ギフチョウのイエローバンドは、過去に何度か撮影して投稿記事「ギフチョウのイエローバンド」等に掲載しているが、今年も撮影に臨んできた。
ギフチョウ Luehdorfia japonica Leech, 1889 は、アゲハチョウ科(Family Papilionidae)ウスバアゲハ亜科(Subfamily Parnassiinae)ギフチョウ属(Genus Luehdorfia)に分類されるチョウで、日本の固有種である。本州のみに分布し、秋田県南部の鳥海山北麓から山口県中部にいたる24の府県で見られる。本種は、明治16年(1883年)に初代名和昆虫研究所所長の名和靖氏が学会に紹介し、岐阜県の下呂市金山町祖師野で初めて採集されため、ギフチョウと名付けられた。昔は「ダンダラチョウ」とも呼ばれていた。
ギフチョウは、春には林床に光が射し、幼虫の食草類や成虫の吸蜜植物であるカタクリやスミレが咲く明るい雑木林に生息し、成虫は年に1度だけ、春に発生するスプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)で「春の妖精」とも呼ばれる。幼虫の食草は、ウマノスズクサ科カンアオイ属のミヤコアオイやヒメカンアオイや、フタバアオイ属、サイシン属であるが、各地域によって選択性に違いがみられる。幼虫は夏には成熟して地表に降り、落ち葉の裏で蛹となる。蛹の期間が約10ヶ月と非常に長いのが特徴である。
カンアオイ類は里山に生育し、生育速度も遅く、近年の里山の開発や放置により激減しつつある。そのためギフチョウの絶滅も懸念され環境省版レッドリストでは、絶滅危惧Ⅱ類にランクされており、都道府県版レッドリストでは、現在生息している24の府県で絶滅危惧Ⅰ類から準絶滅危惧種となっている。(尚、東京都と和歌山県は絶滅)そのため、地方自治体によっては、「希少野生動植物保護条例」の「指定希少野生動植物種」に指定し、捕獲,採取,殺傷または損傷および譲渡などの各行為を禁止しており、違法行為が行われた場合には、罰則が科せられる。
さて、ギフチョウは、強い飛翔力がなく他の生息地との行き来がないため、小さな地域個体群ごとに翅形や翅のサイズ、前後翅の黄色条または黒色条の幅、後翅肛角部の赤斑、斑紋の細部形状などに違いがある地理的変異が知られているが、同一地域個体群の中でも常染色体劣性遺伝により引き継がれている形質もある。その1つがイエローバンドである。(「イエローリング」などの呼称・記述もある。)
イエローバンドは、前翅と後翅の外縁部及び尾状突起部が全て黄色の毛で縁取られるのが特徴で、通常型の黄色と黒色で交互に縁取られるものと比較すると、美しさが際立っている。この変異は、長野県のごく一部で見ることができ、2014年から生息地に通い続け、2018年にようやく撮ることが叶った。その後も毎年訪れたが、1頭ずつ証拠程度の写真しか撮れていなかった。
本年の目標は、交尾や産卵などの生態写真は運に任せ、まずは図鑑写真をもう数枚追加すること。私にとって図鑑的写真とは、その種の特徴が良く分かること。そしてその種の一番美しい姿・色彩を一番美しい時期に美しく残すことである。
今年は、桜の開花もそうだが、昆虫の発生も例年と比べて極めて早い。ギフチョウも早いに違いない。そこで5月3日を遠征日に決めていた。
今年のゴールデンウイークは、人によっては9連休だが、私は、仕事の関係で3日から久しぶりの3連休。運よく天候は晴れで気温も高い。きっと発生しているに違いない。2日の仕事は18時半に終了。一旦帰宅し、22時に自宅を出発。中央道は小仏トンネルを先頭に8kmの渋滞。その先の渋滞はなかったが、車両が多い。大型トラックは少なく、乗用車ばかりである。このGWも休日割引の適用がないため、深夜割引を利用するためなのだろう。
現地には3日午前2時過ぎに到着。気温は2℃である。月が沈む3時過ぎから夏の天の川を撮るつもりではいたが、薄雲がかかっていたので仕方なく車内で仮眠。6時に目が覚め、7時過ぎから活動開始である。
昨年の経験から、待ち伏せよりもある程度の範囲を歩き回った方が出会いの確率が高いと思われたが、今回も、待ち伏せすることにした。ただし、前回とは違う蝶道のヒルトップである。朝の気温は0℃であったが、風がなく太陽が昇るにつれて気温は上昇。8時半に1頭のギフチョウが飛んできた。少し飛んでは下草に止まる。慎重に近づいて撮ってみるとイエローバンドであった。
その後も、何頭もの個体が飛んできた。そして私が着ている青いシャツにまとわりつく。ギフチョウの習性を学んだことと、天候の良さも相まって、3時間でのべ10頭ほどが飛んできて、6頭を写真に撮ることができた。そのうちイエローバンドは4頭であり、ノーマルタイプも含めて、すべてオスの個体であった。オスは、体背面に長毛が密生している。メスは毛生が少なく、前胸背に赤褐色毛を生じるので、雌雄の区別は容易である。
以下の写真には、イエローバンドとノーマルタイプの比較写真と2018年に撮影したメスのイエローバンドの写真も掲載したので、参考にして頂きたい。
雲が広がり始めて陽が陰ってきた11時半に撤収。中央道上りは、ほとんど渋滞がなく、16時に帰宅した。
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