「先生,先日入院した肝硬変の患者さんで興味深い所見があるんですが,一緒に診にいってもらえませんか」
と,当院の研修医OBで4月から新しくスタッフに復帰してくれたN先生から電話がありました。
大量の腹水貯留のある非代償性肝硬変の患者さんの腹部で静脈性雑音が聴取するとのこと。Cruveilhier-Baumgarten murmurという雑音だそうで,著明な貧血のときに頸部で聴取する静脈コマ音 venous hum と同じような連続性雑音でした。門脈圧亢進にともなう側副血行路の一つによる雑音だそうで,私はこれまで経験もなかったし知りませんでした。
『サパイラ』には,このように記載されています。
・門脈圧亢進症で聴取する静脈性雑音
・通常は,剣状突起部や臍上で効かれるが,音源が複数聞かれることもある。
・正常でも時折聴かれることがある静脈性雑音と異なり,Cruveilhier-Baumgarten雑音はValsalva法で呼気時に音が大きくなる。しかし,通常の呼吸では,吸気時早期に大きくなり,吸気時終末に弱くなる。
腹水穿刺をする直前にあらためて研修医のI先生と一緒に聴診していて気づいたそうです。私を呼んでくれたのは,腹水穿刺のあとだったのですが,腹水を抜く前にはもう少し明瞭に雑音を聴取したそうです。大量の腹水の存在が血流に関連していたのかなぁなんて想像しました。またこの方は著明な貧血(Hb 3.0 g/dl!)があったことも関係しているかもしれません。著明な貧血では,頸部で静脈コマ音(venous hum)を聴取するのは有名ですが,この方では聴取しませんでした。
いずれにせよ,こういった雑音は存在を疑って,積極的に聴きにいかないとまず気づかない所見です。わずかな所見を「取りに行って」気づいたところが素晴らしい! モチベーションの高いスタッフや研修医に恵まれると,自分が知らなかったことを,このトシになっても教えられ学ぶことができます。本当にありがたいことです。