超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

人生やり直しの旅で得たもの

2014-01-25 18:33:08 | 書籍
このサイトの読者はそうは多くないから、読んだことのある人はいないかもしれない。親しい知人から紹介されてとある著書を読んだ。「一番の趣味は何ですか?」と尋ねられたら、一秒で「読書です」と答える私だが(ホントです!)、その読書欲はほとんどが他人からレコメンドされることで発動する。こういう読み方をしていたらいつの間にかジャンルは問わなくなった。個人の好みでは歴史物に偏っていたのだが、青春物も恋愛物もノンフィクションや感動物、家族愛や動物、ファンタジーに息子の好むライトノベルなど多岐にわたる。ひとつ傾向があるとすれば、同じジャンルを続けては読まないようにしていることか・・・
さて今回は読書が好きという知人から「読んだ本」というのをいくつか聞いて手当たり次第に図書館で蔵書検索し、あったものを全部借りてきたうちの一冊だ。(読んだ人の知性が信頼できる時はこんな無茶な選び方もできるのである)

著者は直木賞作家で父子や家庭、いじめなど社会問題を扱う作品で注目を浴びたようだ。この本は一種ファンタジックな面も強く、不思議なワールドを展開している。全体としてちょっと重暗くやり切れない場面が多いが、「たぶん救われないだろうな」と見通せても、何とか少しでもハッピーな方向にいかないものかと、先を急いで読み進めてしまうような物語だった。ネタバレするのはいけないし、読書感想文でもないが大体のあらすじはこんな感じだ。

主人公は38歳の「N」、この物語には3組の父子が登場する。Nとその息子「ヒロ」、Nとその父「チュウさん」、そして5年前に交通事故で死んだ幽霊父子の「H」と「健太」である。
Nは子供の頃から傲慢で田舎のハードガイだった父が嫌い。またそのチュウさんは自分の稼業を継がなかったNに不満と嘲りをもっている。ヒロは中学受験に挑戦したが失敗、これがきっかけで不登校となり家庭内で暴力を振るうようになる。ちなみにHは苦労して自動車免許を取得し、初めての家族ドライブで事故を起こし自分と8歳の健太は即死。のっけからハードな設定である。

Nは東京で勤めていた会社をリストラされ、妻は夜な夜な浮気に走り息子は荒れ放題で絵に描いたような家庭崩壊状態だ。病状が悪化して死期が近づく父の見舞いも、「御車代」として渡される小遣いが目当てなほど再就職がうまくいっておらず、全てが壊れてバラバラになるのは時間の問題だった。人生に疲れ果てNは、「死んじゃってもいいかなあ・・・」と頭の中でつぶやき自宅の最寄り駅のロータリーに座り込むとどこから現れたかワゴンから降りた男の子に「早く乗ってよ」と声をかけられる。

車を運転する父親はH、後部座席に乗る子供は健太だった。この二人は5年前に交通事故で亡くなった親子のことを、新聞記事の片隅に見つけた記憶がNにはあった。彼らはNの彼の人生の分かれ目となった「あの日、あの時、あの場所」へと車を走らせて行く。最初は妻が見知らぬ男と歩いているのを見掛けるところ。そこで気のせいだと自分に言い聞かせて通り過ぎようとすると、不思議にも自分と同じ年の父親(チュウさん)に会う。その次は息子のヒロが中学受験を控えて模試を受けたが成績が思わしくなく落ち込み気味のところを無理やり励ますところ。次は勤務先の業績が傾きリストラされる数か月前にその引き金となった親会社の会長が葬式からの帰り道、さらに塾の始まる前に公園で誰にも気付かれずに内緒で購入したパチンコで気に入らない者の名を書き込んだペットボトルを打ち抜いていた息子ヒロの姿。。。

近い未来の悲惨な結果を知っているNは「大事な分岐点」で何とか関わり何とか結果を変えようとするがどうすることもできない。ところどころで同じ年の父「チュウさん」が現れ、何かとちょっかいを出して話しを複雑にしていく。それは「過去」へ行くのではなく、「夢の中」へ行くようなもので、自分は第三者のように外から眺めている時もあれば当時者として生々しい経験もするが、ある瞬間に別の「夢」にドライブし、自分と「チュウさん」以外は何一つ覚えていない。実に陰鬱な話しの展開だが、幽霊親子の切なくも明るい掛け合いに結構救われる。ネタばれさせずに見出し的に紹介するには複雑なストーリーだが、クライマックスは何となく期待した予想通りでしかもほわーっと泣ける。非情のような展開も最後に著者の優しさがどわーっと出る感じだ。

この物語の大きなポイントは言うまでもなく「父と息子」であろうが、もう一つ「あえて過去に関わって結果を受け容れる」というところだと思われる。最初のテーマについて、私は息子であり父でもあるし、家族構成はNと同じ3人家族、しかも息子は若干年齢が違えどちょっと前は受験生ということもあり、やはり重ねて考えることになる。
私の父は他界してしまったが、ごくごく普通のサラリーマンで、この物語の「チュウさん」との関係に比べると、近いような遠いような淡々としたものだったように思う。怖いところも面白いところもあり、思春期特有の反発はあるにはあったが大衝突があったわけでもなく、かといって気に入らない時は離れていたから身近ということもなかった。

高校の合格発表の日、生徒は自宅待機で担任らが手分けして確認に行く(そういうデリケートなところもあった)ことになっていたが、父は待ち切れずに会社を抜け出して見に行っていた。私は苦笑していたが「縁起よし」と考えて大学の合格発表も見に行ってもらった。(単に受験からひとまず開放されて悪友と遊びに行くためだったが)
祖父母の50周忌法事の席で普段会わない目上の親族から卒業後の私はどうするのか?と尋ねられ「更に進学することになった」と答えたときの彼は少し誇らしげだったような気がする。バブルだったから就職は楽だったが、決まったと伝えた時は何となく嬉しそうだったし、結婚して孫は生まれた時も嬉しそうだった。家を建築することになって模型を見せた時は入院していて、ついにこの家を訪れることがなかったのが残念なところだが、大きな山も谷もない、「淡きこと水の如き」関係だったように思いだす。

私と息子甘辛はそれに比べると、今のところかつての我々よりはかなり近しいであろう。中高生やそのちょい先くらいまでは一番親に反発し離れるものだと思うが、彼はど真ん中の年齢にいても何かぼーっとしている感じがする。何にでも手を出す回遊魚系の父親に比べ、ほぼサッカー一筋でゲームにアニメ、一部のライトノベルくらいにしか興味がない。高一ともなれば部活のオフの時は友達と遊びたいらしく、家族で出掛けることはめっきり少なくなった。しかし私とは「ウルトラ」という強力な共通項があり、要所要所では行動を共にするし、本やアニメの話もマニアックに語ることは多い。母親に言わせると女子の好みも似ていて「AKB48で一番かわいいのは『ぱるる』である」ということで意見は一致している。
父と子の深~い軋轢や決別、邂逅などと言った物語はこれからかもしれないが、今のところ付かず離れず手頃な距離にいるように思う。

読書感想文を書くならここだ、思うのは二つ目のポイント「過去に関わって結果を受け容れる」ほうだ。私の読書は歴史(物語)にものすごく偏っていた。本来は「歴史学」という自分では踏み込めていない分野だと思うが、「歴史」に「たら・ればはない」とよく言われる。「もしその時・・・だったら」というのは何となくタブーである。具体的証拠から史実(ホントは確認しようはないが)を組み立て、そこからある「法則」を導き出す学問のようだからだ。しかし後から考えればいかにも「あれが分かれ目だったよね」という点において、いくつもあったはずのオプションのうち何故これを選んだのか?他にどんな選択肢があったのか?何故他のあれは選ばなかったのか?別の選択肢をとったら何がどう変わったのか?と考えるのは結構重要なことだ。

この物語の主人公Nは幽霊の健太君が言うところの「サイテーでサイアク」の結果を回避すべく、幽霊父子が連れていく夢又は過去の別世界の大事な分岐点で様々な別オプションに選択して軌道修正しようとする。もちろんただの1コも結果を変えることはできないが、Nは様々なことを経験する。自分がその分岐点では知りえなかった、知ろうとしなかった人の思いや裏事情を知ることにもなる。これは「知らない方が良かった」と思うことも多く、時に彼は「残酷だ」と言い、さらに絶望を深めてしまう。「やっぱり死んでもいいかな」と考えると幽霊の健太君に「ゼータク」と言われてしまう。。。ところどころで陰鬱な気分に落ち込もうとするのを彼が飄々と救う。この物語の最重要人物は健太君だと思う。

さて、私はこれまで親と決定的に断絶したことはないし、我が家は幸い構成員が正常に動いている。かなりの運を使い果たし「結果オーライ」を得ているとも感じるが、今のところ「ここに戻ってやり直し」という点はない。今までの選択は全て正解だったなどとは思っていないが、他のオプションを選んでも所詮似たような結果に落ち着くと思われるし、自分の昔のどの時点でもそこそこいいが、今より決定的によい時だったかというとそれほどでもないのだ。回遊魚は泳いできた道のり(海道?)はあまり見ないものだ。

一つ言えるのはこの本を読んで「重要な分岐点がある」ということが頭にインプットされたことだ。これから注意深く周囲を眺め「もしかしてここ重要な別れ道じゃね?」と気を引き締めることが多くなるだろう。どうでもいい時の杞憂もあろうが「実はかなりやばい状態」の時に気が付けることもあろう。この本で得た一番の収穫は「この先、分岐点アンテナを高感度にすることによって危機的な状況を回避できる蓋然性がアップしたこと」だと思う。ようするに「足元に気をつける」ということか。

★この本、最後は素晴らしくいいです。泣けます。紹介してくれた人に感謝です。タイトル分かるかな~。。。


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4 コメント

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Unknown (KICKPOP)
2014-01-31 03:02:40
師匠、読んでみたくなりましたーーー!タイトル・・・教えて下さい♪Amzon Japanで購入してみます。

私も海道は振り返るどころか、何でも「そうあるべきだったんだよね~♪」なんて都合よく考えようとする(というか思い込ませる)タチなので(慎重なハニーにいつも呆れられてます)、分岐点アンテナを高感度にしておくこと、これからのためにしっかり覚えておこうと思います!

良い本を紹介していただき、ありがとうございました♪
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Unknown (磯辺太郎)
2014-01-31 21:21:34
KICKPOP様

ホントですか~?読んでみてもらえるなら、嬉しいです。
「流星ワゴン」(重松清)という本です。結構重くて、やりきれないところもありますが、色々と考えさせれ最後は泣けます。
私はKICKPOP師匠がご感想をもった本もすごく興味を覚え結構読ませてもらってます。新しい本友になってください。
私もどちらかというと「人生結果オーライ」を地で行っているようなものです。
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Unknown (KICKPOP)
2014-02-01 02:15:55
師匠、ありがとうございます♪
早速オーダーしてみます♪
読み終わったら読書感想文書かせていただきます♪
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Unknown (磯辺太郎)
2014-02-01 05:30:49
KICKPOP様

海を渡った本のつながり、楽しみです。
実は以前、師匠が取り上げた「本を編む」を読ませてもらって、何人もの知人に紹介したんですよ。
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