大いなる同窓の日来たる

年末も迫ったとある晴れた日、多くは１０年ぶりに高校同級の集いがあった。クラスメイトなどの内輪の集まりは結構あるのだが、学年全部で行う大規模な同窓会は３回目、確か最初は「三十路会」というタイトルだった。前回のエンディングで「１０年後にまた会いましょう」というメッセージを誰もが覚えていた。もっと頻繁にあってもいいのに、といつも「出るだけ」の私は思うのだが、各クラスの代表幹事が何度も打合せ、消息不明者の捜索から先生への連絡、式次第の準備など１年以上準備を重ねた「それはそれは大変な」企画だそうなのだ。何度か出欠確認の連絡がやってきたり、不明者の情報連絡を行っていたが、最後になって出席者は総勢２７０名！卒業生の２人に１人はやってくることになる。これに各クラスの担任もほぼ快く出席してくださった。

どうやらあまりに出席者が増え過ぎて直前で会場を変更したらしい。受付はクラス別、名札（女子は旧姓）を受け取ってクロークにコートや荷物を預けると大集団でごった帰る会場を覗くといきなり多くの悪友が走り寄って来て握手・肩叩き会がそこら中で始まってしまった。とにかく見る顔（知らない人も多いけど）全て懐かしいヤツばかりなのである。一体どこに席を落ちつけたらよいのか、少し戸惑っていたら遠くから「おおーい、太郎ぅ！こっちこっち！」と手を振る集団があった。ちょうど司会進行役が皆が話し込み始めてしまったので、とりあえず席につくように、そして料理の関係から「できるだけ席から離れないように」アナウンスしていた。

　　

毎年顔を合わせるメンバとホントに１０年ぶりの者と色々いたが、話は尽きなかった。誰と会っても「今どこで何してる？」と始まるのが普通だが、男子はさすが名刺交換などもしていた。多岐に渡っているが大手鉄道会社、銀行・証券務めもいるし、自分で企業を興して経営者となっている者も結構いる。同じテーブルには弁護士と医師がおり、「こいつらと仲良くしとけばこの先安心だわな」とあざといことを考えたものだった。近況の話が一通り済むと例によって昔の無限とも言える昔の与太話が始まる。皆、寄る年並みに老朽化しているが、あまり変わっていない女子に比べ、男子は激しく変わっている分類があった。「髪の毛」と「メタボ」である。もう「中年」すら過ぎ去りつつある年齢ではこの２点に関し全くの別人と化しているものが元気に笑っていた。（ちなみに私は「オマエ、全然変わらんな」類である。）

オープニングで参列してくれた担任の先生の紹介があり、その中で大乾杯の音頭をとってくれた「古文」の先生は「今、『当時（の怖さ）からは見る影もない』と言われますが、それは君たちも同じだと思います！」と逆襲していた。
隣に座っていた「ウメちゃん（仮称）」も全く当時と変わっていない。中華用回転テーブルを回してビールを注ぎ、料理をとってやると「あれれっ？何か調子狂うなー。たろーが気を配るなんてさ・・・全然イメージ違う」（何言ってやがる）そんな仲良しだったわけではないが、やっぱりあんまり「親切」な印象は無かったんだな・・・心の中で苦笑していると、電撃のように記憶に閃いたものがあった。「あーっ！そう言や、ウメちゃんよ。思い出したぞ。体育祭の２次会で『ちょっと入れちゃって』救急車で運ばれたろ？オレパチンコ屋の地下から運びあげたんだぜぁ！」「んもーう、さっきも同じこと言われたよ。皆忘れてねえんだな・・・」（おそらくこの先も言われ続けるだろう）

　　　　

隣のテーブルにも担任の先生も始め懐かしい（毎年会う顔もあったが）顔ぶれが多数あった。先生の隣で歓談する幹事長に「ねえねえ、ウメちゃんが体育祭の後ぶっ倒れちゃった時さ、オレパチンコ屋の地下から救急車まで運ぶの手伝ったよなー」「うん、お前は腕力自慢だったからな。その後『まっさん』（仮称）と救急車に同乗して病院まで付き添い、駆け付けた父上に渡したんだ。オマエはその間もずーっと『飲んでたよな』」「そ、そーだっけ？大人しくしてなかったっけ？」「オレ達が戻ったら『早く２次会手配しろぃ』と喚いてたんだぞー」（くー、覚えてないがそうかもしれない。どうも分が悪い・・・）「オレはちゃんと手伝った」「いや、オマエは飲んでただけだった」と押し問答していると脇から「スギちゃん（仮称）が・・・
「そう言やぁ、たろー、お前酒飲んでバイクで捕まってたよな。農協の踏切のとこでさー。」「んっ、そ、そう言えばあったかも・・・（コイツよく覚えてやがんな）。青切符は切られたぞ」「でもよく許してくれたよなー。どうやって謝った？」「いや、生徒手帳を見せただけだが・・・」どうも後から「詳しい」ヤツに聞くと、交通違反の取締と未成年の飲酒は管轄が異なり、連絡や事務処理がものすごく面倒くさいそうだ。つまり警察の「縦割り組織主義」に救われたということか？！

そんな話をしていると「何となくしか覚えていないヤツ」が後ろを通り過ぎた時、「あーっ、たろー！こいつこんな所にいやがった！オレ、お前にハゲにされたんだ。忘れてねえぞぉ！」「ちょ、ちょっと待て。それは真面目に覚えてねえ。。。人ちがいだよ。濡れ衣だよ！」「ばーか、忘れるわけねえだろ。『横の白髪を抜いてやると』と言って『ぶしょわっ』て束で抜きやがって・・・その部分が後でハゲになっちゃったんだよ」そもそも今はあるかないか微妙な頭髪量なので笑って歩き過ぎて行った。すぎちゃんに「ねえ、今のヤツ、誰だっけ？」「●○部のOだよ。卒業した時はスキンヘッドにしてたのは有名だよ」「オレは知らんヤツの髪の毛抜いたりしねえぞ・・・」江戸の仇を大阪でとるような話だが、それが元でスキンヘッドにしたのなら、かなり責任があるな。

そうこうしてると女幹事長（と呼ぶに相応しい）が「ちょっとちょっと、たろー、先生に挨拶してないわよ。こっち来なさいよ！」苦笑いしながら担任のところへ行って、「どうも、ご無沙汰してます。先生全然変わんないですねー。まだ農園されてるんですか？」「おーっ、たろーじゃないか。大体オマエは・・・・全然変わっとらんな。遊びにこいよ」「コイツがにこにこしてる時は油断できないんだよ。修学旅行でも挨拶に来た後、酒飲みやがって・・・」「でも、今だから思い出としちゃーいいけど、●平寺は最悪っすよ。オレは後にも先にも沢庵食わされたのはあの時だけです。忘れないよ」「実はあの前に○○さん（生物担当）と下見に行った時、えらい説教されたんだよ。絶対不心得者を出すな！ってね」

しばらくして段々、会場が歩き回る人で溢れかえってきた。私は特に有名人ではなかったが、運動部全盛の学校なので部活や体育祭つながりなので、結構たくさんの人を知っていた。（知り合いは多いが友達は少ない）しかしこの会場で色々と昔話をしていて「そー言えば、たろーってさ・・・」と始まる逸話にはどうも「ろくな話がない」。３０年間知られざる自分の人物像なのだがどうやらメタメタなのである。野郎も女子も同じように口をそろえて言うキーワードは「野蛮」（そりゃー、ねえぜ）
「たろーくんてさ、よくマンガ読んで歩いてたよね。校門出て坂下りて、そのまま道路渡ろうとして轢かれそうになってるのを見たよ」
「部活終わって、『じじショップ』でいつも色んなもの食べててさ。落っこちたものでも拾って食べた。」

もう、ここに掲載するには自分が哀れすぎる話題ばかりなのでこのくらいにするが、パンドラの箱に最後に残った「希望」のような話が一つだけ。たまたま入学時から３年間同じクラスだった人が息子さんに私と同じ「名前」をつけたというのである。むろん別の意味もたくさんあったそうだが、命名時には高校時代の私の姿を少なからず思い出したという。（正直、結果だけ見た「後付け」だとも言っていたが・・・）前回も前々回もほとんど会話のできなかった、それほど近しくもないクラスメイトだが、思わぬカミングアウトにすごく晴れやかな気分になった。隣で聞いていた「まーぼー（仮称）」は「ええーっ、一言相談してくれれば絶対止めさせてあげられたのに・・・だってこんなになっちゃうんだよ」（コイツは昔から口が悪かった）

　　　　　　

最後はお決まりだが２７０人全員が肩を組み、北原白秋＆山田耕作、ゴールデンコンビ作詞作曲の校歌斉唱である。今年野球部が３回戦を勝ち進んだ時、グランドに流れたのを聞いたがこの大人数の大合唱はまさしく「鳥肌」ものだ。エンディングでは「１０年後にまた会いましょう」というメッセージが・・・１０年待たなくてよいような気もするのだが、間違いなくこいつらは同じような元気さでここに集うことだろう。その時は私だけは赤い「ちゃんちゃんこ」ではなく、赤いマントで現れることにしよう。幹事の皆様、お疲れ様でした。年末最後にあれだけの大イベントに参加できてホントに嬉しかったです。そして皆、元気で・・・また会う日まで。
「開けよ　この窓　すべて光らむ」