僕はびわ湖のカイツブリ

滋賀県の風景・野鳥・蝶・花などの自然をメインに何でもありです。
“男のためのガーデニング”改め

芥川賞受賞作『バリ山行』松永K三蔵を読む

2024-09-01 18:16:31 | アート・ライブ・読書
 山登りをされるほとんどの方は、その山の登山ルートから自分が登る(登りたい)登山道を選んで登るのが一般的な山行かと思います。
しかし、中にはバリエーション・ルートという地図に載ってもなく、登山道でもない道を登るスタイルを好まれる方がいるそうです。

小説の中心人物の波多は、前の会社で業務外の面倒な社内のお付き合いを断っていた結果、「総合判断」でリストラされた経験がトラウマとなっている。
波多には共働きの妻と幼い子供がいることから、会社の人とうまくやって会社員を続けて家計を守ることを気にしている。

もう一人の主要人物の妻鹿は、誰かと徒党を組むこともなく、自分の仕事をやるだけと周囲からは孤立している。
しかし、それは苦にもならず、儲けにならないような仕事まで引き受け、週末は毎週のようにバリ・ルートで山行している。



山行では整備された登山道を行くのが正しいコース、街(会社・家庭など)では人とうまくやってお付き合いしていくのが社会人としての正しい生き方とされる。
正しそうなルートから外れることの不安は誰もが感じているが、反面外れていないと思いつつも不安を感じているのが現代人ではないでしょうか?

多数の人が感じている不安感は、バリ山行によって緩衝されるのか?一時的な現実逃避なのか?
山の中で一人ぼっちになることは、時に怖いこともありますが、そこにはとても満たされる何かがあると素人低山トレッカーの当方も感じることがあります。

この小説には文章のあちこちに山好きのアイテムが折り込まれ、登山初心者が廉価品の服でスタートして、海外ブランドの服にアップグレードしていく描写には苦笑い。
登山アプリのハンドルネームがハタゴニアだったりタモンベルだったりするのもあるよなぁ~と和ませる。
また、会社の同僚の女性に谷口さんがいたり、明るい性格の後輩の栗城くんや服部課長や植村部長、妻鹿の同僚の花谷さんなどオヤ?と思わせる名前が出てきます。
花谷さんは、2013年に第21回ピオレドール賞を受賞された花谷泰広さんを連想させます。

日本人のピオドール賞では、これまで3度受賞された平出和也さん(2008年は谷口けいさんと受賞)と平出さんと一緒に2度受賞された中島健郎さんがおられます。
K2西壁を登攀中の滑落事故はとてもショッキングな事故で、危機にも冷静に判断される二人に起こった事故は大変残念なことでした。

最後に、芥川賞のような純文学小説の世界に登山小説はアリか?
その回答はこの小説が語ってくれます。


コメント
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