超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

水の宝庫の三名爆

2012-06-13 23:01:06 | 旅行お出かけ
「辺境に出掛けた時は最寄りの滝を巡る」スティーブと交わした約束である。水源や温泉の豊かなこの土地は海こそ無いものの、少し車を走らせればいたるところに美しい渓谷や川のせせらぎ、そして「滝」に巡り合うころができる。「東洋のナイアガラ」を筆頭に大小様々な顔つきをした滝にまみえてきた。特に県境付近は我が家の付近ではとても見たこともないような巨大な奇岩がそびえ、秘境のようなところに見事な滝が現れる。私が仕事上この地を去る時は、「山々の風景」「見事な滝」そして「ゲテモノ食文化」について特集したDVDを作ろうと思う。スティーブは生まれも育ちもこの土地の人だが、隅々まで行き尽くしているというわけでなく、私のような「そともの」が喜ぶのをきっかけとして、自分も故郷の自然を「再発見」するのを楽しみにしているようにも見える。私もまるち師匠に県内の色々な名所のことを教えていただいて、いかに自分が郷里に疎いかを思い知った。(意外とそういうものかもしれない)

さて、今回は県内拠点の朝会で打合せするために、うんと朝早くオフィスを出発し1日中社用車で移動しまくる工程だった。その途中にまさしく「辺境」と言ってよい水の豊富な村に「三名瀑」と呼ばれる見事な滝が比較的近くにあることをスティーブが発見した。「一番見事なヤツは30分くらい上るらしいんですがね」といいながらタオルを用意したりスティーブは行く気満々である。さすがにあの辺りまでは滅多なことで足を運ぶことがないからなー。これまで駐車場から少し歩くだけで見ることのできる滝ばかりだったが、この「三段の滝」は確かに実に歩くこと30分、途中に小さな滝が10以上は見られる秘境だった。獣道のような幅に半分腐りかけた丸太の架け橋がいくつも現れた。

        

しかし水はまさしく清流で、陽の光がこぼれて反射し実にすがすがしい気分になってきた。時々スティーブは立ち止まって水面に目を凝らしていたが、「おーっ、アレ岩魚じゃねえかな!」よーく見ないとわからないのだが、さすが鮎釣りのベテランだけあって小さな魚でも敏感に察知する。何をやるにも大雑把な海釣り系の私にはできないデリケート技だ。(残念ながら動きが早く写真には収められなかった)
汗を拭きつつ前を歩くスティーブが突然「ぬおーっ」と叫んで凍りついた。。。。前方を見ると何か一本棒のようなものが細い道に横たわっている。「どうしたの?」「ヘッ、ヘビですよ、ヘビ!アオダイショウだ。オレ、実はヘビって大の苦手!」
後ろから覗きこむと真っすぐに見えた細い棒の先端がぐるーっとUターンして・・・私も背筋が凍りついた。(カメラを持つ手も震えてピンボケ。。。)

          

ちょっと下がって助走をつけジャンプ一番(意味無いような気がするが)ヘビのいた地点を飛び越し、すたこら走り逃げた。やがてちょっと危ない感じがする鉄製の梯子が現れて(最後の試練か?!)それを乗り越え少し歩くと大きな滝が目に入った。「こりゃー、迫力ありますねえ」結構汗をかいたが、それも吹き飛ぶような見事な光景だった。
「あれっ?あの上の方に人がいますよ。どうやって上ったんだろ。。。?」カメラでズームアップして見ると、本格的な山歩きスタイルとすごいカメラを持ったマニアのようだった。我々が降りはじめるとあっという間に追いついてきた。ちりんちりんという鈴の音がどんどん近づいてきて、思わずスティーブと目を見合わせた。「この辺って熊が出るのか?!」
下る道はあっと言う間で、ものの15分くらいで駐車場まで戻ることができた。小さな滝をたくさん横目に水流に沿って降りてくるから、ハイキングなどには丁度よいかもしれない。

          

次の滝は「象ヶ滝」という。名前からして動物のような顔つきをしているのだろうか?案内によるとアスファルト道路の先は「軽自動車がやっと通れるくらいの道」で歩くと30分程度、一番先に自動車を二台停められるくらいのスペースがあって、そこからは10分。。。場所は三段の滝からすぐ近くのようだ。最初に一番の難関と思われる秘境を制覇した私達は地図を見ながら象ヶ滝に向かった。
「もう30分歩くと結構ツライねえ。3本制覇は無理かな」スティーブは平気な顔で3ナンバーの4WDを「軽自動車・・・」と書かれていた細道に突っ込んだ。。。(対向車が来たらアウトだぜ)
タイヤの幅ギリギリで土が崩れたら下を流れる川にまっしぐら・・・という場面が何箇所かあり、さすがにスティーブも慎重にハンドルを操作していた。密かに私はシートベルトを外して窓を全開し、いざという時は「自分だけ」でも脱出する準備をしていた(スティーブごめん!)。

  

「自動車はここまで」という看板まで辿り着き、平らな道を川に沿って歩くと前方から少し年配のご夫婦が歩いてきて「こんにちは」と声を掛け合った。二人で県内(国内?)の滝を巡り歩いているとしたら優雅で高尚な趣味だと思う。「(車がないから)県道から歩いてきたとすると、かなりの距離ありましたよねえ。」スティーブは首をかしげていた。
10分ほど進むと正面にこれまた個性的な顔つきをした滝が!滝壷のそばまで行けるからか、滝の上からかなりパワフルな「風」を感じた。マイナスイオン全開というか、スピリチュアルなパワーというか、しばらく浸って深呼吸していると瞬く間に身体の澱みが浄化され、二日酔が去っていくような気がした。
「どういうところが『象』なのかねえ・・・」「滝つぼの真上の一本線が『鼻』、その上の三角形の岩が『おでこ』じゃないですか?なるほど、確かに象が正面を向いた顔に見えなくもないなー。中々迫力のある見事な光景だった。

  

「最後の滝はちょっと戻らないと行けないけど・・・・こんな時でなければ来ないので行ってみましょう。駐車場からはすぐみたいです!」私もまったく異存なかった。こういうのは「行ける時に行っておかない」と次にチャンスはやってこないからだ。ネットからプリントアウトした説明書きを読むと・・・
「邪魔にならないところに路駐して、1,2分細い道を降りていくと正面に展望スペースがあります。目の廻るような螺旋階段を下りると滝壺のすぐそばまで行くことができます」
「何、目の廻る?!もしかして高いとこ?オレだめかも・・・」「何、降りる方ですから大丈夫ですよ」スティーブがあざ笑うかのように言う。私は落ちたら怪我をするような中途半端なところは足がすくんでダメなのだが、彼はヘリのように高高度なところがダメなのだ。(でもヘビの嫌い方は半端じゃなかった。ぐふふ)

  

地図を確認しながら車を進めたら、看板が出てきたので場所はすぐに分かった。確かに遊歩道は「降りていく方向」に伸びている。ほんの少し歩いたら、正面に見事な一本の水の筋が見えてきた。ホントに滝口から滝壺まで一直線!他の滝のような変化に富んだものと異なり、女性のような優雅さをもった光景だった。滝裏も全くの平にくぼんでいて、人工的なコンクリートにも見えて仕方がないのだが、これが自然の作り出したと思うと驚愕だ。。。前の二つの滝にはあまり逸話めいた話は無かったようだが、この滝には「いかにも」という伝説があった。「お仙という絶世の美人が髪を結えないということで、姑にいじめられそれを苦にして入水した。」という話である。「夜な夜なすすり泣きが聞こえる」という噂も現れ、道路の上にはそれを鎮めるためか神社が祀ってあった。
そんな伝説があるが滝そのものは実に上品で、さらに滝壺から溢れだした流れは狭い岩の間を通り抜け、その先の絶壁そのものの見応えも十分だ。また滝口から真下へ落ちる水流も少しだけだが眺めることができる。

    

「いやあ、三者三様で全然趣きが違いますねえ。ホントこの村は水の宝庫だなー」スティーブと私は満足そうに帰路についたのだった。途中、また不思議な色をした険しい岩に囲まれた水流が表れ、車を停めてもらった。「なぜだか立派な駐車場があるし、休憩施設にしては何もないけどバス用と思われる枠も引いてある。バス停を見ると標札には「蝉」と一言だけ書いてあった。さらに道路の古い看板を見ると「蝉の渓谷」と書いてある。そこらを歩き回って色々な角度から渓谷を眺め渡してみたが、どうにも意味がよくわからなかったが、スティーブが発見した案内板によって全てが明らかになった。

       

「この渓谷の景観は、県内に存在する多くの峡谷同様大変美しく、川の急流が岩肌を浸食して、素晴らしい渓谷美を作り上げています。この渓谷に望んで、俳諧芭蕉の「奥の細道」立石寺の一句が残っていることから、この地が県を代表する優れた風致景観であることがわかります。

『閑さや岩にしみ入る蝉の声』安永2年、闌更刻

なお、この地の名称「蝉」は、「狭水」の転訛といわれています。」

うーむ。松尾芭蕉・・・日本を代表する「蝉」だったのかー。色々な名勝があるものだ。