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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 719 外野フェンス激突事故 ①

2021年12月22日 | 1977 年 



阪神から提出された提訴試合を審議する考査委員会が5月12日に開かれ、「審判の処置は正しく、正当に試合は終了した」という裁定を下した。佐野選手がフェンスに激突して転倒、重傷を負ったがそのままインプレーしたことについて論議は分かれたが、結局 " 人道上より規則が優先する " という結論だった。しかしまだまだ議論は続きそうである。

人道の問題より規則が優先する
阪神球団が提訴した主な内容は佐野選手の事故は野球規則の突発事故に該当しボールデッドとなりプレーは中断し野口選手の生還は認められないというものだったが、鈴木セ・リーグ会長を長とする考査委員会は阪神球団の主張を却下した。鈴木会長は記者会見で「規則や憲法は見ようによっては冷酷なモノ」「批判はあっても規則は守るべき」と話す一方で「人道的には考える余地はある」など佐野に対する同情的なコメントを端々に残した。結論は審判団の判断は正しく大洋の得点は認めると阪神球団の提訴を却下したわけだがどうも歯切れは悪かった。というのは提訴の中身が当初の内容に追加があったからだ。

田中線審が担架を要請した行為が「タイム」の宣告に相当するのではないか、というのが阪神球団の追加審議事項だったが考査委員会は「阪神球団が提訴を条件に試合再開をするとした提訴内容は野球規則5-10c項の『突発事故に関して』のみだった。田中線審の行為に関して当初は含まれておらず提訴受理後に追加されたもので今回の審議対象ではない」と念を押した。尤も田中線審の行為を審議の対象にしたら収拾がつかなくなる。委員会に出席していた島審判部長は佐野選手が捕球した時点で即タイムをかけるのは難しい。インプレー中にタイムをかけてプレーを止めることが出来る規則がない。暗に田中線審の行為を批判したのだ。

野球規則5-10h項には「審判員はプレーの進行中にタイムを宣告してはならない。ただし照明等が故障した時はこの限りではない」と記されている。佐野が捕球し走者の野口がタッチアップすればプレー中とみなされ審判はタイムをかけられない。故に大洋の得点は認められるとしたのだ。一応の決着となったが球界内外に疑問の声は多い。ちなみに考査委員会の出席者は委員長に鈴木会長、当事者である阪神球団と大洋球団を除くセ・リーグの巨人・長谷川代表、広島・重松代表、中日・中川代表、ヤクルト・相馬代表、島審判部長、谷村審判、柳原記録部長、それに金子事務局長が加わり9人で行われた。


果たして取り直しは利かないか
今回の件はルール優先か人命優先かについて意見が分かれた。「僕としてはあの時は佐野を何とかしなくてはと思っただけで他のことは頭に浮かばなかった。桑野がライトから走って来て『ボール、ボール』と言うから球をグローブから取り出して投げたが、後で考えると直ぐに返球するべきだったけど咄嗟には無理でした」と池辺は言っている。野球規則の上ではなるほど池辺のミスだったかもしれないが、人命がかかっている時にただルールだけが尊重されていいものだろうか。

「所詮、野球は大衆娯楽でしかない。人命第一でしょ。同じプロスポーツの大相撲だって取り直しがあるではないか。野球にもサスペンデッドゲームという条項があるのだから、今回の場合も清水選手の打席からやり直すことくらい出来るのではないか」さらに「ああいう状況で審判がタイムをかけられないルールがあるなら、そのルールを改定すべきだ」といったウエット派の意見は少なくない。一方で「アマチュア野球ならいい。だがプロは違う。サーカスで宙返りに失敗して落下するミスが許されるか?プロとは時には死と背中合わせだから守りべきルールは徹底しなければならない」といったドライ派も存在する。

今般阪神球団が提訴した骨子に当たる「突発事故」とは何か。例えば昭和44年5月18日、西宮球場での阪急対近鉄戦で近鉄のジムタイル選手が2回表に3号本塁打を放ったが、一塁ベースを回ったところで左足を痛めて走れなくなった。この時に伊勢選手が代走に起用されてベースを一周したことがあった。これが突発事故のプロ野球界初の適用例だ。プレーを止めて再度やり直すサスペンデッドゲームにすればという意見もあるが、これは照明設備の不備など観る側の立場を考慮して作られたルールであり、今回のようにプレーヤー側に起きた事象を理由に適用するのは有り得ないという意見が大勢だ。
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