超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

カケン発表会

2015-10-05 08:15:08 | 出来事
息子甘辛の通う学校は最上級生になると「課題研究」なる単位となり、グループでそれぞれの分野別にテーマを決めて取り組む。理系大学生でいうところの「卒業研究」の予行練習みたいなものだ。彼らは「カケン、カケン」と呼んでいる。2年生の年末くらいにはそのテーマを決め、約半年かけて取り組んだ成果を「発表会」で披露し、続く文化祭に展示する。発表会は指導教員や生徒だけでなく、保護者なども聴講できるのが大学の「研究発表会」と異なるところだ。息子達が人前で発表するのを聞く機会などもうないかもしれないし、この手の催しが好きな私は休暇をとって妻とともに発表会に足を運んだのである。本校は文科省から科学技術振興のための先進的取組としてSSH(SuperScienceHighschool)と指定されているそうだが、今年度からさらにSGH(SuperGlobalHighschool)にも指定されたそうだ。「科学技術系素養を持つグローバルテクニカルリーダーの育成」というタイトルの指定校としての研究開発構想のようだが、何のことやらさっぱり分からぬ。。。スーパームーンなんてのは可愛いものだが、何でも「Super」をつけりゃいいってもんじゃないと密かに思う。

「課題研究」という科目はSSHとしての教育の一環のようだが、このたび各テーマの一部がSGHとしての課題研究も兼ねるということになり(いかにも後付っぽいが)甘辛達のグループの課題が選ばれたらしい。「そりゃー、すげえじゃんか。グローバルってくらいだから、英語で発表するのか?」「んなわけねえだろ!」息子は苦笑していたが、本発表会が迫るにつれてかなり苦労して準備を進めていた。「エレクトロニクス・エネルギー・通信分野」ということなので、取組課題にはマイコン制御等電気回路を利用したものが多いようだ。甘辛達もPCでプログラムを書いてチップに入れ込んだり、秋葉原で何やらマニアックなパーツを買い込んできた。その日の発表は6チーム、そのうち2チームがSGH課題指定となっており、息子達は光栄にもオオトリを務めるようだった。大学生の論文発表などは同じ研究室、いやごく類似した研究テーマを持つ者(もっと言えば本人と指導教授)以外は誰にも分からないような内容だが、高校生はどれほどのものかと思ったらかなり高度な内容もあり工学部出身の私でも「へーえ」と感心するものが多かった。

応用化学や情報システム分野などはそれこそ専門の人でもないと「何のことやら、さっぱり分からぬ」世界になってしまうが、甘辛達の分野は「目に見えるものづくり」に近いから夏休みの自由工作の高度化版みたいなところもあり、最初のテーマから実に興味深いものがあった。何が素晴らしいと言って、各発表には必ず実演か動画放映のようにそれに近いパートがあり、生徒たちの取組成果が直接目で見えるところである。最初の発表は倉庫などで「物を自動的に運ぶためのルート制御カー」でセンサーで床に描かれたルートを読み取り、分岐点ではプログラムにより軌道を選んで自走する。デモンストレーションではリード線だらけのけったいな箱車が床に貼られたテープに沿って走るだけなんだが、読み取り間隔やセンサーの角度、ルート線の太さなど色々な要素があり、制作の苦労が伺えた。このテーマは1年前の文化祭でも展示されていたような気がしたのだが、別にテーマは全く新しいものである必要はなく、ただの「物真似」でなければ過去のテーマを捻ったものでもよいようだ。

    

甘辛と仲良しのチームメイトが引っ張るグループは「浮上式リニアモーターカー」で、これまた昨年に同じような作品が展示されていた。この課題はSGH課題研究に選定されており、「人口が過密となる発展途上国で省エネ・静穏な交通を実現する」という崇高な目標が掲げられていた。超伝導コイルを使ったリニアモーターカーというと時速500kmの中央リニア線を思い浮かべるが、実は「鉄輪式」と言って通常の車両にもリニアモーターを使う方式がある。浮上しないのであまりピンとこないが、推進力を車体と地上の磁力を使用している。モーターを小さくできるので車両の台車を小型化できたり、駆動力に車輪とレールの摩擦を使わないので、急勾配、急カーブにも対応できるなど様々なメリットがあるようだ。ミニ地下鉄という確か都営地下鉄大江戸線が開通したときにニュースで説明されていた。ただ車両は通常と同じレールの上を鉄輪が奏功するので騒音問題は解消できない。一方浮上式列車は時速140キロを超えないと浮上できないそうで、彼らのテーマは「高速でなくても浮上して騒音被害の少ない交通とする」であるらしい。中々見事な発想ではないか。

会社などでいわゆる業務関連の成果発表会などを行うと、あまり質問やコメントなど積極的な発言がないのが普通で、盛り上げるためにあらかじめ質問をする「サクラ」を決めておいたりするものだが、若干人が偏っているような気もしたが、この場では積極的な質問が飛び交っていた。私は「浮上式リニアモーターカー」編ではふと思いついた素朴な疑問があり「(保護者は手を挙げていいのかな。せっかく何か聞くなら格調高い質問しなきゃなー)」などと言葉を選んでいたら、我々の少し前に座っていた息子甘辛が手を挙げた。「リニアモーターカーにどれくらいのものを乗せられるか、制限などはあるんですか?」私は思わず「ニヤリ」としてしまった。私が思い付いたのとほぼ同じ疑問だったのである。リニアモーターは電動コイルが発する磁力で浮上する。乗り物である以上乗車する人の数は増減するから反発力が同じなら乗る人の数によって浮上高は変わってしまいそうだ。だとすると推進力方向のベクトルはいつも一定ではないことになってしまうから、安定した走行ができないのではないか?ちなみに今回の課題研究では「浮上推進」に絞ったので荷重まで考慮するのは今後の課題としたらしい。

    

またマイクロマウスという自律制御のロボットも面白かった。自身の左手を壁にあてがいながら壁がないと判断した方向に進路を決めていき、行き止まりになったらその経路を記憶してバックするなど走行を繰り返し、「迷路を攻略する」というものである。世には「マイクロマウス競技大会」なる催しがあり、この出場を第一目標としているが、無線で操作したり小型カメラを搭載したりと色々とオプションがあり、災害時に人の入れない場所の状況把握なども想定しているそうだ。原発事故で活躍したリモコンロボットを思い出すが、中々自分で障害物のないところを選んで進めれば真っ暗闇の中でも効果的だろう。これまたナイスな視点だと思った。

  

そしてトリがいよいよ甘辛たちのグループである。SGH課題研究となっているそのタイトルは「ヘルスケアドールの製作」。高齢化社会を迎えて核家族化が進み一人暮らしの高齢者が増えている中で医療福祉の遅れているのに目をつけ、高齢者が自分自身で健康を管理したり、精神的なセラピー効果も狙った「ぬいぐるみ」である。心拍数や体温を測定しその結果を表示したり遠隔地にいる家族などに送信したり、また家族の声を録音再生する機能を持つ、見た目は「ちょっと不気味なミニーちゃん」である。

ぬいぐるみを抱えているだけで心拍数や体温を測定でき、正常であればミニーの目がブルーに光る。私は贔屓目なしにその日見た一番のアイディアだと思った。実演のパートとなり「誰か2年生でやってみたい人いませんか?」と観客にわざとらしく振っていた。まずミニーの手を握ると心拍数の測定ができる。しばらくしてミニーの目が緑色に光った(ちょっと不気味)のが分かる。「心拍数99・・・正常ですが、ちょっと緊張してるのかなー」次の人がもう一方の手を握って体温を測定すると「31℃・・・・」場内にどっと笑い声が広まった。

測定精度やPCを介しての通信方法など、まだまだ課題はあるが何かほっこりする課題研究だったし、質問も他よりもたくさん出た。発表会が終わった後も実際に在宅介護の仕事をしている保護者からぜひ発展させてくれるよう激励されたそうだ。実演パートで家族の声録音機能の披露を忘れていたが、たぶんあの中では一番だったような気がする。妻は発表する甘辛やその友達の姿を写真に撮っていたが、後から保護者たちとその画像を眺めて大笑いになったらしい。普通あういう発表の場ではマイクはたてに持って胸の前に構えるものだが、甘辛はどう見ても真正面に水平に持ちしかも指が微妙にたっている・・・どこから見ても「カラオケの歌い過ぎ」だというのである。

家に帰って「中々面白い発表だったよ。実演で録音機能忘れたのは頂けないけどなー」甘辛は後ろの方で興味深そうに聞いている父親の姿を目にし「あの人、まさか質問の手を挙げたりしないよな・・・」と多少ドキドキしていたらしい。このドールは文化祭にも展示され甘辛たちは分担して説明員をするそうだ。「今度の文化祭、ばーばを連れて行くが、何ともタイムリーなテーマだな」甘辛は苦笑いしていた。私はひそかにもう一つ予備ドールを作ってまさしく高齢者一人暮らしの母親にプレゼントできないか考えたのである。

      

翌々日、学校祭(文化祭)では発表のあった研究成果はすべて展示されており、出門ストレーションを行ったり、見学者に体験させたりしていた。「最後の文化祭だから」と妻や実家の母親と一緒に行ったのだが、甘辛たちの展示ブースは中々の盛況だった。学会・展示会のパネル発表のようにパネルと現物の横で見学者に説明員がレクチャーするのである。私も実物の「ヘルスケアドール」を触るのは初めてだったが、かなりよくできていて、右手を握ると心拍数が測定でき、正常であればミニーの目が緑色に光る。左胸を押し続けると体温測定ができ、それらの測定結果はPCを通じてスマホに送信できるのである。「ちなみに脈拍150以上、50以下だとミニーの目は赤色に転ずる」そうだ。

母親も実際に測定し興味深そうだった。誰がやっても目の色は緑色だから「この4階からダッシュで1階まで降り上りした後に図るれば赤くなるかな」ホントにやってみようと思ったのだが、後ろに見学者の列ができていたので、特殊実験は中止せざるを得なかった。パネラーの息子に「甘辛よ。これ終わったらもらってこれねえか?」と聞いてみると「分からないけど・・・でもこのぬいぐるみ結構中身はグロいんだぜ。センサーや回路入れるためにお腹を掻っ捌いて中身のはらわた全部抜き出してさー・・・」言い方の問題だと思うんだが。。。確かに元々イマイチ不気味なミニーが「フランケン・シュタイン」のように見えてきた。
製作物はかなりデリケートなものが多いらしいが、間近で見ると実に興味深いモノが多く妻と母親がポカンとしている中で色々なことを聞いて回ったのである。写真はその時に撮らせてもらったものだ。


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