超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

三惑星の宴

2016-06-04 07:04:25 | ホビー
「ヤマトが月から火星へワープしただと?何かの間違いだろう」イスカンダルに向けて地球を出発した宇宙戦艦ヤマトに関する報告を受けてガミラスのデスラー総統が示した反応である。ここ数回の記事で書いているが、5/31(火)は2年2ヶ月ぶりにお隣の惑星火星が最接近する日だ。太陽系で地球のすぐ外側を回る火星は軌道が楕円なために地球との接近のしかたにも変化がある。今回の接近はいわば中接近で15年に1回の割合でやってくる大接近は前回が2003年、次は2018年だそうだ。今年の最接近時の距離は約7500万km、月までの距離(38万km)の約200倍、光の速度でも約25秒かかる。一瞬にしてワープしたと聞いてデスラー総統が驚くのも無理はない距離である。最近、火星までの有人探査がニュースとなり、数か月前妻と「火星に置き去りにされた宇宙飛行士が生き延びる」近未来の映画を見た。波動エンジンとはいかなくても、現在のロケットが出せる最高速度をもってしても感覚的には最短で到着までに数百日規模がかかる旅程となる。

映画のネタバレはできないが、地球から火星への旅行を考えると、軌道上の相対距離や燃料効率の関係で約2年2か月ごとに打上げチャンスがやってくる。そこから数百日かけて火星に到達するのだが、帰還のための打ち上げチャンスもやはり2年2か月ごとにやってくるので結局火星にも数百日単位で滞在しなければならず、総工程は数年レベルになる。物語中は置き去りにされた飛行士は自力で地球に帰還する術を持たないので、地球からの救助をひたすら待ち続けることになった。大気も地殻変動もない「無」の世界である月と異なり、火星の地表には大砂嵐や雷などもあるようなので、何年も前に火星を探索した「マーズパスファインダー」を掘り返して再稼働させたり、砂嵐の中に長い間置きっぱなしになっていた火星上昇機を再利用したり、そもそも地球の100分の1しか大気がないのにあんなすごい砂嵐があるのか?!など多少ストーリーに無理も見られるが、最先端の科学的根拠もふんだんに盛り込まれ、単なるSFではない現実感溢れる映画だった。「火星に生物は存在したか?」という論議も盛んだが、数億年という単位で見れば火星に地球と似たような環境もあったはずだと思うしその時は有名な「タコの八ちゃん」みたいな火星人もいたと信じているとともに、いつの日か人類が火星に居住を始める時がくるだろうと思っている。

さて、そんなロマンあふれる話とはあまり縁のない私はさしあたって前回惑星観察会をポシャってしまってから、虎視眈々と超兵器M20号を空に向けるチャンスを狙っていたが、早々にその夜はやってきた。残念ながら北側の空は雲に覆われ、北極星が見えないので、厳密に合わせることはできなかったが、三脚を置くマークにより大よそ赤道儀の極軸を合わせた。この極軸を中心に地球の自転に合わせて鏡筒と平行な支柱を回転させれば視野に入れた天体を自動追尾することができる。また本体コントローラには星空の位置を表す地図が内蔵されており、アラインメントと言って実際に望遠鏡の視野に天体を導入し内蔵地図とマッピングして合わせることにより、数万種類の天体を自動的に視野に導入することができるのである。我が家周辺のように夜空の明るい場所では星雲、彗星のように淡い天体は導入しても視野内でほとんど見ることができないが、惑星は明るいので月明かりがあってもすぐにその美しい姿を目にすることができる。まずは最も明るい木星を自動導入していきなり最高倍率にしてみたら、いつもの迫力ある太陽系最大の惑星とそれが従えるガリレオ衛星が眺められた。

冬のようにスカッと晴れてはいないから、淡い天体の観測には向いていないが、気流が比較的安定しているので視野に結ばれた像は綺麗だ。北極星に正しく軸合わせできなかったのと、装置の精度がイマイチなこともあり多少画像が流れるのが気になる。「まあ、これくらいなら撮影できるかな」私は超兵器整備計画で入手したCMOSイメージャーを装着しPC上で画面調整を始めた。風もなく画像も安定しているが、高倍率なので少し流れてしまうのと、台となっているウッドデッキが老朽化のため少し動いただけで画像がゆらゆらブレてしまいかなりの苦戦を強いられた。マウスを動かすだけで大袈裟にすると画像がブレてしまうので、キャプチャー時間中じーっとしていなければならず、かなり肩が凝った。いつもながら後から思うのだが、ソフトウェアの説明書を読まずにフィーリングのみで操作しているので、他にもっと効果的なやり方があるのかもしれない。

次に主砲塔を向けたのが接近中の火星だ。ネットで色々調べたがお隣さんということもあるのか、距離の違いが視直径の違いに大きく現れているのが分かった。また現時点では木星よりも明るく見えるかもしれない。最初に天体の撮影をした数十年前から「惑星の撮影」というのはかなり高難度な部類に入るものだった。我が家にある新しい(初中級程度の)天体望遠鏡で星を見ると言ってもちゃんと「面積を持って」見えるのは金星の満ち欠けと火星、木星、土星くらいしかない。3惑星揃い踏みというのはかなり観察の好機ということである。実際には星の弱い光を集める能力はレンズや鏡の口径にほぼ依存し倍率を高くすればよいというわけでもないから、書物やネットに投稿されている美しい画像に比べると「小さくショボイ」のだが、太陽系の惑星の生の姿を肉眼で見るいうのはそれなりに素晴らしいものだ。火星はいつも小さく赤黒あまり景気のよくない像に見えるのだが、さすがに接近中ということもあり明るく大きく見えた。

最後に観察しようとした土星の導入は意外にも困難を極めた。自動導入装置ではCMOSイメージャーの狭い視野の中までは入れてくれないので、鏡筒コントローラで手探りで微調整するしかないのである。時々さーっと像が横切るのだが、すぐに見失ってしまう。ようやく捉まえてもちょっと足を置く位置を変えただけでぐらぐらーっと動き視界から消えてしまう。散々動かした末にようやく視野の真ん中に導入し、ほとんど息もしない状態でキャプチャーボタンを押し続けた。観察開始してから約1時間、西の空の木星は雲に覆われ、それが広がって赤く明るい火星や土星までも飲み込んで行った。昼間は真夏のように気温が上がり紫外線も強く降り注ぐのだが、どうも夜になると雲が広がる天気模様のようだ。老朽化したウッドデッキを踏み抜かないように注意しながらM20号を撤収した。

さて星野や星雲などの写真は撮ってしまったらそれで終わりにする(本格的には色々と処理があるようなのだが)のだが、画像は動画キャプチャーされているから、専用のソフトウェアを使って、何百枚の画像の「いいところ」だけを取って「薄く重ね合せる」ことができる。コンポジット法と言って昔は露出時間の短い淡い像を何枚かとって、ホントにネガを重ね合せた。今は「どういう位置をポイントに重ね合せるか」「どんな画像を採用しどんな画像はボツにするのか」「それぞれの画像をどのような透明度で重ね合せるか」パラメータを決めると自動計算して静止画像を生成してくれる。学生時代に「X線回折による分析」で行ったのだが、たくさんの画像を重ね合せると、一枚一枚にある「ノイズ」という余計なトゲトゲ信号がなだらかにされ、代わりに共通する特徴が浮かび上がってくるのだ。



大元の仕入れ画像がショボイのか、パラメータが複雑で最適にしにくいのか、そもそも無料ソフトウェアのバグなのか作業はこれまた困難なものとなった。動画ファイルはあるので何回でも施行錯誤できるのだが、中々うまい具合にはいかないものだ。ネット上にある「パラメータ設定例」などをいくつか試したが、一番ましに撮れていると思っていた木星像ですら「子供の落書き」のような画像にしかならず、何度もPCがフリーズしてしまった。やっとの思いで一つそれらしいのが生成できると形に特徴がある土星にチャレンジしてみた。こちらの方が暗く難しいかと思ったが、リングがある分だけ位置合わせがしやすかったようで、そこそこの映像は半分くらいの時間で生成できたのだ。ちょうど1年くらい前「超兵器整備計画」編で掲載した二つの惑星に比べてあまり進歩していないようだなー。当時に比べて土星のリングは開き方が大きく見えておりこちらについても観測の好機ということだった。



最後は最接近した火星である。火星は距離が近いとは言え直径は半分くらいしかないので、普段は望遠鏡で見ても小さく赤くしか見えず、表面の模様も中々画像でとらえるのは難しく、「観察者泣かせ」の天体だったが、さすがに接近中で明るく大きく見える。しかしたまたま撮影した時の条件が良かったのか、そう苦戦せずにそこそこ模様の見られる画像を生成することができた。拡大倍率が同じだから夜空に並ぶ3つの惑星を並べてみたのと同じ具合の視直径になる。これらの画像は何となくそれらしくは見えるが、言わばたくさんの画像を合成したCGであり生写真ではない。画像処理技術のない私が行うと特に色合いについてショボイ姿になってしまうが、やはり生で見ると全然美しさが違う。我が家のおもちゃのような望遠鏡でもそこそこ素晴らしく見えるから、機会があったら天体観測所などの公開観察教室などで見ることをお勧めする。



自分が生きている間には惑星へ旅行することはおろか、宇宙に行くこともないだろう。しかしそれこそ波動エンジンでも手にいれない限りはすぐお隣の恒星に行くことはさらに絶望的である。一番近い恒星は有名なケンタウルス座α星、約4.3光年(1光年は9兆5000億km)だから、接近中の火星まで200日で到達する速度では約30万年くらいかかってしまうからである。どんなに大きくな望遠鏡を使っても恒星って点にしか見えないわけだ。それに比べておもちゃ望遠鏡で見ても美しい表面が眺められる太陽系の惑星とは実に親近感がある。火星接近を機会にもう少し工夫を重ね、すごい画像が得られるように努めてみようと思う。

ちなみにこの記事を書き終えた後、最接近の5月31日がやってきた。木星並みに明るくなった赤き火星は見えてはいたが、薄曇りで雲が多く、観測にはあまりよいコンディションではなかった。この記事に登場する画像は約1週間前に撮影したものだが、並べてみても大きさの違いはわからない。(むしろコンディションの違いが強く現れてしまっているな)

    

さらに昨晩、風が強いのが難点だったが、最近ではまれなくらい空が綺麗だったので再び超兵器M20号を稼働させた。風以外のコンディションがよかったから、これまでよりもシャープに撮れているような気がする。右上の赤く明るいのが火星、その左下の明るめの白い星が土星である。繰り返すが写真はショボいが実物を見るとホントに素晴らしく見えるものだ。最近すごいのは厚紙で簡易な望遠鏡を作成しカメラをセットするという「スマホ望遠鏡」が登場したことだ。今のスマホの機能は目覚ましく、ピント調整やズームもできるので苦労しなくても星の観察や撮影が楽しめるらしい。ここ1ヶ月くらいが三惑星を観察する好機である。天気の良い日が少ないのでチャンスを逃さずお楽しみあれ。

        

  




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