僕はびわ湖のカイツブリ

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“男のためのガーデニング”改め

京都大原「マリアの心臓」~天野可淡・恋月姫人形展覧会~

2021-12-02 07:18:25 | アート・ライブ・読書
 「人形屋佐吉」こと片岡佐吉さんは、アンティークドール・球体関節人形・市松人形・創作人形などの人形蒐集家であり、写真家としても活躍されている方です。
人形博物館としての「人形屋佐吉」は1978年に札幌で開店した後、東京表参道~元浅草~渋谷へ移動後の2011年に一旦閉館し、2015年より京都大原の地で「マリアの心臓」を再開されています。

京都大原の「マリアの心臓」は不定期に開館されており、2020年に閉館が予定されていましたが、コロナ渦により開館出来なくなり今回が21ケ月ぶりの開館とのこと。
しかし、「マリアの心臓」は2022年に閉館が予定されているようですので、見に行ける機会としては今回が最後になる可能性もあると思いつつ大原の地へと向かいます。



大原の古い日本家屋を会場としている「マリアの心臓」は、京都大原という古刹と自然に恵まれた里山に異質でもあり融け込んでもいてという現実と幻想のはざ間のような場所だと感じます。
今回の展覧会はテーマが盛りだくさんになっており、天野可淡人形展覧会【花魁地獄太夫】【THE DRACULA】、恋月姫人形展覧会【血の涙を流すイエス・血の涙を流すルチア】が企画されています。

大原のバスターミナル近くの駐車場に車を停めて、三千院へと続く坂道を歩いて行きますが、陽の傾いた夕方4時前になっていたのにも関わらず、観光客の多さに驚くことになります。
しかし、観光客や茶屋・売店などの活気のある場所を離れて向かうのは川沿いの寂しい道で、この先には人形たちの棲む館があります。



一見人の住んでいない廃屋のように見えますが、家の中には天井裏を含めて何百体という人形が納められており、人形に当たらないように部屋を進んでいくのもマリアの心臓の凄みでもあります。
一時期は、スーパードルフィーが人気を呼んで球体関節人形のブームがありましたが、もう廃れたかと思いきや中にはコアなドールファンが何人も来場されていたのには少し驚いきました。



以前はこの家屋の前庭に『古自転車と小便小僧』が象徴のようにして飾られていたのですが、古自転車はなく小便小僧だけが建屋にもたれかかっていました。
庭の草も生え放題のように見え、観光地としての大原のイメージはなく、むしろベニシア・スタンリー・スミスさんが暮らす静かな大原の印象の方を強く感じる。



室内へ入るとビスクドールやジャンルにはまとめられない人形たちの展示が始まります。
ずらりと並んだ市松人形の前にソファーがあったので眺めていましたが、どうも日本人的には市松人形に怖さを感じてしまいます。
古物商とかの店先に市松人形が置かれていたりすると、意思のあるものから見つめられているような錯覚に陥るような怖さを感じたりしますが、ここには何十体という市松人形に見つめられる。

天野可淡さんは球体関節人形作家として、妖しくも耽美で異様なまでの作風で人気を集めた作家でしたが、1990年にオートバイ事故により37歳で亡くなられたという。
下は片岡佐吉さんが「マリアの心臓」が所蔵する人形作品を撮影した写真集「天野可淡 復活譚」で、以前に「マリアの心臓」を訪れた際に購入して佐吉さんのサインを頂いた本です。



今回の「花魁地獄太夫展」でも天野可淡さんのドールは多数展示されており、可淡さんの創造された人形の妖しさや情念の世界に鳥肌が立つ。
ゾッとしたのは可淡ドールの奥に古い雛人形のお内裏様とお雛様が並び、その奥には小さな厨子に納められた念持仏のような阿弥陀如来?。その前には葬式に使う盆提灯が薄暗い部屋で薄い光を放っている。
「花魁地獄太夫展」のキャッチコピーは“三千世界の烏を殺し、主と添い寝がしてみたい”とあり、決して逃れられない、また救われることのない情念が渦を巻く。



「マリアの心臓」には天井裏にも展示されており、低い梁をくぐるため床を這いずり回るように進みながら、各所に展示された可淡ドールを見ることになります。
ちょうどゴスロリ衣装の女性が何人か天井裏で可淡ドールを鑑賞されていて、天井が低く薄暗いため人形かと思って近づいたらしゃがみこんでいる小柄なゴスロリの女性だったなんてこともありました。

もう一つの企画展の恋月姫さんの【血の涙を流すイエス・血の涙を流すルチア】も悪夢を見るような印象的な作品です。
恋月姫さんはビスクドール作家で端正な顔と特有の白い肌、冷たい意思を持った視線あるいは閉じた瞳が印象に残る作家さんです。
今回の主題は「血の涙を流すルチア・血の涙を流すイエス」という作品で、キリスト教の聖人聖ルチアとイエスキリストに扮した少女が血の涙をながしています。



天草四郎をモチーフにした等身大の作品も展示されており、その魅入られてしまうような美しさと冷たい視線には高いカリスマ性と気高い気品が漂う。
今回は天草四郎の最初の洗礼名「ジェロニモ(Geronimo)」と島原の乱当時の洗礼名「フランシスコ(Francisco)」と名付けられた2体が並び、時代の波にもまれながら成長していった姿がみえます。

「マリアの心臓」の入口には書物や写真などが販売されており、そこに「精妙なるドールの世界(月間アートコレクターズ)」がありました。
内容は、四谷シモンさんや片岡佐吉さん、恋月姫さんへのインタビュー記事、“イマシュンな人形作家12選”と題して人形作家の作品紹介など盛りだくさんな内容となっています。



実際に生で鑑賞したことのある作品を創られた作家さんは数人だけですが、ドール系の人形作家さんの多さと個性には驚くばかりで、“人間以上”と感じられる作品もありました。
人形は古くは呪術の道具や人の災いを身代わりになってくれるものであったり、古墳の副葬品として一緒に葬ったりしてきたという。
魅了されるドールからは、現世のものとは思えない世界観とその純粋さゆえの美しさに“人間以上”と感じてしまうのかもしれません。



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