プロ16年で若返る徹底した自己管理法
" だんだん良くなる法華の太鼓 " の例えを地で行っているのがヤクルトの船田和英内野手。プロ16年目の大ベテランで普通なら選手としてどんどん下り坂に差し掛かるところだが船田は逆だ。追いかける新鋭ライバルを蹴落としていつの間にか内野陣のリーダーにまでのし上がった。昨季はプロ15年目にして初の打率3割台をマークした。「自分でも驚いているんだ。どうしちゃったんだろうって。こんなロートルを追い越せなかった若手がだらしないんじゃないかな」と船田は笑顔を見せた。船田の活躍の秘密は体重にあった。この16年間、驚くなかれずっと72kg が上りもしなければ下がりもしないのである。
ユニフォームを脱ぐとあばら骨が浮き出ている。船田と同じくらいの年齢の太ったベテラン選手が揶揄される相撲のアンコ型どころか典型的なソップ型であり骨太である。「デッドボールを喰らうと普通の選手ならヒビが入るような直撃でも俺の骨は大丈夫なんだ。もちろん痛みは感じるけど。その点が大きな怪我をしなかった理由かな(船田)」と自己分析をする。無事これ名馬というが船田の身体はまさに名馬だ。しかし幾ら名馬でも乗り手が悪ければ馬は走らない。降りかかる数多の誘惑に打ち勝ち、自己管理を徹底した結果である。体重が増えないのは裏を返せば胃腸が弱くて充分な栄養を摂れず太れなかったせいでもある。
「とにかく胃腸だけは壊すまい」船田はスタミナ料理がテレビなどで紹介されると直ぐに訪れた。東に胃腸科の名医がいると聞けば足を運び、西に生きたドジョウの丸飲み料理で体力がつくと聞けば店に行った。栄養剤、胃腸薬、いわゆる健康食品の類で船田が試していないものはないくらいだ。こうした自己管理は3年ほど前から " 3禁主義 " に行き着いた。酒・タバコ・麻雀をやめた。「付き合いが悪くなったいと周りから言われるけど結局は自分の為ですからね。それに元々3つともそれほど好きだったわけじゃないし、やめるのに抵抗はなかったですね(船田)」と当時を振り返る。
1000本安打でチャレンジ魂が
守備の軽快さは今さら言うまでもない。軽いフットワークやグラブ捌き、強肩を活かした正確なスローイングは普段あまり選手を褒めない広岡監督も「船田は別格」と一目置いている。そんな船田にとって昨季は大目標を達成した。シーズン終了間際の広島戦で新人の北別府投手から通算1000本安打を放った。昭和38年に村山投手(阪神)から初安打し、足かけ15年目で到達した記録である。目標達成に普通なら燃え尽きる筈のローソクの火の勢いが再び強くなるのは船田らしい。「自分でもまさかと思っていた1000本安打は素直に嬉しかったけど、初の打率3割も目前だったので気は抜けなかった(船田)」と明かした。
妃佐子夫人は夫がいつ辞めてもいいと思っている。仕事が無ければ別府の実家に帰れば旅館でも何でも始めるだけの準備は整えてある。しかし夫は以前にも増して元気で当分は選手を辞めそうにない。「主人は根っからの野球好きなんでしょうね。心残りのないように精一杯続けて欲しいです」と妃佐子夫人は言う。女は男の職場に来るもんじゃない。そんな女房教育をされた妃佐子夫人が初めて球場に出向いたのは今年の開幕戦だった。試合前に昨季に達成した1000本安打とカムバック賞の授賞式が予定されていた。照れ屋の船田は球場に来いとは言わなかったが、「俺が表彰されるなんて二度とないぞ」と呟き言外に妃佐子夫人を誘ったのだった。
「俺みたいなロートルがいつまでもレギュラーでやっているようじゃチームは強くならない」と船田は言う。それは今年も自分を追い抜けなかった若手への強烈なムチと同時に「簡単にポジションは渡さない」という気概の表れだった。最後に今年の船田の変わった健康法をお知らせしよう。今年からヤクルトの大阪遠征で宿泊する宿舎がこれまでの日本式旅館からホテルに変更になった。当然寝具はベッドになる。「分厚い布団やクッションが柔らかいベッドは身体が落ち込んで腰を痛めてしまうんだ」と船田は寝室の床に毛布を敷いて寝ている。コンディション維持の為にここまで徹底する船田にプロフェッショナルを感じる。益々元気なプロ16年生だ。