超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

西の魔女が死んだ

2009-07-31 22:04:02 | 書籍
夏休みに息子甘辛が50冊の読書に挑戦することになったのは前回の話。
それぞれの本のタイトルと書店スタッフの感想を簡単にまとめて紹介しているうちに、なんだか自分もその気になってきて、それらの本全部自分でも読んでみることにした。
息子がどんな本を好むかも興味があったし、それに対しどんな感想を持つかも話し合ったら楽しいと考えたのだ。

まず一発目は「西の魔女が死んだ」(梨木香歩・新潮文庫)。
「ホーントに気にいって何度も読み返したいと思う本があったら買ってやる」と言ってあったが、早速「これすげえいい!買ってくれ」ときたもんだ。
あっと言う間に読み終えたようだが、ホントに読んだのか?あらすじと感想をテキストにしておく約束になっている。。。

何ともとらえにくいタイトルだが、「西の魔女」とは主人公である女子中学生「まい」の母方のおばあちゃんなのだ。

中学に進んでまもなく、友達グループにうまく入れず学校へ行けなくなった「まい」は春から初夏へかけて田舎生活丸出しのおばあちゃんの家で二人で過ごすことになる。
ママのママは英国人だが日本人のおじいちゃんと結婚し、連れあいを亡くした今、日本に一人で暮らしている。
「まい」は小さいときからそのおばあちゃんが大好きで、何かにつけて両親には照れくさくて言えないことも連発する。
「おばあちゃん大好き!」と。
そんなとき英国人のおばあちゃんはいつも微笑んで「アイ・ノウ」と応えるのだ。

日常どこにでもあるような話で、すぐに場景が浮かんでくるし読みやすい本だ。

おばあちゃんの昔の話を聞くうちに「まい」は英国にはこちらで想像するのとは少し違う「魔女」がホントにいることを知る。
黒いコートに帽子と箒というお約束スタイルではなく、普通の人間の姿でそこにはいない人に声が聞こえたり、そこにないものを見ることができたり、未来のことを少しだけ予見することができるという。
それは大昔の人間が生きていくためにすぐれた特殊能力を親から子へ伝承してきたようなものらしい。

おばあちゃんは、生まれつきそういう能力がある人とない人がいるが、修行によっては誰でもある程度は身に付けることができるという。
主人公「まい」はおばあちゃんの手ほどきで魔女の能力をつける修行を始めることにするのだ。
その肝心要のポイントは「何でも自分で決める」ということ。

おばあちゃんが自分の死を匂わすようなことを言い、「2年後にそれを知ることになる」という下りは切なかった。おばあちゃんは日本語ペラペラだが英国人なので、丁寧語でしゃべるところが新鮮。

「まい」は誰でも一度は考え恐れることをおばあちゃんに尋ねる。「人は死んだらどうなるの」
「わかりません。実を言うと死んだことがないので」おばあちゃんは笑いながら
「でも自分の死はまだですけれど、おじいちゃんの死は体験しましたし、魔女トレーニングは受けましたから、ある程度の知識はあります。それにこの歳になりますと、死後のことを射程に入れて生きるようになりますから」おばあちゃんは片目をつむる。。。。

おばあちゃんが考えている「死ぬ」とは、ずっと身体に縛られていた魂が、身体から離れて自由になることだ、という。
無力にも物体として転がっていた鶏を思い、「まい」は身体をもつことがあまりいいことがないように感じる。でもおばあちゃんは。。。。
「それに、身体があると楽しいこともいっぱいありますよ。まいはこのラベンダーと陽の光の匂いのするシーツにくるまったとき、幸せだとは思いませんか?寒い冬のさなかの日だまりでひなたぼっこをしたり、暑い夏に木陰で涼しい風を感じるときに幸せだと思いませんか?鉄棒で初めて逆上がりができたとき、自分の身体が思うように動かせた喜びを感じませんでしたか?」

私はこのやりとりがどうにも好きだ。

「まい」が「死んで魂が身体を離れるとき」のような気持ちがする夢をみたとき。。。

「おばあちゃんが死んだら、まいに知らせてあげますよ」とおばあちゃんは軽く請け負った。
「ええ?本当」と一瞬「まい」は喜ぶが、「あの、でも、急がなくても、わたしはただ・・・」おばあちゃんは大笑いして、
「分かっていますよ。それに、まいを怖がらせない方法を選んで、本当に魂が身体から離れましたよ、って証拠を見せるだけにしましょうね」
「まい」は深々と頭を下げてお願いするが
「でも、わたし、おばあちゃんだったら幽霊でもいいな。夜中にトイレに行くとき以外だったら」
「考えときましょう」おばあちゃんはにやりと魔女笑いをした。

お盆とかを前にして、あの世から化けてでてくるとか、寂しいから連れにくるとかそういうことではなく、こんな感じがいいんじゃないかと思う。

しばらくして「まい」は父親の仕事と合わせて転校することにし、あばあちゃんと別れることになる。ささいなことで人に憎悪を剥き出しにしてしまい、叩かれた後ずっと気まずい思いをしながら新しい家を向かう。
そして2年後そのおばあちゃんが死んだという連絡が入るのだ。「西の魔女が死んだ」のだ。

「まい」はヒメワスレナグサと呼んで密かに水やりを習慣にしていた場所で、なにげなく汚れたガラスに目をやって電流に打たれたように座り込んでしまう。
その汚れたガラスには、さっきはなかったはずなのだが、小さな子がよくやるように指か何かでなぞった跡があったのだ。

ニシノマジョ カラ ヒガシノマジョ ヘ
オバアチャン ノ タマシイ、ダッシュツ、ダイセイコウ

「まい」はおばあちゃんがあの約束を覚えてくれたことに気づく。そして堪えきれずに叫ぶのだ。

「おばあちゃん、大好き」

そして今こそ心の底から聞きたいと願うその声が初めて聞こえる。

「アイ・ノウ」

うーむ。やられた。。。
息子はどこで知ったのだろう。先頭打者ホームランという感じだ。この本は我が家の永久保存版になることは間違いない。
結構ドラマ化、映画化された作品が多いようだ。いずれにしてもこれから読む本が楽しみだな。

この前懐かしい仕事のパートナーと食事会してもらったときに、ご一緒した超優良IT会社の元社長秘書(初登場)のご推薦があったのは驚きの偶然だ