ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヒメボタルの写真について

2020-06-07 17:41:20 | ヒメボタル

 ヒメボタルの写真は、単にインスタ映えするという理由から昨今ではインターネット上に大変多くの写真が溢れ、またそれを撮ろうとヒメボタルの生息地には、大勢のカメラマンが群がっている。
 ちなみに、ここで言うヒメボタルの写真とは、マクロ撮影ではなく、乱舞している光景の写真についてである。

 私がホタルの写真を撮り始めたのは、今から40年以上も前からであるが、ほとんどが成虫等を接写した生態写真であった。勿論フィルムである。飛翔風景はネガでもポジでも難しく、何とか見せられる写真が撮れるようになったのは2000年頃であった。ヒメボタルの写真を撮り始めたのは2004年だったが、ゲンジボタルやヘイケボタルよりも難易度が高く、やっとフィルムで奇麗な写真が撮れたのは2009年で、ISO1600のネガフィルムで1時間近く露光したものである。
 フイルムで苦労していたところ、2006年あたりからデジタルカメラが広く普及し始め、私も2009年の秋からデジタル一眼レフ(現在も愛用の Canon EOS 5D Mark Ⅱ)を使い始めたが、デジタルで、フィルムと同じような長時間露光でホタルの飛翔風景を撮ろうとすると、数分が限度で、あまり長い時間露光するとノイズがひどくて良い結果は得られなかった。
 ところが、新しい撮影方法により、フィルムに勝るとも劣らない画像を得られるようになった。それが、パソコンソフトによる合成である。今では、デジタルカメラも進化し、撮影時にカメラ内で自動で背景と光を重ね合わせてくれる機種も登場しており、パソコンソフトでの作業とともに、ホタル撮影では一般的な方法となっている。フィルムにおいても、長時間露光ではなく、予め撮影した背景に多重露光によってホタルの光を重ねることもできたが、露出計算が難しく、結果は現像してからでなければ分からなかったが、デジタルは楽である。(参照:ホタル写真の変遷
 誰でも簡単にホタルの飛翔風景が撮れるようになった昨今、インスタ映えするヒメボタルの写真を撮ろうと、生息地にカメラマンが群がっているのである。

 ヒメボタルの写真は、確かに幻想的で美しい。撮るのは自由である。私も各地で撮影しているが、私は撮影者であると同時に観察者として現場に立っている。ホタルの生態や生息環境について調べ始めて48年以上経ったが、未だに分からないことが多い。そのため、ホタルの飛翔風景写真を撮影する場合は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的としている。ヒメボタルでもゲンジボタルでも、他のホタルでも同様である。
 では、インターネット上に溢れる多くのヒメボタルの写真はどうだろうか。そんなに飛翔していなくてもパソコンソフトで何十枚、何百枚と重ねて、光あふれるように作ったり、実際は飛んでいない場所に合成している写真も目に付く。写真芸術という観点から逸脱するものも目立つが「創作」を前提にしたならば、これらに苦言を呈する気はない。問題なのは、写真という結果を求めるだけで、ヒメボタルの生態を理解せずに生息地に群がるカメラマンの姿勢と態度である。更には、乱舞の様子を軽々しく報道するメディアである。

 これは高知県のヒメボタルの生息地での出来事である。いつもは誰もいない夕方の散歩コースに自動車が何台も止まっていたという。ある人物が、ヒメボタルの写真を撮らせようと県外からも大勢を呼び寄せたのだと言う。写真が撮れれば良いだけで、生息場所を荒らすなどの行為も目立ち、更には、撮った写真を新聞社に売り込んだと言う。地元の方々は、「県外への移動自粛が今月末まであるのに呼ぶ方も来る方も許し難い。自然破壊、生息地荒らしなど何にも考えない人間に風景写真は撮らせたく無い!」と叫んでいる。新聞社は、何枚も合成された光溢れる写真とともに「儚い命・・・」として記事にしている。
 私が10年前に撮影していたヒメボタルの生息地数か所では、当時は誰もおらす私一人で撮影と観察をしていたが、今ではカメラマンで溢れている。撮るのは自由である。ただし、ヒメボタルの生態は、予め学んでくるべきである。写真を撮りたいから「光害」に関してはある程度気を使っているが、メスや幼虫がいるであろう生息地内に踏み込む行為も散見される。ネット上では、インスタ映えを狙ってか、ヒメボタルが飛翔する場所に番傘を置いて撮った写真も見受けられる。言語道断な行為であり、ヒメボタルを撮る資格はない。マナー云々の問題ではなく、自然保全の鉄則は守らなければならない。
 今年も、7月末まで各地でヒメボタルが舞う。是非ともヒメボタルの写真は、単にインスタ映えの自己満足に終わらせることなく、貴重なヒメボタルと自然環境を保全するための一枚になるようお撮り頂きたいと思う。またメディアも、何も考えず安易に報道するのではなく、その記事の裏側や影響を良く考えて書いて欲しい。

 以下には、過去にデジタル一眼レフで撮影したヒメボタルの写真を数点掲載した。過去の撮影であるにも関わらず、今回初めてRAW現像した写真と動画もある。飛翔写真6枚は、背景もヒメボタルの飛翔時刻に同時に撮影したもので、1と2枚目は、これでもかという位にヒメボタルの光を重ね合わせたものである。背景となる木立のカットがなくても、ヒメボタルの光だけで木立の様子が分かる。乱舞する生息地に違いないが、実際に一度にこれほどの数が飛翔しているわけではない。3枚目は、畑の上を飛ぶヒメボタルの光跡を撮影したものだが、写真を見る一般の方々に受けるのは、写真1、2であることが悲しい。
 人々の興味や感情はうつろいやすいものである。「インスタ映え」を目的としてパソコン上で作り出した偽りではなく、真に感動を表現した写真でなければ、その内、飽きられてしまうだろう。写真を見る方々も、騙されることなく冷静になって撮影者の心を見抜く力を養っていただきたいと思う。
 私は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的とし、感動の写心を撮れるよう努力していきたい。

昨年、最後に撮影したヒメボタルの写真は、こちら「ヒメボタル(東海)

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 800(撮影地:埼玉県 2010.6.06)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2012.6.08)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO MC AUTO-MACRO 50mm F3.5 / KODACHROME64 Professional(撮影地:東京都 2009.7.06)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 6秒 ISO 400(撮影地:埼玉県 2011.6.04)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 映像からの切り出し(撮影地:山梨県 2010.7.19)

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影地:埼玉県 2016.6.5)

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