超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

会長

2008-05-23 22:57:00 | ヒーロー
昨年の今頃、4年生のサッカーリーグ戦も始まり、近所の運動公園のゲートボール場で朝連をやっていた。
今は広い海浜公園で行うが、昨年はフットサルコートよりも狭いところでボールを蹴っていた。

二人で向き合ってパスの練習をしていた。
自転車を置いたときに、ちょうどコートを向いてベンチに座っているおじさんがいた。
私は背を向ける方向だったが、しばらくして息子甘辛が

「父ちゃん、あのおじさん地面に寝たまま起きねえぞ」

ん?振り返ると確かにおじさんが倒れている。。。
地面に耳をつけて何かを聞いているようにも見える。
すこしずつ近寄っていくと・・・こりゃやべえ。ホントに倒れてるようだ。

二人で駆け寄って声をかける。

「どうかしましたか?大丈夫ですか?」

口から泡を吹いているようだし、転倒したときに打ったのだろう、頭から血を出している。
目は開いてるし意識はあるらしいが、応答できないらしい。
救急車を呼んだほうがよい。

しかし、ホントに家からすぐの場所だったので、そのときは携帯も財布も持って行かなかった。。。
電話ボックスはたぶん近くにあるが、電話もかけられない。
(後から気付いたが、119番はタダでかけられるんだった。。。)

プールのある公園事務所に走ったが、朝が早くて開いていない。どんどん叩いてみたが、反応は無かった。
うーむ。どうする?ダッシュで家へ戻るか?それとも反対側にある消防署に飛び込むか?でも子供だけ残して大丈夫か?

そこへ通勤で駅へ歩く男性が通りかかった。携帯を借りられる。

「すみません。そこで人が倒れているんですが、119番したいので携帯を貸していただけませんか?」

その間、息子はずーっとおじさんに声をかけていた。
えらいなあ。この前救急救命講習で習ったことをもうできるんだ。

119番って初めてかけたけど、まず
「火事ですか救急ですか?」

と聞くんだね。
人が倒れている状況を簡単に話すと場所を説明し始めた。
すぐそこの川沿いの消防署にかかっていると勘違いしていた私は

「ほら、●●球場のある運動公園のプール側にある地面が緑のゲートボール場ですよ。そっちからだとすぐ裏じゃない。。。」

住所を言わないと分からないらしい。。。電柱の青い住所を探して伝えた。
しばらくするとやっぱりすぐそこの消防署からピーポーピーポーやってきた。

救急隊が駆けつけるまで5分とかからなかった。
通報したのは私だが、携帯の持ち主に色々聞いていた。
患者を担架にのせて救急車へ乗せたが、しばらく隊員は携帯で連絡をとっていた。
後から聞いたが収容先の病院が決まるまで、出発しないんだって。

様子を見ていた私はふと、いかにも邪まなことを考えだした。

患者を発見し声を掛け続けて元気づけ、救急車を呼んだのは私達だ。
でも、私達の存在はおじさんも救急隊も知らない。
もしあのおじさんが超一流企業の会長だったらどうする?
この辺にはそんな人も結構いると聞いている。ヤクルトのオーナーとか。。。

いよいよのときに

「最後に世話になったあの親子にぜひ遺産の一部を・・・」

ということにもしなったら、名乗っておかないと携帯の持ち主に遺産がいってしまう。。。

会長は目を開けてはいたが、我々の顔を覚えているだろうか?
顧問弁護士が「あの親子」を探すときの証拠も必要だ。
まだ病院と連絡を取り続ける救急隊員に

「あのう。。。何かのときに連絡先を置いていきましょうか?」

「いや結構です。ご協力ありがとうございました」

これで、毎朝同じ時間にこの場所でサッカーをやらない限り我々のことはご家族は知りようがない。。。
みすみす遺産をもらい損ねたか。

「会長元気になったかなあ」

あれから息子もすっかり会長と呼んでいる。。。
大丈夫さ。知らないおじさんでも君があれだけ元気づけたんだから。