ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヒメボタル 埼玉2022

2022-06-06 15:42:05 | ヒメボタル

 今年最初のヒメボタルの観察と撮影は、2010年に私が発見した埼玉県の生息地へ6年ぶりに訪れた。
 ヒメボタルは、かつて「森のホタル」と呼ばれ、雑木林やブナ林、杉林、竹林内で見られることが多いが、埼玉県の生息地は開けた畑や草地を発光しながら飛翔する。街灯がある民家の庭先にも飛んでいる。中部地方では河川敷や城跡のお堀に生息するヒメボタルがいるが、開けた何もない草地上を乱舞するヒメボタルは伊吹山等の他ではほとんど見ない。関東地方のヒメボタルでは一番発生時期が早く、また成虫の形態にも特徴がある貴重な生息地である。

 2010年の生息地発見当時は、地元の人も誰一人としてヒメボタルを見ている方はいなかった。深夜型のヒメボタルであるから、地元の人も気が付かなかったのだろう。勿論、カメラマンもいなかったが、2010年から2012年に撮影した写真を当時ブログで公開(市の名称までを記載)したところ、場所を教えて欲しいとの問い合わせがあった。丁重にお断りすると私の写真(下記掲載写真4及び5)をプリントアウトし、市内で聞き取りを行って場所を突き止めた方がいた。そして自身のホームページで生息地までの行き方まで詳細に公開したのである。ヒメボタルはかなり広範囲に生息しており、近くの河川敷に遊歩道が整備された緑地には、ヒメボタル生息地として看板も設置され、それらの情報は瞬く間に広がり、2016年に訪れた時にはカメラマンで溢れかえっていた。
 あまりのカメラマンの多さにうんざりし、その後訪れていなかったが、今回生息地の様子と発生の状況を確認するため6年ぶりに訪れてみた。この生息地のヒメボタルは深夜型で23時過ぎからがピークになる。かつて観察していた場所には民家が増えたので迷惑等も考慮し、今回は数百メートル離れた河川敷の緑地に行って見ることにした。

 天候条件から4日(土)に行くことに(関東甲信地方は6日(月)に平年より1日早く梅雨入り)したが、あいにく19時まで仕事。仕方なく職場からそのまま現地へ向かった。21時頃に緑地の駐車スペースに着くと、すでに30台以上の車が止まっており、懐中電灯なしで遊歩道を進んで竹藪がある場所に行くと、遊歩道の両側には大勢のカメラマンが三脚を並べて待機中であった。
 かつてこの竹藪では、ほとんどヒメボタルを見ることがなかった、しばらく訪れないうちにカメラマンがこれだけ増えたということは、それなりに飛ぶのであろう。ただし、緑地全体は10年前に比べて自然度が高くなっていたが、草刈りはほとんどされていない状況。竹藪は、文字通り藪で荒れ放題である。
 背景の前撮りができない時間帯の到着であるが、一応カメラも持っていったので写真も撮ることにした。ただし、竹藪内は真っ暗で何も見えないため、カメラを向ける方向も構図も適当である。

 22時を過ぎると、竹藪の外の遊歩道脇にある草地でヒメボタルがチラホラと発光を始めた。カメラマンの足元でも光っているが、こちらが声を掛けなければ踏んでしまう。竹藪内ではまだ光らないが、草地では飛翔も始まった。
 23時を過ぎると、ようやく竹藪の中でも光が確認できたが、それほどは多くはなく、しかも手前の方ばかりで奥にはいない。人が入り込むことが出来ない程の藪では、メスの存在もないのだろう。これまで観察と撮影をしてきた近くの乱舞地では、道路脇の草地で多くのメスを発見している。他の地域の生息地でもそうだが、メスは林内よりも道路脇の茂みに多い。この場所でも遊歩道脇の草の茂みにいる可能性が高い。
 2009年に発見された岐阜県の長良川河川敷のヒメボタル生息地は、それまで長い間竹藪であったが、地元ボランティアが竹と竹の間隔を「人が傘をさして通れるほど」空けるという竹藪管理の格言の基に活動を行った結果、健康な竹林が回復し、ヒメボタルが乱舞し発見に至ったと言われている。この埼玉県の生息地においても、放置ではなく、適正な管理を行うことが必要である。
 竹藪では午前0時半頃まで観察と撮影を行い、駐車場に戻ろうと遊歩道を歩いていると、窪地になった開けた草地でヒメボタルが乱舞しており、改めて生息域の広さと生息数の多さを実感する。この緑地におけるヒメボタルの保全は、竹藪の適正な管理とカメラマンの「マナー向上」であろう。深夜ではあるが、誰もが気軽にヒメボタルを観察できる場所だけに、徹底しなければならないと思う。

 ホタルの写真撮影の鉄則について、この時期だからこそ記しておきたいと思う。

 ホタルの本格的な季節となり日本各地で美しい光景が見られ、インターネット上でも今年撮影されたホタル写真が多く公開されるようになってきた。フィルムカメラの時代では、フィルムの選択から始まり、長時間露光の露出設定、街明かりによる緑被り対策に苦労しながら撮影し、現像結果が分かるのは数日後。ヒメボタルの撮影方法を見つけ撮るまでに6年もかかったものである。しかしながら、現在のデジタルカメラでは、いとも簡単にホタルの写真が撮れてしまう。カメラ任せでも撮れるし、自宅に帰ってからパソコンで処理すれば美しいホタルの飛翔風景写真となる。
 ホタルの写真を上手く撮りたいと皆思う。知識不足の方々のために、プロの写真家のみならず多くのアマチュアカメラマンがインターネットやYoutubeでホタルの撮り方、写真現像の仕方を公開し、DVDまで販売している。これらで学ぶのも良いだろう。ただし、1つ注意しなければならない。こうしたプロの写真家もアマチュアカメラマンも「ホタルの専門家」ではないということである。私の知人であるプロの写真家の中には、日本ホタルの会の会員になり、ホタルについて学んでいる方もいらっしゃるが、こうした方は一部であり、多くはホタルに関しては素人である。ホタルの専門家ではないアマチュアカメラマンやプロの写真家の言うことは、当然のことながら写真撮影が主目的の内容になっている。
 写真の撮り方の説明の中には、ありきたりな「マナー」については書かれている。例えば

  • 光を出さない(車のヘッドライト、懐中電灯、カメラのランプはNG)
  • 虫除けスプレーを使わない
  • 不用意に茂みに入らない
  • ホタルを捕まえて持ち帰らない

 この程度である。こんな記述もある。「ホタルは光を嫌うことはすでに述べた。とはいえ、真っ暗な中で撮影の準備を行うのは大変。そこでホタルへの影響をできるだけ少なくするために、赤い光を発光できるヘッドライトを用意しよう。・・・」なぜ、真っ暗な中で撮影の準備をするのであろうか?なぜ、灯りを点ける必要があるのだろうか?確かに、ホタルの赤色に対する分光感度は比較的低いことから、灯火や懐中電灯に赤色フィルターをつけると影響を少なくできると書かれた論文は多くあるが、赤色でも1ルクスになると約25%が行動しなくなり、産卵にも遅れが生じるという報告もある。「影響を少なくできる」とは、「少なからず影響がある」ということである。
 高知県に住む知人の話では、私も行ったことがある沈下橋において、大きな赤い投光器をホタルが飛んでいる対岸に向けて照らしていた男女二人組のカメラマンを目撃している。点滅ではなくずっと照らしていたらしい。ゲンジボタルやヘイケボタルの成虫では、概ね0.1~0.2ルクス以下で正常に近い行動がみられる。0.3ルクスの満月でもオスの飛翔は抑制される。お互いの発光をコミュニケーションツールとし、繁殖行動しているホタルにとって暗闇は必須条件なのである。人間が写真を撮るという勝手な行為のために、少なからず繁殖行動に影響がある事を行ってはならない!

 こういった事を書くと、必ず反論がある。生息地に行くこと自体がホタルに影響があるのではないかといった極論まで頂くが、それは、ホタルの生息環境を考えれば論外な意見。「そういうお前もストロボを使っているだろう」この指摘に関しては、誤解をなくしたい。私が撮影したホタルのマクロ写真でストロボを照射したものが何枚かある。映像においてもホタルにライトの反射光を照らしたものもある。ストロボを使った写真は、すべて卵から飼育して羽化させた成虫を自宅の室内で撮影したものである。生息地におけるライトを使った映像は、ホタルの飛翔活動(繁殖活動)が終了し、葉に止まりだした時刻から0.2ルクス以下の弱い照射で撮影をしているので、繁殖行動にはまったく影響がない。

 ホタルの撮影や観賞において、よく「マナー」という言葉が使われているが、そもそもマナーとは、その場面でしかるべきとされる行儀・作法のことを指し、それ自体に強制力はないから、ホタルの撮影や観賞において守るべきことは「鉄則」という言葉を使いたい。「鉄則」とは「鉄の様に硬く絶対的な規則」である。「原則」は例外を認めるが、「鉄則」は例外を認めない。以下の鉄則を守って、ホタルの写真を撮って頂きたいと思う。

ホタルの写真撮影の鉄則(最低限)

  • 生息地には明るい時間に行き、ロケハンする
  • カメラは明るい時間にセットし、設定も完了させる
  • ホタルの飛翔が始まったら、デジタルカメラの背面モニターは黒い布で覆う
  • 懐中電灯は勿論、赤いライトなど灯りは一切持たない照らさない
  • 林道・遊歩道以外は、絶対に入らない
  • 帰るのは、ホタルの繁殖飛翔時刻が終了してから

 以下には、今回撮影した3枚の写真と2012年に撮影した写真2枚、そして今回と2012年に撮影した映像を編集した動画も併せて掲載した。写真は、いずれも1920*1280 Pixels であり、写真をクリックすると拡大表示される。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにすると高画質でご覧いただける。

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 2000 2分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2022.6.05 23:30)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 90秒相当の多重(撮影地: 埼玉県 2022.6.05 0:11)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル(1枚目と2枚目の写真と発光色が異なっているのは、カメラの色温度設定のためによる)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 1分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2022.6.05 0:37)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 3分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2012.6.08 23:37)

ヒメボタルの飛翔風景の写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1/125秒 ISO 1600 2分相当の多重(撮影地: 埼玉県 2012.6.09 0:18)

ヒメボタル 埼玉県

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