超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

2X回目の記念日は割烹で

2017-05-04 05:21:16 | 出来事
「あんたたちはホワイトデーという概念がないの?!」父子二人に妻の雷鳴が轟いた。4月に入ったとある休日だった。確かに毎年2月14日、妻は私と息子甘辛に何かしらプレゼントをくれる。息子はさすがに最近色々と服には気をつけ始めているようだが二人ともファッション性希薄男子なので、お洒落着のようなものが多い。今年は私重ねて着るデザインシャツだったし、息子にはジャケットだった。「(別に頼んでねえんだけどな)」「(バカ、そんなこと言ったら大魔神になるぞ)」私と息子はアイコンタクトで語り合った。しばらくしてから「なあ、甘辛よ、母ちゃんにバレンタインのお返し何かしねえと・・・」「えーっ、もう忘れてんじゃね?」4月は新歓イベントやらお気に入りの○木坂ライブやらでいくらこずかいがあっても足りないらしく、ひたすらアルバイトに精を出している。部活の練習が忙しく、普通の大学生のように1週間の半分はアルバイトなどというわけにはいかないようだ。

イベントの警備員や事務所の引越し作業など単発のバイトから、定収入のあるアルバイトを最初に始めたのが塾講師だった。大学に入学した直後から、どこから情報を仕入れたのか通っていた塾以外からも募集案内がやってきた。(結構恐ろしいことだな)学校の授業や部活のスケジュールなどもあったらしいが、彼が働きだしたのは「自分をクビにした」予備校だった。。。高校3年の夏、部活が忙しくてついつい授業に遅刻しがちだった「入試対策クラス」で「受験生という自覚がないのは、他の生徒に影響が悪いからもう来ないでくれ」と言われたらしいのである。元々多少無理があっても集合クラスでというのが塾側からの提案だったそうなので、妻はかなり抗議したらしいが、終わってみれば本人はどこ吹く風で「ふふーんだ。あの予備校もオレをクビにしなければ合格実績できたのにな」コース主任や学科講師など、かなり気まずそうにしていたらしいが、私と違ってこういうことが大らかにも全然気にならない彼は元気に通っていた。

そしてその次に何故か官庁街の小料理屋でアルバイトを始めた。部活というかクラスメイトというか、先輩と言うか・・・代々息子の学校の学生がアルバイトさせてもらっているらしいのである。「別に、頭脳労働の方が効率いいんじゃないか?」とも思ったが、塾講師は時間の制限が多いらしく、中々思うように授業を入れられないので、まとまった時間仕事をするには飲食店などのほうがいいそうである。ファーストフードやファミレス、居酒屋というものではなく、結構高級な料理屋らしい。店主夫婦が学生に理解がある人たちで、賄い飯も色々と出してくれるそうなのである。一度店でもらってきた「唐揚げ」や「りんご」を食べたことがあるが、びっくりするほど美味しかった。素材や調理が素晴らしくよいことがよく分かる。お任せコース料理が基本で、予算を伝えておくと、その日仕入れた食材をうまく組み合わせて出すらしい。

「一度、食事に行ってみようか?」と話していた。主に厨房の裏方で色々な雑用をこなしているようだが、たまに生ビールを運んでくることもあるという。そしていつの間にか「今年の記念日は甘辛の店で食事でもするか」という話が固まりつつあった。ここ数年は式を挙げたみなとみらいのタワー最上階ラウンジに行くのだが、「息子の働く姿を見ながら結婚記念日を祝うのも面白い」ということになったのである。今年の当日は奇しくも「早く帰ろう運動の日」だったので早めに仕事を切り上げて待ち合わせることができそうだった。何だかんだ言っても、ホワイトデーのことが気になっていて、何か買っておこうと思っていたのだが、実際のところこれと言ったものが思いつかず、ぐずぐずと日にちだけがたっていった。そうしてあと2週間くらいになって、「結局、店はどうしようかね。」と尋ねてみると妻が苦笑しながら答えたのだった。

「うん、甘辛がお店の予約を取ってくれたんだけどね。カウンター席3名なんだよ・・・
「なに3名・・・はぁ?何とアイツも食おうってのか?!」普通、自分のアルバイト先に親が食事に来るなんて絶対嫌がるものだとか、もしかしたら自分のアルバイト料で御馳走してくれるサプライズとか色んなことを想像していたのだが、それら妄想を一気に吹き飛ばす、この私ですら想定もしなかった展開だった。全く予想外の路線を歩くヤツだ。本人に聞いてみると「だっていつも厨房で作ってばかりだから、オレだってたまには食いてえもん」うーむ。。。様子を聞いている限りだと結構高級な部類のお店だから、こういう機会でもないと貧乏学生が食事をすることはないのは分からなくもないが、なんかやられた感満載だな。「オレが大将に記念日だと言っとけば、色々サービスしてくれると思うぜ」「(だーかーらー、そういうのを息子って嫌がったりしないのかい?相変わらずお気楽モードのヤツだな・・・)

当日は2時間ほど退社時間を早めて、みなとみらいへ向かった。記念日にボーナスでもらえ当日をもって期限が切れてしまうというポイントがあるというので、赤白ワインを買い込み、やたら重たくなったバックを背負いながら、「何か買いたいものがあったら見たら」と聞くと「小型の財布が欲しい」という。彼女の買い物を20年以上見てきて、「閃くものがなければ、どう勧めても買わない」手堅さがあったのだが、結構前から必要があったらしく、いくつか店を物色して気に入った品があったようだった。とりあえず満足したようだったので、駅前のアイリッシュパブでビールを飲んで時間をつぶし授業を終えてきた甘辛と待ち合わせてお店に向かったのだった。駅からはものの10分ほどだが、賑やかな繁華街というわけでもなく、硬いオフィス街というわけでもない比較的地味なロケーションのようだ。甘辛はここからオフィスビルからキャバクラまで色んな客に出前に出かけるらしい。

        

店に入ると割りとこじんまりした作りで、L字型のカウンター席に奥は小上がり席になっているようだ。大将も女将さんも気さくで「いつも息子がお世話になっています」と湘南の菓子折りを渡すとやたらに恐縮していた。結構社用で使われそうな雰囲気もあるが、大将は一人でてきぱきと多様なメニューをこしらえていく。今年は中々いいのが出ないという鰹はたまたま茅ヶ崎で上がったのを寝かしたヅケ、そしてがっつりボリュームの握りだった。辛めの日本酒を頼むと「黄水仙」という新潟の荷札酒を出してきてくれた。椀物の次に「ちょっとまだ脂の足りない身が多いから焼き物に」と出てきたのが、小田原で上がった鰤である。付け合せの焼き筍も素朴で香ばしい。3人とも「初めて食べた」という握りは磯の幻魚「イシガキダイ」だそうで、プリプリ感と甘みに驚いた。刺身は天然真鯛に本まぐろ、鰆などを薄い刺身醤油で頬張るが、何とも日本酒に合うメニューである。

            

甘辛は腹が減っていたのか、むろん酒などは飲まずに水だけで、出てくる品々を「うめえ、うめえ」とあっという間に平らげていた。「ちょっとずつやるからもう少し味わって食え」とまるで小学生を諭すような有様だ。しかし「これはさすがに学生は口にしねええわな」と自らの席を予約に入れたのも頷ける。肉料理が出てきたときに女将さんがそーっと甘辛に「ご飯食べたいんじゃない?」と囁き、大ぶりの椀に大盛りにしてくれた。ご飯の進む味だった牛肉は「どんぶりに乗っけて食うんじゃねえぞ」と言いながら妻と半分ずつ分け与えた。次に登場したのは磯わかめの香りと濃厚な甘さがハーモニーとなった、「ばふんうに」はちょっと合わせてあった貝柱が霞んでしまうほど素晴らしい。少しフルーティさを増した日本酒との相性がバッチリだった。厨房の奥には若いアルバイトが忙しそうに働いていたが、甘辛のクラスメイトだという。

    

割烹着に頭巾というまさしく「料理屋の丁稚」のようなスタイルで、「へーえ、甘辛もあういう格好するんだな」「オレ、生ビール注ぐの上手いんだぜ」カウンター越しに真面目そうな大将が頷いた。最後にちょっと長さの不揃いの蕎麦が登場した。「そば粉も中々いいのが見つからなくて自分で選んで打ってるんだけど」何事にも素材に拘る職人気質の人のようだった。「海浜公園の通りに新しくお蕎麦屋できましたよね。入ったことあります?」実はよく行くラーメン屋のはす向かいにできたお店で妻が「気になる」と言っていた蕎麦屋だったのだ。「へえ、お詳しいんですね。あの辺りにいらっしゃることあるんですか?」「実は私サーフィンやるんですよ。いや、やっていたというのが正しいかな」な、なんと!料理一筋○十年に見えた大将が、結構ぶいぶい言わせていたらしいのである。棚の奥から「台東って結構いい波があるんで、マニアには有名なんですよ」上野の方にそんなポイントあるのか?きれいな面で頭ほどある波にカッコよく乗っている彼の写真を見せてもらったが、なんと台湾の東部ということだった。

実は翌日が結婚記念日という店主夫婦だった。「天皇誕生日」のはずが「みどりの日」になっちゃって、今は「昭和の日」ととうことだったので、もうじき30周年というところだろう。後半、話が弾んでしまって肝心の記念写真を撮ってもらうのを忘れてしまった。3名で席の予約を取ったという甘辛に、妻は茅ヶ崎の祖母の分も入れたらと聞いたそうだが、「結婚記念日なので『ばあば』は別」だそうだ。「(だから、キミは別じゃないないのかい?)」とツッコミたくなる。そこで妻とは次こそは茅ヶ崎の老母と3人で甘辛の働きぶりを肴に食事をしようということにしたのである。実は途中でこの記念日に相応しいか微妙な、甘辛が結構重要な相談を持ちかけてきた(婚姻ではない)のだが、それはいずれ改めて書くことにしよう。

  


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2 コメント

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Unknown (小夏)
2017-05-07 22:19:00
何だろう、最後の節は。。。
詮索はイケませんね、ドキドキ待っています^^

ご結婚記念日おめでとうございます
割烹、なんて素敵な響きなんでしょう!
坊ちゃんの粋な計らい、いつもの高層から降りちゃう文句なしのエピソードですねぇ。
甘辛君が飲食のバイトというのも少々驚きましたがいろいろやってみるのもよい経験でしょうね。正直言うとオバちゃんはキャバクラに目がテンになりました。だって見たことないから、アハハ

ステキな日本酒ですねー!
想像だけなんですけども、黄水仙はタンクナンバーまで出ていますものネ。
それに地のお魚、磯の幻魚~本マ、、バフンウニも~
キャーーー、最高だわっ(イシダイかと思ったらイシガキダイですか、あ~ん食べてみたいww)
こりゃ、甘辛君食べたかったに違いありませんね わははは
ビールつぎ上手いのはご両親のおかげかな~
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Unknown (磯辺太郎)
2017-05-08 06:06:42
小夏さま

ははは。大した話でもないんですよ。レポートするほどでもないかな。

お祝いのお言葉、ありがとうございます。師匠とは確かお日にちが近いんでしたよね。あの店構えは一応「割烹」と言ってよいんだと思います。
息子の場合、粋な計らいというより、多分に自分の欲望が入っています。ただ、いつまでもいるわけではないようなので、話のタネにと思いました。
おにぎりが有名でよく近所から出前の注文があるそうです。出前先でおこずかいもらったこともあるそうですよ。

なるほどタンクナンバーというのもあるんですか。何しろキリッと澄んでいて、さらにふんわり甘みのあるお酒でした。
大将は食材にかなりこだわっているようです。基本お任せ料理しかなく、その日の食材によってアレンジされています。
イシガキダイというのはまだら模様なんですよ。すごい食感でしたが、これまたふんわり甘い。。。

そうそう、「これなら甘辛が食べたいというのも分かるわな」と話していました。
ま、記念日としてはよい食事でした。
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