20012年7月3日(火) 中央アルプスの登山道周辺で登山者の踏圧等によって退化した植物の復元に関する調査のために、3日から5日まで、事前調査に出かけた。 昨夜は伊賀市の帰りに塩尻市のホテルで降ろしてもらい、今朝会社の調査スタッフの車に拾ってもらった。 午前中に木曽駒ケ岳周辺を管理する森林管理局の事務所で打ち合わせをした後、駒ヶ根高原の菅ノ台バスセンター駐車場に向かった。 そこからバスに乗り換え約40分で駒ケ岳ロープウエイのしらび平駅に到着。 土日は大変混雑するらしいが、今日は雨だし中途半端な時間帯であることもあって、ロープウエイは我々3人だけ貸切であった。 7分少々で山頂駅に着いたが、外は雨降りで視界が悪く、千畳敷カールの雪渓も見えない。 アイゼンは持ってきたが、雪はザクザクのようなので雨具だけ着て雪渓を登る。 雨は本降りとなり周囲の景色は全く見えない。 1時間ほどでベースキャンプの宝剣山荘に着く。 泊り客は我々を含めて十数人程度ですいていた。 明日からの天気の回復を祈りつつ夕食後速やかに布団に入る。
〈ロープウエイを降りて千畳敷カールに向かう。〉
〈千畳敷カールの雪渓を登るが何も見えない。〉
7月4日(水) 4時にセットした目覚ましが鳴って窓の外を見ると、どうやら晴れているらしい! 早速ご来光の写真を撮るため急いで準備を始める。 外に出ると東の空が明るくなって間もなく雲海の向こうに朝日が昇るところだった。 山荘の脇の宝剣岳へ向かう尾根に登ると、何と西には雲海の上に満月が輝いている。 何とラッキーなことだ! 尾根に立って東と西の両方に向かって夢中でシャターを切る。 今回はこれだけでも来たかいがあったというものだ。 山小屋では珍しいパン食の朝食を食べ、本業の仕事のためまず中岳2,925mを通って木曽駒ケ岳山頂2,956mに向かう。 これまで施工された登山道周辺の植生復元のためのネットの状況確認と今後さらに必要な箇所の有無などを調べる。 途中、シナノキンバイやウメバチソウ、オヤマノエンドウ、ツガザクラなどの高山植物がきれいだし、富士山、南アルプス、御岳、北アルプスまで望むことができる絶景に感動しつつ、この奇跡的な天気の回復に感謝!感謝!であった。 お昼は宝剣山荘に戻って昼食をとってから、今度は伊那前岳2883.4mを越えて8合目あたりまでの尾根の登山道周辺を調査した。 いつもこんな天気に恵まれればよいが、昨日のような雨とガスでは仕事にならない。 標高3,000近い山岳での仕事は天気によってはまるで天国と地獄である。 今日はまさに天国の日よりであった。
〈東の空には雲海から昇る朝日が!〉
〈背後の西側には雲海に浮かぶ満月が!〉
〈中岳を過ぎるとオヤマノエンドウの群生が(目立ち始める。〉
〈腕章をつけているので、登山客から高山植物の名前を尋ねられる。 丁寧に特徴を教えるS君〉
〈木曽駒ケ岳山頂は360度の大パノラマが広がる。〉
〈ちゃんと仕事もするのだ。〉
〈木曽駒ケ岳山頂から雲海に浮かぶ御岳を望む。〉
〈天狗山荘裏の登山道脇に群生するハクサンイチゲ〉
〈伊那前岳に向かう尾根から望む富士山〉
〈昨日は何も見えなかった千畳敷カールとロープウエイの駅舎〉
7月5日(木) 3日目の朝は雨は降っていないもののガスがかかって視界が悪い。 これが普通なのだろうと気を取り直して6時に山小屋を出発する。 今日は発注者側の森林管理局の担当者と10時に宝剣山荘で待ち合わせているため、最後に残った極楽平までを調査して、10時前までに戻る計画で出かけた。 ルートは宝剣岳2,931mを経由して極楽平を往復しようと簡単に考えていた。 しかし、宝剣山は切り立った岩峰で、ほとんどが鎖場となっている。 ちょっと足を滑らせれば雲の下まで真っ逆さまに落ちてしまう。 幸か不幸か足元の下の方はガスがかかって全く見えないため、どこが奈落の底なのかは見当がつかない。 とにかく足を滑らせないように注意して進む。 その岩場の途中でSさんがコマウスユキソウ(ヒメウスユキソウ)を見つけた。 他にも高山植物が多いが、ガスで鎖も岩も濡れて滑りやすいため写真を撮る余裕もない。 こんな危険なルートだとは聞いていなかったし、こちらも木曽駒ケ岳と同じような山系が続いているものと早合点してしまっていた。 今更後悔しても遅く、とにかくここまでくれば行くしかなかった。 1時間以上も岩峰の鎖場を登り降りして、やっと極楽平に通じる尾根道に辿り着いた。 この岩場をまた戻るのは怖いので、帰りは極楽平から千畳敷のロープウエイ乗り場まで下って、昨日の千畳敷カールを登って宝剣山荘に戻ろうということになった。 仕事を済ませていざ極楽平から下ろうとしたら、何と登山道の階段は尾根道から数段下ったところで雪渓の下に消えていた。 ガスが立ち込めて何も見えない中、アイゼンもピッケルもない状態でこの雪渓を下るのは自殺行為である。 仕方なく、今来た恐怖の鎖場を戻るしか方法はない。 昨日の天国から今日はまさに地獄である。 それでも帰りは多少慣れてきたのでちょうど1時間で何とか無事宝剣山荘に辿りつくことができた。 まだ10時前だったので山荘でお湯を沸かして飲んだコーヒーが美味かった。 10時過ぎに到着した2人の担当者にもコーヒーを入れてやり、これなでの調査結果を報告した。 その後再び担当者と一緒に木曽駒ケ岳までのルートをチェックしながら山頂まで登った。 今日は昨日と打って変わって 山頂からの大パノラマは何一つ見えない。 今更のように昨日の幸運を感謝した。 一旦山荘に戻って少し遅い昼食をとり、午後からは伊那前岳のルートを見ることになった。 しかし、私は朝の極楽平の往復で体力を消耗したため、あとは若い2人に任せて山小屋で留守番するjことにした。 今日中にここから下って帰らなければならないので、その分の体力は最低限温存しておかなければ他のみんなに迷惑をかけてしまう。 彼らが出かけていた2時間半ほど休ませてもらったおかげで、何とか彼らについて千畳敷のロープウエイまで無事下山することができた。 午後からも一緒に付き合っていたら、きっと最終のロープウエイに間に合わなかったかもしれない。
〈宝剣岳山頂。全く視界が効かないが、まだこのあたりは多少の余裕があった。〉
〈Sさんが見つけたコマウスユキソウ(ヒメウスユキソウ)は環境省の準絶滅危惧種である。〉
〈イワベンケイソウが足元に咲いていた。〉
〈ミヤマシオガマ。アングルを考える余裕はない。〉
〈こんな岩場が1時間も続く!〉
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