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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 345 草魂

2014年10月22日 | 1983 年 



300完投まであと1つだけ(4月17日現在)となった近鉄・鈴木啓示投手。選手生活18年のベテランながら相変わらず意気軒昂な所を見せてくれる。そのあたりの心境を同じパ・リーグ出身で付き合いの長い元南海・佐藤道郎氏が尋ねた。

佐藤 …やあ、今日は宜しく。長持ちの秘訣を色々と聞かせて下さいな
鈴木 …何を言わせたいんや、迂闊な事は喋らんよ
佐藤 …生まれた時は右利きだったと言うのは本当?
鈴木 …そうらしいよ。自分では憶えてないけど2歳頃に右腕を骨折してギプスしていた間に左手を使っているうちに左利きになったそうだ
佐藤 …まさに怪我の功名だな。野球を始めるまでは何に興味があったの?
鈴木 …相撲かな。ワシらが子供の頃は野球と相撲くらいしかなかったからね。今はテニスやらゴルフやら色々あるけどな
佐藤 …身体も大きいし相撲取りになっても横綱になれたかもね。四股名は「草魂山」かな(笑)
鈴木 …横綱はともかく得意な型は左四つ。食事や字を書くのは右だけど運動関連は左ばかりだね
佐藤 …へぇ~、じゃ握力はどうなの。やっぱり左の方が強い?
鈴木 …いや右の方が10㌔くらい強くて65㌔前後、やはり生まれ持った筋力かな。左腕なんかピアニストみたいに細いでしょ?
佐藤 …本当だね。マメひとつ無いね
鈴木 …でもねシーズンに入るとゴッつくなるんや

佐藤 …ところでその歳まで元気に投げ続ける事が出来る秘訣は何かな?
鈴木 …ワシの持論なんやけど「投手とは投げる人ならず、走る人なり」とね
佐藤 …カネやん(金田正一)と同じか。大投手二人が揃って「走れ・走れ」と来たか
鈴木 …走り込みが足らんとマウンド上で足に震えが来るで。「地に足を着ける」とはホンマの話やね
佐藤 …俺なんかは上体で投げるタイプで、しかも短いイニングしか投げなかったから走り込みは余り必要なかった
鈴木 …同じ投手と言っても十人十色だからね。長年プロでやってると「顔」で打者を抑え込んでしまう猛者もいるわな
佐藤 …いやいや、人相の悪さならお前さんには負けるわ(笑) 確か西本(巨人)も走るのが好きだと言ってたな
鈴木 …ホンマかいな?走るのが好きな選手などおらんと思うけどな。投げたり打ったりする方が楽しいやろ?
佐藤 …巨人のグアムキャンプに行った時、投手陣がようけ走っとるんで 「何でそんなに走るん?」 と中村投手コーチに聞いたら
     「貯金ですよ、1~2年先の為に」 と言うとったわ。投手王国の秘訣を見た気がしたね


佐藤 …あと1つで300完投達成だけど、どんな気分?
鈴木 …特に意識していない。まぁ、ただ長くやってきただけさ
佐藤 …またまた御謙遜を。でも投手の分業制が確立した今後はこの記録を破られる事はないだろうね
鈴木 …だろうね。昔は60試合登板も珍しくなかったからね。稲尾さんなんて平気で70試合くらい投げてた
     そんな俺も最近の登板数は20~23試合だもの、仮に全試合完投しても15年かかる計算…無理だわ

佐藤 …先日、連投した投手が打たれた時にアナウンサーが「連投ですから仕方ありません」と言ってたけど世代の違いを感じたよ
鈴木 …高校時代から連投は当たり前だった。東映にいた森安なんか2日投げないと「俺は干された」と愚痴ってたくらい
佐藤 …完投した翌日にベンチ入りするのは当たり前で試合展開によっては普通に投げてたもんな
鈴木 …これからは300勝は勿論、200勝も難しくなるだろうね。江川だってあと140勝くらいでしょ、15勝を10年…厳しいな
佐藤 …もしも若い頃の鈴木啓志投手が今の時代に投げたいたらどうなっていたかね?
鈴木 …中4日、5日で投げていたら今の勝ち星(282勝)は無理だろうね。ただ選手寿命は延びて45歳くらいまで投げられそう(笑)
佐藤 …今の選手は温室育ち、ひ弱、根性無しって事かなぁ。まぁ時代だからね仕方のない事だけど
鈴木 …ワシらだって当時は「最近の若い者は…」と言われたから同じだよ、今の選手と

鈴木 …プロ根性と言えば思い出す事があってね、プロ1年目に4勝くらいしかしてないのに鶴岡監督(南海)がオールスター戦に
     選んでくれた。テレビで見た選手と間近に会えて嬉しくてね憧れの投手に「カーブの投げ方を教えて下さい」と言ったんだ
     そしたらね「あぁ君が鈴木君か、速い球を投げるらしいね」との社交辞令の後「いいかい、ここはクラブ活動じゃないんだよ
     教えて欲しいならコレを持って来なさい」と指で銭マークを示してね。憧れていた分だけ悔しくてね、このオッサンよりも凄い
     カーブを放ったる!と思ったわけよ

佐藤 …持ち前の反骨精神に火が点いた訳だ
鈴木 …でも感謝しとるよ。あれ以来、現状に満足しなかった事が今に繋がっている。技術は見て盗み、創意工夫してこそ自分の物になる
     簡単に教えて貰った事は身につかんよ

佐藤 …俺も現役の頃にコノヤロ~という気概は持ってたよ。新人の時は朝8時過ぎに自転車でグラウンドに行って整備をさせられたんだ
     すると11時頃になると杉浦さんや三浦さん達がバスで悠々と現れてね。『コン畜生、俺も来年はバスに乗ってやる』 と頑張った
鈴木 …そうそう、プロの世界の「平等」とは活躍した選手にはその成績に応じて御褒美を配分するという事。大した成績でもないくせに
     要求ばかり一人前なのは「平等」を履き違えているね


佐藤 …今年で36歳、これまでの鈴木啓志投手の野球人生を振り返るとどう?
鈴木 …本音を言うとワシは阪神に入りたかったけど、よくよく考えてみると近鉄で正解だったと思う。当時の阪神には小山・村山・
     バッキー投手が全盛で投手王国だった。そこには高卒の1年坊主が潜り込む隙間はなかったろう。投手力の弱かった近鉄
     だからこそ打たれても、打たれても使って貰えた。職場として近鉄は最高だった、と感謝せんとね

佐藤 …俺がいなくちゃ、という自負も生まれるしね
鈴木 …よく言うのが阪神は 「LIKE」 だけど近鉄は 「LOVE」 なんや。まぁ惚れとるっちゅうこっちゃ
佐藤 …300完投達成後の目標は?
鈴木 …300勝は勿論だけど1年でも長く現役で頑張る事が目標かな
佐藤 …冗談じゃなく45歳目指して頑張って下さい。今日はありがとうございました

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