忄(心)+丑(ジク)」の形声。ジクはジク(はじる)に通じ、心ではじること。恧ジクは「而(やわらかい)+心」で、やわらかい心、すなわち感受性のある心⇒恥じらう⇒はずかしい意となる。因みに恥も、「耳(やわらかい耳たぶ)+心」で、はずかしい意。
意味 はじる(忸じる)。はずかしく思う。引け目を感じる。「忸怩ジクジ」(はずかしく思うこと。忸も怩も、はじる意)「忸恨ジクコン」(はじてうらむ)
<紫色は常用漢字>

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「まん延防止」の「まん」はどんな字か

2021年04月01日 | 漢字の音符
 政府は新型コロナウイルス対策として、大阪・兵庫・宮城の3府県に対し「まん延防止等重点措置」を適用する方針を固め、4月1日に決定する。この「まん延防止」の「まん」はどんな字なのだろうか。
 この字の音符は「曼マン」である。曼マンに艸(草冠)をつけた蔓マンが「蔓延マンエン」の「蔓」。同じ音符からできている常用漢字の漫・慢も一緒に説明させていただく。


 マン  日部         

解字 金文は「かぶりもの+まゆ(眉)+目+又(手)」の会意。篆文は「冃ボウ(かぶりもの)+罒(横に描かれた目)+又(手)」となった。ずきん(頭巾)を手でひいてかぶり、目だけ出している形。眉目ビモクの美しさがあらわれる意で、婦人の美しい目元をいう。しかし、音符イメージは頭巾を「かぶる(おおう)」となる。現代字は、冃ボウ⇒日に変化した曼となった。字の構造は冒ボウに又をつけた形である。
意味 (1)(出ている眉目が)美しい。「曼理マンリ」(美しい肌理きめ)「曼姫マンキ」(美しい姫) (2)ひろい(=漫)「衍曼エンマン」(ひろくはびこる)「衍曼流爛エンマンリュウラン」(悪がひろくはびこり、流れみだれる。悪が世の中全体に広がること) (3)本来の意味でなく梵語の音訳語として使われる。「曼荼羅マンダラ」(多くの仏を模様のように描いた絵)「曼珠沙華マンジュシャゲ」(天上に咲くという花)

イメージ 
 「おおう」(曼・蔓・漫)
  かぶりものをして目だけ出すことから「まわりが見えない」(慢)
音の変化  マン:曼・蔓・漫・慢

おおう
 マン・つる  艸部
解字 「艸(くさ)+曼(おおう)」の会意形声。おおいひろがってのびる草。つる草の意となる。
意味 (1)つる(蔓)。つる草。かずら。「蔓草つるくさ」「蔓草寒煙マンソウカンエン」(はびこるつる草と寂しい煙。荒れ果てた古跡の景色)(2)のびる。はびこる(蔓延る)「蔓延マンエン」(はびこる)「蔓生マンセイ」(つるが伸びて成長する) 
 マン・みだりに・そぞろに  氵部  
解字 「氵(水)+曼(おおってひろがる)」の会意形声。水が溢れておおいひろがる意。転じて、とりとめのない意となり、さらに、こっけいの意まで拡大した。
意味 (1)ひろい。水の果てなく広いこと。「漫漫マンマン」 (2)みだりに(漫りに)。とりとめがない。「散漫サンマン」「放漫経営ホウマンケイエイ」 (3)なんとなく。そぞろに(漫ろに)。「漫然マンゼン」「漫遊マンユウ」 (4)こっけいな。「漫画マンガ」「漫才マンザイ

まわりが見えない
 マン・あなどる・おこたる  忄部  
解字 「忄(心)+曼(まわりが見えない)」の会意形声。まわりが見えず井の中の蛙となり、心がおごること。また、まわりが見えないため、ゆっくりと進む意ともなる。
意味 (1)おごる。あなどる(慢る)。「自慢ジマン」「慢心マンシン」「高慢コウマン」 (2)おこたる(慢る)。なまける。「怠慢タイマン」 (3)ゆるやか。おそい。「慢性マンセイ」「緩慢カンマン
<紫色は常用漢字>

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