本蔵院 律良日記

熊本県にあるお寺“真言宗 本蔵院 律良のブログ”日々感じるままに活動のご報告や独り言などを書いた日記を公開しています。

「だ・じょう・ま」のたとえ

2017-04-09 20:01:33 | 住職の活動日記

唯識のお話しがありました。

「さとりへの一歩」

という題で、講師は

龍谷大学の長谷川岳史先生です。

立派なレジュメを頂きました。

約2時間の講義ですが

『唯識三十頌』

一応、網羅していただきましたが

濃縮された講義でした。

 

そのなかで、

転識得智(てんじきとくち)

という、

人間の迷いの意識を転じて

仏の智慧とする、

転迷開悟(てんめいかいご)

迷いを転じて悟りを開く

さとりとは

他から持ってくるのではなく

自分たちが持っている迷いを転じる

ここに仏教の大切な立場があります

 

その一つのたとえとして

「蛇(だ)・縄(じょう)・

麻(ま)」ということがあります。

これはインドで5世紀に書かれた

『摂大乗論』(しょうだいじょうろん)

というお経の中にあります。

 

ある人が暗がりの中を不安気に

歩いていると、

細長い物を見た、

蛇だとビックリして怖さを感じた

しかし、

何時まで経ってもその細長い物は

動かないので、恐る恐る見ると

それは縄であった。

さらによく見ると

その縄は麻で出来ていた。

 

何でもないような話ですが

これは私たちが

よくこういう勘違いをして

物事を見ているということです。

 

仏教ではよく「蛇」は

煩悩のたとえにされます。

孔雀明王という仏様がいます

孔雀は蛇を食べるということで

人間の煩悩を食べ尽くしてしまう

という象徴的な存在として

お祀りするのです。

 

私たちはものを見るのに

三つの見方があると説きます

一つには「遍計所執性」

(へんげしょしゅうしょう)

二つには「依他起性」

(えたきしょう)

三つには「円成実性」

(えんじょうじっしょう)

ということです。

 

「蛇」と思い込むのが

「遍計所執性」

遍計とは偏った見方

自分が勝手にそうだと思い込む

迷いの見方ということです。

しかし、よく見ると

縄であったと知るのが

「依他起性」

縁によって成り立っていると知る

勝手に思い込むのではなく

すべてのものは縁によって

成り立っている、

ということを知ることです。

さらによく見ると

その縄は麻で出来ていると知る

これが「円成実性」ということで、

本当のものの見方物事を見抜く智慧

さとりの見方ということです。

 

同じものを見ても、

「蛇」と思い込んだまま(識)

でいるか、

「縄」と気づき「麻」と見抜く

(智)によって、

天地の差が生じるということです。

 

麻と蛇の区別ぐらい分かるわい

と思っているかもしれませんが

おいおいにして

私たちは自分勝手な思い込みによって

物事を判断しているということです

個人的にも多々ありますが

大きくは国同士でも

サリンを使ったとか

だから爆撃するのだとか

思い込みによって

大きな戦争にも発展しかねないのです

 

事実をよく見ると言いますが

人間の意識では

決して物事の真の姿は

見ることはできないのです。

 

また、『唯識』では

「識のみあって境なし」

ということをいいます。

私たちは世界(環境)のなかに

みんなが一緒にいると

思っていますが、

事実は100人いれば100の世界が

あるということです。

分かりにくいかもしれませんが

私たちは自分が死んでも

阿蘇山や比叡山はちゃんと残っている

と思っているのですが

自分が亡くなれば

阿蘇山も比叡山も無くなるのです。

そんなばかな!

反対に言えば阿蘇山は

100人の人がいれば100の阿蘇山

があるといいうことです。

阿蘇山は一つと思うかもしれませんが

それぞれの人に阿蘇山はどうだった

と聞くと、

100人100様の阿蘇山があって

それぞれに見方が違っているのです

子ども達に阿蘇の姿を

描かせて見るとそれぞれに違った

阿蘇山があるものです

そのように阿蘇山という姿を

私たちそれぞれのに思い描いている

ということです。

 

だから、

ものごとはこうあるのだと

決めつけてはいけない

ということです。

物事は縁によって生じている

その事実をよく知るということが

智慧ということです。

 

まあ、『唯識三十頌』を2時間

という講義でしたから

とても駆け足で俯瞰したような話

でしたが、

とても興味深く面白いものでした。

 

 

 

 

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