熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日立uVALUEコンベンション~アマルティア・セン教授大いに語る

2010年07月23日 | 経営・ビジネス
   日立グループが、毎年、大々的にプロパガンダを兼ねて社会への貢献として展示会を交えて大コンベンションを開催していているのだが、今回は100周年記念であるから、大いに気合の入ったイベントとなった。
   二日目の、ノーベル賞経済学者アマルティア・セン教授の講演と緒方貞子さんとの対談には大変な人出となり、東京フォーラムの会場を埋め尽くす盛況で、色々な講演を梯子して、私自身も大いに勉強させて貰った。

   セン教授の本は何冊か持っていながら積読で、読んだことがないので、ぶっつけ本番の聴講だったが、非常に示唆に富んだ、正に、東洋の知恵に根ざした感動的な話に感銘を受けた。
   日本文化に心酔していたと言うタゴールの思い出から説き起こして、唯一の非西洋産業国家として成功を収めた日本の歴史を振り返りながら、これらの貴重な日本の過去の経験や知恵が、貧困や環境問題、人間の安全保障など深刻な問題を抱えたグローバル世界に、如何に貢献できるかについて語った。

   セン教授は、日本が、非西洋的なバックグラウンドを持ちながら、何故、経済的に成長発展を遂げることが出来たのか、日本の豊かな過去の歴史の積み重ねと知恵の集積にあるとして、特に、明治期以降の基礎教育の充実と、聖徳太子の17条の憲法に根ざした皆の衆知を集めてものごとを決する意思決定の方法が重要な役割を果たしてきたと強調していた。
   既に、江戸時代における寺子屋の普及で国民の識字率が非常に高かったことに加えて、木戸孝允などによる明治新政府の基礎教育重視の教育制度が、日本人の民度と潜在能力を高めたと言うことであろうが、人間開発指数の展開など潜在能力アプローチがセン教授の重要な研究テーマであることを考えれば、人間のケイパビリティの拡大に必須の教育を重視するのは当然かも知れない。
   
   ネール首相が今を時めくITTの推進者であることは有名だが、しかし基礎教育をおろそかにしたとセン教授は言及してしたが、ITTあったが故に、情報産業化社会における最高度のICT産業において、眠っていたインドが、グローバル展開で勇名を馳せ世界に雄飛し得たということも紛れもない事実であろう。
   基礎教育の充実が必須だが、高等教育・専門教育の充実も当然必要で、両輪だと述べていた。
   何十年も前に、ケネディにインド大使に任命された経済学者ガルブレイスが、インドに最も必要なのは教育で、教育を充実させれば、はだしで走っている人々も鍬を持つことを覚えるであろうと演説したのを記憶しているのだが、正に今昔の感である。
   日本の教育システムやそのあり方などには、大いに疑問があり、これからの新しいグローバル社会には、問題山積みだとは思うのだが、西洋の思想宗教などの背景を持たなかった日本が、短時間に欧米にキャッチアップして更に凌駕してきたと言う歴史的事実において、日本の教育の果たした役割については、セン教授の指摘は、ほぼ当たっていると思う。

   もう一つの、公開討論など話し合いを基礎として、人々の衆知を集めて意思決定すると言う討論による統治の重要性について、セン教授は、聖徳太子やジョン・スチュアート・ミルなどの考えを披露しながら、熱っぽく語った。
   アメリカのアロガントな覇権主義や、トップダウンによる一方的な意思決定などと言った西洋社会に根ざした文化的バックグラウンドの対極にある考え方であろうか。
   今回のサブプライムで暗礁に乗り上げ世界的大恐慌を目前にした世界的経済不況がいまだに解決を見ないのも、世界的な地球温暖化の危機にありながら、COP会議が一向に前進しないのも、総て、十分に議論し話し合って衆知を集めてコンセンサスを得ようとする姿勢と努力が欠如していたからだと言う。
   当然、環境問題においても、未開かつ貧困で力はないけれど、アフリカにも意見を聞くべきだと言うことである。
   G8がG20になったのも、覇権国が凋落して多極化した世界においては必然だと言うことであろうが、いくら、バカな議論であっても受け入れられないような意見であっても、真摯に耳を傾ける姿勢がなくては、これからのグローバルな問題は解決しないと言うのである。

   欧米中心の世界からアジアの世紀に回帰しつつあると言われる昨今だが、暗礁に乗り上げた現在社会の深刻な問題を解決する為には、東洋の知恵が求められていると言うことであろうか。
   非西洋で、歴史と伝統に裏打ちされ育まれて来た日本の知恵を、インド中国など広くアジアで営々と培われて来た哲学宗教など豊かな文化を糾合しながら、未来の人類のあるべき姿をプロジェクトして、グローバル世界に貢献することこそ、日本の果たすべき役割ではないか、とセン教授は示唆したのかも知れないと思って聴いていた。
   
コメント
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