超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

脅威の男女脳論

2016-06-30 22:27:03 | 書籍
前回、○×サス会で本の交換会をするために元同僚、後輩の女性軍と集うたのだが肝心の話題には中々辿り着けず、時間切れとなったのは書いた。久しく近況を語り合うからということももちろんあるが、あういうメンバだと「どうして毎度毎度、どうでもよい話ばかりで本題に入れないんだろう?」と首を傾げているところに驚くべき知見を与える書物に出会った。かの交換会で私が以前に貸してあげた本以外に唯一M女史が持って来てくれたものである。かなりネタバレになってしまうので、興味のある方はいくつかヒントを混ぜておくので著書を探してほしい。まず著者は私よりも5年ほど先輩の女性、国立大学の理学部物理学科を卒業した今でいうバリバリの「リケジョ」である。大手IT企業の研究所でAIの研究開発に従事した後、AI開発の集大成により、感性の分析や脳の性質を研究対象として民間会社を設立している。

本書のカバーにある見出しは「・・・自然を司る神は、人類に必要な感性を真っ二つに分けて、男女それぞれの頭蓋骨に搭載したらしい。・・・」といかにも「理系」の使用しそうな言い回しで始まる。これらを「女性脳」「男性脳」と分類し、それぞれの特徴や性質の違いを科学的根拠を交えて紹介したうえ、両者の「取扱説明書=トリセツ」としてまとめている。ところどころに登場する「実例」は日常の家庭生活だけでなく、仕事や恋愛、旅行やショッピングなどいたるところに「あるある!」と膝を打ちたくなる挿話ばかりで、冒頭書いた「なぜ彼女達とご一緒すると本題に入れぬのか?」を始め、不思議に思っていたことが目の覚めるように鮮やかに解明される(ような気がした)のである。

イントロダクションにおいて、AIによる人とロボットの「対話」をミッションとしていた著者は「女性向けの対話エンジン」と「男性向けのエンジン」は別の設計をしなければならないことに気がつく。(これまた何と理系好みの表現であろうか?)そして男女の脳の違いは色の識別においても異なることがあるというのである。人の目は光の三原色に対応する三種類の色覚細胞を持っていて、RGB(赤、緑、青)の三色の組合せで、すべての色を識別するとされているが、遺伝学上は少なくとも数%、実際は半数くらいの女性が四種類の色覚細胞を持っていると言われているそうだ。三原色の赤の領域に当たる光を2種類に分別し、三原色色覚者には見えない紫色が見えているようなのだ。一言で言うと繊細だということなのだが、物言わぬ赤ん坊の顔色の変化や食べ物の腐り具合、古代から日常の目の前の出来事の仔細を見逃さない本質であるとされる。

実はこの話、私の好きな数少ないドラマ「科捜研の女」シリーズに実際に登場した(第2話「見えすぎた女」)からまったく理解できた。時計メーカーのデザイナーだった女性は男性に全く見えていないカバーガラスの反射防止塗料を見分け、透明にするよう提案したというし、マーケティングのついてはピンクや紫の色については、男性がピンとくる色彩は女性が心地よいと感じるピンク色よりもかなり青みがかかっているそうであり、著者は開発コンサルタントとして、女性市場向けのピンク色の最終ジャッジは女性が行い、男性はやり手の部長でも売れっ子デザイナーであっても女子の意見を傾聴することをアドバイスするそうである。小夏師匠の「西陣織見学記シリーズ」で「作業中の女性が作る色の指示によって同一デザインでもイメージが変わる」という下りがあったが、さすが日本の誇る伝統工芸、古来から色に関する女性の鋭敏さというものを尊重してきたのではないだろうか?

こんなイントロダクションを経て、男女の脳の違いという本題に入る。一言で定性的に言うと、「女性の脳は感度がよく男性の脳はブレない」先の色覚だけでなく、女性脳は音の周波数帯、嗅覚、味覚、皮膚の感触すべてにおいて感度がよい。生殖リスクの高い哺乳類のメスとして育児を抜かりなく行うためと聞けば自然に納得もできる。自ら生み出すものの行く末の「ありとあらゆるもの」に気が向き、「自分や自分の大切なひとの今の気分が何にも勝る」感性が標準装備という。一方で物事を標準化、高速化して無駄を省いて合理的にふるまうのが男性脳で感性にムラがない。というと今の企業社会は全般的には男性脳向け社会と言わざるを得ないんだろう。女性の社会活躍が叫ばれて久しいが、男女脳の差異をテーマとした場合、当面今の企業社会が持続するとすれば躍進する企業というのは男性脳に一定数以上の女性脳が要所に存在する形態だそうだ。私なりに解釈すると昔は男性脳だけで割と事足りたが、変化が激しい現在、感度の高い脳がポイントをおさえないと生き残れないということかもしれない。

次に男女の脳の構造的な違いを言及される。よく言われるが、言語や演算処理など論理的空間を司るのが左脳で直感や潜在意識を司るのが右脳である。女性脳の最大の特徴は左脳と右脳の連携がよいということだそうだ。具体的には左脳と右脳を連携させる神経線維(ニューロン)の束である脳梁という器官が男性脳よりもはるかに発達している。この脳は簡単に言うと鋭い観察力をもって「感じたことが即ことばになる」「とりとめもない情報をいつでも引き出せ」「察しがよい」という特徴をもつ。一方、左右の脳の連携の悪い男性脳はそれぞれの特徴を個別に飛躍させ、物事の全体的な把握能力が高く目の前の出来事には疎くてもマニアックな機能を発揮しやすい。読み進めて行くと女性脳対男性脳の差は臨機応変力と空間認識力というような感じである。動物的には「赤ちゃんの変化を見逃さず安全に育てる」能力と「獲物や敵の存在を広範囲で察知する」能力と言われて私には分かりやすかった。

似たような実例があげられていたが、かつての職場に置き換えると驚くほどジャストミートである。新入社員に色々なイベントを経験してもらおうとお手伝いに狩り出すと、経験的には圧倒的に女性の方が「使える」。。。「察しがよい」からである。むろん全部ではないが、飲み込みもつかみもいいように見える。何も言わなくても周囲の「空気を読み」あれこれお手伝いに立ち回る。男性社員はあれこれ指示しないと、どうしてよいか分からずうろうろしていて、「そこの大きいの!ちょっとこれあっちへ運んで」と言われて初めていそいそと動き出す。(あった、あった!)しかし時がたち、自身の役割やミッションがはっきりしてくると男性社員も負けずに立ち上がってくるのである。人のことばかりでは公平でないので、自分の経験(恥ずかしいが)を少し紹介する。妻に連れられて某ガス会社の「お料理教室」に参加した時である。煮物、蒸し物、揚げ物、サラダなど4品くらい、下ごしらえも含んで時間内に結構手の込んだメニューを一つのテーブルで6人くらい(むろん初対面)のグループで製作するのだが信じられない光景を見た。誰も仕切っているわけではないのに、瞬間的に役割分担が決定しほとんど言葉も交わさずに材料を加工しだしたのである。「あのーぅ、オレ何やったらいいんかな・・・・」面倒くさそうに指差した妻の指示は「カブを洗う」作業だった。(相手は言わばプロだが、何となさけないことだ)

この本によると我々男性軍は「家事を手伝う」にあたり「言ってくれればやる」というのは全然ダメだそうだ。「察し」を要求されるからである。また買い物に出張ってもメモ通りしか買ってこれないし、目当ての品が足りないだけで破綻するし、代替品に目が届かない。台所にたてば多くの主婦が「動線の邪魔」と感じているらしい。冷蔵庫を開けようとすると冷蔵庫の前にいるし、茹でたほうれんそうを水に浸けようとすると流しの前にいるとされる。我が家では以前からこの現象を妻が察知したのか(狭いこともあるが)私が台所で何かしようとすると同時に立つことはなく、リビングで知らん顔している。さらに本を読み進めると女性の買い物は感性を総動員して直感的に答えを引き出すので「これしかない一押しが降りてくる」らしい。私は妻がウィンドウショッピングばかりして「何も買わない」と時間を浪費したと怒っていたのだが、どうもその情報インプットが別の機会に「これしかない一押し」を降臨させるらしい。結論のよく分からない、とりとめのない話を延々と続けても整然とDBにインプットされ、いつか鮮明に蘇るそうだし、一直線にシャンプーを買いに行けばいいのに、どうでもよいようなスリッパとかを眺めているのも意味があるというのだ。

本の言葉を借りると片方は高い空間能力を有し、獲物までの距離を正確に測って狩りをし、複雑な図面を読むし、ビルも建てるし飛行機も飛ばす。目の前のことに気付かず、大切なひとの機微にとんと疎いが究極の事態に強く、死ぬまで頑張れる脳。もう片方は目の前をなめるように見て、他社の体調の変化や食べ物の腐り具合を見逃さず、おしゃべりによって潜在情報を収集し、それを何十年たってもとっさに使える臨機応変脳。つまり見出しにある「人類に必要な感性を真っ二つに分けて搭載・・・」に行きつくわけである。

ここまでだと単なる本書の紹介・感想に過ぎないがここからは本に書いていない私なりの考察である。自分の経験からすると「男性脳は一定の年齢を過ぎると女性脳に接近する」入社したて、結婚したて、子供生まれたての時を思い返すと間違いなくバリバリの男性脳だった。経験値を上げるということかもしれないが、少なくとも「察する能力」は確実に上昇する(挙動に反映するとは限らないのがミソ)。今更合コンというわけでもないが、何となく男女が一定数いなくては落ち着かなかったのが、例え私一人で女性に囲まれておしゃべりの洪水にいても別に苦ではなくなったのは前回の図書交換会が示している。ショッピングも今までは一直線だったが、最近はぐずぐずと思い留まることが増えてきた。しかも全然その気がなかったのに突然閃いて「服を買う」なんてことも発生する。

私は人間の挙動や性質などの本質を「生物である由縁」として説明することにすごく共感する。男女脳の差異の話も人類の生存上最も効率のよい多様化と言われると疑う余地を見出さない。種の保存という観点からは「真っ二つに割ってそれぞれ・・・・」というのは分かるが、この理路を進めて行くと「似たもの夫婦」というのはほぼ存在しないか、しても長く続かないという恐ろしい結論になってしまう。若い(つまり子育て期間くらい)は確かにそのようだが、実は多様性が生存上重要な期間を過ぎてからの時間の方が圧倒的に長い。「異性を意識して」なんてギラギラした感性もなくはないが、「まあまあ、それはそれとして趣味の話でもしますか」という「茶飲み友達化」も悪くはないような気がする。男女脳とも連想記憶力という知性にあたる力がピークに達するのが50代半ばだそうだ。入力よりも出力という意味で「人生で最も頭がいい」時期と著者はいう。普通に言えば仕事に活かせばいいのに、どうもそんな時に差し掛かった時に限って「とりとめもない茶飲み話」を延々としてしまうのが人生、「また楽しからずや」なのであろう。


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6 コメント

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Unknown (月美)
2016-07-01 08:10:07
太郎さんの考察…「男性脳は一定の年齢を過ぎると女性脳に接近する」…なるほど。ダンナを見ていると この考察 うんうん!と頷けます〜。
まず早速 本のタイトル調べてみたのですが、、あー!この本、書店で見かけていたけど、手に取ってはみなかった本だ!とわかりました。◯◯る女 というのを別の意味に瞬間的に受け取ってしまい 少し嫌悪感があったのかなと今は思いますが(笑)だけど なーんだ、そっちね!とわかり、読んでみたくなりました。今 読んでいる本が読み終わったら 書店で手をのばしてみまーす。今は高校時代の男子先輩に読んでみる?と渡された「とにかく妻を社長にしなさい」という 私からはなかなか縁遠い種類の本を 両腕を伸ばしきったところまで 目から離して読んでいます(笑)初メガネ、買おうかな…(涙)
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Unknown (磯辺太郎)
2016-07-01 23:44:29
月美さま

うーーん、月美さんのコメントはツボにぶち込んでくれます。パートナー様にうなづけるところがありますか?!この話題、直接できたら尽きないでしょうね。
なになに、この本お手に取ったことがある?確かにタイトルとはちょっと違いますね。(特に女性側)
高校時代の男子先輩・・・中々ドキドキしますねー。どういう著書なんでしょうか?よかったら我らが「本の会」のWeb会員になりませんか?(この場が会場ですけど)
両手を伸ばして眼を放し・・・ぎゃーっはっは!同じような世代で親近感倍増です。
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Unknown (月美)
2016-07-02 06:41:22
「とにかく妻を…」という本は 銀行マンの著者が妻を社長にしてプライベートカンパニーを展開していくことの良さを 実際の経験を元に書かれた本です。サラリーマンの先輩はプチ起業を考えているらしく 特に私にはそんな気はないのですが この本を貸してくれました。でも目から鱗の内容もあり 我が家の大蔵省の私としては とても勉強になりました。なにしろ 腕を伸ばして読む距離が長くなっていくのと共に 読書が苦痛になってきているのが本当に悲しい現実です(涙)6年前までは 絵本や児童書に携わる仕事だったので 毎日沢山の本に触れ 書店や図書館には入り浸っていた生活が今では嘘のように遠のいてしまっていました。ここまで来ると 勇気を出してメガネ屋さんに行ってみるしかないですね(笑)なので専門は絵本や児童書と かなり偏っていますが それでも本の会に入会できるのであれば お手柔らかに ヨロシクお願いします。(絵本でも感動するものや 児童書でも泣けるものが沢山あるんですよ)
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Unknown (磯辺太郎)
2016-07-02 20:07:48
月美さま

よーし、今度「とにかく妻を・・・」読んでみます。会社員ライフがもう残りわずかなので、起業にも興味はあるので・・・
なるほど、大蔵省(今は財務省)ね、なかなか面白そうですね。この場で感想文書きますよ(たぶん理系風の書きぶりになりますが・・・)
もう月美さんも立派な会員です。(この場ではKICK師匠と小夏師匠のお二人だけですが)男女脳論の著書、ぜひお読みになってみてください。嘘のように視界が開けますよ。
実は、絵本の世界もすごい興味があるんです。深いですよねえ。今ちょっと棚を探したら「クイールはもうどうけんになった」「ゆきだるま」「百万回生きたねこ」なーんてのが出てきて思わず読み込んじゃいました。
感動もの、泣けるもの教えてください。
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Unknown (月美)
2016-07-03 21:58:18
ゆきだるま、 百万回生きた猫、もちろん読みました〜!私の読んだクイールは「盲導犬クイールの一生」の方です。
泣けるものも好きですが 結構 絵本はクスッと笑えるものも好きです。これも これもと紹介したいですが 絵本って結構お高いし 大きくてかさばるし買うのもちょっと…という感じですので、書店で立ち読みという感じかなー。すぐ思いつくのは五味太郎の「わにさんどきっ はいしゃさんどきっ」が好きです。書店で見かけたら ちょっと読んでみて下さい。
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Unknown (磯辺太郎)
2016-07-04 22:36:36
月美さま

やはり「百万回・・・」は名作ですねえ。我が家にも「盲導犬クイールの一生」ありますよ。子供向けの絵本ではないですね。(でも泣けます・・・)
なるほど、ちょいと笑えるのも多いんですね。今度、図書館で物色してみます。読むのに時間がかかりませんから、語るには肩の力が入らないですねー。「わにさん・・・」を皮切りにしてみよう。
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